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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十九章~古代文明の戦闘人形~
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第二百七十七話  共和国の騒動


 ビフレスト王国の首都バーネスに建てられている王城、その一室に国王であるダークと総軍団長のアリシア、主席魔導士のノワール、そして数人の貴族と思われる男たちが集まり、長方形の机を囲んで座っていた。

 部屋にはビフレスト王国が同盟を結んでいる周辺国家と流通する物資の数と金額の確認をするために同盟国との流通に関わる貴族が集められ、ダークは貴族たちから現状を聞かされているところだった。ダークは椅子に座りながら貴族たちの話を聞いており、アリシアとノワールも真剣な表情を浮かべている。


「……以上がエルギス教国から送られた薬草や日用雑貨の量と金額です。どちらも以前と大きな違いは無く、問題無く取り引きは終了しました」

「分かった。引き続きエルギス教国との取り引きと交渉は任せる」


 説明を終えた中年の貴族は静かに椅子に座り、持っていた羊皮紙を机の上に置く。周りにいる他の貴族たちはエルギス教国と問題無く取り引きが進んでいることを知って安心した。


「では、次にマルゼント王国との取り引きについて説明してくれ」

「ハッ!」


 ダークの言葉を聞いて今度は若い貴族が立ち上がり、机の上に置かれてある羊皮紙を手に取った。ダークたちの視線は立ち上がった若い貴族に一斉に向けられる。


「マルゼント王国は今回の取り引きで下級魔法が封印された巻物スクロールを三十本、中級魔法が封印された巻物スクロールを十八本送ってきました。全てマルゼント王国でしか手に入らない巻物スクロールで、本数や魔法の種類も陛下とヴァレリア殿のご要望どおりとなっております」

「そうか。こちらの要望を全て聞き入れてくれるとは、ルッソ殿には感謝しなくてはな……それでマルゼント王国からの要望は?」

「前回と同じです。我が国で開発された体力と魔力の両方を回復できる魔法薬、遠くにいる者と会話ができるマジックアイテム、数も前回の取り引きと同じ数を望んでおられます」

「やはりその二つはかなり人気があるようだな」


 マルゼント王国からの要望を聞き、ダークは静かに呟く。アリシアとノワールも貴族を見ながら、やはりと言いたそうな反応を見せる。


「いかがいたしましょう?」

「……問題無い、要望どおりの数と種類を用意し、マルゼント王国に送れ」

「承知しました」

「それと、新しく開発されたマジックアイテムの試作品も送っておけ」

「え? よろしいのですか? マルゼント王国からの要望にはありませんが……」

「構わない、今後マルゼント王国には魔法のことで世話になるだろうからな。礼の先渡しみたいなものだ」

「分かりました」


 貴族は視線を羊皮紙に戻すと次の内容報告を始め、ダークは黙ってそれを聞く。

 魔族軍との戦争が終わった後、ビフレスト王国はマルゼント王国と正式に同盟を結んだ。同盟が結ばれると、ダークは緊急時には軍を貸すこと、ビフレスト王国で開発されたマジックアイテムなどを供与することを条件にマルゼント王国にしか存在しない魔法が封印された巻物スクロールや魔法に関する情報を供与してもらうという内容で取り引きを行った。

 マルゼント王国側は強力な戦力を貸してもらえる上に自分たちでも開発できないマジックアイテムや魔法薬を与えてくれるのなら、喜んで巻物スクロールや魔法の情報を提供すると返事し、取り引きは何の問題も無く成立した。

 それからマルゼント王国は取り引きが行われるとビフレスト王国の要望に全て答え、魔法が封印された巻物スクロールやマルゼント王国が開発した魔法薬、魔法の情報を提供した。ビフレスト王国も要望を聞いてくれたマルゼント王国に感謝し、マルゼント王国の望みをできるだけ叶えるようにしている。


「……以上で報告は終わります」

「ご苦労」


 マルゼント王国との取り引きの説明が済むと担当していた貴族は軽く頭を下げてから席につく。マルゼント王国とも問題無く交流を深めることができていることにダークはフルフェイス兜の下で小さく笑みを浮かべた。


「最後はセルメティア王国との取り引きだな」


 最後の同盟国との取り引きはどうなっているのか気になるダークは担当している貴族の方を向く。

 セルメティア王国を担当しているのは白髪と白髭を生やした初老の貴族で、ダークと目が合った貴族はゆっくりと立ち上がり手元の羊皮紙を見た。


「セルメティア王国ですが、取り引きする物資や量に変化はありません。今までどおり、魔法薬や薬草、武具などを決められた数、送ってほしいとのことです。ただ、最近セルメティア王国の西部に中級モンスターが大量発生しているそうです。もしかすると青銅騎士の部隊の派遣を要請するかもしれないと言っておりました」

「そうか、それ以外には何かないのか?」

「……」


 ダークの問いに初老の貴族は答えず、少し難しそうな顔で羊皮紙を見つめながら黙り込む。そんな貴族を見たアリシアとノワール、周りの貴族たちは不思議そうな顔で初老の貴族を見つめる。


「……どうした?」


 黙り込む初老の貴族にダークが声を掛けると貴族はハッと顔を上げ、驚いた顔をしながら首を横に振った。


「い、いいえ、何でもありません……セルメティア王国からの要望はもうなにも……」

「……分かった」


 初老の貴族の反応を見たダークは疑問を抱きながらもとりあえず納得する。それから貴族たちは同盟国との交流の方針、ビフレスト王国領の発展などを時間を掛けて話し合った。

 やがて会議は大きな問題が起こることなく終了し、貴族たちは自分の羊皮紙を持って会議室を静かに出ていく。そんな中、セルメティア王国を担当している初老の貴族は何やら不安そうな顔で俯きながら最後に部屋を出ようとする。ダークはそんな貴族を椅子に座ったまま見つめていた。


「……あの」


 初老の貴族は扉の前で立ち止まり、ゆっくりと振り返りながらダークに声を掛ける。ダークは初老の貴族を見ながら反応し、アリシアとノワールは意外そうな顔で貴族を見た。


「どうした?」

「じ、実は先程の報告で陛下にお話ししていないことが……」

「何?」


 会議の時に報告していないことがあると聞かされたダークは僅かに低い声を出す。そんなダークの声を聞いた貴族はダークを不機嫌にさせてしまったのでは、と微量の汗を流した。


「どういうことです? なぜ会議中に陛下にお話ししなかったのですか?」


 座っていたアリシアは立ち上がり、若干目を鋭くしながら貴族を睨む。貴族はアリシアと目を合わせることができないのか俯いたままでいる。


「も、申し訳ありません。会議中にお伝えするべきか悩んだのですが、陛下にお伝えするようなことではないと思い、黙っておりました……」


 貴族は自分よりも年下のアリシアに対して僅かに恐怖を感じているのかアリシアの顔を見ようとはしなかった。ビフレスト王国の総軍団長であるアリシアはビフレスト王国でもかなり地位が高く、強い力も持っている。そのため貴族たちもアリシアに対して大きな態度を取ることができなかった。

 アリシアは無言で貴族を睨み続けており、ノワールも椅子に座ったまま無表情で貴族を見ていた。すると、ダークがアリシアの前に手を出して彼女を止めた。


「まあ待て、アリシア……なぜ今になって話そうと思った?」


 ダークが貴族に尋ねると、貴族はゆっくりと顔を上げてダークの顔を見る。


「最初はお伝えするべきではないと思っておりましたが、会議が終わった直後、このまま陛下にお話しせずに退室して、後にそれが原因でとんでもないことになってしまったらどうする、という不安を感じ、お話ししようと考えました」


 話さずに会議を終え、その後に自分のせいで大事件が起きた後に責任を取るのが怖くなったので話すことにした、という貴族の説明を聞いたダークはゆっくりと腕を組む。アリシアは貴族の説明を聞いて呆れ顔になっていた。


(そう思うのなら最初から話せよなぁ)


 ダークは貴族を見つめながら心の中でツッコミを入れる。説明した貴族は罪悪感とダークに対する恐怖から無意識に目を逸らしてダークを見ないようにしていた。


「……成る程な。普通なら重要な内容かどうか分からないのに独断で話す必要が無いと決めつけることは許されないことだが、お前のこれまでの働きと気が変わって話すことにしたことから、今回は大目に見よう」

「あ、ありがとうございます」

「ただし、二度めは無いぞ?」


 最後に目を赤く光らせながらダークが警告すると、貴族は目を見開きながら無言で頷く。

 ダークが貴族を許したのを見て、アリシアは甘いなぁ、と感じながら少し困ったような顔をしている。ノワールは逆にダークは寛大な人だと小さく笑いながらダークを見ていた。


「それで? いったいどんな内容なのだ。その話しておきたいことというのは?」


 改めて貴族が何を報告しようとしたのか尋ね、アリシアとノワールも視線を貴族に向ける。貴族はダークたちの視線に緊張しながら話し始めた。


「……実は、セルメティア王国と取り引きを行っていた時にセルメティア側の取り引き担当者から気になる話を聞きまして」

「何だ?」

「大陸の西にある孤島、そこにあるリーテミス共和国で何らかの騒ぎが起きているそうです」

「リーテミス共和国、確か竜王が大統領を務めている亜人だけの国家だったな?」


 ダークは大陸に存在する国以外の国の名前が出てきたことで少し興味が湧いたのか貴族にどのような国なのか確認する。アリシアとノワールも気になるような表情を浮かべていた。


「ハイ、話によるとリーテミス共和国の島を観測していたセルメティア王国の調和騎士団が島の上空を妙な生物たちが飛んでいるのを確認したそうなのです」

「妙な生物? 随分と曖昧な表現だな、モンスターではないのか?」

「ハイ、何でもその生物は人間に似た姿をしており、モンスターとは違うみたいなのです」

「人間に似た? ということは亜人か?」

「いいえ、亜人でもないそうです」


 モンスターでも亜人でもない生物だと聞かされたダークは低い声を漏らし、アリシアとノワールは意外そうな顔で驚く。


「分からんな……その生物はどんな姿をしていたのだ?」

「話によると、その生物な人間の姿をしており、見たことのない恰好をしていたそうです」

「見たことのない恰好?」

「ハイ、目撃したセルメティアの騎士たちは望遠鏡で確認していたのですが、大陸から島まで距離があり過ぎてハッキリとは確認できなかったようです」

「見たことのない恰好か……他には情報はないのか?」


 謎の生物に関してもう少し情報が欲しいダークは貴族に尋ねた。貴族は難しい顔をしながら俯いてセルメティア王国から得た情報を思い出そうとする。すると、何かを思い出した貴族はフッと顔を上げてダークたちの方を向いた。


「そう言えば、その生物たちは肩と背中、そして腰に奇妙な物を付けていたそうです」

「奇妙な物?」

「何でも肩には白い筒状の物が付いており、腰には盾のような物、そして背中には白い箱のような物が付いていたそうです。箱からは青白い炎が噴き出しており、肩の筒からは黄色い光を地上に向けて放っていたとか……」


 貴族の説明を聞いたアリシアは意味が分からず、小首を傾げながら貴族を見つめている。筒状の物や箱のような物と分かりにくい説明をされれば無理もない。説明する貴族もセルメティア王国から話を聞いた時はアリシアと同じように理解できず、とりあえず聞いたとおりの情報をダークたちに説明したのだ。

 理解できないアリシアは腕を組みながらダークの意見を聞こうと彼の方を見た。すると、ダークはフルフェイス兜の顎の部分に手を当てて考え込むような体勢を取っている。ノワールも難しそうな顔をしながら小さく俯いていた。二人の姿を見てアリシアはダークとノワールはその生物について何か心当たりがあるのか、と感じる。


「セルメティア王国によると、その生物たちは島に向けて攻撃するような行動をとっていたそうです。直接、我が国とは関係のない情報だったので、最初は報告する必要は無いと感じておりました」

「……そうか。その生物に関して他に情報はないのか?」

「ハイ、セルメティア王国から得た情報は以上です」

「分かった。報告ご苦労、下がれ」

「ハ、ハイ」


 全て話し終えた貴族は一礼してから静かに部屋を後にする。部屋にはダークとアリシア、ノワールの三人だけが残った。


「……ダーク、今の話に出た妙な生物について、何か知っているのか?」


 部屋から貴族たちがいなくなると、アリシアはセルメティア王国が目撃した生物についてダークに尋ねる。ダークは黙り込んで前を見ていたが、しばらくすると立ち上がってアリシアの方を向いた。


「アリシア、レジーナたちを集めてくれ。できるだけ早くな」

「……分かった」


 いつもと若干雰囲気が違うダークにアリシアは一瞬驚くが、すぐに表情を戻して協力者であるレジーナたちを呼びに向かう。残ったダークは窓へ移動して空を眺め、ノワールはそんなダークの背中を黙って見つめている。

 しばらくすると、アリシアがレジーナ、ジェイク、マティーリア、ファウ、ヴァレリアを連れて戻ってきた。レジーナたちは突然呼び出されたため、また何か事件が起きたのでは真剣な表情を浮かべている。しかし、ヴァレリアだけは研究の最中に呼び出しを受けたため、面倒くさそうな顔をしていた。


「全員集まったな」


 ダークはアリシアたちの姿を見ると席につき、アリシアたちも長方形の机を囲んで座る。全員が座ると、アリシアたちは同時に視線をダークへ向けた。


「それで、いったい何のようだ、ダーク?」


 ヴァレリアは自分の髪を指で捩じりながら用件を尋ねる。ヴァレリアの態度から早く終わらせて魔法薬とマジックアイテムの開発に戻りたい、という彼女の本音が伝わり、ダークの方を向いていたアリシアたちは困り顔や呆れ顔を浮かべながらヴァレリアの方を見た。

 アリシアたちの視線がヴァレリアに向けられる中、ダークは腰のポーチに手を入れ、丸めてある羊皮紙を三つ取り出した。


「話をする前に、ちょっとコイツを見てくれ」


 ダークはそう言いながら取り出した羊皮紙を机の真ん中に向かって投げた。丸められた羊皮紙は机の上で広げられ、全員に見えるようになる。三枚の羊皮紙にはそれぞれ変わった恰好をした少女の絵が描かれてあり、アリシアたちは描かれている少女に注目した。

 一枚目には黄色い短髪の十代半ばぐらいの少女が描かれており、クリーム色のラインが入ったミニスカートを穿き、黄色い模様が入った体に密着した袖の短い白い服を着ている。両肩に白いショルダーアーマーを付け、両腕には金色の装飾が施された白い両刃剣が付いたガントレットを装備していた。

 二枚目には水色の長髪にをした十代後半ぐらいの少女が描かれている。恰好は一枚目の少女と同じだが、こちらの少女はスカートのラインが藍色で服の模様は青くなっていた。腰の左右には白いたこ形の薄い盾のような物を付け、両肩には白い平行四辺形の箱のような物が付いている。

 最後の一枚には黄緑色のショートボブヘアーをした十代後半ぐらいの長身の少女が描かれていた。ライトグリーンのラインが入ったスカートを穿き、緑色の模様が入った服を着ている。両肩には細長い筒状の白い物を付け、背中には大きめの正方形の箱のような物を付けていた。

 三人の少女は髪型と身長、装備は異なるが、服装のように共通しているところもある。それは全員が目に光が無く無表情で耳の部分にはヘッドホンのような物を付け、露出している各関節は球体関節人形のようになっていた。


「ダーク兄さん、このたちは?」


 レジーナが羊皮紙に描かれている少女たちについてダークに尋ねると、ダークは腕を組んで薄っすらと目を赤く光らせる。


「そこに描かれているのは自動人形オートマタという物質族モンスターだ」

「オートマタ?」


 聞き慣れない名前にレジーナはまばたきをする。同時に羊皮紙に描かれている少女がモンスターだと知ってジェイクたちは驚きの反応を見せた。


「このたち、全員モンスターだったのかよ?」

「見た目は人間の娘なのじゃがな」

「というか、何か見たことのない物を体中につけてますよ?」


 自動人形オートマタの絵を見ながらジェイク、マティーリア、ファウは意外そうな表情を浮かべ、ヴァレリアも少し興味が湧いたのかジェイクたちと同じように羊皮紙を見ている。どうやら異世界には自動人形オートマタは存在しないモンスターのようだ。


「ダーク、自動人形オートマタとはどんなモンスターなのだ?」

「見た目は人間の少女の姿をしているが、正体は人によって作られた意思を持つ人形だ」

「人形!?」


 アリシアは自動人形オートマタの正体を聞くと驚き、レジーナたちもダークの方を見ながら同じように驚いていた。

 人間そっくりの姿をしており、しかも意思を持った人形のモンスターだと聞かされれば驚くのは当然と言えるだろう。しかも異世界には存在しない未知のモンスターなのだから。


自動人形オートマタは私がいた世界の遥か昔、古代文明の人間が作り出した人工モンスターでステータスのバランスは良く、あらゆる状態異常を無効化する技術スキルも持っている」


 アリシアたちを見ながらダークは自動人形オートマタの設定や情報を詳しく説明する。アリシアたちは自動人形オートマタが強力なモンスターであることを知ると更に驚きの表情を浮かべた。ダークは驚くアリシアたちを見ながら話を続ける。


「私は貴族から空を飛ぶ妙な生物の情報を聞いた時、この自動人形オートマタのことがふと頭に浮かんだ。そして、その生物がLMFの自動人形オートマタではないかと考えたのだ」

「だが、もしそうだとしても、どうしてLMFのモンスターがこの世界に……ッ! まさか!?」


 何かに気付いたアリシアは目を大きく見開く。ジェイクとマティーリア、ヴァレリアも気付いたのかアリシアと同じように目を見開いてダークの方を向く。レジーナとファウは気付いていないのか、アリシアたちを不思議そうな顔で見ている。

 アリシアたちの反応を見たノワールは真剣な表情を浮かべ、ダークも小さく頷く。


「そうだ……この世界にいる私以外のLMFのプレイヤーが召喚した可能性があると言うことだ」


 ダーク以外のLMFプレイヤーが関わっている、そう聞かされたアリシアたちは驚愕の表情を浮かべる。セルメティア王国に出現したフルールア宮殿の一件から存在が疑われたLMFプレイヤーの手掛かりがリーテミス共和国にあるかもしれないという現状から部屋の空気が僅かに変わった。


「もし、その生物たちがこの自動人形オートマタなら、LMFプレイヤーの情報を集めることができるかもしれない。場合によってはLMFプレイヤーに接触することもできるだろう」

「……自動人形オートマタについてはよく分かった。しかし若殿、そのことと妾たちが此処に呼ばれたことにどう関係があるのじゃ?」


 マティーリアは自分たちが部屋に集められた理由について尋ね、レジーナたちも本題が気になるのか無言でダークを見ている。

 ダークは自動人形オートマタの説明が済むと本題に入るため、リーテミス共和国の現状を話すことにした。


「実は現在、亜人たちの国であるリーテミス共和国は謎の生物たちの襲撃を受けているらしい」

「謎の生物? さっき兄貴が話した自動人形オートマタのことか?」

「まだ断言はできんが、貴族から聞いた生物の情報を考えると、可能性は高いだろう」


 LMFのモンスターである自動人形オートマタがリーテミス共和国に現れ、国を襲撃していると聞かされたレジーナたちは表情を僅かに鋭くする。他国とは言え、ダークと同じLMFの存在が亜人たちを傷つけていると聞き、レジーナたちはほんの少し不快な気分になった。

 アリシアとノワールは既に話の内容をある程度理解してるため、驚いたりはせずに黙ってダークの話を聞いている。


「直接関係していないとは言え、自分と同じ世界の存在が他人を襲っている可能性がある分かった以上、私は見過ごすつもりは無い。私はリーテミス共和国へ向かい、生物の正体を確かめようと思う。そして、自動人形オートマタだった場合はそのままリーテミス共和国と共闘し、自動人形オートマタたちを倒すつもりだ」


 ダークは席を立ち、自分がこれから何をするのかをアリシアたちに話す。アリシアたちは今までの話の内容からダークが何を考えていたのか察していたらしく、話を聞いても驚かずに落ち着いてダークを見ていた。


「もし共闘することが決まった場合はお前たちの力を借りることになるかもしれない。お前たちにはリーテミス共和国の一件が片付くまでバーネストで待機していてもらう」

「成る程、それが俺たちを呼んだ理由ってわけか」


 呼び出された理由に納得したジェイクは小さく笑いながら椅子にもたれる。レジーナとファウも小さく笑みを浮かべ、マティーリアとヴァレリアも納得の表情を浮かべた。


「いいぜ、任せておけ」

「もし戦うことになったら、全力でぶっ飛ばしてやるわ」

「戦わずに片付けるのが一番じゃが、まぁそれもよかろう」

「御用の時は何なりと申し付けてください!」

「戦いに巻き込まれるのは面倒だが、その自動人形オートマタには興味がある。もしその生物が自動人形オートマタだったら、倒した後に死体を調べてみるのもいいかもな」


 ジェイクたちはそれぞれ思い思いのことを語り、ダークの指示に従うことを伝える。ダークは自分の頼みを聞いてくれたジェイクたちを見て、頼りになる存在だと感じた。アリシアとノワールもダークと同じようにジェイクたちを見ながら頼りになると思っていた。

 話がまとまるとダークは早速行動を開始する。今まで接触したことのないリーテミス共和国に向かい、そこでLMFの自動人形オートマタと戦うことになるかもしれないとなると色々と準備する必要があった。


「まず、私がノワール、マティーリアと共にリーテミス共和国へ向かい、そこで大統領である竜王や重役の亜人たちと会って話を聞いてくる」

「ん? 若殿、妾も一緒に行くのか?」

「お前はグランドドラゴンだからな。竜王と会うのなら同じドラゴンであるお前が同行した方が話がスムーズに進むかもしれん。それにリーテミス共和国は大陸から離れた島にある」

「……成る程、そう言うことか……仕方がないのぉ」


 自分を同行させる理由を知ったマティーリアが溜め息をつき、渋々納得する。マティーリアの反応から彼女は何か面倒なことやらされるようだ。

 マティーリアの反応を見ていたアリシアとジェイクは苦笑いを浮かべており、レジーナは愉快そうな笑みを浮かべてマティーリアを見ている。マティーリアはそんなアリシアたちに気付いたのか、不満そうな顔でアリシアたちを見た。


「アリシア、君は共闘が決まった時に出撃させる部隊の編成をしておいてくれ。そして、出撃が決まったらその部隊と共にリーテミス共和国に来てくれ」

「分かった」

「レジーナ、ジェイク、お前たちはアリシアの手伝いをしろ」

「分かったわ」

「おう!」


 指示を受けたレジーナとジェイクはダークを見ながら力の入った声で返事をする。


「ヴァレリア、ファウ、お前たちはアリシアたちがリーテミス共和国へ向かった後、念のために増援として派遣する部隊の編成をし、増援要請があったらその部隊と共にリーテミス共和国へ来い。それまではバーネストの防衛に就け」

「了解だ」

「お任せください!」


 首都の防衛と増援部隊に編成を任され、ファウはヤル気に満ちた声を出す。ヴァレリアは最前線に出る可能性が出てきたせいか若干嫌そうな顔で返事をした。

 全員に指示を出し終えたダークは窓の方を向き、目を薄っすらと赤く光らせながら空を見上げた。


「さて、果たして謎の生物は本当に自動人形オートマタなのだろうか。そして、いったい誰が奴らを召喚したんだ……」


 LMFプレイヤーの情報を得るためにも自動人形オートマタであってほしい、そう思いながらダークは呟いた。


この小説を投稿してもうすぐ四年になります。物語も終盤に入り、今回の章を除くとあと一章か二章で完結すると思います。もしかすると、次回の章が最終章になるかもしれません。皆様、最後までどうかお付き合いください。

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