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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百六十五話  マティーリアvsパメテリア


 大勢のマルゼント兵たちが魔族兵たちと戦っている中、マティーリアもパメテリアと激しい戦いを繰り広げていた。ジャバウォックとパメテリアの剣がぶつかる度に剣戟の音が響き、火花が飛び散る。周りで戦っている者たちの中には、戦いを止めてマティーリアとパメテリアに注目する者もいた。

 マティーリアとパメテリアは周囲の様子など気にもせずに得物をぶつけ合う。二人とも鋭い表情を浮かべ、一歩も譲ることなく攻め続けている。そんな戦いをしばらく続けていると、二人は鍔迫つばぜり合いをする状態で睨む合う。


「フッ、妾と互角に戦うとは、なかなかやるではないか、パメテリアよ」

「フン、当たり前でしょう。私はこの町にいる魔族軍の指揮官なんだからね」

「ほほぉ? 随分と自分の力に自信があるようじゃのぉ」

「そう言うアンタこそ、亜人の子供のくせに大した力じゃない?」

「はあ?」


 パメテリアの言葉にマティーリアは僅かに表情を険しくする。それに気付いたパメテリアは、鋭い目でマティーリアを見つめながら小首を傾げる。

 マティーリアはジャバウォックを強く握りながらパメテリアの剣を押し、急に力を入れるマティーリアにパメテリアは少し驚いたような反応を見せた。


「妾は亜人でも、増してや子供でもない。妾は竜人、そしてお主よりも年上じゃ!」


 力の入った声で言い放ったマティーリアはパメテリアを剣ごと押し戻してパメテリアの体勢を僅かに崩す。その一瞬の隙を狙ってジャバウォックを勢いよく振って攻撃する。だがパメテリアは後ろに跳んでマティーリアの攻撃を間一髪でかわした。

 攻撃をかわしたパメテリアはすぐに剣を構えてマティーリアの方を向く。すると、マティーリアは口から炎を吐いて追撃し、目の前の炎を見たパメテリアは小さく舌打ちをしながら左へ跳んで炎をかわした。

 炎をかわしたパメテリアは反撃するためにマティーリアに向かって走り出し、持っている剣に電気を纏わせる。そして、マティーリアに目の前まで近づくと剣を上段に構えた。


雷獣剣らいじゅうけん!」


 パメテリアは電気を纏った剣をマティーリアに向かって振り下ろす。マティーリアがジャバウォックでパメテリアの振り下ろしを防ぐと、周囲に衝撃と微量の電気が広がる。マティーリアはジャバウォックから伝わる衝撃に奥歯を噛みしめた。

 <雷獣剣>は雷鳴剣士の固有能力である雷精剣の技の一つで剣身に電気を纏わせて攻撃する技だ。雷精剣の中では最も攻撃力は低いが、雷のダメージを与えるため、普通の攻撃や戦技と比べたら強力な技と言える。更に一定の確率で敵を麻痺状態にすることも可能だ。

 マティーリアはジャバウォックで剣を払うと後ろに跳んで距離を取る。パメテリアは離れたマティーリアを見ながら自分の剣を軽く振った。剣身はまだ僅かに電気を纏っている。


「一番弱いとはいえ、雷精剣の技を防ぎ切るなんてやるじゃない。褒めてあげるわ」

「フン、小娘が生意気な口を利くな。あの程度の攻撃は妾には届かん」


 ジャバウォックを構え直しながらマティーリアは険しい顔でパメテリアを睨み、パメテリアはマティーリアが強がっていると感じたのか小さく鼻で笑った。


「それにしても、アンタが私よりも年上だったなんてね。子供じゃなくっておばさんだったんだ?」

「口の利き方には気を付けろ? 妾は何度も小馬鹿にされて黙っているほど気の長い女ではないのでな」

「何よそれ、やっぱり見た目どおり子供じゃない」


 笑いながら再び挑発するパメテリアにマティーリアは目を鋭くし、竜翼を広げてパメテリアに向かって飛んだ。もの凄い速さでパメテリアに近づくと、ジャバウォックを振り下ろして攻撃する。

 パメテリアはマティーリアを睨みながら後ろに下がって振り下ろしをかわし、攻撃直後のマティーリアに剣で突きを放つ。マティーリアは宙に浮いたままジャバウォックで剣を払い、ジャバウォックで突きを返した。

 突きを返されたことにパメテリアは一瞬目を見開くが、すぐに表情を鋭くして右へ移動し、マティーリアの突きをかわす。突きをかわされたマティーリアは少し後ろに下がってから着地してジャバウォックを構える。


(この娘、妾の速さについてきておる。正確な強さはまだ分からんが、少なくとも妾と同等のレベルじゃろうな)


 離れた所で自分を見ているパメテリアを警戒しながらマティーリアは心の中で呟く。これまでのパメテリアの力と速度、戦い方から、マティーリアはパメテリアがレベル60代で間違いないと感じ、より警戒を強くした。

 パメテリアもマティーリアを見ながら今まで戦ってきたマルゼント王国軍の兵士たちとは明らかに実力が違うと感じており、警戒しているのか無意識に剣を持つ手に力を入れていた。


(まさか竜人だったとはね。竜人はそこらの亜人と比べて力があるし頭もいいわ。普通に戦ってたら無駄に時間を掛けちゃう、少し本気を出して戦った方がいいわね)


 マティーリアを睨みながらパメテリアは霞の構えを取り、剣に再び青白い電気を纏わせる。パメテリアを見たマティーリアはまた雷鳴剣士の能力を使ってくると気付き、目元をピクリと動かす。


雷刃波らいじんは!」


 叫んだパメテリアは剣を大きく横に振り、剣身から青白い電気の刃をマティーリアに向かって放つ。電気の刃を見たパメテリアは目を見開いた。


(こ奴、電気の刃を放つこともできるのか!)


 マティーリアは竜翼を広げると飛び上がり、正面から飛んでくる電気の刃をかわした。避けられた電気の刃はそのまま飛び続け、飛んだ先にいた悪魔族モンスターに命中する。電気の刃を受けた悪魔族モンスターは体を切り裂かれ、電気をその身に受けて息絶えた。

 <雷刃波>は剣身に纏われた電気を刃状にして放つ技だ。雷精剣の中でも数少ない遠距離攻撃用の技で敵に斬撃と雷のダメージを与えることができる。更に使用した後の冷却時間も短く、連続で使用することも可能だ。そして刃を受けた敵は一定の確率で麻痺状態になる。

 放たれた電気の刃をマティーリアは3mほどの高さから見下ろしており、面倒そうな表情を浮かべていた。そんなマティーリアに向かって再び電気の刃が放たれ、気付いたマティーリアが空中を移動して電気の刃をかわす。

 マティーリアは電気の刃が飛んで来た方を見ると、そこには電気を纏った剣を横に振った構えを取るパメテリアの姿があり、マティーリアは表情を険しくしながらパメテリアに向かって降下する。パメテリアは自分に向かって飛んでくるマティーリアを見ながら小さく舌打ちをし、再び剣を横に振って電気の刃を放つ。

 前から飛んでくる電気の刃をマティーリアは左へ移動してかわし、一気にパメテリアに近づく。パメテリアの前まで近づくと、ジャバウォックを勢いよく振って攻撃した。しかし、パメテリアは慌てることなく後ろへ跳んでマティーリアの攻撃をかわす。攻撃をかわされたマティーリアは悔しそうな顔をしながら着地して、パメテリアを見つめる。


「ここまで攻撃してまだ一撃も攻撃を当てられんとはな……お主、レベルは幾つじゃ?」

「教えろと言われて、素直に教えると思う?」


 目を細くしながら訊き返すパメテリアを見て、マティーリアは小さく笑う。パメテリアが予想どおりの反応をしたことがおかしいのだろう。そんなマティーリアを見たパメテリアは自分を馬鹿にしていると感じたのか目に鋭さが増した。

 パメテリアが睨む中、マティーリアはジャバウォックを右手に持ち、左手を腰に付けているポーチに入れ、中から賢者の瞳を取り出す。マティーリアがポーチから何かを取り出したのを見たパメテリアは剣を構えて警戒する。そして、マティーリアは賢者の瞳を透してパメテリアを覗いた。


「……ほほぉ、成る程のぉ」


 賢者の瞳を覗いたマティーリアは何かに納得したような反応を見せ、パメテリアはマティーリアが何をしているのか分からず、不満そうな顔をしていた。やがて賢者の瞳を覗くのをやめたマティーリアは賢者の瞳を捨てる。賢者の瞳は地面に落ちると高い音を立てて消滅した。


「ちょっと、今何をしてたのよ!?」


 自分の理解できない行動をしていたマティーリアが気に入らないのか、パメテリアは力の入った声で問いただす。するとマティーリアはジャバウォックを肩に担ぎながら二ッと笑みを浮かべてパメテリアを見た。


「お主、レベルが65だったのじゃな?」

「なっ!?」


 マティーリアの言葉を聞いたパメテリアは驚きの反応を見せた。


「ア、アンタ、どうやって私のレベルを知ったのよ?」

「フッ、教えろと言われて、素直に教えると思うか?」


 楽しそうな顔をするマティーリアは先程パメテリアに言われた言葉をそのまま彼女に返す。その言葉にパメテリアは僅かに顔を赤くしながら悔しそうな表情を浮かべる。

 パメテリアの反応が面白いのか、マティーリアは俯きながらしばらく楽しそうに笑っている。やがて笑いが治まり、マティーリアは落ち着いた様子で顔を上げた。


「……と、言いたいところじゃが、特別に教えてやろう。先程使ったモノクルの形をしたマジックアイテム、あれを使ってお主のレベルを調べたのじゃ」

「あれがマジックアイテム?」

「ウム、妾の主から渡された物じゃ」


 自慢するような笑みを浮かべながらマティーリアは説明し、説明を聞いたパメテリアは信じられないような顔をしていた。

 他人のレベルを調べるマジックアイテムなど魔界には存在しない。魔族よりも劣っている人間の世界にそのマジックアイテムが存在していると言われてもパメテリアには信じることができなかった。


「レベルを調べるマジックアイテムがあるなんて、信じられる訳ないでしょう。魔界にも存在しない優れたマジックアイテムを人間界に存在するなんて!」

「じゃが、妾はお主のレベルを言い当てたぞ? それに先程のお主の驚き方 レベルを正確に言い当てたからあそこまで驚いておったのじゃろう?」

「うっ!」


 マティーリアの言葉に何も言い返せず、パメテリアは黙り込む。マティーリアが言ったとおり、パメテリアのレベルは65で正確に数値を言い当ている。これは運などで当てたのではなく、本当にマジックアイテムを使って見抜いた証拠。パメテリアはマティーリアは嘘は言っていないと感じ、彼女の言うことを信じるしかなかった。


「……アンタがレベルを見抜くマジックアイテムを所持していることは分かったわ。だけど、レベルを見抜いたところで戦況に変化が出るわけではないわ」

「確かにそうじゃな……じゃが、お主と妾のレベルに大きな差が無いことを知って少し気が楽になった。これで少しは気持ちに余裕が持てそうじゃ」

「大きな差がない? ……アンタ、レベルは幾つなのよ?」

「そうじゃなぁ……妾だけがお主のレベルを知っているのも不公平じゃから、教えてやろう」


 余裕を見せる口調で呟くマティーリアを見てパメテリアは苛ついているのか小さく歯ぎしりをする。そんなパメテリアを見ながらマティーリアは静かに口を開いた。


「妾のレベルは68、お主よりも三つレベルが上じゃ」

「レベル68?」


 てっきり自分の方がレベルが高いと思っていたパメテリアは意外そうな反応を見せる。だが、心の中ではマティーリアの方がレベルが高いこと驚いていた。

 マルゼント王国軍には人間だけでなく、多くの亜人も所属している。亜人は人間よりも限界レベルと身体能力などが高いため、それなりの実力者が敵の中にいるとパメテリアも予想していた。

 しかし、竜人で自分よりもレベルが高い敵がマルゼント王国軍にいるとはさすがにパメテリアも予想していなかったようだ。


「……そのレベル、嘘じゃないでしょうね?」

「くだらない嘘をつくほど妾は幼稚ではない」

「……あっそ」


 しばらく黙ってマティーリアを見ていたパメテリアは静かに返事をする。まだ出会ってそれほど時間は経過していないが、マティーリアの性格や先程のレベルのことから彼女は嘘は言っていないとパメテリアは確信していた。同時にレベルが自分よりも上であると分かった以上、手を抜いて戦っていては勝てないと考える。

 パメテリアはマティーリアを睨みながら剣を強く握り、剣身に電気を纏わせる。マティーリアはパメテリアが戦闘態勢に入ったのを見るとジャバウォックを構え直す。


「たった三つとは言え、自分よりレベルの高い竜人と戦うのなら、私も本気を出して戦った方が良さそうね」

「何じゃお主、今まで本気で戦っておらんかったのか?」

「当たり前でしょう」


 目を細くしながらパメテリアが答えると、マティーリアはほほぉ、と言いたそうな反応を見せる。そしてすぐに目を鋭くしてパメテリアを睨み付けた。


「本気を出して戦っていなかった、つまり手を抜いた状態でも妾を倒せると思っておったのか……不愉快じゃな」

「安心しなさい、ここからは私も本気を出してあげるから」


 見下すような口調で語るパメテリアを睨みながらマティーリアは奥歯を噛みしめる。今まで自分を弱いと思っていた目の前の女魔族を叩きのめす、マティーリアは心の中で強く思った。

 マティーリアがパメテリアに対して闘志を燃やしていると、パメテリアがマティーリアに向かって走り出す。マティーリアは竜翼を広げていつでも飛び上がれる態勢に入った。


「悪いけど、飛ばせないわよ!」


 パメテリアは力の入った声を出しながら高くジャンプし、マティーリアを見下ろす状態になる。


「くらいなさい、牢降襲雷撃ろうこうしゅうらいげき!」


 マティーリアを見下ろしながら大きな声を出したパメテリアは剣を逆さまに持ち、切っ先をマティーリアに向かって突き出す。すると切っ先に青白い雷球ができ、そこから無数の細長い電撃がマティーリアに向かって放たれる。無数の電撃を見たマティーリアは目を大きく見開いた。

 <牢降襲雷撃>は空中から無数の電撃を雨のように降らせて攻撃する雷精剣の中級技である。敵を見下ろせる高さまで跳び上がり、広範囲に電撃を放つので命中率が高い。攻撃力は低いが降り注ぐ電撃を何度も受ければそれなりのダメージを与えることができる。

 頭上から迫ってくる無数の電撃を見たマティーリアはかわすのは難しいと瞬時に判断し、ジャバウォックを前に持ってきて両手で回転させる。電撃は回転するジャバウォックによって防がれ、マティーリアに当たることなく次々と叩き落されていき、マティーリアは険しい表情を浮かべながら電撃を防いでいく。

 やがて電撃が治まり、マティーリアがジャバウォックを回すのをやめる。だがその直後、正面から電気の刃が飛んでくるのが目に入り、驚いたマティーリアは右へ移動して電気の刃をかわそうとするが回避が間に合わず、電気の刃はマティーリアの左上腕部を切り裂いた。


「ぐあぁっ!」


 電気の刃に腕を切られ、同時に体に電流が走り、マティーリアは二つの痛みに表情を歪ませる。マティーリアが痛みに耐えながら前を見ると、そこには剣を横に振った体勢を取るパメテリアの姿があった。どうやら牢降襲雷撃を放って地面に下り立った後、マティーリアが態勢を立て直す前に攻撃しようと雷刃波を放ったようだ。


(クソッ、頭上からの攻撃に集中していてあ奴が移動したことに気付かなかった!)


 痛みに耐えながらジャバウォックを構え、マティーリアは心の中で自分の失敗を悔やむ。そんなマティーリアを見ていたパメテリアは見下すような笑みを浮かべていた。


「どう、私の雷精剣の威力は? 本当は最初の牢降襲雷撃で弱ったところを雷刃波で仕留めようと思ってたんだけど、まさか刀剣を回転させて盾代わりにするとは思わなかったわ」

「フッ、ナメるなよ、小娘? 妾はお主が思っている以上に鍛えておるのじゃ。あれぐらいは大したことはない」

「でも、その後の雷刃波はかわせなかったじゃない。そういう偉そうなことは全ての攻撃をかわした時に言いなさい?」

「……チッ」


 痛いところを突かれたマティーリアは悔しそうな顔でパメテリアを睨む。逆にパメテリアは偉そうな態度を取っていたマティーリアが初めて悔しそうな顔を見せたこと気分を良くしたのか愉快に笑っていた。


「まだまだこんなものじゃないわよ、私の全力は? 全ての力を使ってアンタを徹底的に叩きのめしてあげるわ」

「小娘……調子に乗るでないぞ!」


 マティーリアは口から炎を吐いてパメテリアに攻撃する。パメテリアは正面から迫ってくる炎を右へ跳んで難なくかわし、電気を纏った剣を振ってマティーリアに電気の刃を放った。

 飛んでくる電気の刃をマティーリアはジャバウォックを振り上げて両断する。切られた電気の刃は消滅し、マティーリアはすぐに構え直す。パメテリアは電気の刃が消滅したのを見ると小さく舌打ちをし、連続で剣を振って無数の電気の刃を放つ。

 再び放たれる電気の刃を見たマティーリアは鬱陶しそうな顔をしながらジャバウォックを振り回して電気の刃を叩き落としていく。マティーリアが最後の電気の刃を叩き落とした直後、彼女の左側にパメテリアが回り込み、電気を纏った剣で攻撃した。

 パメテリアの存在に気付いたマティーリアはジャバウォックの柄の部分で剣を防ぐ。攻撃を防いだ直後、マティーリアは竜尾を横に振ってパメテリアに反撃する。しかしパメテリアは後ろに跳んで右から迫ってくる竜尾をかわした。

 攻撃をかわしたパメテリアは余裕の笑みを浮かべており、逆にマティーリアは不愉快そうな顔でパメテリアを見ている。すると距離を取ったパメテリアは高くジャンプをしてマティーリアを見下ろせる高さまで上昇した。


(またあの技を使う気か!?)


 跳び上がったパメテリアを見たマティーリアはまた牢降襲雷撃が来ると感じて警戒心を強くする。マティーリアが警戒する中、パメテリアは剣を逆さまに持ち替えた。マティーリアの予想は当たったようだ。


「牢降襲雷撃!」


 パメテリアが叫びながら剣をマティーリアに向かって突くと、切っ先に雷球が現れて無数の電撃が放たれる。


「同じ手は通用せん!」


 最初はジャバウォックを回転させて電撃を防いだマティーリアだったが、今度は大きく後ろへ跳んで雨のように降る電撃をかわした。

 電撃をかわされたパメテリアは空中で不満そうな顔をしながらマティーリアを見ていた。すると、地上にいたマティーリアが竜翼を広げてパメテリアに向かって飛んで来る。自分に向かって来るマティーリアを見てパメテリアは目を見開いて驚いた。

 マティーリアは勢いよくパメテリアに向かって行き、目の前まで近づくとジャバウォックで袈裟切りを放つが剣で防がれてしまう。ところが、ジャンプ中で体勢を保つことができないため、パメテリアはそのまま地上に勢いよく叩きつけられた。

 地面に叩きつけられたパメテリアは背中の痛みに表情を歪めながら起き上がろうとする。それを見たマティーリアはパメテリアに態勢を立て直す隙を与えないため、パメテリアに向かって急降下し、ジャバウォックで突きを放った。

 パメテリアはマティーリアの追撃に驚き、慌ててその場を移動して攻撃をかわした。


「危ないわねぇ、次から次へと強烈な攻撃をして……」


 凄まじい攻撃に不満そうな口調で喋るパメテリアは素早く態勢を整えてマティーリアの方を向く。すると、パメテリアの視界にジャバウォックの剣身に黒い靄を纏わせて上段構えを取るマティーリアの姿が入った。

 今まで見たことのないマティーリアの動きにパメテリアは目を見開く。そんなパメテリアをマティーリアは鋭い目で睨んでいた。


「受けてみろ!」


 マティーリアは力の入った声を出しながらジャバウォックを振り下ろし、剣身に纏われている黒い靄をパメテリアに向かって一直線に放った。

 迫ってくる黒い靄にパメテリアは表情を固める。その黒い靄は今までマティーリアが見せてきた炎のブレスやジャバウォックの斬撃よりも速く凄まじいものだったので驚いていた。同時に絶対にあの黒い靄を受けてはいけないと感じる。

 パメテリアは急いで右へ跳び、黒い靄による攻撃をギリギリでかわした。攻撃をかわすことができたため、パメテリアは一安心する。すると、パメテリアはの右側に竜翼を広げたマティーリアが現れた。


「なっ!?」

「反応が遅い!」


 驚くパメテリアを睨みながらマティーリアはジャバウォックを振る。パメテリアはマティーリアの方を向き、剣で攻撃を防ごうとするが間に合わず、左胸を切られてしまう。


「ううっ!」


 痛みにパメテリアは歯を噛みしめながら声を漏らす。運よく傷が浅かったため、致命傷にはならなかったが、それなりのダメージは受けていた。

 マティーリアは怯んでいるパメテリアにもう一度攻撃をしようとするが、パメテリアが先にマティーリアの顔に向かって剣で突きを放つ。マティーリアは咄嗟に顔を右へ動かしたことで頬を少し切られる程度で済んだ。

 パメテリアはマティーリアの追撃を止めると後ろに跳んで距離を取る。左胸の傷を確認し、傷が深くないことを確認すると剣を構えながらマティーリアを睨む。マティーリアもジャバウォックを構え直してパメテリアを鋭い目で見つめた。


「まだ戦うつもりか?」

「当たり前でしょう。この程度の傷で降参したらいい笑い者よ」


 戦意を失わずに構え続けているパメテリアを見て、マティーリアは生意気な性格だが戦士としての誇りはあるのだな、と意外に思った。

 パメテリアは剣を強く握り、剣身に電気を纏わせて攻撃態勢に入る。それを見たマティーリアも足の位置を僅かにずらし、パメテリアがどんな攻撃をしてきてもすぐに行動できるようにした。


「次の攻撃で終わらせてやるわ」

「望むところだ」


 次が最後の攻防、そう宣言するパメテリアを見ながらマティーリアは低い声を出す。彼女もパメテリアと決着をつけたいようだ。

 マティーリアとパメテリアはしばらく無言で睨み合ってから、ほぼ同時に前に踏み込んで目の前の敵に得物を振る。二人の剣がぶつかり、周囲に火花が飛び散った。

 パメテリアは剣を引くと再び勢いよく振って攻撃し、マティーリアはその攻撃をかわすとジャバウォックを右から横に振って反撃する。だがパメテリアも剣でジャバウォックを防ぐと素早くジャバウォックを払って袈裟切りを放つ。二人とも傷を負っているが、動きが鈍っている様子は無く、激しい戦いを繰り広げている。

 マティーリアは後ろに軽く下がるとジャバウォックで突きを放つ。しかしパメテリアは右へ移動して突きをかわし、横切りで反撃する。マティーリアは高くジャンプして横切りをかわすとパメテリアの真上を移動して背後に下り立つ。

 着地したマティーリアは振り返るとジャバウォックを勢いよく振ってパメテリアを攻撃し、パメテリアも振り返りながら電気を纏った剣を振る。次の瞬間、二つの剣は高い音を立ててぶつかった。

 二人は力を込めて相手の剣を押し返そうとする。だがその時、パメテリアの剣にひびが入り、それを見たパメテリアは目を見開く。その直後、パメテリアの剣は真ん中から高い音を立てて折れた。


「なっ!?」


 剣が折れたのを見てパメテリアは信じられないような表情を浮かべる。どうやら何度もジャバウォックとぶつかっている内に剣の強度に限界が来て折れたようだ。

 マティーリアは驚いているパメテリアにジャバウォックの切っ先を向け、パメテリアは緊迫した表情で突き付けられている切っ先を見た。


「剣を失ったお主にはもう戦う術はない。お主の負けじゃ」

「グッ!」


 マティーリアの言葉にパメテリアは悔しそうに表情を歪ませる。マティーリアの言うとおり、武器を無くした状態では戦うことはできない。近くに落ちている仲間か敵の使っていた武器を拾って戦うという手もあるが、切っ先を向けられているため、下手に動くことはできなかった。何よりも、マティーリアがそれを許すとは思わえない。

 この状況を打開する手はないのか、パメテリアはマティーリアを見つめながら頭の中で必死に考える。すると、突然町の北側から大きな爆発音が聞こえ、マティーリアとパメテリア、周囲にいるマルゼント兵たちや魔族兵たちが戦闘を中断して爆発音が聞こえた方を向く。

 音が聞こえた方角からは薄っすらとオレンジ色の明かりと煙が上がっているのが見え、広場にいる者、特に魔族軍に属する者たちは驚きの反応を見せていた。


「お、おい、何だよあれ?」

「あっちの方角って、確か本部がある方角じゃない?」


 爆発が起きた方角に魔族軍の本部があると気付いた魔族兵たちはざわつき出し、パメテリアも本部で何か遭ったのではと目を見開いて爆発音が聞こえた方角を見ている。


「……どうやら、向こうは片付いたようじゃな」

「は?」


 マティーリアが本部がある方角を見ながら呟くと、パメテリアは目を見開きながらマティーリアの方を向いた。すると、広場の北側にある街道の方からノワールが飛んでくるのが見え、ノワールの姿を確認したマティーリアはおっ、と言う顔をする。

 空を飛ぶノワールは広場に入ると真っすぐマティーリアの下へ移動し、彼女の隣までやってくると宙に浮いたまま笑ってマティーリアを見た。


「マティーリアさん、こっちは終わりました」

「そうか、本部の制圧は終わったか」

「ハイ」


 マティーリアが小さく笑いながら言うとノワールは笑顔で頷き、二人の会話を聞いていたパメテリアは驚愕の表情を浮かべた。


「はあ!? 本部の制圧が、終わった?」


 目を見開きながらパメテリアが声を上げると、ノワールとマティーリアは無表情でパメテリアの方を向いた。


「そうじゃ、妾とお主が戦っている間、こ奴は一人で本部を制圧してきたのじゃ」

「ば、馬鹿言わないでよ! 本部にはまだ大勢の兵士や悪魔がいるのよ? それをそんな小さな子が一人で制圧したですって? もっとマシな嘘をつきなさいよ!」

「まぁ、信じられんのは無理も無いことじゃが、全て事実じゃ」


 興奮するパメテリアを見て、マティーリアはジャバウォックを下ろしながら冷静に答える。ノワールはパメテリア見ながら不思議そうな顔をしていた。

 実はマティーリアがパメテリアと戦い始める直前、ノワールはマティーリアと別れ、魔族軍の本部を制圧するために一人で本部へ向かったのだ。先に本部を制圧してしまえば後からやってきた魔族軍の増援も大人しくなり、降伏するとノワールは考えていた。

 本部へ辿り着いたノワールはすぐに本部を護る魔族軍と接触し交戦する。勿論、ノワールは魔族兵や悪魔族モンスターを次々と倒していき、本部の外と中にいた魔族軍のほぼ全てを倒した。

 制圧を終えると、ノワールは悪魔族モンスターが待機していた倉庫を強力な魔法で破壊し、制圧が完了したことをマティーリアたちに報告するために広場に戻った。先程の爆発は倉庫を破壊した時に起きた爆発だったのだ。

 ノワールは自分が本部を制圧したことや本部が今どんな状態になっているのかをマティーリアとパメテリアに詳しく説明する。マティーリアは流石、と言いたそうな顔で笑っており、パメテリアは信じられないような顔で話を聞いていた。


「制圧した本部には僕が召喚したモンスターを見張りとして残してきました。今頃、降参した魔族軍の人たちが町中に本部が制圧されたことを知らせに回っているはずです」

「嘘よ! そんな嘘、私は信じないわよ!」

「そう言われましても、僕は嘘はついていませんし……」


 信じようとしないパメテリアを見てノワールは困り顔になる。するとそこにジェイクとファウがやって来て、二人に気付いたノワールたちは視線を二人に向けた。


「よぉ、そっちは終わったのか?」

「あたしたちの方はたった今終わりましたよ」


 傷だらけだが笑っているジェイクとファウを見たノワールは重傷は負っていないな、と微笑みを浮かべる。

 パメテリアは近づいて来るジェイクとファウを見て、敵が増えたと微量の汗を流す。すると、遠くで倒れているケルディとエーヴィンの姿が視界に入り、パメテリアは大きく目を見開いて驚いた。


「う、嘘……あの二人が……」


 倒れている仲間を見たパメテリアは震えた声を出す。そして、先程のジェイクとファウの言葉から、ケルディとエーヴィンは目の前の二人にやられたのだと気付き、目を見開いたままジェイクとファウを見た。

 四人の敵を前にしながらパメテリアはどうすればいいか考える。そんな時、広場に一人の魔族兵が馬に乗って入ってきた。魔族兵は周囲を見回し、パメテリアを見つけると馬から降りて走り出す。そして、パメテリアの前までやって来ると転ぶように倒れた。


「パ、パメテリア殿……」

「アンタ、本部を護っていた……」

「ほ、報告します。本部が敵の魔法使いに襲われ、防衛に当たっていた兵士や悪魔のほぼ全てが……ああぁっ!」


 喋っていた魔族兵はノワールの姿を見ると驚愕し、ノワールは小首を傾げながら魔族兵を見る。


「ソ、ソイツです! その子供が本部を襲撃し、防衛部隊が壊滅状態に……」

「はあぁ!?」


 パメテリアは驚きながら魔族兵が指差すノワールを見た。ノワールは不思議そうな顔のままパメテリアの方を見ており、周囲にいるジェイク、マティーリア、ファウも黙ってパメテリアを見ている。

 仲間の魔族兵が取り乱しながら話すのを見たパメテリアは本当に本部が制圧されたのだと知って衝撃を受ける。マティーリアはパメテリアの反応を見ると再びジャバウォックをパメテリアに向けた。


「これでお主は武器だけでなく、本部も失ってしまった。こうなった以上、もうお主と魔族軍に勝ち目はない」

「ううっ……」

「もう一度言うぞ? お主の負けじゃ、降伏しろ!」


 その言葉が止めになったのか、パメテリアは折れた剣を落とし、そのまま地面に両膝を突く。武器を失い、ケルディとエーヴィンも戦死し、本部まで制圧された。現実を突きつけられたパメテリアは完全に戦意を失う。

 本部が制圧された以上、もうまともに軍を統率することはできない。いつかは町中の魔族軍にも制圧されたことが伝わり、軍の士気も低下してしまう。パメテリアは自分たちが人間に負けたのだとようやく理解した。

 絶望するパメテリアを見たマティーリアはゆっくりとジャバウォックを下ろす。すると、ノワールは宙に浮いたままジェイクたちの方を向いた。


「皆さん、この広場にいる魔族軍の人たちに本部を制圧したことを伝えてください。本部が制圧されたことを知れば、魔族軍の人たちも戦うのをやめるはずです」

「そうだな」

「僕はモナさんたちに本部を制圧したことを伝えてきますので、ここはお願いします」


 そう言ってノワールは上昇し、南門の方へと飛んでいく。ジェイクとファウはノワールに言われたとおり、広場にいる魔族軍に本部が制圧されたことを伝えるために移動する。マティーリアだけはパメテリアを見張るためにその場に残った。

 その後、魔族軍の本部が制圧されたことは町中に広まり、魔族軍の各部隊は戦意を失って次々と降伏していく。逆にマルゼント王国軍は魔族軍の本部が制圧されたという報告を聞いて歓喜の声を上げた。

 解放が困難と言われていたセルフストの町は僅か数百の部隊によって魔族軍から解放された。


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