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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十九章~古代文明の戦闘人形~
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第二百八十話  信じる者と疑う者


「閣下、本当にあの人間と共闘するつもりですかい?」


 ゴボゴンが台の上で横になるヴァーリガムを見上げながら僅かに力の入った声を出す。周りには他の元老院がヴァーリガムと向かい合うゴボゴンを見ていた。


「今更何を言い出すのだ、話し合って決めたことだろう?」

「俺はどうもあの人間のことが信用できねぇんです」


 自分の髭を整えながらゴボゴンは不満そうな顔をし、そんなゴボゴンをヴァーリガムは呆れたような表情を浮かべながら見下ろしている。他の元老院もカックリーゼを除いて全員がヴァーリガムと同じように呆れ顔になっていた。

 話し合いが済んだ後、ダークは自動人形オートマタたちと戦うための戦力を用意すると言って神殿から出てジューオへと戻っていき、マティーリアもダークの後をついて行った。神殿の残ったヴァーリガムは元老院と最前線に送り込む戦力の再編成について話し合いを始めようとしたのだが、ダークを信用できないゴボゴンがダークがいなくなった直後に本心を口にしたのだ。


「何十年もの間、この島と関りを持たなかった大陸の人間が突然現れて無条件で力を貸すと言い出したんですぜ? 何か裏があるとしか考えられねぇ」

「私も同感です。人間は我々亜人と違い欲の深い種族です。もしかすると、例の自動人形オートマタとか言うモンスターに勝利した直後に態度を変えて謝礼を要求してくるかもしれません」


 ゴボゴンの隣に立つカックリーゼもヴァーリガムを見上げながらゴボゴンの考えに同意する。彼女もゴボゴンと同じでダークのことを信用していないため、不信感を抱いていた。


「二人とも、止さないか。例え人間であってもダーク殿は条件無しで我々に力を貸してくれると言ってくださった御方だぞ。それなのに本人のいない所でコソコソと悪く言うなんて、恥ずかしくないのか?」


 話を聞いていたバーミンはダークのことを信用せず悪く言うゴボゴンとカックリーゼを止める。ゴボゴンとカックリーゼは不満そうな顔のままバーミンの方を向いた。


「バーミン、お前はあの人間を信用できるって言うのか?」

「勿論だ、ダーク殿には下心などない。それは彼の態度を見ればよく分かる」

「フン、何が態度を見ただけで分かるだ。態度だけで信用するとか、本当に考え方が甘いな。いや、馬鹿正直と言った方がいいかもな?」


 そっぽを向きながらゴボゴンはバーミンの考え方を否定し、カックリーゼも同感なのかバーミンを見ながら無言で頷く。バーミンはゴボゴンの態度が気に障ったのか、目を僅かに鋭くしてゴボゴンを睨んだ。


「そう言うお前こそ、人間というだけで疑うなんて、相変わらず考え方が古いな。まさに石頭だ」

「何だとっ!?」


 挑発されたゴボゴンは険しい顔でバーミンの方を向き、バーミンもゴボゴンを睨み返す。ヴァーリガムは二人のやりとりを見ながら、また始まったかと心の中で呆れた。


「お二人ともやめてください、今は喧嘩をしている場合ではありませんよ」


 一触即発のバーミンとゴボゴンはリーリーが止め、リーリーの言葉に二人は現状を思い出したのか落ち着きを取り戻す。

 冷静になったバーミンとゴボゴンを見て、リーリーは静かに息を吐き、ハンドヴィクトとヤグザックスは状況を考えずに揉める二人に呆れて溜め息をつく。すると、ヴァーリガムがゴボゴンを見下ろしながらゆっくりと口を動かした。


「ゴボゴン、お前の気持ちも分からんでもない。だが、全ての人間が欲深いというわけではない。少なくともダークという人間は信用できると私も思っている」

「閣下、本気ですか?」


 ゴボゴンが驚きながらヴァーリガムに尋ねるとヴァーリガムは首を立てに振った。


「バーミンの言うとおり、彼は無条件で我々に力を貸すと言った。もし彼が欲を持っているのなら、共闘の話をする時に何かしらの要求を出してきたはずだ」

「それが信用を得るための芝居であった可能性だってありますぜ? 全てが終わった後に謝礼を要求し、こちらが断ったら恩を仇で返すのか、とか言ってくるかもしれねぇ」

「そうですね、絶対に要求してこないという保証はありません」


 ヴァーリガムを見上げながらゴボゴンとカックリーゼはダークが後に何かを要求してくる可能性があると話す。二人の言葉にバーミンは考え方を変えないゴボゴンとカックリーゼを見ながら呆れと哀れみが一つになったような表情を浮かべている。


「確かに保証はない。だが、他人を信じるのにいちいち保証を得ていては何も始まらない。例え保証が無くても人間を信じるのも大切だと思うぞ?」

「そ、それはそうですが……しかし、やはり人間を完全に信じることはできません」

「そのとおりだ。そもそも、例のオート、なんとかって言うモンスターを倒すのにわざわざ人間の力を借りる必要なんてありませんぜ? 俺らの力だけで十分戦えます」


 ダークたちの力を借りなくても自動人形オートマタたちに勝つことはできるとゴボゴンは自信に満ちた口調で語り、ヴァーリガムはジッとゴボゴンを見つめる。


「こちらは自動人形オートマタの攻撃で既に多くの死傷者を出していることを忘れたのか?」

「うっ、それは……」


 ヴァーリガムに言われて戦況を思い出したゴボゴンは言葉に詰まり、ヴァーリガムから目を逸らす。黙り込むゴボゴンを見つめながらヴァーリガムは話し続けた。


自動人形オートマタを押し返し、大荒野にある敵拠点を叩くには少しでも奴らの情報と抵抗するための戦力が必要だ。ダーク殿は我々よりも自動人形オートマタの情報を持っており、話し合いの時も自動人形オートマタと有利に戦える戦力があると言っていた。奴らに勝つにはダーク殿たちの力が必要なのだ」

「しかし、此処は俺らの国です。自分たちの国を護るのに他国の住民、しかも人間の力を借りるなど……」

「お前の気持ちは分かる。だが、他国民や人間の力を借りたくないというプライドだけを持っても戦いに勝つことはできない。国を、そして国民を護るためなら確実に勝てる選択をしなくてはならない。例えそれで自身の誇りを捨てることになってもな」


 目を閉じながら語るヴァーリガムを元老院は黙って見上げる。国や国民を護るためなら自分の誇りを捨てる覚悟も必要だというヴァーリガムの言葉に元老院、特にゴボゴンは何も言い返すことができなかった。

 国や国民、国の歴史を護ることも重要だが、その国自体が無くなってしまったら何の意味もない。ヴァーリガムは大統領として愛する国を護るためにダークの力を頼ることを決めた。

 黙り込んでいたゴボゴンは小さく俯き、複雑そうな顔をしながら自分の頭をボリボリと掻き、やがて深い溜め息をついた。


「……分かりやしたよ。国のために人間どもと共に戦いましょう」


 ヴァーリガムの国を想う気持ちに負けたのか、ゴボゴンはダークたちと共闘することを受け入れる。カックリーゼも仕方がない、と言いたそうな顔で頷く。


「フッ、ようやくダーク陛下たちと協力し合うことを決めたか。偉いぞ、ゴボゴン?」


 バーミンがからかい半分で話しかけると、ゴボゴンはジロッとバーミンに鋭い視線を向ける。


「勘違いすんじゃねぇぞ? 俺はこの国を護るために人間と共闘することを決めただけだ。まだ人間どもを信じたわけじゃねぇ」

「私もだよ。閣下には申し訳ないけど、人間である以上は本当に信じられるようになるまでは警戒し続ける。アンタたちも完全に信用せず、少し警戒しておくんだね」


 共闘するが人間を信じたわけではないと語るゴボゴンとカックリーゼを見てバーミンはやれやれ、と言いたそうに首を横に振り、他の三人も小さく息を吐く。ヴァーリガムは信用しなくてもダークたちと共闘することを受け入れてくれた二人を見て小さく笑っていた。


「さあ、共闘することが正式に決まった。急いで部隊の再編成をするぞ? あまりダーク殿たちを待たせるわけにもいかないからな」


 ジューオで待っているであろうダークのためにヴァーリガムたちは急いで最前線に向かわせる戦力の編成について話し合いを始めた。


――――――


 首都ジューオの外ではダークたちが正門の前で待機している。ダークの肩に乗っていたはずのノワールの姿は無く、ダークとマティーリアの二人だけの姿があった。

 正門の両端には門番と思われるリザードマンのリーテミス兵が二人待機しており、正門の上にある見張り台と城壁の上ではホークマン、ハーピー、エルフのリーテミス兵が正門の警備をしている。リーテミス兵たちは見慣れないダークとマティーリアを警戒しているのか、視線だけを動かして二人を見ていた。

 ダークとマティーリアは亜人たちの視線に気付いていないのか、わざと無視しているのかは分からないが、正門に背中を向けながら神殿がある岩山の方を向いていた。


「遅いのぉ、まだ戦力の編成は終わらんのか?」

「共闘する私たちの戦力を計算しながら細かく戦力を編成しているのだろう。気長に待つとしよう」

「チッ、面倒じゃのぉ」


 マティーリアは不満そうな顔をしながら愚痴をこぼし、ダークは腕を組みながら岩山を見つめる。

 ヴァーリガムと元老院が来るのをダークとマティーリアは黙って待つ。しばらく沈黙が続くと、マティーリアが岩山の方を見ながら口を開く。


「……若殿、自動人形オートマタを送り込んだと思われる小娘、ソイツが若殿と同じ、LMFから来たプレイヤーという存在だと思うか?」

「まだ分からん。LMFと関りがあるのは間違いなさそうだが、プレイヤーかどうかを判断するにはまだ情報が足りない。もしかすると、蝗武やリンバーグと同じサモンピースから召喚されたモンスターかもしれないし、ノワールと同じ使い魔かもしれない」

「成る程ぉ……」


 リーテミス共和国に現れたのが自動人形オートマタだと分かっても少女の正体は分からないと聞かされ、マティーリアは少し残念そうな顔をする。


「いずれにせよ、その少女がLMFプレイヤーの手掛かりを持っている可能性は高い。何とかその少女を見つけ、プレイヤーに関する情報を聞き出すんだ」

「ウム、そのためにもまずはこの内戦に勝利しなくてはならんな」


 マティーリアは肩に担いでいるジャバウォックの石突部分で地面を強く叩きながら力の入った声を出し、ダークもマティーリアを見ながら無言で頷く。

 LMFプレイヤーの手掛かりを手に入れることがダークたちの第一目的だが、そのプレイヤーが召喚したと思われる自動人形オートマタたちにリーテミス共和国の亜人たちが襲われているのも見過ごすことはできない。ダークは必ず自動人形オートマタたちに勝利すると誓う。


「それはそうと、ノワールはいつ戻ってくるのじゃ? ジューオに戻った直後に転移魔法でバーネストに戻ったじゃろぉ」


 マティーリアはダークの方を向いて姿の無いノワールについて尋ねる。実はノワールは首都ジューオに着いた直後、ダークの命令で自動人形オートマタと戦うための戦力を連れてくるために一人でバーネストに戻ったのだ。


「もうそろそろ戻ってくるはずだ。アリシアたちと自動人形オートマタと戦うための部隊を連れてくるだけだからな、それほど時間は掛からないだろう」

「ならよいが……確か今回用意した部隊には自動人形オートマタに対抗するためのモンスターも入れてあるのじゃったな。いったいどんなモンスターなのじゃ?」

「フッ、それはお楽しみだ」


 小さく笑うダークを見てマティーリアはつまらなそうな反応を見せる。どうせもう少ししたらノワールが転移魔法で連れてくるのだから、今教えてくれても同じだろう、とマティーリアは心の中で思っていた。

 ダークとマティーリアが部隊について話していると、岩山の方から大きく竜翼を広げたヴァーリガムがジューオに向かって飛んでくる姿が目に入った。ヴァーリガムの近くに空を飛べる元老院の姿も小さく見え、地上からは馬に乗ったバーミンたちが走ってくるのが見える。

 ヴァーリガムたちの姿を見たダークとマティーリアは戦力の再編成が終わったのだと知って近づいて来るヴァーリガムたちを見つめる。そして、ジューオの正門前にやって来たヴァーリガムはゆっくりとダークとマティーリアの前に下り立ち、元老院もヴァーリガムの隣まで来た。


「ダーク殿、待たせてすまなかった」


 ダークを見下ろしながらヴァーリガムは時間が掛かってしまったことを詫びる。ダークは気にしないでくれ、というように無言で首を横に振った。しかしマティーリアは遅いと思っているのか目を細くしながらヴァーリガムを見ている。

 正門を護っていた警備の亜人たちは大統領であるヴァーリガムと元老院が再び町にやってきたのを見て驚き、その場で姿勢を正している。やはり大統領と元老院がいると緊張するようだ。

 ヴァーリガムは正門の近くにいる亜人たちを一通り確認すると視線をダークへ戻す。すると、ダークの肩に乗っていたノワールがいなくなっていることに気付く。


「ダーク殿、貴殿の方に乗っていた子竜はどうした?」

「ん? ああぁ、ノワールか。彼には本国へ戻ってもらった。自動人形オートマタたちと戦うための我が軍の部隊を連れてくるためにな」

「そう言えば、神殿を出る際に自動人形オートマタと戦う戦力を用意すると言っていたが、どうやって大陸からこの島に戦力を連れてくるつもりなのだ?」


 遠くにあるビフレスト王国からリーテミス共和国にどんな方法で戦力を連れてくるのか気になるヴァーリガムはダークを見つめ、元老院もヴァーリガムと同じように気になるのかダークに注目した。

 ダークはヴァーリガムたちにどうやって戦力を連れてくるのか説明しようとする。だがその時、少年姿のノワールがダークとヴァーリガムたちの間に転移した。

 突然現れた少年に元老院は驚き、ヴァーリガムも目を軽く見開きながら少年を見下ろした。


「マスター、お待たせしました」

「用意できたか」

「ハイ、すぐに転移させます」


 そう言ってノワールは正門の前に広がる平原の方を向いて両手を前に出す。すると、ノワールの姿を見て驚いていたバーミンがダークに声を掛けてきた。


「あ、あのぉ、ダーク陛下、この少年は?」

「ノワールだ、神殿で会談を行っていた時に私の肩に乗っていた」

「えっ! この少年があの子竜なのですか?」


 バーミンはダークの驚きの言葉に目を見開いてノワールの方を向く。他の元老院もマティーリア以外にドラゴンから人間になれる存在がいると知って驚きながらノワールを見ている。

 ヴァーリガムはマティーリアが姿を変える光景を一度見ていたので、元老院のような反応は見せなかった。だが、それでも姿を変えることができるドラゴンが存在が二体もいることを知ったため、心の中では驚いている。


「おいおい、どうなってるんだ? ドラゴンから人間に変わることができる存在がいるなんて、信じられん」

「閣下でもできないことをやってしまうなんて、彼らは何者なのでしょう……」


 ノワールを見つめながらハンドヴィクトとリーリーは小声で話し合い、近くにいるヤグザックスは呆然としている。ゴボゴンとカックリーゼは未知の力を持つノワールを見ながら、彼とその主人であるダークを油断できない存在だと感じていた。

 ヴァーリガムと元老院に見られる中、ノワールは目の前に広げる平原を真剣な表情で見つめており、両手に魔力を送り込むと魔法を発動させた。


転移門ゲート!」

「何っ!? 転移門ゲートだと?」


 ノワールが口にした魔法名を聞き、バーミンは思わず声を上げる。すると、平原の中に大きな深紫色の転移門が展開され、それを見たヴァーリガムと元老院は驚きの反応を見せた。


転移門ゲート、最上級魔法にして最大の転移魔法……私でも習得できていない魔法をあの少年は使えるというのか……」


 バーミンは僅かに震えて声で喋りながらノワールを見つめる。今のバーミンはノワールが転移門ゲートを使って見せたことに対する驚き、同時に初めて見る転移門ゲートに対する興奮していた。

 リーテミス共和国の存在するエルフの中でバーミンはかなりの長寿で魔法の腕も優れている。だが、そんなバーミンでも最上級魔法は習得してはいない。最上級魔法を習得できるのは亜人の中でも高いレベルと優れた魔力を持つ亜人の英雄級のみだ。バーミンはレベルは高いがまだ英雄級の域まで達してはいなかった。

 バーミンだけでなく他の元老院も最上級魔法を使うことはできない。しかし、竜王であるヴァーリガムは最上級魔法を習得していた。だが、最上級魔法を使う機会など一度も訪れなかったため、元老院はヴァーリガムが最上級魔法を使えることを知っていても、使う姿を見たことはない。そのため、ノワールが転移門ゲートを使ったことで初めて最上級魔法を目にし、とても驚いていたのだ。


「最上級魔法が使えるとは……ダーク殿、彼はいったい何者なのだ?」


 ヴァーリガムが視線だけを動かしてダークを見ながら尋ねると、ダークも視線だけを動かしてヴァーリガムを見上げる。そして、小さく笑いながら視線をノワールに戻した。


「彼は私の使い魔なのだ。普段は子竜の姿をしているが、魔法を使う時にはあのように少年の姿になる」

「使い魔……しかし、使い魔と言えど最上級魔法を使える使い魔など聞いたことがない。彼は何処であんな力を得たのだ? そして、そんな強大な力を持つ使い魔を持つ貴殿は……」

「ヴァーリガム殿」


 ノワールの力を秘密を知ろうとするヴァーリガムにダークは声を掛け、ヴァーリガムは口を閉じてダークに注目する。


「できれば詮索はやめてもらいたい。こちらにも色々と事情があるため、詳しく話すことはできないのでな」

「……そうか。確かに誰にだって他人には言えないことはあるな。失礼した」


 謝罪するヴァーリガムを見上げながらダークは気にするな、と首を軽く横に振った。ヴァーリガムはダークの反応を見ると視線をノワールが開いた転移門に向ける。

 ダークや使い魔であるノワールのことを詳しく知りたいと思っていたヴァーリガムだったが、自分の国に力を貸してくれる者が嫌がることをするのは失礼だと考え、それ以上詮索しようとはしなかった。

 転移門が開かれてからしばらくすると、転移門からアリシアが姿を現した。ヴァーリガムと元老院がアリシアの姿を見て一瞬驚くが、状況からダークの仲間だとすぐに気付く。

 アリシアは視線だけを動かして周囲を確認し、ダークの姿を確認すると小さく笑いながら手を上げ、ダークたちの方へ歩いて行く。すると、今度はレジーナとジェイク、デビルコックのリンバーグが転移門から現れ、ダークを見つけると笑みを浮かべながらアリシアの後をついていくように移動する。そして、三人が現れた直後、青銅騎士、白銀騎士、黄金騎士の順番に隊列を組みながら大勢が転移門から出てきた。

 隊列を乱すことなく無言で転移門から姿を現す大勢の騎士にヴァーリガムと元老院は言葉を失う。勿論、正門を護っていたリーテミス兵の亜人たちも驚愕の表情を浮かべている。

 やがて、騎士たちが全員転移門から出てくると、今度は見たことのないモンスターが六体、転移門から出てきた。そのモンスターたちは薄緑色の肌を持ち、ミイラのようなやつれた顔をしている。身長は4m近くはあり、ピエロのような色とりどりの滑稽な恰好をしていた。


「な、何だあのモンスターは?」


 騎士たちの後に現れた大きなモンスターたちにヤグザックスは驚き、他の元老院も固まる。ヴァーリガムは見たことのないモンスターを見て小さく目を見開いており、モンスターが自分たちに襲い掛かってくるのではと警戒している。

 青銅騎士たちとピエロ姿のモンスターが出てくると転移門は静かに閉じ、ノワールは上げていた手を下ろす。騎士の数は青銅騎士、白銀騎士、黄金騎士の数を合計して七百程だが、モンスターやダークたちの戦力を計算すれば千以上の力を持つ戦力と言えるだろう。


「ダーク陛下、自動人形オートマタ殲滅部隊、只今到着しました!」


 アリシアはダークの前までやってくると力の入った声で挨拶をし、後ろにいるレジーナ、ジェイク、リンバーグも軽く頭を下げる。他国民の前であるため、アリシアたちは総軍団長、直轄冒険者としてダークと接した。


「ご苦労、一人も欠けずに連れてきたようだな」


 ダークはアリシアたちが連れてきた戦力を見ながら満足しているような口調で語る。青銅騎士たちはダークの前までやって来ると一斉に立ち止まり、隊列を崩さずにダークの方を見つめた。

 待機する青銅騎士たちを見ながらダークは静かに腕を組む。そんなダークの隣にマティーリアがやって来てダークと同じように待機する青銅騎士たちを眺める。そして、隊の最後尾に並んで立っているピエロ風の恰好をしたモンスターに視線を向けた。


「若殿、アイツらが例の自動人形オートマタを戦うために用意した戦力か?」


 マティーリアはダークの方を向いてモンスターについて尋ねるとダークはモンスターを見つめながら頷いた。


「そうだ。ヘルマリオネッター、サモンピースのナイトで召喚された悪魔族モンスターでレベルは75から80の間になっている」

「レベル75から80の悪魔か……それで、どうしてあ奴らが自動人形オートマタと戦うのに適したモンスターなのじゃ?」

「ヘルマリオネッターには魔の傀儡糸くぐつしという能力があり、物質族、もしくは自分よりもレベルの低いモンスターを操ることができるんだ」

「……成る程、自動人形オートマタは物質族モンスターじゃからあ奴らの能力で操ることができる。だから自動人形オートマタとの戦いで役に立つというわけか」

「そう言うことだ。もっとも操れる数はヘルマリオネッター一体につき十体までとなっている。全ての自動人形オートマタを操ることはできないが、それでも十分有利に戦うことができるだろう」


 ダークの説明を聞き、マティーリアは納得したのような反応を見せる。アリシアたちも二人の近くで会話を聞いており、能力に驚きながら遠くにいるヘルマリオネッターたちを眺めていた。すると、青銅騎士たちを見て驚いていたヴァーリガムがダークに顔を近づける。


「ダーク殿、あの騎士たちが貴殿の国の兵士なのか?」

「ああ、我が国の優秀な騎士たちだ」

「……では、騎士たちの後に出てきたあのモンスターたちは?」

「あのモンスターたちも我が国の兵だ」

 

 モンスターが兵士と聞かされたヴァーリガムは驚きながらヘルマリオネッターの方を向き、元老院もダークの言葉を聞いて驚愕の反応を見せる。

 最初にヘルマリオネッターを見た時は襲い掛かってくるのではと警戒していたが、襲ってくることはなく、兵士として支配下に置いていると聞かされたヴァーリガムたちは驚いた。しかし、よくよく考えればグランドドラゴンを支配下に置いているのだから、他のモンスターを支配下に置けても不思議ではないと納得してしまう。


「まさかドラゴンだけでなく、他の種族のモンスターまで支配下に置いていたとはな……」

「かなり驚いておられるようだな?」

「当然だ、長いこと生きているがビーストテイマーでもないのにモンスターを支配下に置くことができる人間など見たことがなかったからな」


 ヴァーリガムは騎士であるダークがモンスターを支配し、操れることにかなり驚いており、ヘルマリオネッターを見つめたまま話している。ダークはヴァーリガムの顔を見ると再び小さく笑いながら青銅騎士たちの方を向いた。


「いったいどんな方法を使って……おっと、詮索しない約束だったな」

「いや、問題無い。詮索してほしくないのは私やノワールの素性や力などについてだ。我が軍の戦力やモンスターたちについては訊いてくれても構わない」

「そうなのか?」


 ヘルマリオネッターや青銅騎士たちのことは尋ねても問題は無いというダークの答えにヴァーリガムは意外そうな反応をする。自分やノワールのことは訊かれても答えないのにモンスターについては問題無く答えるというダークをヴァーリガムは不思議な人間だと思っていた。


「貴殿が知りたいのであれば、私がどのようにしてモンスターを支配下に置いたのか説明するが?」

「良いのか?」


 ヴァーリガムを見上げながらダークは無言で頷く。


「では教えてくれないか? 貴殿がどのようにしてモンスターを支配下に置いたのかを……」

「別に難しいことは何もしていない……マジックアイテムだよ」

「マジックアイテム?」


 ダークの答えを聞いたヴァーリガムは思わず訊き返す。何か特別な方法でモンスターを支配しているのかと思っていたが、普通にマジックアイテムを使っただけだと知って驚いたようだ。

 マジックアイテムを使えばモンスターを支配下に置き、兵士として扱うことができるだろう。だが、ヴァーリガムの知る限りではマジックアイテムで操ることができるのは中級以下のモンスターだけだ。

 ダークが呼び出したモンスターは明らかに上級モンスターの雰囲気を漂わせている。上級モンスターを支配できるマジックアイテムが存在し、それをダークが持っていると知ってヴァーリガムや元老院は驚いた。


「いったいどんなマジックアイテムを使って奴らを支配したのだ?」

「正確に言えば、支配したのではなく召喚したのだがな」

「召喚? マジックアイテムでか?」


 もともと存在していたモンスターを支配したのではなく召喚したと知ってヴァーリガムは更に驚く。元老院も召喚魔法以外でモンスターを召喚できる方法など聞いたことがないのでヴァーリガム以上に驚いた顔でダークを見た。


「昔、古い遺跡を探検している時に見つけたマジックアイテムを使ったのだ。私も初めて使った時は驚いたよ」


 LMFから持ってきたマジックアイテムとは言えないダークは以前セルメティア王国やエルギス教国の者たちに説明した時と同じように過去に遺跡で発見したとヴァーリガムに説明する。

 ヴァーリガムは大陸に存在する遺跡には自分の知らないマジックアイテムが封印されたいるのか、と驚きながらダークの話を聞く。魔法に詳しいバーミンも自分の知らないマジックアイテムがこの世にはあると知り、興味のありそうな顔でダークの話を聞いている。同時にバーミンはこれなら自動人形オートマタたちとも互角に戦えるのではと感じ始めた。

 バーミン以外の元老院、ハンドヴィクト、ヤグザックス、リーリーの三人もダークが用意した青銅騎士たちとヘルマリオネッターを驚きの顔で見つめながら有利に自動人形オートマタと戦えると考えている。しかし、ゴボゴンとカックリーゼは未だにダークを信用していないのか、怪しむような目でダークを見ていた。

 それからヴァーリガムは最前線に向かわせる戦力についてダークたちに説明し、首都にいるリーテミス兵で部隊を編成する。全ての準備が整うとバーミンとゴボゴンに再編成した部隊の指揮を任せ、ダークたちと共に最前線へ向かわせた。

 ダークたちが出発した直後、ヴァーリガムは神殿へと戻り、残りの元老院も自分たちの持ち場へと戻って行った。


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