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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百四十八話  侵略者を斬る者


 爆発によってできたクレーターの周りには大勢の魔族兵や悪魔族モンスターが倒れており、その上空では爆発から運よく逃れることができた飛行可能な悪魔族モンスターが飛んでいる。飛んでいる悪魔族モンスターたちは爆発で混乱しているのか、進軍をやめて空中を飛び回っていた。


「な、何が起きた……」


 俯せに倒れている一人の若い魔族兵が体を起こして周囲を確認をする。周りには自分と同じように倒れている配下の悪魔族モンスターたちの姿があり、多くが爆発の衝撃でダメージを受けているのか起き上がるのに苦労していた。

 魔族兵は痛む体を動かして何とか立ち上がり、他に無事な仲間がいないか周囲を見回す。すると、視界に大きなクレーターがあるのを見つけ、魔族兵は驚愕の表情を浮かべる。


「な、何だこれは、どうしてこんな大きな穴が……」


 現状が全く理解できない魔族兵は目を見開きながらクレーターを見つめる。遠くにいる他の魔族兵たちも目の前のクレーターを見て驚きの反応を見せていた。


「おい、大丈夫か?」


 魔族兵がクレーターを見ていると、自分と同じように無事だった仲間の中年の魔族兵が駆け寄ってきた。若い魔族兵は無事だった仲間の姿を見て安心の表情を浮かべる。


「ああ、何とかな……いったい何が起きたんだ?」

「分からん。ただ、爆発が起きる直前に空に大きな魔法陣が展開されたのを見た」

「魔法陣、と言うことはあの爆発とこの大きな穴は敵の魔法攻撃によるものなのか?」

「間違いないだろう。だが、あれほど大きな爆発を起こせる魔法を人間どもが使えるとは思えない」


 人間には大爆発を起こす魔法を使うなど無理だ、そう考える魔族兵たちは魔法を使ったのは人間に味方をする亜人ではないかと考える。だが、情報が少なすぎるため、答えを出すことができない。何よりも、今は魔法を使った者のことを考えている余裕はなかった。

 爆発によって魔族軍は魔族兵や悪魔族モンスターを大量に失い、生き残っている者も多くがダメージを受けている。この状況で人間たちに攻撃されれば全滅する可能性もあった。


「とにかく、今は現状を確認して態勢を立て直すことが重要だ。急いで他の奴らと合流するぞ」

「ああ、分かった」


 魔族兵たちは人間たちから攻撃を受ける前に態勢を直すため、仲間たちと合流しようとする。すると、マララムの町の方を見た若い魔族兵が何かに気付き足を止めた。中年の魔族兵は立ち止まる仲間に気付くと、不思議そうな顔で近づく。


「おい、どうした?」

「何か、町の方から何かが近づいて来るぞ?」


 若い魔族兵がマララムの町を指差し、中年の魔族兵も町の方を見る。目を凝らして見ると、確かにマララムの町の北門の方から無数の影がこちらに近づいて来るのが見えた。

 中年の魔族兵は望遠鏡を覗いて影の正体を確認する。すると、漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーを装備した騎士と若い人間の女騎士が全速力で走って来るのが見えた。更にその後ろには大柄な人間の男と盗賊風の若い女、黒い鎧を身に付けた女騎士の姿があり、それを見た中年の目を見開きながら望遠鏡を下ろす。


「どうした、何が見えた?」

「町から五人の人間がこちらに向かって走って来る」

「敵か?」

「恐らくな。ただ、たったの五人しかいない」

「はあ? 五人?」


 敵の数があまりにも少ないことに若い魔族兵は驚き、同時に小さな怒りを感じた。

 いくら魔法による爆発で多くの仲間が死んだとは言え、悪魔族モンスターや魔族兵はまだ大勢いる。そんな自分たちにたった五人で向かってくるなど、馬鹿にしているとしか思えないと若い魔族兵は考えていた。勿論、中年の魔族兵も人間たちはふざけていると感じ、若干表情を険しくする。


「人間どもめ、これまで何度も我々に敗れて拠点を奪われていながら、たった五人の戦士を送り込むとは、完全にナメているな」

「どうする?」

「そんなの決まっているだろう? 何を考えて五人だけ送り込んだかは知らんが、返り討ちにしてやるさ」


 例え少人数でも容赦なく叩きのめす、中年の魔族兵はそう考えながら敵を倒すと告げ、若い魔族兵も表情を鋭くしながら頷く。

 魔族兵たちは大きな声を出して近くにいる悪魔族モンスターたちを集め、向かってくる五人の敵を全て殺すよう指示を出す。指示を受けた悪魔族モンスターたちはマララムの町に向かって進軍を再開し、その間に魔族兵たちは他の魔族兵たちと合流するために移動した。

 マララムの町を出たダークたちは魔族軍に向かって走り続ける。ダークとアリシアが先頭を走り、その後ろをレジーナ、ジェイク、ファウが僅かに遅れて続く。そして、ダークたちの上空をノワールとマティーリアが飛んでいた。


「ダーク、悪魔たちがこちらに向かって動き出したぞ」

「どうやら私たちの存在に気付いたようだな」


 遠くにいる悪魔族モンスターたちを見ながらダークは呟き、アリシアも目を鋭くして悪魔族モンスターたちを睨む。二人の後ろを走るレジーナたちも表情を鋭くしていた。

 魔族軍に気付かれたにもかかわらず、ダークたちは走る速度を落とそうとはしない。魔族軍に見つかり、狙われたとしてもダークたちにとっては何の問題も無かった。


「どうする? このまま敵の突っ込むか?」

「勿論だ。普通なら数人で敵に突っ込むなど自殺行為だが、私たちの強さなら問題は無い」

「フッ、確かにな」


 ダークの言葉を聞いてアリシアは小さく笑う。神に匹敵する力、英雄級の実力を持つ自分たちなら、例え悪魔族モンスターの群れが相手でも負けたりしないとアリシアは確信している。逆に強大な力を持つ自分たちと戦うことになる魔族軍を気の毒に思っていた。


「モナ殿が言っていたように、敵に逃げられればこちらの情報が魔族軍に知られてしまう。悪魔族モンスターはともかく、魔族の兵士は絶対に逃がすな?」

「ああ、分かっている」

「では、私は一足先に敵に挨拶してくる。君はレジーナたちと一緒に来てくれ」


 そうアリシアに指示を出すと、ダークは走る速度を上げて勢いよく魔族軍へ向かって行く。どうやら今まではレベルが低いレジーナたちに合わせてゆっくりと走って行ったようだ。


「ちょ、待ってよ、ダーク兄さん!」


 一人で敵に突っ込んでいったダークを見てレジーナは思わず声を上げる。しかし、ダークは止まらずあっという間に見えなくなってしまった。


「あ~あ、行っちまった。相変わらず戦いになると先陣を切るよな、兄貴は」

「きっと、一秒でも早く戦いを終わらせたいと言うお気持ちから先陣を切っておられるのですよ」


 ジェイクの隣を走るファウは笑顔を浮かべながら遠くにいるダークを見つめ、ジェイクは視線だけを動かしてファウを見ながら、違うと思うぞ、と言いたそうな顔をする。レジーナも同感なのか、複雑そうな顔をしていた。

 アリシアたちはダークが暗黒騎士を職業クラスに選んだ影響で若干好戦的な性格となり、戦いで常に先陣を切ることを知っている。だがファウはデカンテス帝国との戦争以来、自分を救ってくれたダークを心酔し、ダークの行動や考えを良い方向に持っていくようになっていた。そのため、今回のダークの行動もマルゼント王国の民を守るために取った行動だと思っているのだ。


「とにかく、私たちもダークに送れないよう急ごう。ノワールとマティーリアはもう先に行っているみたいだしな」


 自分たちよりも先へ進んでいるノワールとマティーリアをアリシアは見上げ、レジーナは自分たちが遅れていると知ると走る速度を上げる。このままではノワールとマティーリアに良いところを持ってかれてしまうとレジーナは少し焦っているようだ。

 レジーナがアリシアの隣まで移動すると、アリシアも走る速度を上げる。ジェイクとファウもそれ続くように速度を上げ、四人は魔族軍の下へ向かった。

 アリシアたちが全速力で走っている頃、ダークは少しずつ魔族軍との距離を縮めていき、魔族軍もダークに向かって突撃していく。迫ってくる悪魔族モンスターを見つめながらダークは大剣を右手で強く握り、目を薄っすらと赤く光らせる。

 ダークと悪魔族モンスターの距離がある程度まで縮まると、悪魔族モンスターたちの先頭にいるマッドスレイヤーがダークに飛び掛かり、大きく口を上げて噛み付こうとする。ダークは冷静に大剣を横に振って襲ってきたマッドスレイヤーを胴体から真っ二つにしてアッサリと倒した。

 マッドスレイヤーを倒すとダークは地面を強く蹴ってマッドスレイヤーの後ろにいた三体のヘルハウンドに一気に近づき、素早くヘルハウンドたちを斬り捨てた。

 ダークはヘルハウンドを倒すとその場で立ち止まり周囲を確認する。ダークの周りにはヘルハウンド、マッドスレイヤー、フェイスイーターのような下級の悪魔族モンスターが大量におり、ダークを取り囲んでいた。


「ほお、結構集まったな。これなら相手にとって不足はない」


 自分を囲む悪魔族モンスターたちを見ながらダークは楽しそうな口調で語り、その直後に悪魔族モンスターたちは一斉にダークに飛び掛かる。

 四方から悪魔族モンスターが襲ってくるという状況の中、ダークは焦ることなく大剣を構え直し、襲ってくる悪魔族モンスターに向かって大剣を振る。ヘルハウンドを両断し、フェイスイーターとマッドスレイヤーの首を刎ねるなどして、ダークは一体ずつ確実に悪魔族モンスターを倒していった。

 普通の戦士であれば、下級の悪魔族モンスターでも一体を倒すのに苦労するが、ダークにとっては下級の悪魔族モンスターを倒すなど難しいことではない。その証拠に、ダークは既に三十体近くの悪魔族モンスターを倒しているが一切疲れを見せていなかった。

 一通り悪魔族モンスターを倒すと、ダークは大剣を振って剣身に付いている悪魔族モンスターたちの血を払い落とす。ダークの周りには悪魔族モンスターの死体が大量に転がっており、悪魔族モンスターたちはダークが強いと本能で気付いたのか、鋭い目で見つめながら警戒している。


「さすがに私が自分たちよりも強いということに気付いたみたいだな。死にたくなければ投降しろ……と言っても、下級モンスターが理解できるはずないか」


 知能の低い下級モンスターを説得するという意味の無いことをやった自分が馬鹿らしく感じたダークは小さく笑いながら呟く。その間も悪魔族モンスターたちは攻撃することなく、ただダークを睨みつけていた。

 ダークが独り言を言っていると、彼の背後から一体の悪魔族モンスターが近づいて来る。身長3mはあり、牛の頭を尻尾、悪魔の翼を持ち、柄の長い骨の斧を持った二足歩行のモンスター、オックスデーモンだった。

 オックスデーモンに気付いたダークはゆっくりと振り返り、目の前に立っている中級の悪魔族モンスターを見上げた。オックスデーモンは赤い目で自分よりも小さなダークを睨み付けている。


「……人間、たかが下級悪魔を倒したくらいで調子に乗るなよ? 我ら中級悪魔の前では、お前たちなど鼠に等しいのだ」

「ほぉ、会話ができるのか? そう言えばこの世界の中級以上のモンスターは多くが理性を持っているのだったな」


 ダークはオックスデーモンを見ながら異世界の中級モンスターが理性を持っていることを思い出す。しばらくそんなモンスターと正面から向かい合うことが無かったのでダークはスッカリ忘れていた。

 オックスデーモンはダークが何の話をしているのか理解できなかったが、自分を小馬鹿にしていることだけは分かり、表情を険しくしながら斧の刃をダークに近づける。


「貴様、人間の分際で悪魔を侮辱するとはいい度胸だ。我を侮辱したこと、多くの同胞を殺したこと、その命で償わせてやる!」

「フッ、そういう台詞は軽々しく口にしない方がいい。小物と思われるぞ?」

「何だとぉっ!?」


 更に挑発してくるダークにオックスデーモンは我慢ができなくなったのか、ダークの頭上に斧を振り下ろして攻撃する。だが、斧は見えない何かに防がれ、ダークに当たること無く弾かれた。

 何が起きたのか理解できないオックスデーモンは自分の斧を見た後、視線をダークに向ける。ダークは大剣を肩に担ぎながらオックスデーモンを見上げていた。その姿を見たオックスデーモンは再び斧で攻撃するが、再び何かに弾かれてしまい、オックスデーモンは驚くの表情を浮かべる。


「無駄だ、お前では私に傷を付けることはできない」

「き、貴様、いったい何をした? 魔法か?」

「……これから倒される奴に説明する意味は、無い」


 そう言ってダークは軽くジャンプをしながら袈裟切りを放ち、オックスデーモンの体に大きな切傷を付ける。オックスデーモンは断末魔の声を上げながら後ろに倒れ、オックスデーモンの後ろにいた下級の悪魔族モンスターたちはオックスデーモンの巨体の下敷きとなった。

 ダークはオックスデーモンが死んだのを確認すると別の悪魔族モンスターを攻撃しようと体勢を変える。すると、頭上から無数の光の針が降り注ぎ、ダークの周りにいた悪魔族モンスターの体に刺さった。

 光の針を受けた悪魔族モンスターたちは一斉に倒れ、ダークは光の針が降ってきた方角を見る。そこには高くジャンプしてフレイヤを横に構えるアリシアの姿があった。どうやらアリシアが神聖剣技の白光千針波はっこうせんしんはで悪魔族モンスターたちを攻撃したようだ。

 アリシアはダークを見ながら小さく笑い、そのまま彼の前に着地した。


「加勢は不要だったか?」

「いや、この数を一人で相手にするのもいい加減面倒になってきたところだ。感謝する」


 苦戦はしておらず、ただ面倒だとだけ口にするダークを見て再び小さく笑う。そこへレジーナたちも悪魔族モンスターたちを倒しながらダークとアリシアに駆け寄り、無事に二人と合流した。


「お二人とも、ご無事ですか?」

「ああ、問題無い」


 ファウの方を見ながらダークは低い声で答え、ダークとアリシアが無事なのを確認したファウは笑みを浮かべる。神に匹敵する力を持つダークとアリシアが悪魔族モンスター如きに負けるはずないとファウ自身も分かっているが、やはり自分の主の安否が気になってしまうらしい。

 レジーナたちは得物を構えながら周囲にいる悪魔族モンスターたちを睨み、悪魔族モンスターたちは新たな敵が現れたことで警戒心を強くする。


「まだ結構いるわね……この後はどうするの、ダーク兄さん?」

「悪魔を倒しながら奴らに指示を出す魔族軍の兵士を見つけて倒していく。もし可能ならば捕まえろ、敵の情報などを聞き出す」

「分かったわ」


 笑みを浮かべながらレジーナはテンペストを構え、ジェイクとファウもタイタンとサクリファイスを両手でしっかりと握り、悪魔族モンスターたちを攻撃しようとする。すると、レジーナたちの近くに何かが勢いよく落下し、驚いた三人は落下してきた物を確認した。

 落ちてきたのは全身が黒焦げになったブラッドデビルで既に息絶えている。悪魔族モンスターが落ちてきたのを見てレジーナたちは目を見開き、ダークはゆっくりと上を向いた。


「……どうやらあの二人も張り切っているようだな」


 ダークの言葉を聞いてアリシアたちも上を向く。空中にはノワールとマティーリアが飛び回りながら大量のブラッドデビルたちと交戦している姿があり、落ちてきたブラッドデビルは二人が倒したものだとレジーナたちは気付いた。


「凄いですね、あの二人。あんなに多くのブラッドデビルを相手にしているのに全く苦戦していません」

「まあ、ノワールは当然として、マティーリアはレベル68でグランドドラゴンが人間の姿になった存在だからな。あんな雑魚悪魔相手に苦戦なんてしねぇさ」

「確かに、元ドラゴンなら人間のあたしたちよりも力は強いでしょうね」


 マティーリアが悪魔族モンスター相手に優勢に立っている理由を聞いてファウは納得の表情を浮かべる。ジェイクもマティーリアの勇姿を目にしながら小さく笑っていた。

 一方でマティーリアとあまり仲が良くないレジーナはマティーリアが活躍しているのが不満なのか、ムスッとした顔をしている。彼女もマティーリアの強さは認めているが、ライバル的存在が自分よりも目立っているのは納得できないらしい。

 レジーナが不満そうな顔で上を見ていると、一体のヘルハウンドがレジーナに飛び掛かる。よそ見をして隙を作っている今なら倒せると感じて襲い掛かったようだ。ところが、レジーナは素早く飛び掛かってきたヘルハウンドの方を向き、テンペストでヘルハウンドの胴体を切り裂いた。

 斬られたヘルハウンドは鳴き声を上げながら倒れてそのまま動かなくなり、ヘルハウンドの鳴き声を聞いたダークたちは視線をレジーナの方へ向ける。レジーナはテンペストは軽く振りながら、自分が倒したヘルハウンドの死体をジッと見つめた。


「あたし、今ちょっと機嫌が悪いの。襲うのなら死ぬ覚悟はしてよね?」


 僅かに低い声を出すレジーナを周りの悪魔族モンスターたちは睨みながら警戒する。レジーナを見たアリシアとジェイクは彼女が不機嫌なこととその原因に気付き、やれやれと言いたそうに苦笑いを浮かべた。


「さて、空中の二人が頑張っているのだ。私たちも負けないように戦うとしよう」


 前に出たダークは大剣を構え、アリシアもフレイヤを両手で持ち中段構えを取る。ジェイクとファウも二人を見て無言で頷き、レジーナは荒い鼻息を出しながらテンペストを逆手に持つ。

 悪魔族モンスターたちは構えるダークたちを見て攻撃される前にダークたちに襲い掛かろうとする。だが、悪魔族モンスターたちが動くよりも早くダークたちが動いた。

 ダークは悪魔族モンスターたちとの距離を詰めると大剣を大きく横に振り、目の前にいるヘルハウンド三体、マッドスレイヤー二体を両断する。そしてそのまま近くにいるフェイスイーターに向かって跳び、頭から真っ二つにした。

 ファイスイーターを倒したダークは大剣を払って剣身に付いている血を払い落とす。すると、ダークの背後からヘルハウンドとマッドスレイヤーが飛び掛かって来る。ダークは視線を動かして後ろの二体を確認すると、素早く振り返ってヘルハウンドとマッドスレイヤーを斬り捨てる。斬られた二体は声を上げる間もなく絶命し、死体は地面に落ちた。


「フム、やはりこの程度の相手なら暗黒剣技を使う必要も無さそうだな」


 転がっている悪魔族モンスターの死体を見下ろしながらダークは少しつまらなそうな口調で呟くと次の悪魔族モンスターと戦うため、大剣を霞の構えで持ち、目を薄っすらと赤く光らせた。

 ダークから少し離れた所ではアリシアとジェイクが悪魔族モンスターたちと交戦していた。アリシアはフレイヤを素早く振って次々と悪魔族モンスターを斬っていき、ジェイクもタイタンを勢いよく振って悪魔族モンスターを倒していく。

 ジェイクはタイタンを振り下ろしてマッドスレイヤーの一体を倒し、すぐに左にいるヘルハウンドを攻撃する。ヘルハウンドを倒したジェイクは一旦態勢を整えるために後ろへ跳んだ。すると、ジェイクの左側から一体のブラックギガントが近づき、ジェイクに右ストレートを放つ。


「チッ! コイツは避けれそうにねぇな」


 突然のブラックギガントの攻撃に反応が遅れたジェイクは悔しそうな表情を浮かべ、タイタンでブラックギガントの攻撃を防ごうとする。しかし次の瞬間、ブラックギガントの右腕が突然切り落とされ、大きな音を立てて地面に落ちた。

 右腕を切り落とされ、ブラックギガントが断末魔の声を上げて苦しんでいると、ブラックギガントの顔の前にいきなりアリシアが現れる。実は先程ブラックギガントの腕を切り落としたのはアリシアだったのだ。

 アリシアはブラックギガントを鋭い目で睨み付けながら素早くフレイヤを振ってブラックギガントの首を刎ねる。頭部を失ったブラックギガントの体は轟音を立てながら仰向けに倒れた。ブラックギガントを倒したアリシアは地面に下り立ち、チラッとジェイクの方を向く。


「大丈夫か?」

「ああ、すまねぇな、姉貴」

「油断するな? いくら英雄級のレベルに達しているお前でも中級モンスターの攻撃をまともに受ければ無傷では済まないぞ」

「ああ、肝に銘じておくぜ」


 忠告を聞いたジェイクは小さく笑い、それを見たアリシアは新しい悪魔族モンスターと戦うために移動する。アリシアが離れると、ジェイクはタイタンを構え直し、近づいて来る一体のフェイスイーターを見ながらタイタンに気力を送り込む。


「たった今見っともない姿を見せちまってな。お前を倒して名誉挽回させてもらうぜ……岩砕斬がんさいざん!」


 ジェイクは気力で刃が黄色く光るタイタンを上段構えに持ち、フェイスイーターに向かって走る出す。フェイスイーターは突撃して来るジェイクに太い腕で攻撃するが、ジェイクはその攻撃を難なくかわし、タイタンでフェイスイーターを攻撃した。

 攻撃を受けたフェイスイーターは声を上げながら倒れ、そのまま動かなくなる。ジェイクはフェイスイーターを倒すとタイタンを両手で握りながら次の敵を倒すために移動する。

 少し離れた所ではレジーナとファウも悪魔族モンスターたちと戦っている。大量の悪魔族モンスターに囲まれながらも、二人は一体ずつ確実に敵を倒していった。

 レジーナはマッドスレイヤーの引っ掻きや噛みつきを華麗にかわし、懐に入り込むとテンペストで横切りを放つ。腹部を斬られたマッドスレイヤーは鳴き声を上げながら横に倒れ、倒れたのを確認したレジーナは敵の攻撃を警戒し、すぐのその場を移動する。すると、レジーナの前に二体のヘルハウンドが立ち塞がった。

 ヘルハウンドたちはレジーナに正面から飛び掛かって襲い掛かる。だが、レジーナは慌てることなくテンペストを強く握り、気力を送りは始めた。


風神四連斬ふうじんよんれんざん!」


 戦技を発動させたレジーナは剣身が緑色に光るテンペストを素早く振り、二体のヘルハウンドをそれぞれ二回ずつ攻撃する。レジーナの攻撃を受け、ヘルハウンドたちは鳴き声を上げながら倒れた。

 ヘルハウンドを倒したレジーナはテンペストを構え直して体勢を整えた。するとそこへ、近くで戦っていたファウが合流する。


「レジーナさん、大丈夫ですか?」

「平気よ」


 レジーナが前を向いたまま返事をすると、ファウはサクリファイスを構えながらレジーナの方を向く。レジーナの顔からは先程までマティーリアが目立っていることに対する不満や悔しさは消えており、それを見たファウはモンスターと戦ったことでストレスが消えたのだなと思った。


「それにしても、かなりの数を倒したのにまだ沢山いますね」

「ええ、ダーク兄さんの言うとおり、さっさと魔族の兵士を見つけて何とかしないとこっちの体力が尽きちゃうわ」


 短時間で決着をつけるためにはやはり魔族兵を押さえるしかない、そう考えるレジーナとファウは魔族兵を見つけるためにこの状況を脱しようと自分の得物を握る。

 二人が気合を入れて悪魔族モンスターたちと戦おうとしていると、二体のブラックギガントが足音を立てながら二人に近づいて来る。レジーナとファウは近づいて来るブラックギガントたちに気付くと表情を僅かに鋭くした。

 今まで戦ってきた下級の悪魔族モンスターとは違い、今度は攻撃力と凶暴性が高い中級の悪魔族モンスター、今まで以上に注意しなくてはやられるとレジーナとファウは感じていた。

 レジーナとファウが警戒していると、ブラックギガントの一体が右腕を上げ、それをレジーナに向かて勢いよく振り下ろす。レジーナは前に跳んで振り下ろしをかわし、隣にいたファウも衝撃に巻き込まれないよう、左へ跳んで回避する。すると、もう一体のブラックギガントが攻撃をかわしたファウに右腕でパンチを放つ。ファウは咄嗟に後ろへ跳んでパンチをギリギリでかわした。


(この二体、ヘルハウンドたちと違ってちゃんと考えて行動している。中級モンスターは下級モンスターと違ってそれなりに知恵があるみたいね)


 上手く攻撃してくるブラックギガントを見ながらファウは心の中で呟き、ブラックギガントを睨みながらサクリファイスを中段構えで持つ。

 サクリファイスの剣身に埋め込まれている宝玉は四つの内、三つが赤く光っていた。敵を倒すたびに宝玉に力が蓄えられ、その力を解放すれば光る宝玉の数によって使用者のステータスを強化することができる。ファウはこれを使えば目の前にいる黒い巨人も楽に倒せるかもしれないと感じていた。

 ファウがサクリファイスを見ながら考えていると、再びブラックギガントがファウに向かって右腕でパンチを撃ち込んでくる。それを見たファウは素早くサクリファイスの力を解放させた。三つの宝玉から光が消え、代わりにファウの体が薄っすらと赤く光り出す。

 自身が強化されたことを確認したファウはブラックギガントを睨み、素早くパンチをかわして右腕の真横に回り込む。そして、サクリファイスを勢いよく振り下ろし、ブラックギガントの腕を切り落とす。ブラックギガントは腕を切られたことで声を上げながら表情を歪めた。

 

魔空弾まくうだん!」


 苦しんでいるブラックギガントを睨みながらファウは素早く暗黒剣技を発動させる。サクリファイスを大きく振って剣身から黒い光球を放ち、放たれた光球はブラックギガントの顔面に直撃して爆発した。顔が吹き飛んだブラックギガントは膝を突き、そのまま俯せの倒れて動かなくなる。


「フゥ、思ったよりも楽に倒せたわね……」


 サクリファイスと暗黒剣技のおかげでブラックギガントを倒すことができたファウは軽く溜め息をつく。昔の自分だったらブラックギガントを倒すのに苦労していたはずだが、今では楽に倒すことができる。それだけの力を与えてくれたダークにファウは心の底から感謝した。


覇獣爪斬はじゅうそうざん!」


 レジーナの叫ぶ声が聞こえ、ファウはフッとレジーナの方を向く。そこには剣身を緑色に光らせながら袈裟切りを放ち、ブラックギガントの体に大きな傷を付けたレジーナの姿があった。

 ブラックギガントは体の切傷から血を噴き出しながら後ろに倒れ、仰向けになったまま息絶える。レジーナはブラックギガントを倒すとすぐに周囲を見回し、自分たちを攻撃しようとする悪魔族モンスターがいないか確認した。幸い、悪魔族モンスターたちは自分とファウを取り囲んだまま動かずにジッとしている。

 レジーナが周囲を警戒しているとファウが合流し、お互いに背中を合わせながら武器を構える。


「悪魔たち、攻撃せずにジッとしているけど、どうしたのかしら?」

「分かりません。もしかすると、あたしたちがブラックギガントを倒すのを見え恐怖しているかもしれませんね」

「う~ん、そうかしら? コイツらは下級のモンスターでそんなに知恵も無いからあたしたちが自分よりも強いって気付かないんじゃない?」

「そうとも限りませんよ? 知能の低いモンスターでも本能で敵が恐ろしい存在なのか知ることができますから」

「……その辺は動物と同じってことね」


 下級モンスターも動物と似たような存在だとレジーナは小さく笑い、ファウはモンスターと動物が一緒と考えるレジーナに苦笑いを浮かべた。

 レジーナとファウが会話をしている間、悪魔族モンスターたちは横や後ろに移動しながら二人を睨んでいる。やはり、睨んでいるだけで攻撃しようとはしなかった。


「これはチャンスかもしれないわ。敵が怯んでいる内に他の場所へ移動して魔族の兵士を見つけましょう」

「ハイ」


 悪魔族モンスターたちの動きが鈍くなっている間に魔族兵を見つけ出そうと考えたレジーナとファウは周囲を見回し、悪魔族モンスターの数が少ない場所を見つける。二人は同時に走り出し、悪魔族モンスターを倒しながら魔族兵を探しに向かった。


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