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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百七十五話  平原での最終戦


 マルゼント兵たちは周囲を見回し、両断された隕石と強風で変わった地形を見て唖然としていた。


「俺たちは、助かったのか?」

「隕石は離れた所に落ちてるし、部隊に大きな被害も出てねぇ……」

「本当に私たち、生きてるの?」


 自分たちが生きていること、隕石が直撃しなかったことを徐々に理解していくマルゼント兵たちは、しばらくして自分たちが助かったことを知り、一人ずつ笑みを浮かべ始めた。

 先程まで混乱していたマルゼント兵たちは奇跡、神の加護、自分たちはついている、など様々な言葉を口にしながら仲間たちと生き延びたことを喜ぶ。黄金騎士と巨漢騎士たちは感情が無いため、騒ぐマルゼント兵たちの中でジッと前を見ながら待機していた。


「……ま、まさか、こんなことが起こるなんて……」


 騒いでいるマルゼント兵たちを見ながらモナは目を見開いて呆然とする。マルゼント兵たちと違い、モナはまだ自分が助かったことが実感できていないようだ。

 モナから少し離れた所ではダークが巨大剣を地面に刺し、腕を組みながらモナや騒いでるマルゼント兵たちを見ている。その隣には微笑みながらマルゼント兵たちを見ているノワールの姿があった。


「上手く皆さんを護ることができましたね?」

「ああ、だが直撃を避けたとはいえ、あの強風で飛ばされ、負傷した者がいるかもしれない。念のために空中から負傷した者がいないか調べてくれ」

「ハイ、マスター」


 ノワールは返事をすると浮遊魔法で宙に浮き、部隊全体を見下ろせる高さまで上昇した。ダークが地上から上昇するノワールを見上げていると、そこにアリシアたちがやって来る。それに気付いたダークは視線をアリシアたちに向けた。


「怪我は無いか?」

「あ、ああ、全員無傷だ」


 ダークの問いにアリシアは少し動揺したような様子で答え、仲間は誰も怪我をしていないと聞いたダークはアリシアやレジーナたちを見て小さく頷いた。

 アリシアたちは目を軽く見開きながらダークを見つめている。ダークがレベル100で強大な力を持っていることは彼女たちも知っているが、隕石まで切ってしまうとは思っておらず、流石のアリシアたちも今回は驚きを隠せずにいた。


「ダ、ダーク、さっきのはいったいどういうことだ?」


 モナが離れた所でマルゼント兵たちの方を見ているのを確認したアリシアは普段の口調でダークに声を掛けた。ダークはアリシアに視線を向けると不思議そうな反応を見せる。


「さっきのとは、隕石を切ったことか?」

「そうだ、いったいどんな手を使ったんだ?」


 どんな方法で隕石を切ったのか、アリシアはダークの顔をジッと見つめながら尋ね、レジーナたちもどうやって方法を使ったのは気になるらしく、全員が真剣な表情を浮かべてダークを見ていた。

 ダークはアリシアたちの真剣な表情と集まる視線に少し引いてしまう。だが、アリシアたちが気になるのも無理はなく、隠すつもりのないダークは隕石を両断した方法を詳しくアリシアたちに説明しることにした。


「ノワールの魔法と、コイツのおかげさ」


 そう言ってダークは地面に刺さっている巨大剣の剣身を手で軽く叩く。アリシアたちの視線はダークから巨大剣に向けられ、アリシアたちは目を丸くしながら巨大剣を見つめる。改めて見ると巨大剣はダークよりも大きく、常人では持ち上げることすらできなくらいの重量感があった。ダークと同じレベル100のアリシアも持ち上げるのは困難だと感じている。


「コイツは星喰いと言って、私の仲間である釜湯でゴエモンさんが作った武器だ」

「えっ、この剣もダーク兄さんの仲間が作ったの?」


 目の前の巨大剣もダークのLMFの仲間が作ったと知ってレジーナは驚き、ファウも目を見開いて驚いている。アリシアやジェイク、マティーリアはダークの仲間が作ったと予想していたのか、巨大剣の製作者の名を聞いても驚かなかった。

 <星喰い>は釜茹でゴエモンが作った武器の中でも攻撃力と切れ味に特化し、レベル90以上のプレイヤーだけが装備することができる巨大な剣。無属性で一撃の攻撃力が大きく、斬撃を放つコメットブレイクという攻撃能力がついている。ただし、その大きさからかなりの重量があり、レベル90以上のプレイヤーでも扱うのは非常に難しい。更に剣を振る速度が遅く命中精度が悪いため、小さな敵や移動速度の速い敵には相性が悪い武器だ。

 ダークは星喰いを見上げながら懐かしそうに大きな剣身を手でさすった。


「コイツは釜茹でゴエモンさんの隕石を切れる剣を作ってみたいという発想から生まれた剣だ。だが、隕石を切れるくらい攻撃力と切れ味を高めた結果、とんでもなく重い剣になってしまった」

「確かに、レベル100のダークですら構えるのに苦労していたから相当な重さだろうな……」

「今回はノワールの魔法のおかげで重い星喰いを軽々と振ることができたが、ノワールの魔法が無ければ私でも使いこなせん」


 レベル100のダークでも補助魔法がなければ使えないと聞かされたアリシアたちは、いったいどれだけの重さがあるんだと心の中で驚いた。


「だからどちらかと言うと戦闘ではなく、隕石や建物を破壊することに向いている武器なんだ。そのため、私がいたギルドでは欲しがる人がおらず、結局私が貰うことになった」

「そ、そうだったのか……ん? なあ、兄貴、隕石や建物を破壊するための剣なら、どうして今まで町の正門を突破する時にその剣を使わなかったんだ?」


 ジェイクは過去の戦いを振り返り、ダークが町や砦の正門を破壊する時に星喰いを使わなかった理由について尋ねる。アリシアたちもジェイクの話を聞いて同じ疑問を抱き、どうしてだと言いたそうな目でダークを見た。


「今までの正門や城壁は星喰いを使わなくても破壊できたからだ。あの程度の正門や城壁など、星喰いを使わなくても暗黒剣技で簡単に破壊できる」


 ダークはメニュー画面を操作し、装備している武器を星喰いからいつもの愚者の大剣に戻しながら答え、アリシアたちは成る程、と納得の反応を見せる。それと同時にダークの暗黒剣技の破壊力は本当に凄いのだとアリシアたちは改めて感じた。

 装備を戻したダークは視線をマルゼント兵たちに向ける。マルゼント兵たちは未だに隕石の落下から生き延びたことを喜んでおり、アリシアたちも喜ぶマルゼント兵たちを見て小さく笑う。するとそこに、部隊の損害を確認しに行ったノワールが戻ってきた。


「マスター、確認してきましたが、重傷を負った人は誰もいませんでした。ただ、隕石が落下した時に発生した強風で飛ばされて足を挫いたりした人は何人かいるようですが、問題無いと思います」

「そうか、ご苦労だったな。ノワール」


 ダークが労うとノワールは笑いながら地上に下り立つ。

 重傷者が出ていないと聞いたアリシアたちは今なら部隊の士気は高まっており、魔族軍にも苦戦すること無く勝てるかもしれないと感じていた。


「それにしても、空から降ってきた星を切って兵士たちを護ってしまうなんて、やはりダーク様は凄いお方ですね! モナ殿や兵士たちも皆驚いています!」


 ファウは少し興奮した様子でダークの凄さを口にし、ダークは自分を見ながら目を輝かせるファウを見るとフルフェイスの兜の下で苦笑いを浮かべた。

 ダークたちがモナやマルゼント兵たちに視線を向けると、ファウの言うとおり、マルゼント兵の中には笑う者以外にも驚いている者がいる。モナは少し落ち着いたのか顔に手を上げながら深呼吸をしていた。


「確かにあ奴らは驚いておる。じゃが、それ以上に驚いておるのは魔族軍かもしれんのぉ?」


 マティーリアはそう言って視線を魔族軍の方へ向け、ダークたちも魔族軍の様子を確認する。

 魔族軍は遠くにいるためハッキリとは確認できないが、何やら騒いでいるように見える。魔族軍もマルゼント王国軍に向かって落下した隕石が空中で真っ二つになったのを見て驚いているようだ。


「確かに魔族どもの方が俺らよりも驚いているみてぇだな」

「まあ、無理も無いんじゃない? 自分たちが降らせた星が空中で真っ二つになっちゃったんだからさ」

「自分たちが予想もしていなかった事態になったのじゃ、どんなに冷静沈着な者でも動揺するはずじゃ」


 破滅の宝塔による攻撃が失敗し、魔族軍は間違いなく混乱しているとジェイク、レジーナ、マティーリアの三人は感じる。同時に破滅の宝塔で部隊が大ダメージを受けると言う不安が消え、ダークたちは魔族軍に攻撃する絶好のチャンスだと考えていた。


「ダーク、魔族軍が破滅の宝塔を使用したことで再び宝塔を使用することができなくなった。今なら星による攻撃を気にすることなく進軍できるぞ?」

「ああ、分かっている。私はそのことをモナ殿に伝えてくる。君たちはいつでも進軍できるよう準備をしておいてくれ」


 そう言ってダークはノワールを連れてモナの下へ向かう。アリシアは魔族軍の様子を窺っているレジーナたちに声を掛けてから進軍の準備を進めた。

 その頃、魔族軍はざわつきながらマルゼント王国軍の見ていた。最初は何が起こったのか理解できなかったが、すぐに隕石が空中で割れたことに気付き、魔族軍は大きな衝撃を受ける。

 ダークたちの予想どおり、魔族兵たちは落下する隕石が空中で二つに割れた光景を見て驚愕の表情を浮かべている。中級の悪魔族モンスターたちも目を見開きながら驚いているが、知能の低い下級の悪魔族モンスターたちは隕石が割れたことの重大さが理解できず、ただジッとマルゼント王国軍を見ていた。

 魔族兵たちの中には部隊長である魔族兵もおり、彼らも汗を流しながら他の魔族兵たちと同じように驚いている。その中でも司令官であるゼムは誰よりも驚いており、破滅の宝塔を持つ手を震わせていた。


「な……何が起きた……?」


 ゼムは地上に落ちた隕石を見ながら震えた声を出す。自分が破滅の宝塔と使用して降らせた隕石がマルゼント王国軍に落下する直前に空中で二つに割れ、マルゼント王国軍に被害を出させることなく離れた場所に落ちたのだから驚かない方がおかしい。ゼムの隣にいる部隊長の魔族兵も目を大きく見開いて小さく震えていた。


「ゼ、ゼム殿、いったいどうなっているのです? なぜ突然星が二つに……」

「それは私が訊きたいくらいだ。どうして突然星が割れた?」

「ま、まさか、敵の中に星を割るほどの力を持つ者が……」

「それは絶対にあり得ん!」


 魔族兵がとんでもない答えを想像し、ゼムはそれを速攻で否定する。怒鳴って否定したゼムに魔族兵は驚いて視線をゼムの方を向いた。


「空から降ってくる星を割るなど、魔王様でも不可能なことだ。それを魔族よりも力の劣る人間や亜人で出来るはずがない!」

「で、では、先程のはいったい何なのです!?」


 答えが分からない現象に魔族兵は僅かに興奮した様子で尋ねる。ゼムは魔族兵の言葉を聞くと小さく俯き、なぜ突然星が割れたのか考えるがいくら考えても答えが出てこなかった。


(どうなっているのだ! 侵攻を開始した直後は問題無く領土を占領できていたのに、途中から人間軍の抵抗が激しくなった。重要拠点であるジンカーンとセルフストは奪い返され、ガロボン砦までも突破されてしまい、今回は星が割れるなんて現象まで起きた! いったいどうなっているというのだ? なぜ次から次へと予想外の出来事が起きるのだ!?)


 自分の予想もできない出来事が連続で起き、ゼムは苛立ちと不安を感じながら心の中で叫ぶ。隕石が割れたことで魔族兵たちが不安を感じる中、司令官であるゼムは魔族兵たち以上にストレスを感じていた。

 ゼムは精神的に追い込まれながらも、なぜ隕石が割れたのか、この後自分たちはどうすればいいのかを考える。するとゼムの下に一人の魔族兵が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「ゼム殿! に、人間軍が進軍を開始しました!」

「何っ!?」


 報告を聞いたゼムがマルゼント王国軍の方を見ると、マルゼント王国軍が丘を下り、平原を走りながらこちらに向かってくる光景が目に入る。それを見たゼムや隣にいた部隊長の魔族兵が目を見開いた。


「人間軍め、先程の星に怯んで動けなくなったと思っていたが、怯むどころか勢いよくこちらに向かって来ているとは……」

「ゼム殿、こちらも悪魔を突撃させて迎え撃ちましょう!」


 部隊長の魔族兵が迎撃を提案すると、ゼムは再び俯いて三千しか戦力がない部隊で五千のマルゼント王国軍と戦うべきか考える。

 再び星を降らそうにも、破滅の宝塔は四十八時間が経過しないと再び使うことができないので、手元の戦力だけで戦うしかない。だが、戦力で劣っている上に隕石が割れた光景を見て魔族兵たちの士気は低下しているため、明らかに魔族軍の方が不利だった。

 不利であるのなら本拠点である神殿まで後退するべきだと普通は考えるが、マルゼント王国軍は既に目の前にいるため、今撤退すれば背後から攻撃を受けて部隊に大きな被害が出てしまう。何より、マルゼント王国軍を本拠点まで近づけてしまうため、撤退だけは絶対にできなかった。


「……仕方がない。全ての戦力で人間軍を迎え撃つ、悪魔だけでなく、兵士たちも全員前線に出すんだ。私も出る」

「ハッ!」


 悩んだ末、ゼムは今いる平原でマルゼント王国軍と戦うことを決断し、部隊長の魔族兵に命令を出す。部隊長の魔族兵が力の入った声で返事をすると、ゼムはマルゼント王国軍の進軍を報告しに来た魔族兵の方を向く。


「お前は急いで神殿へ向かい、神殿に残してある全ての戦力をこの平原に向かわせろ! 神殿の戦力が加われば人間軍にも勝てる」

「わ、分かりました!」


 魔族兵は本拠点に増援を要請するよう指示を受けると走り出し、近くにいた馬に乗って神殿のある北へ向かって馬を走らせた。

 馬が走るのを見届けたゼムは近づいて来るマルゼント王国軍の方を向き、鋭い目でマルゼント王国軍を睨み付けた。


「人間軍よ、我々魔族はナメるなよ。お前たちがどんな手を使って此処まで進軍してきたのかは知らんが、我々はお前たち人間や亜人に負けるわけにはいかんのだ!」


 魔族の誇りに賭けて、必ず目の前のマルゼント王国軍を倒して勝利を手にする、ゼムは心の中でそう誓った。

 マルゼント王国軍は平原の走り、真っすぐ魔族軍へ向かって行く。その中には馬に乗ったダークやアリシアたち、空を飛ぶノワールとマティーリアの姿がある。そして、ダークたちの後ろをモナが馬に乗ってついて来ていた。

 十数分前、モナが隕石が割れたことに驚いているところにダークが進軍を再開するよう言いにやって来る。モナはダークにどうやって隕石を両断したのか訊こうとするが、破滅の宝塔が使えなくなり、隕石が割れたことで魔族軍が混乱していると聞かされ、モナは魔族軍に攻撃することを優先し、後で隕石のことを訊くことにした。

 モナが生き延びたことを喜んでいるマルゼント兵たちに進軍を再開することを伝えると、生き延びたことで士気が高まっているマルゼント兵たちは大きな声を上げ、素早く進軍の準備をする。そして準備が終わると、モナの合図でマルゼント兵たちは丘を下り、ダークたちもそれに続いた。


「空から降ってきた星を両断するほどの巨大な剣を持ち、それを自由に扱うことができるなんて……」


 馬を走らせながらモナはダークの後ろ姿をジッと見つめる。これまでに何度もダークの勇姿や強大な力を見てきたのでもう何が起きても驚くことは無いと思っていたが、流石に隕石を切れるとは思っていなかったため、モナはダークの底知れぬ力に改めて驚かされた。


(あの星を切った巨大な剣、気付いた時にはもう消えていたし、間違いなく魔法の武器でしょう。いったいあんな武器をダーク陛下は何処で手に入れられたの? いいえ、それ以前に星を切ることができる武器がこの世界に存在しているなんて初めて知りました……)


 モナは難しい顔をしながら心の中で呟く。長い歴史の中で星を切れる武器に関する情報など初めて聞き、そんな魔法の武器を所持するダークは何者なのか、モナは馬を走らせながら考えた。


(未知のマジックアイテムと桁外れの強さを持つダーク陛下……まるで神の世界から来た鬼神みたい」


 これまでのダークの情報と強さから、モナはダークが別の世界から来た神か何かではと考える。そう思えるくらいの力とマジックアイテムをダークは所持しているため、可能性はあるとかもしれないと感じられた。


「……フッ、まさか。別の世界から来たなんて、おとぎ話じゃあるまいし……あの巨大な剣のことだって、ただ私が情報を知らなかっただけかもしれませんしね」


 モナは苦笑いを浮かべながらダークが別の世界から来た存在であるという考えを切り捨てる。いくら魔法が存在する世界でも、別世界の住人が自分たちの世界にやって来るなどあり得ないとモナは考えていた。彼女はおとぎ話と現実を一緒にするような考え方はしないようだ。


「馬鹿なことは考えないで戦いに集中しなくては、剣のことは後でダーク陛下にお聞きすればいいのですから」


 そう言いながらモナは魔族軍と戦うことに気持ちを切り替え、馬をより速く走らせた。

 モナはダークが別の世界から転移してきた存在であることを無意識に勘付いていたが、それはあり得ないと迷わずに切り捨てた。そして、ダークもモナが自分の正体に気付きかけていたことに気付かず、馬を走らせ続ける。

 マルゼント王国軍が魔族軍に向かって突撃する中、魔族軍もマルゼント王国軍を迎え撃つために走ってくる。マルゼント兵たちは近づいて来る魔族兵や悪魔族モンスターたちを睨みながら走る速度を上げた。両軍の距離を徐々に縮まっていき、遂にマルゼント王国軍と魔族軍は激突する。

 平原の中でマルゼント兵や騎士は悪魔族モンスターとぶつかり合う。マルゼント兵たちは士気が高まっているためか、悪魔族モンスターを次々と倒していき、魔法使いたちも後方から魔法で支援攻撃を行う。魔族軍も悪魔族モンスターたちに攻撃させるが、士気の高まったマルゼント兵たちは次と返り討ちにしていく。

 下級の悪魔族モンスターでは押し返せないと感じた魔族兵たちはブラックギガントやオックスデーモンを前に出して攻撃させるが、中級の悪魔族モンスターたちは黄金騎士と巨漢騎士たちが相手をし簡単に倒してしまう。

 マルゼント兵たちは近くにいた悪魔族モンスターを倒すと、今度は魔族兵たちに攻撃を仕掛ける。魔族兵たちは今まで悪魔族モンスターたちに戦わせていたため、戦い慣れておらず次々と倒されてしまう。悪魔族モンスターだけでなく、魔族兵も難なく倒せることを知ったマルゼント兵たちは更に士気を高め、畳みかけるように攻撃した。


「皆、凄い戦いをしますね」


 馬から降りたファウはマルゼント兵たちの戦いを見ながらサクリファイスで悪魔族モンスターたちを斬り捨て、後ろにいるレジーナに語り掛ける。レジーナも馬から降りて戦っており、ファウに背を向けて飛び掛かってきたヘルハウンドをテンペストで倒しながら周囲を見回す。因みに二人が馬から降りた理由は馬に乗って戦うよりも自分の足で動いた方が戦いやすいからである。


「星を降らされて死を覚悟してたのに生き延びたわけだからね、生きていることが嬉しくていつも以上にやる気を出してるんでしょう。おかげで戦いはあたしたちが優勢よ」

「兵士たちの命を救っただけでなく、士気まで高めてしまうなと、やはりダーク様は凄いお方ですね」

「それ、直接本人に言ってあげたら?」


 ダークを心酔するファウの言葉にレジーナはニッと笑みを浮かべる。すると、一体のブラックギガントがレジーナに向かってパンチを撃ち込もうとし、それに気付いたレジーナはブラックギガントを睨んでテンペストを構えた。

 だが、レジーナがブラックギガントの方を向いた瞬間、ブラックギガントは背後から攻撃を受けてそのまま倒れる。レジーナが倒れたブラックギガントを不思議そうな顔で見てから前を向くと、そこにはジャバウォックを構えながら竜翼を広げるマティーリアの姿があった。どうやらブラックギガントはマティーリアに背後から斬られて倒されたようだ。


「戦闘中、しかも周りに敵が大勢いる時に油断するでない。そういう戦い方をしておると何時か敵に足元をすくわれるぞ?」

「ムウゥ、相変わらずクソ真面目で口うるさいわね。あたしは別に油断してたわけじゃないわよ」

「目の前に敵がいるのに仲間の方を向くことを油断と言わずに何と言うのじゃ? そうやって自分の失敗を正当化しようとするな、見っともない」

「あ~ハイハイ。分かったわよ、あたしが悪かったわよ……まったく、これだから頭の固いババアは……」

「ああぁ?」


 小声で悪口を言うレジーナはマティーリアは血管を浮かべながら睨む。レジーナはそんなマティーリアを無視して戦いを続け、二人のやりとりを見ていたファウはサクリファイスを構えながら苦笑いを浮かべていた。

 レジーナたちから西に少し離れた所ではモナが馬に乗りながら魔法で悪魔族モンスターを攻撃していた。その近くにはダークとジェイクの姿もあり、モナに近づこうとする敵を次々と倒していく。二人もレジーナたちと同じように自分の足で移動した方が戦いやすいため、馬から降りていた。


「悪魔たちはともかく、魔族兵たちの動きは明らかに鈍い。やはり破滅の宝塔の攻撃が失敗したことで士気が低下しているようだ」

「そうみたいだ……ですね。魔族兵たちが鈍いせいで、悪魔たちへの指示も上手くいっていたいみたいですし、このまま押し切っちまいましょう」


 モナが近くにいるため、ジェイクは敬語でダークに返事をし、ダークもジェイクの言うとおりだと思い、彼を見ながら頷く。そんな二人にブラッドデビルとマッドスレイヤーが背後から襲い掛かる。背後からの攻撃に気付いたダークとジェイクは素早く振り返り、大剣とタイタンでブラッドデビルとマッドスレイヤーを返り討ちにした。


「……やはりこの方たちは凄い、背後からの奇襲にも全く動じず、冷静に対処している」


 ダークとジェイクの戦いを見ていたモナはその華麗な戦い方を見て目を見開く。その時、空中から一体のビーティングデビルがモナに向かって急降下してきた。


「……ッ! 暴風の刃トルネードカッター!」


 ビーティングデビルに気付いたモナは慌てて羽扇を振り、ビーティングデビルに真空波を放つ。真空波やビーティングデビルを胴体から両断し、二つに分かれたビーティングデビルの死体はそのまま地上に落下する。


「いけないいけない、今は戦いの最中、敵に集中しなくては……」


 ダークとジェイクが一緒に戦っていることから油断していたモナは気を引き締めて直し、周りにいる悪魔族モンスターや魔族兵たちに集中する。ダークとジェイクも得物を構えて周りの敵に意識を集中させた。

 平原の北側ではゼムが四人の魔族兵と共にマルゼント兵や騎士たちと交戦している。魔族兵たちは士気の高まったマルゼント兵たちに少々苦戦しているが、ゼムだけは苦戦することなく戦っていた。


闇の光弾ダークスピリッツ!」


 ゼムは右手から紫の光弾を放ち、正面にいるマルゼント騎士を攻撃する。光弾を受けたマルゼント騎士は吹き飛ばされ、仰向けの状態で動かなくなった。

 破滅の宝塔の攻撃が失敗して魔族兵たちの士気は低下している。ゼムも隕石が切られたのを見て最初は動揺していたが、魔族軍の司令官であり、レベル72のダークソーサラーであるためか精神力が強く、戦いが始まった途端に気持ちを切り替えて戦闘を開始した。


「高レベルの騎士は私が対処する。お前たちは周りの敵兵を片付けろ!」

「ハッ!」


 ゼムの指示を聞いた魔族兵たちは近くいるマルゼント兵と交戦を開始し、ゼムは自分の周りに集まる三人のマルゼント騎士を睨みながら構える。マルゼント騎士たちは仲間を一撃で倒し、他の魔族兵と違う雰囲気を漂わせるゼムを見て警戒を強くした。


「おい、どうする?」


 三人のマルゼント騎士の内、エルフのマルゼント騎士が仲間の騎士たちに小声でどう攻めるか尋ねると、他の二人の騎士、人間のマルゼント騎士とレオーマンのマルゼント騎士はゼムを見つめながら騎士剣を持つ手に力を込める。


「敵はかなりの実力者のようだが、所詮は一人だ。しかも相手は魔法使い、接近戦に持ち込めば勝てる。三人同時に攻撃するぞ」

「よし、行くぞ!」


 レオーマンのマルゼント騎士の言葉を合図に三人は同時にゼムに突っ込む。ゼムは真正面から向かってくるマルゼント騎士たちを見て呆れたような表情を浮かべた。


「……魔法使いだからと言って甘く見たな? お前たちなど、私の敵ではない!」


 そう言ってゼムは左手を前に出し、手の中に紫の魔法陣を展開させた。マルゼント騎士たちはゼムが魔法を発動させようとしていることを知ると走る速度を上げて距離を縮めようとする。だが、それよりも先にゼムが魔法を発動させた。


霊魂の火炎ソウルフレイム!」


 ゼムが叫ぶと魔法陣から青白い炎が噴き出して向かってくるマルゼント騎士たちを呑み込む。マルゼント騎士たちは全身の痛みと熱さに断末魔の声を上げ、やがてその場に崩れるように倒れた。

 炎が消えた時、そこには丸焦げになったマルゼント騎士たちの死体だけが残っており、ゼムは目を細くし、見下すような顔で死体を見つめる。


「接近戦に持ち込めば魔法使いに勝てるという単純な考え方をしているからそうなるのだ。もし生まれ変わったらそれを覚えておくことだな」


 ゼムは届くはずの無い言葉を焼け死んだマルゼント騎士たちに言うと周囲を見回して戦況を確認する。ゼムの周りには敵はおらぞ、離れた所では部下の魔族兵や悪魔族モンスターたちがマルゼント兵や黄金騎士たちと交戦していた。


「皆、苦戦しているな……私の近くには敵はいないようだし、苦戦している者たちの援護に向かうか」

「戦う相手がいないのなら、私が相手をしてやる」


 仲間の下へ向かおうとするゼムに何者かが声を掛け、ゼムは素早く声のした方を向く。そこにはフレイヤを持つアリシアと彼女の後ろで浮いているノワールの姿があった。

 ゼムは突然現れた女騎士と宙に浮く角の生えた子供を見て目を鋭くする。雰囲気から目の前にいる二人は間違いなく自分の敵だとゼムは感じ取った。


「女の騎士か……見た目からして、先程戦った騎士よりはできそうだな」


 アリシアの方を向き直したゼムが呟くと、アリシアは視線を倒れているマルゼント騎士たちに向ける。自分が来る前に殺されてしまったマルゼント騎士を見ながら一瞬気の毒そうな顔をするが、すぐに表情を戻してゼムを睨む。


「三人の騎士を倒すことができるとは、お前もそれなりの実力を持っているようだな?」

「フッ、これでも魔族軍の司令官を任されている身なのでな」

「司令官? では、お前がゼムか」


 目の前にいる魔族が魔族軍の司令官だと知ってアリシアと後ろで浮いているノワールは意外そうな顔をする。ゼムも自分のことを知っているアリシアを見て、ほおぉと反応した。


「私の名を知っているとは……捕らえた私の仲間から聞き出したのか?」

「ああ、名前だけでなく、レベルと職業クラスもな」

「ほほぉ、全てを知っていて私の相手をすると言うか。お前はそれだけの実力を持っているのか? それともただの愚か者か?」

「少なくとも後者ではない」


 遠回しに自分は実力を持っていると語るアリシアを見てゼムは再び目を鋭くし、アリシアとノワールを警戒しながら両手をゆっくりと動かして構えを取る。


「面白い、ではお前の実力とやら、どれ程のものか見せてもらおうか」

「望むところだ」


 アリシアはフレイヤを両手で持ち中段構えを取ってゼムを睨む。その後ろではノワールが周囲を見回して魔族兵や悪魔族モンスターたちの動きや数を確認していた。


「アリシアさん、僕は周りの魔族や悪魔たちを倒しますので、彼の相手を任せてもいいですか?」

「ああ、こっちは大丈夫だ」

「では、お願いします」


 ノワールはアリシアにゼムを任せると悪魔族モンスターが多く集まる場所へ飛んでいく。普通なら仲間一人にレベル72の敵の相手をさせるなどあり得ないことだが、アリシアはレベル100であるため、一人でゼムの相手をしても問題無いとノワールは思っていた。

 アリシアはノワールが離れるのを確認すると視線をゼムに戻し、ゼムもアリシアが自分を睨む姿を見て準備が整ったと感じた。


「では、始めるとしよう……そう言えば、まだお前の名を聞いていなかったな。女騎士、名は何という?」

「私はアリシア、聖騎士アリシアだ」

「聖騎士か……光の騎士と闇の魔法使いの戦い、これは面白い戦いになりそうだ」


 ゼムはアリシアを見つめながら不敵な笑みを浮かべる。


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