第二百七十九話 情報交換
ヴァーリガムがダークを見下ろしながら驚いていると、元老院たちが遅れてジューオの広場に到着した。飛ぶことができるカックリーゼ、ヤグザックス、リーリーは空から広場に入り、バーミン、ゴボゴン、ハンドヴィクトは馬に乗って地上から広場に入る。
元老院は広場にいるドラゴン姿のマティーリアを見て驚愕の表情を浮かべた。空中のカックリーゼたちは地上に下り立ち、バーミンたちも馬を降りてヴァーリガムの近くまで移動する。すると、ヴァーリガムの目の前に立つダークに気付いて再び驚きの表情を浮かべ、六人はダークとマティーリアの両方を警戒した。
「待て、お前たち。彼らは我々に敵意を持っていない」
ヴァーリガムはダークたちを睨む元老院を止めると、元老院は意外そうな顔でヴァーリガムの方を向いた。
「どういうことですか?」
「彼らは今我々が戦っている謎の集団のことを知っているそうだ」
「何ですって?」
バーミンは目を見開きながらダークの方を向く。全身を漆黒の全身甲冑で包み、顔もフルフェイス兜で隠す目の前の騎士が自分たちの敵に関する情報を持っていると知り、バーミンや他の元老院たちは驚きの表情を浮かべる。
だが、同時に素顔を見せない島の外から来た者の言葉を信用してもいいのかという疑問も浮上し、ゴボゴンとカックリーゼはダークを疑うような目で見つめている。元老院が驚きと疑いの表情を浮かべながらダークを見る中、ヴァーリガムは視線をダークに向けた。
「ダーク殿、貴殿は我が国を襲う謎の集団の正体を知っているのか?」
「少し違う。この国を襲っている者たちが私の知っている存在である可能性が高いため、直接確認するためにこの島に来たのだ」
「貴殿の知る存在? ……詳しく聞かせてもらえるか?」
「勿論。その代わり、と言っては何だが、その謎の集団の詳しい情報を貴殿らの知る限りでいいので教えてほしい」
「ああ、いいとも」
とりあえず詳しく話を聞かせてもらえる、という第一関門を突破し、ダークは心の中でよしっと喜ぶ。肩に乗っているノワールもダークの横顔を見ながら小さく笑みを浮かべた。
「とりあえず、近くの岩山にある私の住居の神殿まで来てほしい。此処は町の中心であるため、我々がいては住民たちが落ち着かん。何より町のど真ん中で話したくないのでな」
「確かに……では、神殿まで案内を頼みたい」
「では、そこのグランドドラゴンに乗って私の後をついて来てくれ」
そう言うとヴァーリガムは竜翼を広げながら上を向き、勢いよく地面を蹴って飛び上がった。ヴァーリガムが飛んだ時に強い風と砂煙が広がり、広場にいた元老院や住民たちは一瞬怯む。が、すぐに上を向いて飛び去ったヴァーリガムを見つめた。
ダークはヴァーリガムが飛んでいくのを確認するとマティーリアの下へ走り、彼女の背中に乗る。ダークが背中に乗るとマティーリアは若干面倒くさそうな顔をしながら竜翼をはばたかせ、飛び上がるとヴァーリガムの後を追った。
残された元老院も慌てて飛んだり馬を走らせたりなどして岩山の神殿へと戻って行く。ダークたちが去った後、広場には何がどうなっているのか全く理解できずにいる住民たちだけが残り、ただ呆然としながらダークや元老院の後ろ姿を見ていた。
それからダークたちはヴァーリガムの後をついて行き、首都ジューオから少し離れた所にある岩山の上空までやってきた。先頭を飛んでいたヴァーリガムは岩山の中にある神殿の前に下り立ち、ダークを乗せたマティーリアもヴァーリガムの近くに下り立つ。ダークとノワールは目の前にある巨大な神殿を見て意外そうな反応を見せた。
「此処がヴァーリガムの神殿か……」
「流石は竜王が入る神殿だけあって大きいですね」
神殿の入口を見ながらダークとノワールは小声で話し合う。予想していたよりも巨大な神殿であったため、流石の二人も少し驚いたらしい。マティーリアは現在、ヴァーリガムと同じくらいの大きさのドラゴンの姿をしているため、驚かないのか黙って神殿を見つめていた。
ダークたちが神殿を見ているとヴァーリガムがゆっくりとダークたちの方を向き、マティーリアの背中に乗るダークを見つめる。
「話はこの神殿の中で行う。降りて中に入ってくれ」
神殿に入るよう指示されたダークは言われたとおりマティーリアの背中から降りて地面に着地する。そして、隣のマティーリアを見上げた後、ヴァーリガムの方を向き、マティーリアを親指で指した。
「彼女にも話を聞かせたいのだが、入れても構わないか?」
「ああ、問題無い。ただ正面の入口は私や彼女が入るには小さすぎる。私たちは神殿の天井に開いている穴から入る必要が――」
「いや、その点は問題無い。マティーリア、もう戻ってもいいぞ?」
ダークはマティーリアの方を見ながら言うと、マティーリアは目を閉じて深い溜め息をつく。まるでやっと嫌なことから解放されると言いたそうな様子だった。
「やっと戻れるか。まったく、長い間人間の姿で生活しておったせいで、この姿で動く時の感覚が戻っておらんから疲れたぞ」
マティーリアが愚痴をこぼすように喋っていると、突然マティーリアの体が黄色く光だして見る見る小さくなっていく。ヴァーリガムはマティーリアの変化を見て目を軽く見開いていた。やがて光は小さな人間の形へと変わり、光は徐々に弱まっていく。
光が完全に消えると、そこには左目に傷を付け、頭から二本の角を生やした少女、いつもの姿のマティーリアが立っていた。ただ、その姿は布一つ身に付けていない生まれた時の姿をしていた。
マティーリアは自分の姿が戻ったのを確認すると、両手を腰に当てながら不満そうな顔でダークの方を向く。ダークは裸のマティーリアを見ないようにしているのか、マティーリアがいる方角とは正反対の方角を向いていた。いくら少女の姿とは言え、異性の裸を見るのはダークも男として抵抗があるようだ。
「若殿、早く妾の装備を出してくれ」
「ああ、分かった」
ダークは顔の向きを変えずにポーチに手を入れ、中からジャバウォックとマティーリアがいつも身に付けている鎧、眼帯、服を取り出す。マティーリアはダークに近づくと装備品を受け取り、ダークに背を向けて服を着始めた。
「まったく、ドラゴンの姿になると服が破れてしまうからいちいち裸にならなくてはならん。これだからドラゴンの姿になるのは嫌なんじゃ。次からはイザという時以外、妾に変身させるでないぞ?」
「分かった分かった」
ダークは頷きながら返事をし、そんなダークを見たマティーリアは不満そうな顔をしながら服を着ていく。二人のやりとりを見ていたノワールはダークの肩に乗ったまま苦笑いを浮かべていた。
一方でヴァーリガムは目を見開いたままダークとたちを見ている。マティーリアがドラゴンの姿から少女の姿に変わったこと、そしてダークの腰の小さなポーチから明らかに入らない大きさの武具が出てきたことの二つに驚いていた。
竜王として長い年月を生きてきたヴァーリガムだが、どちらも今回初めて目にしたため、かなり衝撃を受けたようだ。同時に目の前にいるダークとマティーリアは何者なのかと疑問に思う。
服を着て鎧を装備したマティーリアは長い髪を整えてから地面に突き刺してあるジャバウォックを引き抜いて肩に担ぐ。するとそこへ丁度元老院も到着し、ダークたちの前までやってきた。
「閣下、お待たせしました」
「思ったよりも早かったな。相当急いで来たのか?」
「ええ、勿論です……ところで、先程のグランドドラゴンは何処へ?」
バーミンはヴァーリガムについて行ったはずのグランドドラゴンの姿な見えないことに気付いて周囲を見回し、他の元老院も同じように辺りを見てグランドドラゴンを探す。
元老院たちの姿を見たマティーリアは目を細くしながらバーミンたちを見る。それに気付いたダークとノワールはマティーリアに聞こえないくらい小さな声で笑った。
「閣下、あのグランドドラゴンは何処にいるのですか?」
「目の前のおるじゃろう」
マティーリアは少し力の入った声でバーミンに声を掛け、バーミンたちは一斉にジャバウォックを担ぐマティーリアに視線を向けた。
元老院は初めて見る少女にまばたきをしながら不思議そうな顔をする。マティーリアは自分がさっきまでいたグランドドラゴンだと気付かないバーミンたちを見て更に不快な気分になった。
「そこにいる少女こそが先程のグランドドラゴン、マティーリア殿だ」
「……ええっ!?」
ヴァーリガムから目の前の少女がグランドドラゴだと聞かされたバーミンは思わず声を上げ、他の元老院たちも目を見開いて驚く。
「こ、この小さい娘がさっきのグランドドラゴンだと……?」
ゴボゴンは未だに信じられないのか、まばたきをしながらマティーリアを見つめている。普通はドラゴンが少女の姿になったと言われても、自分をからかっていると考えるのが普通だが、自分たちの主であるヴァーリガムが言うのなら本当なのだろうと元老院は誰一人疑わなかった。
マティーリアは自分を見ながら驚く元老院を見てそっぽを向いた。自分のことを珍獣を見るような目で見ていることに不満を感じているようだ。
「……それより若殿、例の謎の集団のことについて話を聞かんでもよいのか?」
「ああ、そうだったな」
ダークはマティーリアの言葉で目的を思い出し、ヴァーリガムも何のためにダークたちを連れて神殿に戻ってきたのかを思い出して表情を少し鋭くする。
「では、神殿内に入ってくれ。中で詳しく話を聞きたい」
ヴァーリガムを見上げながらダークが無言で頷くとヴァーリガムは再び飛び上がり、中に入るために神殿の上へ移動する。ダークとマティーリアも元老院たちに案内されて神殿の中へと入っていった。
神殿の奥へ行くとヴァーリガムと元老院が会議を行っていた広い部屋に到着する。中央にある台の上には既にヴァーリガムが座って待機しており、ダークたちはヴァーリガムの方へ歩いて行く。
台の前に置かれてある長方形の机の前まで来ると、バーミンは自分が使っていた椅子を長方形の短辺のところへ持っていき、ダークがヴァーリガムと向かい合って座れるようにする。ダークはバーミンが用意してくれた椅子に座ると数十m先で自分を見つめているヴァーリガムの顔を見た。
ダークが座ると元老院はヴァーリガムの前まで移動し、横一列に並んで座っているダークとその後ろに控えているマティーリアの方を向いた。神殿の広い一室で二国の支配者が向かい合い、部屋の中は緊張した空気に包まれる。
「……さて、では早速貴殿の知る例の謎の集団についての情報を話してもらえるか?」
謎の集団のことを詳しく聞くため、ダークはヴァーリガムに話すよう頼む。ヴァーリガムはダークをしばらく見つめると、目を閉じて大きな口を開いた。
「事の始まりは五日前だ。突如、国の西部にある平原に人間の女の姿をした集団が現れ、巡回警備をしていた我が軍の小隊を襲撃した。敵の力は強く、襲われた小隊は僅かな時間で全滅したらしい」
「人間の女の姿をした集団か……」
ダークは謎の集団がLMFの自動人形と同じ人間の少女の姿をしていると聞き、より集団がLMFの自動人形である可能性が高くなったと感じる。肩にノワールも目を鋭くしながらヴァーリガムの話を聞いていた。
「貴殿らはその集団に対し、何か襲撃されるようなことをしたのか?」
「いいや、何も……ただ、一つ気になることがある」
「気になること?」
僅かに声を低くするヴァーリガムにダークは反応する。ヴァーリガムはゆっくりと目を開けて自分を見上げるダークと彼の後ろに控えているマティーリアを見つめた。
「奴らが現れる二日前、神殿に一人の少女が現れたのだ」
「少女?」
「見た目は人間の少女だったが、普通の人間とは違っていた。何か強大な力を持ち、それを隠しているような異様な雰囲気だ」
「強大な力か……それでその少女がどうかしたのか?」
現れた少女が今回の集団とどのように関係しているのかダークがヴァーリガムに尋ねると、ヴァーリガムの近くで待機していた元老院が一斉に表情を変える。リーリーは深刻そうな顔をしており、他の五人はどこか悔しそうな顔をして俯いていた。
元老院の反応を見たダークは、その現れた少女が何か元老院たちを不快にさせる言動を取ったのではと感じる。ダークが元老院たちを見ていると、ヴァーリガムは表情を変えることなく、落ち着いた様子で話し出す。
「その少女は我々に自分たちの国の傘下に入るよう言ってきたのだ」
「傘下?」
「ウム、自分たちの国の傘下に入れば亜人たちは今まで以上に平和で豊かな生活を送ることができる。国民の平和と安全を考えるのであれば、自分たちの下につき、導きに従うべきだと少女は言ってきたのだ」
突然現れて竜王であるヴァーリガムに自分たちの支配下に入れと言う少女にダークは内心驚いた。レベル80から90の間と言われているドラゴンが支配する国を傘下に入れようなど、普通なら絶対に考えないことだからだ。
ダークはリーテミス共和国を自分の国の傘下に入れようとするその少女を的外れの愚か者か自分の実力に自信がある存在だと考える。ノワールとマティーリアも少女が何を考えてそんな発言をしたのだろうと疑問に思っていた。
「……その少女は何者なのだ?」
「分からない。自身の名も所属する国名も言わなかった。ただ、自分はこの世界を真の平和へ導く者の僕だと語っていた」
「真の平和へ導く者? 何だその厨二病みたいな発言は……」
「ん? チュウニビョウ?」
「いや、気にしないでくれ」
思わず元いた世界での言葉を口にしてしまったダークは咄嗟に誤魔化す。ヴァーリガムは小首を傾げながらダークを見つめ、元老院もダークを少し変に思うような目で見ている。
「それで、ヴァーリガム殿はその少女の申し出を受けたのか?」
「いいや、断った。突然現れて傘下に入れという者の申し出を受けるつもりなどないからな。それに、この国は長い年月をかけて私や元老院が築いてきた国だ。他人の支配下に入り、築いてきた国の秩序や歴史を壊したくなどない」
「成る程、流石は竜王と呼ばれるドラゴンだ。断ったことに関して少女はどう反応したのだ?」
ダークは申し出を断った時に少女がどうしたのか気になって尋ねる。するとヴァーリガムはダークを見つめながら若干目を鋭くした。
「我々が傘下に入るのを断ると、少女は素直に神殿から去って行った。だが去り際に彼女がこう言ったのだ、『私たちの申し出を断った以上、私たちは二度と貴方がたに関知しません。例え貴方がたの身に災いが降りかかろうとも、未知の敵の襲撃を受けたとしても、私たちは一切助力いたしませんので』、とな」
ヴァーリガムは現れた少女の言葉をそのままダークに伝え、それを聞いたダークは無言で小さく俯いた。
(おいおいおい、それって完全に自分たちに従わないお前たちを襲うって宣告じゃねぇか! そんで直後に謎の集団がリーテミス共和国を襲撃したんだから確定だろう!?)
少女の言葉にダークは心の中でツッコミを入れる。今まで何度も似たような状況に遭遇したため、ダークはヴァーリガムの話を聞いてすぐに少女が謎の集団を嗾けたのだと確信した。
しばらく黙り込んでいたダークは顔を上げ、ヴァーリガムと元老院を見ながら目を薄っすらと赤く光らせる。
「……間違いなく、謎の集団はその少女の仲間だろうな」
「貴殿もそう思うか」
「ああ。それにしても、自分に従わないからと言って武力で相手を屈服させようとするとは、その少女はかなり幼稚な考え方をしているようだ」
いくら竜王であるヴァーリガムに傘下に入れと言えるくらいの度胸があっても、一度交渉が決裂したくらいで実力行使に出るようでは、どの程度の器なのかはたかが知れている。ダークはそう思いながら軽く息を吐いた。
「我々が知っている情報はこれくらいだ。さあ、次は貴殿が奴らのことを話す番だぞ?」
「ああ、分かっている」
リーテミス共和国の情報を得たダークは次に自分が持つ情報をヴァーリガムたちに話し始める。リーテミス共和国を襲撃したのが自動人形である可能性があること、自動人形の武器や強さなど、ダークは知っていることを全てヴァーリガムたちに話した。
ダークが全てを話し終えると、ヴァーリガムたちは驚きの表情を浮かべてダークを見つめる。自分たちの国を襲っているのが自動人形という未知の存在であるかもしれないと聞かされて衝撃を受けたようだ。
「自動人形、そんな存在がこの世界にいたとは……」
「長いこと生きているが、そのような話は今まで聞いたことがない」
驚きの表情を浮かべていたバーミンとハンドヴィクトは目を鋭くして俯く。他の元老院やヴァーリガムも真剣な表情を浮かべて黙り込んでいた。
ダークは自動人形のことを話す時、自動人形がLMFの世界にしか存在しないモンスターとは言えなかったので、遥か昔、ヴァーリガムたちが生まれる前に大陸に存在していた古代文明が開発した人工モンスターだと説明した。少し無理があるのではと思われたが、ヴァーリガムたちは疑うことなく信じてくれたのでダークはとりあえず安心する。
「しかし、そんな古代のモンスターをあの少女はどうやって手に入れたのだ? そもそも、その自動人形は今まで何処に隠されていたのだ」
「待ってくれ、ヴァーリガム殿。まだその集団が自動人形とは限らない。まずはその集団が本当に自動人形なのか確かめる必要がある」
疑問に思うヴァーリガムに声を掛けたダークはポーチに手を入れた丸めてある羊皮紙を三つ取り出す。それはアリシアたちに自動人形のことを説明する際に見せた自動人形の絵が描かれたある羊皮紙だ。
ダークは羊皮紙を全て広げるとヴァーリガムたちに差し出す。羊皮紙を見たヴァーリガムたちは不思議そうな反応を見せ、よく見るためにバーミンはダークに近づいて羊皮紙を受け取った。
羊皮紙を手にしたバーミンはヴァーリガムたちの下へ戻り、羊皮紙に描かれてある自動人形の絵を見る。初めて見る少女の絵に元老院は目を見開いて驚く。ヴァーリガムも元老院の真上から羊皮紙の絵を見ていた。
「ダーク殿、この絵の少女たちが自動人形なのか?」
「そのとおりだ。貴殿らの国を襲っている集団がその絵の少女たちと同じ姿をしているのであれば、自動人形で間違いない」
「成る程……ダーク殿、敵の正体を確認したので、この羊皮紙を借りても構わないか?」
「好きに使ってくれ」
「ありがたい。ヤグザックス、急いで確認しろ」
「ハッ!」
返事をしたヤグザックスは羊皮紙を受け取ると飛び上がり、天井の穴から神殿の外へ出ていく。ヤグザックスが飛んでいくのを見届けるとダークはヴァーリガムたちの方を向いた。
「さて、謎の集団が自動人形であるかどうかはこれで分かるわけだが……もし自動人形であった場合は私たちビフレスト王国を貴殿らと共闘させてほしい」
「共闘?」
予想外のダークの提案を聞いてヴァーリガムは意外に思い、元老院も少し驚いたような反応を見せた。
ダークの目的はリーテミス共和国を襲う集団が自動人形であった場合、接触して自動人形を召喚したと思われるLMFプレイヤーの手掛かりを手に入れることだ。効率よく手掛かりを得るのであればリーテミス共和国と共闘し、自動人形と思われる集団に近づくのが一番だった。
元老院は共闘を提案するダークを見て様々な表情を浮かべていた。バーミン、ハンドヴィクト、リーリーの三人は人間が自分たちに手を貸すということに対し驚いており、ゴボゴンとカックリーゼは突然現れていきなり共闘しようと言い出すことに不信感を抱くような顔をしている。
ダークが何を考えて共闘を提案したのか、元老院はダークを見つめながら考える。すると、ヴァーリガムがダークを見つめながら少し低めの声を出す。
「なぜ共闘しようと考えたのか、理由を聞かせてくれるか?」
「私は大陸に存在していた遥か昔の文明が作り出した人工モンスターに興味があり、詳しく調べてみたいと思っている。だから貴殿らの敵が自動人形であった場合は共闘し、倒したモンスターを回収して本国へ持ち帰り調べてみたいのだ」
ヴァーリガムたちと共闘する理由をダークは冷静に話す。だが、それは真実を隠すためのデタラメだ。LMFプレイヤーの手掛かりを手に入れるためとは言えないので、ダークは誰もが納得するような理由を話した。
「研究材料を手に入れるためという訳か……もう一つ訊いてもいいか?」
「何かな?」
「貴殿は我々の敵が自動人形であれば共闘すると言った。だがもし、敵の正体が自動人形でなかった場合、貴殿はどうする?」
ダークを鋭い目で見つめながらヴァーリガムは尋ねる。ダークとの今までの会話から、自動人形だった場合は共闘して共に戦うが、もし自動人形ではなかったら共闘はしないと言っているようにヴァーリガムには感じられた。
もし敵が自動人形でなかった場合は興味が無くなり島から去るのでは、ヴァーリガムは共闘しようと言っておきながらダークが心変わりするのではと小さな不信感を抱きながらダークを見ている。
「別に何もしない。我々の目的は自動人形だからな」
「そうか……」
予想していた返事をしたダークを見てヴァーリガムは呟き、元老院も不満そうな顔をしながらダークを見つめる。
「ただ、貴殿らが望むのであれば、私たちは力を貸そう」
「何? しかし貴殿は今何もしないと……」
「頼まれていないのだから何もしないのは当たり前だ。だが、ヴァーリガム殿が協力を求めるのであれば例え敵が自動人形でなくても共闘しよう」
ダークの言葉にヴァーリガムは呆気にとられる。てっきり自動人形がいなければ他国の戦争に関わりたくないとでも言って去るのではと思っていたが、頼めば協力すると言うダークの言葉にヴァーリガムは驚いていた。
元老院も他国の人間、しかも国王が今まで関わらなかった他国に力を貸すというダークの言葉を聞いて目を丸くして驚いている。そんな元老院の反応を見たノワールはダークの肩に乗りながらクスクスと笑っていた。
「ところで、まだ貴殿らの返事を聞いていないが、敵が自動人形だった場合、共闘させてくれるのか?」
ダークは自分の要望を叶えてくれるのかヴァーリガムに尋ねると、ヴァーリガムはふと反応してダークを無言で見つめる。しばらくダークを見つめていたヴァーリガムは目を閉じてゆっくりと頷いた。
「分かった、もし敵がその自動人形であった場合は貴殿らと共闘しよう」
「感謝する」
「その代わりと言っては何だが、もし敵が自動人形でなかったとしても、我々と共闘してもらいたい」
「勿論だ、その時は喜んで力を貸そう」
「それから、もし貴殿らと共闘して自動人形に勝利できたとしても謝礼などは出すことはできない。我が国は大陸の国家と比べて物資や食料の数が少なく、他国に渡せるほどの余裕がない。何より、貴殿の方から共闘を求めて来ているのだしな。ただ、自動人形出なかった場合はこちらが共闘を要請したため、何かしらの形で礼はする」
「謝礼など必要ない、私たちは自動人形を回収できるだけで充分だ」
あくまでもLMFプレイヤーの手掛かりが目的なのでそれが得られれば構わない、ダークはそう考えながら謝礼は不要だと語る。ダークの答えを聞いて、バーミンとリーリーは人間なのに欲が小さいなと感心していた。しかし、ゴボゴンとカックリーゼはまだダークのことが信用できないのか、不満そうな顔でダークを見ている。
共闘することが決まり、ダークは立ち上がってヴァーリガムの方へ歩き出す。控えていたマティーリアもダークに後をついて行き、ヴァーリガムの前まで移動した。
「改めて、挨拶をさせてもらおう。私はダーク・ビフレスト、隣にいるのがマティーリア、そして肩に乗っているのがノワールだ」
ダークがノワールとマティーリアのことを紹介すると、ノワールはヴァーリガムを見上げながら無言で頭を下げ、マティーリアは興味の無さそうな顔をしながら違う方角を向いていた。
自己紹介をしたダークを見たヴァーリガムは自分も改めて名乗った方がいいと感じ、自身の元老院のことを紹介することにした。
「ヴァーリガム・ベンドバーンだ。そこにいるのは我が国の重役を任せている元老院だ」
紹介された元老院はダークたちを見ながら軽く頭を下げたりなどして挨拶をした。するとそこへ外に出ていたヤグザックスが天井の穴を通って戻ってくる。そのことに気付いたダークたちは上を向いて降下して来るヤグザックスに注目した。
ヤグザックスはヴァーリガムの近くに下り立つとヴァーリガムの方を向いて少し慌てたような表情を浮かべる。
「閣下、例の羊皮紙を前線に出ていた戦士に見せたところ、あの羊皮紙に描かれていたモンスターと同じ姿の敵を見たと言っておりました」
「何っ、確かか?」
「ハイ、見た本人も間違いないと言っております」
自分たちの国を襲撃した謎の集団が自動人形だと聞かされ、ヴァーリガムやヤグザックス以外の元老院は驚く。
一方でダークは自動人形がリーテミス共和国にいると聞かされ、これでLMFプレイヤーの手掛かりが得られるとフルフェイス兜の下で小さく笑う。ノワールとマティーリアも真剣な表情を浮かべてヤグザックスを見つめた。
「ダーク殿、どうやら貴殿の望みは叶ったようだな?」
「ああ、これで古代文明の情報を手に入れることができる」
ダークはヴァーリガムを見上げながら嬉しそうな口調で語り、ノワールも目を閉じながら小さく笑みを浮かべる。
それからヴァーリガムはヤグザックスにダークたちと共闘することを伝え、ダークを含め全員で今後どうするかを簡単に話し合った。