第二話 出会い
林から数百m離れた所にある村。姉弟が逃げてきたその村では大勢の村人たちが盗賊の手に掛かり倒れていた。
盗賊たちは村人全員を村の中心にある広場の一ヵ所に集め、逃げられないように取り囲んでいる。村人たちはただ怯えながらその場に座り込んでいた。
「さぁ~て、これで全員集まったな?」
村人たちを囲む盗賊たちの中にレザーアーマーを装備して右目に眼帯を付けた男がおり、その男は集まっている村人に近づいていく。どうやらこの男が盗賊たちの頭のようだ。
盗賊頭は村人たちの前まで来ると目の前で座り込んでいる村長らしき老人の胸倉を掴み無理やり立ち上がらせる。
「村長さんよぉ、他にも何か金目の物があるんだろう? 何処にあるのか教えてもらおうか」
「そ、そんな物は此処には無い。アンタたちが奪い取った物で全部だ!」
村長は胸倉を掴まれながら一点を見る。視線の先には盗賊たちが村人たちから奪ったと思われる通貨や高価そうな家具などの入った袋が大量に置かれてあった。
盗賊頭は村長の頬に自分の持っているポールアックスの刃を近づけてニヤニヤと笑う。
「いやいやいやぁ、そんなことはねぇだろう? いくらこんな貧乏くさい村でも、もう少しぐらい金があるはずだ。あれっぽっちじゃ此処にいる村人の半分ぐらいしか養えないぜ?」
「本当にそれだけしかないのだ。どうかあれだけで勘弁してほしい!」
恐怖を押し殺して村長は必死に盗賊頭を説得しようとする。だが、そんなことを信じるはずも無く、盗賊頭は舌打ちをして村長を突き飛ばす。
突き飛ばされた村長はその場で尻餅をつき、そんな村長に妻と思われる老婆と中年の男が寄り添った。
盗賊頭は集まっている村人たちを見回し、その中から若い村娘や子供の人数を確認する。そして周りにいる部下の盗賊たちを見てポールアックスを村人たちに突き付けた。
「金目のもんがねぇんじゃ仕方がねぇ! 野郎ども、若い女やガキは売れば金になる。それ以外は全員ぶっ殺しちまえぇ!」
盗賊頭の命令に盗賊たちは笑いながら村人たちに近づいていく。そして村人たちは自分たちが殺されてしまうという現実を目にし、震えたりその場で泣き崩れてしまう。
村人全員がもうお終いだと考えた、その時、突如盗賊や村人たちの近くに何かが落ちてきた。盗賊たちは足を止めて一斉に落ちてきた物の方を向き、村人たちも同じように落ちてきた物を見る。それは全身ボロボロになった仲間の盗賊だった。しかもその盗賊は既に死んでいる。
突然空から落ちてきた仲間の死体を見て盗賊頭は驚きの表情を見せる。
「な、なんだ? どうしたんだ?」
「お頭。コイツ、村の出入口を見張ってた奴ですよ!」
「それがどうしてこんなボロボロになってるんだよ?」
なぜ仲間が死体となって空から落ちてきたのか、理由がわからない盗賊頭は仲間の盗賊たちに尋ねる。当然、盗賊たちも理由なんて分かるはずがない。
「お頭! あれを見てくれ!」
突如、一人の盗賊が村の出入口のある方を見て指を差す。盗賊頭や他の盗賊たち、村人たちも一斉に盗賊が指している方を見る。
出入口のある方から漆黒の全身甲冑を着たダークが歩いてくる姿が見え、盗賊たちは警戒する。村人たちは今度はなんだ、と言いたそうな顔でダークを見ていた。
ダークはゆっくりと歩いて盗賊たちに近づいていき、やがて数m前で立ち止まり盗賊たちを赤い目で見つめる。盗賊たちは敵意の籠った視線をダークに向け、村人たちは目を丸くしながらダークを眺めていた。
「……なんだ、テメェは?」
「私は暗黒騎士ダーク……」
「暗黒騎士? 聞いたことねぇな……いや、そんなことはどうでもいい。それよりも、俺の子分を殺ったのはテメェか?」
盗賊頭は空から落ちてきた盗賊を指差してダークを睨みながら尋ねた。
「そうだ、と言ったら?」
「ナメたことしやがって! このまま無事に帰れると思うなよ!?」
「帰るつもりはない。私はこの村を救いに来たのだからな」
盗賊頭の質問にダークは低い声で答える。ダークの返事を聞いた盗賊たちはしばらくの間、黙ってダークを見つめる。村人たちも予想外の人物の登場と村を救いに来たという言葉に耳を疑う。
すると、さっきまで黙り込んでいた盗賊たちが今度は一斉に笑い出した。
「この村を救いに来ただとぉ? たった一人でか?」
「それはまた随分と立派な騎士様だなぁ!」
「それだけ自分の力を過信しているんじゃねぇのか?」
「あるいは、ただの馬鹿なのか」
盗賊たちがダークを見ながら彼を小馬鹿にする。普通は一人で十人以上いる盗賊たちを倒し、村を救うなんて考える者はいない。この世界ではそれは愚行なのだろう。
だがその愚行を行う者が目の前に現れたんだから盗賊たちはおかしくて仕方が無かったのだ。
ダークは挑発を無視し、笑っている盗賊頭をジッと見る。
「そこの眼帯を付けたアホ面の男」
「……ああぁ? 俺のことか?」
「他に誰がいる? さっさとこの村から立ち去れ。今立ち去るのなら見逃してやってもいい」
「テメェ、人の部下を殺しておいて勝手なこと言うじゃねぇか?」
「もう一度だけ言う……さっさと消えろ」
低い声で警告するダークを見て盗賊頭はギリッと歯を噛みしめる。周りにいる盗賊たちもダークを睨みながら短剣やハンドアックスを強く握った。
「……おい、野郎ども! どうやらこの騎士様は早く死にてぇらしい。だったら望み通り、血祭りに上げちまおうぜ!」
盗賊頭の言葉を聞き、村人たちを囲んでいた盗賊たちはダークに向かって歩き出す。彼らの目にはもはやダークに対する殺意しかなかった。
軽い挑発に乗り、村人から自分に意識を向けた盗賊たちを見てダークは冷静に盗賊たちの立ち位置や人数、装備を確認した。盗賊頭の装備は少し頑丈そうなレザーアーマーにポールアックス、周りにいる他の盗賊たちは林で戦った三人と同じレザーアーマーに短剣を装備しており、中にはハンドアックスを装備している者もいる。盗賊であるせいか誰も大した装備はしていなかった。
(……人数は確認できるだけでも十二人か。さっきと違って今度は十人以上いる。大勢の敵に俺の剣がどこまで通じるか確かめてみたいが……今回はアイテムがこっちの世界でもちゃんと使えるかを試してみることにするか)
ダークマンはポーチに手を入れると中から水色の目をした小さな白いサイコロを一つ取り出した。
盗賊たちは敵を前にポーチから道具を取り出しているダークを見て彼に対し更なる怒りを覚えた。
「敵を前にして道具のチェックとは、ナメた真似しやがってぇ! 野郎ども、殺っちまえぇ!」
盗賊頭が命令すると盗賊たちはダークに襲い掛かる。盗賊頭を除く十一人の盗賊が一斉に走り出ダークに向かっていく。
ダークは向かってくる盗賊たちを見て、持っていたサイコロを指で弾き飛ばした。サイコロは走ってくる盗賊たちの足元に落ちて転がっていく。そしてサイコロが止まるとサイコロの目が水色に光り出し、サイコロから青白い電撃が周囲に広がり近くにいた盗賊たちに命中した。
電撃を受けた盗賊たちは断末魔の悲鳴を上げ、電撃が消えると体から煙を上げながら倒れる。十一人いた盗賊の内、六人が電撃で息絶えた。
突然の電撃とその電撃で仲間が死んだ光景を見た他の盗賊と盗賊頭は驚きを隠せずに固まる。勿論、村人たちも同じように驚いていた。
「な、なんだ、今のは……?」
「なんでいきなり電撃が出てきたんだよ……」
目の前で起きた出来事に盗賊たちは震える。この時、誰もさっきの電撃がダークの仕業ということに気付いていなかった。
盗賊たちが驚く中、ダークは自分が弾き飛ばし、地面に落ちたサイコロを見つめている。
「マジックダイスは使えるか……フッ、あれが使えるのなら、他のアイテムも問題なく使えそうだな」
ダークはサイコロを見ながら嬉しそうな声で呟くと驚いている盗賊たちの方を向く。盗賊たちはダークの視線に恐怖を感じビクッと反応する。
<マジックダイス>とは、LMFの有料ガチャやイベントクエストなどで手に入る攻撃用アイテムの一つで、使用すると魔法使い系の職業を持たない者でも自由に魔法を使うことができる物だ。しかもMPを一切使用しないので、多くのLMFプレイヤーたちが欲しがっている。その為、マジックダイス欲しさに有料ガチャに一万円以上をつぎ込むプレイヤーも少なくない。
ダークはこの世界に来て、ポーションのような回復系のアイテムは普通に使えると考えていたが、LMFで使う攻撃用アイテムがこっちの世界で使えるのかは分からなかった。そのため、攻撃用アイテムが使えるのかをハッキリさせておくために盗賊たちにマジックダイスを使ったのだ。結果、マジックダイスは問題無く使えたため、回復系アイテムも絶対に使えると確信した。
マジックダイスは全部で三種類あり、黄色い目をしたサイコロは下級魔法、ダークが使った水色の目のサイコロは中級魔法か下級魔法、そして赤い目のサイコロは上級魔法か中級魔法を発動することができる。だが、サイコロを振ってどの魔法が発動されるかは運任せなので、発動した魔法によっては戦いの流れを変えることができるが、運が悪ければ流れが変わることない。マジックダイスを使用する時は使ってもよいか一度戦況を確認する必要がある。因みにさっき発動した電撃は中級魔法の<電撃力場>、周囲にいる敵を攻撃することができるのでダークにとっては運が良かったと言えた。
「どうした、さっきまでと全然態度が違うぞ? 魔法を見たぐらいでそこまで取り乱すとは、随分とだらしない盗賊だな」
「ま、魔法? テ、テメェ、騎士のくせに魔法が使えるのかよ!?」
「……お前たちにそれを話す理由があるのか?」
さっきまで動かなかった盗賊頭がさっきの電撃の正体が魔法だと聞かされ思わず声を上げる。ダークはそんな盗賊頭を見ながらめんどくさそうな声を出した。
騎士であるうえに魔法まで使うことができるダークと戦っても勝ち目がないと感じたのか、生き残った盗賊たちは震えながらゆっくりと後退し始める。戦士としての本能が逃げろと盗賊たちに伝えているのだ。
「お、お前らぁ、何逃げようとしてるんだぁ!? 敵は一人だぞ、怯まずに戦えぇ!」
盗賊頭は敵を前にして逃げ出そうとする盗賊たちを見て怒鳴りつける。目の前にいる敵がたとえ自分より強いと分かっていても盗賊頭は引き下がろうとしない。大勢の盗賊を束ねる者としてのプライドが許さなかったのだろう。
しかし、盗賊たちは誰も動かない。自分よりも強い相手に向かっていくなど、自ら殺されに行くようなものだ。死ぬと分かっていて敵に向かっていく者など誰もいない。
命令を聞かない盗賊たちを見て盗賊頭は舌打ちをする。すると、いい考えを思いついたのか、盗賊頭は小さく笑いダークの方へ歩いていく。突然歩き出した盗賊頭を見て呆然とする盗賊たち。ダークはただ黙って近づいてくる盗賊頭を見ていた。
盗賊頭はダークの3、4m手前まで来ると足を止めて持っているポールアックスをダークに突き付けた。
「おい! 俺と一対一で戦え。魔法など使わずに剣で正々堂々とな!」
「正々堂々? フッ、抵抗もできない村人たちを襲うような奴の口から正々堂々などという言葉が出るとはな」
「だ、黙れ! いいからさっさと剣を抜け! 一対一で戦うって言うなら仲間には手出しさせねぇ。どうする?」
「……いいだろう」
ダークは盗賊頭の取引に応じ、背負っている大剣を抜いた。それを見た盗賊頭はニヤリと笑う。
(馬鹿め、全身甲冑を装備して動きが鈍くなっているテメェが軽装で身軽な俺の速さについてこられるはずがないだろう。一対一の勝負を受けた時点でテメェは負けてるんだよ)
盗賊頭はダークの重装備姿を見て機動力なら自分の方が勝っていると考えて一騎打ちを申し出たのだ。
ダークを見つめながら盗賊頭は自分の持っているポールアックスの刃をそっと指でなぞった。
(戦いが始まった瞬間に奴の背後に回り込んで首元を切り裂いてやる……覚悟しろよぉ?)
心の中でダークに死刑宣告をする盗賊頭。そんな盗賊頭を見てダークは大剣を両手で握り中段構えを取る。
ダークが大剣を構えた瞬間、盗賊頭はダークに向かって走り出す。だが、それを見たダークは驚く様子も見せずに黙って走ってくる盗賊頭を見つめる。盗賊頭がダークの右側から背後に回り込もうとした瞬間、ダークは盗賊頭が走る先へ移動し、盗賊頭の真正面に回った。
「な、何っ!?」
盗賊頭はダークが一瞬で自分の前に回り込んだ姿に驚きを隠せなかった。ダークは驚く盗賊頭を見て目を赤く光らせると、大剣を大きく横に振りながら勢いよく前に跳び、一瞬にして盗賊頭の背後に移動する。僅か数秒の出来事に盗賊や村人たちはただ呆然と二人を見ていた。
全員が黙り込み静まり返っている中、ダークと盗賊頭は動かずにジッとしている。やがてダークは大剣を軽く振り、ゆっくりと背中に納めた。その瞬間、盗賊頭の体は腹部から真っ二つになり、切られた箇所からは大量の血が噴き出て盗賊頭の上半身と下半身は離ればなれになる。
一刀両断された盗賊頭の体はゆっくりと倒れ、その光景を目にした盗賊たちはあまりの衝撃に固まっていた。村人たちも驚いてはいるが盗賊たちほどではない。
ダークは振り返り、盗賊頭の死体を見下ろす。
「……私が全身に鎧を着て動きが鈍くなっていると考え、機動力では自分の方が勝っていると考えたようだが……それは違う。見た目と違い、私は非常に俊敏なのだ」
哀れむような口調でダークは盗賊頭の死体に語り掛ける。
実はダークはメイン職業の暗黒騎士以外にサブ職業に<ハイ・レンジャー>を選んでいるのだ。ハイ・レンジャーは情報収集や機動力に長けている職業でダークは重装備で機動力が低い騎士系職業の欠点をカバーする為にハイ・レンジャーをサブ職業に選び、その技術を得た。ダークは<素早さアップⅡ>や<ジャンプ力アップ>という常時発動技術を付けているため、騎士でありながら常に速く移動することができるのだ。
だが、技術を体得しても全ての技術を体得できるわけではない。LMFのプレイヤーは技術を体得し、それを装備することでようやく技術を発動することができるのだ。技術を装備するにはメニュー画面から技術を選び、その中から装備したい技術を選び、<スキルスター>と呼ばれるものを使って装備する。
例えば、<毒無効>の技術を装備するにはスキルスターを2ポイント使う。勿論、スキルスターを使えばポイントは減り、プレイヤーが持つスキルスターのポイントによって装備できるスキルの数も変わってくる。技術を装備するためのポイントが足りない場合は装備している技術を外すことでスキルスターが戻り、そのポイントを使って別の技術を装備することも可能。
スキルスターのポイントはレベルを上げていく度に増え、最大レベルの100になれば、そのポイントは150になり、ダークはレベル100なので体得した技術のほぼ全てを装備することができる。
「私の装備している技術のことを考えておくべきだったな……」
ダークは届かない言葉を盗賊頭に向かって語り掛ける。そしてゆっくりと盗賊たちの方を向き彼らを睨み付けた。盗賊たちは全員震えており、もう戦意は感じられない。
「お前たちのリーダーは死んだ。残っているのはお前たちだけ……まだ戦うか?」
低い声で尋ねると盗賊たちは怖がったり、首を左右に振ったりなどして否定する。
「なら、さっさとこの村から立ち去れ。そして二度のこの村に近づくな」
ダークの言葉を聞いた盗賊たちはこのチャンスを逃せばもう助からないと感じたのか、全員一目散に走り去った。
盗賊たちが村の出入口の方へ走る姿を見てダークは小さく息を吐く。どうやら緊張が解けて少しだけ疲れが出たようだ。しかし、まだやるべきことはある。ダークは座り込んでいる村人たちの方を向き、一番前にいる村長を見つめた。
「大丈夫ですか?」
「ハ、ハイ。……えっと、貴方様はいったい……」
「ただの通りすがりだ。この近くの林で姉弟が襲われているのを助けて姉から事情を聞き、こうしてやってきた」
「姉弟?」
村長が誰の事を言っているのかと小首を傾げる。すると、ダークが来た林の方からノワールの声が聞こえてきた。
「マスター! ……マスター!」
ダークと村長は声の聞こえる方を向く。そして村の出入り口の方から飛んでくるノワールとその後ろをついてくるあの姉弟の姿を確認した。ノワールはダークの命令で今までずっと姉弟に付き添っていたのだ。
ノワールはダークの前までやってくると顔の高さまで上昇して微笑む。姉弟は村長の下に駆け寄り、村人たちが無事であることを確認する。
「おおぉ! アンナ、リンク、無事だったのか!」
「村長、大丈夫ですか? 怪我とかは……」
「大丈夫だ。こちらの方が盗賊を追い払ってくれたのだ」
アンナと呼ばれた姉は振り返り、ダークの姿を見ると頭を下げる。リンクと呼ばれた弟も同じように頭を下げた。
落ち着きを取り戻した村人たちは村の中を調べたり、盗賊たちに襲われた者たちの中で生き残りがいないかを確かめた。アンナとリンクも自分の家に行き、両親の遺体を確認すると悲しみがこみ上がりその場で泣き崩れる。平和に暮らしていた村を突如襲った盗賊、この世界ではそれが普通なのだとダークとノワールはアンナとリンク、そして町の様子を見ながらそう考えた。
――――――
壊された家の片付けや殺された村人たちの埋葬などが終わるとダークは村長から助けてもらったお礼としてこの世界のことや自分が今何処にいるのかなど色々な情報を訊くことにした。元々、自分がこの村のことを助けたのは情報を手にれるためだったのだ。目的を達成できなければ意味は無い。
ダークは村の広場に村長を呼び、早速色んなことを聞こうとする。すると、話を始めようとした時、一人の村の青年が村長の下に駆け寄ってきた。
「どうしたんだ?」
「村長! ……ダーク様もお聞きいただけますか?」
「ん?」
青年の様子からまた面倒事かと考えるダーク。だが、青年の口から出たのはダークの想像とは違う言葉だった。
「実は今、この村に王国の騎士隊が来られたんです」
「王国の騎士隊?」
「ハイ。最近、この辺りに出没している盗賊を討伐するためにこの辺りの村を回っているとか……」
「恐らく、さっきの盗賊どもだろうな……」
「ええ。それで、ダーク様が盗賊たちを追い払ったということを話したら、一度会わせてほしいと言われて……」
「なるほど……」
村を襲った盗賊をたった一人の暗黒騎士が追い払ったのだから、王国の騎士たちが気になるのは当然だ。
(……小さな村の村長から聞くだけじゃ得られる情報は少ない。なら、この国の騎士に訊けばもっと詳しいことが分かるだろう。だったら……)
ダークは腕を組みながらしばらく考え込み、答えを出すと青年の方を向いて頷く。
「分かった。その騎士たちを呼んでくれ」
「ハ、ハイ!」
「村長、すみませんが話をするために村長の家をお借りしてもよろしいですか?」
「あ、ハイ! どうぞ、お使いください」
青年は許可を得るとすぐに騎士隊を呼びに向かい、村長も自分の家へ向かって準備を始めた。
しばらくすると、馬に乗った二十数人の兵士たちがゆっくりと村の広場に入り、その騎士隊の先頭には一人の女騎士の姿があった。外ハネの金髪ショートに銀色の額当てを付け、白い鎧を着た二十代前半ぐらいで身長は160から170cmぐらいの美女だ。腰には一本の騎士剣を佩いている。
女騎士はダークと村長の前で馬を止め、後ろをついてきた大勢の兵士たちも一斉に馬を止める。女騎士は馬から降りるとダークと村長の前にやってきて挨拶をした。
「私はセルメティア王国騎士団第三中隊所属、第六小隊隊長、アリシア・ファンリードだ。……貴方が盗賊を一人で倒したという騎士か?」
「そのとおりだ。私はダークという」
「ダーク殿……黒い全身甲冑を纏っている……貴方は黒騎士か?」
「黒騎士? 私は暗黒騎士だが?」
「暗黒、騎士……?」
アリシアという女騎士は聞いたことの無い言葉に小首を傾げる。どうやらこの世界には黒騎士という職業はあるが暗黒騎士という職業は無いようだ。
ダークは考えこむアリシアの顔をしばらく見つめてから彼女の姿をチェックする。
「……そう言う貴女は見たところ、聖騎士か何かですか?」
「ん? ああ、確かに私は聖騎士だ」
「なら、私の暗黒騎士は貴女と対になる存在と言った方がいいな」
「対になる? ならやはり貴方は黒騎士なのではないか?」
聖騎士の対が黒騎士と聞いたダークはこの世界では暗黒騎士は黒騎士と呼ばれるということを知り納得した。
相手が何者なのかを確認したダークとアリシアは話を戻し、この村での出来事を話し始める。
「とりあえず、この村で何かあったのか、詳しく教えていただけないだろうか?」
「いいでしょう。私も貴女と村長に訊きたいことがありますので……」
「訊きたいこと?」
アリシアが訊き返すとダークの背後からノワールがヒョコンと顔を出した。
「マスター、最初にどんなことを訊くんですか?」
「うわああぁ!? な、なんだそのドラゴンは? 人の言葉を話せるのか?」
突然顔を出し、その後に喋るノワールを見てアリシアを驚き声を上げる。ダークは肩に乗っているノワールの頭を撫でながらノワールを紹介した。
「ああ、紹介しましょう。彼はノワール、私の使い魔です」
「よろしくお願いします」
「つ、使い魔? 黒騎士が使い魔を連れているのか?」
「……まぁ、そのことも含めてお話ししますので」
そう言ってダークはアリシアと一緒に村長の家へと向かう。これが、暗黒騎士ダークと聖騎士アリシアの出会いだった。