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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百五十一話  魔族軍への反攻


 雲が僅かに見える青空、その下に広がる草原をマルゼント王国軍の部隊が北に向かって移動していた。

 先頭には馬に乗ったダンバ、その後ろには同じく馬に乗っているダーク、アリシア、レジーナの姿があり、その後をマルゼント王国の兵士と魔法使いたちが隊列を組んでついて来ている。そして、兵士と魔法使いたちの後ろにはビフレスト王国の黄金騎士と巨漢騎士たち、砲撃蜘蛛とストーンタイタンが二体ずつ、数十体のモンスターの姿があった。

 マララムの町で部隊編成を終えた後、ダークたちはジンカーンとセルフストの町を解放する為に北へ進軍した。しばらくは全員で行動していたが、途中でエン村とドゥン村に向かうための分かれ道に差し掛かり、そこで部隊を二つに分け、それぞれエン村とドゥン村に向かったのだ。

 エン村に向かう部隊の指揮はダンバが執り、ダーク、アリシア、レジーナが同行。ドゥン村を目指す部隊はモナが指揮官となり、ノワール、ジェイク、マティーリア、ファウが同行している。別れる時に誰がどちらの部隊に同行するかでかなり時間を掛けたようだが、話し合いの結果、今の編成で進軍することとなった。


「ダーク陛下、このペースですと、あと一時間ほどでエン村が辿り着くと思われます」

「そうか」

「場合によっては、村に到着した直後に戦闘になる可能性がありますので、お気を付けください」

「分かった、いつでも戦えるよう準備しておく」


 ダンバの忠告にダークは低い声で返事をし、ダンバはダークの方を見ながら、お願いします、と軽く頭を下げてから前を向く。

 ダークの隣にいるアリシアはダンバの話を聞いて少しだけ目を鋭くした。エン村に辿り着いたらすぐに魔族軍との戦闘が始まる可能性があると聞き、彼女も気を引き締めているらしい。一方でレジーナは問題は無いと思っているのか、少し呑気そうな顔をしていた。


「……なぁダーク、本当にこれでよかったのか?」

「何がだ?」


 アリシアが前を向きながら小声でダークに話しかけると、ダークはチラッとアリシアの方を向いて訊き返す。


「部隊に参加する者の分け方だ。こちらの部隊にはレベル100の私と貴方がいるが、向こうの部隊にはレベル94のノワールが一人。ノワールがこちらに来て、レベル100の私が向こうの部隊に行った方がよかったのではないか?」

「ああぁ、そのことか」


 神に匹敵する力を持つ者たちを片方の部隊だけに入れることに疑問を抱いていたアリシアを見てダークは呟く。

 確かにアリシアの言うとおり、レベル100が二人いるのなら、一つの部隊に一人ずつ入れた方がバランスよく戦力を分けることができる。しかし部隊を分ける時、ダークはノワールをドゥン村に向かわせ、アリシアを自分のいる部隊に入れた。


「確かにノワールは私や君よりもレベルが低い。だが、レベル100と94の強さはそれほど大差ない。ノワールの実力は私たちとほぼ互角だ……いや、神格魔法が使える分、実際はアイツの方が上かもな」

「神格魔法、確かにあの強力な魔法が使えることを考えれば……」


 アリシアはノワールがLMFにしか存在しない神格魔法を使えることを思い出し、レベルが低いノワールが自分やダークより強いかもという言葉に納得する。


「それらのことを考え、ノワールを向こうの部隊に入れ、君を私の部隊へ入れたのだ」

「成る程……」

「それと、LMFの知識が必要になる場合のことを考え、私とアイツは別行動を取ったのだ」


 可能性としては低いが、もしLMFに関係がある出来事が起きた時にすぐに対処できるよう、自分とノワールを別々の部隊に入れたというダークの考えを聞いたアリシアは小さく笑う。常にあらゆる可能性を計算して考えるダークにアリシアは心の中で感服した。


「ねぇ、ちょっといい?」


 ダークとアリシアが会話をしていると、今まで黙っていたレジーナが声を掛けてきた。二人は会話をやめてレジーナの方を向く。


「どうした?」

「ノワールを向こうの部隊に入れた理由は分かったけど、あたしやジェイクたちの分け方には何か理由があるの?」


 自分がダークやアリシアと同じ部隊にいる理由、ジェイクたちが自分とは別の部隊に入れられた理由が気になるレジーナはダークに尋ねた。

 ダークとアリシアは小声で会話をしていたため、戦力の分け方や、聞かれたくないレベル100やLMFのことはダンバや他の兵士たちには聞こえていない。だが、レジーナだけはレベル60で耳が良くなっている上に二人の会話を集中して聞いていたので、ダークとアリシアの会話を聞くことができたのだ。


「別に深い理由はない。まあ、強いて言うのなら……こちらの部隊は向こうと比べてレベルの高いモンスターが多いから、だな」

「な~んだ、あたしが優秀な盗賊だからじゃないのね」


 自分のいる部隊の方が強いモンスターが多いからという理由にレジーナはつまらなそうな表情を浮かべる。


「あとは、お前とマティーリアが揉め事を起こさないようにするためだ」

「ガクッ!」


 ダークの言葉にレジーナは思わず首を落とす。普段からマティーリアと喧嘩をして周囲に迷惑をかけているため、レジーナは何も言い返せなかった。


「ダーク陛下、どうかなさいましたか?」


 先頭のダンバが振り返って尋ねると、三人は視線をダンバの方へ向ける。


「いや、何でもない。気にしないでくれ」

「はあ……ところで、もうすぐ小さな林に入ります。その林を抜ければエン村の近くに出ますので……」

「分かった」


 もうすぐエン村を解放するための戦いが始まる、ダークは低い声を出しながら目を薄っすらと赤く光らせ、アリシアとレジーナも目を鋭くした。

 それからダークたちの部隊は北に向かって進軍を続け、十五分後にはダンバの言った林に到着し、全員で林へと入る。魔族軍の見張りに警戒しながらダークたちは僅かに薄暗い林道を進んで行った。

 長い林道を進んで行くと遠くに出口が見え、出口を確認したダンバやダークたちは停止する。ダークたちの後ろにいた兵士やモンスターたちも一斉に停止した。


「あそこからエン村のすぐ近くに出られるはずです。ですが、いきなり大勢で林を出たら魔族軍に見つかる可能性があるため、まずは二三人で林を出て外の様子を確認したほうがよいでしょう」

「そうだな、この人数で林の外に出ればどんなに遠くにいても敵に発見される可能性が高い」


 林を出た途端に魔族軍と遭遇する可能性があるため、ダンバはまず偵察をしてエン村と魔族軍の様子を窺うのがいいと判断し、ダークもそうするべきだと考えダンバの判断に賛成した。勿論、アリシアやレジーナも同じ気持ちであるため、ダンバを見ながら頷く。


「それで、誰を偵察に向かわせますか?」


 アリシアが誰に任せるのかダンバに尋ねると、ダンバは難しい顔をしながら考え込む。このような場合は普通に兵士たちに行かせるべきだと考え、ダンバは近くにいる兵士に声を掛けた。

 声を掛けられた二人の兵士はダンバから命令を受けると馬に乗ってエン村の偵察に向かおうとする。すると、ダークが馬に乗りながらダンバと偵察に向かう兵士たちに近づいてきた。


「私も一緒に行こう」

「えっ、ダーク陛下もですか?」

「ああ、折角だからエン村というのがどんな場所なのか見てみようと思ってな」


 救援に来てくれた他国の王に偵察をさせてよいのか、ダンバは複雑そうな顔で考え込む。兵士たちも自ら偵察に向かう王族なんて見たことが無いため、呆然としながらダークを見ていた。


「安心しろ、いきなり村に突っ込んで敵を殲滅させてやる、などという無茶なことはしない。敵の様子を確認するだけだ」

「……分かりました。ダーク陛下がご自分でご確認したいと仰るのでしたら……」


 無茶なことはしないのなら大丈夫だと考えたダンバはダークが偵察に同行することを許可する。本来なら他国の王族に敵の偵察を任せるなどあってはならないことだが、ダークの強さを考えるのなら大丈夫だろうとダンバは判断した。

 偵察に行くことが決まると、ダークは兵士たちと共に林の出口へと向かおうとする。移動する直前、アリシアはダークに気を付けろ、と目で忠告をし、忠告を感じ取ったダークは小さく頷く。それが済むと、ダークは兵士たちと共に馬に乗って出口へと向かった。

 林を出るとダークと兵士たちの視界に広い平原が飛び込んでくる。ダークたちは少し高めの丘の上におり、そこから眺める緑色の平原はまさに絶景と言える場所だった。そして、そんな平原の片隅に少し大きめの村がある。ダークたちがこれから解放するエン村だ。

 ダークたちがいる場所から村までの距離は数百mはあり、村全体は先端の尖った丸太の壁で囲まれている。更に村の周りと上空には複数の小さな影があり、影を見た兵士たちは持っている望遠鏡を覗き込み、ダークも鷲眼の能力を使って影の正体を確かめた。

 影の正体は悪魔族モンスターで、地上にはブラッドデビルやマッドスレイヤー、空中にはビーティングデビルが複数おり、村の周りを移動している。そして、村の入口と思われる大きな二枚扉の近くには数人の魔族兵が地面に座り込んで休んでおり、周りには数体の悪魔族モンスターが集まっていた。


「悪魔と魔族の兵士、間違いなく村を占拠している魔族軍だな」

「ハイ、此処から確認できるのはあそこにいる者たちだけですが、村の中にはまだ大勢の魔族軍がいるはずです。あと、エン村の入口ですが、悪魔たちが集まっているあの扉だけと思われます」


 兵士の一人が望遠鏡を覗くのをやめてダークの方を見ながら言うと、ダークも鷲眼の能力を解除し、腕を組みながら遠くのエン村を見つめる。


「此処から村までは身を隠せるような場所はない。見つからずに村に近づくのは不可能だろうな」

「つまり、これ以上は村に近づくことはできず、我々が村に攻め込む際には必ず魔族軍に気付かれてしまう、ということですか?」

「そのとおりだ」


 魔族軍が油断している時に攻撃を仕掛けることはできず、村にいる魔族軍の正確な戦力も分からない。兵士たちは厳しい戦いになることは避けられないと知り、複雑そうな表情を浮かべる。しかし、そんな兵士たちの隣でダークは動揺などを一切見せずに腕を組んだまま村を見ていた。


「とりあえず戻ってダンバ殿にこのことを報告しよう。どのように魔族軍と戦い、村を解放するかはその後に決めればいい」


 ダークは馬を操り林の方へと戻って行く。兵士たちも少し悔しそうな表情を浮かべながら林へ移動した。

 林に入り、アリシアたちの下へ戻ったダークは自分たちが見てきたことを詳しく説明する。アリシアたちはダークと兵士たちの報告を聞くと僅かに目を鋭くした。


「村に周りには多くの悪魔がおり、村まで身を隠せるような場所は無かった……少々面倒ですね」

「こちらが村に近づけば敵に気付かれてしまうのはまず間違いないだろう」

「でしょうね。しかも敵の正確な数が分からなくては良い作戦を考えることもできません。どうしたものか……」


 ダンバは腕を組み、エン村を効率よくエン村を解放するにはどうしたらいいだろうと考え込む。彼の後ろにいる部隊長らしきの騎士や魔法使いたちもどうすればいいのか考えている。


「……そうだ、ダーク陛下がお連れしたモンスターの中には空を飛ぶモンスターもいましたよね?」

「ああ」

「そのモンスターたちを使い、空から村の様子を確認することはできませんか?」


 地上が無理でも、空から近づけば魔族軍に気付かれることなく村の様子を調べられるかもしれないとダンバは考え、ダンバの案を聞いた騎士や魔法使いたちもそれなら見つからずに敵の数や弱点などを見つけることだできるかもしれないと小さく笑みを浮かべる。

 アリシアとレジーナもダンバの考えた方法を聞いて上手くいくかもしれないと感じる。ところが、ダークはダンバを見ながら軽く首を横に振った。


「残念だが、今回連れてきた飛行可能なモンスターは全て知能の低いモンスターだ。攻撃や敵の捕獲と言った単純な命令は実行できても、情報を集めてそれを説明するといった複雑なことはできん」

「そうですか……」


 飛行モンスターで情報を集められないと聞かされ、ダンバはガッカリした様子で呟く。アリシアとレジーナも知能の低いモンスターしかいないと知って少し残念そうな顔をしていた。

 他に何かいい作戦がないかダンバや騎士たちは考えるが、誰も良い作戦を思いつくことはできない。ダークは考え込むダンバたちを黙って見ていた。


「……やはり正面から村に攻撃を仕掛けるしかないか」


 考えていたダンバが見つかることを覚悟で正面攻撃を仕掛けるしかないと語り、騎士や魔法使いたちは視線をダンバに向ける。ダークとアリシア、レジーナも無言でダンバの方を見た。


「しかしダンバ殿、正面から突撃すれば、敵に見つかり迎撃態勢に入る時間を与えることになってしまいます」

「分かっている。だが、今の状況ではそれ以外に方法は無い。モナであれば他にもいい作戦を思いつくかもしれないが、私ではこれが限界なのだ」


 軍師のモナがいればきっといい作戦を思いつくはずだが、モナは今此処にいない。ダンバは自分にモナと同じくらい戦略を立てられるだけの知恵があれば、と心の中で悔しく思った。

 騎士と魔法使いたちは四元魔導士の一人であるダンバでもいい作戦を思いつかないのなら正面から攻撃するしかないと感じ、不安と悔しさが一緒になったような表情を浮かべる。


「ダンバ殿、少しいいか?」


 黙っていたダークが突然ダンバに声を掛け、ダンバと騎士、魔法使いたちはフッとダークの方を向く。アリシアとレジーナもダークが何か助言をするのかと思いダークに注目する。


「何でしょうか?」

「貴公の言うとおり、今の状況では正面から突撃するしかないだろう。だが、敵が迎撃態勢に入る前に攻撃を仕掛けることは可能だぞ」

「え?」


 ダークの口から出た言葉にダンバは思わず間抜けそうな声を出す。騎士と魔法使いたちもまばたきをしながらダークを見ていた。

 アリシアとレジーナはダークの言葉を聞いて彼が何を考えているのか察し、成る程、と言いたそうな表情を浮かべている。


「で、ですが、敵に見つからずに魔族軍に攻撃するのは不可能だと……」

「私は近づけば間違いなく見つかるとは言ったが、見つからずに攻撃するのは無理だとは言っていないぞ?」

「い、いったいどういう……」


 ダークの言っていることの意味が分からないダンバは呆然としながらダークを見る。するとダークは離れた所で待機しているモンスターたちに視線を向け、しばらくモンスターたちを見た後、再びダンバの方を向いた。


「ここは私に任せてほしい」


 若干楽しそうに低い声を出すダークにダンバは思わず息を飲む。いったい彼は何をするつもりなのか、ダンバは小さな不安を感じていたが、マララムの町での戦いのように、また自分たちが驚くようなことをするのでは、と少しだけ期待をしていた。

 エン村の入口前では魔族兵たちが呑気にくつろいでいた。悪魔族モンスターに見張りを任せているためか、魔族兵は誰一人真面目に見張りをしていない。

 地面に座り、村を囲む壁にもたれながら居眠りをしている魔族兵がいれば、まだ明るいのに酒を飲んでいる魔族兵もいる。とてもマルゼント王国を侵攻している者たちとは思えない姿だった。


「いやぁ~、今日ものどかだなぁ」

「それ、人間界を侵攻している奴が言う台詞じゃねぇな」


 壁にもたれる魔族兵を見ながら酒を飲む魔族兵が笑いながら言い、近くにいた別の魔族兵たちもヘラヘラと笑っている。彼らの近くにいる悪魔族モンスターはそんな魔族兵たちを気にすることなく見張りを続けていた。

 魔族兵たちが楽しそうに騒いでいると、入口である二枚扉が開き、中から若い女の魔族兵が一人現れる。そして、座り込んでいる仲間を見ると呆れた顔をしながらくつろいでいる魔族兵たちに近づく。


「また仕事をサボって遊んでるわね? 少し真面目に働いたらどうなの?」

「お? また口喧しい小姑が来たぜ」

「誰が小姑よ!」


 酒を飲む魔族兵の言葉に女魔族兵は険しい顔をする。他の魔族兵たちはからかわれた女魔族兵の反応を見て爆笑していた。

 女魔族兵は笑う魔族兵たちを見ると額に手を当てて溜め息をつく。仕事もせずに遊んだり酒を飲んだりしている仲間の相手をすることに疲れを感じているようだ。


「……いくら悪魔たちが見張りをしてくれてるからって、悪魔たちに指示を出すアンタたちがそんなんじゃ、もし敵が現れた時に効率よく悪魔たちを動かせないでしょう? 外を見張る時ぐらいは真面目になりなさいよ?」

「お前は心配性だなぁ? 心配ねぇって、人間どもの力じゃ俺ら魔族には絶対に敵わねぇよ。攻めてきたところで返り討ちだ」

「そうそう、この前もこの村を解放しようとした人間軍を叩きのめしてやったしな」


 緊張感の無い男たちを見て女魔族兵は再び溜め息をつく。どんなに注意や説教をしても彼らには効果が無いと女魔族兵は心の中で感じた。


「そうやって油断して、人間軍に不意を突かれても知らないわよ?」

「だから平気だって言ってるだろう? お前も真面目に仕事しねぇで俺たちと一緒に飲もうぜ?」

「遠慮するわ」


 女魔族兵が誘いを断ると、魔族兵はつれないな、と言いたそうな顔をしながら持っている瓶に口を付けて酒を飲む。女魔族兵はやれやれと言いたそうに首を横に振り、持っている望遠鏡を覗いて村の周囲を確認する。

 村の周りは見晴らしのいい平原となっているため、遠くにいる敵でもすぐに見つけることができる。だから多少気を抜くくらいなら問題無いが、魔族兵たちは完全に油断しきっているため、敵を見逃す可能性があった。

 仲間の魔族兵たちが当てにならないので、女魔族兵は魔族兵の分まで真面目に周囲の見張りをする。そんな女魔族兵を見て、魔族兵たちはクソ真面目だなぁ、小馬鹿にするような顔をした。

 女魔族兵が望遠鏡を覗きながら辺りを見回していると、遠くにある林で何かが光るのが見え、女魔族は素早く光った箇所を確認する。だが、光った箇所には何もおらず、何かが動いているようにも見えなかった。


「おい、どうかしたのか?」


 地面に座り込んでいた魔族兵の一人が女魔族兵を見て声を掛けると、女魔族兵は望遠鏡を下ろして魔族兵たちの方を向く。


「今、あそこの林で何かが光ったわ」

「はあ? 何処だよ?」


 魔族兵は立ち上がって女魔族兵に近づくと、女魔族兵が見ていた林を確認する。しかし、林には何も異常は見られなかった。


「……何も変化は無いぞ。気のせいじゃないのか?」

「いいえ、確かに何かが光って見えたわ」

「大方、望遠鏡のレンズが光って見間違えたんだろう? まったく、お前は真面目過ぎるんだよ。少しは俺らみたいに息抜きを……」


 からかうような笑みを浮かべながら魔族兵が喋っていると、突如林の方から轟音が響き、魔族兵たちは視線を林の方に向ける。すると、林の方から橙色に光る球体がもの凄い勢いで飛んで来て、村の入口である扉に命中し、爆発した。

 爆発で扉は吹き飛ばされ、その近くにいた魔族兵や悪魔族モンスターたちも吹き飛ばされる。村の中にいた魔族兵たちも突然の爆発に驚いて一斉に建物の中から姿を現した。


「な、何だ今の爆発は!?」


 扉を見ながら魔族兵は驚愕の表情を浮かべる。女魔族兵や今までくつろいでいた魔族兵たちも目を見開きながら吹き飛ばされた扉を見ており、悪魔族モンスターたちも無表情で爆発があった場所を見ていた。

 魔族兵たちが扉に注目していると、再び林の方から轟音が聞こえ、光の球体が村に向かって飛んでくる。球体は悪魔族モンスターたちの中心に落ちて爆発し、その爆発で多くの悪魔族モンスターが消滅した。


「クソォ! いったい何が起きてるんだ!」


 連続で起きる爆発に魔族兵は声を上げながら球体が飛んで来た方を見る。すると、女魔族兵が光を確認した林の前に三体の大きな蜘蛛型のモンスターがいるのが見え、魔族兵は目を大きく見開いて固まった。女魔族兵や他の魔族兵たちも林の方を向き、見たことのないモンスターの姿を目にして驚いている。

 魔族兵たちが驚いていると、蜘蛛型のモンスターの一体が背中に付いている筒状の物から光の球体を村に向かって放つ。それを見た魔族兵たちは先程の爆発は蜘蛛型のモンスターの仕業だったのだと気付いた。


「さっきのはあのモンスターの攻撃だったのか」

「でも、どうしてモンスターが攻撃してくるのよ? と言うか、アイツらは何てモンスターなの?」

「知るか! とにかく、急いで悪魔たちに迎撃するよう指示を……」


 魔族兵が悪魔族モンスターたちに指示を出そうとした瞬間、光の球体は魔族兵たちの前に落ちて爆発を起こす。魔族兵たちは爆発に巻き込まれたことを知ると表情を大きく歪ませる。そして、痛みを感じる間もなく彼らの意識は消え、肉体も消滅した。

 林の前では三体の砲撃蜘蛛が村に向かって砲撃しており、砲撃による爆発が村の近くで起きている。砲撃蜘蛛たちの近くではダーク、アリシア、レジーナ、ダンバが村を眺めていた。

 ダークたちは魔族軍が混乱しているのを見て上手くいったと言いたそうな顔をしており、ダンバは砲撃蜘蛛たちの攻撃を目にして驚きの反応を見せていた。


「な、何とも凄まじい攻撃ですね……」

「この攻撃で魔増軍は混乱し、迎撃態勢に入る時間を少しは稼ぐことができる。これなら迎撃態勢に入られる前に村に近づくことができるはずだ。仮に魔族軍が我々に気付いたとしても、その時は既に村の近くまで接近している」

「そう、ですね……」


 ダンバはダークの話を聞いて小さく頷く。この砲撃蜘蛛によるエン村の砲撃は勿論ダークが考えた作戦だ。

 ダークから砲撃蜘蛛たちを使って村に砲撃すると聞かされた時はダンバも騎士、魔法使いたちもかなり驚いていた。村を砲撃したら魔族軍を倒せても村が跡形もなく消し飛んでしまう上に捕らえられている村人たちも死んでしまう。だから、ダンバたちは最初、この作戦に反対しようとしていた。

 しかし、砲撃するのは村の周りと入口である扉だけで、村には直接砲撃しないダークが説明すると、ダンバたちは安心し、ダークの考えた作戦を実行することにしたのだ。そして実行した結果、魔族軍は砲撃によって完全に混乱していた。


「ある程度砲撃したら、我が軍の騎士たちと貴殿らの国の兵士、魔法使いたちを村に向かわせ、魔族軍と悪魔たちを倒す。それでいいな?」

「ハイ……それと、ダーク陛下、作戦前にもお話ししたよう、できるだけ村に被害を出さないようお願いします」

「安心しろ、砲撃蜘蛛の砲撃は正確だ」


 ダークの言葉を聞き、ダンバは安心の表情を浮かべ、兵士たちの下へ移動して村に突撃するための手順や時間の説明を始める。

 ダンバが兵士たちの下へ向かうと、アリシアとレジーナがダークに近づき、小声でダークの話しかけてきた。


「ダーク、地上の魔族軍は砲撃蜘蛛たちで何とかなるが、空を飛んでいる悪魔たちはどうやって倒すのだ?」

「そうそう、いくら砲撃蜘蛛が強くても、小さくて飛び回る悪魔たちを狙い撃つのは難しいんじゃない?」

「そっちの方は心配ない。空にいる敵にはこちらの飛行可能なモンスターたちをぶつける。私たちは地上の敵だけに集中して戦えばいい」


 空中の敵を倒すための作戦もしっかりと考えているダークを見てレジーナは流石、と言いたそうな顔をした。

 ダンバが兵士たちに説明している間、ダークたちは砲撃蜘蛛の隣でエン村の状況を確認する。既に村の周りには砲撃によってできた爆発跡が幾つもあり、その近くでは悪魔族モンスターたちが倒れていた。

 村の中でも魔族兵たちも敵が襲撃してきたことに気付いて迎撃態勢に入ろうとしているが、爆発と轟音で魔族兵たちは混乱し、なかなか態勢を整えることができない。ダークの狙いは見事に的中した。

 ダークたちがエン村を眺めていると、兵士たちに説明を終えたダンバがダークたちの下に戻ってきた。


「ダーク陛下、出撃の準備が整いました。いつでも動けます」

「そうか、我が軍の騎士たちも準備が完了している。魔族軍の戦力も少しは削ぐことができた。あとは貴公が指示を出すだけだ」

「そうですか……では、すぐにでも攻撃を開始しましょう」


 ダンバは真剣な表情を浮かべながら攻撃開始を決断し、ダークたちはダンバの方を見ながら自分の得物を手に取る。

 ダークたちが武器を取るのを見たダンバはダークたちも準備完了だと知り、ゆっくりと待機している兵士達の方を向いた。


「これより、我々はエン村を占拠する魔族軍に攻撃を仕掛け、エン村を解放する。ダーク陛下がご用意してくださったモンスターのおかげで魔族軍にダメージを与えることができた。だが、まだ村の中には大勢の魔族と悪魔たちが存在しているはずだ。決して油断するな?」


 兵士たちを見ながらダンバが力の入った声で忠告し、兵士や魔法使いたちはダンバの顔を見ながら無言で頷く。兵士たちの反応を見たダンバはエン村の方を向くと、村に向かって右腕を伸ばした。


「全軍、突撃ぃ!!」


 ダンバが叫ぶように攻撃開始の命令を出すと、マルゼント王国の兵士、騎士たちは声を上げながら林を飛び出し、魔法使いたちも遅れて走り出す。

 ビフレスト王国の黄金騎士、巨漢騎士、モンスターたちもマルゼント王国の兵士たちに続き、ダーク、アリシア、レジーナも黄金騎士たちと共にエン村に向かって走り出した。


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