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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十九章~古代文明の戦闘人形~
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第二百八十五話  人形を破壊する者たち


 拠点の中央ではダークが大剣を振り回して自動人形オートマタを薙ぎ払っている。既にダークの周りには数十体の自動人形オートマタの残骸が転がっており、ダークが一人でかなりの数の自動人形オートマタを倒したのが一目で分かった。

 自動人形オートマタたちは少し距離を取ってダークを取り囲んでいる。地上ではOM01とOM02が、空中ではOM03がダークを見つめながら構えているが、大勢の仲間を倒されたことで警戒しているのか、一斉に攻撃を仕掛けるようなことはしない。


「……感情を表に出さないのに警戒心はあるみたいだな」


 大剣を構えながらダークは自分を取り囲む自動人形オートマタたちを見て呟く。自分と同じLMFの世界の存在だが、ダークも自動人形オートマタのことを全て知っているわけではないので、敵を警戒する自動人形オートマタを見て意外に思っていた。

 ダークは視線だけを動かして自動人形オートマタの動きを警戒する。するとダークの背後にいた二体のOM01がダークに向かって突撃してきた。ダークとの距離を縮め、OM01たちは同時に剣を振ろうとする。だが、OM01たちが攻撃するよりも先にダークが振り返りながら大剣を振ってOM01たちを腹部から両断した。


「フッ、警戒心だけではなく、背後から攻撃しようという悪知恵もあったようだ」


 倒したOM01たちを見ながらダークは小さく笑う。そんなダークに今度は空中のOM03の一体がビーム砲を向けて光線を撃った。

 ダークはOM03の方を向くと素早くその場を移動して光線をかわし、攻撃してきたOM03の真下に移動する。そして勢いよくジャンプしてOM03と同じ高さまで上がると大剣で袈裟切りを放ち、OM03を斬り捨てた。

 倒されたOM03は真っ逆さまに落ちて行き、地上に落下すると粉々になった。それを空中で見届けたダークはすぐに顔を上げて周囲を確認する。周りには三体のOM03が正面、右、左斜め後ろの三方向からダークを取り囲むように飛んでいた。

 OM03たちはビーム砲をダークに向けると一斉に光線を発射する。だがダークは空中で体を強引に回転させながら大剣を振り、OM03の光線を全て掻き消す。普通の剣士では不可能なことだが、高レベルのダークにはそれが可能だった。


「チッ、やはり空中で戦うのは少々分が悪いな」


 空中戦では自分が不利であることを呟きながらダークは落下していき、地上に下り立つと素早く空中と地上の敵位置を確認した。空中ではOM03たちがダークを見下ろし、地上ではOM01、OM02たちが取り囲んで構えている。


「地上の自動人形オートマタはある程度片付けたが、空中にはまだ面倒OM03が沢山いる。ジェイクたちが来る前にもう少し数を減らしておこうと思っていたが、今の状態では難しいな……」


 ダークは自分が身に付けている漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーと真紅のマントを見つめてから再び視線を空中のOM03たちに向ける。OM03たちは空中からビーム砲を向けてまた光線を撃とうとしていた。


「装備を変更している暇はないな……仕方がない、攻撃用のマジックアイテムを使うか。こんな奴らに使いたくはなかったが、効率よく戦いを終わらせるためだ」


 不満そうな声を出しながらダークはポーチに手を入れてマジックアイテムを取り出そうとする。すると、拠点の外から大きめの火球が飛んできて空中にいるOM03の一体に命中し、爆発した。

 空中の爆発に反応してダークは上を向き、地上の自動人形オートマタたちも無表情で上空を見上げる。そんな中、地上の自動人形オートマタたちが何かに気付き、一斉に拠点の外を見た。そして、300m程離れた所に拠点に向かって走ってくるジェイクたちとリーテミス兵、青銅騎士の集団を確認した。

 自動人形オートマタたちは突撃してくるジェイクたちを迎え撃つためにジェイクたちに向かって行く。勿論、ダークをそのままにするつもりもなく、十数体はダークを取り囲んだまま動かずにいた。ダークは自分を包囲する自動人形オートマタたちを見ると、薄っすらと目を赤く光らせて大剣を両手で構える。


「ジェイクたちが来たのならマジックアイテムを使わなくても何となるな。なら、このまま戦いを続けるとしよう」


 ダークは自分の周りにいる自動人形オートマタを片付けるため、大剣を強く握りながら正面にいる自動人形オートマタに向かって走り出した。

 ジェイクたちも自動人形オートマタと戦うために拠点に向かって走っている。先頭には馬に乗ったジェイクとリチアナがおり、その上空をリンバークが飛んでいた。そして三人の後をリーテミス兵たち、その後を青銅騎士たちとヘルマリオネッターが続く。

 拠点に向かって進軍して行くとジェイクたちは拠点から出てくる大勢の自動人形オートマタを目にする。自分を迎撃するために出てきた自動人形オートマタたちを見てジェイクとリンバークは目を鋭くし、リチアナもいよいよ自動人形オートマタと戦うのだと感じて真剣な表情を浮かべた。両軍は敵に向かって走り続け、遂に二つの戦力がぶつかり戦いが始まる。

 自動人形オートマタ側は最も接近戦を得意とするOM01が前に出て剣で攻撃し、リーテミス兵たちも剣や槍を使って迎撃する。リーテミス兵たちは英雄級の力を持つ自動人形オートマタ相手にどこまで戦えるのか不安を感じながらも交戦した。

 すると、戦いを始めた直後にリーテミス兵たちは違和感に気付く。英雄級の力を持つ敵の攻撃を武器で防いだ時、強い衝撃や重さを一切感じなかったのだ。

 普通、自分よりもレベルの高い敵の攻撃を武器や盾で防いだ時、その攻撃による強い衝撃や重さに怯んで態勢を崩すことがある。しかし、リーテミス兵たちはその衝撃や重さを殆ど感じなかったのだ。

 これまでに自動人形オートマタと交戦した仲間からの報告では、自動人形オートマタの攻撃は強力で盾や防御魔法で防いでも防ぎ切れないと聞いていたが、それほど強い攻撃ではなかったため、リーテミス兵たちは驚いていた。


「ど、どうなってるんだ? 思っていたよりも攻撃が軽いぞ?」

「ああ、剣でも簡単に防げちまう」


 OM01の攻撃を剣で防いでいたエルフのリーテミス兵とリザードマンのリーテミス兵は自動人形オートマタの攻撃が軽いことを意外に思っていた。周りにいる他のリーテミス兵たち同じ反応を見せながらOM01たちと交戦している。

 どうして英雄級の力を持つ自動人形オートマタの攻撃を簡単に防げるのか、エルフとリザードマンのリーテミス兵が不思議に思っていると、二人が交戦している二体のOM01がもう片方のガントレットに付けている剣で攻撃してきた。攻撃に気付いたエルフとリザードマンのリーテミス兵は咄嗟に攻撃を回避して剣で反撃する。

 二人の剣はそれぞれが相手をしていたOM01の腕や胴体を切り裂き、OM01たちは攻撃で怯んだのか後ろに下がる。自分たちの攻撃で自動人形オートマタが怯んだことに驚いたのか、エルフとリザードマンのリーテミス兵は呆然とした。


「お、おい、俺たちの攻撃で人形が怯んだぞ」

「俺らって、こんなに強かったのか?」


 自分たちが自動人形オートマタを怯ませたことが信じられないのか、二人はまばたきをしながらOM01たちを見ていた。他のリーテミス兵たちも二人と同じように相手をしているOM01たちを攻撃して怯ませたり、一撃で倒したりしている。青銅騎士や白銀騎士たちも自動人形オートマタたちを倒していき、リーテミス兵は予想外の戦況に言葉を失った。

 リーテミス兵たちが自動人形オートマタを押しているのは勿論、リンバークのライズクックによる身体能力の上昇が原因だ。今まで自動人形オートマタ相手に苦戦していたリーテミス兵たちを互角に戦えるほど強化したのを見れば、ライズクックがどれだけ強力なのかはよく分かる。だが、リーテミス兵たちはそのことに気付いておらず、ただ自動人形オートマタと戦うことに集中していた。

 前線でリーテミス兵や青銅騎士たちがOM01たちと互角の戦いを繰り広げている時、OM01の後方ではOM02たちが前線のリーテミス兵たちを攻撃するために魔法を発動しようとしていた。

 OM02たちはマジックポッドの蓋を開けるとリーテミス兵に向けて電気の矢や真空波、無数の雹を放って攻撃する。魔法は真っすぐリーテミス兵たちに向かって行き、魔法に気付いたリーテミス兵たちは目を見開く。OM01と戦闘中であるため、回避はできないとリーテミス兵たちは感じた。


万能の盾マイティシールド!』


 リーテミス兵たちの後方から声が聞こえ、その直後に無数の橙色の障壁が展開され、OM02の魔法からリーテミス兵たちを護った。

 魔法を防いだ障壁にリーテミス兵たちは驚き声の聞こえた方を向く。そこには杖を構えているリーテミス軍の魔法使いたちの姿があった。後方支援を任されている魔法使いたちが防御魔法でリーテミス兵たちを護ったのだ。

 リーテミス兵たちを護ることに成功した魔法使いたちは杖を遠くにいるOM02たちに向け、反撃の魔法を発動させた。


火炎弾フレイムバレット!」

電撃の槍エレクトロジャベリン!」

岩の射撃ロックショット!」

凍結突撃槍フリーズランス!」


 魔法使いたちは大きめの火球、青白い電気の槍、先端の尖った岩、氷の槍など、様々な魔法をOM02に向かって放つ。魔法はOM02に命中して粉々に破壊するが、一部の魔法は避けられてしまいOM02を倒すことはできなかった。

 だが、それでもそれなりの数を破壊することができ、魔法使いたちは自分たちの魔法で自動人形オートマタを倒せたことに驚いている。


「す、凄い、中級魔法なのに一撃で倒せちまった……」

「こっちもよ、どうなってるの?」

「もしかして、今の俺たちって自動人形オートマタを倒せるくらい強くなってるのか?」


 魔法使いたちは自分の手や持っている杖を見ながら驚きの表情を浮かべる。彼らもリンバーグの能力で強化されており、いつもは苦戦する自動人形オートマタを倒すことができた。

 自動人形オートマタを倒せたことで士気が高まったのか、魔法使いたちは再び魔法を発動させて自動人形オートマタを攻撃する。前衛のリーテミス兵たちも魔法使いたちを見てより闘志を燃やし、目の前のOM01を戦う。

 リーテミス兵たちの士気が高まったことで自動人形オートマタたちは徐々に押し戻されていき、リーテミス兵たちは一気に押し切ろうと声を上げながら進軍する。その光景を目にしたリチアナは目を見開いて驚いていた。


「へ、兵士たちが自動人形オートマタを相手にあそこまで戦うなんて……」


 リチアナは馬の上で騎士剣を握りながらリーテミス兵たちの活躍に目を奪われる。その隣ではジェイクが同じように馬に乗ってタイタンを握りながらリーテミス兵たちを見ていた。


「まさかここまで強くなるとはな、リンバーグの能力は俺らが思っている以上に強力みたいだ」


 そう言ってジェイクは頭上を飛ぶリンバーグを見上げ、ジェイクに見られていることに気付いたリンバーグは小さく笑う。そんな時、二体のOM01がジェイクとリチアナに剣で攻撃を仕掛けてくる。ジェイクとリチアナはOM01の接近に気付くと素早くOM01たちの方を向いた。


「人が喋っている最中に攻撃してくるんじゃねぇよ」


 ジェイクは不満そうな顔をしながらタイタンで剣を弾くと真上から振り下ろして反撃し、OM01を脳天から真っ二つにした。両断されたOM01は無表情のまま倒れ、そのまま動かなくなる。

 リチアナも騎士剣でOM01の剣を防ぐと素早く騎士剣を二度振ってOM01の胴体と頭部を斬る。OM01は機能を停止し、ゆっくりと仰向けに倒れた。


「こ、こんなに簡単に……」

「なっ? お前たちは確実に強くなってるだろう?」

「え、ええ……でも、いくら特殊な能力で強化されてるからってこんなにアッサリ……もしかして、自動人形オートマタは思っているほど強くないのでは……」

「馬鹿を言うな」


 自動人形オートマタの強さを疑うリチアナにジェイクが真剣な顔をしながら話しかけ、ジェイクの顔を見たリチアナは思わず口を閉じる。


「冗談抜きで自動人形オートマタは英雄級の強さを持ってるんだ。もしリンバーグの力で強化されずに戦っていたら、今頃地面に倒れていたのは俺らだったかもしれないぜ?」


 そう言いながらジェイクは自分が倒したOM01を見下ろし、リチアナはOM01を見ながら息を飲む。

 これまでの戦いでリーテミス軍が連敗していること、ノーケ村で自動人形オートマタがリーテミス兵たちを圧倒していたことを考えると、自動人形オートマタがとてつもない力を持っているのは明白だった。自分たちが自動人形オートマタを難なく倒したことからそのことを忘れてしまっていたリチアナは自分の考えが愚かだと感じる。


「……すみません、自分が強くなっていたため気を抜いていました」

「気を付けな? 戦場ではそう言った油断が一番危険なんだからな」

「ハイ!」


 ジェイクの忠告を聞いたリチアナは力強く返事をし、その光景を上空で見守っていたリンバーグはビフレスト王国とリーテミス共和国が少しずつ良い関係を築いていると感じて笑みを浮かべていた。

 ジェイクたちは勢いを弱めることなく地上にいる自動人形オートマタたちを攻撃していく。すると、上空から七体のOM03がリーテミス兵や青銅騎士たちに向かって光線を放つ。

 光線はリーテミス兵たちの近くの地面に命中し、爆発してリーテミス兵たちや魔法使いたちを吹き飛ばす。幸い直撃ではなかったので死者は出なかったが、何人かは爆発で傷を負ったり体勢を崩してしまった。


「チッ! 空中からの攻撃か、厄介だな」


 OM03を睨みながらジェイクは奥歯を噛みしめる。リチアナも空中から攻撃してくるOM03を見て緊迫した表情を浮かべていた。

 普通は魔法で撃ち落とすべきなのだが、今OM03たちがいる場所は魔法や弓矢が微妙に届かない高さなのでどうすることもできなかった。


「私が行きます!」


 空中からの攻撃を防ぐため、リンバーグはOM03に向かって飛んでいく。OM03たちは近づいて来るリンバーグに気付くとビーム砲をリンバーグに向け、一斉に光線を放って迎撃する。

 リンバーグは光線を華麗に回避しながらOM03たちとの距離を縮めていき、ある程度まで近づくと両手を腰に回して包丁を取り出す。リンバーグはOM03たちの位置を確認し、一番近くにいるOM03に近づくと右手に持つ包丁でOM03を攻撃した。

 包丁はOM03を左肩から右腰まで切り裂き、OM03は表情を微塵も動かすことなく落下していく。リンバーグは落ちていくOM03を見下ろしながら右手の包丁を軽く振る。


「私は味方を支援するモンスターですが、決して弱くはありません?」


 リンバーグは届くはずのない言葉を落下していくOM03に向けながら両手の包丁を手の中でクルクルを回す。包丁を回すところからリンバーグにはかなり余裕があるようだ。

 仲間が倒されたのを見た周りのOM03たちは素早くリンバーグに近づいて取り囲み、至近距離から光線を撃とうとする。するとリンバーグは回していた包丁を握り、両腕を横に伸ばした。


魔丁独楽まちょうこま切り!」


 リンバーグは力の入った声を出すと、勢いよく体を横に回転させる。すると、周りにいたOM03たちの体は横から切られ、ぶつ切りにされた野菜のようにバラバラになった。

 <魔町独楽切り>はデビルコックが使う攻撃能力で体をコマのように回転させて周りにいる敵を攻撃することができる。攻撃範囲は狭いが、攻撃力が高く同レベルの敵にも大ダメージを与えることが可能な技だ。

 バラバラにされたOM03たちは落下していき、空中にOM03はいなくなった。リンバーグは周囲を見回して他にOM03がいないのを確認すると軽く息を吐く。


「これで地上の方々は空中からの攻撃を気にせず戦えますね。地上の自動人形オートマタと違い、空中の自動人形オートマタが少なくて助かりました。さて、地上の方は……」


 脅威が一つ消えて安心したリンバーグは地上の様子を確認する。地上では大勢のリーテミス兵や青銅騎士たちがOM01とOM02を相手に激しい戦いを続けていた。

 自動人形オートマタは多くが倒されており、戦況はリーテミス軍の優勢に傾いている。だが、それでも何人かのリーテミス兵は負傷しており、青銅騎士も倒されていた。戦いはまだ気を抜くことができない状態にある。


「……やはりライズクックで強化しているとはいえ、圧倒的有利に戦うことはできませんか。このままのペースで戦うと、こちらの被害が増えてしまう。これ以上犠牲を出さないためにも、急いで全ての自動人形オートマタを倒さなくては!」


 リンバーグは地上部隊に加勢するために急降下して仲間の下へ向かい、降下するとすぐに近くにいる自動人形オートマタに近づいて攻撃した。

 リーテミス兵たちは持てる力全てを使って自動人形オートマタを一体ずつ倒していく。青銅騎士や白銀騎士、黄金騎士も黙々と自動人形オートマタを戦い、少しずつ数を減らしている。そして、戦いの要であるヘルマリオネッターも魔の傀儡糸を発動して自動人形オートマタを操って戦い、確実に自動人形オートマタの数を減らしていった。

 ジェイクとリチアナも馬に乗りながらタイタンと騎士剣を振り回して近づいて来る自動人形オートマタを倒していく。だが、強敵と長時間戦っているせいか、徐々に疲労が顔に出てきた。


「チッ、さすがに英雄級の力を持つモンスターを何体も相手にしていると疲れるな」

「いくら力が増して互角に戦えるようになっても、これは少しキツイですね」

「ああ、早いところ決着をつけねぇとな」


 面倒そうな顔をしながらジェイクはタイタンを勢いよく振って目の前にOM01の首を刎ねる。頭部を失ったOM01は膝を付いて前に倒れ、二度と動かなくなった。

 ジェイクとリチアナが周囲のOM01たちを相手にしていると、OM01たちの後方数m離れた所に三体のOM02が現れ、マジックポッドの蓋を開ける。そして、赤いレンズをジェイクとリチアナに向けて魔法を発動させる体勢を取った。


「ジェイク殿、魔法を撃つ自動人形オートマタがこちらを狙っています!」

「マズいな、一度二手に分かれて魔法を回避するぞ!」


 OM02の攻撃を避けるためにジェイクとリチアナはその場を移動しようとする。だが、OM02たちの準備が早く終わり、三体のOM02はジェイクとリチアナに魔法を放とうとした。すると、三体のOM02は何者かに斬られ、魔法を放つ前に倒されてしまう。

 ジェイクとリチアナはOM02が倒されたことに驚きの反応を見せる。OM02たちの後ろを見ると大剣を握るダークが立っており、ジェイクとリチアナはOM02たちはダークに倒されたのだと知った。


「苦戦しているか?」


 ダークはジェイクとリチアナを見ながら尋ねると、ジェイクはダークが助けてくれたことが嬉しいのか、彼を見ながらニッと小さく笑う。


「少しだけ、苦戦してましたよ」

「そうか、なら加勢しよう。こっちは粗方片付いたからな」

「助かります」


 ジェイクは笑いながらダークに感謝し、ダークは大剣を構え直すと自動人形オートマタが多く集まっている場所に向かう。

 ダークが加勢する姿を見たリチアナは呆然としている。まだ拠点には大勢の自動人形オートマタがいたはずなのに、それをを倒して自分たちと共に戦ってくれるダークにとても驚いていた。いったいダークはどれほどの力を持っているのか、リチアナは心の中で疑問に思う。

 それからダークが加わったことでリーテミス軍の勢いは更に強くなり、自動人形オートマタは一気に数を減らしていく。そして、拠点の外にいた自動人形オートマタを全て倒すと、ダークたちは拠点に突入し、僅かに残っている自動人形オートマタを倒して拠点を完全に制圧した。


――――――


 拠点の制圧が完了するとリーテミス兵たちは拠点内で負傷者の手当てをしながら生き残っている自動人形オートマタがいないか確認する。青銅騎士たちもリーテミス兵と共に拠点の外に出て周囲を警戒した。

 リーテミス兵たちは今まで連敗していた自動人形オートマタに勝利したことが信じられないのか、少し困惑したような表情を浮かべている。だが中には勝利を喜び満面の笑みを浮かべる者や今回の勝利で自信をつけた者もおり、確実にリーテミス兵たちに影響を与えていた。

 ダークはジェイクとリチアナの二人と共に拠点の中央で今後の進軍方針を話し合っていた。ダークは地図を広げて大荒野までの最短ルートを確認し、隣ではジェイクとリチアナが同じように地図を見ている。


「短時間で大荒野に向かうのでしたら、やはり真っすぐ西へ向かうのが一番でしょう。ですが、敵が我々の進軍を警戒して防衛線を張っている可能性もあります」


 地図を指差しながらリチアナは大荒野までの道のりや敵が待ち伏せしている可能性があることをダークとジェイクに説明する。二人も防衛線を張られている可能性は高いと考えながら地図を見ていた。

 自動人形オートマタは複雑な命令は実行できないが、敵への攻撃や拠点の防衛といった単純な行動はできるため、防衛線を張り、進軍してきた敵を迎撃することも可能だ。三人はそれを計算して敵が防衛線を張っていると考えていた。


「防衛線を張るのなら、敵を大荒野に近づけず、効率よく補給できる場所に張るべきだろう。となると、三つの拠点と大荒野の中間あたりだな」


 ダークは自動人形オートマタが防衛線を張る場所を予想し、ダークの説明を聞いたジェイクとリチアナは納得の表情を浮かべた。


「防衛線となると、三つの拠点ほどではないでしょうが、それなりの戦力が配置されていると思います。万全の状態で進軍した方がいいでしょう」

「だな。あと他の二つの部隊が進軍するタイミングも考える必要があるな。三つの部隊で同時に防衛線を突破すれば敵もこちらの正確な戦力が分からず、敵司令官も混乱すると思うぜ」

「となると、一度他の部隊と進軍する時間について話し合う必要がありますね。急いで馬を走らせて二つの部隊にそのことを伝えます」


 リチアナは他の部隊に話し合いのことを伝えるため、部下のリーテミス兵に指示を出しに行こうとする。するとダークがリチアナの肩にポンと手を乗せて止めた。


「待て、リチアナ殿。他の部隊の状況が分からない状態で兵を向かわせるのは危険だ。もしかしたらまだ自動人形オートマタと交戦中かもしれん」

「た、確かに……」

「それに此処から他の拠点まではかなり距離がある。馬では時間が掛かってしまう」

「では、どうすれば……」


 どうやって他の二つの部隊と連絡を取るのか、リチアナは少し困ったような顔をする。するとダークはリチアナの肩から手を退かしてポーチに手を入れ、水色の四角い水晶、メッセージクリスタルを二つ取り出した。


「ダーク陛下、それは?」


 見たことのない水晶をリチアナはまばたきをしながらた見つめる。リチアナの様子を見たジェイクはこの後どんな反応をするのか想像して小さく笑う。


「コイツはメッセージクリスタル、遠くにいる者と会話ができるマジックアイテムだ」

「えっ! 遠くにいる者と会話が?」


 リチアナは目を見開きながら驚き、ジェイクは予想どおりの反応を見せたリチアナを見て笑いを堪える。

 竜王であるヴァーリガムが支配するリーテミス共和国でも魔法やマジックアイテムの技術は大陸の国家と比べるとやや劣っている。そのため、優れたマジックアイテムもリーテミス共和国には数えるくらいしか存在していない。だから離れた所にいる者と会話ができるというとんでもないマジックアイテムを見せられてリチアナはとても驚いたのだ。


「これを使えばわざわざ遠くにいる部隊と合流しなくてもすぐにむこうの状況を知ることができる。これを使って確認してみよう……ジェイク!」


 ダークはリチアナにメッセージクリスタルの効力を説明すると、メッセージクリスタルの一つをジェイクに向かって投げる。笑っていたジェイクはメッセージクリスタルに気付くと少し驚いた顔をしながらキャッチした。


「お前はバーミン殿に同行したノワールに連絡を入れて部隊の状況を確認してくれ。私はアリシアに連絡を入れる」

「了解」


 返事をしたジェイクはメッセージクリスタルを使用してノワールに連絡を入れる。ダークもジェイクから少し離れるとメッセージクリスタルを使用した。

 使用されたメッセージクリスタルは水色に光り出し、突然光り出すダークのメッセージクリスタルを見たリチアナは目を見開いて驚く。


「アリシア、私だ。聞こえるか?」

「……その声は、ダーク陛下ですか?」

「なっ!? 水晶からアリシア殿の声が……」


 メッセージクリスタルから聞こえてきたアリシアの声にリチアナは思わず声を上げる。本当に遠くにいるアリシアと連絡が取れたのでリチアナはかなり動揺していた。

 リチアナの声を聞いて近くにいたリーテミス兵たちは一斉にリチアナの方を向く。しかし、なぜ声を上げたのか分からず、リーテミス兵たちはただ不思議そうな顔でリチアナを見つめている。

 ダークは驚くリチアナを見た後、一度軽く咳をしてからメッセージクリスタルを見つめてアリシアと会話を続ける。


「そっちの状況はどうなっている?」

「少し前に敵拠点を制圧し終え、今は負傷者たちの手当てをしています。青銅騎士が十数体やられましたが、リーテミスの兵士たちには死者は出ていません。ダーク陛下たちの方はどうです?」

「こちらも制圧完了して負傷者の手当てをしている。もう少ししたらリーテミスの兵士たちに食事をとらせるつもりだ」

「そうですか。ところでノワールたちの方はどうなっていのですか?」

「そっちは今ジェイクがメッセージクリスタルで確認している」


 そう言ってダークは視線をジェイクの方に向ける。ジェイクは持っているメッセージクリスタルに笑いながら語り掛けており、その様子を見たダークはノワールたちの方も拠点を制圧したのだと感じた。


「……どうやら、ノワールたちの方も問題無く拠点を制圧したようだ」

「そうですか。まぁ、ノワールがいるのですから、負けることはありませんよね」

「フッ、そうだな」


 アリシアの言葉にダークも小さく笑った。


「三つの拠点全てを制圧することができた。これで自動人形オートマタたちもしばらくはリーテミス軍を襲うことはないだろう」

「ええ、ですが敵もすぐに拠点を制圧されたことに気付くはずです。その前に敵の本隊を叩かなくてはいけません」

「分かっている。だからできるだけ早く大荒野に向けて進軍する必要がある。だが、敵も防衛線を張っている可能性がため、万全の状態で進軍する必要がある。あと敵にこちらの戦力を知られないようにするため、三つの部隊が同時に進軍した方がいいだろう」

「確かに……では、万全の準備が整い次第、全部隊で大荒野を目指さなくてはなりませんね」

「そうだ、だから何時進軍を再開するか決める必要がある……」


 それからダークはメッセージクリスタルを通してアリシア、ジェイクと通話していたノワールの二人と今後の進軍について話し合う。何時進軍を再開し、どのタイミングで大荒野の敵本拠点を攻撃するか、防衛線が張られていた場合はどのようにして対応するかなど時間を掛けて決めた。

 話し合いが終わると、ダークは二人に無理はしないよう伝えてメッセージクリスタルでの通信を終わらせる。効力が切れたメッセージクリスタルは高い音を立てて砕け散り、リチアナはその光景を見て目を丸くした。


「待たせたな? 思ったよりも話し合いが長引いてしまった」

「い、いえ、問題ありません……それで、今後の方針は?」

「とりあえず、今日はこれ以上進軍せずに休息を取る。夜が明けたら進軍を再開して大荒野を目指す。そして、三つの部隊が大荒野に辿り着いたら一斉攻撃を開始する予定だ」

「しかし、他の二つの部隊と我々とでは大荒野までの距離が違います。しかも防衛線が張られている可能性があるため、同時に攻撃を仕掛けるのは難しいと思えますが……」

「分かっている。だからタイミングを合わせるために先についた部隊は大荒野の近くで待機し、他の部隊が到着するのを待ち、全ての部隊が揃い次第作戦を開始する。道のりなどを考えて、四日以内に辿り着くよう進軍することにしてある」

「よ、四日以内ですか? それは少し期間が短いような気がしますが……」

「心配ない、これまでの進軍時間、そして戦力を考えれば防衛線が張られていたとしても、問題無く大荒野に辿り着ける」


 各部隊の状況から四日でも余裕だと語るダークにリチアナはキョトンとした顔をする。普通なら四日以内に大荒野に辿り着くのは難しいと考えるが、現状から考えると本当に四日以内に全ての部隊が大荒野に辿り着くのではとリチアナは感じていた。

 今後の方針が決まり、ダークたちが解散しようとすると、遠くからリンバーグが金属製のお玉でフライパンを叩く音が聞こえ、ダークたちや拠点内のリーテミス兵たちはリンバーグの方を向いた。


「どうやら食事ができたようだな。今日はもう進軍することはない。食事をとらせ、兵士全員をゆっくり休ませよう」

「えっ、全員ですか? しかし、敵が襲撃してくる可能性があるため、最低限の人数は見張りに付けておいた方が……」

「それは我が軍の騎士たちが引き受ける。貴公たちは気にせず休んでくれ」


 そう言うとダークはリンバーグの方へと歩き出し、ジェイクもその後に続く。残されたリチアナはダークの後ろ姿を見つめながら自分の部下よりも他国の兵士たちを優先的に休ませようとするダークの優しさに感服した。


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