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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十九章~古代文明の戦闘人形~
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第二百八十九話  動き出した未知の存在


 拠点の中心にある白い大きな塊とテントの前では十体のOM01と五体のOM02がおり、空中では六体のOM03がテントを護るために待機している。OM01たちの後ろではリュクドールが不安そうな顔で周囲を見回していた。

 敵の襲撃を受けてから既に二時間近く経過しており、拠点のあちこちで戦闘の騒音が聞こえる。しかもその騒音は徐々に大きくなり、リュクドールは自分のいる場所に敵が近づいて来ていると感じて自動人形オートマタたちを護衛に就かせたのだ。しかし、それでも不安は消えず、リュクドールは焦りを表情に出していた。


「お、おい、先程新たに自動人形オートマタを前線に送ったのに騒音がより大きくなってきていないか?」


 リュクドールは不安そうな顔で白い塊に尋ねると、白い塊は紫色のラインを薄っすらと光らせた。


「……ドウヤラ、コチラガ予想シテイタ以上ニ敵ノ進攻力ガ高イヨウダ。先程召喚シタ自動人形オートマタタチデハ戦況ヲ変エルコトハデキナカッタラシイ」

「そ、そんな馬鹿な……」


 敵が人間の英雄級の実力を持つ自動人形オートマタでも止められないほど手強いことを知ったリュクドールはより顔色を悪くする。

 最初は本拠点に敵が攻め込んで来たと聞かされて驚いたが、自動人形オートマタの大部隊がいれば何の問題も無く返り討ちにできると思っていたが、返り討ちにするどころか逆に押されているという現状にリュクドールは衝撃を受けて愕然としていた。

 リュクドールは予想外の出来事が連続で起きたためか頭を抱えながら俯く。そんなリュクドールに白い塊は低めの機械声で語り掛ける。


「リュクドール殿、ソコニイル自動人形オートマタダケデハ少ナスギル。新タニ自動人形オートマタヲ呼ビ出シタ方ガイイト思ウゾ?」

「何?」


 白い塊の言葉にリュクドールは目を見開きながら顔を上げる。先程の白い塊の言葉はいずれ此処にも敵が攻め込んで来るからもう少し護衛の数を多くした方がいいと言っているように聞こえた。


「まさか、敵がこの中心部にまで攻め込んで来るとでもいうのか?」

「アクマデモ可能性ダガ、十分アリ得ル。念ニハ念ヲ入レテオイタ方ガイイト私ハ思ッテイル」

「ば、馬鹿な! いくら敵に押されているとはいえ、敵が自動人形オートマタたちを倒して此処まで攻め込んでくるなどあり得ない」


 自分のいる所までは絶対に敵は来ない、リュクドールはそう確信しているのか白い塊の予想を強く否定する。

 敵に本拠点を襲撃され、拠点内に突入されているという現状を理解していながら、自分がいる拠点の中心にまでは敵はやって来ないと考えるリュクドールに白い塊は呆れ果てる。どうしてそこまで都合のいい考え方ができるのか、白い塊は理解できなかった。


「リュクドール殿、先程モ話シタヨウニ敵はコチラノ予想以上ノ進攻力ヲ持ッテイル。デアレバ、我々ガイルコノ中心部マデ辿リ着イテモオカシクナイ」

「し、しかし……」

「モウ一度言オウ、死ニタクナケレバ急イデ近クニイル自動人形オートマタヲ搔キ集メ、貴殿ノ護衛ヲ……」


 白い塊が護衛を増やすようリュクドールに話していると、東側から爆発音が聞こえ、リュクドールはフッと爆発音が聞こえた方を向く。

 リュクドールたちがいる場所から200mほど離れた所から砂煙が上がっており、その近くにはOM02とOM03の残骸が転がっている。残骸を見たリュクドールは思わず後ろに下がり、護衛の自動人形オートマタたちは無表情のまま警戒態勢に入った。


「あ、あれは……」

「……ドウヤラ遅カッタヨウダ」


 面倒そうな口調で語りながら白い塊は紫のラインを光らせる。リュクドールは白い塊の言ったことの意味が分からず、驚きの表情を浮かべながら白い塊の方を向いた。

 リュクドールが白い塊に視線を向けていると砂煙の中からゆっくりとダークが姿も見せる。それに続いてアリシア、レジーナが姿を見せ、その後ろには二十数人のリーテミス兵と青銅騎士たちの姿があった。そしてダークたちの頭上ではノワールと六人の飛行可能なリーテミス兵が飛んでいた。

 先頭のダークはアリシアたちをその場に待機させ、ゆっくりとリュクドールと自動人形オートマタたちの方へ歩き出す。近づいて来るダークに気付いたリュクドールは怯えた表情を浮かべながらダークを見ており、自動人形オートマタは無表情のまま構えていた。


「この拠点の司令官は誰だ?」


 ダークは声に少し力を入れながら尋ねると、リュクドールはビクッと反応し、逃げるように白い塊の近くまで移動する。それに気付いたダークは貴族風の男を見て薄っすらと目を赤く光らせえた。


「そこの貴族のような男、お前が司令官か?」


 ダークが声を掛けるとリュクドールは目を見開き、微量の汗を掻きながらダークを見つめる。


「な、何だいきなり現れて……そんなこと、貴様に教えるはずがないだろう!」


 声を震わせながらリュクドールは強がるような素振りを見せる。ダークは貴族風の男の発言と様子からあの男が司令官である可能性が高いと感じた。


「そ、そういう貴様こそ何者だ!」


 リュクドールはダークを指差しながら声を上げる。するとダークは大剣を肩に担ぎながらリュクドールを見つめた。


「私はビフレスト王国の王、ダーク・ビフレスト。リーテミス共和国からの要請を受け、共に自動人形オートマタたちと戦っている」

「リ、リーテミス共和国から要請を受けた? 馬鹿な、この国の亜人たちは他国との交流を一切持たないと聞いている。その国が他国の王に要請するなどあり得ん!」

「しかし、現にこうして私と私の軍はリーテミス共和国の兵士たちと共闘し、この拠点に攻め込んでいるぞ?」


 大荒野に辿り着き、自動人形オートマタを倒しながら拠点内に侵入した現状をリュクドールに伝える。リュクドールは現実がまだ受け入れられないのか表情を歪ませながら黙り込んだ。

 リュクドールが無言になると、ダークは大剣の切っ先をリュクドールに向ける。切っ先を向けられたリュクドールは目を大きく見開いて驚く。


「さて、もう一度確認するが、お前が司令官か?」

「……ち、違う! 私は――」

「見ットモナイ発言ハヨシタ方ガイイゾ、リュクドール殿」


 白い塊がリュクドールの発言を止めるかのように会話に割り込み、リュクドールは白い塊の方を向く。ダークやアリシアたちは突然喋った白い塊を見て少し驚いた反応を見せていた。


「貴殿モ一軍ヲ託サレタ司令官ナラ潔ク認メルベキダ」

「な、何を余計なことを!」


 自分を司令官だとダークたちに教えてしまった白い塊を見ながらリュクドールは慌て、白い塊の発言を聞いたダークは貴族風の男が司令官で間違いないと確信した。

 ダークはリュクドールが司令官だと分かると大剣をゆっくりと下ろして目を赤く光らせる。そんなダークを見たリュクドールは思わず寒気を走らせた。


「司令官でありながら、敵を前にするとそれを隠すか、随分とだらしない司令官だな。なぜこのような男が司令官を務めているのか不思議で仕方がない」

「クウゥ……」


 言い返すことができないリュクドールは奥歯を噛みしめて悔しがった。


「……まあ、それはさておき、私はそっちの白い大きな物体の方が気になっている」


 ダークはチラッとリュクドールの近くにある白い塊に視線を向ける。目の前にある白い塊は明らかに隣にあるテントや拠点のバリケード、柵と比べて素材が違うため、ダークは司令官であるリュクドール以上に興味を抱いていた。


「そこの白い物体、私の言葉が分かるか?」

「……無論ダ」


 ダークの問いに白い塊は機械声で返事をする。ダークと会話をする白い塊を見たアリシアとレジーナは目を見開き、空中のノワールは目を鋭くして白い塊を見ていた。

 白い塊が受け答えができると分かったダークがとりあえずそのまま会話を続けてみることにした。


「お前の体、自動人形オートマタと外見が似ているが、お前も自動人形オートマタなのか?」

「……ナカナカ鋭イナ。確カニ私ト彼女タチハ同ジ素材ダガ、私ハ自動人形オートマタデハナイ」

「ほぉ? アッサリと認めたか」


 てっきりしらばくれると思っていたが、素直に認めた白い塊を見てダークは意外に思う。


「デハ、コチラモ質問サセテモラオウ……貴公ハ何者ダ?」


 白い塊の質問にダークはフルフェイス兜の下で目を鋭くし、アリシア、ノワール、レジーナもダークと同じように目を鋭くして白い塊を睨んだ。

 リュクドールやダークたちに同行しているリーテミス兵たちは話の内容について行けず、不思議に思いながらダークたちの会話を黙って聞いていた。


自動人形オートマタハ私ト私ノ主ガ以前イタ場所ニシカ存在シナイモンスターダ。シカシ貴公ハ先程、ハッキリト彼女タチヲ自動人形オートマタト呼ンダ。自動人形オートマタヲ知ッテイル貴公ハイッタイ何者ナノダ?」


 白い塊の問いにダークは小さく笑う。ダークは白い塊の話した内容から、目の前の白い塊が自動人形オートマタと同じLMFの存在で間違いないと考え、同時に白い塊が自動人形オートマタを召喚できる未知のモンスターであるかもしれないと感じた。


「貴公なら既に気付いているのではないのか?」

「……」


 からかうような口調のダークに対し、白い塊は無言のままだった。白い塊はダークが自分に鎌をかけようとしていると気付いらしく、情報を教えないために敢えて黙り込んだ。

 ダークは白い塊が問いに答えないことから、自分の狙いに気付いたのだと感じて周囲に聞こえないくらい小さく舌打ちをする。このままでは話が進まず、情報も得られないと感じたダークは仕方なく自分から白状することにした。


「……私も貴公と同じ存在なのだよ」


 リーテミス兵たちやリュクドールに本当のことを知られないよう、ダークは遠回しに自分がLMFの世界から来たと白い塊に伝える。アリシアやノワールはダークの発言を聞いて少し驚いたような反応をするが、ハッキリとLMFの世界から来たと話してはいないのですぐに表情を戻して白い塊の方を向く。

 白い塊はダークの答えを聞くとしばらく黙り込み、やがて体の紫色のラインを強く光らせる。


「ソウカ、ヤハリ貴公モアノ方ト同ジ存在カ……貴公ガリーテミス共和国ニ力ヲ貸シテイレバ、自動人形オートマタタチガ倒サレテモ不思議デハナイナ」


 これまで自動人形オートマタが倒されたことやリーテミス軍の進攻力が増した理由を知った白い塊は納得した口調で呟く。そして、ダークも白い塊がLMFプレイヤーに関わりがある存在だとハッキリと分かり小さく笑った。


「お、おい、一体何の話を……」

「リュクドール殿、テントノ中ニ移動シロ。少シ派手ナ戦イニナリソウダ」

「え? ええ?」

「早クシロ」


 白い塊が低い声を出すとリュクドールは目を見開き、慌ててテントの中に入っていく。リュクドールがテントに入ると白い塊は再び紫色のラインを光らせた。


自動人形オートマタタチヨ、ダーク・ビフレストト共ニヤッテ来タ兵士タチノ相手ヲシロ。殺シテモ構ワン」


 リュクドールの護衛に就いていた自動人形オートマタたちは白い塊の指示を聞くとすぐに動き出す。OM01たちはダークの後ろにいるアリシア、ノワール、レジーナ、そしてリーテミス兵たちと青銅騎士たちに向かって行き、剣で攻撃を仕掛ける。OM02も魔法で攻撃し始めた。空中のOM03たちも空を飛んでいるリーテミス兵たちを攻撃する。

 ダークはアリシアたちを攻撃する自動人形オートマタをしばらく見た後、視線を白い塊に向ける。白い塊は紫色のラインを光らせ続けていた。


「なぜ自動人形オートマタに私を攻撃させない?」

「簡単ナコトダ。貴公ノ相手ハ私ガスルカラダ」


 そう告げた瞬間、白い塊は紫色のラインを強く光らせながら振動を始め、ダークは大剣を構えて警戒する。すると、白い塊は振動しながら形を変え始めた。

 白い塊の左右と両斜め後ろに太い脚が一本ずつ、合計四本の脚が現れる。上部分からはOM02が付けているマジックポッドより少し大きめの物が四つ、四角く設置されるように飛び出した。

 更に正面部分には顔のような部位が現れ、そこに目と思われる大きな青いリニアレンズが一つ開かれる。顔のような部位の真下には横一列に並んだ四つの小さな赤いリニアレンズが出現し、白い塊は四本足の物質族モンスターへと姿を変わった。

 ダークは変形した白い塊を見て低い声を漏らす。自動人形オートマタたちと戦っているアリシアとレジーナ、リーテミス兵たちも姿を変えた白い塊を見て驚きの表情を浮かべている。だがすぐに目の前にいる自動人形オートマタに意識を戻して戦いに集中した。


「……やはりモンスターだったか」


 予想していたのか、ダークは白い物質族モンスターを見上げながら低い声で話しかけ、白い物質族モンスターはダークを見つめながら青いリニアレンズと全身の紫色のラインを光らせた。


「イカニモ、我ガ名ハエイブラムス。アノ方ガ与エテ下サッタ名ダ」


 エイブラムスと名乗るモンスターは誇らしげに主が自分に名前を付けてくれたことを語り、ダークは無言でエイブラムスを見ている。


(エイブラムス、確か現実リアルの世界に存在していた戦車と同じ名前だな……と言うことは、奴に名前を付けたのは俺と同じプレイヤーってことか?)


 名前を聞いたダークはモンスターを召喚し、名前を付けたのは自分と同じLMFプレイヤーなのかもしれないと心の中で考える。しかし、まだ情報が少ないため、確信を持つことはできなかった。


「本当ハ、リーテミス共和国ノ大統領、ヴァーリガムガ現レタ時ニ私ガ動クツモリダッタノダガ、アノ方ト同ジ存在ナラ、私ガ動クシカアルマイ」

「あの方、貴公を召喚したプレイヤーか?」

「フッ、訊カレテ素直ニ話スト思ウカ?」


 エイブラムスは挑発するように笑いながらダークに訊き返し、ダークもそんなエイブラムスを見て笑い返した。


「失礼、愚問だったな……なら、方法は一つ。貴公を倒して情報を教えてもらう」

「無理ダナ、貴公デハ私ニハ勝テナイ。仮ニ勝テタトシテモ私ハ決シテ吐カナイ」

「その時はあの司令官に訊くだけだ」


 リュクドールから情報を得ると話しながらダークは大剣を構え直す。エイブラムスはやれるものならやってみせろ、と心の中で思いながら前足を横に動かして体勢を変える。

 敵を前にしただけで動揺するリュクドールが敵の尋問を受ければ必ず情報を喋るとエイブラムスは確信しており、絶対にダークを倒してリーテミス軍に勝利すると考えていた。

 本拠点の中心でダークとエイブラムスは無言で睨み合う。ただ睨み合っているだけなのにダークとエイブラムスの周囲の空気はピリピリしており、アリシアとノワールは自動人形オートマタ戦いながらその空気の変化を感じ取っていた。


「サテ、早速戦イヲ始メヨウト思ッテイルノダガ、貴公ハドレ程ノ実力ガアルノダ?」

「それは実際に戦えば分かると思うぞ」

「フッ、確カニソウダ……デハ、ソウサセテモラオウ」


 エイブラムスが楽しそうな口調で語った直後、目である青いリニアレンズの真下にある四つの赤いリニアレンズが一斉に光り出し、そこから四つの赤い光線がダークに向かって放たれる。ダークは突然の光線に一瞬驚くが、慌てずにジャンプで光線を回避した。

 光線をかわしたダークは地面に足が付くとすぐに走り出し、真正面からエイブラムスに向かって行く。エイブラムスはダークを見ながら右足を上げ、ダークの頭上から右足を下ろして踏みつぶそうとする。しかし、ダークは素早く右へ移動して踏みつぶしをかわし、エイブラムスの目の前まで近づき、大剣を勢いよく振り落とした。

 大剣はエイブラムスの顔と思われる部位に命中するが、高い金属音が響くだけで部位には傷は付かなかった。エイブラムスが無傷だと知ったダークは少し驚いたのか僅かに低い声を漏らす。すると、エイブラムスが体を少し後ろに下げ、再び右足でダークに攻撃する。

 真横から迫ってくるエイブラムスの右足に気付いたダークは地面を強く蹴って後ろに跳び、ギリギリでエイブラムスの攻撃をかわした。態勢を立て直すために距離を取ったダークは大剣を構え直してエイブラムスの追撃を警戒する。だが、エイブラムスは攻撃してくることはなく、目を青く光らせながらダークを見ていた。


「……何ダ、アノ方ト同ジ存在ダト言ウカラドレ程ノ強者ナノカト期待シテイタガ、コノ程度ダッタトハ」


 ダークの攻撃が予想以上に弱かったことでエイブラムスはダークが弱いと思いガッカリしたような口調で語る。ダークはエイブラムスの反応を見て少し不快になるが、それは仕方のないことだった。


(俺としたことがうっかりしていた。アイツは自動人形オートマタの召喚とヴァーリガムを倒すことが役割だ。つまり、少なくともレベル85以上の強敵と言うことになる。そんな奴を相手にこの大剣でまともなダメージを与えることはできないな)


 今自分が装備している大剣ではまともに戦えないと気付いたダークは自分のミスを心の中で反省するのと同時に恥ずかしく思った。

 ダークが装備している愚者の大剣は敵を倒した時に得られる経験値を多くする代わりに装備する者のステータスを大幅に低下させる効果がある。レベル85以上、しかもLMFのモンスターを相手に弱体化した状態で勝つなどまず不可能だ。

 まともに戦えるようにするため、ダークはメニュー画面を開いて武器を変えようとする。すると、ダークがメニュー画面を開くのを見たエイブラムスは目を青く光らせた。


「敵ヲ前ニシテ装備ノ変更ヲスルトハ、意外ト大胆ダナ」


 ダークが装備を変更しようとしているのを見たエイブラムスはダークにダメージを与えるため、目の下の四つのリニアレンズを光らせて攻撃しようとする。装備を変えようとしている敵を見逃す気などエイブラムスには無かった。

 エイブラムスはダークに向けて四つの光線を放つ。ダークは迫ってくる光線に気付くと装備の変更を中断し、左へ跳んで光線をかわす。

 回避に成功したダークは大剣を右手だけで構えてエイブラムスを警戒する。エイブラムスは四本の脚を動かして体の向きをダークがいる方に変えた。


「……やはり戦闘中に装備の変更を許すはずがないか。こんなことなら中心に辿り着く直前に武器を変更しておくべきだった」


 未知のモンスターとの戦闘を予想していながら装備を変更しておかなかった自分の失敗を悔やむダークはメニュー画面を開いたまま中段構えを取る。エイブラムスは武器の変更をやめたダークを見ながら一歩ずつゆっくりとダークに向かって歩き出す。


「装備ヲ変更シヨウトシテイタト言ウコトハ、今ノ状態デハ貴公ハ私ニハ勝テナイトイウコトニナル。本当ナラユックリト戦イヲ楽シミタイノダガ、コチラモ負ケラレナイノデナ、チャンスガアル内ニ倒サセテモラウ」


 エイブラムスはダークに近づきながら再び目の下のリニアレンズを光らせて光線を撃とうとする。ダークは面倒な戦況に思わず舌打ちをした。

 ダークは装備を変更する隙を作るためにもう一度エイブラムスに攻撃を仕掛けることにした。例えダメージを与えることができなくても隙を作ることぐらいはできるだろうとダークは思っている。

 中段構えのまま、ダークは足を曲げてエイブラムスに向かって跳ぼうとする。だが、ダークが動くよりも先にエイブラムスがダークに向けて光線を放った。

 四つの赤い光線は勢いよくダークに向かって行き、ダークは光線をかわそうとする。だがその時、ダークの前に橙色の障壁が張られ、光線はダークに命中することなく止められた。


「何?」


 突然現れた障壁にエイブラムスは意外そうな声を出す。すると、ダークの右隣に右手を前に出すノワールが下り立ち、エイブラムスを睨む。どうやら先程の障壁はノワールの防御魔法によるものだったようだ。


「マスター、大丈夫ですか?」

「ああ、助かったぞ、ノワール」


 ダークが礼を言うとノワールは小さく笑みを浮かべ、再びエイブラムスの方を向き、鋭い目でエイブラムスを睨みながら前に出る。エイブラムスはダークとノワールの会話、ノワールのダークに対する態度からノワールの正体に気付いた。


「成ル程、貴公ガダーク・ビフレストノ使イ魔カ」

「……分かるんですか?」

「アノ方ノ隣ニモ貴公ト似タ方ガイラッシャルノデナ」


 エイブラムスの話を聞いたダークとノワールはあの方と言うのがLMFプレイヤーで、もう一人がそのプレイヤーの使い魔だと知る。これまで得た情報から、ダークは相手側にLMFプレイヤーとその使い魔がいること、エイブラムスのような強力なモンスターを召喚できることが分かったので、ダークは順調に情報を集められていると感じていた。

 ノワールがエイブラムスと向かい合って話をしている間、ダークはノワールの後ろに下がり、メニュー画面を素早く操作して装備している武器を変更した。普段使っている大剣は消え、ダークの右手に刃の部分が青くなっている黒い剣身をした両刃の片手剣が現れる。

 武器の変更が完了すると、ダークはメニュー画面を消してノワールの隣に戻る。


「装備は変更できましたか?」

「ああ、お前が奴の気を引いてくれたおかげでな」


 隣に立つダークの装備が変わったのを確認したノワールは嬉しそうに微笑む。

 ノワールはダークを防御魔法で護る直前まで彼とエイブラムスが戦っているのを見ており、ダークが装備を変更しようとしていることに気付いていた。だから防御魔法でダークを護った直後に前に出てエイブラムスの意識を自分に向けさせたのだ。

 エイブラムスはノワールに気を取られてダークの装備変更を阻止できなかったことを悔しく思い、体の紫色のラインを光らせた。それを見たダークはエイブラムスの感情を揺らしたのだと感じて小さく笑う。


「装備を強力な物に変更した。今度は先程のようにはいかんぞ」

「フッ、装備ヲ変更シタダケデソコマデ強気ニナルトハナ……装備ヲ変更シタクライデ私ニ勝テルト思ッテイルノカ?」


 ダークが持つ剣を見ながらエイブラムスは嘲笑うように語る。確かに武器を変更したくらいで勝てるほどLMFの強力なモンスターは甘い存在ではない。勿論、ダークもそれぐらいは十分理解していた。

 新しく装備した剣で中段構えを取り、ダークはエイブラムスの動きを警戒する。そんな中、ノワールがエイブラムスを見つめたままゆっくりと口を動かした。


「マスター、奴はOFT10と言う上級モンスターです。レベルは92で物理と魔法の防御力が高く、LMFでは自動人形オートマタが出現するイベントダンジョンのボスという設定らしいです」

「レベル92だと? ……成る程な、どおりでステータスが低下していたとはいえ、ダメージを与えられないわけだ」


 レベルが90代である上に物理防御力が高いのではダメージを与えられないのは当然だとダークは納得する。同時に自分とレベルの近い敵が相手と言うことを知って警戒心をより強くする。当然、ノワールも同じように警戒していた。


「……私ノ種族トレベルヲ見抜クトハ、ドンナ手ヲ使ッタ?」

「簡単なことですよ。此処に辿り着く直前に僕はマスターから指示を受けていたんです。『自動人形オートマタとは違うモンスターが姿を現したらすぐに賢者の瞳で情報を集めろ』とね」


 ノワールがどうやってエイブラムスの情報を手に入れたのか細かく説明し、それを聞いたエイブラムスは少し驚いたのか僅かに体を動かした。


「……成ル程、賢者ノ瞳ヲ使ッタカ。ソレナラ私ノ情報ヲ得ラレタノモ当然カ。シカシ、此処ニ来ル前カラソコマデ計算シテイタトハ、貴公ラハ思ッタ以上ニデキルヨウダナ」

「お褒めの言葉として受け取っておこう」


 ダークは剣を構えたまま低い声で返事をし、ノワールも無言で構えていつでも魔法を使える態勢に入る。するとそこへ、自動人形オートマタとの戦いを終わらせたアリシアが二人に駆け寄ってきた。


「ダーク、大丈夫か?」


 アリシアはダークの隣にやって来ると安否を確認する。ダークのことを心配していたのか、敬語は使わず普段通りの口調で話しかけてきた。


「ああ、今のところは問題無い。そっちは片付いたのか?」

「ああ、私の相手をしていた自動人形オートマタは片付けた。レジーナたちはまだ戦っているみたいだがな……」

「そうか……」

「ところで、この巨大なモンスターはいったい……」


 目の前に立つ四本足のモンスターを見上げるアリシアは驚くと同時に警戒した。薄々正体には勘付いていたが、念のためにダークに確認する。


「コイツが自動人形オートマタを召喚したモンスターだ」

「やはりそうか……」


 アリシアはフレイヤを強く握りながら警戒態勢に入る。エイブラムスは後からやって来たアリシアを見た後、視線をダークに向けた。


「マア、レベルト種族ガ分カッタトコロデ状況ニ大キナ変化ハ無イ。戦イヲ続ケルトシヨウ。折角使イ魔ガ合流シタノダ、一緒ニ掛カッテクルトイイ」

「そうだな……ではノワールとこのアリシア、三人で相手をさせてもらう」

「え?」


 ダークの言葉にアリシアは思わず声を漏らす。レベル100であるダークが一人で戦わず、自分とノワールを共に戦わせると聞いてさすがに驚いたようだ。


「ダ、ダーク、私とノワールも一緒に戦うのか?」

「そのつもりだが、戦える自信が無いのか?」

「いや、そういうわけでは……ただ、レベル100の貴方なら一人で戦っても余裕で勝てると思って……」

「……奴はレベル92だ」

「きゅ、92!?」


 エイブラムスのレベルを聞いてアリシアは驚愕しながら声を上げた。


「92って、ノワールとほぼ同じレベルじゃないか?」

「そうだ。レベル90代のモンスターの強さはプレイヤーや使い魔のレベル100と同じくらいだ。さすがの私でもレベル90代のモンスターに一人で挑んで勝つのは難しい。本気を出し、仲間と協力して戦う必要がある」

「だから、ノワールと私が一緒に?」

「ノワールは魔法で援護ができる。君は私と同じレベル100、君とノワールがいれば勝つことができるはずだ」

「しかし……」


 ダークが一人で勝つのは難しいと言う相手と戦うことに不安を感じているのか、アリシアは若干表情を暗くする。今までダークが本気を出して挑まないと勝てない敵と遭遇したことが無かったので不安を感じるのも仕方がなかった。

 アリシアの顔を見たダークかアリシアが不安を感じていることに気付き、そっと彼女の肩に手を置いた。


「心配するな、君は自分が思っている以上に強い。油断さえしなければやられるようなことはない」

「で、でも……」

「それにもしもの時は、私は君を護る」


 優しく語るダークにアリシアは目を見開き、僅かに頬を赤くする。ダークの護ると言う言葉を聞いてアリシアは不思議と不安が和らぎ、少しだけ気持ちに余裕が持てるようなった。


「……分かった。一緒に戦おう」


 アリシアが真剣な表情で共闘することを決意し、それを見たダークは無言で頷く。ノワールも二人の会話を聞いて小さく笑みを浮かべた。


「戦ウ準備ハ整ッタカ?」


 今まで黙っていたエイブラムスがダークたちに声を掛け、三人は視線をエイブラムスに向ける。


「ああ、待たせたな。私とこの二人で貴公の相手をする」

「フッ、使イ魔意外ニ人間ノ女騎士カ。私ハ何人デ挑ンデ来テモ構ワナイゾ」


 余裕を見せるエイブラムスを見つめながらダークは中段構えを取り、アリシアもフレイヤを強く握って八相の構えを取る。ノワールは後方から魔法を発動するためにダークとアリシアの後ろまで下がった。


「亜人たちを苦しめる古代文明の怪物よ、断罪の始まりだ」


 ダークは戦闘開始の合図を出すのと同時に目を赤く光らせる。


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