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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百五十二話  エン村解放作戦


 エン村の中は突然襲撃を受けたことで大騒ぎになっている。マルゼント王国軍を押している現状で自分たちが襲撃されるとは全く予測していなかったのか、魔族兵たちはかなり混乱していた。

 魔族兵の中には武具を整える者、状況を確認しようとする者、悪魔族モンスターたちに指示を出す者などがおり、村の中を走り回っている。しかし、混乱しているせいか思うように行動することができずにいた。


「状況確認はまだなのか!?」


 エン村の中に建てられている一軒家、その中では数人の魔族兵が机を囲んでおり、指揮官と思われる魔族が周りにいる魔族兵たちを見ながら声を上げる。他の魔族兵たちは複雑そうな顔をしながら指揮官を見ていた。

 指揮官は金色の短髪をし、騎士の鎧を身に付けた三十代半ばくらいの男だ。彼も突然の奇襲に驚いており、若干混乱しながらも現状の確認を急いでいた。


「現在確認できているのは、村の南にある林から見たことのない大型のモンスターが長距離攻撃を仕掛けているということぐらいです」

「モンスターが長距離攻撃だと?」

「ハイ、我々がいるこの村を正確に狙った攻撃だと、見張りから報告を受けています」

「正確な狙い……」


 魔族兵からの報告を聞き、指揮官は俯きながら呟く。自分たちがいる村をモンスターが遠くから狙って攻撃してくる、まるでそのモンスターが自分たちを倒すために攻撃してきているようだと指揮官は感じていた。


「……おい、そのモンスターたちは南にある林から現れたのだな?」

「え? ハ、ハイ」


 指揮官は魔族兵の返事を聞くと、慌てて近くにある地図を取って広げた。地図には今魔族軍がいるエン村を中心に村の周辺が細かく描かれており、指揮官はモンスターが現れた林の位置を確認する。そして、その林から更に南に行った所にマルゼント王国軍の最終防衛線であるマララムの町があることに気付く。

 マララムの町とモンスターが現れた林の位置を確かめた指揮官は何か重要なことに気付いたかのように目を見開き、指揮官を見ていた魔族兵たちは不思議そうな顔で彼を見ていた。


「……もしや、現れたモンスターたちは人間軍が操っているのかもしれん」

「なっ、人間どもがモンスターを?」

「あり得ません。我々魔族ならともかく、人間のような下等種族が長距離から正確な攻撃を行えるほど強力なモンスターを操るなど……」


 魔族兵たちは指揮官の顔を見ながら迷わずに否定する。黙っている他の魔族兵たちもそのとおり、と言いたそうに頷く。

 人間よりも力があり、頭も良く寿命も長い自分たちは間違いなく人間よりも優秀な種族であると魔族兵たちは確信していた。そのため、自分たちよりも劣る人間が強力なモンスターを操り、自分たちを攻撃してきているなどと絶対にあるはずがないと思っているのだ。


「人間を甘く見ない方がいい。人間の中にも英雄級の実力を持つ者がおり、そう言った者たちであれば強力なモンスターを操ることも可能なのだ」

「で、ですが……」

「それにモンスターたちが現れた林から更に南に移動した先には人間軍の拠点となっている町がある。もし、その町の人間軍が北に向かって進軍し、その林からこの村を攻撃しているのであれば、十分説明がつく」


 魔族兵たちが見つめる中、指揮官は地図に描かれているマララムの町を指差しながら言った。魔族兵たちは納得できないが、現に今、自分たちの知らないモンスターが人間たちの拠点がある方角から攻撃を仕掛けているため、絶対にあり得ないという自信が僅かに揺らぎ始めている。

 押されていたマルゼント王国軍が反撃してきたのかもしれない、魔族兵たちは地図を見ながら僅かに表情を歪ませる。すると、今度は魔族兵の一人が何かに気付いたように目を見開いて視線を指揮官に向けた。


「……ちょっと待ってください。マララムの町には我が部隊の戦力とドゥン村の戦力が町を制圧するため向かっています。それなのに人間軍の拠点がある方角から人間が操っているかもしれないモンスターが攻撃してきたということは……」

「ああ……想像したくないが、その制圧部隊が壊滅した可能性がある、ということだ」


 指揮官が呟くと、その場にいた魔族兵たちは一斉に驚愕の表情を浮かべる。驚くのは当然だ、送り込んだ部隊はマララムの町を確実に制圧するために千を超える戦力で編成された。その部隊がマルゼント王国軍に敗れて壊滅したかもしれないと言われれば驚かない方がおかしいと言える。


「そんな馬鹿な、情報ではあの町にいる人間軍の戦力は三百から四百ほど、千を超える我が軍の部隊が負けるなど――」

「報告します!」


 魔族兵が喋っていると、一人の魔族兵が叫ぶように声を上げながら部屋に入り、指揮官は魔族兵たちは驚きながら飛び込んできた魔族兵の方を向く。


「どうしたのだ?」

「さ、先程、南の林から人間軍の兵士たちがこちらに向かって突撃してくるのが見えたと、状況確認をしていた者から報告が……」


 飛び込んできた魔族兵たちの報告を聞いて指揮官と魔族兵たちが目を見開きながら驚く。制圧部隊が壊滅したかもしれないという予想が現実に変わったことを知り、指揮官は拳を震わせる。魔族兵たちも自分たちの知らない間に制圧部隊が壊滅していたことを知って大きな衝撃を受けた。


「まさか、本当に制圧部隊は壊滅していたとはな……それで、攻め込んできた人間軍の戦力は?」


 指揮官は悔しさを押し殺し、報告に来た魔族兵にマルゼント王国軍の規模を尋ねる。声を掛けられた魔族兵は僅かに緊迫したような顔をしながら指揮官の方を向いた。


「か、確認した者によると、マルゼント王国の兵士と騎士、魔法使いが合計で二百人以上、あと、これまで見たことのない二種類の騎士の姿があるとのことです」

「見たこのとない騎士? 人間軍の精鋭部隊か?」

「詳しくは分かりませんが、これまで遭遇してきた兵士や騎士と違い、かなり強力な武具を装備しているようです」

「強力な武具を……」


 魔族兵から敵の情報を聞いた指揮官は俯きながら難しい顔をする。今までの戦闘と一度も姿を現さなかった騎士たちは何者なのか、もしかするとマルゼント王国軍の最後の切り札なのか、様々な疑問が指揮官の頭の中に浮かぶ。

 しかし、今回初めて遭遇した敵のことをいくら考えても分かるはずがなく、指揮官は頭を悩ませた。だが、一つだけハッキリしていることがあり、指揮官は顔を上げて報告に来た魔族兵を見る。


「その騎士たちが何者であろうが、私たちの敵であることに変わりはない。悪魔を動かして人間軍を迎え撃て! 休息を取っている者たちも出せ」

「ハッ!」


 指示を受けた魔族兵たちは力強く返事をしながら部屋を出ていき、魔族兵たちが去ると指揮官は最初から部屋にいた魔族兵たちを見た。


「私たちもいつでも戦えるように急いで装備を整えるぞ!」

『ハイ!』


 魔族兵たちは一斉に走って部屋を後にし、残った指揮官は窓から外の様子を窺い、村の外側で爆発が起きたのを確認すると悔しそうな顔をしながら部屋を出ていった。

 林を飛び出したマルゼント王国軍の兵士と騎士は声を上げながら丘を下り、エン村へと向かう。既にマルゼント王国軍は村の300mほど手前まで近づいており、このまま魔族軍の迎撃が無ければ村に突入できると兵士たちは思っていた。

 だが、そんなに都合よくことが運ぶわけがない。エン村の中から大量の悪魔族モンスターを現れ、マルゼント王国軍に向かって行く。魔族軍もまだ完全に迎撃態勢が整ったわけではないが、時間を稼ぐために悪魔族モンスターをぶつけることぐらいはできるようだ。

 マルゼント兵たちは村から現れた悪魔族モンスターたちに驚いたが、エン村の手前まで近づくことができたからか士気が低下することはなく、そのまま悪魔族モンスターたちに突撃する。

 両軍がぶつかると、平原のあちこちでマルゼント兵と悪魔族モンスターの戦闘が始まる。マルゼント兵や騎士は剣や槍を使ってヘルハウンドやマッドスレイヤーを倒していき、魔法使いたちは後方から魔法を放って支援攻撃を行う。マルゼント王国軍は次々と悪魔族モンスターを倒していくが、魔族軍も負けずと反撃し、マルゼント兵たちを一人ずつ確実に倒していく。

 

「単独で戦うな、近くの仲間と固まって戦うんだ!」


 目の前のマッドスレイヤーを倒したマルゼント騎士は周りにいるマルゼント兵たちに大きな声で語り掛け、それを聞いた兵士たちは言われたとおり近くにいる仲間の兵士と合流して悪魔族モンスターと戦う。既に何度も魔族軍と戦っているため、悪魔族モンスターたちとどう戦えばいいのかコツを掴んでいるようだ。

 マルゼント兵たちが悪魔族モンスターと戦っている光景を見たマルゼント騎士は自分も負けていられないと考えながら騎士剣を構え直す。すると、右側にいた一人のマルゼント兵が突然倒れ、それに気付いたマルゼント騎士はマルゼント兵の方を向く。そこには黒いハーフアーマーと剣を装備した一人の魔族兵の姿があった。

 魔族兵はマルゼント騎士と目が合うと不敵な笑みを浮かべながら剣を構え、マルゼント騎士はマルゼント兵を殺したのは目の前の魔族兵で間違いないと感じ、騎士剣を構えながら魔族兵を睨む。


「何だ、次はお前が俺の相手をしてくれるのか?」

「仲間を殺した者を前にして引き下がるなど、騎士としてあってはならないからな」

「ハッ、こんな雑魚のために戦いを挑むとは、人間の騎士って言うのは意外と馬鹿なんだな」


 鼻で笑いながら魔族兵は自分が殺したマルゼント兵の死体を蹴り、その光景にマルゼント騎士の表情は更に険しさを増す。だが、怒りで冷静さを失えば戦いで不利になるため、マルゼント騎士は必死に耐えながら騎士剣を強く握る。


「まあ、お前らが馬鹿なことはこの際どうでもいい。こっちを出し抜いて奇襲を仕掛けてくれた礼をさせてもらうぞ」


 そう言って魔族兵は剣を持っていない方の手を軽く振って何かの合図を出す。すると、魔族兵の後ろからの二体のブラックギガントが現れてマルゼント騎士を睨み付ける。どうやら先程の合図はブラックギガントを呼び出すものだったようだ。

 マルゼント騎士は現れた二体のブラックギガントを見ながら歯を噛みしめ、視線を自分を見ながら笑う魔族兵に向けた。


「悪魔たちを使って戦うとは卑怯な!」

「フン、やっぱり人間は馬鹿だな。殺し合いに卑怯もくそもあるか。勝てばいいんだよ、どんな手を使ってもな」

「クッ、外道が!」


 勝つためなら手段を択ばないという魔族兵の騎士道に反する考えにマルゼント騎士ははらわたが煮えくり返るような気分になった。

 マルゼント騎士が魔族兵を睨んでいるとブラックギガントたちはゆっくりとマルゼント騎士に近づく。魔族兵の卑劣さに怒りを感じるマルゼント騎士だったが、今は目の前の敵を何とかすることが重要だと考え、近づいて来るブラックギガントに集中した。

 二体のブラックギガントがマルゼント騎士に近づき、その内の一体が右腕を引いてマルゼント騎士にパンチを撃ち込もうとする。その光景を見た魔族兵はニヤリと笑みを浮かべた。

 だが次の瞬間、二体のブラックギガントの胸部が横から切られ、切傷から血が噴き出る。いきなりブラックギガントに切傷ができたのを見てマルゼント騎士と魔族兵は驚く。そして、切られた二体のブラックギガントはそれぞれ左右に倒れ、そのまま動かなくなった。

 何が起きたのか分からないマルゼント騎士が周囲を確認すると、自分の後ろにハルバートを横に構える巨漢騎士の姿があり、それを見たマルゼント騎士はブラックギガントを倒したのは巨漢騎士だと知る。同時に目の前の巨漢騎士はブラックギガント二体を簡単に倒せるほどの力を持っているのだと知った。


「加勢、感謝する。ビフレスト王国の騎士殿」


 力を貸してくれた巨漢騎士にマルゼント騎士は笑いながら礼を言う。だが、巨漢騎士はマルゼント騎士の礼に何の反応もせず、無言で魔族兵の方へ歩いて行く。マルゼント騎士はそんな巨漢騎士をキョトンと見ていた。

 巨漢騎士はゆっくりと魔族兵に近づいて行き、魔族兵は無言で近づいて来る巨漢騎士を見て僅かに不気味さを感じていた。


「何だお前、俺とやる気か?」


 魔族兵は剣を構えながら巨漢騎士を睨み付ける。しかし、巨漢騎士はマルゼント騎士に礼を言われた時と同様、反応せずに無言で歩き続けた。


「……お前、どうやってブラックギガントどもを瞬殺したかは知らねぇが、たかが中級の悪魔を倒したくらいで魔族の俺に勝てると思……」


 険しい顔をしながら魔族兵が声を上げていると、巨漢騎士は魔族の言葉を最後まで聞かずにハルバートを横に振って魔族兵の首を刎ねた。

 魔族兵の頭部は地面を転がっていき、頭部を失った胴体は首から血を噴き出しながら崩れるように倒れる。迷いなどを見せずに敵の首を刎ねる巨漢騎士の恐ろしい姿を見たマルゼント騎士は思わず悪寒を走らせた。

 巨漢騎士は魔族兵を倒すと、次の敵を探すためにすぐにその場を移動する。マルゼント騎士は歩き去る巨漢騎士の姿を呆然と見つめていた。


「て、敵が喋っている最中に斬るとは、なんと容赦のない……」


 微量の汗を掻きながらマルゼント騎士は離れていく巨漢騎士の後ろ姿を見つめる。すると、今度は後ろから大きな鳴き声が聞こえ、マルゼント騎士は素早く振り返った。そこには二体にブラッドデビルを相手に剣を構える黄金騎士の姿があり、その足元にはブラッドデビルの死体が転がっている。

 マルゼント騎士は黄金騎士がブラッドデビルと戦っている光景を見て、先程の鳴き声は倒れているブラッドデビルが黄金騎士の攻撃された時に出したものだろうと考える。そんな中、ブラッドデビルの一体が右手を上げ、鋭い爪で黄金騎士に攻撃を仕掛けた。

 黄金騎士はブラッドデビルの攻撃をラウンドシールドで防ぐと素早く持っている剣でブラッドデビルに反撃する。剣はブラッドデビルの体に大きな傷を付け、それと同時にブラッドデビルの体を強烈な電撃が襲い、ブラッドデビルの体内を焼き尽くす。

 体中に走る痛みにブラッドデビルは鳴き声を上げ、電撃が治まると口や体から煙を上げて崩れるように倒れた。仲間がやられた光景を見てもう一体のブラッドデビルは僅かに驚きの反応を見せる。黄金騎士は驚いているブラッドデビルに袈裟切りを放ち、残りの一体も簡単に倒した。そして黄金騎士は巨漢騎士と同じように次の敵を探しに移動する。


「……下級悪魔と言えど、ああも簡単に倒すとは。しかもあの黄金の騎士が使っていた剣、敵を斬った時に電撃を走らせた……まさか、魔法の武器か?」


 黄金騎士が使っていた剣が魔法武器であるかもしれないと感じたマルゼント騎士は僅かに目を見開く。すると、もしやと思い、周囲を見回して他の黄金騎士の戦いを確認する。

 周囲にいる黄金騎士たちは様々な武器を使って魔族兵は悪魔族モンスターと戦っている。刺した箇所を凍らせる槍、斬った敵を炎で焼き尽くす戦斧、斬った敵の体を真空波で切り裂く大剣など、明らかに普通ではない武器を所持していた。

 マルゼント騎士は黄金騎士が全員魔法武器を使用していると知り、驚きの表情を浮かべる。魔法研究に優れたマルゼント王国でも僅かな魔法武器しか所有していないのに、ビフレスト王国は大量の魔法武器を所有しているのだから驚くのは当然だ。しかも黄金騎士は皆強く、一人も倒れずに敵を倒しているのだから更に驚いていた。


「あれほどの数の魔法武器を所有し、更に強力な騎士たちに与えているとは……」


 魔法の武器を所持する騎士を大量に持つビフレスト王国の軍事力にマルゼント騎士は僅かに震えた声を出す。そんなマルゼント騎士の近くに何かが落下し、マルゼント騎士は驚いて落ちて来た物を見る。それは体中に傷を負ったビーティングデビルの死体だった。

 死体を見たマルゼント騎士がフッと頭上を確認すると、大量のモンスターが悪魔族モンスターたちと空中で戦っている光景が目に飛び込んできた。


「あれは、ダーク陛下がお連れした飛行モンスターか……」


 今まで地上の敵と戦うことに集中して頭上の戦いに気付かなかったマルゼント騎士は目を見開いて空を見上げる。空中でも地上ほどではないが、激しい戦いが繰り広げられていた。

 空を飛ぶブラッドデビルやビーティングデビル、オックスデーモンを相手に薄い青と紺色の体をしたダークグリフォン、前肢に鎌状の爪を付けた死神トンボ、そして黄土色の肌、鳥の頭と翼を持つ人型のモンスターが激しい攻防を繰り広げている。他にも多種モンスターがおり、悪魔族モンスターたちと戦っていた。

 ダークが連れてきたモンスターの内、ダークグリフォンと死神トンボは以前召喚したモンスターだが、鳥の顔を持つ人型のモンスターは今回の戦争のために召喚した新しいモンスターだ。

 新しく召喚したモンスターは怪鳥人と言い、空中だけでなく地上でも人間のように手足を使って戦うことができるという応用性がある。今回、未知の存在である魔族軍と戦うため、ダークは応用性の高い怪鳥人を召喚したのだ。

 モンスターたちが空中で戦う中、怪鳥人は翼を広げて悪魔族モンスターたちの突撃し、一番近くにいたブラッドデビルの顔面を左手で引っ掻く。引っ掻きを受けたブラッドデビルは反撃しようとするが、その前に怪鳥人が右手の爪でブラッドデビルの喉を切り裂き、反撃される前にブラッドデビルを倒した。

 怪鳥人がブラッドデビルを倒したのを合図にしたかのように、近くにいた三体の死神トンボも悪魔族モンスターに迫り、鎌状の爪で次々と悪魔族モンスターを倒していく。

 死神トンボたちが悪魔族モンスターを倒していくと、離れた所で飛んでいたオックスデーモンが死神トンボの一体に近づき、骨の斧で攻撃しようとする。だが、右側からダークグリフォンが現れ、オックスデーモンに体当たりをして死神トンボへの攻撃を止めた。


「邪魔をするな、人間に飼いならされた獣どもがぁ!」


 オックスデーモンは魔族に支配されているという自分の立場を棚に上げてダークグリフォンや他のモンスターたちを侮辱する。しかし、ダークグリフォンたちはオックスデーモンの言葉を気にすることなく戦いを続けた。

 ダークグリフォンはオックスデーモンに向かって翼をはばたかせる。すると、左右の翼から真空波がオックスデーモンに放たれ、オックスデーモンの右腕と左足に傷を付けた。


「グウッ! け、獣のくせに魔法を……」


 オックスデーモンはダークグリフォンが魔法を使うとは全く予想していなかったのか、かなり動揺している。そんなオックスデーモンの背後に一体の死神トンボが回り込み、鎌状の爪で攻撃した。

 鎌状の爪はオックスデーモンの背中に十字の傷を付け、同時に悪魔の翼も切り落とす。翼を失ったオックスデーモンは声を上げながら落下していき、ダークグリフォンたちは落下するオックスデーモンを無視して周りの敵への攻撃を再開した。

 落下したオックスデーモンは大きな音を立てながら地面に叩きつけられる。しかし、背中を切られ、落下した程度では死なないのか、オックスデーモンはゆっくりと起き上がった。そんなオックスデーモンに巨漢騎士が近づき、巨漢騎士に気付いたオックスデーモンは咄嗟に斧で攻撃を仕掛ける。

 巨漢騎士はオックスデーモンの斧を持っているタワーシールドで防ぐと、ハルバートを勢いよく縦に振る。すると、ハルバートの刃から真空波が放たれ、オックスデーモンの頭部を真っ二つにした。

 頭部が割れたオックスデーモンは仰向けに倒れて動かなくなり、オックスデーモンを倒した巨漢騎士はすぐに移動する。それを見たマルゼント騎士は目を丸くしながら驚いていた。


「騎士たちだけでなく、モンスターまでこれほどの力を持っているとは……ビフレスト王国は一体どれほどの力を持った国なのだ……」


 巨漢騎士と黄金騎士、モンスターまでもが強大な力を持っていると知り、ビフレスト王国はどれ程の軍事力を持っているのかマルゼント騎士疑問に思う。同時にビフレスト王国が自分たちの味方でよかったと安心するのだった。

 ビフレスト王国の軍事力に驚くマルゼント騎士に二体のヘルハウンドが迫ってくる。ヘルハウンドに気付いたマルゼント騎士は、今はエン村を解放することに集中しようと気持ちを切り替え、騎士剣を構えながらヘルハウンドに向かって走り出す。

 エン村の中央にある広場では十数人の武装をした魔族兵が隊列を組んで集まっており、前線、つまり村の外からの報告を待っている。魔族兵の中には指揮官の姿もあり、黒い槍を地面に刺し、盾を背負って丸椅子に座っていた。

 隊列を組む魔族兵たちの周りにはブラックギガントと紺色のローブを纏った山羊頭の悪魔、デーモンメイジが三体ずつ、魔族兵たちを護衛するかのように待機している。そして、魔族兵たちの後ろには大量の下級の悪魔族モンスターたちが控えていた。


「今前線はどうなっている? 人間軍を押し返せているのか?」

「分かりません、偵察兵を何人か送り、細かく情報を集めさせてはいますが、まだ一人も戻って来ておりません」


 指揮官の隣に立っていた魔族兵が情報がまだ何も手に入っていないことを伝え、指揮官は悔しそうな顔で俯きながら膝の上に乗せている手を強く握った。後ろで控えている魔族兵たちも不安そうな顔で隣に立つ仲間と顔を見合わせている。


「情報が無ければ思うように動くことができん。あと数人偵察兵として前線へ送り込め。それと、動ける悪魔も増援として前線に向かわせるんだ」

「分かりました」


 魔族兵は指揮官の指示に従って偵察を行う魔族兵、悪魔族モンスターを前線へ向かわせようとする。すると、指揮官たちの下に一人の女魔族兵が駆け寄ってきた。

 女魔族兵の姿を見た指揮官と仲間の指示を出そうとしていた魔族兵はフッと反応する。駆け寄ってきた女魔族兵は情報収集をするために前線へ送った偵察兵の一人で、指揮官は前線の情報を持ち帰ってきたと感じた。

 走る女魔族兵は指揮官の前で立ち止まる。だが、その表情は焦りと緊迫が一つになったような表情で、女魔族兵の顔を見た指揮官と魔族兵は嫌な予感がした。


「ほ、報告します! 前線に送られた我が軍の戦力は六割近くが倒され、人間軍は破壊された入口からこの村へ侵入しました」

「何だとっ!」


 女魔族兵の報告を聞いた指揮官は思わず立ち上がり、隣にいた魔族兵や隊列を組んでいた魔族兵たちも目を見開いて驚く。

 前線にはかなりの数の悪魔族モンスターと魔族兵を送り込んでおり、簡単に負けるような戦力ではなかった。その戦力の六割近くが壊滅したと聞けば誰だって驚く。現に指揮官も女魔族兵からの報告内容が未だに信じられずにいた。


「前線には二百近くの戦力を送ったはずだ。それが倒された上に村への侵入を許しただと? ちゃんと確かめたのか?」

「ま、間違いありません。敵の中に強力な騎士たちがおり、ブラックギガントのような中級の悪魔も難なく倒していました。村に侵入されたのも、この目で……」


 女魔族兵の話を聞いた指揮官は情報に間違いは無いと悟り、奥歯を噛みしめる。その表情からは焦りが見え、このままでは間違いなく魔族軍が敗北すると考えていた。


「村に侵入した人間軍は悪魔たちを倒しながら進軍しております。このままでは、いずれこの広場に辿り着くかと……」


 僅かに低い声を出しながら女魔族兵は語り、それを聞いた指揮官はこれからどう行動すればよいか考える。そして、答えが出ると隣にいた魔族兵の方を向いた。


「怪我人など、動けない者を除く全員を動かせ。この町に存在する全ての戦力をぶつけて人間軍を撃退する!」

「ハ、ハイ!」


 指示を受けた魔族兵は走って村の奥へ向かい、広場にいない魔族兵や悪魔族モンスターに出撃を命じに行く。村への侵入を許してしまった以上、全戦力をぶつけて戦うしかないと指揮官は決断したようだ。

 魔族兵が移動したのを確認した指揮官は隊列を組んでいる魔族兵たちに方を見て表情を鋭くした。


「いいか、この村を落とされたら人間軍がジンカーンヘ町へ進軍するのを許すことになる。何が何でも死守するんだ!」


 指揮官の叫ぶような言葉を聞き、その場にいた魔族兵たちは一斉に声を上げる。オックスデーモンやデーモンメイジは何も言わずに黙って指揮官と魔族兵たちを見つめていた。

 魔族兵たちの士気が高まり、指揮官は敵を迎え撃つために準備に入ろうとする。すると、突然指揮官の背後で大きな爆発が起こり、指揮官や魔族兵たち、悪魔族モンスターたちは一斉に爆発した方を向いた。

 爆発があった方角からは大勢の黄金騎士とマルゼント王国の兵士が走って来るのが見え、黄金騎士たちは広場に入ると指揮官と魔族兵たちの数十m手前で停止し、武器を構える。指揮官と魔族兵たちも村の中央まで攻め込んできた黄金騎士たちを睨みながら武器を構え、両軍は広場の中で睨み合う。

 広場にいる戦力ではマルゼント王国軍よりも魔族軍の方が多いが、マルゼント王国軍には多くの黄金騎士がおり、数で劣っていても戦力では魔族軍に勝っている。だが魔族軍はそのことに気付いておらず、数で押し切れると感じていた。


「ようやく村の中央に辿り着いたか」


 両軍が睨み合っていると、黄金騎士とマルゼント兵たちの後ろから大剣を肩に担いだダークが姿を現す。その後ろをダンバが若干緊張したような顔をしながらついて行き、二人は黄金騎士たちの前で立ち止まり、離れた所にいる魔族軍を見つめた。

 指揮官は突然現れた漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーの騎士と魔法使い風の姿をしたティガーマンを見ながら地面に刺してある槍を抜き、背負っていた盾を構えた。周りにいる魔族兵たちも武器を構えながらダークとダンバを睨んでいる。

 ダークは周囲にいる魔族と悪魔族モンスターを見回すと、肩に背負っている大剣を下ろしながら前に出て目を薄っすらと赤く光らせた。


「この中に魔族軍の指揮官はいるか? いるのなら前に出ろ」


 自分の前に姿を見せるよう要求するダークに指揮官は反応する。いきなり出て来いと言い出すダークを見て、指揮官は何か考えているのだと疑問に思う。

 だが、ダークの冷静な態度と姿から、マルゼント王国軍の指揮官、もしくは部隊長か何かではないかと感じ、そんな人物が一人敵の前に出てきたのだから、戦士として自分も前に出るべきかもしれないと考える。指揮官は槍と盾を持ったままゆっくりと前に出た。


「私がこの村に駐留する魔族軍の指揮を任されている者だ。何用か?」

「お前が指揮官か……単刀直入に言う。武装を解除し、投降しろ」

「何?」


 いきなり投降を要求され、指揮官は僅かに目を鋭くする。後ろにいる魔族兵たちもダークを見て気に入らなそうな顔をしていた。突然前に出て投降するよう言われれば気分を悪くしてもおかしくない。


「既に我々は村の外にいる魔族軍の兵士、悪魔の半数以上を倒した。村の中にいる敵も多くを倒し、魔族軍の戦力は残り僅かだ。これ以上戦ってもお前たちに勝つ目は無い、無駄な犠牲者を出す前に投降しろ」


 多くの魔族兵と悪魔族モンスターを倒し、村にも突入している、現状ではもう魔族軍に勝ち目は無いと判断したダークは少しでも犠牲者を減らすために指揮官に投降させようとしていたのだ。これはマルゼント王国を侵略し、犠牲者を出した魔族軍に対するダークからの慈悲と言えた。

 指揮官は目を鋭くしたままダークを見つめており、心の中ではこの黒騎士は馬鹿ではないかと感じている。

 確かに多くの仲間を倒され、村にまで突入されており、傍から見れば魔族軍が不利と言えるだろう。だが、戦力ではまだマルゼント王国軍に勝っており、村に入られたからと言って諦めるのはおかしい。僅かでも勝ち目ががある以上、魔族たちは負けを認めるつもりは無かった。


「断る、こちらにはまだ多くの兵と悪魔がいるのだ。村に侵入されたからと言って負けを認めるほど我々は愚かではない」

「やめておけ、これ以上戦ってもそっちの犠牲が増えるだけだ」

「フン、今まで敗北を続けていた人間にそんなことを言う資格があるとは思えないな」


 過去のマルゼント王国軍の敗北を指揮官は低い声で語り、それを聞いて魔族兵たちは小馬鹿にするように笑う。魔族兵たちの反応を見たダンバやマルゼント兵たちは悔しそうな表情を浮かべた。

 ダンバたちが悔しがっていると、ダークは大剣の切っ先を魔族兵たちに向け、構えるダークを見た指揮官は咄嗟に足の位置をずらして警戒した。しかし、ダークは切っ先を向けるだけで何もせず、指揮官はダークを警戒しながらゆっくりと構えを解く。


「確かにマルゼント王国は負け続けだった。だが、私たちが加わった以上、もうマルゼント王国に敗北は無い」

「随分な自信だな。それにその言い方、まるでマルゼント王国の人間ではないような言い方だ……貴公はいったい何者だ?」

「お前如きに名乗る名は無い」

「……そうか。ならこの戦いに勝利し、貴公を捕らえた時に聞き出すまでだ」


 そう言って指揮官は槍先をダークに向け、ダークは指揮官を見て深く溜め息をつきながら大剣を下ろす。


「あくまでも戦う道を選ぶか……愚かな」


 力の差が理解できず、勝てると思っている指揮官を見たダークは哀れに思いながら呟く。 


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