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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十九章~古代文明の戦闘人形~
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第二百八十八話  大荒野の進撃


 青銅騎士たちは自動人形オートマタの本拠点に向かって一斉に走り出し、自動人形オートマタたちもそれを迎え撃つために青銅騎士たちに向かって行く。どちらの戦力も声を出すことなく無言で走り、徐々に敵軍との距離は縮まっていった。そして、遂に両軍がぶつかり、戦闘が開始される。

 大荒野の中で青銅騎士たちとOM01たちの剣がぶつかり合い、静かだった大荒野に剣戟の響きが広がる。リンバーグの能力で強化された青銅騎士たちは一体ずつOM01を倒していくが、敵も負けじと青銅騎士や白銀騎士を倒していく。

 OM01の後方ではOM02が、空中ではOM03が魔法や光線で支援攻撃を仕掛け、青銅騎士たちの数を減らしていく。しかし、弓矢を装備している青銅騎士も弓矢や魔法でOM02とOM03に反撃し、OM01と戦う仲間を援護する。ヘルマリオネッターたちも魔の傀儡糸で自動人形オートマタを操り、操られていない自動人形オートマタを攻撃した。

 青銅騎士たちや自動人形オートマタの数は同じくらいで戦況は互角に思えた。しかし、敵本拠点からはまだ大勢の自動人形オートマタが現れて前線へ向かって行く。少しずつ自動人形オートマタたちの数は増えていき、徐々に青銅騎士たちが押され始める。


「……青銅騎士たちが押されている」


 望遠鏡で前線の戦況を確かめていたアリシアが僅かに低い声を出しながら呟く。ダークとノワールは無言で前線を見ており、バーミンやレジーナたちも前線の様子を見ながら少し緊迫したような表情を浮かべていた。


「どういうこと? リンバーグの力で青銅騎士たちは強化されているはずでしょう? 何で押され始めたの?」

「いくらリンバーグの力で強化されても、青銅騎士たちは元々のレベルが低いのじゃ。強化されてようやく自動人形オートマタと互角に戦えるだけの強さになった。強化されてるからと言って必ず勝つとは限らん」

「ああ、最初は数で勝っていたから押していたようだが、拠点からはゾロゾロと新しい自動人形オートマタが出てきているんだ。あれじゃあ、倒しても敵戦力が低下することはねぇ」

「それに比べてこちらは戦力に限りがある。戦い続ければやがてこちらの戦力も低下していき、やがては押されるようになってしまう」


 マティーリアとジェイクの解説を聞いたレジーナはマズくないか、と言いたそうな顔で二人を見る。アリシアとバーミンも敵の戦力が予想以上に多いことに驚き、少し焦りを見せていた。


「ダーク陛下、いかがいたしますか?」


 バーミンは焦りの表情を浮かべたままダークに尋ねる。ダークは前線の様子を黙って見ており、隣に立っているノワールは望遠鏡を下ろしてダークを見上げている。

 しばらく戦況の様子を窺っていたダークは持っている大剣を肩に担ぎ、前を向いたまま目を薄っすらと光らせた。


「このままではいずれ青銅騎士たちは全滅する。そうなる前に前線の自動人形オートマタを一掃するしかない」

「し、しかし、どうやって……」


 バーミンが不安そうな顔でダークを見つめると、ダークは視線をノワールに向けた。


「ノワール、お前の魔法で前線の自動人形オートマタたちを片付けてこい。できれば青銅騎士たちだけで前線の自動人形オートマタを片付けたかったが、予想以上に敵の数が多い。お前の魔法で敵を倒した後、敵拠点に突入する」

「分かりました」


 真剣な顔で頷いたノワールは魔法で宙に浮き、青銅騎士たちと自動人形オートマタたちが戦っている戦場へと飛んでいく。ダークはノワールが飛んでいくのを確認すると視線をアリシアたちに向ける。


「ノワールが戻ったらすぐに出撃できるよう自分が指揮する部隊に戻って準備をさせろ。ノワールならすぐに自動人形オートマタを片付けて戻ってくるはずだ。できるだけ急げ!」

「ハイ!」


 ダークの命令にアリシアは力の入った声で返事をし、レジーナたちも真剣な表情を浮かべる。アリシアたちは自分の部隊に指示を出すために走って部隊の下へ移動した。

 一人残ったダークは前線に視線を向け、青銅騎士たちと戦う大勢の自動人形オートマタを見つめる。


「最初に拠点の戦力を確認した時と比べて、明らかに自動人形オートマタの数が違う。敵はこちらを押し返せるほどの大量の自動人形オートマタを短い時間で召喚できるということか……」


 敵モンスターが予想していたよりも多くの自動人形オートマタを召喚できると知り、ダークはそのモンスターがかなり強力な存在だと感じながら自分の部隊へ戻って行った。

 前線では青銅騎士たちが自動人形オートマタたちと攻防を続けていた。最初は青銅騎士たちが数で勝っていたが、今では自動人形オートマタの方が数が多くなって押されている。ヘルマリオネッターが操る自動人形オートマタたちも全て倒され、自動人形オートマタたちはヘルマリオネッターにも攻撃を仕掛けていた。

 だが、押されていても青銅騎士たちが圧倒的不利というわけではないので、青銅騎士たちは引くことなく自動人形オートマタたちと戦い続けた。

 自動人形オートマタたちは青銅騎士たちを一気に倒すために攻撃の勢いを強くしようと動き出す。すると、遠くから戦場に向かって飛んでくるノワールが見え、一部の自動人形オートマタたちは視線をノワールの方を向いた。


「ああぁ、やっぱり気付かれずに近づくのは無理か」


 遠くで自分に気付いた自動人形オートマタたちを見てノワールは残念そうな口調で呟く。できれば気付かれずに戦場へ近づき、魔法で奇襲を仕掛けようとノワールは思っていた。

 ノワールの接近に気付いた自動人形オートマタの中で長距離攻撃が可能なOM03たちがノワールに向けて一斉に光線を放つ。ノワールは正面から飛んでくる光線をかわしながら少しずつ地上の自動人形オートマタたちに近づいていく。

 しかし、自動人形オートマタたちもノワールの接近を許すはずもなく、地上のOM02たちが魔法で迎撃してきた。大きな火球や電撃、青白い炎など複数の魔法がノワールに向かって放たれ、ノワールはその攻撃も華麗に回避する。

 自動人形オートマタの迎撃をかわしたノワールは交戦する青銅騎士たちと自動人形オートマタたちの真上にやって来て停止し、真下にいる青銅騎士たちを見下ろした。


「皆さん、すぐに後退してください!」


 ノワールが大きな声で指示を出すと、交戦していた青銅騎士たちやヘルマリオネッターたちは素早く後退して自動人形オートマタたちから離れる。青銅騎士たちが後退したのを確認したノワールは視線を自動人形オートマタたちに向けた。

 自動人形オートマタたちは青銅騎士たちが後退すると追撃するために進軍しようとする。だが、ノワールはそれを許さず、空中から両手を自動人形オートマタたちに向けた。


業火の巨壁ヒュージファイヤーウォール!」


 ノワールが魔法を発動させるとノワールの手の中に赤い魔法陣が展開され、そこから炎が勢いよく吹き出し、自動人形オートマタたちの中に巨大な炎の壁となり、前線に出ていた自動人形オートマタを全て呑み込んだ。

 炎の壁に呑まれた自動人形オートマタは全て火だるまになり、次々と炎の中で倒れていく。炎の壁は空中にいたOM03にも届き、炎を受けたOM03たちも炎に包まれながら落下する。炎が消えた時、そこには黒焦げになった自動人形オートマタが大量に転がっていた。

 黒焦げになった自動人形オートマタたちを見たノワールは周囲を見回して他に自動人形オートマタがいないか確認する。生き延びが自動人形オートマタがいないのを確かめたノワールは後退する青銅騎士たちの方を向く。


「皆さーん! 自動人形オートマタを倒しました。進軍を再開してくださーい!」


 大きな声で青銅騎士たちに命令を出すと、後退していた青銅騎士たちは再び敵拠点に向けて進軍を開始する。ヘルマリオネッターたちもその後に続き、それを見たノワールは遠くにいるダークたちの方を向いて手を大きく振った。

 部隊の戦闘準備を終えたダークたちは再び前線の戦況を確認しており、空中で自分たちに向けて手を振るノワールと敵拠点に向かって進軍する青銅騎士たちを見ていた。ノワールの魔法で自動人形オートマタが一掃される光景も見ており、アリシアたちは流石、と言いたそうな笑みを浮かべ、バーミンも驚きの表情を浮かべている。


「相変わらず凄いわね、ノワールの魔法」

「ああ、流石はビフレスト王国の主席魔導士だな」


 ノワールの魔法の凄さにレジーナとジェイクは頼もしさを感じ、ジェイクの隣にいるマティーリアも目を閉じながら小さく笑っていた。


「ダーク陛下、前線の敵が全滅した今が好機です」


 アリシアがフレイヤを握りながら自分たちも出撃するべきだとダークに話すとダークはアリシアを見ながら小さく頷く。


「分かっている。リンバーグたち後方支援の部隊を残し、敵拠点に進軍する!」


 ダークの言葉にアリシアたちは表情を鋭くし、出撃するために自分の部隊へと戻る。ダークも自分が指揮する部隊の下へ向かい、アリシアたちが持ち場についたのを確認すると馬に乗り、リーテミス兵たちを見ながら大剣を掲げた。


「前線に出ていた自動人形オートマタは全て倒れた。この隙に敵拠点へ突入する! だが、拠点内にはまだ敵が大勢いる。敵の司令官を捕らえ、敵が降伏するまで油断するな!?」


 力の入ったダークの言葉にリーテミス兵たちは一斉に叫び、ダークと同じように武器を掲げる。アリシアたちも馬に乗りながらリーテミス兵たちを見て、士気に問題は無いと感じた。

 ダークはリーテミス兵たちの反応を見ると掲げている大剣の切っ先をを敵本拠点へ向けた。


「出陣!」


 その言葉を合図にリーテミス兵たちは一斉に敵拠点に向かって走り出す。指揮官であるダークたちも馬を走らせて敵本拠点を向かう。マティーリアだけは自分の部隊の上空を飛んで敵本拠点へ移動する。残されたリンバーグと支援部隊は走っていくダークたちを見ながら彼らの無事を祈った。

 同時刻、本拠点では防衛を任されている自動人形オートマタたちが遠くから近づいて来る青銅騎士たちとその後に続いて進軍するリーテミス兵たちを無表情で見ている。自動人形オートマタの数は前線に出ていた自動人形オートマタと比べると少ないが、それでもかなりの数の自動人形オートマタが残っていた。

 拠点の中心では司令官であるリュクドールと会話をしていた白い大きな塊があり、紫色のラインを光らせていた。


「……マサカ、前線ニ出テイタ自動人形オートマタガ全滅シタトハ」


 白い塊はラインを光らせたまま低めの機械声を出した。どうやら白い塊は遠くにいる自動人形オートマタの存在を感知することができるらしく、前線で敵と交戦していた自動人形オートマタが全滅したことに気付いていた。


「ソレニ先程ノ巨大ナ炎ノ壁、アレデ自動人形オートマタタチガヤラレタノダトシタラ、並ノ魔法デハナイ。恐ラク最上級魔法……」


 どうやらノワールが発動した最上級魔法のことも感知していたらしく、白い塊は少し驚いたような声を出す。この時、白い塊は敵の中に間違いなく最上級魔法が使える程の実力者がいると考えていた。


「最上級魔法ガ使エル者ガイルトイウコトハ、竜王ヴァーリガムガ最前線ニ出タノカ……イヤ、ソレハ無イ。情報デハヴァーリガムハ巨大ナドラゴントノコト、奴ガ此処ニイルノナラ姿ガ確認デキルハズダ。シカシ、奴ノ姿ハ無イ。ツマリ、ヴァーリガムハコノ大荒野ニハイナイトイウコトダ」


 攻め込んで来た敵の中にヴァーリガムはいないと白い塊は考える。だが、それは敵の中にヴァーリガム以外に最上級魔法を使える存在がいると言うことになり、白い塊は面倒な状況だと感じた。

 最上級魔法を使える者は何者なのか、白い塊が考えているとテントの中からリュクドールが驚きの表情を浮かべながら飛び出てきた。リュクドールは周囲を見回してから白い塊の前まで移動する。


「おい、さっき外が赤く光ったが何が起きたのだ!?」


 テントの中にも巨大な炎の壁の明かりを届いたらしく、リュクドールは困惑しながら白い塊に尋ねる。白い塊は紫色のラインを光らせながらリュクドールの問いに答えた。


「敵ガ最上級魔法ヲ使ッタラシイ。ソノセイデ前線ニ出テイタ自動人形オートマタタチハ全滅シタ」

「ぜ、全滅だと!? 馬鹿な、あの人形たちは全て人間の英雄級に匹敵する実力を持っているのだぞ!」

「人間ノ英雄デモ最上級魔法ノ前デハ小サナ存在ダ。自動人形オートマタタチモ最上級魔法ノ前デハ無力ニ等シイ」

「そ、そんなことが……それに最上級魔法って、まさか大統領のヴァーリガムが……」

「イヤ、ヴァーリガムハ出テキテイナイ」

「では、誰が最上級魔法を使ったというのだ!?」


 連続で予想外の出来事が起きている現状に苛ついているのか、リュクドールは八つ当たりするように声を上げる。


「マダ詳シイコトハ分カラン。ダガ、一ツダケハッキリシテイルノハ、敵ノ中ニ優秀ナ魔法使イガイルトイウコトダ」


 落ち着いた口調で語る白い塊を見たリュクドールは目を見開いて焦りを見せる。そんなリュクドールに気付いた白い塊は再び紫色のラインを光らせた。


「心配スルナ、最上級魔法ハ強力ダガ、消費スル魔力ガ多イ上ニ再ビ発動スルタメノ冷却時間ガ長イ。連続デ使ッテクルコトハ無イ」

「そ、そうか、ならまだこちらが負けると決まったわけではないのだな?」

「当然ダ、敵ニ最上級魔法ノ使イ手ガイテモ、私ガ出レバ問題無ク倒セル。ソレニ、コチラニハマダ大量ノ戦力ガアル」


 白い塊が低い声を出すと、目の前に大きな黄色い魔法陣が展開され、魔法陣に気付いたリュクドールは慌てて魔法陣の上から退いて白い塊の隣まで移動する。


召喚魔法サモンマジック自動人形の軍団マシーンアーミー!」


 力の入った声を出しながら白い塊は何かの魔法を発動させる。すると、巨大な魔法陣から大量のOM01、OM02、OM03が沸き上がるように現れ、それを見たリュクドールは大きく目を見開いた。

 <自動人形の軍団マシーンアーミー>はLMFにしか存在しない土属性の上級召喚魔法だ。発動すると三種類の自動人形オートマタをランダムで六十体から八十体まで召喚することができる。ただ、この魔法はプレイヤーは習得することができず、LMFのモンスター、それも自動人形オートマタと関りのあるモンスターしか使用することができない。そのため、この魔法はプレイヤーたちから、かなり面倒な魔法と言われている。

 召喚された自動人形オートマタたちは全員、白い塊とリュクドールの方を向いて目を閉じている。しばらくすると全員が同時に目を開け、その光景を見たリュクドールは不気味さを感じてビクッと反応した。


「……今回ハOM03が少ナイナ。マアイイ、数ハ全部デ六十八体、再ビマシーンアーミーヲ発動スルマデノ時間グライハ稼ゲルダロウ」


 満足しているような口調で白い塊は呟き、自動人形オートマタを見て驚いていたリュクドールは表情をそのままにチラッと白い塊を見ていた。


自動人形オートマタタチヨ、オ前タチニ命ジル。コノ拠点ニ攻メ込ンデキタ敵ヲ倒セ」


 白い塊が自動人形オートマタたちに命令を出すと、自動人形オートマタたちは一斉に180度振り返り敵の迎撃に向かう。OM01とOM02は徒歩で、OM03は空を飛んで敵がいる方角へ移動する。


「サテ、奴ラデドレ位ノ時間ガ稼ゲルダロウナ」


 お手並み拝見、と言うような口調で白い塊は語り、リュクドールはそんな白い塊を無言で見つめている。

 リュクドールは今日までに何度も白い塊が大量の自動人形オートマタを召喚する光景を見ており、その度に驚かされていた。そして同時に、自動人形オートマタを召喚できる白い塊は何者なのか疑問に思っていたのだ。


「……貴殿は一体何者なのだ? 自動人形オートマタなどと言う見たことのないモンスターを大量に召喚し、それを自由に操るなど普通はできないことだ。それを簡単にやってのける貴殿は何なのだ。それに、あの方も――」

「リュクドール殿」


 喋っている最中に白い塊が止めるかのように喋り、リュクドールは思わず口を閉じる。リュクドールが黙ると白い塊は紫色のラインを今まで以上に強く光らせた。


「……ソレハ我々ノ仲間ナッタ時ニアノオ方ガ仰ッタハズダ。『話ス時ガ来タラ全テ話ス。ソレマデハ詮索スルナ』トナ」


 僅かに低い機械声を出す白い塊にリュクドールは思わず表情を固める。白い塊の声から怒りのようなものを感じ取り、これ以上この話題に触れてはならないとリュクドールは心の中で感じた。


「そ、そうだったな、失礼した。今の発言は忘れてくれ」


 リュクドールが苦笑いを浮かべながら謝罪すると白い塊は紫色のラインの光をゆっくりと弱め、やがて光は完全に消える。それを見たリュクドールは安心して軽く息を吐いた。


「そ、それで、この後はどうするつもりなのだ?」

「……トリアエズ、モウ少シ様子ヲ窺ウ。先程召喚シタ自動人形オートマタタチデモ敵ヲ足止メデキズ、此処マデ攻メ込ンデ来タ場合ハ、私ガ動ク」


 今自分たちがいる場所に敵の兵士たちが攻め込んでくるかもしれないという話を聞いたリュクドールは息を飲み、自動人形オートマタたちが向かって行った方角を見る。

 リュクドールは絶対に攻め込んで来た敵を倒せ、と自動人形オートマタたちに心の中で強く命令した。

 その頃、ダークたちは敵本拠点の中に突入し、入口近くで自動人形オートマタと交戦していた。青銅騎士たちやリーテミス兵たちが前に出て自動人形オートマタと交戦し、その後ろではリーテミス軍の魔法使いや弓兵が支援攻撃をしている。

 入口近くにいた自動人形オートマタの数はそれほど多くなく、ダークたちの戦力の方が圧倒的に多いため、戦いはダークたちが優勢だった。


「そのまま一気に押し切れ! 自動人形オートマタを倒して敵拠点の奥へ進軍するのだ!」


 後方で馬に乗ったバーミンが前線で戦う者たちに指示を出し、リーテミス兵たちはその言葉で士気を高めたのか、声を上げながら武器を振る。

 士気が高まったこととリンバーグのライズクッグの力で強化されたことで、リーテミス兵たちは圧勝とまでは言わないが少しずつ自動人形オートマタを倒していく。勿論、青銅騎士たちも自動人形オートマタと互角の戦いを繰り広げているが、彼らは士気など関係なく、ただ命令に従って自動人形オートマタと戦っている。

 青銅騎士たちとリーテミス兵たちが前線でOM01たちと交戦しているとOM01の後方にいるOM02たちが魔法を放って攻撃してきた。水の矢や雷球など、多種の魔法が前線の青銅騎士やリーテミス兵に命中し、魔法を受けた者たちは崩れるように倒れる。それを見たバーミンは目を鋭くして後方のOM02を睨んだ。


「おのれぇ! 魔導士部隊、後方の魔法を使う自動人形オートマタに向けて魔法を放て!」


 バーミンが周囲にいる魔法使いたちに指示を出すと、魔法使いたちは一斉に持っている杖をOM02たちに向ける。


水撃の矢ウォーターアロー!」

放射電流スブレットスパーク!」

電撃の破砕サンダーブレイク!」

火炎弾フレイムバレット!」

影の爆弾シャドーボム!」


 リーテミス軍の魔法使いたちは水の矢、広範囲に広がる電撃、火球を放ったり、落雷を落としたりして攻撃する。バーミンも黒と濃紫色の螺旋球を放ちOM02を攻撃した。

 バーミンたちの魔法は全てOM02に命中し、自動人形オートマタ側の支援魔法は止む。それを機に青銅騎士たちとリーテミス兵たちは勢いよく攻撃し、OM01たちは次々と倒しておく。そして一通りOM01を倒すと後方に残っているOM02に向かって突撃する。魔法で迎撃されないよう、全員全速力で走って距離を縮めて攻撃した。

 青銅騎士たちとリーテミス兵たちがOM02たちに攻撃していると、空中から七体のOM03が真上を通過し、後方のバーミンたちに向かって飛んでいく。一定の距離まで近づくと全てのOM03がビーム砲をバーミンたちに向け、光線を放とうとする。


「チィッ! またあの光線を放つ気か。急いで防御魔法を……」


 バーミンは魔法使いたちに防御魔法を発動するよう指示を出そうとする。すると、ノワールとマティーリアがバーミンたちを護るようにOM03たちの前に移動しOM03たちを睨む。バーミンたちは空中の二人を見て意外そうな表情を浮かべた。


「貴女たちの相手は僕らがしますよ」

「手加減せずにかかって来い、小娘ども」


 ノワールとマティーリアがOM03たちを挑発すると、OM03たちは表情を変えずにビーム砲を二人に向ける。そして、七体が全く同じタイミングで光線を発射した。

 真っすぐ向かってくるライトグリーンの光線を見てマティーリアはジャバウォックを構える。その隣ではノワールが両手をOM03たちに向けた。


万能の盾マイティシールド!」


 ノワールは魔法を発動させ、自分とマティーリアに前に大きな長方形に障壁を作り出し、OM03の光線を全て防ぐ。地上にいたバーミンたちはノワールが作り出した障壁の大きさに驚いていた。

 OM03たちの攻撃が終わるとノワールが張った障壁も少し遅れて消滅する。その直後、マティーリアはOM03たちに向かって飛んでいき、一体のOM03の目の前まで移動した。そして、マティーリアは目の前のOM03をジャバウォックで斬り捨てる。

 斬られたOM03は地上に真っ逆さまに落ちて行き、マティーリアは落ちて行くOM03を見ながらニッと笑う。そんなマティーリアに左右にOM03が一体ずつ回り込んでビーム砲を向けて光線を撃とうとする。

 マティーリアは自分を挟むOM03に気付くと竜翼を広げて上昇しようとするが、次の瞬間、橙色の熱線がマティーリアを左側にいるOM03の体を貫いたOM03を倒した。

 熱線を受けたOM03は落下していき、それを見たマティーリアは熱線が飛んで来た方を向く。そこには人差し指をこちらに向けているノワールの姿がある。マティーリアを援護するためにノワールがバーナーレーザーでOM03の一体を攻撃したようだ。


「すまんな、ノワール」

「いいえ、気にしないでください」


 ノワールは笑いながら首を横に振り、マティーリアはノワールを見て笑みを返す。そんな中、残っている右側のOM03がマティーリアに光線を放とうとビーム砲を向ける。

 OM03の動きに気付いたマティーリアは鋭い目でOM03を睨み、素早くOM03に近づいてジャバウォックを振り、ビーム砲を切断した。

 光線を撃てなくなったことでOM03は口を半開きにして驚いたような表情を浮かべる。そんなOM03にマティーリアは袈裟切りを放ち、残りのOM03を倒す。近くにOM03がいなくなるとマティーリアはもう一度ノワールの方を向く。


「地上の奴らが安心して戦えるよう、妾たちはOM03を優先して戦った方が良さそうじゃな」

「そうですね、地上の戦況を確かめながら空中の敵と戦いましょう。他の皆さんにもそう伝えておきます」


 そう言ってノワールが後ろを向くと、遠くで飛行可能なリーテミス兵たちがOM03たちと戦う姿が視界に入る。リーテミス兵たちも少し苦戦している様子だがOM03となんとか戦うことができていた。


「あそこの兵士たち、少し苦戦していますね」

「そのようじゃな……ちゃっちゃとこ奴らを片付けて、加勢に行ってやるかのぉ」


 マティーリアは前を向いて残っている四体のOM03を睨みながらジャバウォックを構える。ノワールも同感らしく、両手をOM03たちに向けながら真剣な表情を浮かべた。

 OM03たちは一瞬で仲間を三体倒したノワールとマティーリアを前にしても動揺は見せず、無表情で二人を見つめている。感情の無い自動人形オートマタたちは例え相手が強い力を持っていると知っていても何も感じず、後退しようとも思わない。


「……改めて見ると、本当に何の反応を見せん奴らじゃな。仲間が倒されても目元すら動かさんとは、見ているとイライラしてくる」

自動人形オートマタとはそういうモンスターです。不満などは一切抱かず、表情も変えずにただ命令に従う。文字通り操り人形だとマスターも仰ってました」

「フン、何とも憐れな存在じゃな……そんな憐れな操り人形どもは今此処で全て片付けてやるわ」


 マティーリアはジャバウォックを強く握り、剣身に黒い靄を纏わせる。ノワールも右手に緑の魔法陣、左手に紫色の魔法陣を展開させ、いつでも攻撃できる態勢に入った。

 自動人形オートマタたちもビーム砲をノワールとマティーリアに向けて光線を撃とうとする。しかし、二人がそれを黙って見過ごすはずがなかった。


「光線は撃たせん!」


 マティーリアは叫びながらOM03たちに向かって行き、ノワールは突撃するマティーリアを援護するため、右手から真空波を、左手から紫の光弾をOM03たちに向けて放った。

 それからしばらくして、ダークたちは入口前にいた自動人形オートマタを全て倒した。ダークはジェイク、マティーリア、バーミンと三人の部隊、七割の青銅騎士たちに入口の確保を任せ、自分は本拠点を制圧するためにアリシアたちと残りの青銅騎士たちを連れて本拠点の奥へと進軍した。


――――――


 入口から本拠点の中心に向けて移動を開始したダークたちは真っすぐ敵本拠点の奥へと進軍して行く。偵察したノワールたちの情報では敵の本拠点の中心に大きめのテントが張られてあるらしく、ダークはそこに敵司令官がいると踏んで中心を目指し進軍していた。

 先頭をダークが走り、その後をアリシア、レジーナ、彼らが率いるリーテミス部隊と青銅騎士たちが続く。ダークたちの頭上にはノワールと飛行可能なリーテミス兵たちが飛んでおり、ダークたちに合わせて移動している。

 此処まで来る途中、ダークたちは何度か少数の自動人形オートマタ部隊と遭遇した。一秒でも早く中心へ向かいたいダークは遭遇した自動人形オートマタの相手をリーテミス兵や青銅騎士たちに任せて中心を目指していたのだ。現在、ダークたちと同行しているのは合計三十数人のリーテミス兵と青銅騎士たちだけだった。


「ダーク陛下、このまま真っすぐ進めばまもなく拠点の中心です」


 アリシアは走りながら前のダークにもうすぐ拠点の中心に辿り着くと伝え、ダークはチラッとアリシアの方を見てから再び前を向いた。


「ここまで何度も自動人形オートマタと遭遇してきた。敵も私たちを食い止めるのに必死になっている。油断するな?」

「ハイ!」


 ダークの忠告を聞いたアリシアは地からの入った声で返事をした。


「ねぇ、この先が拠点の中心ってことはそこに敵の司令官がいる可能性が高いってことでしょう? もしかして、例の自動人形オートマタを召喚するモンスターも中心にいるの?」

「恐らくな」


 アリシアは隣で問いかけてくるレジーナを見て走りながら答える。ダークと空中のノワールは前を見ながらアリシアとレジーナの会話に耳を傾けた。


「いったいどんな奴なんだろう、その自動人形オートマタを召喚できるモンスターって?」

「分からない。ダーク陛下も知らないモンスターらしいからな」


 そう言ってアリシアは視線をダークに向け、レジーナもつられるようにダークの背中を見る。その視線からは自分たちでも倒せる敵なのか、という小さな不安が感じられた。ダークでもどんなモンスターか分からないため、アリシアとレジーナも今回はさすがに心配のようだ。


「心配するな。確かに私もどんなモンスターが自動人形オートマタを召喚しているかは分からない。だが、強さなどは賢者の瞳を使えば分かる。敵の情報が得られれば多少は戦いやすくなるはずだ」


 後ろにいる二人にダークは対抗する策があることを話すと、レジーナは安心の表情を浮かべ、アリシアはしっかりと手を打っているダークを見て流石、と心の中で感心した。

 三人が未知のモンスターについて話している光景をノワールは三人の頭上で笑いながら聞いている。ダークたちのすぐ後ろをついて来ているリーテミス兵たちは三人の会話がよく聞こえていないらしく、不思議そうな顔で前を走る三人を見ていた。


「さて、もうすぐ中心に辿り着く。気を付けろ?」

「ハイ!」


 ダークをの背中を見ながらアリシアは力強く返事をし、レジーナも真剣な表情で頷く。リーテミス兵たちもいよいよ敵拠点の中心に辿り着くと聞き、緊張しながら表情を鋭くした。

 拠点の中心はどうなっているのか、そう考えながらダークたちは走る速度を上げた。


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