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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十九章~古代文明の戦闘人形~
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第二百八十七話  決戦の大荒野


 太陽に照らされる大荒野、その中をダークたちは隊列を崩さずに真っすぐ西に向かって進軍していた。敵の本拠点がある場所なので、ダークたちは自動人形オートマタの奇襲を警戒しながら移動してる。

 ダークたちは休息を取るために森で一夜を過ごし、夜が明けると自動人形オートマタたちの本拠点を見つけるためにノワールとマティーリア、数人の飛行可能なリーテミス兵を偵察として大荒野に向かわせた。

 大荒野に入ったノワールたちは西へ向かい、大荒野の中央で本拠点らしき場所と大量の自動人形オートマタを発見する。本拠点の場所と敵の数を確認したノワールたちはすぐにダークたちの下へ戻って敵の情報を伝え、ダークたちは敵本拠点を目指し西へ進軍を開始したのだ。


「今のところ敵の奇襲はありませんね……」


 先頭を進むダークの隣でバーミンが馬に乗りながら周囲を見回す。ダークやその周りにいるアリシアたちも敵の姿が無いか警戒しながら移動し、空中では少年姿のノワールやマティーリア、リンバーグ、空を飛べるリーテミス兵たちが遠くを見回していた。

 大荒野は岩や枯れた木が多く、所々に山のような大岩があるが見通しが良く、自動人形オートマタが接近してくればすぐに見つけることが可能な場所だった。しかし、裏を返せば敵からも発見されやすい場所であるため、ダークたちは気を抜くことなく西へ進軍する。


「このまま敵と遭遇することなく敵本拠点に辿り着くことができればよいですが……」

「そんなに都合よくはいかないだろう。自分たちの本拠点がある以上、自動人形オートマタたちも大荒野に敵がいないか見回りをしているはずだ」


 ダークは大荒野を巡回する自動人形オートマタと遭遇することを予想し、アリシアたちも戦闘になることを覚悟しながら移動する。ダークたちの後をついて来るリーテミス兵たちも真剣な表情を浮かべながら歩いているが、心の中では自動人形オートマタと遭遇することなく敵の本拠点に辿り着くことを願っていた。

 自動人形オートマタとの遭遇に警戒しながらダークたちは広い大荒野を移動し続ける。近くに大岩があれば見つからないよう陰に隠れながら西へと移動した。


「……大荒野に入ってからニ十分ほど経ちますが、敵の姿はありませんね」


 アリシアが遠くを見ながら呟く。ダークたちのすぐ後ろにいるリーテミス兵たちは敵と遭遇せず此処まで来れたため、少し安心した表情を浮かべていた。


「油断するな? 何が起こるか分からないのが戦場だからな」

「ええ、勿論分かっています」


 忠告されたアリシアはダークの方を向いて小さく頷く。ジェイクやバーミンもダークの言葉を聞いて少しの油断が命取りになると感じ、最後まで気を引き締めていこうと改めて思った。


「でも、このペースなら本当に一度も敵と遭遇することなく敵の拠点に辿り着きそうね」

「おい、たった今ダーク陛下が言っただろう。何が起きるか分からないのが戦場だって?」

「ハハ、ごめんごめん」


 ジェイクに注意されたレジーナはウインクをしながら笑って右手を顔の前まで持ってくる。そんなレジーナの反応を見て、ジェイクは溜め息をつきながら呆れた。

 二人の会話を聞いていたアリシアも相変わらず注意力が低いレジーナを見て呆れ顔で首を横に振り、バーミンはまばたきをしながらレジーナを見ている。ダークはレジーナの態度に慣れてしまっているのか、黙って前を向いていた。


「マスター!」


 突如ノワールの声が聞こえ、ダークがフッと上を向くと浮遊魔法で飛んでいたノワールがゆっくりとダークの隣に降下してきた。マティーリアとリンバーグ、リーテミス兵たちも近くに下り立ち、アリシアたちも視線をノワールたちに向ける。


「どうした?」

「一時の方角から自動人形オートマタの部隊が近づいてきます」


 近くに自動人形オートマタの部隊がいると聞かされ、ダークはピクリと反応する。アリシアたちも軽く目を見開いて驚くがすぐに目を鋭くした。


「止まれ、停止しろ!」


 バーミンは近くに敵がいる状態で進軍するのは危険だと判断し、後ろをついて来るリーテミス兵たちを止める。リーテミス兵たちが止まるとその後をついて来ていた青銅騎士たちも一斉に立ち止まった。

 突然部隊が停止したことにリーテミス兵たちは何が起きたの分からずに小声でざわつき出す。ダークたちのすぐ後ろにいたリーテミス兵たちは自動人形オートマタが近くにいるという話を聞いていたため、ざわつきはしなかったが僅かに緊迫した表情を浮かべている。

 ダークは部隊が停止したのを確認すると一時の方角を確認する。しかし、ダークの視界に映るのは数百m離れた所にある大きな岩だけで自動人形オートマタの姿は無かった。岩を見たダークはすぐに自動人形オートマタは岩の反対側にいるのかもしれないと考える。


「……あの岩の向こう側か?」

「ハイ、空中から確認しました。敵はOM01が二体とOM02が一体、OM03が二体で分隊規模の戦力でした。恐らく、大荒野を見回る警備隊でしょう」

「僅か五体か……戦力的には大したことはないが、見つかるのはマズいな。もし奴らに見つかれば敵の本隊に我々が大荒野に侵入したことがバレてしまう。そうなったら敵に臨戦態勢に入る隙を与え、奇襲を仕掛けることができなくなる」

「どうしますか、マスター?」


 ノワールが警備隊をどう対処するか尋ねると、ダークはノワールを見ながら目を薄っすらと赤く光らせた。


「勿論、倒す。戦闘を避けるために迂回すれば時間と体力を無駄にしてしまう。素早く本拠点を制圧するために警備隊は此処で倒すべきだ。それに此処で戦闘にならなくても、進軍している時にまた何処かで遭遇する可能性があるからな。倒せる敵は倒しておいた方がいい」

「分かりました」

「皆もそれで構わないか?」


 ダークがアリシアたちの方を向いて確認するとアリシアたちは無言で頷く。全員が自動人形オートマタの警備隊を倒すことに賛成したのを確認したダークは視線を自動人形オートマタたちがいるであろう一時の方角へ向けた。


「さて、倒すのはいいがどうやって倒すか……此処は見通しが良くとても静かだ。下手に騒がしくすれば他の警備隊や本拠点の敵に気付かれる可能性がある。できれば短時間で静かに片付ける方がいいな」

「なら、僕がいきます」


 ノワールが軽く手を上げて自動人形オートマタたちを倒すことを進言し、ダークは再びノワールの方を向いた。


「そうか、なら頼むぞ。できるだけ迅速に片付けてくれ」

「ハイ!」


 自信に満ちた笑みを浮かべながらノワールは小さく頷いた。ダークやアリシアたちはノワールなら絶対に成功すると確信しているため、心配する様子は見せなかった。

 バーミンは一人で自動人形オートマタたちの相手をすると言うノワールは無言で見つめている。普通なら一人で行くのは危険だと止めるのだが、バーミンはノワールを止める様子は見せなかった。


「では、ちょっと行ってきます」


 そう言ってノワールは浮遊魔法を発動させ、自動人形オートマタたちを確認した方角へ飛んでいく。ダークたちは飛んでいくノワールを無言で見ている。

 ノワールの姿が見えなくなると、バーミンは目を閉じながら小さく俯く。そこへ馬に乗った女エルフのリーテミス騎士、リチアナがやって来てバーミンの隣で馬を止めた。


「バーミン殿、あの少年、ノワール殿は一人で自動人形オートマタを倒しに?」

「ああ」

「よろしかったのですか、お止めしなくて?」


 リチアナは不安そうな顔をしながらバーミンに尋ねる。するとバーミンはゆっくりと顔を上げてノワールが飛んで行った方角を見た。


「心配ない、彼なら問題無く自動人形オートマタどもを倒せるはずだ」

「えっ? それはどういう意味ですか?」

「彼は自動人形オートマタを難なく蹴散らせるほど優れた魔法使いだから大丈夫だと言うことだ」


 複雑そうに苦笑いを浮かべるバーミンを見て、リチアナは少し驚いたような表情を浮かべる。

 バーミンは元老院の中でも特に魔法の力が優れたエルフで魔法使いとしての腕はリーテミス共和国でも一二を争うほどだ。そのバーミンが優れた魔法使いというのだから、ノワールはとてつもない力を持つ魔法使いなのではリチアナは感じていた。


「優れた魔法使い……バーミン殿に匹敵する力を持っているのですか?」

「いや、私など遠く及ばない……あの力は、閣下に匹敵する」

「なっ!?」


 リチアナは大きく目を見開いて驚愕する。近くでバーミンとリチアナの会話を聞いていた数人のリーテミス兵たちも二人を見ながら無言で驚いていた。無理もないことだ、幼い少年が自分たちの国を治める竜王、ヴァーリガムに匹敵すると言うのだから。


「か、閣下に匹敵する? バーミン殿、いくらなんでもそれは大袈裟すぎます。幼い少年であるノワール殿が竜王である閣下に匹敵する力を持つなんて、常識的に考えてあり得ませんよ」

「ああ、そうだ。普通ならそう考えるだろう……だが、あの少年が戦う姿を、魔法を使う姿を見た瞬間私は悟った。あの少年は我々よりも遥かに強大な存在であると……」


 自分の顔に手を当てながら目を閉じ、バーミンは静かに語る。リチアナやリーテミス兵たちはバーミンを見て目を見開いたまま口を半開きにしていた。

 バーミンは南西にある平野の敵拠点を制圧する時にノワールが戦う姿を目にしていた。幼い少年が強力な魔法を連続で発動し、次々と自動人形オートマタを倒していく姿を見てバーミンは言葉を失い、自分があまりにも小さな存在だ悟る。

 それと同時にバーミンは強大な力を持つノワールがいれば自動人形オートマタからリーテミス共和国を護ることができると感じたのだ。

 顔から手を退かしたバーミンはノワールが飛んで行った方角を無言で見つめる。リチアナは未だにバーミンの言ったことが信じられないのか、目を見開いたままバーミンと同じ方角を向いた。

 その頃、ノワールは空中を移動しながら自動人形オートマタの警備隊に近づいて行く。自動人形オートマタに気付かれないよう慎重に近づき、大きな岩の前まで近づくと岩を見下ろせる高さまで上昇した。

 一定の高さまで上がるとノワールは上昇をやめて下を見下ろす。そして、大きな岩の反対側に五体の自動人形オートマタがおり、ダークたちがいる方へ移動しているのを見つける。


「やっぱり、マスターたちからは見えない所にいたのか。このまま進むと間違いなくマスターたちと遭遇しちゃうな、早く片付けないと……」


 ダークたちと自動人形オートマタを会わせないため、ノワールは早く自動人形オートマタたちを倒さなければならないと考え、両手を自動人形オートマタたちに向ける。その直後、ダークの両手の前に緑色の魔法陣が展開された。


奇襲の真空波ソニックストリーム!」


 ノワールが魔法を発動させて声を上げると、自動人形オートマタたちの真下に緑色の大きな魔法陣が展開される。魔法陣に気付いた自動人形オートマタたちは立ち止まって下を向くが、次の瞬間、魔法陣から無数の真空波が空に向かって放たれた。

 音を立てずに放たれた真空波は自動人形オートマタたちの体を切り裂き、切られた自動人形オートマタたちはバラバラになって地面に転がる。自動人形オートマタが全てバラバラになると真空波は治まり、魔法陣も静かに消滅した。


「フゥ、何とか気付かれること無く全て倒すことができた」


 自動人形オートマタを全て倒すのを確認したノワールは軽く息を吐く。敵に存在を悟られず、確実に攻撃を命中させるためかそれなりに神経を使ったようだ。

 <奇襲の真空波ソニックストリーム>は敵の足元に魔法陣を展開させ、その魔法陣の中、もしくは真上を飛んでいる敵に真空波を放って攻撃する風属性の上級魔法。魔法陣は大きく大勢の敵を攻撃することが可能な上、数えきれないくらいの真空波を放つことができるので魔法陣の中にいる敵全てを攻撃できる。更に風属性だけでなく、斬撃のダメージを与えることも可能なので斬撃に弱い敵にも有効だ。

 ノワールは改めて警備隊の自動人形オートマタたちを見て生き残りがいないのを確認する。これでダークたちが再び進軍できるようになり、ノワールは小さな笑みを浮かべた。


「これでマスターたちの存在が敵に知られることはないな。他に警備隊らしい自動人形オートマタは……」


 周囲を見回して他に大荒野を巡回する自動人形オートマタの部隊がいないか確認し、近くに自動人形オートマタがいないのを確認したノワールはよし、と頷く。


「それじゃあ、マスターたちのところへ戻ろう」


 やるべきことをやったノワールはダークたちの下へ向かうためにもと来たルートを戻って行く。ノワールが自動人形オートマタたちを確認してからニ十分も経たずに終わってしまった。

 地上ではダークたちがその場を動かずにノワールが戻って来るを待っていた。ダークたちビフレスト王国の者たちが黙った待つ隣ではリチアナが少し不安そうな表情を浮かべている。バーミンは真剣な表情を浮かべてノワールの帰りを待っていた。


「……バーミン殿、ノワール殿はまだ戻って来ないのでしょうか?」

「分からん。だが、彼ほどの実力者ならすぐに戻ってくるはずだ」


 ノワールをヴァーリガムと同等と考えるバーミンは短時間で終わらせてくることを信じており、表情を変えることなく空を見上げている。リチアナはノワールの強さを信じるバーミンを複雑そうな顔で見ていた。

 ダークたちがノワールが戻るのを待っていると、空から何かがダークたちの方に向かって飛んでくる。いち早くそれに気付いたバーミンは目を見開いて近づいてくるものを見つめた。


「ダーク陛下、アレを」


 バーミンが近づいてくるものを見つめながらダークに声を掛ける。ダークはバーミンの方を見てから視線を空中の近づいて来るものに向け、アリシアたちも一斉に視線を空に向けた。そして、それが何なのかすぐに理解したダークは笑い、アリシアたちも笑みを浮かべる。

 近づいてくるものは笑みを浮かべるノワールでダークたちを見ながら軽く手を振る。ダークたちはノワールの様子から無事に自動人形オートマタの警備隊を倒したのだと感じ、バーミンもやっぱりと言いたそうな顔でノワールを見ていた。リチアナは驚きの表情を浮かべてノワールを見ている。

 ダークたちの下まで飛んできたノワールはゆっくりとダークの前に着地し、笑ったままダークを見上げる。


「マスター、自動人形オートマタの部隊、問題無く排除しました」

「ご苦労だった。他に敵の姿は無かったか?」

「ハイ、戻る前に確認しましたが、近くに敵の姿はありませんでした」

「そうか、なら敵はまだ我々が大荒野に侵入したことに気付いていないということだな」


 敵がまだ自分たちの存在に気付いていないのはチャンスだと感じたダークは薄っすらと目を赤く光らせる。アリシアたちもこの隙に一気に本拠点に向かおうと考え、全員が目を鋭くしていた。


「バーミン殿、敵に気付かれる前に少しでも本拠点に辿り着きたい。ここからは休息無しで進軍するとリーテミスの兵士たちに伝えてくれ」

「わ、分かりました」


 少し緊張した様子でバーミンは頷き、リチアナも緊張した顔でダークを見ている。

 バーミンとリチアナは馬を走らせてリーテミス兵たちにすぐに進軍を再開することを伝え、リーテミス兵たちは決戦が近いことを感じ取って表情を鋭くする。

 全てのリーテミス兵たちに進軍することを伝え終えたバーミンとリチアナはダークたちの下へ戻り、二人が戻った直後、ダークたちは進軍を再開した。リーテミス兵たちと青銅騎士たちもそれに続き、敵の本拠点を目指し西へと移動する。


――――――


 大荒野の中央にある自動人形オートマタたちの本拠点、大勢の自動人形オートマタが拠点の中や周囲を警備する中で司令官である貴族風の初老の男がテントの前で表情を歪めていた。その近くには紫色のラインが入った自動人形オートマタと似た作りをした白い大きな塊が置いてある。


「いったい、荒野の外はどうなっている? なぜリーテミス軍の部隊を倒したという報告が入ってこない?」


 男は右手を額に当てながら焦っているような表情を見せており、落ち着かないのかテントの前を歩き回っている。彼は今、前線に出ている自動人形オートマタからの連絡が途絶えたという予想外の事態に動揺していた。

 最前線に送り込まれている自動人形オートマタの部隊は最前線で遭遇したリーテミス軍の部隊と遭遇したら攻撃を仕掛け、全滅させるよう命令を受けていた。そして、敵部隊を倒したらその結果を本拠点に報告するようになっている。

 しかし、その報告が数日前から途絶えており、最前線の戦況が分からない男は最前線の自動人形オートマタに何か遭ったのではと焦りを見せていたのだ。


「今までこのようなことは一度も無かったのに、なぜ自動人形オートマタたちは報告に来ない? まさか、命令を無視して敵と戦うことだけしかしていないのか?」

「ソレハアリ得ナイ」


 男の近くにある白い塊から機械声が聞こえ、男は一瞬驚いたような反応を見せて振り返る。


自動人形オートマタタチハ受ケタ命令ハ必ズ守ルヨウニナッテイル。貴公ガ敵ヲ倒シタラ必ズ報告シロト命令シタ以上ハ必ズ戻ッテクル」

「しかし、その自動人形オートマタは数日前から報告に来ないではないか。どういうことだ?」


 予想外のことが起きている現状に男は少し興奮したような態度で尋ねる。すると、白い塊は鼓動を刻むように紫色のラインを薄っすらと光らせた。


「……恐ラク、最前線ノ自動人形オートマタタチハ敵ニ倒サレタノダロウ」

「た、倒された!?」


 白い塊の言葉に男は声を上げる。これまでに何度もリーテミス軍の部隊を倒し、亜人たちを圧倒していた自動人形オートマタが敵に敗れたと聞かされ、男は驚きを隠せなかった。同時に自動人形オートマタが敗れるなんてあり得ないという考えが男の頭の中に浮かぶ。


「じょ、冗談を言わないでくれ! 自動人形オートマタは全て人間の英雄級に匹敵する実力を持っているのだろう? その自動人形オートマタが負けるなんて、あり得んことだ」

「ダガ、相手ハ人間ヨリモ身体能力ヤ魔力ガ優レテイル亜人だ。リーテミス軍ノ中ニ人間ノ英雄級ヲ凌グ実力ヲ持ツ亜人ガイテモ不思議デハナイ。現ニ敵拠点ノ偵察ニ向カワセタOM03ノ部隊モ未ダニ戻ッテ来テイナイ」

「そ、それは……」

「ソレニ、リーテミス共和国ニハ竜王ト元老院モイル。彼ラナラ自動人形オートマタヲ倒セテモオカシクナイ、トアノ方モ仰ッテイタダロウ?」

「うう……」


 男はおかっぱの少女に言われたことを思い出して口を閉じた。確かにリーテミス共和国には人間の英雄級の実力者よりも勝る存在がいる。そして、亜人は人間よりもレベルの限界値が高い。リーテミス軍に英雄級を凌ぐ戦力がいても変ではなかった。

 もしかすると、最前線の自動人形オートマタたちが倒されているかもしれない、自動人形オートマタを倒したリーテミス軍が自分のいる大荒野に迫って来ているかもしれないという最悪の現状が男の頭の中をよぎり、男は再び焦りを顔に出した。


「……心配スルナ、リュクドール殿。例エ敵軍ニ自動人形オートマタヲ倒セル程ノ実力者ガイテモ、自動人形オートマタハマダ大量ニ存在シテイル。ソレラヲ全テブツケレバ問題無ク倒セル。ソシテモシ、竜王ト元老院ガ前線ニ出テ来テモ私ガ対処スル」

「そ、そうか……そうだな。まだ自動人形オートマタは大量にいるし、竜王ヴァーリガムも元老院が出て来ても貴殿がいれば問題無い」


 白い塊にリュクドールと呼ばれた初老の男は余裕を取り戻したのか、白い塊を見上げながら笑みを浮かべる。そんなリュクドールも態度の変わりように白い塊は心の中でおめでたい男だ、と思っていた。

 リュクドールはまだ自分たちが追い込まれていないと分かると笑いながら拠点内にいる自動人形オートマタたちを見回す。その顔からは先程の焦りは完全に消えていた。


「例えリーテミス軍に自動人形オートマタを倒せるくらいの戦士や魔法使いがいたとしても、数で圧倒すれば勝利できる。最前線から報告が無いのも、ただ敵を倒していないから報告しない、というだけかもしれんしな」

「……確カニソノ可能性モアル。深ク考エナイ方ガイイダロウ」

「だが、さすがに最前線の情報が得られないというのはマズい。すぐに部隊を編制して最前線の様子を確認した方がいいのではないか?」

「勿論、ソノツモリダ。スグニ情報収集部隊ヲ編成シテ最前線ニ向カワセル」


 白い塊が紫色のライン光らせながら最前線に部隊を派遣することを伝え、リュクドールは白い塊を見上げながら頷く。するとそこに一体のOM03が低空飛行で飛んで来て白い塊の前で停止した。いきなり飛んで来たOM03にリュクドールは驚いて目を見開く。


「ドウシタ?」


 やって来たOM03に白い塊が問うと、OM03は口をパクパクと動かして何かを白い塊に伝える。OM03は口を動かしているだけで声は出していないため、リュクドールはOM03が何を伝えようとしているのか分からなかった。


「……何? 東ニリーテミス軍ガ現レタ?」

「な、何だと!?」


 白い塊がOM03の報告内容を声に出し、それを聞いたリュクドールは驚愕の表情を浮かべる。既にリーテミス軍が大荒野に侵入し、自分たちがいる拠点の近くにまで来ているのだから驚くのは当然だった。


「ど、どう言うことだ! なぜリーテミス軍が此処に!?」

「……ドウヤラ敵ハ我々ガ予想シテイタ以上ニ速イ速度デ進軍シテイタヨウダ。大荒野ニ辿リ着イテイルトナルト、防衛線ヲ張ッテイタ自動人形オートマタタチハ全滅シテイルダロウ」

「何を呑気なことを言っているのだ! 早く何とかしなくては……」

「落チ着ケ、既ニ自動人形オートマタタチガ迎撃準備ニ入ッテイル」


 自動人形オートマタたちが迎撃するために動いていると聞かされ、慌てていたリュクドールは安心の表情を浮かべる。一度東を見たリュクドールは早足でテントの入口へと移動した。


「と、とにかく、私はテントの中に避難する。何としても奴らを返り討ちにしてくれ!」

「勿論ダ」


 白い塊の返事を聞くとリュクドールは飛び込むようにテントの中へと入っていく。リュクドールがテントに避難すると白い塊は報告に来たOM03に指示を出して前線に向かわせる。


「……サテ、我々ヲココマデ追イ込ムトハ、リーテミス軍モカナリノ実力者ヲ隠シテイタヨウダガ、イッタイ何者ナノダロウナ」


 攻め込んで来たリーテミス軍がどれ程の戦力なのか、そしてリーテミス軍にいる実力者がどんな存在なのか、白い塊は紫色のラインを光らせながら興味のありそうな口調で語る。

 自動人形オートマタたちの本拠点から東に少し離れた所ではダークが率いる部隊は戦闘態勢に入るための準備を進めていた。前線には大勢の青銅騎士、白銀騎士、黄金騎士と六体のヘルマリオネッターが隊列を組んで自動人形オートマタたちの本拠点を見張っている。その後方ではダークたちがリーテミス兵たちに指示を出しながら敵の配置などを確認していた。


「急げ! 敵はいつ動き出すか分からないぞ」


 ログズは大きな声で物資を運んだり、バリケードを作るリーテミス兵たちに指示を出し、リーテミス兵たちも急いで作業を進める。少し離れた所ではリチアナが同じようにリーテミス兵や魔法使いたちに指示を出していた。

 ダークたちは望遠鏡などを使って本拠点の作りや防衛力、何処にどれだけの自動人形オートマタが配置されているのかを確かめていた。自動人形オートマタの数は予想以上に多く、アリシアたちは表情を鋭くして拠点を観察している。


「予想よりも拠点が大きいな、自動人形オートマタも四百以上はいる」


 鷲眼の能力で敵拠点の様子を窺っていたダークは少し面倒そうな口調で呟き、周りにいたアリシアたちも真剣な表情を浮かべて望遠鏡を覗いている。特にバーミンは多すぎる敵を見て奥歯を噛みしめていた。


「大荒野に来るまでにかなりの数の敵を倒したにもかかわらず、まだ四百以上の敵がいるとは……やはり情報部が得た敵戦力の数は外れていたか」

「それは仕方がねぇと思うぜ? 最前線の敵の数ならまだしも、本拠点の敵の数を調べるのは難しいからな」


 敵の正確な戦力を知ることができかったことを悔しがるバーミンにジェイクがフォローするように声を掛ける。バーミンはジェイクの言葉で少しだけ気持ちが楽になったのかジェイクの方を向いて感謝するように軽く頭を下げた。

 自動人形オートマタの動きを見張っていたダークたちは自動人形オートマタたちが自分たちの方を向いて陣形を組んでいるのを目にする。ダークは鷲眼を解き、アリシアたちも望遠鏡を下ろして敵拠点をジッと見つめた。


「敵がこちらに陣を張っておる。どうやらこちらの存在に気付いたようじゃな」

「何だ、もう気付いちゃったの? 折角気付かれないように取り囲んで奇襲を仕掛けようと思ってたのに」


 早くも敵に存在を気付かれてしまったことにレジーナは少し不満そうな顔をする。マティーリアもレジーナと同じ気持ちなのか、悔しそうに舌打ちをした。


「大方、敵の司令官が拠点から離れた所も念入りに見張るよう指示を出していたのでしょう。でなければ自動人形オートマタたちがこれだけ離れている僕らに気付くことなんてできませんもの」

「敵の司令官、かなり用心深いってことね」


 自動人形オートマタを指揮する敵の司令官がそれなりにできる存在だと感じたレジーナは両手を腰に当てながら鋭い目で拠点を見つめた。アリシアたちも油断せずに挑んだ方がいいと感じながら自分たちの得物を握る。


「ダーク陛下、いかがいたしますか?」


 バーミンがダークの方を向いて尋ねると、ダークは前衛の青銅騎士たちを見た後に周りで作業をするリーテミス兵たちを確認してからバーミンの方を向く。


「準備が整い次第、リンバーグの能力で全員を強化し、まずは青銅騎士たちを突撃させる。ある程度敵の数を減らしたら私たちも自分が指揮する部隊と共に突撃し、敵の拠点に突入する。そして、敵司令官を捕らえる」

「分かりました。捕らえるのが無理なら、殺害するしかありませんか?」

「場合によっては、殺すしかないだろう。しかし、できるのなら生け捕りにした方がいい。その司令官から色々聞き出さなくてはいけないからな」


 リーテミス共和国に宣戦布告をした少女のことやLMFプレイヤーのことを聞き出したダークは司令官だけは何としても捕らえたいと思っていた。

 しかし、生け捕りにすることを優先して戦況が悪くなるような場合は司令官を殺害することも仕方がないと考えている。もっとも殺害してしまった場合は蘇生用のマジックアイテムを使って蘇らせればいいだけのことだった。


「分かりました。では、敵司令官は生け捕りにするという方針で進軍します」

「何度も言うようだが、油断はするな? こちらの方が戦力は上だが、敵にはまだ我々の知らない未知の敵がいる可能性がある。油断していると一瞬で戦況が逆転してしまうぞ」

「ハイ」


 ダークの忠告を聞いたバーミンは頷き、作業をするリーテミス兵たちに指示を出しに向かう。残ったダークはアリシアたちの方を向くと目を薄っすらと赤く光らせた。


「皆、いよいよ自動人形オートマタたちとの決戦だ。敵に中には自動人形オートマタを召喚できる未知のモンスターがいるはずだ。油断せず、全力で挑めよ?」

「ああ、分かっている」

「任せてください」


 アリシアとノワールが力の入った声で返事をし、レジーナたちも無言で頷く。ダークたちは視線を敵拠点に戻して得物を手に取る。ダークたちは既にいつでも戦える体勢に入った。

 それからしばらくして、リーテミス兵たちの作業が終わり、ダークたちは戦闘を始められる状態になった。準備が整うとリンバーグは部隊の兵士全員にライズクックを発動し、全てのステータスを強化する。自身が強くなったのを感じ取ったリーテミス兵たちは士気が高まり、武器を握りながら遠くにいる自動人形オートマタを見つめた。

 全員のステータスが強化されるとダークは持っている大剣を掲げてから切っ先を敵拠点に向ける。その直後、前線の青銅騎士たちは敵拠点に向けて進軍を開始した。


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