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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百四十九話  奇襲部隊壊滅


 爆発地点の上空ではブラッドデビルのような空を飛ぶことができる悪魔族モンスターが大量に飛び回っており、その中にノワールとジャバウォックを構えるマティーリアの姿があった。

 二人は悪魔族モンスターたちと接触してから襲ってくる敵を全て倒しており、その数は既に四十体を超えている。しかし、それでも悪魔族モンスターたちの勢いは変わらず、ノワールとマティーリアは向かってくる悪魔族モンスターを休まず倒していく。悪魔族モンスターたちの勢いは治まらないが、二人も疲れを見せることなく戦っていた。

 二体のブラッドデビルが鋭い爪を光らせながらノワールに向かって行き、目の前まで近づくとその爪で攻撃する。しかし、ブラッドデビルたちの爪は見えない何かに防がれ、ノワールに触れることすらできなかった。


「無駄ですよ、貴方たちでは物理攻撃無効Ⅱの技術スキルを持つ僕に傷を付けることはできません」


 宙に浮きながら必死に攻撃してくるブラッドデビルたちにノワールは落ち着いた様子で語りかける。礼儀正しい性格のノワールは例え相手が下級の悪魔族モンスターでも敬語を使っていた。

 ブラッドデビルたちは余裕を崩さないノワールが気に入らないのか、喚くように鳴き声を上げながら何度も爪でノワールを攻撃する。だが、何度やってもノワールに攻撃が当たることは無かった。

 ほぼやけくその状態になっているブラッドデビルたちを見てノワールは哀れに思えてきたのか、気の毒そうな表情を浮かべながら両手をブラッドデビルたちに向ける。


風の刃ウインドカッター!」


 ノワールが魔法を発動させると、両手から真空波が放たれてブラッドデビルたちを胴体から真っ二つにした。上半身と下半身が分かれたブラッドデビルは地上へと落ちて行き、ノワールは落ちて行くブラッドデビルの死体を見つめている。

 ブラッドデビルの死体が見えなくなると、ノワールは顔を上げて周囲の状況を確認しようとする。すると、今度は四体のブラッドデビルがノワールの下に集まり、よだれを垂らしながらノワールを睨み付けた。


「またブラッドデビルかぁ……同じモンスターばかり相手をして、いい加減に飽きてきちゃったなぁ」


 戦いが始まってからずっとブラッドデビルの相手をしているせいで、さすがのノワールも退屈になってきた。だが、そんなノワールの気分をよそに悪魔族モンスターたちを容赦なく襲い掛かる。

 四体の内、二体はノワールの正面から爪で攻撃し、残りの二体は左右から噛み付いて攻撃しようとする。しかし、先程のブラッドデビルたちと同じように四体の攻撃は全て見えない何かに防がれてしまい、ノワールに傷を負わせることはできなかった。ブラッドデビルたちは攻撃が通用しない理由が分からず、ただただノワールに攻撃を続ける。

 攻撃が通用しないことに気付かず、攻撃の手を止めないブラッドデビルたちを見てノワールは小さく溜め息をつきながら両手を胸の前まで持っていく。


凍結の衝撃フリーズインパクト!」


 再び魔法を発動させたノワールは両手を横に伸ばし、周囲に冷気を放った。冷気はノワールの近くにいた四体のブラッドデビル全てを凍らせ、凍り付けになったブラッドデビルたちは飛ぶことができなくなり落下していく。

 ブラッドデビルを倒したノワールは再び溜め息をつく。勿論これはブラッドデビルとの連戦で疲れたからではなく、敵との力の差を理解せずに攻撃を仕掛けてくるブラッドデビルたちの愚かさに呆れた溜め息だ。

 ノワールが小さく俯きながら溜め息をついていると、別の場所で戦っていたマティーリアがノワールの左隣にやって来た。


「どうじゃ、ノワール。問題無く戦えておるか?」

「問題はありませんが、次々と突っ込んで来る悪魔たちの相手をするのが少しずつ面倒になってきましたね。自分たちの攻撃が通用しないのを目にすれば、普通は後退するものなんですが……」

「仕方がなかろう、奴らは魔族に支配され、魔族の命令に従う存在じゃ。例え相手との力の差を理解しても、魔族に命令されている以上、それに従って戦うしかない」


 例え敵に恐怖しても魔族に指示を受けているのなら戦うのだと聞かされたノワールは少しだけ悪魔族モンスターたちに同情する。

 だが、例え魔族に逆らえない立場だとしても、自分たちを襲ってくるのであれば迎え撃ち戦う、ノワールのその気持ちは変わっておらず、魔族軍と戦うことに何の抵抗も感じていない。勿論、マティーリアも同じ気持ちだった。

 ノワールとマティーリアは周りにいる悪魔族モンスターたちを見ながら構え、いつでも迎え撃てる体勢に入る。そんな時、二人の前に二体の悪魔族モンスターが現れた。身長2m弱の人型モンスターで、紫色の肌を持ち、頭部から二本の角、背中からは悪魔の翼を生やしている。そして、手には黒いモーニングスターが握られており、荒い鼻息を出しながらノワールとマティーリアを睨んでいた。


「お? ブラッドデビルとは違う悪魔が現れたのぉ、何じゃコイツらは?」


 マティーリアは初めて目にする悪魔族モンスターを意外そうな表情で見ており、ノワールは懐から賢者の瞳を取り出して現れた悪魔族モンスターの情報を確認する。確認が終わると、賢者の瞳は高い音を立てて消滅した。


「彼らはビーティングデビル、レベル25の下級悪魔族モンスターでブラッドデビルと比べると攻撃力が高いモンスターです」

「何じゃ、図体がデカいからてっきり中級の悪魔と思ったが、こ奴らも下級の悪魔か」


 見た目と違って弱いモンスターだと知ったマティーリアはガッカリした様子で目の前にいる二体の悪魔族モンスターを見ている。ノワールは強くなくても別のモンスターが現れただけで満足なのか、不満などは口にしなかった。

 ノワールとマティーリアがビーティングデビルたちを見ていると、二体の内、一体がノワールに向かっていき、持っているモーニングスターで攻撃してきた。だがモーニングスターはノワールに当たること無く弾かれ、ビーティングデビルは驚いたような反応を見せる。マティーリアは巻き込まれないよう、少し左へ移動してノワールから距離を取った。

 だが、ビーティングデビルはそれでは終わらせる気は無いのか大きく息を吸い、口から炎を吐いてノワールを攻撃する。ノワールはモーニングスター以外に攻撃方法があるのを知って意外そうな顔をした。しかし結局、炎でもノワールにダメージを与えることはできず、炎が通用しないのを見てビーティングデビルは口を開けながら驚く。

 離れた所にいたマティーリアはビーティングデビルが驚く様子を見て鼻で笑う。そこへもう一体のビーティングデビルが近づき、モーニングスターを振り下ろして攻撃してきた。マティーリアはビーティングデビルの攻撃に気付くと冷静にジャバウォックを操り、モーニングスターを止める。


「よそ見をしている敵に迷わず攻撃するとは、さすがは悪魔と言うべきじゃな」


 姑息な手を平気で使うビーティングデビルを見ながらマティーリアは静かに語り、ジャバウォックで止めていたモーニングスターを弾く。モーニングスターを弾かれてビーティングデビルが体勢を崩すと、その隙にマティーリアはジャバウォックで突きを放ち、ビーティングデビルの体を貫いた。

 ビーティングデビルは苦痛で声を上げ、ビーティングデビルが苦しむ姿を見たマティーリアは素早くジャバウォックを引き抜き、そのまま袈裟切りを放って止めを刺す。斬られたビーティングデビルはモーニングスターを手放し、真っ逆さまに落ちていった。

 マティーリアがもう一体のビーティングデビルを倒す姿を見たノワールは流石、と言いたそうに笑みを浮かべ、自分も負けられないと思いながら目の前にいるビーティングデビルの方を向く。


雷の槍サンダージャベリン!」


 ノワールが左手をビーティングデビルに向けると、左手から青白い電気の矢が放たれてビーティングデビルの体を貫いた。電気の矢を受けたビーティングデビルは全身の痛みに声を上げ、体から煙を上げながら落下していく。

 ビーティングデビルを倒したノワールはよし、と小さく笑いながら頷く。周りにいる悪魔族モンスターたちはノワールとマティーリアを警戒しているのか、取り囲んだまま攻撃しようとしなかった。そんな中、今度は中級の悪魔族モンスターであるオックスデーモンが二体、ノワールとマティーリアの前に現れる。

 

「今度はオックスデーモンか、今までの下級悪魔よりは楽しめそうじゃな」


 次の敵が中級モンスターだと知ったマティーリアは真剣な表情を浮かべてジャバウォックを構え、ノワールも無表情でオックスデーモンを見上げた。


「小さき亜人ども、よくも我らが同胞を大勢殺したな」

「同胞を殺した罪、その命で償うがいい」


 二体のオックスデーモンはノワールとマティーリアを見ながら低い声を出し、持っている骨の斧を構えた。ノワールとマティーリアは人間の幼い少年と少女に角と竜翼が生えた姿をしているため、オックスデーモンたちは二人を亜人の子供だと思っているようだ。

 自分たちを亜人と勘違いするオックスデーモンたちを見て、マティーリアは呆れたような表情を浮かべ、ノワールは無表情のまま自分の頬を指で掻いた。


「ハッ、妾を亜人なんかと間違えるとは、中級と言えど所詮はモンスター、観察力は皆無に等しいのぉ?」


 ジャバウォックを肩に担ぎながら、マティーリアは肩を竦めて呆れ果てる。その姿を見たオックスデーモンたちは目を鋭くしてマティーリアを睨み付けた。


「亜人の分際で我ら悪魔を侮辱するか、少しは自身の立場を理解したらどうだ、小娘?」

「ああぁ?」


 オックスデーモンが口にした小娘という言葉を聞き、マティーリアは表情を鋭くして目の前にいるオックスデーモンを睨み付けた。ノワールはオックスデーモンがマティーリアに対する禁句を口にしたのを見て思わずあっ、と反応する。


「……おい、貴様。今妾のことを小娘と言ったか?」

「だったらどうした?」

「……妾はこう見えて若殿たちよりも長く生きておる。貴様ごときに小娘扱いされるのは非常に気分が悪い。何よりも、妾は亜人ではない……ドラゴンじゃ!」


 声に力を入れながらマティーリアは竜翼を広げて急上昇した。オックスデーモンは上昇したマティーリアを見ながら持っている斧を構え、彼女を追って上昇する。その直後、上昇したマティーリアが今度は急降下し、ジャバウォックを構えながらオックスデーモンに突っ込む。向かってくるマティーリアを見たオックスデーモンは上昇をやめ、驚きの表情を浮かべた。

 オックスデーモンは降下して来るマティーリアに向かって斧を振り迎撃する。だが、斧の刃がマティーリアに触れる瞬間、マティーリアは竜翼を器用に動かしてオックスデーモンの攻撃を回避した。

 攻撃をかわしたマティーリアは素早くオックスデーモンの右側面に回り込み、ジャバウォックを振って反撃する。ジャバウォックの刃がオックスデーモンの脇腹を切り、その痛みでオックスデーモンは表情を歪めた。


「こ、小娘ぇ!」


 自分に手傷を負わせたマティーリアを睨み、オックスデーモンは再び斧で攻撃する。だがマティーリアはその攻撃も難なくかわしてオックスデーモンの顔の前まで移動した。

 オックスデーモンは目の前に移動したマティーリアを見て目を見開き、そんなオックスデーモンにマティーリアは口から炎を吐いて攻撃した。顔が炎に包まれ、炎の熱さと痛みにオックスデーモンは声を上げる。

 空中で暴れるオックスデーモンを見ながらマティーリアはジャバウォックに気力を送り込む。最後は戦技で決めるようだ。


剣王破砕斬けんおうはさいざん!」


 マティーリアは戦技を発動させ、剣身を赤く光らせるジャバウォックで攻撃する。ジャバウォックの刃はオックスデーモンの胴体に大きな切傷を作り、オックスデーモンは苦痛の声を上げながら真っ逆さまに落下していく。そして、大きな音を立てながら地上に叩きつけられた。

 オックスデーモンが落下したのを確認したマティーリアはジャバウォックを振ってから肩に担ぎ、フンと不機嫌そうに声を出す。そんなマティーリアを見上げながらノワールは苦笑いを浮かべていた。


「アハハハ、マティーリアさんを子供扱いしたのが、運の尽きでしたね……」


 マティーリアの禁句に触れたことに気付くことなく倒されてしまったオックスデーモンをノワールは少しだけ気の毒に思い、自分の頬を指でポリポリと掻く。すると、ノワールの前にいたもう一体のオックスデーモンが両手で斧を振り上げて攻撃しようとする。

 オックスデーモンの攻撃に気付いたノワールはチラッと視線をオックスデーモンに向けるが、その直後にオックスデーモンは斧を勢いよく振り下ろす。しかし、斧の刃がノワールの頭部に触れる直前、刃は弾かてしまい、ノワールにダメージを与えることはできなかった。

 自分の攻撃が効かないことにオックスデーモンは一瞬驚きの反応を見せるが、すぐに表情を険しくし、再度ノワールに攻撃する。だが、何度攻撃しても斧はノワールに当たる前に弾かれ、オックスデーモンの顔から徐々に余裕が消えていく。

 ノワールは攻撃されている間、ただ黙ってオックスデーモンを見ていた。やがて、疲れが出たのか、オックスデーモンは攻撃をやめて僅かに後退しノワールを見つめる。


「もう攻撃はお終いですか?」

「き、貴様、いったい何者だ? 我の攻撃がまるで通用しない。貴様、ただの亜人の小僧ではないのか?」

「う~ん、確かに僕はただの亜人ではありませんね」

「……まさか、あの小娘と同じ存在か?」


 オックスデーモンが斧を強く握りながら尋ねると、ノワールはしばらく黙り込んだ後、オックスデーモンを見上げながら口を動かした。


「申し訳ありませんが、詳しいことはお話しできません。敵に自分の情報を教えるほど僕は馬鹿ではありませんから」

「クッ、この小僧が……」

「それに、これから倒される貴方がそんなことを聞いても意味は無いので」


 無表情でそう言いながらノワールは右手をゆっくりとオックスデーモンに向ける。オックスデーモンはノワールが何か仕掛けてくると気付き、咄嗟に斧で攻撃するが、やはりノワールに攻撃は当たらない。

 ノワールはまだ攻撃が通用するかもしれないと考えているオックスデーモンを見て呆れたのか小さく溜め息をつく。そんなオックスデーモンにノワールは躊躇することなく攻撃した。


雷の槍サンダージャベリン!」


 魔法が発動され、ノワールの右手から電気の矢がオックスデーモンに放たれた。電気の矢はオックスデーモンの胴体を貫き、オックスデーモンの体に電気が走る。その痛みにオックスデーモンは断末魔の声を上げ、電気が消えると絶命したオックスデーモンは落下していった。

 ノワールはオックスデーモンを倒すともう一度溜め息をついて自分の髪を指でいじる。そこへもう一体のオックスデーモンを倒したマティーリアが合流した。


「お疲れ様です、マティーリアさん?」

「ああ、お主もな……」

「……まだ怒ってるんですか?」

「フン! 別に怒ってなどおらん」


 絶対に怒っている、ノワールはそう感じながら苦笑いを浮かべた。

 不機嫌なマティーリアを見た後、ノワールは周囲を確認した。周りにいる悪魔族モンスターたちは鋭い目でノワールとマティーリアを睨みながら敵意を露わにしている。

 普通なら自分たちよりも強い仲間が倒されるのを見れば恐怖して逃げ出すのだが、ノワールとマティーリアの周りにいる悪魔族モンスターたちは逃げ出さず二人を睨んでいる。これが魔族に支配されている影響なのかとノワールは感じた。


「彼らはまだ僕らと戦う気でいるみたいですね」

「魔族から命令を受けた以上、それをやり遂げるまで奴らは止まらん。まったく、愚かな奴らじゃ」

「……それで、どうします? このまま彼らの相手を続けますか?」

「奴らが妾たちを殺す気でいるのなら、そうするしかあるまい」


 マティーリアは僅かに低い声を出しながらジャバウォックを構え、ノワールもいつでも魔法を発動できるよう集中する。


「マスターは悪魔たちは逃がしても構わないと仰っていましたが、この様子だと逃げそうにありませんね」

「それならさっさとこ奴らを操っている魔族を見つけて捕らえた方が良さそうじゃな。魔族たちが捕まれば悪魔たちも戦いをやめるはずじゃ」

「そうですね、そうしましょう」


 悪魔族モンスターたちと戦い続けても切りが無いと感じた二人は悪魔族モンスターを支配している魔族兵を捕らえることにした。だが、魔族兵を見つけようにも、囲まれていては動くことはできない。二人はまず、周りにいる悪魔族モンスターをある程度倒してから移動することにした。

 マティーリアは竜翼を広げて悪魔族モンスターたちに突っ込んでいき、ノワールも魔法で悪魔族モンスターへ攻撃を始めた。

 その頃、マララムの町の北門と城壁の上ではモナとダンバ、ゴルボンやマルゼント王国の兵士たちがダークたちの戦闘を見て呆然としている。たった七人で約三百の悪魔族モンスターと戦い、誰一人倒れることなく次々と敵を倒しているのを見て全員が驚いていた。


「……な、何なんだこれは?」

「悪魔たちをああも簡単に倒すなんて……彼らは本当に人間なのか?」

「英雄級の実力を持っていると聞いているが、もしかするとそれ以上なんじゃ……」


 兵士や魔法使いたちはダークたちのとてつもない強さを目にし、僅かに震えた声を出す。その震えは勿論恐怖からではなく、自分たちが苦戦していた魔族軍を圧倒する強さに対する驚きからだ。そして、驚く中でこれなら魔族軍に勝てるかもしれないと小さな希望を感じていた。


「ま、まさか、こんなことがあり得るなんて……」


 城壁の上にいる兵士たちが驚きながらダークたちと魔族軍の戦いを見ている中、モナも北門の見張り台の上で驚きながらダークたちを見ている。

 ダークたちが強いことは知っているが、悪魔族モンスターを圧倒するほどの力を持っているとはさすがにモナも予想していなかったため、かなりの衝撃を受けていた。


「あの力、悪魔たちがまるで子供扱いだ……」

「もしかすると、ダーク陛下が仰っていたとおりになるかもしれないな」


 驚いているゴルボンの隣でダンバが呟き、それを聞いたゴルボンやモナが視線をダンバに向ける。


「ダーク陛下は仰っておられた、自分たちがいれば二個大隊以上の戦力を持つ魔族軍に勝つことが可能だと、あれほどの強さをお持ちの陛下たちが加われば、本当にそれが可能になるかもしれない」


 ダンバの言葉を聞き、モナは僅かに目を見開く。確かに大部隊の魔族軍に大ダメージを与えるほどの魔法を使い、接近戦で悪魔族モンスターを難なく倒していくほどの力を持つダークたちが加われば、今まで解放できなかった拠点を解放することができるかもしれない。

 短時間で魔族軍に制圧された拠点を解放できる、モナはそう感じながら再び魔族軍と戦っているダークたちに視線を向ける。ゴルボンも戦況を変えることができるかもと考えながらダークたちを見ていた。


「……私たちも行きましょう」


 モナはダークたちの戦いを見ながら呟き、ダンバとゴルボンはチラッと視線をモナに向けた。


「ダーク陛下たちが魔族軍と戦っている時に私たちだけが安全な所で戦いを見物しているわけにはいきません。私たちも陛下たちに加勢しましょう」

「しかしモナ殿、魔族軍への追撃は自分たちが引き受けるとダーク陛下が……」

「だから何もせずにジッとしているのですか?」


 ゴルボンの方を向いてモナは僅かに目を鋭くしながら尋ねる。ゴルボンはモナの顔を見て思わず黙り込む。


「確かに陛下は任せてほしいと仰いました。ですが、だからと言って陛下たちに全てを任せるのはおかしいことです。そもそもこれは我が国と魔族軍の戦いです。我々が戦いに加わらないでどうするのですか」

「確かにそうだな。それにダーク陛下も戦いに手を出すなとは仰っておられなかったし、私たちが加勢しても問題無いだろう」


 モナの考えを聞いたダンバは納得し、自分たちも戦いに参加するべきだと語る。ダンバの答えを聞いたモナは自分に賛同してくれたことが嬉しいのか、ダンバを見ながら小さく笑った。

 ゴルボンはモナのダンバを見ると小さく俯いて黙り込む。確かにダークたちは救援としてマルゼント王国に来てくれた存在、ダークたちにだけ戦わせて自分たちが何もしないのは都合が良すぎると言えた。

 しばらく俯いていたゴルボンは顔を上げると真剣な表情でモナとダンバの顔を見た。


「……分かった、すぐに動ける兵を集めて部隊を編成しよう」


 ゴルボンの答えを聞いたモナとダンバはゴルボンを見ながら無言で頷く。三人は急いで階段を下り、広場にいる兵士たちを集めて、魔族軍を攻撃する部隊の編成を行った。

 モナたちが部隊編成を始めた頃、魔族軍はダークたちによって多くの悪魔族モンスターが倒され、少しずつ追い詰められていた。悪魔族モンスターは怯むことなくダークたちに襲い掛かるが、その全てが返り討ちにあい、今では当初の戦力の十分の一ほどにまで減っている。魔族兵たちも予想外の事態に驚きを見せていた。


「まさか、このような事態になるとは……」


 中年の魔族兵は自分たちが不利な状況になっていることが信じられないのか、目を見開きながら動揺を見せている。彼の周りには他に四人の魔族兵がおり、全員が驚きの表情を浮かべていた。

 たった五人の人間によって地上にいる悪魔族モンスターが次々と倒されていく光景を見て、魔族兵の中にはこれは夢では、と考える者が出てきている。更に空中でも二人の亜人らしき子供に悪魔族モンスターたちが倒されており、戦況は完全に魔族軍が不利な状態になっていた。


「我が魔族軍が人間の手によってこれほどの被害を出すとは……クウゥッ! なんという屈辱だ」


 人間よりも優れた生物である魔族の自分たちが人間に押されているという現実に中年の魔族兵は誇りを傷つけられ、表情を険しくする。他の魔族兵たちも悔しさを表情を浮かべながら俯いていた。するとそこへ、若い魔族兵が一人駆け寄ってくる。その表情には焦りと驚きが感じられた。


「おい、あの人間どものせいで悪魔たちはもう百体も残ってないぞ! もしこの状態で町の人間どもが総攻撃を仕掛けてきたら全滅だ」

「クッ、馬鹿な……」


 若い魔族兵からの報告を聞き、中年の魔族兵は俯きながら奥歯を噛みしめ、拳を強く握る。

 戦力となる悪魔族モンスターの殆どが倒されてしまった今の状態ではマララムの町を制圧することは不可能、魔族兵たちは今回の戦いは自分たちの敗北だと受け入れるしかなかった。


「こうなってしまった以上、もう我らに勝ち目は無い……全員退却だ! 急いで拠点に戻り、このことをジンカーン、もしくはセルフストの町に知らせ……」


 中年の魔族兵が仲間たちに指示を出していると、魔族兵たちの頭上を何かが通過し、彼らの近くに落下する。魔族兵たちはが一斉に落ちたものを確認すると、そこには体を斬られて息絶えたブラックギガントの死体があった。

 自分たちの頭上をブラックギガントの死体が通過したと知った魔族兵たちは目を見開く。すると、中年の魔族兵の背後から何かが近づいて来る気配がし、中年の魔族兵は慌てて振り返る。そこには漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーを装備した黒騎士と人間の女騎士が歩いてくる姿があった。


「お前たちが魔族軍の兵士だな。魔族がどんな姿をしているのか気になっていたが、人間と大して変わらないのだな」


 立ち止まった黒騎士は魔族が人間にそっくりと姿をしていると知って意外そうな声を出す。女騎士も同じ気持ちなのか、意外そうな顔で魔族兵たちを見ている。

 中年の魔族兵は二人の騎士を見て思わず身構え、他の魔族兵たちも気付き、慌てて腰に佩してある剣に手を掛けた。


「貴様ら、何者だ?」

「おっと、失礼。自己紹介は大切だな? 私はダーク・ビフレスト、こっちがアリシア・ファンリード、お前たち魔族軍を倒すためにマルゼント王国に力を貸す者だ」


 自分と女騎士の紹介をする黒騎士を魔族兵たちは鋭い目で見つめる。悪魔族モンスターたちを難なく倒して自分たちの目の前までやって来た二人の騎士を魔族兵たちは間違いなく強いと感じていた。同時に、先程のブラックギガントの死体はこの二人のどちらかが投げたのかもしれないと考える。

 ダークは無言で自分とアリシアを睨む魔族兵たちを見つめており、アリシアもフレイヤを握りながら魔族兵たちを睨み返している。


「さて、出会って早々悪いのだが、投降してもらおうか」

「何?」

「既にお前たちの部下である悪魔はほぼ全て倒した。残っているのはごく一部の下級悪魔とお前たち魔族兵のみ、その状態で戦ってもお前たちが勝つのは不可能だ」

「フン、言ってくれるな、人間?」


 中年の魔族兵は剣を抜き、アリシアは剣を抜いた中年の魔族兵を見て前に出ようとする。だが、ダークがアリシアの前に腕を出してアリシアを止めた。


「確かにお前たちは我々の配下である悪魔たちを大勢倒した。あれほどの悪魔を怪我一つせずに倒すことは普通の人間にはできない。恐らく、お前たちは人間の英雄級の強さを持っているのだろう」

「ほぉ?」


 ダークは中年の魔族兵が優れた観察力を持っていることに感心したのか、意外そうな声を出す。


「そんなお前たちが相手では我々でも勝つのは難しいだろう……しかし、だからと言って大人しく投降する気は無い。勝てないのであれば、お前たちの情報を仲間たちに伝えるために退却するだけだ」

「……まあ、普通はそう考えるな。だが、私たちがそれを黙って見逃がすと思っているのか?」

「勿論思っていない。だから、我々が安全に逃げられるよう、奴らにはしっかりと働いてもらう」


 そう言って中年の魔族兵は剣を高く掲げる。すると、ダークとアリシアの周りに生き残りのブラッドデビルとヘルハウンドが五体ずつ集まって二人を取り囲む。どうやら魔族兵は悪魔族モンスターたちにダークの足止めをさせ、その隙に退却するつもりのようだ。


「お前たち、我々が無事に逃げられるよう、その人間どもを足止めしろ! 命を賭けてな!」


 悪魔族モンスターたちにそう命じると、中年の魔族兵はダークとアリシアに背を向け、北に向かって走り出す。他の魔族兵たちもその後に続いて走り出した。

 ダークとアリシアの周りにいる悪魔族モンスターたちは魔族の命令に従い、二人を足止めするために一斉に襲い掛かる。ダークとアリシアは悪魔族モンスターたちの位置を素早く確認すると、大剣とフレイヤを強く握り、素早く悪魔族モンスターたちを斬った。

 二人を取り囲んでいた十体の悪魔族モンスターはあっという間に全滅し、死体は二人の足元に転がる。悪魔族モンスターたちを倒したダークとアリシアは視線を逃げていく魔族兵たちに向けた。


「投降するどころか、悪魔たちを犠牲にして逃げ出すとは、とんでもない連中だな」


 アリシアは魔族兵たちの行動に腹を立て、鋭い目で魔族兵を睨み付ける。自分たちが助かるために仲間を盾にするという行動は聖騎士であるアリシアにとってはとても不快なものだった。

 険しい顔をするアリシアの隣ではダークが目を薄っすらと光らせながら逃走する魔族兵たちを見ている。彼も魔族兵の行動を見て少々不快になっていた。


「投降すれば丁重に扱ってやろうと思っていたが、あのような連中ならその必要はないな」

「どうする? 追いかけて捕まえるか?」

「いや……捕まえる価値もない」


 そう言ってダークは大剣を掲げ、剣身に黒い靄を纏わせる。アリシアは大剣を包み込む靄を見て、ダークが暗黒剣技を発動させると知り、ダークの後ろへ移動した。


黒瘴炎熱波こくしょうえんねつは!」


 ダークは大剣を勢いよく振り下ろし、黒い靄を逃げる魔族兵達に向かって一直線に放つ。靄はもの凄い速さで魔族兵たちに向かって行き、徐々に距離を縮めていった。

 逃げる魔族兵たちは後方から何かが近づいて来ることに気付き、走りながら振り返る。彼らの視界には黒い靄が迫ってくる光景が飛び込み、それを目にした魔族兵たちは目を見開く。その直後、魔族兵たちは靄に呑み込まれた。

 靄に呑まれた魔族兵たちは全身から伝わる痛みと熱さに声を上げながら苦しみ、やがて糸の切れた人形のように倒れる。そして、靄が消えた時、そこには体中が焦げた魔族兵たちの死体があった。

 遠くで魔族兵たちが死んだのを確認したダークは大剣を軽く振ってから肩に担いだ。


「情報を持っている可能性があるため、できるだけ生かしておこうと思ってはいたが……仲間を平気で犠牲にする連中を生かしておくほど、私は心の広い人間ではない」


 ダークは低い声で死んだ魔族兵たちに語り掛けるように呟く。ダークにとって仲間を利用したり、犠牲にすることに何の抵抗も感じない者は情けを掛けるに値しない存在だった。

 アリシアも敵が何か良い情報を持っているかもしれないと思っていたが、ダークと同じように仲間を犠牲にする者は許せないため、ダークの魔族兵に対する行動を否定せず黙って見ていた。

 その後、ダークとアリシアはまだ残っている悪魔族モンスターの掃討と魔族兵の捕獲に移り、マララムの町に攻め込んできた魔族軍を完全に壊滅させる。

 捕らえた魔族兵たちは抵抗することなく大人しくなり、魔族兵が戦意を失ったことで生き残っていた悪魔族モンスターたちも散り散りに逃げていく。逃げだす悪魔族モンスターたちを見てレジーナやファウは小さく笑っていた。

 空を飛んでいたノワールとマティーリアもダークたちと合流し、ダークたちは互いの安否を確認し合いながら勝利を喜ぶ。その直後、マララムの町からモナたちとマルゼント王国軍が加勢に現れるが、既に戦いが終わっているのを目にしたモナたちは呆然とし、そんなモナたちを見てアリシアたちは笑うのだった。


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