表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第二十章~信念を抱く神格者~
300/327

第二百九十九話  浮遊島攻略部隊


 ビフレスト王国の首都バーネストを囲む城壁、その上にある通路には大勢の騎士の姿があり、町の外に敵がいないか見張っている。見張りをしている騎士の殆どは青銅騎士と白銀騎士だが、中には青銅騎士たちに指示を出す人間や亜人のビフレスト騎士の姿もあった。

 青銅騎士たちは無駄な動きは一切せずに見張りをしているが、ビフレスト騎士たちはいつ敵が現れるか分からない状態であるため、緊張した様子で見張りをしている。特にバーネストの北西を見張っていたビフレスト騎士は突如遠くに現れた浮遊島を目にしたことで動揺しながら見張っていた。

 見張りをする騎士たちには既に北西に現れた浮遊島がアドヴァリア聖王国に協力する聖騎士、ジャスティスの所有物だと伝わっており、報告を聞かされた時のビフレスト騎士たちはほぼ全員が驚愕していた。

 空に突然島が現れただけでなく、その島が敵の所有物だと聞かされればビフレスト騎士たちが驚くのも無理もない。同時に敵の協力者は浮遊島を所持するほど強大な力を持っていると知り、ビフレスト騎士たちの中には士気を低下させる者も現れた。

 しかし、ビフレスト騎士の中には自分たちにも強大な力とマジックアイテムを持つダークが付いているから、例え浮遊島を所持する者が敵でも勝てるはずだと語る者もおり、そんな者たちが士気を低下させる仲間たちを勇気づける。その結果、士気を低下させていたビフレスト騎士たちの士気は戻り、ビフレスト騎士のほぼ全員が立ち直った。

 バーネストの正門の上にある見張り台や正門の近くの城壁の上でもビフレスト騎士や青銅騎士たちが見張りをしていた。しかし、ビフレスト騎士たちは町の周囲ではなく、正門の前に注目している。なぜなら正門前には大部隊が待機していたからだ。


「お、おい、何かスゲェ部隊がいるが、これから出撃か?」


 正門の見張り台の上にいたリザードマンのビフレスト騎士が隣にいる人間のビフレスト騎士に尋ねると、ビフレスト騎士はリザードマンの方を向いて小さく頷いた。


「ああ、敵の本拠地に攻撃を仕掛けるために出撃するらしいぞ」

「本拠地? アドヴァリア聖王国の聖都へ向かうのか?」

「違う違う、あれさ」


 そう言ってビフレスト騎士は北西の方角を指差す。リザードンのビフレスト騎士は北西の方を向き、遠くに浮かんでいる島を見て目を見開いた。


「あ、あの島に向かうのか?」

「らしいぜ? あそこはアドヴァリア聖王国に力を貸す謎の聖騎士の本拠地らしく、奴らがこの町を襲撃する前にこちらから攻撃を仕掛けようってダーク陛下たちが決められたそうだ。因みに出撃する部隊の指揮はダーク陛下が直接執られるそうだ」

「ほ、本気かよ?」


 リザードマンのビフレスト騎士は表情を浮かずに仲間の方を向き、ビフレスト騎士はリザードマンの顔を見ながら無言で頷く。国王であり、強大な力を持つダークが自ら指揮を執ると言うことは敵はかなり手強いのだろう、とリザードマンは心の中でそう感じていた。

 仲間の反応を見たリザードマンのビフレスト騎士は再び視線を浮遊島へと向け、自分が持つ望遠鏡を手に取り浮遊島の確認する。


「だが、相手は空の上にいるんだろう? どうやってあの島に攻撃するんだよ?」

「分からねぇ。だが、ダーク陛下のことだ、きっと何かお考えがあるのだろう」


 ビフレスト騎士はそう言うと見張り台の下を見下ろし、正門前に集まっている部隊を確認する。リザードマンのビフレスト騎士も望遠鏡を下ろして見張り台の下を見た。

 正門前には大勢の白銀騎士と黄金騎士が隊列を組んで立っており、部隊の先頭にはダークがアリシアとファウを連れて白銀騎士たちを見ている。騎士の数は五百人程で白銀騎士二百人と黄金騎士三百人で構成されていた。


「凄いですね、こんなに大勢の白銀騎士と黄金騎士が集まるなんて……」

「ジャスティスさんの本拠地である浮遊島に攻撃を仕掛けるわけだからな、青銅騎士は入れず強力な騎士だけで編制した。しかも此処にいる騎士は全てジャスティスさんの軍団と互角に戦えるよう強力な魔法武器などを使って召喚した。強さはレベル60以上だ」

「そ、そうなんですか……」


 ジャスティスと戦うために優れたマジックアイテムを使い、わざわざ英霊騎士の兵舎で騎士たちを召喚したと聞かされたファウはダークはいつもより本気で戦おうとしていると感じて苦笑いを浮かべる。

 過去に何度もダークが敵と戦おうとする姿を見てきたが、それとは明らかにダークの雰囲気が違ったのでファウは心の中で驚いていた。


「……しかし、ジャスティスの本拠地に攻撃を仕掛けるには少々戦力が少ないのではないでしょうか? あの島はバーネストとほぼ同じ大きさです。となると島にいる敵戦力もかなりのものと思われますが……」


 敵の本拠地を叩くにしては戦力が少なすぎると感じ、ファウは少し不安そうな顔で集まっている白銀騎士たちを見る。

 確かに敵の本拠地を攻略するにしては五百人はあまりにも少なすぎる。いくら白銀騎士たちがレベル60以上の力を持っているとしても、もう少し戦力が必要だと感じられた。

 しかも敵は空の上におり、浮遊島の周りには警護と思われるドラゴンが飛び回っている。ダークやアリシアがいるとは言え、目の前の部隊では勝負にならないのではとファウは感じていた。


「勿論、これだけの部隊であの島を落とせるとは思っていない。此処にいる騎士たちは浮遊島に乗り込んだ直後に島の一部を制圧するための部隊だ」

「島の一部を制圧?」

「ああ、その制圧した場所に進軍のための拠点を築き、その後に転移魔法を使ってバーネストに待機させてある戦力を浮遊島に転移させて進軍するのだ」

「成る程、そこまでお考えとは、流石はダーク様です」


 ダークの作戦を聞いてファウは感動したような笑みを浮かべる。それを見たダークは、これぐらいは誰でも思いつくことなのだがな、と心の中で思いながらフルフェイスの兜の下で苦笑いを浮かべた。

 ファウはダークを笑いながら見ている間、アリシアは白銀騎士たちを無言で見つめていた。その表情は少し暗く、何かを心配しているような顔をしている。


「……アリシアさん、どうしたんです?」


 アリシアの様子が変なことに気付いたファウが声を掛けると、アリシアはハッと反応してからファウの方を向き、小さく笑いながら首を横に振る。


「い、いや、何でもない」

「そうですか?」


 ファウは不思議そうな顔で小首を傾げ、ダークも無言でアリシアを見つめる。アリシアは苦笑いを浮かべながらダークとファウを見た後、視線を白銀騎士たちに向けた。


(いかんいかん! 私としたことが顔に出ていたか……)


 白銀騎士たちを見ながらアリシアは自分の失敗を反省し、気を引き締めなおした。

 アリシアが暗い顔をしていた理由、それは王城でダークが言っていたことを思い出していたからだ。ジャスティスと戦う以上、ダークが負ける可能性があり、最悪命を落とすかもしれない。アリシアは最悪の結果になったらどうすればいいのかとずっと心配になっていた。


(しっかりしろ、ダークは負ける気は無いと言っていた。協力者である私がダークを信じなくてどうするんだ)


 ダークの言葉を思い出し、信じろと自分に言い聞かせながらアリシアは真剣な表情を浮かべる。そんなアリシアをファウはまばたきをしながら黙って見つめていた。


「……ところでダーク、浮遊島に突入した後に何をするのかは分かったが、どうやって浮遊島に向かうつもりだ?」


 気持ちを切り替えたアリシアはどのようにして浮遊島に近づくのかダークの方を向いて尋ねる。ファウも同じことを疑問に思っており、無言でダークを見つめた。

 いくら浮遊島に辿り着いた後にどうするか決めていたとしても、その浮遊島に近づくことができなければ何もできない。しかも浮遊島の周りには警護のドラゴンたちがいる。

 現在の戦力で浮遊島の一部を制圧するとなると、自分たちはほぼ無傷の状態で浮遊島に近づく必要がある。しかし、敵も無傷の状態で自分たちを浮遊島に近づかせるはずがない。近づけば間違いなくドラゴンたちに攻撃されるだろう。

 浮遊島を攻略するには無傷の状態で浮遊島に辿り着くしかない。アリシアとファウはどのようにして浮遊島に近づくのか気にしながらダークが答えるのを待った。すると、ダークは二人を見ながら小さく笑い出す。


「心配するな、そっちの方は既に用意ができている」


 そう言うとダークは懐からオレンジ色のメッセージクリスタルを取り出し、顔に近づけて誰かに連絡を入れ始めた。


「ノワール、私だ。やってくれ」

「分かりました」


 メッセージクリスタルからノワールの声が聞こえ、それを聞いたアリシアとファウはノワールに何かをさせようとしていると気付く。ただ、ノワールに連絡を入れたという点から何らかの魔法が発動されることは予想はできていた。

 ダークはメッセージクリスタルを使用し終えると視線を正門の右側にある広い平原に視線を向ける。アリシアとファウもつられるようにダークが見ている平原の方を向いた。すると、平原の中に巨大な転移門が開かれ、それを見たアリシアとファウ、正門の近くを警護しているビフレスト騎士たちは目を見開く。

 アリシアたちが注目していると、転移門から一体の大型のドラゴンがゆっくりと姿を現した。そのドラゴンは四本足で歩いており、全ての足と首は短く、普通のドラゴンと比べて温厚そうな顔をしている。ただ、その体は平らで200mほどの体長をしており、背中は僅かゴツゴツしており、巨大な竜翼が四つ生えていた。

 ドラゴンの体が全て平原に出ると転移門は消滅する。ドラゴンは平原のど真ん中で止まり、正門前に集まるダークたちの方を向く。アリシアたちはそのあまりの大きさに目を見開いたまま言葉を失っていた。


「あのドラゴンに乗り、私たちは浮遊島へ向かう」


 アリシアたちが驚いている中、ダークは現れたドラゴンが浮遊島までの移動手段であることをアリシアとファウに伝え、それを聞いた二人は反応し、同時にダークの方を向いた。


「ダーク、あのドラゴンは?」

「あれは城塞竜、サモンピースのクイーンで召喚したレベル85の上級ドラゴン族モンスターだ」


 ダークの口からドラゴンのレベルを聞かされたアリシアは再び視線をドラゴンに戻す。ファウも驚きの表情を浮かべて城塞竜を見た。

 レベル85と言えば異世界では竜王、つまりリーテミス共和国の大統領、ヴァーリガムに匹敵する強さと言うことだ。そんな強さを持つドラゴンが現れたのだと知ればファウだけでなく、ダークと付き合いの長いアリシアでも驚くのは無理も無いことと言えるだろう。

 アリシアとファウが驚く中、ダークも城塞竜を見つめながら生態の説明を始める。


「城塞竜は見てのとおり、城のような巨大な体をしたドラゴンで主に大部隊の移動手段として使われる。体が大きいだけでなく、防御力も高く、レベル90以上の敵の攻撃にも十分耐えることができる」

「それほどの防御力を持っているのか……」

「そ、それでは、ダーク様でもあのドラゴンを一撃で倒すことはできないのですか?」

「ああ、無理だ」


 ダークでも一撃では倒せないドラゴンだと聞かされ、ファウは驚きのあまり言葉を失う。ダークでも簡単に倒せないドラゴンの存在にも驚いていたが、ファウはそんなドラゴンを支配下に置くことができるダーク自身にも驚いていた。

 神に匹敵する力を持ち、更に竜王と同等の存在を支配下に置くことができるダークにファウは改めて尊敬の念を抱く。そして、そんなダークと同じ力を持つであろうジャスティスが恐ろしい敵であることを再認識した。


「これ程のドラゴン、一体いつ召喚したんだ?」

「ジャスティスさんから宣戦布告を受けた直後だ。ジャスティスさんと敵対した以上、大部隊を動かすことになると確信していたからな。召喚して首都の近くにある岩山の中に待機させておいたんだ」

「成る程な。今回ジャスティスの浮遊島に向かって進軍するため、ノワールの魔法で岩山から転移させたと言うことか」


 アリシアがチラッとダークを見ながら言うと、ダークはそう言うことだ、と頷く。アリシアはダークが頷くのを見ると平原の中で大人しく待機する城塞竜を見てその大きさを確認する。


「……確かにあの大きさなら私たちと五百人の騎士を問題無く運ぶことができるだろう。だが、いくら城塞竜の防御力が高くても乗っている私たちが警護のドラゴンたちの攻撃を受けてしまったら意味がないぞ。そっちの方はどうするのだ?」


 ほぼ無傷で浮遊島に辿り着くことが最も重要なことなのに部隊に被害が出てしまったら元も子もない。アリシアは無傷で浮遊島に辿り着くという点についてはどうするのか、ダークの方を向いて尋ねる。すると、ダークは懐に手を入れて一本の巻物スクロールを取り出した。


「その点についても問題無い。コイツでなんとかできる」

「それは?」

「ある上級魔法が封印された巻物スクロールだ。これがあれば部隊は無傷の状態で浮遊島に辿り着くことができる」


 アリシアはダークが持つ巻物スクロールをまばたきしながら見つめる。ファウも不思議そうな顔をしながら巻物スクロールに注目していた。


「いったいどんな魔法が封印されているのですか?」


 ファウは巻物スクロールに封印された魔法のことが気になりダークに尋ねる。ダークはファウの方を向いた後、小さく笑いながら巻物スクロールを懐にしまった。


「強力な防御魔法だ。この魔法ならレベル70代の敵の攻撃も難なく防ぐことができる」

「そ、そんなに凄い魔法なんですか……」


 とんでもない魔法が封印されていると聞いてファウは意外そうな表情を浮かべて驚く。アリシアは別に隠す必要は無いのだから、今説明してほしいと呆れたような顔をしながら心の中で思っていた。

 城塞竜と巻物スクロールの説明が終わるとダークはもう一度部隊の確認をする。今回はジャスティスの本拠地である浮遊島に攻撃するため、毛の先程の失敗も許されない。ダークはいつも以上に念入りに確認をし、アリシアとファウもそんなダークを見て表情を鋭くした。

 部隊の再確認が済むとダークはアリシアとファウの方を向き、ダークと目が合ったことで二人は無意識に姿勢を正した。


「さて、そろそろ出撃するが……二人とも、覚悟はいいか?」


 薄っすらと目を赤く光らせながらダークが尋ねると、アリシアとファウは無言で頷いた。


「分かっていると思うが、今度の敵は過去に戦って敵と違って手強い。油断しているとあっという間にやられてしまうぞ?」

「ああ、分かっている」

「重々承知しています」


 ダークの忠告にアリシアとファウは少し力の入った声で返事をした。

 過去にダークたちが戦った敵は全てダークたちよりも遥かにレベルが低く、難なく倒すことができる敵だった。しかし、今度の敵はジャスティスと彼の率いる強力なモンスターたちでレベルもダークたちと同等、もしくはそれ以上だ。過去の戦いと同じ感覚で戦って勝てるような相手ではない。

 今までのように手加減して勝てるほど今回の敵は弱くはないとアリシアとファウは十分理解しており、最初から全力で戦おうと思っている。勿論、ダークも二人と同じ気持ちだ。いや、ジャスティスの強さを誰よりも知っているため、ダークはアリシアたち以上に警戒していると言っていいだろう。


「もし戦況が不利になったら敵を倒すことよりも自分の身を護ることを優先しろ。ジャスティスさんたちに勝つことよりも二人の命の方が大事だからな」

「分かった」

「それから、もし私が戦闘中に命を落としたら迷わずにバーネストまで後退しろ。間違っても私の仇を討とうとは考えるな」


 ダークの言葉に今まで真剣に話を聞いていたファウは目を大きく見開く。アリシアは目を僅かに鋭くしながら黙ってダークを見ている。

 普通、仲間や友人が殺されたのであれば敵討ちをするために戦い続けるべきなのだが、それは戦況が互角の時に取る行動だ。自分たちが不利な状態でそんなことをしても戦況に大きな変化は無いだろう。寧ろ戦況が悪化する可能性が高い。

 戦況を悪化させてまで仇を討つよりは一度後退して態勢を立て直し、改めて仲間の敵討ちをするのが賢明だと言える。

 アリシアとファウにとっても主であり仲間であるダークが殺された時、仇を討たずに後退すると言うのは二人の騎士道に反している行為だが、ダークを倒した相手にそのまま挑むのは無謀すぎだ。それなら一度後退した方が得策だと考えられる。

 ファウは心酔するダークの仇を討てずに退却しなくてはならないことに納得できない顔をする。一方でアリシアは落ち着いた様子で目を閉じており、ゆっくりと目を開けてダークの顔を見た。


「……分かった、その時はすぐにバーネストまで退却する」

「アリシアさん!?」


 アリシアの口から出た言葉にファウは思わず声を上げる。アリシアはゆっくりとファウの方を向くと静かに口を開ける。


「ファウ、もし部隊の指揮を執るダークが戦死したり重傷を負った場合、私たちだけでは部隊を統率することも敵を倒すこともできない。その時は悔しいが後退して態勢を立て直すしか方法が無い」

「で、でも……」

「それにダークに勝つほどの敵に部隊を統率できない状態で挑んでも勝てるはずがない」

「そ、それは、そうですが……」


 ファウはアリシアの言っている言葉に言い返せずに俯く。確かにまともに部隊を統率できない状態で自分よりも強いダークに勝つほどの実力者に挑むのは自殺行為だ。しかし、それでも敬愛するダークの仇を討つことができないのはファウにとって辛いことだった。

 俯きながら不満そうな顔をするファウをアリシアは黙って見つめている。するとダークがファウの肩をポンと軽く叩いた。


「ファウ、アリシアが話しているのはあくまでも私が倒された時のことだ。まだ私が倒されると決まった訳ではないのだから、そんなに真剣に考えないでくれ」

「え? ……ハ、ハイ、申し訳ありません」

「それもお前は私が倒されてほしいと思っているのか?」

「と、とんでもない! そんなことは微塵も思っておりません!」


 声を上げながらファウはダークの言ったことを強く否定し、そんなファウを見てダークは小さく笑い出す。


「フフフ、冗談だ」

「うっ、ひ、酷いです、ダーク様……」


 からかわれたファウは複雑そうな表情を浮かべ、そんなファウを見たダークは再び小さく笑う。二人のやりとりを見ていたアリシアもダークと同じように小さく笑みを浮かべていた。


「……よし、出撃するぞ。全員、城塞竜の下へ移動しろ」


 ダークの指示を受け、アリシアとファウは城塞竜がいる平原に向かって歩き出し、待機していた白銀騎士と黄金騎士も二人に続いて移動し始める。最後にダークもアリシアたちの後を追うように歩き出した。

 城塞竜の近くまでやって来るとダークは城塞竜に姿勢を低くするよう指示を出し、城塞竜をダークたちが背中に乗れるよう姿勢を低くした。ダークとアリシアは高くジャンプをして城塞竜の背中に乗り、ファウも数回ジャンプを繰り返して背中に乗る。白銀騎士たちはダークたちのような優れたジャンプ力が無いため、城塞竜の体をよじ登って行った。


「全員乗ったか……よし、行け」


 全員が城塞竜に乗ったのを確認するとダークは前を向き、片膝を付いて城塞竜に命令する。ダークの命令を聞いた城塞竜は姿勢を高くして竜翼をはばたかせ始めた。

 巨大な竜翼がはばたくたびに平原内に風が巻き起こり、草花が大きく揺れる。そして、巨大な城塞竜はゆっくりと飛翔し、飛び上がった城塞竜にアリシアとファウは姿勢を低くしながら驚きの表情を浮かべた。

 飛び上がった城塞竜はあっという間に数十mの高さまで上昇し、ある程度上昇した城塞竜は浮遊島に向かって移動を開始した。城塞竜が移動することで強い風がダークたちに当たり、アリシアとファウは肌に伝わる風圧に少し表情を歪める。ダークと白銀騎士たちは反応を見せず、黙って姿勢を低くしながら遠くに見える浮遊島を見つめていた。

 ダークたちを乗せた城塞竜はあっという間に小さくなり、その光景を見ていたバーネストを護るビフレスト騎士たちは呆然としていた。


「す、凄いな、ダーク陛下はあんなドラゴンまで手懐けておられたのか……」


 正門の見張り台に立つリザードマンのビフレスト騎士が目を丸くしながら遠くにいる城塞竜を見つめる。周りにいる他のビフレスト騎士たち同じように目を丸くして遠くにいる城塞竜を見ていた。


「あのドラゴンさえいれば相手がどんな奴でも簡単に倒せるんじゃないのか?」

「ああ、俺もそう思う」


 城塞竜がいれば視界に入る浮遊島も楽に制圧できるのでは、ビフレスト騎士たちは驚きの表情を浮かべながら浮遊島を見つめる。この世界では城塞竜や竜王のヴァーリガムのような巨大なドラゴンこそが最強の存在と思われているため、城塞竜を手懐けていることでダークは必ず勝てるとビフレスト騎士たちは考えていた。

 この時、ビフレスト騎士たちはまだ気付いていなかった。城塞竜は移動能力に長けたモンスターで戦闘能力もそこそこ高いが、自分たちの敵であるジャスティスが城塞竜よりも強敵であると言うことに。

 その頃、ダークたちを乗せた城塞竜は既にバーネストから北西に2kmほど離れた所まで移動していた。城塞竜はその巨体とは裏腹に移動速度があり、既にバーネストが小さく見える位置まで来ている。


「凄い、もうバーネストがあんなに小さく……」

「間違いなく、ドラゴン姿のマティーリアや帝国のスモールワイバーンよりも上だな。もしかすると、ヴァーリガム殿よりも上かもしれん」


 城塞竜が予想以上に速いことにファウとアリシアはバーネストを見ながら呟く。もしこの場にマティーリアがいれば彼女も自分は城塞竜よりも遅いと認めているだろう。

 アリシアたちが驚く中、ダークは黙って前だけを見ている。徐々に近づいてくる浮遊島を見ながらダークはいつ敵が攻撃を仕掛けて来ても対処できるよう警戒していた。アリシアとファウは視線をダークに向けて警戒するダークの背中を見ている。


「……ダーク陛下、既に臨戦態勢に入っておられますね」

「ああ、それだけジャスティスと彼の配下のモンスターが強いと言うことだろう。私たちも周囲を警戒しておこう」

「ハイ」


 ダークが警戒しているのだから自分たちも敵襲を警戒するべきだとアリシアとファウも周囲を見回して敵の姿がないか確認し始める。風によってアリシアとファウの髪は大きくなびくが、二人はそんなことを気にはしなかった。

 警戒を続ける中、少しずつ浮遊島との距離が短くなっていき、アリシアとファウはもうすぐ敵が自分たちの存在に気付くのではと表情を鋭くした。


「もうそろそろ護衛のドラゴンたちがこちらに気付いて攻撃してくるはずだ。油断するな?」

「ええ、分かっています……ところでアリシアさん」

「何だ?」

「ダーク様の装備が普段と違っているような気が……」


 ファウはそう言って視線をダークに向け、アリシアもダークの方を見る。確かにダークの装備はいつもと若干違っていた。

 まず、いつもの大剣は背負っておらず、腰に自動人形オートマタとの戦闘で使用していた蒼魔の剣が佩してある。そして、マントも普段の真紅のマントと違い、金色の装飾が施された黒いマントになっていた。


「ああぁ、あれか。私もダークと合流した時に装備が若干違うことに気付いて本人に訊いてみたんだ。何でも今度の戦闘では強敵を相手にするため、戦闘中に装備を変更する余裕は無いと考え、前もって強い装備に変更して出撃するらしい」

「成る程、ダーク様もそれだけ警戒していると言うことですね」


 普段なら戦況を見て装備を変更するダークが今回は最初から強い装備をして出撃するという点から、ダークがかなり慎重になっているとファウは再認識した。


(しかし妙だな。リーテミスで自動人形オートマタの指揮官と戦った時は戦闘中でも普通に装備を変更していたのに、どうして今回は前もって装備を変更しておいたんだ? いくらジャスティスがダークと互角の力を持っているとしても少し引っかかる……)


 アリシアはなぜ今回はダークが最初から装備を変更して出撃したのから分からず、難しい顔をしながらダークを見つめる。

 リーテミス共和国で自動人形オートマタたちの指揮官をしていたエイブラムスはレベル94でダークと力はほぼ同じくらいの強敵だった。そのエイブラムスと戦っていた時、ダークは普通に武器を変更していたため、今回も戦闘中に装備は変更可能だろうとアリシアは感じていたが、出撃前に装備を変更していたことを不思議に思っていたのだ。

 なぜ今回に限ってダークは最初から装備を変更しておいたのか、アリシアは難しい顔をしながら考える。すると、前を向いていたダークはフッと反応してゆっくりと立ち上がった。


「……どうやら敵もこちらの接近に気付いたようだ」


 ダークの言葉にアリシアとファウも反応して浮遊島の方を向く。浮遊島の周りにいる無数のドラゴンたちはダークたちの方を見ながら鳴き声を上げ、次々とダークたちに向かって移動を開始する。その光景を見たアリシアとファウは目を大きく見開いて驚いた。


「うわあっ、ドラゴンたちが一斉に!」

「此処から確認できるだけでも十体近くはいるな……」


 ドラゴンたちの姿を見ながらファウとアリシアはゆっくりと体勢を変える。風で体勢を崩さないよう、下半身に力を入れながら二人は自分の得物をいつでも抜けるようにした。

 ダークは戦闘態勢には入らず、冷静に視界に入っているドラゴンの数と種類を素早く確認し始める。


「……数は全部で十二体、その内バーニングドラゴンが四体、ウインドドラゴンが三体、キングワイバーンが五体か……」


 飛んでくるドラゴンの数を確認したダークは赤いドラゴンをバーニングドラゴン、緑のドラゴンをウインドドラゴン、黒いドラゴンをキングワイバーンと呼びながら目を薄っすらと赤く光らせる。確認できたドラゴンは全て強力なモンスターなのかダークは若干面倒くさそうな口調で話していた。


「ダーク、ドラゴンの種類が分かるのか?」

「ああ、バルコニーで確認した後にLMFのモンスター図鑑を見て種類とレベルを調べたんだ。気を付けろ、奴らは全てレベルが65から70の間だ」

「ええぇ! レベル65以上のドラゴンが十二体も!?」


 ドラゴンたちのレベルを聞いたファウは思わず声を上げる。浮遊島を警護する敵が全て上級ドラゴンでそれが十体以上もいると聞けば驚くのは当然だ。恐らくこの場にレジーナたちがいれば同じ反応を見せていただろう。

 いきなり危険な状況になっていることにファウは焦りを見せ始める。するとダークはアリシアとファウの方を向き、懐から出発前に二人に見せた巻物スクロールを取り出した。


「心配するな。言っただろう、コイツがあれば無傷で浮遊島に辿り着けると?」


 焦らず余裕を見せるダークにファウは意外そうな表情を浮かべ、アリシアも複数の上級ドラゴンが相手でも何とかできる魔法が封印されているのか、と思いながらダークが持つ巻物スクロールを見つめた。

 ダークが巻物スクロールをアリシアとファウに見せている間もドラゴンたちは徐々に距離を縮めていく。ドラゴンたちは城塞竜とその背中に乗るダークたちを睨みながら鳴き声を上げ、鳴き声を聞いたダークはドラゴンたちに視線を向けた。


「悪いが私たちはお前たちの相手をしている暇はない……通してもらうぞ」


 ドラゴンたちを睨みながらダークは低い声を出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ