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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十九章~古代文明の戦闘人形~
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第二百八十一話  前線の拠点ノーケ村


 首都ジューオを出発したダークたちは真っすぐ西へと向かった。自動人形オートマタと戦うためには最前線の状況を確認する必要がある。そのため、まずはリーテミス軍が防衛拠点としているノーケという村を目指した。

 平原の中にある一本道をバーミンとゴボゴンが率いるリーテミス軍が移動し、その後をダークたちビフレスト軍がついて行く。リーテミス軍の兵士たちは後ろにいるダークたちをチラチラと見ながら歩いた。

 リーテミス軍はビフレスト軍よりも少し多い千人の大部隊となっており、ドワーフやレオーマンなど肉弾戦を得意とする亜人が七百人、エルフやハーピーのような魔法と弓矢を得意とする亜人、三百人で編成されている。今までの自動人形オートマタとの戦闘情報やビフレスト軍の戦力を計算し、ヴァーリガムと元老院によって再編成されたのだ。


「あと少しでノーケ村だ。このペースなら休息を取らなくても辿り着けるだろう」


 先頭で馬に乗るバーミンは持っている地図を見ながら語り、隣で馬に乗るゴボゴンは前を見ながら無言でバーミンの話を聞いている。ゴボゴンはムスッとした顔をしており、何かに対して不機嫌になっているように感じられた。

 バーミンがゴボゴンの方を向いて彼の顔を見ると呆れ顔になり溜め息をつく。バーミンはゴボゴンが不機嫌そうな顔をする理由が分かっていた。


「……いつまでそんな顔をしているつもりだ? お前だってダーク陛下たちと共闘することに納得したはずだろう」


 ゴボゴンを横目で見ながらバーミンは呆れた口調で声を掛ける。そう、ゴボゴンが不機嫌な理由はダークたちにあったのだ。ヴァーリガムと話し合いをした時はリーテミス共和国を護るために共闘に渋々納得したが、ダークたちは信用したわけではないので不信感から機嫌の悪そうな顔をしていた。

 バーミンに声を掛けられたゴボゴンも視線だけを動かしたバーミンを見つめ、不機嫌そうな顔のまま静かに口を開く。


「確かに共闘することには納得した。だが奴らを信用したわけではない。俺らを裏切ったり、おかしなことをしないよう警戒しておく必要がある」

「まだそんなことを言っているのか。彼らは自動人形オートマタの情報を得ることが目的だ。私たちを裏切っても彼らには何の得もない」

「だから絶対に裏切らねぇって言うのか? 本当に甘い考え方をするんだな」


 ダークたちを信用し切っているバーミンをゴボゴンは鼻で笑い、バーミンは目を細くしながらゴボゴンは見つめる。


「お前が奴らを信じようがそれはお前の勝手だ。だが、俺は信じねぇ。奴らを信用できる奴らだと証明されねぇ限りはな」

「ハァ……勝手にしろ。だがな、兵たちにビフレスト王国の騎士たちを信用するな、などと変なことを吹き込むな? 共闘する以上はお互いに協力し合わなくてはならない。相手と協力し合えない状態で戦場に出ても返り討ちに遭うだけだ」

「そんなこと、お前に言われなくても分かってらぁ。この国を救うために人間どもと共闘するって決めたのに戦いで不利になるようなことはしねぇ」


 ゴボゴンは分かり切っていることを指摘されて不機嫌になったのかバーミンを睨みながら答える。バーミンはそんなゴボゴンを見た後、再び小さく溜め息をついて前を向いた。


(戦いで不利になるようなことはしない? だったら有利に戦えるよう、彼らのことを信じて協力しようと考えるべきだろう)


 心の中でゴボゴンの発言と考えに矛盾を感じながらバーミンは黙って馬を歩かせる。ゴボゴンはバーミンの本心に気付くことなくバーミンの後をついて行く。二人のすぐ後ろにいたリーテミス兵たちは重い空気の中で会話をする二人の元老院を不安そうな顔で見ながらついて行くのだった。

 その頃、ダークたちはリーテミス軍の後をゆっくりとついて来ていた。ダークたちはリーテミス共和国の亜人たちが島の外から来た自分たちに不安や不満を感じていることに気付いており、距離を取って歩く最後尾のリーテミス兵たちをジッと見つめている。


「かなり私たちのことを警戒しているみたいだな」

「ああ、今まで関りを持ったことのない大陸から来たって聞いたんだ。全ての亜人がヴァーリガム殿や元老院のようにすぐに受け入れることはできないだろう」


 最後尾のリーテミス兵たちがチラチラと自分たちの方を向くのを見ながらアリシアとダークは小声で話す。ノワールは子竜の姿に戻ってダークの肩に乗っており、二人の後ろにいるレジーナとジェイクも視界に入るリーテミス兵たちを無言で見つめている。ダークたちの真上を飛んでいるマティーリアとリンバーグは無表情でリーテミス軍を眺めていた。


「こんな調子で自動人形オートマタどもと戦えるのかねぇ? 少し心配になってきたぜ」

「仕方がありませんよ。戦いながら彼らの信頼を得ていくしかないでしょうね」

「ハァ、めんどくさいわねぇ」


 ノワールの言葉にレジーナは表情を歪めながら愚痴をこぼし、ジェイクはそんなレジーナを見ながら肩を竦める。空中のマティーリアは呆れ顔でレジーナを見下ろしており、その隣を飛ぶリンバーグはクスクスと笑っていた。

 ダークとアリシアは後ろから聞こえるレジーナたちの会話を聞くと振り返り、ダークは黙ってレジーナたちを見つめ、アリシアはやれやれと言いたそうな顔をする。そんな中、アリシアの視界に笑いながらレジーナたちを見下ろすリンバーグが入り、ふとアリシアの表情が変わった。


「そう言えばダーク、どうして今回の部隊に料理長であるリンバーグを入れたのだ?」


 普段は王城で料理を作ることが仕事のリンバーグが今回は戦場に出てきたことが不思議でしょうがないアリシアはダークにリンバーグを連れてきた理由を問う。ダークはアリシアの顔を見ると視線をリンバーグへ向けた。


「今回の敵である自動人形オートマタはかなり強敵だ。あらゆる状態異常の耐性があり、攻撃力も移動速度も高い。そんな連中を相手に普通に戦っていたら押し負ける可能性がある。だからこちらが少しでも有利に戦えるよう、リンバーグを連れてきたんだ」

「リンバーグがいれば私たちが有利に戦えるのか?」

「そうだ。リンバーグの種族であるデビルコックは仲間のステータスを強化する能力を複数持っている。それらを使えば青銅騎士たちは勿論、亜人たちも有利に戦えるはずだ」

「成る程」


 リンバーグが強力な補助能力を使えると聞かされたアリシアは納得の表情を浮かべた。リンバークがいればLMFのモンスターである自動人形オートマタとも互角以上に戦えるのだとアリシアは感じる。

 だが、それは逆にリンバーグがいなければ苦戦するほど自動人形オートマタは恐ろしい敵ということを表しており、アリシアは自動人形オートマタと戦う際は絶対に油断してはいけないと考えた。


「リンバーグの力で亜人たちが自動人形オートマタと戦いやすくなれば、彼らも私たちを信用してくれるだろうか?」


 アリシアは前を歩くリーテミス軍を見ながら少しでも距離が縮まればと呟く。ダークは前を向きながら歩いたり、こちらをチラッと見てくる亜人たちを見ながら軽く息を吐いた。


「何とも言えないな。まあ、こちらが向こうに危害を加えるようなことをしなければいつかは心を開いてくれるだろう」

「……とにかく、彼らに信用を得られるように努力しないといけないな」

「ああ、だが青銅騎士たちは喋ることができない。だから実質、私たちだけでコミュニケーションを取らないといけないだろう」


 理性を持ち言葉を話せる者だけで打ち解け合わなければならないというダークの言葉にアリシアは真剣な表情を浮かべて頷く。ノワールも途中から話を聞いていたのか、前を向いてリーテミス兵たちをジッと見つめていた。

 それからダークたちは隊列を乱すことなく静かな平原の中を真っすぐ西に向かって移動し、ノーケ村へ向かった。


――――――


 長い一本道を移動し、ダークたちは目的地であるノーケ村に到着した。その村はそれほど大きくなく、丸太で作られた高い柵で囲まれており、村の中には二十数軒の民家が建てられている。

 村の外側にはリーテミス共和国の紋章が描かれたテントが幾つもあり、その近くではノーケ村に駐留するリーテミス軍の兵士たちが物資の確認や見張りを行っていた。兵士の数は多く、全員が村に入ることはできないので、村の外にテントを張って過ごしているようだ。

 ダークたちが村の入口である門の前まで移動すると、見張りや村の周りにいたリーテミス兵たちは一斉にダークたちに注目する。仲間が見たことのない一団を連れてきたので全員不思議に思っていた。

 バーミンとゴボゴンは馬を降りて入口の見張りと思われるエルフのリーテミス兵に話しかけ、自分たちが最前線に送られた増援部隊であること、大陸のビフレスト王国が共闘してくれることなどを説明する。リーテミス兵は大陸の人間が助力してくると聞いて驚きの反応を見せ、ダークたちの姿を確認した。そして、ダークたちを確認し終えるとリーテミス兵は村の中へ入っていく。

 門の周りにいるリーテミス兵の中には人間が力を貸してくれることに驚く者もいれば、大陸の人間と本当に共闘するのかと不満そうな顔をする者もいる。バーミンはそんなリーテミス兵たちの反応を見て、彼らもゴボゴンのようにダークたちを信用していないのかもしれないと感じた。

 それから十数分後、村の中に入ったエルフのリーテミスが戻って来て指揮官が呼んでいることを伝え、バーミンは指揮官に会うため、ダークたちに一緒に来てほしいと話す。さすがに全員で村に入ることはできないので、ダークはアリシアとノワールの二人を連れて行き、レジーナたちは村の外で待たせ、青銅騎士たちには村の周囲の警戒するよう伝えて村に入った。

 リーテミス兵に案内され、ダークたちは村の中を移動する。ダークたちはバーミンとゴボゴンの後ろをついて行きながら視線だけを動かした村を確認した。村人と思われる亜人たちは民家の中や近くでジッとダークたちを見ている。村人たちは大陸から来た人間に対して興味を持ち、同時に初めて見る人間に不安を感じていた。

 しばらく村の中を歩いて行くと、ダークたちは少し大きめの一軒家に到着した。その一軒家はノーム村の村長の家で、駐留するリーテミス軍の指揮官が本部として使わせてもらっている場所だ。

 ダークたちは静かに扉を開けて村長の家に入った。中には大きめの机を囲んでいる五人の人影があり、一人はリーテミス軍の鎧を身に付け、マントを羽織っている緑色の鱗を持つリザードマンの騎士で、その近くには同じ鎧を身に付けたドワーフ、レオーマン、若いエルフの騎士が立っている。そして、リザードマンの隣には村人と同じような服装をしていた三十代後半くらいのエルフがいた。


「お待ちしておりました」


 リザードマンのリーテミス騎士はバーミンとゴボゴンを見ながら軽く頭を下げて挨拶をする。他のリーテミス騎士たちも二人を見て無言で一礼した。元老院が二人も最前線に来たことに驚いているらしく騎士たちは緊張している。勿論、三十代半ばのエルフもだ。


「貴公が此処の部隊の指揮官か?」


 バーミンがリザードマンのリーテミス騎士に尋ねるとリザードマンのリーテミス騎士は顔を上げ、バーミンを見ながら頷く。


「ハイ、ファグレットと申します。こっちの三人は部隊長を任している者たちです」


 ファグレットと名乗ったリザードマンのリーテミス騎士は周りにいる他のリーテミス騎士たちを紹介する。バーミンとゴボゴンは部隊長であることを知るとリーテミス騎士を見ながら真剣な表情を浮かべた。


「そして、こちらにいらっしゃるのがこのノーケ村の村長です」


 すぐ後ろで待機している三十代半ばのエルフがノーケ村の村長だとファグレットは二人に教え、バーミンとゴボゴンは視線を村長に向ける。


「貴方が村長か」

「ハ、ハイ、こんな小さな村に元老院の方々が来てくださるとは、ありがたいことです」

「やめてくれ、私たちは国を護るために当然のことをしているだけだ」


 感謝する村長を見ながらバーミンは軽く首を横に振る。権力と力を持っているにもかかわらず傲慢な態度などを取らないバーミンの姿を見て、村長はありがたく思っているのか目を閉じながら深く頭を下げた。

 村長がバーミンとゴボゴンに頭を下げる光景を見てファグレットやリーテミス騎士たちは小さく笑う。すると、バーミンとゴボゴンの後ろで待機しているダークたちの姿が目に入り、ファグレットたちの表情が変わる。


「ところでバーミン殿、そちらにいるのが報告で聞いた大陸に存在する国から来た人間たちですか?」


 ファグレットが若干低い声を出しながらバーミンにダークたちのことを尋ねる。声を掛けられたバーミンは振り返り、村長も頭を上げると不安そうな顔でダークたちを見つめた。


「そうだ、ビフレスト王国の国王、ダーク陛下と総軍団長のアリシア殿だ。そして、ダーク陛下の肩に乗っているのが、使い魔のノワール殿だ」


 バーミンはダークたちをファグレットたちに紹介し、ファグレットたちは目の前にいるのが人間の国の王と軍団長という高い地位の存在だと知って驚きの反応を見せた。


「ダーク・ビフレストだ。よろしく頼む、ファグレット殿」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 人間とは言え、一国を治める男が目の前にいるからかファグレットは少し緊張した様子で挨拶をする。他のリーテミス騎士たちもまばたきや目を丸くしながらダークとアリシアを見ていた。

 バーミンはファグレットたちの反応を見て、ダークを警戒したり怪しんだりしてはいないと感じて意外そうな顔をする。指揮官であるファグレットがダークたちに不信感を抱いていないのなら、ノーケ村の兵士たちとは上手くやっていけるかもしれないとバーミンは思った。


「それで、戦況などうなってるんだ?」


 挨拶が終わるとゴボゴンが腕を組んでファグレットに尋ねる。ファグレットはゴボゴンをチラッと見た後、目の前の机に置かれてある地図に視線を向けた。

 地図にはノーケ村や無数の拠点が描かれており、その上にはリーテミス軍を表す白い木の駒が数個置かれてある。そして、地図の西側には敵軍を表す黒い木の駒が数個置かれてあった。勿論、敵の本拠点がある大荒野にも大きめの黒い駒が置いてある。

 ダークたちは机の周りに集まり地図を見下ろす。全員が集まるとファグレットは地図を指差しながら説明を始めた。


「敵は依然として町や村などを襲撃、制圧していません。拠点の外に出ている我が軍の偵察部隊、補給部隊を襲撃し、森や平原などに小さな拠点を築いています」


 ファグレットは黒い駒が置かれてある平原や森を見つめながら敵がどのように動いているのか説明する。バーミンとゴボゴンは戦況に大きな変化が出ていないことから自分たちが不利な状況ではないことを知ってとりあえず安心した。


「奴らが拠点を制圧しない理由は分かったのか?」

「申し訳ありません、その点については未だに……」

「クソォ、奴らは何を考えてやがる。俺らは馬鹿にしてんのか?」


 敵の目的が理解できず、ゴボゴンは苛立ちを露わにする。バーミンやファグレット、リーテミス騎士たちも敵がなぜ拠点を制圧しないのか分からず、難しい顔で地図を見つめた。


「……ダーク陛下、自動人形オートマタたちはなぜ町や村を襲い、制圧しないのでしょうか?」


 バーミンは自分たちよりも敵のことに詳しいダークの意見を聞こうと声を掛ける。ゴボゴンは人間の知識を頼りにするバーミンを見ながら僅かに不満そうな表情を浮かべた。

 ダークは地図とその上に置かれてある駒を見ながら黙り込み、しばらくすると顔を上げてバーミンの方を向いた。


「襲ってきた敵部隊は自動人形オートマタだけで編成されていたのか? それとも自動人形オートマタたちに指示を出す指揮官もいたのか?」

「敵の編成ですか? 今まで得た情報では敵部隊は全て自動人形オートマタだけで編成されていたようです」

「そうか……」


 敵部隊に指揮官はいないと聞かされたダークは俯いて視線を地図に戻す。バーミンはなぜ敵の編成を聞いたのか分からず、小首を傾げてダークを見た。


「あの、バーミン殿。先程から口にしておられる自動人形オートマタと何なのですか?」


 話の内容についていけてないファグレットがバーミンに声を掛けると、バーミンはまだファグレットたちに敵の正体を伝えていないことを思い出し、フッと反応してファグレットの方を向く。


「すまない、まだ話していなかったな。自動人形オートマタというのは我々が今戦っている敵の名だ。遥か昔、大陸に存在していた文明が作り出した人工モンスターだそうだ」

「遂に敵の正体が分かったのですか?」

「ああ、こちらのダーク陛下が情報を提供してくださったのだ」


 バーミンは共闘してくれることになったダークが敵の正体を教えてくれたと語り、ファグレットやリーテミス騎士たちは目を見開きながらダークに視線を向ける。自分たちが突き止めることができなかった敵の正体を知っているダークにファグレットたちは驚いた。


「ダーク陛下は自動人形オートマタの情報を探しておられたので、奴らの情報を手に入れるために我々に力を貸してくださったのだ」

「そ、そうだったのですか」


 ファグレットは驚きの顔のままダークを見つめており、リーテミス騎士たちも本当か、と言いたそうに目を見開いている。

 バーミンたちがダークに注目していると、ダークはゆっくり顔を上げて腕を組む。ダークの反応を見たバーミンたちは何か分かったのか、と言いたそうな表情を浮かべる。


「敵が村や町を制圧しなかった理由だが……恐らくしなかったのではなく、できなかったのかもしれない」

「えっ? できなかった?」


 予想もしていなかった言葉にバーミンは驚き、ゴボゴンやファグレットたちも目を見開く。アリシアも少し意外そうな顔でダークを見ている。


「ダーク陛下、それはどういうことでしょう?」


 詳しい理由を知りたいアリシアがダークに尋ねると、ダークはチラッとアリシアの方を向く。


自動人形オートマタは強力な力を持っているが所詮はモンスターだ。敵との戦闘や仲間の護衛と言った単純な行動はできるが、敵拠点を襲撃した後に敵の指揮官を見つけて捕らえたり、制圧した後に仲間にそれを知らせに行くと言った複雑なことはできない。そのような行動を取るにはそうするよう指示を出す指揮官、もしくは隊長が必要だ」

「……つまり、自動人形オートマタたちは自分たちで考えて行動することができないので、町や村を制圧することができない、ということですね?」

「そのとおりだ。もっとも拠点を制圧せず、壊滅させるだけなら自動人形オートマタたちだけでも可能だがな」


 ダークの話を聞き、アリシアは自動人形オートマタたちが拠点を制圧しない理由に納得する。バーミンやファグレットたちもダークを見ながら意外そうな表情を浮かべた。

 複雑な行動を取れない自動人形オートマタでは町や村を制圧することはできない。だからと言って壊滅させてしまったらその拠点や住民、物資など全てを失ってしまい、リーテミス軍だけでなく敵も損することになる。

 それなら拠点には手を出さず、拠点の外にいるリーテミス軍を攻撃して戦力を削ぎ、誰もいない森や平原に仮拠点を気付いたほうが進軍しやすいと言えるだろう。


「では、敵には司令官はいても、前線で自動人形オートマタたちに指示を出す指揮官はいない、ということですか?」

「断言はできない。もしかすると他に理由があってわざと制圧しないのかもしれないしな」

「その理由とは?」

「さあな、それは私にも分からない」


 バーミンの問いにダークは静かに答える。バーミンの隣で話を聞いていたゴボゴンは目を細くしながら無言で腕を組む。


(フッ、所詮人間の知恵じゃ確実な答えを見つけることはできねぇか。例え敵の情報を持っていたとしても人間じゃそれが限界ってことだな)


 間違い無いと断言できないダークを見ながらゴボゴンは心の中で見下すように呟いた。


(この程度のことも分からねぇようじゃ、やはり使い物にならねぇな。戦闘になってもコイツらじゃあ、まともに戦えずにすぐに戦死するか、怖気づいて逃げちまうだろう)


 ゴボゴンは完全にダークたちは役に立たないと決めつけ、心の中で好き勝手に言う。ダークはゴボゴンの本心など知りもせず、バーミンたちと今後の方針について話し合っていた。


「とりあえず、自動人形オートマタたちが町や村を攻撃する可能性が低いことが分かりました。では、各拠点の防衛力は最低限にし、動かせる戦力は敵拠点の探索と襲撃、大荒野への進軍に回した方が良いですね」

「いや、敵が絶対に拠点を攻撃しないという保証が無い以上、拠点の防衛力はそのままにしておいた方がいい。もしかすると、私たちが拠点は絶対に攻撃されないと思い込んで拠点の戦力を動かしたところを襲撃するのが敵の狙いかもしれないからな」

「た、確かに……」


 ダークの言葉にファグレットは緊迫したような表情を浮かべる。敵の狙いがハッキリしない以上、下手に拠点の護りを薄くするのは危険だとアリシアやバーミンも感じた。


「では、各拠点の護りはそのままにし、私たちが連れてきた部隊を進軍させて敵の部隊を攻撃し、戦力を削ぐという……」


 バーミンが進軍する部隊について話そうとしていると、突然ホークマンのリーテミス兵が玄関の扉を開けて飛び込むように村長の家に入ってくる。驚いたバーミンたちはフッと玄関の方を向き、ダークとアリシアもゆっくりとリーテミス兵の方を向いた。


「ほ、報告します! 村の南西に敵部隊を確認しました!」

「何だとっ!」


 ファグレットは目を見開きながら思わず声を上げ、リーテミス騎士たちやバーミン、ゴボゴンも驚きの反応を見せる。ダークとアリシア、ノワールは過去に何度も似たような経験をして慣れてしまったのか、落ち着いた様子でリーテミス兵を見ていた。


「どういうことだ? 敵は町や村は攻撃しないんじゃねぇのか!?」

「落ち着け、ゴボゴン! 敵の規模はどれくらいだ?」


 バーミンは興奮するゴボゴンを宥めるとリーテミス兵に敵部隊の規模を尋ねる。リーテミス兵は若干動揺するような素振りを見せながらバーミンに視線を向けた。


「此処から確認できた数は三十体ほどです」

「三十体だと? 随分中途半端な数だな……ほかに敵の姿は無いのか?」

「ありません」


 首を横に振るリーテミス兵を見てバーミンは目を鋭くする。

 もし敵がノーケ村を偵察に来たのであれば三十体は数が多すぎ、襲撃に来たのなら三十体は少なすぎる。つまり、偵察と襲撃のどちらにも適さない数であるため、バーミンたちは不思議に思っていた。


「なぜ奴らは三十体という中途半端な数で現れたんだ……」

「そんなことは今はどうでもいいだろう! 今は急いで迎撃態勢を整えるのが先だ!」


 ゴボゴンは力の入った声で自分たちが何をするべきかを話し、バーミンやファグレットたちはゴボゴンに視線を向ける。何のために三十体でノーケ村に近づいて来たのかは分からないが、敵が攻撃を仕掛けてくる可能性もあるため、戦いの準備をする必要があった。

 

「急いで外にいる村人たちを家に戻せ! あと、村の外にいる連中にも迎撃の準備をさせろ!」

「ハ、ハイ!」


 指示を受けたリーテミス兵は走って外へ飛び出していき、ゴボゴンはリーテミス兵が出ていくのを確認するとバーミンたちの方を向いた。


「俺らも行くぞ、自動人形オートマタとやらが何しに来たのかこの目で確かめてやる」


 ゴボゴンは険しい表情を浮かべながらリーテミス兵の後を追うように村長の家を飛び出し、バーミンは勝手な行動を取るゴボゴンを見て呆れ顔になる。ファグレットやリーテミス騎士たちもゴボゴンの行動に少し驚いたような顔をしていた。


「まったく、ゴボゴンの奴……ダーク陛下、我々も敵の様子を見に向かいますが、陛下もご一緒に行かれますか?」

「勿論だ、敵の姿や部隊がどのように構成されているかを確認すれば、攻撃してくるかこないかが分かるかもしれないからな」

「では、行きましょう」


 敵の様子を窺うため、ダークたちも村長の家を出て敵が確認された南西へと向かう。家には村長だけが残り、戦闘だけは起こらないでほしいと心の中で祈った。

 村長の家を出たダークたちは村の中を走って南西へ向かう。途中で村人たちが自分の家や倉庫に慌てて入る光景が視界に入るが、ダークたちは気にすることなく走り続ける。そして、村の南西までやってくると柵に取り付けられている小さな扉から外に出た。

 外に出ると村の周りには大勢のリーテミス兵が武器を構えながら南西を見ており、ダークが連れてきた青銅騎士たちもリーテミス兵たちと共に南西を見ている。そして、先に村長の家を飛び出したゴボゴンもリーテミス兵たちの中にいた。

 ゴボゴンの姿を確認したダークたちはゴボゴンの下へ移動し南西を向いた。すると、数百m離れた所の上空に複数の何かが浮いているのが視界に入る。ダークはハイ・レンジャーの能力である鷲眼しゅうがんを発動して浮いている物を確認した。

 浮いていたのはダークが持っていた羊皮紙に描かれていた自動人形オートマタの一体で、黄緑色のショートボブヘアーをし、緑の模様が入った白い袖の短い密着服を着てライトグリーンのラインが入ったミニスカート姿を穿いた目に光の無い、無表情の少女の姿をしている。浮いているもの全てが同じ姿をした自動人形オートマタだった。

 自動人形オートマタの耳にはヘッドホンのような物、両肩に細長い白い筒状の物、背中には大きめの正方形の白い箱のような物が付いており、箱状の物からは青白い炎が噴き出している。自動人形オートマタたちはその箱から噴き出す炎の勢いで宙に浮いていた。

 ダークは自動人形オートマタの姿を確認すると能力を解いて目を薄っすらと赤く光らせる。


「あれはOM03……少々面倒な奴だな」

「オーエム、ゼロスリー?」


 アリシアはダークの口から出た言葉を聞くとダークの方を見ながらまばたきをする。ノワールはダークの肩に乗りながら真剣な表情を浮かべていた。


「あの自動人形オートマタの名前ですよ。レベルは45から50の間で攻撃力が高く、遠くから攻撃してくる種類です」

「つまり、そのOM03というのは遠距離攻撃を得意とする自動人形オートマタということか」

「ハイ、あと見たら分かるように空を飛ぶことも可能で主に空中から攻撃を仕掛けてきます」


 自動人形オートマタが空中から攻撃を仕掛けてくるかもしれないという現状にアリシアは表情を鋭くする。周りにいたバーミンたちもダークの話を聞いて驚きと緊迫の表情を浮かべていた。


「レベル45から50の間か、なら大したことはなさそうだな」


 レベルの数値を聞いたゴボゴンは余裕の表情を浮かべながら飛んでいるOM03を見つめる。するとバーミンが目を鋭くしてゴボゴンを睨み付けた。


「油断するな。我々がそのレベル45から50の敵たちに何度も敗北していることをもう忘れたのか? レベルは低くても戦闘能力は高いかもしれないのだぞ」

「バーミン殿の言うとおりだ」


 バーミンが険しい顔でゴボゴンを注意していると、ダークがOM03たちを見ながら低い声を出した。


自動人形オートマタはレベルの数値よりも高い戦闘能力を持っている。奴らのレベルは45から50とノワールは言ったが、実際の強さはレベル60代と同等だ。と言っても人間の強さを基準に出した数値だがな」


 レベル45から50なのに人間の英雄級に匹敵する強さを持つというダークの言葉にバーミンやファグレットたちは驚愕する。アリシアも厄介だと感じて自動人形オートマタたちを睨む。

 もし自動人形オートマタたちと戦闘になったら、数で勝っていても苦戦するかもしれない。しかも敵がどんな戦い方をするか分からないため、バーミンとファグレットは不安を感じながら近づいて来るOM03を見つめた。


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