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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百六十二話  進軍開始


 南門前の広場ではマルゼント王国軍が魔族軍が使用していた物資の確認や捕らえた魔族兵の見張り、悪魔族モンスターの死体の片付け、周囲の見張りなどをしている。南門の近くではノワールやジェイクたちが大きめの机を囲んで話し合いをしていた。

 防衛部隊を倒したジェイクたちはストーンタイタンたちに南門を開かせて町へと突入した。そこで南門前の広場を護っていた魔族軍と戦闘になり、少しずつ魔族軍を押していった。そこへ町の上空の悪魔族モンスターたちを片付けたノワールも合流し、マルゼント王国軍はあっという間に南門前の広場を制圧し、セルフストの町を解放するための拠点としたのだ。

 広場にいた魔族軍を倒したノワールたちはすぐに魔族軍が所持していた物資や情報を回収し、一部のマルゼント兵や黄金騎士たちに広場の防衛に就かせる。そして、ノワールたちは今後どのように町を解放するか作戦会議を行っていた。


「町中の魔族軍が集結する前に南門と広場を制圧できました。これでもし魔族軍が攻め込んで来ても慌てることなく迎撃できます」


 モナは周りにいるノワールたちは見ながら語り、ノワールやジェイクたち、部隊長である人間やエルフのマルゼント騎士たちは真剣な表情で彼女を見ていた。


「ここまで早く広場を制圧できたのも、ノワールが合流してくれたおかげじゃな」


 マティーリアが腕を組みながら小さく笑ってノワールの方を見ると、ノワールは少し照れくさそうな顔をしながら自分の頬を指で掻く。マティーリア以外の者は少し驚いたような顔でノワールを見ている。


「まさか本当に短時間で空中の悪魔たちを片付けてくるとは思ってもいなかったぜ」

「……やっぱりジェイクさん、忘れてたんですね? 僕があの魔法を使えることを?」


 驚いているジェイクを見ながらノワールは意外そうな顔で尋ねる。ジェイクは一瞬、ノワールが何を言っているのか理解できなかったが、すぐに何かを思い出したような表情を浮かべ、それを見たノワールはやっぱり、と少し呆れたような反応を見せた。


「……忘れてたんですね?」

「あ、ああぁ~! そ、そうだったな、お前にはあの魔法があったな。あれを使えば問題無く悪魔の大群を一掃できるな」


 神格魔法の存在を思い出したジェイクは苦笑いを浮かべながら僅かの顔を赤く染める。その反応を見たノワールは軽く溜め息をつき、マティーリアはやれやれと首を横に振った。

 マティーリアはノワールがどんな方法で空中の悪魔族モンスターたちを倒すかは分からなかったが、神格魔法の存在は覚えていたらしい。一方でジェイクはノワールの切り札とも言える神格魔法の存在自体を忘れていたため、ノワールでも悪魔族モンスターの大群を短時間で倒すのは無理だと考えていたようだ。

 ノワールには大量の悪魔族モンスターを一瞬で倒せる力を持っていることを思い出したジェイクは恥ずかしそうに笑い、マティーリアはそんなジェイクをしっかりしろ、と言いたそうな目で見つめる。


「あ、あのぉ、いいですか?」


 三人が話しているとファウが声を掛けてきた。神格魔法の存在を知らず、ノワールが魔法を使うところも見ていないファウやモナ、マルゼント騎士たちは話の内容が分からずに目を丸くしながらノワールたちを見ていた。


「何でしょうか?」


 ノワールがまばたきをしながらファウたちの方を向き、ジェイクとマティーリアも視線をファウたちに向ける。


「あたしたち、まったく話についていけてないんですけど……」

「ノワール君はどうやって悪魔たちを倒したんです? というより、本当に空中の悪魔たちは全て倒したのですか?」

「何じゃ、信じておらんのか?」

「い、いえ、そういう訳では……」


 若干低い声を出すマティーリアに驚いたモナは首を横に振り、そんなモナをマティーリアは目を細くしながら見つめる。だが、空を飛ぶ大量の悪魔族モンスターを短時間で倒すなんてことは最上級魔法でも難しいため、モナが疑うのも無理はなかった。

 ファウもモナと同じ気持ちなのか、ノワールたちを見ながら本当ですか、と言いたそうな顔をしており、それを見た微笑みながら頷く。


「大丈夫ですよ。方法は教えられませんが、上空に悪魔は間違いなく全て倒しました。もし残っているのなら、今頃空から僕たちを襲撃してきているはずです」

「た、確かに、南門を制圧してそれなりに時間が経過していますけど、悪魔たちの攻撃はありませんね……」


 空を見上げながらファウは再び目を丸くし、モナやマルゼント騎士たちも空を見上げて悪魔族モンスターの姿が見えないことを確認する。セルフストの町に突入してから一度も上空から攻撃を受けていないことから、本当に空中の悪魔族モンスターは倒されたのではとファウたちは感じていた。


「……いつまで空を眺めておる? 一秒でも早くこの町を解放するのではなかったのか?」

「え? ……あっ、そ、そうでしたね」


 目を細くしたままマティーリアが声を掛けると、モナは現状を思い出して慌てて作戦会議を始めようとする。ノワールがどんな方法で悪魔族モンスターたちを倒したのか気になっているが、今は町を解放することに集中しようとモナは気持ちを切り替えた。

 モナは気を引き締めて机の上に広げられているセルフストの町の地図を見つめ、ノワールたちも真剣な表情を浮かべて地図を見る。ファウとマルゼント騎士たちもノワールが空中の悪魔族モンスターを倒した件を一度忘れ、作戦会議に集中していた。


「私たちは南門の突破と広場の制圧に成功しました。ですが、だからと言って魔族軍が護りを固めるなんてことはしないでしょう。寧ろ、南門を奪還するために多くの戦力を此処に向かわせているはずです」

「間違いないだろうな。空中の悪魔たちがいなくなってもまだ魔族軍の方が俺たちよりも戦力が上なんだ。こっちを凌ぐ戦力を送り込んで俺たちを倒そうとするはずだ」


 地図に描かれている南門前の広場を見ながらジェイクは絶対に魔族軍が攻めて来ると語り、モナやノワールたちも間違いないと感じながら地図を見ている。


「恐らく敵は南門の周辺に配備している防衛部隊を南門に向かわせて我々の相手をさせ、その間に町中の戦力を南門に集め、全ての戦力が集まった直後に全戦力で攻撃を仕掛けてくるでしょう」

「そうなると厄介じゃのぉ、全戦力が集まる前に南門周辺の敵を片付け、防衛線を張った方がいいのではないか?」


 マティーリアがモナの方を見て尋ねると、モナはマティーリアに視線を向けて頷いた。


「勿論、早急に防衛線は張ります。その後は攻めてくる魔族軍の迎撃する部隊と本部である屋敷へ向かう部隊を編成し、迎撃部隊が魔族軍と戦っている間に制圧部隊を本部へ向かわせ、一気に制圧します」


 モナの作戦を聞いたノワールたちはその作戦がいいと思ったのか、誰一人異議を上げることなく黙ってモナを見ている。モナは周囲の反応を見て誰も反対していないと感じて話を続けた。


「それで制圧部隊と迎撃部隊の編成についてですが、ストーンタイタンと砲撃蜘蛛はレベルが高く、攻撃力もありますので迎撃部隊に加えたいのですが……ノワール君、よろしいですか?」

「ええ、構いません。と言うよりも、この部隊の指揮官はモナさんですから、モナさんに自由にしてくださって結構です」

「いいんですか?」

「ハイ、マスターもそう仰ると思います」


 笑顔で答えるノワールを見てモナも小さく笑みを浮かべる。自由にしてもいい、それはノワールたちやこの場にいないダークが自分のことを指揮官として信頼してくれているということになるため、モナは心の中で嬉しく思っていた。

 ジェイクたちもノワールと同じ気持ちなのか、三人はモナを見ながら小さく笑う。彼らも口には出していないが、モナのことを頼りにしているのだ。


「では、ストーンタイタンと砲撃蜘蛛は迎撃部隊に加え、防衛線に配備させていただきます」


 モナは手元の羊皮紙に迎撃部隊にストーンタイタンと砲撃蜘蛛を入れることを記し、地図に描かれている南門の近く、防衛線を張る場所に木製の小さな駒を目印として置いた。


「迎撃部隊にはストーンタイタンと砲撃蜘蛛の他にもビフレスト王国の騎士と回復魔法が使える我が国の魔法使いを多く加え、防御力をできるだけ高くします……防衛部隊の指揮は貴方がたにお任せします」


 隣で話を聞いているマルゼント騎士たちにモナは迎撃部隊の指揮を任せ、マルゼント騎士たち無言で頷いた。


「次に敵本部へ向かう制圧部隊ですが、制圧部隊にはノワール君とジェイクさんたちに加わっていただきます」

「えっ、僕らがですか?」


 ノワールは意外そうな顔でモナの方を見ており、ジェイク、マティーリア、ファウの三人も同じような顔でモナを見ている。てっきり四人の内、二人ぐらいは迎撃部隊に入ると思っていたが、全員が制圧部隊に入ると聞いて少し驚いていた。

 意外そうな顔をするノワールたちを見て、モナは真剣な表情を浮かべながら頷いた。


「ハイ、解放に時間を掛ければ敵戦力が南門に集まり、いずれは防衛線が突破される可能性があります。防衛線が突破される前に町を解放するには短時間で本部を制圧し、魔族軍を降伏させなければいけません。素早く本部を制圧するためにも高レベルの皆さんには制圧部隊に加わっていただきたいのです」

「成る程、そう言うことか」

「確かに戦いに時間が掛かれば掛かるほど迎撃部隊の人たちの体力と士気が低下していき、防衛が難しくなりますね」


 ジェイクとファウは自分たちを制圧部隊に加える理由をモナから聞いて納得の反応を見せ、マティーリアは腕を組みながらモナを見て、ほほぉと言う顔をする。ノワールも短時間で本部を制圧するために実力のある自分たちを制圧部隊に加えると言うモナの作戦はいいかもしれないと感じ、納得の反応を見せていた。

 

「分かりました、僕たちは制圧部隊と共に魔族軍の本部へ向かいます」

「よろしくお願いします。私は此処で全部隊の指揮を執ります。増援が必要な時は要請してください」


 本部の制圧を引き受けるノワールにモナは軽く頭を下げる。ジェイクたちはこれと言って反対する理由も無いため、ノワールがそれで構わないのなら自分たちも従おうと思っていた。


「ところで、この町で捕まっている捕虜たちは何処にいるんだ?」


 ジェイクは魔族軍に捕らわれてるであろう、マルゼント兵や冒険者たちについてモナに尋ねる。するとモナは地図を見て町の北側にある広い場所を指差した。


「捕らえた魔族から聞いた話では町の北側に無数の倉庫があり、捕虜はその内の一つに閉じ込めているそうです」

「倉庫の内の一つか……どの倉庫にいるかは聞き出せたのか?」

「ハイ、大丈夫です。捕虜の救出は少数で移動能力の高い部隊に任せるつもりですので、皆さんは本部を制圧することに集中してください」


 捕虜を救出する手はちゃんと打ってあると聞いたノワールたちは捕虜の方は大丈夫だと感じ、本部を制圧することだけを考えることにした。

 その後、ノワールたちはセルフストの町の構造や敵の防衛部隊の配置場所などを確認し、全ての確認が終わるとセルフストの町を解放するため、ノワールたちは作戦を開始した。


――――――


 魔族軍の本部ではパメテリアが情報を集めてきた魔族兵たちから報告を受けている。魔族兵たちが持ち帰った情報はどれもパメテリアの予想を上回る驚くべき内容で、パメテリアやケルディ、エーヴィンは驚きの表情を浮かべていた。


「……その内容、間違いないの?」


 パメテリアが僅かに低い声を出しながら目の前にいる魔族兵に尋ねる。魔族兵は深刻そうな顔をしながらパメテリアを見て頷く。


「……ハイ、人間軍は南門を突破し、門前の広場を拠点として進軍を開始しています。現在は南門の周辺に配備されていた防衛部隊が接触し交戦しています」

「まさか、既に南門を突破されていたなんて……」


 マルゼント王国軍の進軍力が予想以上に高いことにパメテリアは緊迫した表情を浮かべる。共に報告を聞いていたケルディとエーヴィンも目を見開きながら報告する魔族兵を見ていた。

 空を覆い隠すほどの冷気と空から落ちて来る悪魔族モンスターの死体を目にしてからまだ殆ど時間は経っていないのにもう南門を突破し、街へ進軍しているという報告を聞かされたパメテリアたちは、どうして戦力の少ないマルゼント王国軍がここまで優勢に立てるのか分からずにいた。

 少しずつ魔族軍が追い込まれている状況にパメテリアはどうすれば戦況を変えられるか考える。そんな時、扉をノックする音が聞こえ、パメテリアたちは視線を出入口の扉へ向けた。


「入って」

「失礼します!」


 扉が開き、中年の魔族兵が部屋に入ってくる。中年の魔族兵はパメテリアたちにマルゼント王国軍が現状を報告していた魔族兵の隣まで移動した。


「どうしたの?」

「南門周辺に配備されていた防衛部隊が全滅しました!」

「なっ!?」


 南門が突破されたという報告に続いて、南門周辺の部隊が全滅したという報告にパメテリアは言葉を失う。周りにいたケルディたちも立て続けに入ってくる悪い報告に愕然としている。


「人間軍は防衛部隊が配備されていた場所に防衛線を張り、進軍の拠点としている南門前の広場の護りを固めているとのことです」

「防衛部隊を全滅させた上に防衛線まで張るなんて……クッ、西側と東側に配備されていた戦力はどうしたの! 南門を奪還するために移動しているはずでしょう!?」

「ハ、ハイ! 現在、西門と東門の防衛部隊を除き、町中の部隊が南門へ向かっています。間もなく防衛線を張る敵部隊と接触するはずです」

「使える戦力は全部使って構わないわ、何としても人間軍を殲滅し、南門を取り戻させなさい!」

「ハッ!」


 パメテリアの指示を聞いた中年の魔族兵は返事をして部屋を出ていこうとする。すると今度は若い女魔族兵がノックをすること無く部屋に入ってきた。

 女魔族兵は慌てた様子を見せており、パメテリアたちは女魔族の顔を見て、今度は何だと言いたそうに表情を歪ませる。


「ほ、報告します! 人間軍の大部隊がこの本部に向かって真っすぐ進軍して来ているという情報が入りました!」

「はあ? この本部に向かってだとぉ?」


 ケルディが少し声に力を入れながら女魔族兵に訊き返すと、女魔族兵はケルディの方を向いて頷く。


「ハ、ハイ! 正確な規模は分かりませんが、進軍する方向からして間違いないとのことです」

「なら本部の周辺に配備されている部隊を迎撃に向かわせろ。此処に攻め込んで来る前に叩き潰せ」

「す、既に本部周辺に配備されている防衛部隊には報告済みだと知らせに来た者は言っていました」


 防衛部隊にはマルゼント王国軍の部隊が進軍してきていることを報告していると聞かされたケルディは、ならいいと言いたそうな顔をしながら鼻を鳴らす。エーヴィンも少しだけ安心したのか軽く息を吐いた。しかし、パメテリアは鋭い表情を浮かべながら俯いている。


「どうかしましたか、パメテリアちゃん?」

「……ケルディ、エーヴィン、アンタたちの部隊はもう臨戦態勢に入ってるわよね?」

「ええ、準備は整っていますわ。それがどうかしまして?」


 不思議そうな顔で尋ねると、パメテリアはケルディとエーヴィンの方を向いて目を鋭くした。


「これから進軍している人間軍を迎え撃ちに行くから、アンタたちも部隊を連れて一緒に来て」

「はあ? 何言ってんだよ。本部周辺の部隊がソイツらの相手をするんだから、わざわざアタイらが出ていく必要なんかねぇじゃねぇか」

「もう忘れたの? 敵の中には西門と東門の橋を壊した奴や空を覆い隠すほどの冷気を発生させた奴がいるのよ?」


 パメテリアが僅かに力の入った声を出すとケルディは目を見開き、エーヴィンは目元をピクリと動かす。待機していた三人の魔族兵はパメテリアを見ながら顔に緊張を走らせる。

 全員が黙り込むと、パメテリアはケルディとエーヴィン、魔族兵たちを見て静かに口を動かす。


「普通の攻撃では壊せない頑丈な橋を壊し、空を覆いつくすほどの冷気を放って空中にいる悪魔たちを一掃するほどの実力を持った奴が敵の中にいる。ソイツらは間違いなく英雄級の実力を持っているはずよ。そんな敵を相手に並の兵士や悪魔が勝てるはずないじゃない」

「確かにそうですわね。この町にいる兵士のレベルは平均で26ほど、悪魔は下級ならレベル20代半ば、中級なら40代半ばくらいですから、英雄級の実力を持つ敵に勝つのは難しいでしょうね」

「そうよ。そしてその英雄級の敵は本部に向かって進軍している敵部隊にいる可能性が高い。だからこそ、私たちが前線に出て進軍する敵と戦うのよ。私たちなら楽勝だろうしね」


 強大な力を持つ敵は自分たちが相手をするべき、そう語るパメテリアをエーヴィンは黙って見つめる。ケルディもパメテリアの言っていることに一理あると感じているのか、腕を組みながらパメテリアを見ていた。

 全員が黙り込み、部屋の中が静寂で包まれる。その静寂に魔族兵たちは若干居心地の悪そうな顔をしていた。すると、黙り込んでいたエーヴィンが閉じていた口を開く。


「分かりましたわ、わたくしたちも同行いたしましょう。英雄級の実力者であれば、わたくしたち以外に倒せる方はいませんしね」

「ケッ、わぁ~ったよ。仕方ねぇから一緒に行ってやらぁ」


 エーヴィンとケルディが共に前線へ向かうことを決め、パメテリアは黙ってそんな二人を見つめる。

 話がまとまるとパメテリアは部屋を出るために出入口である扉の方へ歩き出し、ケルディとエーヴィンがその後ろをついて行く。そして出入口の前まで来たパメテリアはドアノブを握り、少しだけ扉を開けると魔族兵たちの方を向いた。


「アンタたちは此処に残って本部を護りなさい。私たちが戻るまで、一人も敵を入れるんじゃないわよ?」

『ハイッ!』


 魔族兵たちが声を揃えて返事をすると、パメテリアは部屋から出ていき、ケルディとエーヴィンも静かに退室した。

 同時刻、ノワールたち制圧部隊は町の中央にある魔族軍の本部を目指して街道を進んでいた。先頭をジェイク、ファウが走り、その少し上をノワールとマティーリアが飛んでいる。そしてノワールたちの後ろにはマルゼント兵や黄金騎士たちがついて来ていた。

 街道や民家の屋根の上などにはノワールの神格魔法で倒された悪魔族モンスターたちの死体が幾つもあり、それを見たマルゼント兵や騎士、魔法使いたちは本当に空中の悪魔族モンスターが倒されていると知って驚きの声を漏らす。ノワールはマルゼント兵たちの声を聞いて苦笑いを浮かべていた。

 しばらく北に向かって街道を走っていると、200mほど先にタワーシールドを持つ魔族兵が数人、横に並んで構えている姿が視界に入った。その後ろには大勢のマッドスレイヤーやフェイスイーターが待機しており、魔族軍を見たノワールとマティーリアは空中で停止、ジェイクとファウも立ち止まってついてくるマルゼント兵たちを止める。


「待ち伏せ……やっぱ、すんなりとは行かせてくれねぇか」

「てっきり、空中の悪魔たちが倒されて士気が低下し、後退したと思ったんですけどね」


 魔族軍を見つめながらジェイクとファウは得物を構え、頭上を飛んでいるファウもジャバウォックを構えた。後ろにいるマルゼント兵たちも魔族軍の姿を確認すると武器を構えて戦闘態勢に入る。しかし、ノワールだけは無表情で魔族軍を見つめていた。

 ノワールはゆっくりとジェイクとファウの前に着地して魔族軍の方へと歩き出す。その姿をジェイクたちは意外そうな顔で見ている。


「ノワール?」

「彼らは僕が倒します。本部を短時間で制圧するためにも皆さんは体力を温存してください」


 ジェイクたちに無駄な体力を使わせないため、一人で目の前の魔族軍を倒すとノワールは笑顔を見せながら語る。そんなノワールを見て、ジェイクたちも小さく笑いながら構えている武器を下ろす。

 ノワールはジェイクたちが構えを解くのを見ると前を向いて魔族軍の方へ歩き出す。そして歩きながら両手を魔族軍に向け、魔族軍は一人近づいて来るノワールを警戒する。


火炎弾フレイムバレット!」


 立ち止まったノワールが魔法を発動させると、両手から火球が魔族軍に向かって放たれる。火球を目にした魔族兵たちは驚き、咄嗟にタワーシールドで防ごうとするが、火球がタワーシールドに命中した瞬間に爆発が起き、魔族兵たちを吹き飛ばした。

 魔族兵たちが吹き飛んだ光景を見たマルゼント兵たちは驚きの声を出す。その間もノワールは火球を連続で放ち、魔族兵たちの後ろにいた悪魔族モンスターたちを攻撃する。

 数発火球を放ったノワールは両手を下ろして魔族軍がいた場所を見つける。灰色の煙で包まれており、その中には黒焦げとなっている魔族兵と悪魔族モンスターたちの死体が転がっていた。

 魔族軍が全滅したのを確認したノワールは振り返り、笑顔を浮かべながらジェイクたちを見た。


「終わりました。さぁ、先を急ぎましょう」

「ああ」


 ジェイクは小さく笑いながら頷き、マティーリアとファウもノワールを見て微笑んだ。

 ノワールは魔法で再び浮かび上がると先へ進み、ジェイクたちもその後を追いように移動を再開する。驚いていたマルゼント兵たちも少し遅れて移動し、黄金騎士たちも無言で移動した。

 それから何度か魔族軍の防衛部隊と遭遇するが、ノワールが一瞬で倒してくれるので、ジェイクたちは一度も戦うことなく進軍することができた。一度も戦うことなく、体力を温存したまま進軍しているためか、マルゼント兵たちは少し余裕を見せながら進軍している。

 長い街道を進んでいくと、ノワールたちは大きな広場に出る。そこは四方を建物に囲まれた四角い広場で、東西南北から街道へ出られるようになっている。平和な時であれば幾つもの出店が並んでいるようなだだっ広い場所だった。しかし、今はその広場に大勢と魔族兵と悪魔族モンスターの姿があり、広場に入ってきたノワールたちを睨んでいる。


「広い場所に出たのぉ……」

「広さと置かれている物資の数からして、此処は敵の防衛拠点だと思います。それも敵の本部に最も近い……」

「成る程のぉ、どおりで敵の数がこれまで以上に多いわけじゃ」


 ファウの話を聞いたマティーリアは宙に浮いたままジャバウォックを担いで納得の表情を浮かべる。ノワールとジェイクも敵の数が広場に辿り着くまでに遭遇した部隊と比べて多いのを見て意外そうな反応を見せていた。


「この広場を制圧できれば一気に敵の本部へ辿り着けるでしょう」

「なら、ちゃっちゃと制圧しちまおうぜ」


 そう言ってジェイクはタイタンを横に構え、ファウはサクリファイスを両手で握り、中段構えを取る。マティーリアも担いでいたジャバウォックを構えて遠くにいる魔族軍を睨み付けた。

 ノワールやマルゼント兵、黄金騎士たちも戦闘態勢に入り、全員が戦える状態になるとジェイクは大きく口を開けた。


「よっしゃぁ、行くぞぉ!」


 ジェイクは叫ぶのと同時に魔族軍に向かって走り、ファウとマルゼント兵たちもそれに続いて走り出す。空中のノワールとマティーリアも魔族軍に向かって飛んでいく。魔族軍は突撃して来るマルゼント王国軍に向かって行き、両軍は四角い広場の中で激突した。

 広場のあちこちでマルゼント兵と黄金騎士たちが魔族兵と悪魔族モンスターたちと交戦し、後方では両軍の魔法使いたちが魔法を使って仲間を援護している。静かな夜の広場に剣戟の音や兵士たちの声などが響き、戦いの激しさを物語っていた。

 既に広場のあちこちで悪魔族モンスターが倒れており、マルゼント兵たちも負傷している。両軍の被害は同じくらいだが、高レベルのノワールたちがいる分、マルゼント王国軍の方が優勢だった。


「さすがは本部を護る拠点じゃ、敵も死に物狂いで向かってくる!」

「こりゃあ、今までのように楽に戦えると思ってたらやられるかもな!」


 マティーリアは空を飛ぶブラッドデビルをジャバウォックで斬り捨てながら、ジェイクはタイタンでフェイスイーターを両断しながら油断してはいけないと語り合う。二人の周りには大勢の悪魔族モンスターが集まっており、どの方角から攻撃されても迎え撃てるよう、二人は神経を集中させて戦った。

 二人から少し離れた所ではファウがサクリファイスを振り回して次々と悪魔族モンスターを倒していく。既にサクリファイスの宝玉は全て赤く光っており、いつでもサクリファイスの能力を使える状態になっていた。だが、下級の悪魔族モンスター相手に能力を使いたくないのか、ずっと暗黒剣技と戦技だけを使っている。


「フゥ、少しずつだけど、数は減ってきてるわ。この調子なら、何とかこの広場を制圧できるかも……」


 ファウは中段構えを取り、周囲をチラチラと見回しながら呟く。すると、彼女の背後から一体のブラックギガントが近づいてファウを攻撃しようとする。ファウはブラックギガントの存在に気付いて攻撃を回避しようとした。すると、ブラックギガントの胸を橙色の熱線が貫き、ブラックギガントはゆっくりと右へ倒れる。

 何が起きたのか分からないファウがキョトンとしながらブラックギガントの死体を見ていると、ブラックギガントの後ろで右手の人差し指を前に向けながら立っているノワールが視界に入る。ノワールの姿を見たファウは今の熱線が自分を助けるためのノワールによる攻撃だと知った。


「ファウさん、大丈夫ですか?」

「ハイ、ありがとうございます」

「油断しないでください? 僕らを本部へ行かせないために敵も死ぬ覚悟で向かってきているはずですから」


 真剣な表情でノワールはファウに忠告し、ファウはノワールを見ながら力強く頷く。そこへ二体のオックスデーモンが骨の斧を構えながらノワールに迫ってくる。オックスデーモンの存在に気付いたノワールは素早くオックスデーモンたちの方を向き、両手をオックスデーモンたちに向けて電気の矢を放つ。

 両手から放たれた電気の矢はオックスデーモンたちの胸を貫き、オックスデーモンたちはその痛みに声を上げながら倒れる。オックスデーモンたちを倒したノワールは浮遊魔法で浮かんで移動し、ノワールが移動したのを見たファウは再び魔族軍との戦いを再開した。

 その後、マルゼント王国軍はノワールたちや黄金騎士たちの力を借りて少しずつ魔族兵と悪魔族モンスターを倒していき、魔族軍の戦力を半分以下にまで減らす。しかもマルゼント王国軍には大きな被害は出ておらず、完全にマルゼント王国軍が有利に立っていた。

 魔族兵たちはマルゼント王国軍の力と多くの悪魔族モンスターが倒されたことで士気が低下し、少しずつ西、北、東の三方向へ後退し始める。


「敵が後退し始めたぞ」

「これはチャンスかもしれません。このまま一気に叩けば広場を制圧できます」


 ジェイクとファウが勢いが無くなった魔族軍を見て勝負は決まったと感じていると、空中で戦っていたノワールとマティーリアが二人の近くに下り立った。


「オックスデーモンやブラックギガントのような主力と言える戦力はもう残っていません。魔族軍はもうこちらを押し返すことはできないでしょう」

「ウム、さっさとこの広場を制圧して、敵の本部へ向かうと……」


 マティーリアが魔族軍を見ながら喋っていると、突然広場に落雷が落ちたような音が響く。音を聞いたノワールたちはフッと反応し、音が聞こえた方を向いた。

 音は広場の北側にある街道の入口の方から聞こえ、入口前では地面から黒に近い灰色の煙が上がっている。よく見ると煙の中には黒焦げになっているマルゼント兵の死体があり、それを見た近くのマルゼント兵たちは驚きの反応を見せていた。


「まさかここまで攻め込まれるとはね」


 煙の奥から若い女の声が聞こえ、マルゼント兵たちは一斉に警戒する。すると、煙の奥から剣を持った黒い長髪の若い女魔族が現れ、更にその後ろから褐色の肌を持つ女魔族、薄紫のミディアムヘアーの女魔族が姿を見せた。

 現れたのはセルフストの町を占領する魔族軍の指揮官、パメテリアと部隊長であるケルディとエーヴィンだった。そして煙が消えると、彼女たちの後ろから大勢の武装した魔族兵が隊列を組んで姿を現す。


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