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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百六十九話  ガロボン砦解放作戦


 魔族兵の報告を聞いたゼムとベレマスは階段を駆け上がり主塔の屋上へ移動する。屋上に出た二人が周囲を確認すると、見張りである魔族兵たちが屋上の南側を集まって外を見ている姿があった。

 ゼムとベレマスは魔族兵たちの下へ移動して外を確認する。すると、ガロボン砦の南、500mほど離れた所にある平原に大部隊が陣を組んでいるのが見えた。部隊は人間と亜人の兵士、騎士、魔法使いが大勢おり、それを見たゼムは間違いなくマルゼント王国軍だと目を鋭くする。


「間違いない、人間軍だ。しかも千近くの戦力がある大部隊……」


 予想していたよりも戦力が多いマルゼント王国軍にゼムは奥歯を噛みしめる。魔族兵たちもマルゼント王国軍がガロボン砦まで辿り着いたことに驚き動揺を見せていた。


「おい、どう言うことだよ! 何であれだけデカい部隊が近づいて来たのにこんなに報告が遅いんだ!?」


 マルゼント王国軍を見ていたベレマスは近くにいる魔族兵の方を見ながら声を上げた。魔族兵は険しい表情を浮かべるベレマスを見ながら困惑する。だが、ベレマスが不機嫌になるもの無理はなかった。

 近づいてくる敵部隊が大規模であれば、例え遠くからでもすぐに発見し、上官に報告することができる。早く敵部隊の接近に気付けば余裕で戦闘準備を行い、戦いに備えることができるだろう。しかし、千近くの大部隊がガロボン砦の500mほど前まで接近している状態で報告してきたのだから、ベレマスが怒るのも当然だった。

 ベレマスが怒鳴る中、ゼムは他の魔族兵たちを見て目を鋭くする。ベレマスの部下たちは普段から真面目に仕事をせず、いい加減に見張りなどをしていることをゼムは知っていた。

 そのため、報告が遅れたのは真面目に見張りをせず、敵が接近していることに気付かなかったからではとゼムは考えていた。だが同時に、いくらいい加減に見張りをしていたとはいえ、ここまで接近するまで気づかなかったのだろうか、と疑問に思う。


「じ、実は、人間軍は突然平原の中に現れたのです」


 ベレマスに怒鳴られていた魔族兵が驚きの表情を浮かべながら説明し、それを聞いたゼムは説明する魔族兵の方を向く。


「はあぁ? 突然現れたぁ? 何訳の分からないこと言ってるんだよ。どうせ、テキトーに見張りをしてて気づかなかったんだろう?」

「ほ、本当です! 突然平原の中に巨大な紫色の靄のような物が現れ、そこから人間軍が……」


 魔族兵がマルゼント王国軍を指差しながら、どのようにしてマルゼント王国軍が現れたのか説明する。ベレマスは魔族兵の話が信用できず、腕を組みながら、何言ってるんだというような顔をしていた。しかし、ゼムは説明を聞くと目を見開き、説明する魔族兵に近づいた。


「おい、紫色の靄のような物から現れたというのは本当か?」

「え? ハ、ハイ」


 ゼムは遠くにいるマルゼント王国軍を睨みながら拳を握る。ベレマスは表情を険しくするゼムを目を細くして見ていた。


「どうしたの?」

「……ベレマス、我々は人間軍を軽く見ていたのかもしれん」

「はぁ? どういうこと?」

「敵は恐らく、転移門ゲートを使って部隊をあの平原に転移させたのだろう」

転移門ゲート?」


 聞き慣れない言葉にベレマスは小首を傾げる。だが、周りにいる魔族兵たちは目を見開きながら驚いていた。それに気付いたベレマスは周囲を見回しながら不思議そうな顔をする。


「お前ら、何驚いてんの?」

「ベ、ベレマス殿、転移門ゲートは最上級魔法の一つで、最高の転移魔法とも言われている魔法です」

「最上級魔法? 馬鹿言うなよ、人間如きが最上級魔法を使えるわけないじゃん」


 ベレマスは魔族兵の言葉を信じず、小馬鹿にしたような口調で語る。すると、マルゼント王国軍を睨んでいたゼムが視線だけを動かしてベレマスを見た。


「確かに転移門ゲートを使える魔法使いがいる可能性は低い。だが、転移門ゲート)を発動するマジックアイテムを所持し、それを使いこなせる者がいる可能性はある。我々が破滅の宝塔を所持し、それを使用できるのと同じようにな」

「たかが人間の国にそんな凄いマジックアイテムがある訳ないじゃんか」

「だが現に人間軍は最上級魔法の転移門ゲートを使って我々の前に現れたんだぞ?」

 

 視線をマルゼント王国軍に戻すゼムを見ながらベレマスは納得できないような顔をする。魔族よりも劣る人間が自分たちと同じように強力なマジックアイテムを所持しているなど、ベレマスは認めることができなかった。

 一方でゼムはマルゼント王国軍が強力なマジックアイテムを所持し、それを扱える程の実力者がいると考えている。もしそうならジンカーンの町とセルフストの町が解放されたこと、マルゼント王国軍がイセギー村に辿り着いたことに納得ができるからだ。

 マルゼント王国軍はとてつもない力を隠し持っていた、ゼムや魔族兵たちは緊迫した表情で平原のマルゼント王国軍を見ており、ベレマスは気に入らなそうな目でマルゼント王国軍を睨んでいた。


「お前たち、すぐに砦中の兵士たちに伝えろ。人間軍が現れた、速やかに戦闘準備に入れとな!」

「ハ、ハイ!」


 ゼムの指示を受けた魔族兵たちは慌てて階段を下りて屋上を後にする。ゼムはもう一度マルゼント王国軍の方を向き、どれ程の戦力でどのように陣を組んでいるかを確認すると階段の方へ歩き出す。


「ゼム、何処に行くんだよ?」

「無論、神殿だ。人間軍が現れた以上、本拠点である神殿も攻撃を受ける可能性があるからな。私も戻って部隊を臨戦態勢に入らせる」

「はぁ? それじゃあまるで人間軍にこの砦を落とされるみたいじゃないか……僕らが負けると思ってんの?」

「勿論、思ってはいない。だが、戦場では何が起こるか分からないからな、念のためにだ」


 最悪の状況も計算して神殿を護る部隊も戦えるようにするゼムを見たベレマスは小馬鹿にするような笑みを浮かべて両手を腰に当てた。


「悪いけど、それは無駄になると思うよ? なぜなら僕らがアイツらをギタギタにしてやるからさ」

「……自信があるのはいいことだが、さっきも言ったように敵は我々が思っている以上に力を持っている。油断するなよ?」

「分かってるよぉ」


 ベレマスは子供にしつこく忠告をする親のような態度を取るゼムが気に入らないのか、面倒くさそうな顔でそっぽを向く。そんなベレマスの反応を見たゼムは心の中で呆れていた。

 大都市であるジンカーンの町とセルフストの町を解放され、その周辺にある町や村もマルゼント王国軍に奪い返されたのであれば、普通はマルゼント王国軍を警戒するだろう。だが、ベレマスは魔族軍が追い込まれていることに気付いていないのか、未だにマルゼント王国軍を軽く見ていた。

 ゼムは警戒心が無さすぎるベレマスを見て、何かとんでもない失敗をするのではと不安を感じている。最悪の状況になることだけは避けたいゼムは念入りにベレマスに忠告することにしていた。


「もし、人間軍に押される戦況になったらすぐにこちらに救援を要請しろ? この砦から神殿まではそれほど距離はない、すぐに増援を送ることができる」

「余計なお世話だよ、数はこっちの方が上なんだからね」


 先程のゼムの忠告をもう忘れているのか、ベレマスは不愉快そうな口調で答える。ゼムはベレマスの態度を見ると軽く溜め息をついた。


「それから破滅の宝塔は持っていくからな」

「ええぇ、本当に持っていくのぉ? 奴らに星を降らせてからでもいいじゃん」

「言っただろう、お前にこれ以上破滅の宝塔を持たせるのは危険すぎると。そもそも次に宝塔が使えるようになるのは明日の正午だ、どの道今回の戦いで使うことはできん」


 破滅の宝塔がまだ使えないことを思い出したベレマスは舌打ちをして不満を露わにする。ゼムは子供のような考え方や発想をするベレマスを目を細くしながら見つめた。


「とにかく、私はすぐに神殿へ戻る。お前も急いで現状確認をし、部下たちと作戦を考えろ」


 そう言うとゼムは階段を駆け下りていき、残ったベレマスは平原で陣を組むマルゼント王国軍を見つめ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「ゲートが使えるか何だか知らないけど、所詮は転移するだけの魔法、戦いでは何の役にも戦いよ。戦力の多い僕らがあんなクズどもに負けるなんて絶対にあり得ない」


 転移するだけであれば、例え最上級魔法でも脅威ではないとベレマスは考えており、マルゼント王国軍を警戒しようとは微塵も思っていない。寧ろ、自分たちなら楽勝だと考えていた。

 マルゼント王国軍を嘲笑いながらしばらく平原を見ていたベレマスは屋上を出るために階段の方へと歩き出す。そして、階段の手前まで来ると立ち止まり、再び平原のマルゼント王国軍を見た。


「お前らがどうやってジンカーンとセルフストを解放したかは知らないけど、僕がいるこのガロボン砦は簡単に落とせないよぉ? 精々頑張って僕を楽しませてよねぇ」


 いたずら好きな子供のように楽しそうに笑いながらベレマスは階段を下りていく。この時の彼はマルゼント王国軍に強大な力を持つ者が大勢いるとは思っておらず、短時間で戦いに勝利できると思っていた。

 ガロボン砦の南にある平原、そこでは砦を解放するためにマルゼント王国軍が陣を組みながら戦いの時を待っている。マルゼント兵や騎士はジッと砦を睨んでおり、そんな彼らに魔法使いたちは補助魔法を掛けて少しでも戦いやすくしていた。そして、ビフレスト王国の黄金騎士と巨漢騎士、モンスターたちも動かずに待機している。


「……敵はこちらに気付いたようだな」

「そうですね」


 陣を組むマルゼント王国軍の中心ではダークとモナがガロボン砦の様子を窺っていた。望遠鏡を覗くモナの隣でダークは腕を組みながら砦を見ている。勿論、鷲眼の能力を使って様子を窺っていた。

 ノワールがガロボン砦を偵察したことで砦の南にある平原に転移門を開くことができるようなり、ダークたちは時間を掛けて砦を解放するための準備を行った。そして一時間前、準備が整ったダークたちは簡単に作戦を再確認し、ノワールのゲートを使って大部隊と共に平原に転移したのだ。


「最終防衛線と言うので他の拠点よりも魔族兵が多いと思いましたが、ガロボン砦も悪魔たちの方が多いですね」


 望遠鏡を下ろしたモナは真剣な表情でガロボン砦の周りにいる悪魔族モンスターたち、砦の上空を飛び回っている飛行可能な悪魔族モンスターたちを見つめる。てっきり本拠点に近いガロボン砦には魔族兵の方が悪魔族モンスターよりも多いと思っていたのに、他の拠点と大差が無いので少し意外に思っていた。

 ダークは悪魔族モンスターの方が多いと予想していたのか、ガロボン砦の魔族軍を見て意外に思うことはなかった。


「魔族軍は大量の悪魔たちを戦力として用意しており、その悪魔たちに最前線で戦わせるので、今回の侵攻部隊に参加している魔族は少なく、本拠点やガロボン砦にいる部隊も他の部隊と同じように編成されている、だったか?」

「ええ、パメテリアはそう言っていました」


 モナはダークの方を見ると小さく頷いて答える。ただ、その表情は何処か気分が悪そうに見え、それに気付いたダークはモナの方を向く。


「また思い出してしまったか?」

「ハ、ハイ、あれは本当に恐ろしいものでした……」

「見なければよかったと後悔しているか?」

「ええ……あれほどの尋問とは思いませんでしたので」


 若干顔色を悪くしながらモナは俯き、ダークはモナを見ながら少しだけ気の毒に思った。

 実はガロボン砦を解放するための準備をしている間、ノワールはパメテリアが自分たちの知らない情報を持っている可能性があると思い、ダークから借りたディーレストにパメテリアを尋問させていた。その時にモナは直接パメテリアから情報を聞くために尋問に同席したいと申し出たのだ。

 ノワールは最初、やめておいた方がいいとモナに同席しないことを勧めたが、これまで何度も尋問を見たり、参加したりしているので大丈夫だとモナが引かずに言ってくるので、ノワールは折れてしまい、仕方なく尋問に同席させた。

 だが、ディーレストの尋問はモナが想像していた以上に過酷なものだったため、それを見たモナは途中で気分を悪くして退室、ノワールとディーレストから尋問の結果を聞くこととなった。そして今でもその尋問の光景を思い出す度に気分を悪くしてしまうのだ。


「先程もノワールが心配していたぞ? あの尋問がモナ殿のトラウマになってしまうのでは、とな」

「だ、大丈夫です。そこまで酷くはありませんので……」


 モナは深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、楽になると表情を鋭くしてガロボン砦を見つめた。


「それに、パメテリアを尋問したことで私たちの知らない新しい情報を得ることもできました。それを考えれば、こんな不快感なんて何の問題もありません」

「フッ、貴公は強いな」


 ダークはモナの精神の強さを頼もしく思い小さく笑う。そう、モナの言うとおり、パメテリアを尋問したことでアルカーノを尋問した時には得られなかった別の情報を得ることができた。

 一つはダークとモナが話していたガロボン砦と本拠点の魔族軍は悪魔族モンスターが多く、魔族の人数は少ないということ。敵部隊の編成がこれまで戦った魔族軍と同じであったため、ダークたちにとっては非常に戦いやすい相手なので作戦も練りやすかった。


「ガロボン砦と本拠点の魔族軍の編成が過去の戦った魔族軍の部隊と同じであればどう戦えば効率よく勝利できるかが分かる。しかもこちらはガロボン砦の構造も把握しているため、解放するのにそれほど時間は掛からないはずだ」

「そうですね……悪魔の種類もこれまで戦った種類と同じだそうですから」

「悪魔か……そう言えば、魔族軍の戦力に悪魔が多い理由を知った時は驚いたな」


 ダークはガロボン砦を見つめながら低い声で語り、それを聞いたモナもダークと同じように砦を見て目を少し鋭くした。

 パメテリアを尋問して得た情報はガロボン砦の戦力以外にもう一つあった。それは今回侵攻してきた魔族軍に悪魔族モンスターが多い理由だ。実は魔族軍はある魔法を使って悪魔族モンスターを大量に召喚しており、その悪魔族モンスターを戦力として部隊に加えていたことが分かった。


「魔族軍が悪魔の軍勢デモンズレギオンを使って大量の悪魔を召喚していたと聞いた時は私も耳を疑いました。まさか、あの魔法を発動させていたとは……」


 モナはガロボン砦の周りにいる悪魔族モンスターを見つめながら魔法について語り、ダークはそれを聞いて目を薄っすらと赤く光らせる。

 <悪魔の軍勢デモンズレギオン>とは異世界にしか存在しない闇属性の最上級魔法で下級と中級の悪魔族モンスターを八百体から千体まで一度に召喚することができる魔法である。召喚できるモンスターの種類はランダムだが、八百体以上の悪魔族モンスターを召喚でき、それを自由に操ることができるため、戦力を補給するのに非常に役立つ。ただし、最上級魔法であるため消費する魔力はとてつもなく多い。異世界では十人以上の魔法使いを集めてようやく発動することができる魔法だ。

 パメテリアから聞き出した話では魔族軍は魔界の優秀な魔法使いたちを集めて悪魔の軍勢デモンズレギオンを発動させ、召喚した悪魔族モンスターを侵攻部隊の戦力として加えているらしい。侵攻している現在でも常に戦力の補充を要請し、魔界から悪魔族モンスターを呼び出しているそうだ。


「一度に大量の悪魔を召喚する魔法、まさかそんな魔法が存在しているとはな」


 ダークは魔族軍が何らかの方法で悪魔族モンスターを戦力に加えていたと予想はしていたが、LMFに存在しない魔法で大量に悪魔族モンスターを召喚していたとは流石に予想していなかったため、少し驚いていた。

 LMFの召喚魔法は数体から十数体までしか召喚できず、百体以上を召喚できる魔法は存在しない。ただ、ダークが持つ英霊騎士の兵舎のような特殊なマジックアイテムであれば一度に百体以上のモンスターを召喚することができる。


悪魔の軍勢デモンズレギオンを発動するには大量の魔力が必要です。最低でも魔法使い十人分の魔力を消費しなくては発動できません」

「それほどまで魔力の消費量が多い魔法とはな……因みにマルゼント王国は悪魔の軍勢デモンズレギオンのような魔法は発動させることができるのか?」

「いいえ、魔法の情報はありますが発動させることはできません。悪魔の軍勢デモンズレギオンは発動方法が特殊な魔法で、その方法が解明しない限り発動できないのです。魔法技術に優れている我々マルゼント王国でも発動する方法が解明できていません」

「では、この世界にはそう言った魔法を発動できる者はいないのだな?」

「断言できませんが、少なくともこの大陸には存在しないでしょう」


 モナの言葉を聞いてダークは意外に思う。大陸に存在する国の中で最も魔法に優れているマルゼント王国なら使うことができるのではとダークは思っていたようだ。

 だが、もし大量のモンスターを召喚できる魔法を使えるのなら、最初からビフレスト王国に救援要請をするはずがないので、マルゼント王国に使える者はいないとダークは納得する。


「パメテリアからは悪魔の軍勢デモンズレギオンを発動する方法を聞き出すことはできなかったのだったか?」

「ハイ、彼女もそれについては何も知らないそうです」

「まぁ、ディーレストの尋問を受けていたのだから嘘は言わないだろうな」


 パメテリアから得た情報は信用できるとダークは判断し、モナもそう思っているのかダークを見ながら小さく頷く。


「もしかすると、魔族軍の総司令官なら発動方法を知っているかもしれません」

「確かにな、指揮官は知らなくてもその上に総司令官なら知っている可能性はある。捕らえたら聞き出してみるか?」

「ハイ……ですが、その前にガロボン砦を解放しなくては」

「フッ、そうだな」


 まずは目の前のガロボン砦を取り戻すことが先決だと話すモナを見てダークは小さく笑う。すると、二人の後ろ、マルゼント王国のテントが張られてある方からノワールが走ってきた。ノワールに気付いたダークとモナはゆっくりと振り返りノワールに視線を向ける。


「マスター、モナさん。ダンバさんが砦解放作戦の最終確認をしたいと仰っています。テントまでいらっしゃってください」

「分かった」


 ダークはノワールを見下ろしながら返事をし、モナも無言で頷いた。

 モナはテントに向かって歩き出し、ノワールはその後に続くようにテントへ向かう。先にテントへ向かう二人の背中を見ながらダークもテントに向かって歩き出す。だが途中で足を止め、振り返ってガロボン砦を見つめる。


「……ベレマス、敵を倒すためとは言え、仲間がいるにもかかわらず隕石を降らす異常な男か」


 ダークはガロボン砦にいる指揮官、ベレマスのことを考えながら呟く。敵であるマルゼント王国の兵士たちだけでなく、仲間の魔族軍も隕石落下メテオフォールで消滅させる指揮官が目の前の砦にいる。ダークは敵を倒すために仲間を犠牲にしたベレマスに対して小さな不快感を感じていた。

 

「星を降らせ、仲間の命を奪い取った狂いし魔族よ、断罪の始まりだ」


 目を赤く光らせながらそう言い、ダークはテントに向かって歩き出した。


――――――


 ガロボン砦の会議室では武装したベレマスが部隊長である魔族兵たちを招集して作戦会議を行っている。だがマルゼント王国軍が突然現れたことで魔族兵たちは混乱しており、情報をまとめることができずにいた。

 会議室以外の場所では他の魔族兵たちが慌てて武具の確認や悪魔族モンスターに指示を出したりして戦闘準備を行っているが、こちらも混乱しているせいで思うように準備を進めることができなかった。


「まだ戦いの準備が整ってないの!?」

「か、各部隊が急いで戦闘準備を進めていますが、敵が突然現れたことで全員が混乱しており、準備に時間が掛かっています」


 部隊長である魔族兵が現状を伝えると、ベレマスは険しい顔をしながら集まっている魔族兵たちを睨む。マルゼント王国軍に出し抜かれただけでも不愉快なのに、戦闘の準備が進んでいないという報告を聞いたことで更に不機嫌になっていた。


「た、只今外の者が敵の戦力を確認しています。もう間もなく報告が来ると思いますので、その間に我々は人間軍とどう迎え撃つか作戦を練りましょう」


 魔族兵の言葉にベレマスは腕を組みながら舌打ちをする。会議室にいる魔族兵たちは子供のように駄々をこねるベレマスを見て困り顔になっていた。

 それから魔族兵たちはガロボン砦の全体図が描かれた羊皮紙を見ながらマルゼント王国軍とどう戦うか話し合うが、なかなかいい案が浮かばずにいる。ベレマスは一向に話が進まない現状に苛立ち、険しい顔で魔族兵たちを見ていた。

 魔族兵たちはベレマスを見て、早く何とかしないとますます不機嫌になると感じながら必死に作戦を考える。すると、一人も魔族兵が会議室に飛び込んできた。


「ほ、報告します! 人間軍がこちらに向かって進軍を開始しました!」

「何っ!?」


 報告を聞いた会議室に魔族兵の一人が声を上げ、他の魔族兵たちも目を見開く。ベレマスはマルゼント王国軍に先に動かれたことを悔しく思っているのか、奥歯を噛みしめながら報告に来た魔族兵を見ている。


「人間軍は全身甲冑フルプレートアーマーを装備した騎士の部隊を突撃させ、正面からこちらに向かって来ています」

全身甲冑フルプレートアーマーの騎士隊?」

「ハイ、報告にあった黄金の騎士と長身の騎士たちによって編成された部隊です」


 魔族兵の話に会議室にいた魔族兵たちは互いの顔を見合いながら驚く。

 ジンカーンの町とセルフストの町の周辺にある拠点は全てマルゼント王国軍に奪い返されており、その情報はガロボン砦の魔族軍にもちゃんと伝わっている。その時に魔族軍は拠点を解放しに来たマルゼント王国軍の中に他の兵士や騎士とは比べ物にならないくらい強い黄金の騎士と長身の騎士がいるという報告も受けていた。

 拠点を占領していた魔族軍はその二種類の騎士の前に圧倒されて敗北し、占領していた拠点はイセギー村を除いて全て奪い返された。それから魔族軍はその黄金の騎士と長身の騎士を特に警戒するようになったのだ。

 その警戒していた二種類の騎士の部隊が正面からガロボン砦に向かって来ていると聞き、魔族兵たちも厄介な状況だと感じていた。すると、ベレマスが報告に来た魔族兵を見ながら口を動かす。


「砦の動かせる戦力を南に集めて迎撃させろ! 悪魔たちは突撃させ、兵士たちは砦の防衛に集中、敵を迎撃しながら敵戦力の情報を集めろ」

「え? ハ、ハイ!」


 指示を受けた魔族兵は返事をして会議室を後にする。魔族兵たちは的確な指示を出したベレマスを見て意外そうな顔をする。

 ベレマスは子供のような性格なため、我が儘で細かい作戦を練ることができない。しかし、戦闘指揮官としての技量は優れているため、戦闘が始まると今のように正確な指示を出すことができる。

 魔族兵たちは指揮官らしい反応を見せるベレマスを見て心の中で驚いていた。


「ちょっと! いつまでボーっとしてるんだよ? 早くいい作戦を考えなよ!」

「ハ、ハイ!」


 作戦を練ることを急かすベレマスを見て魔族兵たちはガロボン砦の全体図を見ながら話し合いを再開する。ベレマスは椅子に座り、腕を組んで魔族兵たちをジッと見つめるのだった。

 同時刻、マルゼント王国軍もガロボン砦に向かって進軍していた。大勢の黄金騎士と巨漢騎士、そしてダークが連れてきたモンスターたちで編成された部隊は正面にあるガロボン砦の正門に向かって突撃する。

 そして、部隊の先頭には大剣を握るダークとフレイヤを持つアリシアが走っており、その後ろを馬に乗っているレジーナ、ジェイク、ファウの姿がある。そしてダークの真上にはノワールとマティーリアが飛んでいた。


「もうすぐ魔族軍が迎撃してくるはずだ。気を抜くな?」


 ダークは走りながら力の入った声でアリシアたちに声を掛け、彼の隣にいるアリシアは無言で頷き、後ろにいるレジーナたちは真剣な表情でダークを見つめる。空中にいるノワールとマティーリアも同じようにダークを見ていた。

 今回ガロボン砦を解放するためのマルゼント王国軍の作戦、それはまずダーク率いるビフレスト王国の部隊が正門の上と周囲にいる魔族軍を倒し、正門を開けた後に後方で待機していたモナとダンバがマルゼント王国軍を率いてガロボン砦に突入するというもの。因みにビフレスト王国部隊の突撃はダーク自身が発案した作戦だ。

 突撃するビフレスト王国軍の部隊は黄金騎士が三百人、巨漢騎士が二百人、そしてモンスターが五十体、ダークたちを加えて五百五十七の部隊でダークが指揮を執ることになっている。ストーンタイタンと砲撃蜘蛛はジンカーンの町とセルフストの町の防衛に就いているので連れて来ていない。

 普通であれば、僅か五百五十七という戦力で三千以上の敵がいる砦に正面から突撃するのは無謀だと考えるだろう。勿論、この作戦内容を聞いたマルゼント兵たちもそう考えていた。

 だが、モナとダンバはダークと彼の仲間であるアリシアたちが英雄級の実力を持っていること、これまでの彼らのとんでもない行動から、ダークたちなら少ない戦力でも正門を突破し、敵を蹴散らしてくれるだろうと感じていた。そのため、ダークの発案した作戦に賛成したのだ。

 マルゼント兵たちが不安を感じる中、最終確認を終えたダークたちは作戦を開始し、今に至るというわけだ。


「それでダーク、正門を突破した後はどうするんだ?」


 アリシアが走りながらダークに尋ねると、ダークはアリシアの方を見ずに前を向きながら走り続ける。


「とりあえず、門の向こう側にいる敵を片付けて安全地帯を確保する。その後はモナ殿たちと合流し、その安全地帯を拠点として砦を攻略していく」

「そしてガロボン砦の指揮官であるベレマスという魔族を倒すか、捕縛するかして魔族軍を降伏させるのだな?」

「そういうことだ」


 正門を突破した後のことを確認するとアリシアも前を向いて走ることに集中する。後ろにいるレジーナたちは馬に乗る自分たちとほぼ同じ速度で走るダークとアリシアを見て、改めてレベル100の身体能力は凄いと感じていた。

 ダークたちがガロボン砦に向かって走っていると、ガロボン砦の正門の見張り台や城壁の上にいる魔族兵たちが走るダークたちに向かって弓矢を構えた。同時に砦の中から大量のブラッドデビルが現れてダークたちに向かって飛んでくる。そして、正門の外側に配備されていたヘルハウンドやマッドスレイヤー、ブラックギガントたちもダークたちに向かって突撃を始めた。


「若殿、どうやら敵も動き出したそうじゃぞ」

「ああ、そうだな。皆、ここからは戦うことだけに集中しろ!」


 そう言ってダークは走る速度を上げ、アリシアもそれに続いて速度を上げる。速度を上げて二人にレジーナたちは一瞬驚き、すぐに馬を早く走らせた。空中のノワールとマティーリアも飛行速度を上げてダークたちに後を追う。

 ダークたちが正門の300mほど前まで近づくと、ダークたちに向かって飛んでいたブラッドデビルたちは一気に速度を上げてダークたちに迫る。そして、ダークたちの目の前まで近づくと鋭い爪で切り裂こうとした。だが、ブラッドデビルが攻撃するよりも先にダークたちは武器や魔法で迎撃し、ブラッドデビルを返り討ちにする。

 仲間が倒されたのを見た他のブラッドデビルたちは怯むことなく続いて攻撃を仕掛ける。しかし、全ての攻撃はダークたちに難なく防がれしまい、ブラッドデビルたちは反撃を受けて倒された。

 魔族兵たちはブラッドデビルが倒される光景を見て驚くが、すぐに表情を鋭くしてダークたちに向かって矢を放つ。ダークたちは飛んでくる矢を得物で叩き落し、立ち止まることなく正門に向かって走り続ける。

 放たれた矢が叩き落されるのを見た魔族兵たちは驚愕の表情を浮かべる。英雄級の実力を持つダークたちにとって矢を叩き落とすのは簡単なことだった。

 ダークたちは少しずつ正門との距離を縮めていき、正門前に配置されていた悪魔族モンスターたちと接触する。ダークはヘルハウンドやブラックギガントを大剣で難なく斬り捨て、アリシアたちも近づいて来るヘルハウンドやフェイスイーターを走りながら倒していき、レジーナたちもその後に続く。

 魔族兵たちの矢を防ぎながら走り続け、正門の50mほど手前まで近づくとダークは大剣の剣身に黒い炎を纏わせる。


黒炎爆死斬こくえんばくしざん!」


 暗黒剣技を発動させたダークは勢いよく正門に向かって跳び、黒い炎を纏った大剣で正門を切る。それと同時に大爆発が起きて正門は破壊され、ガロボン砦の中まで吹き飛ばされた。

 吹き飛んだ門を見て、正門の内側にある広場にいた魔族兵たちは驚愕し、悪魔族モンスターたちも破壊された門に注目している。すると、破壊された正門からダークたちが砦の中に突入した。


「魔族軍を倒し、正門とその周囲を制圧しろ!」


 ダークが叫ぶと、アリシアと空中にいたノワール、マティーリアは魔族軍への攻撃を開始し、レジーナたちも馬から降りて近くにいる悪魔族モンスターと交戦する。遅れてガロボン砦に突入した黄金騎士たちも広場や城壁の上にいる魔族兵や悪魔族モンスターたちに攻撃した。

 作戦が開始されてから僅か三十分でダークたちはガロボン砦の正門を突破した。


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