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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第二十章~信念を抱く神格者~
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第二百九十四話  決別


 同盟を組んでほしいというジャスティスの申し出にアリシアたちは驚き、ノワールは目を鋭くする。ノワールは状況から同盟を組むことを申し出てくることを予想していたのかアリシアたちのように驚かなかった。勿論、ダークも驚かずジャスティスを見つめていた。


「同盟、ですか?」

「ええ、ダークさんや貴方の仲間の力を真の平和な世界を創るために貸してほしいんです」


 ついさっきまで深刻な話をしていたのに突然話の内容が同盟を組むということに変わり、アリシアたちは動揺を見せていた。ダークも話を聞かされた時は一瞬驚いたが、すぐに気持ちが落ち着いてジャスティスとの会話に集中する。


「……なぜ、同盟なのですか?」

「なぜ、とは?」


 ダークの言葉の意味が分からず、ジャスティスは不思議そうな顔で小首を傾げる。そんなジャスティスを見ながらダークは話を続けた。


「ジャスティスさん、貴方は先程自分の望む真の平和な世界を創るため、まずこの世界の国を傘下に置き、信用できると判断したら同盟を組むと言いました。なのになぜ私の国は傘下に置かず、いきなり同盟を組もうと言うのですか?」


 どうして監視もせずに同盟を組むのか、ダークの疑問を聞いたジャスティスは少しだけ目を細くしながらダークを見つめる。ダークの話を聞いていたアリシアたちはダークを見ながら僅かに目を見開いた。

 リーテミス共和国や大陸に存在する国々は傘下に置いてしばらく監視してから同盟を組むと言ったにもかかわらず、ジャスティスはダークの国であるビフレスト王国は監視などをせずに同盟を組もうとしている。ジャスティスのやり方が矛盾していることに気付いたダークはなぜ同盟を組もうとしているのか分からなかった。

 ジャスティスは自分を見つめるダークの顔をしばらく見ると目を閉じ、小さく笑ってから口を開いた。


「理由は簡単です。ダークさん、貴方のことが信用できるからですよ」

「……それは、私が貴方と同じギルドの所属していた仲間だからですか?」

「ええ……ですが、それだけではありません」


 目を開けたジャスティスは真面目な顔をしながらダークを見つめ、ダークもそんなジャスティスを見て小さく反応する。


「ダークさんはLMFにいた頃も傷つく人を助けたいという私の考え方を理解し、共に困っている人を助けてくれました。暗黒騎士を職業クラスに選びながらも誰かを助けたい、誰かの役に立ちたいという心を持っている。私はLMFにいた頃からダークさんのことを心優しい人だと感じていました」

「買いかぶり過ぎですよ。私はジャスティスさんが思っているほど立派な人間じゃありません」

「いいえ、そんなことはありません。少なくとも私はそう思っています」


 過大評価だと語るダークを見ながらジャスティスは笑みを浮かべる。その表情からは本当にダークのことを立派な人間だと思っていることが伝わってきた。ダークは自分を良く思うジャスティスを見て心の中で複雑な気分になる。


「誰も傷つかず、争いの無い平和な世界を創るにはダークさんのように心優しく、自分の力を正しいことに使える存在が必要なのです」

「自分の力を正しいこと、ですか」


 ダークはジャスティスの言葉を聞いて何かを感じ取ったような口調で呟き、ジャスティスは笑みを浮かべながらダークを見て頷く。

 黙って話を聞いていたアリシアたちはダークがジャスティスの誘いに応じるのか、少し複雑そうな表情で見ている。真の平和な世界を創るためとは言え、傘下に入ることを拒んで国を攻撃する者に協力してよいのだろうか、アリシアたちはそう思いながらダークを見ていた。


「ダークさん、改めてお願いします。私と同盟を組み、この世界を真の平和な世界にする手助けをしてくれませんか?」


 ジャスティスはダークを見つめながら力を貸してくれるようもう一度頼む。ジャスティスの隣で話を聞いていたハナエもダークが力を貸してくれればジャスティスの理想は確実なものになると感じており、心の中で協力してくれることを願っていた。

 ダークは考えているのか、小さく俯きながら黙り込む。ジャスティスやアリシアたちはダークを見ながら返事をするのを待っていた。そして、俯いていたダークは顔を上げ、ジャスティスの顔を見つめる。


「……ジャスティスさん、貴方の考えは分かりました。自分のような悲しむ者を出さないために争いの無い平和な世界を創ろうとする考えは私も立派だと思います」

「それじゃあ……」


 ジャスティスはダークが賛成してくれると思い、席を立って体を乗り出す。


「ですが、お断りします」


 ダークは目を赤く光らせながらジャスティスの頼みを断る。それを聞いたアリシアたちは驚きの表情を浮かべてダークを見ていた。

 ジャスティスはダークの予想外の返事の驚いたのか僅かに目を見開いている。ハナエやジャスティスの後ろで控えていた三体のモンスターもダークを見ながら驚いていた。


「……断る、私に協力してはいただけないと言うことですか?」

「ええ、申し訳ありませんが……」


 ダークの答えを聞いたジャスティスは更に目を見開いて驚く。自分の過去を知り、誰も傷つかない平和な世界を創ると説明したのだからダークは必ず協力してくれると思っていたのにダークが断ったことにジャスティスは耳を疑った。


「……因みに、協力できない理由は何なのですか?」


 平和な世界を創るのに協力できない理由を尋ねると、ダークはジャスティスと同じように被っていたフルフェイスの兜を外して机の上に置く。金色の短髪をした美青年の顔が兜の下から現れ、ジャスティスの顔を見つめる。

 ジャスティスはLMFの世界にいた頃に何度もダークの顔を見ているため、ダークの顔を見ても驚いたりはせず黙って見つめている。ダークは目を僅かに鋭くしてジャスティスを見ながらゆっくりと口を開いた。


「理由は二つあります。一つは平和な世界を創ることを目的としているのに傘下に入らなかったリーテミスを攻撃したことです。平和を願っているのに他国を襲撃するというやり方は平和を作るという考え方と矛盾しています」

「それは先程も説明したはずです。誰も傷つかない真の平和な世界を創るため、私は最後に罪を犯すと」


 そう言うと、ジャスティスは自分の胸にそっと手を当て目を閉じる。


「平和を築くため、傘下に入ることをを拒んだ国に宣戦布告をし、勝利して強制的に傘下に入れて監視する。そして全ての国が傘下に入った後、私は改めて全ての国が真の平和に向けて歩んでいくのかを見守っていくつもりです」

「しかし、傘下に入れるためにその国の住民たちを殺め、傷つけてしまえばその国の住民たちはジャスティスさんたちに少なからず怒りや憎しみを抱くでしょう。そんな気持ちを持つ者たちが貴方の望む真の平和な世界を創ることに協力するとは思えません。傘下に入ることを強制すれば、ジャスティスさんの理想は更に遠のいてしまうのではないですか?」

「勿論、それは分かっています。半強制的に傘下に入れる以上、私が憎しみの対象になることは間違いありません。ですが、それでも私は彼らがいつか私の理想を理解してくれると信じ、時間を掛けて真の平和な世界を創るつもりです」


 自分のやり方が間違っていること、大勢から憎まれることを分かっていても考えを変えようとしないジャスティスをダークは目を鋭くして見ている。ジャスティスの意志の強さは見上げたものだが、やはりダークはジャスティスのやり方は間違っていると思っていた。


「……貴方に協力できない理由はもう一つあります。貴方がこの世界の形を強引に変えようとしているからです」

「強引に変える?」


 ダークの言葉の意味が分からず、ジャスティスは不思議そうな顔で訊き返す。ダークはジャスティスを見つめながら机を指で軽く叩く。


「この世界にはこの世界の秩序があります。いくら平和な世界を創るためとは言え、その秩序を無理に変えてしまうとこの世界そのものが崩壊しかねません。そうなればこの世界の住人は生きていくことができなくなってしまいます」


 下手に世界を創り変えれば世界そのものが壊れてしまう、今の世界の秩序を変えてはならないとダークは自分の考えをジャスティスに伝える。アリシアたちもダークの言うとおり、世界のバランスが壊れてしまうと思ったのか、ジャスティスを見ながら目を鋭くしていた。


「世界を変える資格なんて誰にもありません。増してや私たちはこの世界とは別の世界から来た存在です。この世界の住人以上に世界を変える資格は無い」

「……確かに私たちは別の世界の住人です。ですが、人々の平和や幸せを望んではいけないという訳ではありません。私は人々が笑って過ごせるよう、争いなどをしなくて済むよう、この世界を変えようとしているんです」


 誰も傷つく事が無く、苦しむことのない世界を創ろうとすることに反対するダークにジャスティスは平和な世界が創ることが大勢の人々のためになることを伝える。ジャスティスの隣ではハナエがジャスティスの考え方は正しいと言いたそうに真剣な表情を浮かべていた。


「真の平和な世界には争いは勿論、不満、貧困、虐め、悩み、差別などは無く、ただ純粋に生きる喜びを感じることができるんです。不満などが無ければ、争いも起こらず、人々が傷つき、悲しむこともありません。そう思いませんか?」

「確かに争いが無ければ人は傷つきません。しかし、人間はぶつかり合い、争いや失敗から自分たちの間違いを学び、成長する生き物です。世界から争いなどが消えてもそれは人間の世界とは言えません」


 なぜ人間が争いを起こし、間違いを犯すのか、ダークは自分が知る知識を語り、ジャスティスはそんなダークを黙って見つめながら話を聞いている。

 アリシアたちもダークが珍しく真面目なことを話す姿を見て少し驚いたような顔をしている。ノワールだけはダークの考えを初めから知っていたのか表情を変えることなくジャスティスを見ていた。


「人間は悩みなど抱え、他人と争うことで強くなっていく存在です。争いの無い世界で生きても人々は強くなれず、成長もしません。この世界では争いや悩みを抱えて生きていくことが当たり前のことなんです。それを勝手に消して世界を創り変えるなんてこと、あってはいけません。そして、それは私たちがいた世界でも同じことです」


 現実リアルの世界でも争いなどがあるのは当たり前、ダークのその言葉を聞き、ジャスティスは僅かに目元を動かす。現実リアルの世界で辛い思いをしたジャスティスにとって、先程のダークの言葉は残酷な言葉と言えた。


「私も、この世界に転移してビフレスト王国という新たな国家を作り、世界のバランスを僅かですが変えてしまいました。ですが、私は大陸にある国家をビフレストの傘下に置こうともしませんし、この世界そのものを変えようともしません。私はこの世界の秩序に従い、この世界の住人として生きていく道を選びました」

「……それが、私の目的に協力できないもう一つの理由ですか?」

「ハイ」


 ジャスティスの確認するような問いにダークは自信に満ちた口調で答える。ノワールやアリシアたちはダークの返事を聞くと小さく笑みを浮かべた。ダークが自分たちの世界の秩序を護ろうと考えてくれたことが嬉しかったのだろう。

 ダークの答えを聞いたジャスティスは目を閉じて黙り込み、待機している三体のモンスターは主人に考えを間違っていると語ったダークを鋭い目で見ている。ハナエもジャスティスの戦友であるダークを鋭い目で見つめていた。その表情には最初に挨拶した時のような穏やかさは感じられず、ダークに対する不満だけが感じられる。

 ハナエたちがダークを睨む中、ジャスティスはゆっくりと目を開け、ダークを真剣な表情で見つめる。ダークもそんなジャスティスを同じようにジッと見つめた。


「……ダークさんの答えは分かりました。正直残念です。ダークさんに私の理想を理解してもらえなかったことは……」

「私もですよ。ジャスティスさんが罪もないこの世界の人々を傷つけるような行動を執ろうとしているとは……どうやら、俺の憧れていたジャスティスさんはギルドに顔を出さなくなった二年前にいなくなったようです」

「フッ、ダークさん、貴方は誤解していますよ。私は貴方と出会う前からこういう男だったんです」


 自分のことを良く思いすぎている、ジャスティスは机の上に置かれてある自分のフルフェイスの兜を被りながら語る。

 ダークも自分の兜を残念そうな顔をしながら被った。ダークは兜を被りながらジャスティスが語った言葉を心の中で否定する。初めて出会った時のジャスティスは本当に素晴らしい存在だった、今のジャスティスはあの時のジャスティスとは明らかに違う。ダークはそう思いながらジャスティスを見つめた。

 兜を被るとジャスティスは立ったままダークを見つめ、ダークもジャスティスを見ながらゆっくりと立ち上がる。二人の周りの空気は再びピリピリし始め、それを感じ取ったアリシアたちは表情を僅かに鋭くした。


「さて、私に協力してくれないとして、ダークさんは今後どうするつもりですか?」

「……私はこの世界が気に入っています。ですから、この世界を強引に創り変えようとするジャスティスをこのまま放っておくつもりはありません」

「それはつまり、私に敵対すると言うことですね?」

「……ええ」


 目を薄っすらと赤く光らせながらダークは軽く頷く。ジャスティスも頷くダークを見て薄っすらと目を青く光らせた。


「そうですか……では、私も今此処でダークさんに宣戦布告をします」

「これで、私たちはもう仲間ではなくなりましたね」

「ええ、残念です」


 お互いに何処か寂しそうな口調で語りながら、ダークとジャスティスは目の前に立つ嘗ての戦友を見つめる。二人の仲間たちも敵となった者たちを鋭い目でジッと睨んでいた。


「それでどうします? 今すぐに戦いを始めますか?」


 ダークが足の位置を少しだけずらして戦いを始めるか問うと、ジャスティスは軽く首を横に振った。


「いいえ、お互い全力で戦えるよう、拠点に戻ってしっかりと準備を整えましょう。戦いはその後です」

「フッ、そうしてくれると助かります。正直、今の状態ではジャスティスさんに勝つ自信はありませんから……」


 小さく笑いながらダークの言葉にアリシアたちは思わず視線をダークに向ける。ジャスティスがダークと同じくらいの強さを持っていることは知っているが、ダークがハッキリと勝つ自信が無いと言うとは思っていなかったようだ。

 ダークの反応を見たジャスティスもおかしいのか小さく笑い出す。ダークとジャスティスはまるでこれから起こる戦いを遊びか何かのように考えており、二人はそれを楽しんでいるように見えた。


「私も一度聖都に戻って色々と準備をしたいと思っていましたから丁度いいです」

「聖都?」


 ジャスティスの言葉にダークは反応し、アリシアたち視線をジャスティスに向ける。今のジャスティスの言葉からダークたちはとんでもない現状を想像していた。


「……ジャスティスさん、まさか既にアドヴァリア聖王国を傘下に入れているんですか?」

「ええ、そのとおりです」


 ダークはジャスティスの返事を聞いて若干驚いたような反応を見せ、アリシアたちも目を見開いて驚く。アドヴァリア聖王国がジャスティスの存在に気付いているかもしれないと予想はしていたが、既に傘下に入っているとはダークたちも思っていなかったらしい。

 しかし、アドヴァリア聖王国が傘下に入っているのなら今回の会談場所がアドヴァリア聖王国の領内になっているのも納得ができた。


「いったい何時アドヴァリアを傘下に入れたんですか?」

「ほんの二ヶ月前ですよ」


 知られても困るようなことではないのか、ジャスティスはダークの質問に素直に答える。


「二ヶ月前、私はアドヴァリアに傘下に入るよう使者を送りました。ですが、アドヴァリアの聖王、タルタニス・メラクリスはそれを拒み、仕方なく私はアドヴァリアに宣戦布告しました」


 リーテミス共和国と同じようにアドヴァリア聖王国にも傘下に入るよう要求したことをジャスティスは細かく説明し始め、ダークたちはそれを黙って聞いていた。


「宣戦布告した直後、私は権天騎士を始め、多くのモンスターたちにアドヴァリア領内にいる聖王国軍を攻撃させました。傘下に入った後、国としてすぐに活動できるよう、町や村には一切攻撃せず、各拠点の外にいる敵だけを攻撃し、少しずつ領土を制圧していきました」


 ダークたちはジャスティスがアドヴァリア聖王国領を順調に制圧していったというのを聞き、アドヴァリア聖王国もリーテミス共和国と同じで返り討ちにすることも迎撃することもできなかったと知る。そして、ジャスティスが保有する戦力はかなり強力なものだと再認識するのだった。


「ところが、アドヴァリア領の半分を制圧した頃、突如アドヴァリアが降伏し、傘下に入ったんです」

「降伏?」


 戦いの結末を聞いてダークは意外に思った。リーテミス共和国のように徹底抗戦の道を選ぶと思っていたの、アドヴァリア聖王国が降伏したと知って少し驚いていた。

 リーテミス共和国とは違い、アドヴァリア聖王国は圧倒的な力を持つジャスティスの軍と戦い続けるのは愚行だと感じ、潔く降伏したのだろうとダークたちは思った。だが、ジャスティスの口からは意外な真実が語られる。


「あとから聞いた話によると、聖王タルタニスは私たちに対して最後まで戦うと考えていたそうです。しかし、重役である貴族たちは抵抗するよりも優れた力を持つ私の傘下に入るべきだと考えて。タルタニスに降伏を勧めていたそうです」

「……貴族たちは聖王よりもジャスティスさんに従う方が得策だと考えていたと言うことですか」

「恐らく、そうでしょうね……勿論、聖王は貴族たちの考えに反対したそうです。聖王と貴族たちは口論したそうですが、結果、貴族たちは自分たちの立場とアドヴァリアの未来を優先して謀反を起こしました」

「裏切り、ですか……」


 貴族たちの行動に気分を悪くしたのか、ダークは僅かに不機嫌そうな声を出す。過去に何度も似たような行動を執った者と遭遇し、その時のことを思い出してダークは気分を悪くしたようだ。

 ダークの後ろで黙って話を聞いていたファウも不機嫌そうな顔をしている。彼女も過去に帝国に裏切られており、その時のことを思い出したようだ。

 ジャスティスは不機嫌そうなダークを気にすることなく、アドヴァリア聖王国で何が起きたのか話し続けた。


「謀反を起こした貴族たちは大勢の兵士たちを従え、聖王を捕縛しようとしました。アドヴァリアの兵士たちも戦いに勝てないと判断したのか、貴族たちに従い聖王を裏切りました。ただ、精鋭である神光騎士団だけは最後まで聖王に従い、謀反を起こした貴族や兵士たちに抵抗したそうです。ですが、私たちと貴族たちの両方を相手にするという状況から、抵抗も空しく聖王とその家族、彼を慕う貴族のブリダント・ダーズ、神光騎士団に所属する大勢の団員が捕らえられました」

「……その後、聖王たちはどうなったんですか?」


 戦いが終わった後、タルタニスたちはどうなったのかダークが尋ねると、ジャスティスは腕を組みながら軽く上を向いた。


「国や国民よりも聖王としての誇りと立場を優先した男、と嘘の汚名を着せられて裏切った貴族たちに処刑されました」

「うわ、ひっど……」


 黙って話を聞いていたレジーナは貴族たちの行動に引き、嫌そうな顔をしながら呟く。アリシアやジェイクたちも同じような表情を浮かべながらジャスティスの話を聞いていた。

 今まで忠誠を誓っていたのに立場が危うくなった途端に裏切り、更に汚名を着せて仕えていた王を処刑するという外道な貴族たちにアリシアたちはより気分を悪くする。勿論、ダークとノワールも同じ気持ちだった。


「その後、貴族たちはアドヴァリアの全てを自由にしても構わないと言い、私の傘下に入ったのです。国民たちも裏切った貴族たちの嘘を信じ、アドヴァリアが私の傘下に入ることを受け入れました」

「……ジャスティスさんはそんな貴族たちを仲間として受け入れたんですか?」


 真の平和な世界を創るために行動しているのに、状況次第で裏切る貴族を仲間にしたジャスティスの行動に納得できないダークは問いかける。するとジャスティスは上げていた顔を下ろしてダークの方を向く。


「どんな人間であろうと、利用できるのであれば仲間として迎え入れます。ただ、相手が相手ですからね。私も完全に信用せずに監視するつもりです」


 例え信用できない存在でも自分の目的の役に立つのであれば仲間にすると言うジャスティスを見ながらダークは低い声を出す。ダークは仲間にしても完全に信用しないと聞き、ジャスティスが軽い気持ちで判断した訳ではないのだと理解した。


「現在はアドヴァリアの各町で私が望む真の平和な世界を創るために働いています。信用できると判断したら、それなりの地位を与えるつもりです。因みにリーテミスを襲撃した自動人形オートマタたちの指揮を執っていたのもアドヴァリアの貴族の一人です」

「リュクドールですか……」


 リーテミス共和国で遭遇した自動人形オートマタの司令官である貴族風の男がアドヴァリア聖王国の貴族だと知ってダークは意外に思う。なぜジャスティスは信用できない貴族に自動人形オートマタたちの司令官を任せたのか、ダークは理解できなかった。


(リュクドールが任せてほしいと頼んだのか、それともジャスティスさんが仕方なく任せたのか……まぁ何であれ、ジャスティスさんには一軍の司令官を任せられるほど信用できる人間の協力者はいないってことになるな。もしいるんだったら信用できない貴族に任せたりなんかしねぇだろうし……)


 ジャスティスには異世界の人間で信用できるほどの存在はいないとダークは考え、それが今後のジャスティスとの戦いに役に立つかもしれないと考えた。


「とにかく、私には召喚したモンスターだけでなく、アドヴァリアの軍もいるため、ダークさんの軍隊とも十分互角に戦うことができます。油断しない方がいいですよ?」

「ええ、肝に銘じておきますよ」


 これから起きる戦いは決してダークの優勢には進まない、ジャスティスの警告にダークは頷きながら返事をした。アリシアたちもLMFプレイヤーとその配下との戦いはもう避けられない、そう感じながら戦う覚悟を決める。

 一通り話が終わると、ダークはテントを出るためにゆっくりとジャスティスやハナエたちに背を向けて出入口へと歩き出す。その後ろ姿をジャスティスは見つめていた。


「……ダークさん、最後にもう一度訊きますが、私に協力してくれませんか?」

「……気持ちは変わりません」

「そうですか……」


 もしかしたらダークが心変わりをしてくれるのでは、そう期待していたジャスティスはダークの答えを聞いて残念そうな声を出す。ダークも心の中でジャスティスが考え方を変えてくれるのではと願っていたが、気持ちが変わりないことを知って残念に思う。

 ダークはテントの出入口前までやって来ると立ち止まり、前を向いたままジャスティスに背を向ける。


「次は戦場で会うことになりますね?」

「ええ、その時はお互い悔いが残らないよう、全力で戦いましょう」


 ジャスティスの返事を聞いたダークは振り返ることなくテントから出ていき、アリシアたちもその後を追うようにテントを出る。これがダークとジャスティスの友人としての最後の会話だった。

 ダークたちがテントから出ていくとジャスティスはゆっくりと椅子に座り、疲れを吐き出すかのように軽く息を吐く。ハナエは鋭い目でテントの出入口を見ており、後ろの控えていた三体のモンスターもハナエと同じように出入口を見ている。


「……よろしかったのですか、ジャスティス様?」


 ジャスティスの後ろに控えていた天使族モンスターがチラッとジャスティスの方を見ながら声を掛ける。声は三十代後半ぐらいの低めの声をしているため、天使族モンスターの性別は男のようだ。


「構わない。私も彼と戦うことは覚悟していたし、戦うのなら全力の彼と戦いたい。此処で戦いを始めるのや野暮と言うべきだ」

「だから止めることなく、そのまま帰したのですね」


 天使族モンスターの確認にジャスティスは答えず無言で頷く。嘗ての友と戦う覚悟ができており、フェアな戦いを望むダークの心の強さと広さに天使族モンスターは感心する。


「しっかし、ジャスティス様のお考えを理解できないとは、あの暗黒騎士、本当にジャスティス様の友人なのですか?」


 鬼の顔をしたモンスターは呆れたような顔をしながら腕を組み、天使族モンスターや美女のモンスターはチラッと視線を鬼の顔をしたモンスターに向ける。どうやら他の二体も同じ気持ちのようだ。


「ダークさんは間違いなく私の友人だ。ただ、長い間会っていなかったため、考え方が以前と変わってしまったようだ」

「たった二年ジャスティス様に会わなくなったからと言って、ジャスティス様の考えを理解できなくなるとは、奴もその程度の男と言うわけかよ」

「口を慎みなさい、剛鬼」


 ハナエは鬼の顔を持つモンスターを剛鬼と呼びながら鋭い目で睨み付ける。例えジャスティスの考え方を理解できなくても、ダークはジャスティスにとっては友人だったため、そのダークを侮辱するような発言は許せないのだろう。


「へっ、失礼しました」


 剛鬼と呼ばれたモンスターは鼻で笑いながら軽く謝罪し、それを見たハナエは不満そうな顔で剛鬼を見つめていた。


「……それで、これからどうなさるおつもりですか?」


 ハナエと剛鬼がお互いの顔を見ている中、美女のモンスターはジャスティスに今後の方針について尋ねる。美女のモンスターの言葉を聞いて天使族モンスター、ハナエと剛鬼も視線をジャスティスに向けた。


「勿論、すぐに聖都に戻って貴族や騎士たちと作戦を練る。ダークさんのことだ、本拠地に戻ったらすぐに戦いの準備をするため、仲間を集めて会議を行うはずだ。こちらも急いで会議を行う」

「では、聖都に戻り次第、重役たちを全員集めればよろしいですね?」

「ああ、頼む」


 指示を受けた美女のモンスターは目をする鋭くしながら、お任せください、と言うように小さく頷いた。


「少しでも早く動けるよう、早急に作業を終わらせる。剛鬼、お前は各拠点に駐留している聖王国軍の幹部を聖都に集めろ」

「了解」

「ミカエル、お前は本部に戻ってモンスター部隊の編成に取り掛かれ」

「ハッ」

「スノウ、お前は先程言ったように聖都にいる貴族たちを集めろ。その後は冒険者ギルドに戦いが始まることを伝えるんだ」

「承知しました」


 ジャスティスの指示を受け、剛鬼、ミカエルと呼ばれる天使族モンスター、スノウと呼ばれる美女のモンスターはそれぞれ返事をする。ジェスティスから直接重要な命令を与えられているところから、この三体の地位はかなり高いと考えて間違いないようだ。

 三体に指示を出したジャスティスはハナエの方を向き、目を薄っすらと青く光らせた。


「ハナエ、例のやつはどうだった?」

「ハイ、上手くいっていました」


 真剣な表情を浮かべながらハナエは懐から丸い水色の水晶を取り出してジャスティスに差し出す。ジャスティスは水晶を受け取ると顔の前に持ってきて水晶を覗き込んだ。


「よし、すぐに中身を確認して詳しい内容を羊皮紙に書き写せ」

「ハイ」


 ハナエが返事をするとジャスティスは水晶をハナエに渡し、ハナエはテントの奥へと移動した。ジャスティスはテントの出入口の方を見ながら目を青く光らせる。


「ダークさん、戦いは既に始まっているんですよ」


 僅かに低い声を出しながらジャスティスは意味深な言葉を口にした。


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