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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十九章~古代文明の戦闘人形~
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第二百八十二話  戦闘人形の恐怖


 ダークたちが徐々に近づいて来るOM03を見上げていると、レジーナたちが亜人や青銅騎士の間を通ってダークたちに駆け寄ってくる。レジーナたちに気付いたダークとアリシアは同時にレジーナたちの方を向いた。


「ダーク兄、じゃなかった……ダーク陛下、こちらにいらっしゃったのですね?」


 普段通りの呼び方でダークを呼ぼうとしたレジーナは慌てて言い直し、ジェイクとマティーリアはまだ慣れていないのか、と言いたそうに呆れ顔になる。リンバーグはまばたきをしながらレジーナを不思議そうに見つめていた。


「ああ、先程敵が現れたとリーテミスの兵士から知らせがあったのでな」

「そうですか……陛下、あれが例の?」


 レジーナが視線だけを動かして空中にいるOM03たちを見ながら少し低めの声を出す。ジェイクたちも目を鋭くして遠くにいるOM03を見つめた。


「そうだ、自動人形オートマタだ。奴らは飛行可能な長距離攻撃タイプのOM03、強さはお前たちとほぼ互角だ」

「俺らと同じ? ということは、奴らはレベル60代の力を持ってるってことですかい?」


 ジェイクの問いにダークは無言で頷き、ジェイクとレジーナは驚きの表情を浮かべる。マティーリアとリンバーグは驚くことなく、黙ってOM03たちを見続けていた。

 今まで遭遇したことのなかった自動人形オートマタという未知の敵が確認できるだけでも三十体、それも全て人間の英雄級に匹敵する実力を持っていることを知り、さすがのレジーナたちもいつも以上に警戒心を強くする。アリシアもフレイヤを強く握りながら自動人形オートマタたちを睨んでいた。


「若殿、奴らは何をしに来たのじゃ? 偵察か?」

「まだ分からん。もしかすると攻撃を仕掛けてくるかもしれない。警戒しておけ」


 ダークの言葉にレジーナたちは自分の得物を握り、いつでも戦闘態勢に入れるようにした。ノワールもダークの肩から降りて少年姿となり、魔法が使える状態になる。


(確認できる敵は三十体のOM03のみ、近くには命令を出す指揮官らしき敵の姿は無い。もし敵がOM03たちだけだとすれば、このノーケ村を制圧するつもりは無いということになる。ならなぜ奴らは俺たちの前に……)


 鷲眼でノーケ村の周囲をもう一度確認しながらダークは今まで拠点を襲撃してこなかった自動人形オートマタがどうしてノーケ村に現れたのか考える。

 もし、敵の指揮官がダークたちから確認できない所にいてそこから指示を出しているのなら拠点を襲撃することも可能だ。だが、そうなると今までリーテミス共和国の町や村を制圧しなかったことと辻褄つじつまが合わない。その点からダークは今回の敵部隊にも指揮官はおらず、村長の村で話した自分の考えが当たっているだろうと感じる。

 敵はノーケ村を制圧しに来たのではない、ダークはそう確信しながら自動人形オートマタたちが現れた理由を考える。すると、ダークの近くでOM03を睨んでいたゴボゴンが周囲にいるリーテミス兵たちを見回しながら声を上げた。


「飛行可能な亜人は飛翔し奴らに攻撃しろ! それ以外の者は弓や魔法で地上から攻撃だ!」


 ゴボゴンがリーテミス兵たちに攻撃の指示を出すのを見てダークやアリシアたちは視線をゴボゴンに向ける。ゴボゴンの近くにいたバーミンやファグレットも驚きながらゴボゴンを見ていた。


「待てゴボゴン、いきなり攻撃を仕掛けるのはマズいぞ」

「何がマズいって言うんだ。奴らは敵だぞ? 敵が拠点に近づいて来たのなら、攻撃するのが普通だろう?」

「ダーク陛下が仰っていただろう。奴らは人間の英雄級に匹敵する力を持っている、そんな敵に真正面から挑む気か? そもそも敵の狙いが分からない以上、迂闊に攻撃を仕掛けるのはよくない。もう少し敵の様子を窺ってから行動した方がいい」

「フン、敵の様子を窺って先手を打たれたらどうするつもりだ? それに例え英雄級でも所詮は三十体、数で押し切れば問題無い」


 自動人形オートマタを警戒するバーミンを見てゴボゴンは不満そうな顔をする。バーミンはさっきまでの話を聞いていなかったのか、と心の中で呆れた。

 敵の数が三十体であることから、ゴボゴンは自動人形オートマタたちが偵察に来たわけではないと確信しており、攻撃される前に自分たちから攻撃を仕掛けた方が有利になると考えていた。しかも数が少ないため、ノーケ村にいる飛行可能なリーテミス兵を全てぶつければ勝てると思っているようだ。


「さっきも言っただろう? 我々は自動人形オートマタたちに何度も敗北した。数で勝っていたはずなのにアッサリと返り討ちに遭ってしまった。今回も同じ結果になるぞ?」

「今までの戦いは敵とこちらの戦力に大きな差が無かったから負けたんだ。だが今回は敵は三十、こっちは村にいる兵士と俺たちが連れてきた兵士を合わせて千以上だ。その内、飛行可能な亜人は四百以上、負けるはずがない!」

「ゴボゴン!」


 あまりにも敵を甘く見ているゴボゴンにバーミンは声に力を入れる。二人の会話を聞いていたファグレットとリーテミス騎士たちは二人の様子を見て思わず距離を取った。


「それにもし押されるような戦況になったら俺とお前が加勢すれば問題無いだろう? ……共闘してくれるビフレスト王国の精鋭様もいるしな」


 ゴボゴンは何処か小馬鹿にするような口調で喋りながらダークたちを見る。ゴボゴンの言い方が癇に障ったのか、レジーナ、ジェイク、リンバーグの三人はジッとゴボゴンを睨む。アリシアとノワール、マティーリアは表情を変えず、無言でゴボゴンを見ていた。


「ゴボゴン、いい加減にしろ。元老院ならもう少し兵士たちの身の安全を――」

「ああぁっ、うるせぇな! 敵の狙いが何であれ、このまま帰すことはできねぇ。先手を打って一気に勝負をつける、分かったな?」


 強引に話を終わらせるゴボゴンにバーミンは奥歯を噛みしめる。ダークたちもゴボゴンの姿を見ながらあまりにも愚かな決断だと感じていた。


「お前たち、早くホークマンやハーピーたちに攻撃するよう指示を出せ。動かせる奴は全員動かして敵を倒せと伝えるんだ」

「ハ、ハイ」


 ダークたちが注目する中、ゴボゴンはそんな視線を気にすることなくファグレットとリーテミス騎士たちに指示を出す。ファグレットたちは元老院の指示に逆らうことはできないため、言われたとおりリーテミス兵たちに指示を出しに向かった。

 ゴボゴンは周りにいるファグレットやリーテミス兵たちにも戦闘態勢に入るよう指示を出し、ファグレットたちは言われたとおり自分の武器を取って戦闘態勢に入る。ゴボゴンが周囲のリーテミス兵たちを確認していると、離れた所でホークマンとハーピーのリーテミス兵たちが飛び上がり、OM03たちに向かって飛んでいく姿が目に入った。

 飛行可能なリーテミス兵たちが動き出したのを見て、ゴボゴンはニッと笑みを浮かべ、バーミンは驚きの表情を浮かべてリーテミス兵たちを見た。


「よしっ! 空中の奴らに近づいたら取り囲んで一気に攻撃を仕掛けろ。地上の奴らは魔法と弓矢で支援攻撃だ」

「ゴボゴン、作戦を考えてもいないのに突撃させるのは愚行だ! すぐに彼らを後退させろ!」


 勝手にリーテミス兵たちを動かすゴボゴンはバーミンは慌てて止めようとする。ゴボゴンは慎重すぎるバーミンを鬱陶しそうな顔で見た。


「ゴチャゴチャうるせぇな、大丈夫だって言ってるだろう。お前はそこで見てろ、あの程度の敵、短時間で全滅させてやる」


 バーミンの制止も聞かず、ゴボゴンはリーテミス兵たちに自動人形オートマタたちに向かって突撃させる。

 この時のゴボゴンは敵の数が少ないことに対する油断と、ダークたちの力を借りずに敵を倒して見せるという対抗心から自動人形オートマタが危険な存在とは微塵も思ておらず、バーミンの言葉や耳を貸そうとしていなかった。

 バーミンは話も聞かず、勝手に攻撃を始めようとするゴボゴンを睨みながら握り拳を作り、ダークたちも何も考えずに兵士たちを敵に向かわせるゴボゴンを哀れむような様子で見ていた。

 ダークたちがゴボゴンに注目している間、飛び上がったホークマンとハーピーのリーテミス兵たちは真っすぐOM03たちに向かって行き、地上のリーテミス兵たちもOM03たちの方へ歩き出す。

 空中のホークマンは剣と弓の両方を、ハーピーは弓のみを装備して少しずつ距離を縮めていく。そして一定の距離まで近づくとリーテミス兵たちはOM03たちを取り囲むために二手に分かれる。


「取り囲んだらすぐに攻撃できるよう、弓を持つ者は構えておけ!」


 ホークマンのリーテミス兵の一人が仲間に聞こえるよう大きな声で指示を出し、それを聞いた他のリーテミス兵たちは言われたとおり弓と矢を構える。そんな中、移動していたOM03たちが前を向いたまま空中で止まった。

 突然動きを止めた敵を見てリーテミス兵たちは意外に思うが、すぐに取り囲むチャンスと考えて飛行速度を上げる。やがて、空中のリーテミス兵たちはOM03たちを取り囲み、弓を装備している者たちは全方位からOM03たちを狙う。地上でもエルフのリーテミス兵たちが弓矢や杖を構えて地上からOM03たちに狙いを付けた。


「よし、取り囲んだ。これでもう奴らに逃げ場はない」


 地上から空中の様子を窺っていたゴボゴンが勝利を確信し笑みを浮かべる。その隣ではバーミンが目を鋭くしてOM03たちを見上げていた。

 バーミンは今までの戦いからこれで自動人形オートマタたちを倒せるとは思っておらず、何か嫌な予感がしていた。ダークたちも何かあると感じ、OM03たちを警戒しながら戦う準備をしている。


「よしっ! しっかりと狙いを定めろ。奴らを一体も残さずに撃ち落とせぇ!」


 ゴボゴンが大きな声で命令を出すと、空中からゴボゴンを見ていたホークマンのリーテミス兵がOM03たちの方を向き、持っている剣を掲げる。同時に弓矢を持つリーテミス兵たちは強く弓を引き、地上のリーテミス兵たちもいつでも矢と魔法を放てる状態に入った。

 全ての攻撃準備が整い、それを確認したホークマンのリーテミス兵が視線をOM03たちに向ける。


「総員、放……」


 ホークマンのリーテミス兵が攻撃命令を出そうとした、次の瞬間、OM03たちが一斉に目を緑色に光らせ、素早く自分たちを取り囲む空中のリーテミス兵たちの方を向いて肩についている二本の筒状の物の先をリーテミス兵たちに向ける。すると、筒状の物の先端がライトグリーンに光り出し、全てのOM03たちは先端からライトグリーンの光線が勢いよく放たれた。

 OM03たちの光線はもの凄いで放たれた先にいたホークマンやハーピーのリーテミス兵たちの体を貫き、光線を受けたリーテミス兵は真っ逆さまに落ちて行く。しかしそれだけでは終わらず、OM03たちは光線を放ったまま体の向きを変え、他のリーテミス兵たちも光線の餌食にしていった。

 迫ってくる光線を受けた空中のリーテミス兵は次々と落下していき、仲間がやられる光景を見た他のリーテミス兵は驚愕する。勿論、地上にいたリーテミス兵たちも目を見開いて驚いていた。


「な、何だあれは? 筒状の物から光線を出してやがる……」

「もしかして、アイツらって魔法が使えるの?」


 飛んでいるホークマンのリーテミス兵とハーピーのリーテミス兵は僅かに震えた声を出しながらOM03たちを見ている。どうやら彼らは自動人形オートマタとの戦闘は初めてで攻撃する姿も今回初めて目にしたようだ。

 仲間が倒されていく光景に空中のリーテミス兵たちは驚きを隠せずにいる。すると、攻撃命令を出そうとしたホークマンのリーテミス兵が驚く仲間を見て声を上げた。


「ひ、怯むな! 数ではこっちが上なのだ、一斉に攻撃を仕掛ければ倒せるはずだ!」


 ホークマンのリーテミス兵の言葉を聞いて周囲のリーテミス兵たちは我に返ったのか、表情を鋭くしてOM03たちを睨む。そして剣を持つリーテミス兵は翼を広げてOM03に突撃し、弓矢を持つリーテミス兵は一斉に矢を放って攻撃した。

 OM03たちは未だに光線を放ってリーテミス兵たちを次々と倒している。だがリーテミス兵の数は多く、減って来ている様子は見られない。にもかかわらず、OM03たちは無表情のまま攻撃を続けた。そんな中、剣を持った一人のホークマンのリーテミス兵が一体のOM03の背後に回り込んで斬りかかろうとする。

 隙を狙って背後から攻撃するので確実に当たるとホークマンのリーテミス兵は確信していた。だがその直後、予想もしていなかったことが起きる。背を向けていたOM03の頭部が180度回転し、リーテミス兵の方を向いたのだ。


「なあっ!?」


 突然自分の方を向いたOM03にホークマンのリーテミス兵は驚愕する。そんなリーテミス兵を見つめたままOM03は体だけを動かしてリーテミス兵に後ろ回し蹴りを放つ。OM03の右足はリーテミス兵の脇腹にめり込むように命中し、蹴りを受けたリーテミス兵は表情を歪めながら蹴り飛ばされた。

 遠距離攻撃だけでなく、近距離攻撃も可能なOM03にリーテミス兵たちは更に衝撃を受ける。だがすぐに気持ちを切り替えて一斉に攻撃を仕掛けた。しかし、OM03たちはリーテミス兵が放つ矢を軽々とかわして光線で反撃し、剣で攻撃してくる者は突きや蹴りで倒していく。リーテミス兵たちの攻撃はまったく当たらなかった。

 空中のリーテミス兵たちは次々と倒されていき、その数は徐々に減っていく。地上にいるリーテミス兵たちも矢や下級魔法で援護するがそれらも全てかわされてしまい、命中したとしても殆どダメージは与えられない。

 一方でOM03たちは空中のリーテミス兵たちと戦いながら地上のリーテミス兵たちにも攻撃し、確実に数は減らしていく。たった三十体の自動人形オートマタに手も足も出ない現状にリーテミス兵たちは徐々に余裕を無くしていく。


「ば、馬鹿な……こんなことが……」


 次々と倒されていくリーテミス兵たちを見てゴボゴンは愕然とする。たった三十体の敵に四百以上の兵士たちが圧倒されている光景を目にしたことでゴボゴンからは先程までの余裕と威勢は完全に消えていた。

 目の前の光景にゴボゴンとファグレット、リーテミス騎士たちは固まり、そんなゴボゴンたちにバーミンが近づいてゴボゴンを軽蔑するような目で見た。


「だから言ったんだ、もう少し警戒して様子を窺った方がいいと。お前が敵の力を見誤った結果がこれだ」

「グ、グウゥゥ……」


 バーミンの言葉にゴボゴンは何も言い返せずに悔しそうな顔をする。ファグレットたちもゴボゴンの指示に従った自分たちの行動に罪悪感を感じているのか、僅かに暗い顔をしていた。

 黙り込むゴボゴンを見ながらバーミンは溜め息をつき、視線をOM03たちと戦うリーテミス兵たちに向ける。空中と地上、どちらのリーテミス兵もOM03の攻撃によってかなりの被害が出ており、このままでは全滅するとバーミンは感じた。


「急いで兵士たちを後退させろ! 負傷者は村の中に避難させ、無事な者たちは防御態勢を取らせるんだ」

「ハ、ハイ!」


 ファグレットはOM03と戦うリーテミス兵たちを後退させるため、近くにいたリーテミス騎士たちに指示を出す。指示を受けたリーテミス騎士たちは急いでリーテミス兵たちに後退するよう伝えに向かう。

 残ったバーミンはもう一度悔しそうな顔をするゴボゴンを見た後、OM03たちの方を向いて右手はOM03たちに向ける。すると、バーミンの右手の中に緑色の魔法陣が展開された。


「兵士たちが後退したら私が魔法で奴らを攻撃する。ゴボゴン、お前にも手伝ってもらうぞ? 奴らが地上の兵士たちを襲おうとしたらお前が兵士たちを護るんだ」

「クッ……分かった」


 ゴボゴンは反論する権利が無いと悟っているのか、悔しそうにしながらもバーミンの指示に従い、近くに落ちていた剣を手に取る。

 バーミンはゴボゴンが戦闘態勢に入ったのを確認するとOM03たちの方を向き、空中のリーテミス兵たちが後退するのを待った。するとそこへダークがやって来てバーミンの肩にそっと手を置く。


「バーミン殿、貴公は下がっていてくれ。此処は私たちが何とかしよう」

「ダーク陛下?」


 自分たちが自動人形オートマタの相手をすると言うダークをバーミンは意外そうな顔をする。隣にいたゴボゴンは少し不満そうな顔をしながらダークを見つめた。


「しかしダーク陛下、奴らは強力な力を持っています。いくら自動人形オートマタのことに詳しくても、ダーク陛下たちでは……」

「フッ、私たちの力を見くびらないでもらいたいな。こう見えてかなり強いのだぞ?」


 ダークは小さく笑いながら背負っている大剣を抜き、隣に立っていたアリシアもフレイヤを抜いて遠くにいるOM03たちを見つめた。レジーナたちも自分の得物を握ってアリシアは少し離れた後方に立っている。どうやら戦う準備が整ったようだ。

 自動人形オートマタたちの力を目にしても動揺などを見せず、堂々とするダークたちを見てバーミンは呆然とする。なぜそこまで強気でいられるのかバーミンとゴボゴンは理解できなかった。

 ダークたちがOM03たちを見ていると、ノーケ村の正門がある方角から足音が聞こえてくる。バーミンとゴボゴン、近くにいるリーテミス兵たちは足音が聞こえた方を向くと、ダークが連れてきた六体のヘルマリオネッターの内の二体が歩いて来る光景が目に入り、バーミンたちは目を見開きながら驚いた。

 ヘルマリオネッターたちはリーテミス兵や青銅騎士たちを踏みつぶさないように歩き、ダークたちの下にやってくる。ダークは視線をヘルマリオネッターに向けると、その巨体を見上げながら目を薄っすらと赤く光らせた。


自動人形オートマタたちが接近したら魔の傀儡糸を使って操り、操っていない自動人形オートマタを攻撃しろ」


 ダークがヘルマリオネッターに命令を出すと、二体のヘルマリオネッターはダークを見ながら返事をするように低い声を出す。アリシアやレジーナたちはヘルマリオネッターの力がどれ程のものなのか気になるらしく、興味のありそうな表情を浮かべていた。

 ヘルマリオネッターたちはゆっくりと向きを変えて遠くにいるOM03たちを見つめる。既にOM03たちを取り囲んでいた空中のリーテミス兵たちは後退しており、OM03たちの周りにはリーテミス兵は一人もいなかった。するとOM03たちはリーテミス兵を追撃するため、ノーケ村に向かって移動を再開する。

 リーテミス兵は迫ってくるOM03たちを見ると目を見開き、急いで村の中へ逃げ込もうとする。バーミンとゴボゴン、ファグレットも緊迫した表情を浮かべながらOM03たちを見ていた。

 ダークたちはリーテミス兵たちが後退する中、その場を動かずにOM03たちを睨んでいる。勿論、青銅騎士たちもその場を動かずにOM03たちを見ていた。

 OM03たちは徐々にダークたちとの距離を縮めていく。一定の距離まで近づくとOM03の中に筒状の物の先端を光らせてダークたちに光線を撃とうとする者が現れる。それを見たダークは大剣をOM03たちに向けた。


「やれ、ヘルマリオネッター!」


 ダークがヘルマリオネッターたちに指示を出すと、二体のヘルマリオネッターは両手の指をOM03たちに向けて指先から銀色の細長い糸を放つ。糸は全部でニ十本あり、一本ずつOM03の体に付いた。

 糸が付いたOM03は口を半開きの状態にして動きを止める。動きを止めたOM03の中には光線を撃とうとした者も入っており、糸が付いた途端に筒状の物の先端から光が消えた。

 ヘルマリオネッターの指から放たれた糸こそが<魔の傀儡糸>、銀色の糸が付いた物質族モンスターやヘルマリオネッターよりもレベルの低いモンスターを自由に操ることができる能力だ。操れるのは両手の指の数と同じ十体までで、LMFでは攻撃や仲間の援護は勿論、操っているモンスターを盾代わりにすることもできる。ただし、プレイヤーやその使い魔を操ることはできない。

 ヘルマリオネッターによって合計ニ十体のOM03が動きを止め、その光景を見たダークは小さく笑う。アリシアたちは何が起こったのか分からずに不思議そうな顔をしていた。


「……攻撃開始!」


 ダークの言葉を合図にヘルマリオネッターたちは両手を指を動かし始める。すると、糸が付いたOM03たちはヘルマリオネッターによって操られ、操られていないOM03たちの方を向いて筒状の物から光線を放つ。光線は操れていないOM03たちに命中し、残っている十体の内、八体のOM03を撃ち落とした。


「な、何だと!?」


 バーミンはOM03が仲間を攻撃する光景を見て驚愕する。ゴボゴンやファグレットも目を見開きながら僅かに震えてOM03たちを見ていた。アリシアたちは本当にヘルマリオネッターが自動人形オートマタを操れることを知って驚くが、それ以上に頼もしさを感じており、全員が笑みを浮かべていた。

 操られていないOM03で生き残った二体は素早く降下し、低空飛行でダークたちの方へ飛んでいく。それに気付いたヘルマリオネッターはOM03を操って残りの二体を攻撃しようとする。


「待て、あの二体は私が片付ける」


 ダークは倒し損ねた二体は自分が倒すとヘルマリオネッターたちに伝え、ヘルマリオネッターは攻撃するのをやめた。ダークは大剣を持って近づいて来るOM03の方へゆっくりと歩き出す。


「ねえ、ダーク兄さんにリンバーグの補助能力を使わなくてもいいの?」


 歩き出すダークを見てレジーナは隣にいるジェイクとマティーリアにそっと小声で話しかける。レジーナもノーケ村に向かう間にリンバーグの能力のことを聞かされており、リンバークが自動人形オートマタとの戦いで仲間を支援する立場だと聞かされていた。


「若殿の強さならリンバークの補助能力は必要なかろぉ? いくらレベル60代に匹敵する力を持つ敵でも若殿にとっては何の脅威にもならん」

「あ~、確かにそうよねぇ……」


 神に匹敵する力を持つダークがたかが自動人形オートマタに負けるはずがないというマティーリアに言葉にレジーナは苦笑いを浮かべた。


「お主は若殿と付き合いが長いのじゃから、それぐらい分かるじゃろう? もう少し頭を使ったらどうじゃ?」

「うっさいわねぇ」


 突っかかってくるマティーリアをジト目で見つめながらレジーナは低い声を出す。ジェイクは何かあるとすぐに口喧嘩を始める二人を見て、変わらないな、と言いたそうに溜め息をついた。

 レジーナたちが喋っている間、ダークはゆっくりと歩き続けており、二体のOM03は無表情のままダークに向かって飛んでいく。一定の距離までダークに近づくと一体のOM03は筒状の物から光線を放ってダークを攻撃した。


「ビーム砲如きで私を倒せると思ったか」


 ダークは目を赤く光らせながら迫ってくるライトグリーンの光線を見つめる。そして、二つの光線が目の前まで迫ってきた瞬間、大剣を左から横に振って二つの光線を切り裂く。光線は強烈な光を放ちながら防がれ、しばらくすると光線が止み、光の中から無傷のダークが姿を現す。

 光線を大剣で難なく防いだダークにバーミンたちは言葉を失う。逆にアリシアたちは流石はダークと心の中で感心していた。

 OM03たちは光線を防がれたのを見ても動揺を見せず、無表情のままだった。そして、再び光線を撃とうと肩のビーム砲の先端を光らせる。


「例え効かない攻撃でも何発も撃たれるのは鬱陶しい。さっさと終わらせてもらうぞ」


 低い声でそう呟いたダークは強く地面を蹴ってOM03たちに向かって跳び、一気に距離を詰める。OM03の目の前まで来たダークは素早く大剣を振って二体のOM03を斬った。

 大剣を受けたOM03の体はバラバラになり、腕や足、頭部は地面を転がっていく。顔や体には罅が入っており、無表情のまま一点だけを見つめている。まるで自分が斬られたことを理解していないかのようだった。

 ダークはOM03を破壊すると大剣を軽く振って転がっているOM03の残骸を見つめる。バーミンとゴボゴンはアッサリと自動人形オートマタを倒してしまったダークを見て大きく目を見開いていた。


「な、何だ今のは? 一瞬にして自動人形オートマタを二体倒してしまうとは……」

「俺ら亜人が手こずっていた敵を簡単に倒すなんて、アイツ本当に人間かよ?」


 バーミンとゴボゴンは声を震わせながらダークが人間なのかを疑ってしまう。しかし、それは亜人である彼らにとっては無理のないことだった。

 ダークが人間よりも力や魔力の強い亜人で高レベルなら一撃で自動人形オートマタを倒しても納得がいく。だが、レベル60が限界である人間がレベル60代に匹敵する強さを持つ自動人形オートマタを一瞬で倒してしまったのだからバーミンとゴボゴンが驚くのは当然だった。

 二人は驚きの表情を浮かべながらダークを見つめている。するとダークはチラッとヘルマリオネッターたちの方を向いて小さく頷く。ヘルマリオネッターたちはダークが頷くのを見ると両手の指を軽く動かし、操っているOM03を動かす。

 OM03たちは操られている仲間同士で向かい合い、肩のビーム砲を仲間に向けてほぼ同時に光線を発射し、OM03たちは同士討ちした。魔の傀儡糸で操ったモンスターは能力を解除すると再び襲って来るため、素早く戦い終わらせるには同士討ちをさせるのが一番だったのだ。

 光線を受けたOM03たちは空中でバラバラになり、残骸は地面に落ちる。ノーケ村に現れた自動人形オートマタは全て倒され、リーテミス兵たちは呆然と残骸を見つめたい。


「私たちの出番は無かったな」


 アリシアは小さく笑いながらフレイヤを鞘に納める。少し離れた所ではレジーナが出番が無かったことを残念に思っているのかつまらなそうな顔をしていた。


「あ~あ、折角戦闘態勢に入ったのに、殆どヘルマリオネッターたちに取られちゃった」

「別にいいじゃねぇか。戦わずに済んだんならそれが一番だろう」

「まあ、お主は戦闘好きだからのぉ、気持ちは分からんでもない」

「ちょっと、誰が戦闘好きよ!?」


 からかってきたマティーリアはレジーナは睨み、マティーリアはそんなレジーナを見て鼻で洗う。ジェイクはまた口喧嘩を始めた二人を見て呆れ果て、リンバーグはクスクスと笑いながらレジーナとマティーリアを見ていた。


「とにかく、今回の戦闘でヘルマリオネッターの力と自動人形オートマタに対して役に立つことがよく分かったわけだ。今後の戦いもかなり楽になるだろうな」

「……確かにのぉ、それにこちらにはまだリンバーグもおる。リンバークの能力があればより有利に戦えるはずじゃ」


 ジェイクの言葉を聞いて、マティーリアは睨んでくるレジーナを無視しリンバークの方を向く。無視されたレジーナはマティーリアを見ながらムスッとするが、彼女もリンバーグの力には興味があり、表情を戻してリンバーグの方を見る。リンバーグは自分が期待されていることに少し照れているのか、笑いながら自分の頬を指で掻いた。


「そう言えば、リンバーグってどんな能力を持っているの? ダーク兄さんはあたしたちを補助する能力だって言ってたけど?」

「私の能力ですか? そうですね……」

「皆さーん!」


 リンバーグはレジーナたちに自分の能力について説明しようとすると、離れた所にいたノワールがレジーナたちの下にやって来た。


自動人形オートマタの残骸の回収と負傷者の手当てをしますので手伝ってください」

「ああ、分かった」


 ジェイクが返事をすると、ノワールは振り返って来た道を戻って行った。


「リンバーグの能力も気になるが、今は戦いの片付けと怪我人の手当てをするのが先だな」

「ちぇ、仕方ないわね」


 リンバーグの能力の詳しい情報を聞けないことにレジーナは再びつまらなそうな顔をする。そんなレジーナの反応を見てマティーリアはやれやれ、と首を横に振った。

 その後、レジーナたちはダークとアリシアに合流し、バーミンたちと共に破壊した自動人形オートマタの残骸の回収と負傷者の手当てを行う。作業中、バーミンたちは驚きの表情を浮かべたまま、ダークやヘルマリオネッターを見ていた。


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