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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百六十話  セルフスト解放作戦


 セルフストの町の南門では西門と東門から響く轟音を聞いて防衛部隊が騒いでいた。遠くに見える明かりと煙を目にした魔族兵は驚いており、悪魔族モンスターたちは無表情で同じ方角を見ている。


「お、おい、何なんだあれは?」


 南門の見張り台の上にいる若い魔族兵が遠くの西門の方を見ながら近くにいる仲間に声を掛ける。仲間の魔族兵も西門を見ながら目を見開いており、他の魔族兵たちも東門を見て呆然としていた。


「わ、分からねぇ。だけど、さっきのデカい音にあの明るさと煙、どうやら何かデカい爆発が起きたみてぇだ」

「爆発? どうして爆発なんか……まさか、敵襲か?」

「知らねぇよ、それに本当に爆発が起きたとは限らねぇ」


 西門を見ながら魔族兵は緊迫した表情を浮かべる。まだ爆発が起きたという確証は得ていないが、現状から考えると爆発が起きた可能性は高く、それが敵の襲撃によるものだと見張り台の上にいる魔族兵の殆どが思っていた。

 東門の方も西門と同じように明るく、煙が上がっており、東門の見ていた見張り台や城壁の上の魔族兵たちも顔に緊張を走らせている。すると、見張り台に立っている隊長らしき中年の魔族兵が動揺する仲間たちに声を掛けた。


「落ち着け! まずは西門と東門で何が起きたのか確認するんだ。確認が取れ次第、本部におられるパメテリア殿たちに報告しろ」

『ハ、ハイ!』


 指示を受けた数人の魔族兵は急いで見張り台から下り、広場に止めてある馬に乗って西門と東門の確認に向かった。魔族兵たちが移動したのを確認した中年の魔族兵は残っている魔族兵たちを真剣な表情で見つめる。


「急いで臨戦態勢に入れ、こんな真夜中に爆発が起きたのであれば敵襲の可能性は極めて高い。この南門も狙われる可能性も十分ある、武装を整え、悪魔たちを――」

「隊長! あれを見てください!」


 町の外側を見ていた一人の魔族兵が中年の魔族兵に声を掛け、中年の魔族兵や他の魔族兵たちは外側を確認する。橋の向こう側、対岸には大勢の騎士や魔法使い、モンスターが隊列を組んでおり、それを見た魔族兵たちは驚愕の表情を浮かべた。魔族兵たちはすぐに目の前の集団がマルゼント王国軍だと気付く。


「……敵襲! 護りを固め、空中の悪魔たちを集結させろ。本部や街にいる部隊にも南門に敵が現れたとすぐに報告するんだ!」


 中年の魔族兵は周りにいる魔族兵たちに叫ぶように指示を出し、魔族兵たちは急いで戦闘態勢に入った。広場に下りて仲間たちに敵が現れたことを伝えて武器を取る魔族兵がいれば、待機している悪魔族モンスターたちに命令をする魔族兵たちもいる。南門前の広場は慌てる魔族兵たちの声で騒がしくなった。

 広場で魔族兵たちが準備をしている間、見張り台や城壁の上では見張りの魔族兵たちが対岸のマルゼント王国軍を警戒し、門前や橋の中央にいる悪魔族モンスターもマルゼント王国軍を睨んでいる。マルゼント王国軍がまだ動いていないため、魔族軍も動かずに様子を窺っていた。


「おのれ、やはり敵襲だったが。となると、西門と東門で起きた爆発は我々の注意を引くための囮か」


 中年の魔族兵は見張り台の手すりを強く握りながら不満そうな様子で遠くのマルゼント王国軍を睨んでいる。だが、すぐに表情から険しさが消え、小さく笑みを浮かべた。


「しかし、姿を現すタイミングが悪かったな? 我々が西門と東門に戦力を送る前に姿を見せたことでお前たちの狙いがこの南門であることが分かった。おかげでここの戦力を他の門に回すことなく、万全の状態でお前たちを迎え撃つことができた。もっとも、タイミングよく姿を現したとしても、臨戦態勢には入っていたがな」


 マルゼント王国軍の狙いが南門の戦力を削ぐことだと考えた中年の魔族兵は笑いながら語り、周りにいた魔族兵たちも中年の魔族兵の言葉を聞いてマルゼント王国軍の作戦を潰すことができたと余裕を見せている。

 魔族兵たちがマルゼント王国軍を警戒していると、広場で待機していた飛行可能な悪魔族モンスターたちが飛び上がり、南門の外へ移動した。空中で待機していた悪魔族モンスターたちもマルゼント王国軍を睨みながら南門に集まってくる。

 しばらくして、悪魔族モンスターが集まるのを確認した中年の魔族兵は腰の剣を抜き、マルゼント王国軍を見つめながら口を開いた。


「これより我々は襲撃してきた人間軍の迎撃に移る。敵軍の規模がどれ程なのかは不明だが、この町の戦力ならどんな敵でも返り討ちにすることができるはずだ!」


 中年の魔族兵の言葉に魔族兵たちは目を鋭くしながら自分の武器を強く握り、マルゼント王国軍を睨んだ。


「人間軍が橋を渡り始めたら悪魔どもを突撃させ、空中にいる悪魔たちにも攻撃させろ。人間どもに我々魔族軍の力を思い知らせてやれ!」


 中年の魔族兵が叫ぶと見張り台と城壁の上、広場にいる魔族兵たちは声を上げながら武器を掲げる。自分たちの方が優勢だと感じ、士気が高まっているようだ。

 仲間たちの反応を見て士気は問題無いと感じた中年の魔族兵は近くにいる二人の若い魔族兵に近づいた。


「お前たち、急いで西門と東門へ向かい、戦力を町の外側から南門に回り込ませるよう伝えてこい。上手くいけば人間軍を取り囲み、一気に殲滅させることができるはずだ」

「分かりました」


 マルゼント王国軍を正面だけでなく、側面からも攻撃するという作戦を聞いた魔族兵は返事をし、急いで見張り台から下りようとする。すると、広場に馬に乗った魔族兵が飛び込むように入ってきた。


「あれは、西門の様子を見に行った奴か」


 魔族兵に気付いた中年の魔族兵はもう戻ったのか、と意外そうな顔をする。戻ってきた魔族兵は馬から降りると階段を駆け上がって見張り台にいる中年の魔族兵の前に移動した。


「報告します、西門の状態が確認できました」

「どうだった? やはりあの爆発は囮だったか?」


 中年の魔族兵は笑いながら魔族兵に尋ねると、魔族兵は少しだけ表情を曇らせて小さく俯く。


「……確かに西門では爆発は起きていました。ですが、囮と言っていいものなのかは不明です」

「何? どういうことだ」


 報告の内容が分からず、中年の魔族兵は目を細くする。他の魔族兵たちもどういうことだ、と言いたそうに報告する魔族兵を見つめている。

 魔族兵はしばらくすると顔を上げ、信じられない物を見たかのような顔で中年の魔族兵を見ながら口を動かした。


「……西門から対岸へ渡る橋が、破壊されていました」

「何っ!?」


 中年の魔族兵は思わず力の入った声を出し、周りにいた他の魔族兵たちも目を見開いて報告する魔族兵を見ている。彼らは一瞬、何を言っているのか理解できず、頭の中が混乱していた。


「橋が破壊されていた、だと?」

「ハイ……」


 魔族兵が返事をすると中年の魔族兵は驚愕の表情を浮かべる。だがすぐに我に返り、険しい顔で報告する魔族兵を睨んだ。


「ふざけたことを言うな! この町の橋は全て大きく強固な物だ。そんな簡単に破壊できるようなものではない!」

「ですが、私はこの目で見たんです! 橋の中央が吹き飛ばされて渡れなくなっている光景を!」


 嘘は言っていないと魔族兵は声に力を入れて訴え、そんな魔族兵の反応を見た中年の魔族兵は険しい顔のまま口を閉じた。

 必死な様子で話す魔族兵の姿から嘘を言っているようには感じられない。だが、橋が破壊されたということも信じられず、中年の魔族兵は混乱しそうになる。すると、新たに馬に乗った別の魔族兵が広場に入ってきた。

 魔族兵は馬から下りると慌てた様子で階段を駆け上がって見張り台に移動し、中年の魔族兵の前で立ち止まる。見張り台に上がってきたのは東門の様子を見にいた魔族兵だった。


「報告します! 東門前の橋が破壊されています!」

「何だとっ!?」


 東門の橋も破壊されたという報告を聞いた中年の魔族兵は声を上げ、西門を見てきた魔族兵や、周りの魔族兵たちは更に驚いた表情を浮かべる。

 中年の魔族兵は驚きのあまり、東門を見てきた魔族兵を見て固まる。同時に西門の橋が破壊されたという話が真実だと悟った。


「に、西門と東門の橋が破壊されたとは……人間軍の仕業なのか?」

「分かりません。ただ、西門の橋が破壊される直前に対岸に薄っすらと人間の姿を確認したと、防衛部隊の者が言っておりました」

「東門に配置された者たちも同じようなことを言っていました。あと、橋が破壊される時に橋の上空に大きな魔法陣が展開されたらしく、敵は魔法で橋を破壊したと思われます」

「そんな馬鹿な、この町の橋は上級魔法でも破壊するのは難しい。破壊できるとすれば最上級魔法ぐらいだ」


 中年の魔族兵が額に手を上げながら言うと、周りにいた魔族兵たちは中年の魔族兵の方を向いた。今の話から考えると、敵の中には最上級魔法を使える者がいるかもしれないということになる。勿論、中年の魔族兵もその可能性はあると感じていた。

 人間ではごく一部の者、魔族では熟練の魔法使いしか習得できない最上級魔法を使うことができる者が人間の中にいるかもしれない、それは魔族兵たちにとってはとてつもない脅威と言えた。

 南門を護る魔族兵たちは敵戦力にとんでもない魔法使いがいるかもしれないと感じ、緊迫した表情を浮かべていた。中年の魔族兵は微量の汗をかきながら対岸で待機しているマルゼント王国軍を見つめる。すると、中年の魔族兵はあることに気付き、目を大きく見開いた。


「……そうか、そう言うことだったのか」

「どうかしましたか?」


 魔族兵が尋ねると、中年の魔族兵は魔族兵たちの方を向いて険しい表情を浮かべる。


「私たちは、敵の作戦に引っかかってしまったようだ」


 拳を強く握りながら中年の魔族兵は悔しそうな声を出し、周りの魔族兵たちは中年の魔族兵の言葉の意味が分からず、ただ黙って彼を見ていた。

 その頃、町の南側の対岸ではマルゼント王国軍が隊列を組んで待機していた。最前列に黄金騎士と巨漢騎士たちが並び、その後ろをマルゼント兵と騎士たちが並んでいる。

 マルゼント兵たちから後方に少し間隔を空けた場所で魔法使いたちが隊列を組んでおり、最後尾にはストーンタイタンと砲撃蜘蛛が待機している。そして、マルゼント兵たちと魔法使いたちの間にマティーリアとモナが並んで立っていた。

 マティーリアとモナは西門と東門の方が明るくなって煙が上がっているのを見ており、マティーリアはほほぉ、という表情を、モナは驚きの表情を浮かべていた。


「す、凄い……」

「周りが暗いから爆発もハッキリと見ることができたのぉ」


 モナとマティーリアは思い思いのことを口にしながら西門と東門を見ており、マルゼント兵たちも遠くの明かりを目にしながら驚きの声を漏らしている。そんな中、馬に乗ったジェイクとファウがそれぞれ東門と西門の方から走ってくる姿が見え、二人に気付いたマティーリアとモナは視線をジェイクとファウに向けた。

 馬に走らせるジェイクとファウが部隊と合流すると、マティーリアとモナの前で馬を止めて、馬から降りて西門と東門の方を見る。


「まだ明るいままか」

「きっと今でも破壊された橋の瓦礫や悪魔たちの死体が燃えてるんでしょうね」


 明るくなっている西門と東門を見てジェイクとファウは意外そうな顔をする。実は西門と東門の爆発はジェイクとファウの仕業で、この行動はノワールが考えた作戦なのだ。

 作戦会議の時にノワールが話していた作戦、それは魔法で西門と東門の前に架けられている橋を破壊するというものだった。橋を破壊することで西門と東門から魔族軍が町の外に出るのを防ぎ、南門を攻撃している時に左右から攻撃させないようにするという狙いだ。

 ジェイクとファウは橋を破壊するために単独で二つの門へと向かった。そして二人によって橋は破壊され、橋の中央に配置されていた悪魔族モンスターも倒すことに成功したのだ。

 橋を破壊するために使ったのは最上級魔法の炎王の爆撃エクスプロージョン。だが、戦士系の職業クラスを修めているジェイクとファウはそんな魔法を使うことはできない。実は二人はノワールから炎王の爆撃エクスプロージョンが封印されてある巻物スクロールを受け取り、それを使って魔法を発動させたのだ。巻物スクロールを使えば、戦士系の職業クラスを持つ者でも魔法を使うことはできる。

 ノワールが最上級魔法を封印した巻物スクロールを見せた時、ジェイクたちは驚きの反応を見せていた。そしてそれを二つも使用すると聞かされた時、ダークの協力者たちは大袈裟ではと感じる。しかし、護りの堅いセルフストの町を解放するのだからこれぐらいは使った方がいいとノワールが笑いながら言ったので、ジェイクとファウは納得して巻物スクロールを受け取った。


「これで西門と東門の魔族軍が側面に回り込んでくることはないだろう」

「ウム、じゃがその代わり、敵は町の内側から南門に戦力を送り、妾たちの侵入を防ごうとするはずじゃ。時間を掛ければ掛けるほど敵が南門に集まって不利になる」

「ああ、だからちゃっちゃと門を突破して南門とその周辺を制圧しねぇとな」


 橋の破壊を無駄にしないためにもジェイクとマティーリアは急いで南門を突破しようと話し、ファウとモナも二人を見ながら頷いた。


「そう言えば、ノワールさんは何処ですか?」


 ファウが周囲を見回してノワールを探していると、マティーリアが上を指差した。ジェイクとファウが上を向くと、上空でノワールが宙に浮いている姿があり、二人と目が合ったノワールが笑って手を振る。

 ノワールに周りには死神トンボや怪鳥人などの飛行可能なモンスターが大量におり、セルフストの町を見ながら待機している。それを見たジェイクとファウは何時でも攻撃できると感じ、目を鋭くしてマティーリアとモナの方を向いた。


「そっちの準備は整ってるのか?」

「ハイ」

「んじゃ、そろそろ行くか」


 ジェイクはそう言うとタイタンを肩に担いで南門の方を向く。ファウもサクリファイスを握って南門を見つめ、マティーリアは竜翼を広げて3mほどの高さまで飛び上がる。

 モナはジェイクたちの準備が整うと真剣な表情を浮かべ、南門を見つめながら口を開いた。


「これよりセルフスト解放作戦を開始します。目的は町の中心にある魔族軍の本部を制圧すること、敵も私たちを押し返すために町中の戦力を南門に集結させているはずです。敵が集まる前に南門を突破し、門前の広場を制圧しましょう!」


 解放作戦開始を宣言するモナの言葉を聞き、マルゼント兵たちは一斉に大きな声を出す。黄金騎士や巨漢騎士は無言のまま南門を見ており、ノワールたちも真剣な表情を浮かべてマルゼント兵たちを見ている。

 マルゼント兵たちの士気が高まるのを確認したモナは持っている羽扇を南門に向ける。


「攻撃開始!」


 モナが叫ぶと先頭の黄金騎士、巨漢騎士たちは橋を渡るために進軍を開始し、マルゼント兵たちもそれに続く。そして、後方にいる砲撃蜘蛛は橋の中央にいる悪魔族モンスターに向かって砲撃を開始した。

 魔族軍の本部である屋敷のバルコニーではパメテリア、ケルディ、エーヴィンが南門の方を見ていた。南門の方では低い音が何度も聞こえ、門の外側も明るくなっている。パメテリアたちは南門が攻撃を受けていると知り、鋭い表情を浮かべていた。


「西門と東門で大きな音が聞こえたと思ったら、今度は南門から攻撃? 敵は何を考えてんのよ」

「恐らく、西門と東門から聞こえた音は人間軍がわたくしたちの気を引くために何らかの偽装工作をしたのだと思われますわ。何をしたのかは分かりませんが、人間軍の本命は南門と考えて間違いないでしょうね」

「ケッ、人間如きがナメたことしてくれるじゃねぇか!」


 ケルディは見下していた人間に出し抜かれたことが気に入らないのか、南門を睨みながら自分の手の平を殴った。エーヴィンも不愉快そうな顔をしており、パメテリアはバルコニーの手すりを強く握りながら奥歯を噛みしめる。


「すぐに町中の部隊を南門に向かわせて。念のために西門と東門にも小隊規模の部隊を送って警戒させといて」

「お前に言われなくても分かってらぁ!」


 パメテリアの指示を聞いたケルディは八つ当たりするような口調で返事をし、部隊を南門へ向かわせるために部屋を出ていこうとする。すると、部屋の扉をノックする音が聞こえ、三人は一斉に扉の方を向いた。


「何!?」


 扉を睨みながらパメテリアは力の入った声で返事をした。すると一人の若い魔族兵が入室し、バルコニーの前までやってくる。その表情はとても緊迫したものだった。


「報告します! 南門の対岸に人間軍が出現し、攻撃を仕掛けてきました」

「そんなことは分かってるわ! 現状はどうなっているの?」

「ハ、ハイ。ただいま南門に防衛部隊が迎撃しており、街に待機させている部隊も南門へ向かっているとのことです」


 魔族兵は興奮するパメテリアの恐怖に耐えながら説明し、それを聞いたパメテリアとケルディは不満そうな表情を浮かべ、エーヴィンは目を鋭くしながら魔族兵を見ている。


「南門を襲撃する人間軍の規模は七百から八百の間ほどで南門の防衛部隊の戦力より勝っておりますが、空中の防衛に当たっている悪魔たちに援護させれば問題無いと思われます」

「西門と東門の部隊は何をしていますの? 彼らを町の外側から南門に回り込ませ、三方向から攻撃すれば短時間で倒すことができるはずですわよ」


 エーヴィンは西門と東門に配備されている部隊はどうなっているのか魔族兵に問う。やはり彼女たちも南から敵が攻めてきた時は西と東から戦力を送って袋叩きにしようと考えていたようだ。

 魔族兵は複雑そうな顔をしながらエーヴィンの方を向き、魔族兵の反応に気付いたパメテリアたちは目を細くして魔族兵を見つめる。


「そ、それが、西と東に架けられている橋は破壊され、対岸に渡れなくなっております」

「何ですって!?」


 橋が破壊されたという報告を聞いたエーヴィンは驚愕し、パメテリアとケルディも驚きのあまり言葉を失ってしまう。彼女たちもセルフストの町の橋が強固だということは知っているため、その橋が破壊されてしまったと聞かされ驚きを隠せずにいた。


「どういうことですの!? あの橋は最上級魔法でも使わない限り破壊することは不可能なはずですわ!」

「お前、テキトーなこと言ってんじゃねぇだろうな?」


 ケルディが険しい顔で魔族兵を睨むと、魔族兵は慌てて首を横に振った。


「と、とんでもありません! 私も最初は信じられませんでしたが、報告してきた者の様子から、嘘を言っているようには見えませんでした」


 魔族兵はケルディにしっかりと報告していることを伝える。どうやら彼は西門、もしくは東門の橋が破壊されたのを直接見た訳ではなく、その光景を見た者から話を聞いてそれをパメテリアたちに伝えに来たようだ。

 パメテリアたちは魔族兵の話を聞いて未だに信じられないような顔をしている。だが、轟音を聞き、西門と東門から煙も上がっているのを目にしてるため、本当かもしれないと考えてしまう。


「……エーヴィン、アンタはどう思ってる?」

「そうですわね……もしかすると、本当に橋が破壊されているかもしれないと思っていますわ。念のため、この屋敷にいるわたくしの部隊とケルディちゃんの部隊の兵士を数人、確認に向かわせましょう」


 口では破壊されているかもと言うエーヴィンだが、やはり話を聞くだけでは信じられず、部下を門に送り込んで確認に向かわせようと考え、パメテリアはそうしろ、と言いたそうに頷く。ケルディは面倒くさそうな顔をしながら腕を組んでいた。

 門の確認に向かわせることが決まると、パメテリアは黙って立っている魔族兵の方を向く。魔族兵はパメテリアと目が合うと緊張したのか姿勢を正した。


「西門と東門の橋が本当に破壊されているかどうかは分かんないけど、南門が襲撃されていることは確かよ。町中の部隊に南門へ向かうよう指示を出しなさい。待機させている悪魔たちもね」

「わ、分かりました」


 魔族兵は返事をすると慌てて部屋から出ていき、仲間たちにパメテリアの指示を伝えに向かう。

 パメテリアは魔族兵が出ていくと、部屋の隅へ移動して机の上に置かれてある剣を佩し、赤いハンチング帽のような帽子を被った。


「あら? どうしましたの、武装なんてして?」

「念のため、戦う準備くらいしておこと思ってね」

「はあ? 何言ってやがるんだ。戦う準備するとか、まるで敵が門を突破して町に侵入してくる可能性があるみてぇじゃんか」

「私はそう思ってるわ」


 チラッとケルディの方を見てパメテリアは低い声を出す。パメテリアの顔を見たケルディとエーヴィンは一瞬驚いたような顔をするが、すぐに真剣な表情を浮かべてパメテリアを見つめた。


「もしも本当に西門と東門が破壊されていたのなら、敵の中には橋を破壊するだけの力を持った存在がいるってことよ。そんな奴がいるとなると、下級の悪魔や他の兵士だけじゃ荷が重いわ。門を突破されて此処まで攻め込んでくるかもしれない、指揮官である私も前線に出て戦う必要があるかもしれないでしょう?」

「……お前にしちゃあ、珍しく用心深いじゃねぇか」

「私はいつも用心深いわよ」


 パメテリアの言葉にケルディはどうだか、と言いたそうな顔をしながら鼻を鳴らす。エーヴィンは門を突破されるかもしれないというパメテリアの考えに一理あると感じ、納得したような顔をしている。


「確かに戦いに絶対はありませんわね。わたくしたちの予想もしていない出来事が起き、戦況が大きく傾くことは十分あり得ますもの」

「そういうことよ。だから私は何が起きてもすぐに戦えるよう、戦いの準備をしておくことにしたの」

「……では、わたくしたちも念のために臨戦態勢に入っておきましょう」

「ケッ、メンドクセェけど、仕方ねぇか」


 エーヴィンがパメテリアと同じようにすると聞いたケルディは面倒くさそうな顔で後頭部を掻く。


「とりあえず、わたくしとケルディちゃんは西門と東門の状況を確認してくるよう、自分たちの部隊に指示を出してきますわ」

「そうしてちょうだい……あっ、ちゃんと武装させてから門に向かわせてよ?」

「分かってますわ」

「それと西門と東門に着いたら、防衛部隊に念のために対岸を警戒するよう伝えておいて。もしかすると、南門を攻撃している部隊が囮で、西門と東門を攻撃するための伏兵が出てくるかもしれないから」

「了解ですわ」


 指示を受けたエーヴィンは部屋を出ていき、ケルディもその後に続いて部屋を後にする。一人残ったパメテリアはバルコニーから外を投げめ、南門を見ながら舌打ちをした。


「人間相手に先手を打たれるなんて、とんでもない屈辱だわ……見てなさいよ人間たち、返り討ちにしてこの町に攻め込んだことを後悔させてやる」


 マルゼント王国軍に対する闘志を燃やし、パメテリアはマルゼント王国軍に対する怒りを口にした。

 その頃、パメテリアの部屋を出たケルディとエーヴィンは薄暗い廊下を歩いていた。二人の足音を静かな廊下に大きく響いている。


「ったく! パメテリアの奴、相変わらず偉そうにしやがって」

「まあまあ、あの子は指揮官としては優秀なのですから、そう言わないで従ってあげましょう? 腐れ縁ということもありますしね」

「チッ! ……ところでお前、本当に人間軍が西門と東門の橋を破壊したって思ってんのか?」


 ケルディは歩きながら隣にいるエーヴィンに橋が破壊されたことを信じているのか尋ねる。するとエーヴィンは笑顔を消し、前を見ながら口を開いた。


「……部屋に来た兵士が破壊されたと言っていましたからね、可能性は高いでしょう」

「だけどよぉ、あの兵士は報告に来た別の兵士から聞いたって言ってたんだぜ? その兵士が嘘ついてるかもしれねぇじゃねぇか」

「嘘、というのはちょっと可哀そうですわ。せめて見間違いと言ってあげましょう」


 エーヴィンがチラッとケルディを見ながら問うと、ケルディは鼻を鳴らす。戦場にいるのに味方に嘘をついても作戦実行の妨害や仲間を混乱させるだけで何の得もない。寧ろ嘘をついたことで軍法会議に掛けられる可能性があるため損するだけだ。今回のような場合は報告した者は嘘をついたのではなく、見間違いをしたと考える方が正しいだろう。

 本当に橋の破壊されたのか分からず、苛立ちがケルディの顔に出てくる。そんなケルディの顔を見たエーヴィンは小さく溜め息をついた。


「とにかく、それを確かめるためにも急いで数人を確認に向かわせますわよ?」

「チッ、分かったよ。もしこれが嘘だったら報告した奴を八つ裂きにしてやる」


 そんなことを話しながらケルディとエーヴィンは自分の部隊に指示を出すため、長い廊下を歩いて行く。


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