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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百四十六話  少年魔導士との再会


 一国の王が他国で起きている戦争の最前線に向かう、そう言われて驚かない方がおかしい。ルッソたちは目を見開きながらダークを見ていた。


「ダ、ダーク殿、今なんと?」

「私と此処にいる者たちが最前線へ行く、と言ったのだ」

「じょ、冗談は止していただきたい。別の国で起きてる戦争の最前線に他国の王が行くなどあり得ないことだ」


 ルッソは少し慌てた様子で立ち上がり、ダークが最前線に行くのを止めようとする。ルッソの後ろに控えている護衛の騎士や魔法使いたちもそのとおりだ、という表情を浮かべながらダークを見ている。


「私は冗談を言っているつもりはない。私自ら最前線へ向かい、魔族軍の戦力を確認した後、最前線へ送る部隊を編成し、マルゼント王国に送るつもりでいるのだ」

「そ、それならわざわざダーク殿が向かわなくても、誰か別の者に行かせればよいのでは……」

「いいや、魔族軍がどれほどの戦力を持っているのか分からない以上、私がこの目で確かめる必要がある。他人から聞くのと自分の目で見るのとでは全く違うからな。それに、魔族がどのような存在なのかも興味がある」


 まるで好奇心旺盛な子供のようなダークを見てルッソは複雑そうな顔をする。護衛の騎士や魔法使いたちもダークが何を考えているのか理解できずに困ったような顔をしていた。

 ルッソたちが驚く中で、モナとハッシュバルはジッとダークを見ている。ゼルデュランの瞳の一件でダークがどんな人物なのかある程度把握していたためか、ルッソたちのような驚き方はしなかった。


「だ、だが、ダーク殿が他国の戦場に向かい、何か問題が起きれば国民たちは大混乱するのではないだろうか? もし貴殿に何かあれば、我が国とビフレスト王国との関係も最悪な状態になる可能性も……」

「その点については何も心配はいらない。例え私の身に何かが起きても、マルゼント王国には一切責任は取らせない。保障しよう」

「しかし……」

「それに、自分で言うのもなんだが、私はこう見えてかなり強いぞ。前線に出れば戦況を変えることも可能だ。因みに、後ろにいるアリシアたちも全員英雄級の実力を持っている」


 ダークの言葉を聞いたルッソは自身の耳を疑う。ダークの後ろにいる五人が全員英雄級の実力を持っている、他の国でも二人か三人しか存在しないと言われている程の実力者が目の前に五人もいると知れば誰だって驚く。現にハッシュバルや護衛の騎士、魔法使いたちも目を丸くしながら控えているアリシアたちを見ていた。

 ルッソたちが驚いている時、モナは僅かに目を鋭くしながらアリシアたちを見ている。ゼルデュランの瞳の一件で彼女はダークたちの戦いを見ており、その時にダークたちが常人では考えられない力を持っていることを知った。あの時からモナはダークたちは英雄級の実力者ではないかと薄々感じていたのだ。

 目の前にいるダークとその後ろにいるアリシアたちが英雄級の実力を持っており、彼らが加わればマルゼント王国軍の戦力を格段に強化できるとモナはダークたちを見ながら確信した。


「陛下、ダーク陛下たちに戦いに参加していただきましょう」

「モナ、お前まで何を言うのだ!?」


 モナの発言を聞いたルッソは驚きながら彼女の方を見る。いくらダーク自身の口からがマルゼント王国に責任は取らせないと聞いても、やはり他国の王を戦地へ行かせることにルッソは抵抗を感じているらしい。


「ダーク陛下たちは恐らく……いいえ、間違いなく私たち四元魔導士を凌ぐ実力をお持ちです。そんな方々が前線に出てくだされば兵たちの士気も高まり、魔族軍を押し戻すことができるはずです」

「そ、それはそうかもしれんが……」

「私はゼルデュランの瞳の一件でダーク陛下たちの実力と勇姿を目にしました。この方々なら魔族に負けることはない、必ず我々を勝利へ導いてくださる、私は確信しています」


 力強く語るモナを見てルッソは口を閉じた。モナは軍師として頭の回転が速いだけでなく、人を見る目も優れている。そんなモナが感情の籠った口調で語る姿を見て、ルッソは本当にダークは強く、魔族に負けたりはしないのかもしれないと感じ始めた。


「モナ殿の言うとおりだ、私たちは魔族などに負けたりはしない。故に、私たちが死ぬこともビフレストとマルゼントの関係が悪くなることもない。安心してほしい」


 ルッソがモナを見ながら黙り込んでいると、背後からダークが語り掛けてくる。それを聞いたルッソはゆっくりと振り返ってダークの方を向く。ダーク自身が戦場に出て戦うと語り、責任も取らせないと言うのにこのままダークの参加を拒否し続けるのは逆にダークに失礼だとルッソは感じた。

 ダークを見たルッソは小さく俯いて黙り込み、どうするか考える。ダークたちは考え込むルッソを無言で見つめ続けていた。やがて、ルッソは顔を上げてダークを真剣な目で見つめる。


「……では、よろしくお願いする」


 ルッソがダークに最前線で戦うことを頼むとダークは小さく笑い、アリシアたちも笑みを浮かべる。モナとハッシュバルの二人もルッソの答えを聞いて笑っているが、騎士と魔法使いたちは大丈夫なのか、と言いたそうな顔をしていた。


「ただ、先程も言ったように貴殿はビフレスト王国の王、もし自身の身に危険が及んだ場合は迷わずに戦線を離脱してほしい」

「ああ、分かっている」


 ダークはルッソの忠告を聞いて頷き、ルッソは危険になったら後退するとダークが約束したため、無茶はしないだろうと安心する。心配していた騎士と魔法使いたちもダークとルッソの会話を聞いてとりあえず納得の表情を浮かべた。

 会話を聞いていたレジーナたちは心の中でレベル100のダークに危険が及ぶはずがないと感じていた。だが、ダーク本人は口では負けないと言っていたが魔族軍に対して少し警戒心を抱いている。

 これまで戦って来た人間や亜人、モンスターとは違い、今度の敵は全く別の世界、魔界から来た魔族で、これまで戦って来た敵やモンスターよりも強い敵がいる可能性がある。場合によっては本気を出して戦う必要があるかもしれないとダークは感じていた。

 ダークたちが最前線に向かうことが決まると、ダークとルッソはソファーに腰を下ろす。アリシアたちやモナたちもそれぞれ自分の主の後ろに立ち、座っているダークとルッソに注目する。


「もう一度要請内容について確認をする。我々ビフレスト王国はマルゼント王国に侵攻している魔族軍と戦うために力を貸し、魔族軍に勝利した暁には我が国とマルゼント王国は同盟を結ぶ」

「ウム」

「そして、最初に前線に向かうのは私とこの場にいるアリシアたちで、戦況によって我が国から新たに増援を送る。よろしいか?」

「ああ、それで結構だ」

「では、契約成立だ」


 話がまとまるとダークはそっと手を出し、それを見たルッソも手を出して二人は握手を交わす。それはビフレスト王国とマルゼント王国が魔族軍と戦うために手を取り合った瞬間だった。

 救援の話し合いが終わると、ルッソは一気に疲れが出たのかゆっくりとソファーにもたれ、モナたちも緊張が解けたのか軽く息を吐いた。アリシアたちはルッソたちの反応を見ると、疲れているなと感じたのか、マティーリア以外の四人は苦笑いを浮かべる。


「さて、会談も問題無く終了したことだし、私はマルゼント王国へ向かう準備にかかるとしよう。ルッソ殿たちも長旅で疲れているだろう、部屋を用意させるので今日はゆっくりと休んでほしい」

「感謝する、ダーク殿。ところで、出発の準備はどれ程で整うのだろうか?」

「ん? わずか数人が向かうだけだから、それほど長い時間は掛からないと思うが……まぁ、今日中には整うはずだ」

「そ、そうか……」


 ダークの答えを聞いたルッソは少し安心したような表情で呟く。そんなルッソを見たダークやアリシアたちは不思議そうな反応を見せた。


「どうかされたか?」

「いや、救援を頼んでおいて厚かましいのだが、できるだけ早くマルゼントへ向かえるようにしてもらいたいのだ。我々がこうしている間にも、我が国の兵士や民たちが魔族軍に襲われ、傷つけられていると思うと……」

「成る程」


 ルッソの言葉を聞き、ダークは低い声で呟く。一国の王として、自分の国に住む者たちが心配なのは当然のこと。そんなルッソの気持ちがダークはなんとなく分かるような気がしていた。


「そう言うことなら、できるだけ早く準備をしよう」

「すまない」

「ただ、今日一日はこの町で休んでもらう。いくら国民のためとは言え、国王である貴殿やモナたちが無茶をし、倒れでもすれば大変だからな」

「だ、だが……」

「心配ない、こちらには転移魔法を使える者がいる。その者の転移魔法を使えばあっという間にマルゼント王国へ戻れる」

「転移魔法?」


 ビフレスト王国に転移魔法が使える者がいると知ったルッソは反応し、騎士と魔法使いたちは意外そうな顔をする。モナとハッシュバルは転移魔法を使える者に心当たりがあるのか、驚いたりせずにダークを見つめていた。


「まさか転移魔法が使える者までいるとは……因みにその魔法使いとは……」

「ノワールと言う先程の会談で話して私の部下だ」

「ノワール、ゼルデュランの瞳の一件に協力してくれたという少年か……」

(やっぱり……)


 ダークの口から出た名前を聞き、モナは心の中で呟く。ゼルデュランの瞳の一件で彼女はノワールが転移魔法を使うのを見ており、先程のダークとルッソの会話の内容から、ダークの言っていた転移魔法を使える魔法使いはノワールで間違いないとモナは考えていた。

 ハッシュバルも一度だけノワールが転移魔法を使う姿を見ていたため、モナのような確信はしていなかったが、ノワールである可能性は高いだろうと思っていた。


「因みにそのノワールと言う少年は何処に? ゼルデュランの瞳の一件でも力になってもらったので、一度会ってみたいのだが……」


 ルッソは転移魔法が使えるダークの部下がどんな姿をしているのか気になり、ダークに居場所を尋ねる。すると、ダークは小さく笑い出し、ルッソは笑うダークを見て小首を傾げた。


「フフフッ、失礼、目の前にいるので教える必要は無いと思っていたが、考えてみればモナ殿やハッシュバル殿は今の姿のノワールと会うのは初めてだったな」

「へっ?」


 ダークの言っていることの意味が分からず、モナは思わず気の抜けたような声を出してしまう。ルッソやハッシュバルもダークの言葉の意味が分からずにまばたきをしている。

 ルッソたちの反応を見たダークは再び小さく笑い出し、チラッと肩に乗っている子竜の方を向いた。


「ノワール」


 ダークがノワールに呼びかけると、肩に乗っていた子竜はやれやれ、と言いたそうな顔で溜め息をつき、小さな竜翼をはばたかせて飛び上がった。

 ルッソやモナたちは飛び上がった子竜を目で追い、子竜はダークが座るソファーの隣まで移動した。その直後、子竜の体が光り出し、ルッソたちは光り出した子竜を見て驚きの反応を見せる。

 やがて光が治まると、そこには二本の角を生やした幼い少年が立っており、ルッソや騎士、魔法使いたちは目を丸くする。特にモナとハッシュバルの二人は驚愕の表情を浮かべていた。


「ノ、ノワール君!?」


 モナは少年の姿を見て思わず名を叫ぶ。ルッソは目の前にいる少年がゼルデュランの瞳を壊滅させるために力を貸してくれた魔法使いの少年だと知ると、驚きのあまり表情を固める。同時にモナたちは子竜が消えてノワールが現れたことから、ダークの肩に乗っていた子竜がノワールだったのだと気付く。

 驚くルッソたちをダークはフルフェイスの兜の下でニッと笑っており、アリシアたちも驚くルッソたちが面白いのか笑いを堪えていた。そして、ノワールも苦笑いを浮かべながらルッソたちを見ている。

 ノワールはしばらく苦笑いを浮かべていると、苦笑いを消して軽く深呼吸をし、ルッソたちの方を見ながら軽く頭を下げる。


「ビフレスト王国主席魔導士のノワールと申します。今までルッソ陛下の前におりましたのに、名乗り出ずにいて申し訳ありませんでした」

「え? あ、ああ、気にしないでくれ。君がノワールか……こちらこそ、ゼルデュランの瞳の件では世話になった」


 動揺していたルッソはノワールを見ながら首を軽く振り、ノワールは顔を上げるとルッソを見ながら小さく笑みを返した。

 こんな幼い少年がダークの部下であり、ビフレスト王国の主席魔導士であるとは信じられないのか、ルッソやハッシュバルたちはまばたきすることなくジッとノワールを見つめ続けていた。

 ルッソたちがノワールを見ていると、ノワールはチラッとモナの方を見る。モナは未だに驚いており、表情を変えずにノワールを見つめていた。


「モナさん、お久しぶりです」

「ノ、ノワール君、君はドラゴンだったのですか?」

「隠していてすみません」

「い、いえ、驚きはしましたが責める気はありません。頭に角が生えているから私たちはてっきり亜人かと……」


 まだ若干動揺しているようなモナを見てノワールは再び苦笑いを浮かべる。確かに変身したノワールは人間の子供に角が生えているだけの姿なので、ノワールの正体を知らない者が見ればエルフのような亜人と勘違いしてしまってもおかしくなかった。

 ノワールが苦笑いを浮かべながたモナを見ていると、ハッシュバルがモナの後ろからノワールを覗き込むように見つめる。


「しかし、まさかノワール君がビフレスト王国の主席魔導士だったとは、それならあの強さも納得がいくな」


 ハッシュバルはゼルデュランの瞳との戦いでノワールが敵を圧倒する姿を思い出して納得した表情を浮かべる。モナもハッシュバルの言葉を聞いて、ゼルデュランの瞳のボスだったマチスをノワールが瞬殺した光景を思い出し、改めて目の前にいる少年は自分たちよりも遥かに強いのだと感じた。

 モナとハッシュバルが興味津々にノワールを見ていると、ルッソが二人に聞こえるよう力の入った咳をし、その咳を聞いたモナとハッシュバルは現状を思い出したのか、ハッと顔を上げて姿勢を正した。


「失礼した。それでダーク殿、もう一度確認するが、そちらのノワール君が我々をマルゼントへ送るための転移魔法を使うのだな?」

「そのとおり、転移門ゲートという転移魔法なら一度に大勢をマルゼントへ転移させることができる」

「ゲ、転移門ゲート!?」


 転移魔法の名を聞いて、ハッシュバルは思わぞ声を上げる。モナと魔法使いたちも目を見開きながら驚いていた。

 ルッソは突然声を上げたハッシュバルに驚いて彼の方を向き、アリシアたちもハッシュバルの声を聞いて少し驚いた顔をしている。


「ハ、ハッシュバル、いったいどうした? 何をそんなに驚いている?」

「陛下、転移門ゲートはこの世界で最高と言われている最上級魔法の一種なのです」

「何っ! 英雄級の実力者でもほんの一握りしか習得できないと言われている、あの最上級魔法か!?」


 説明を聞いたルッソもハッシュバルと同じように驚きながら声を上げ、ハッシュバルはルッソを見ながら無言で頷く。極一部の魔法使いしか習得できない最高の魔法を目の前にいる少年が使えると聞かされれば驚くのは当たり前だった。

 普通であれば、幼いノワールが最上級魔法を使えるなどあり得ないと誰も信じないだろうが、モナは疑っておらず、寧ろノワールなら本当に使えるかもしれないと思っていた。


「……ダーク殿、本当にノワール君は最上級魔法の転移門ゲートを使えるのか?」

「勿論……」


 言葉に詰まることなく、即答するダークを見てルッソは口を小さく開けたまま黙り込む。モナたちもダークを無言で見つめ続けていた。


「……信じられないか?」

「あ、いや、疑っているわけでは……」

「いや、一部の者しか使えない魔法を幼いノワールが使えると聞かされれば疑うのは当然のことだ。最上級魔法は長年、血の滲むような努力をした者でも習得するのが難しい魔法と言われているからな」


 ダークは疑うような素振りを見せたルッソたちを責めることなく、逆に疑うのは当然だと静かに語る。ルッソたちは機嫌を悪くすることなく、自分たちの考えが正しいと考えるダークを意外そうな顔で見ていた。


「だから、ノワールが最上級魔法を使えることを証明するため、明日、マルゼントへ向かう時に転移門ゲートを使わせる」

「そ、そうか……」


 ルッソはダークの言葉を聞くと、複雑そうな顔をしながら頷く。モナたちも最上級魔法を見せてくれるのなら、とりあえず見てみようと考えていた。その中には最上級魔法がどれほどのものなのだろうと興味を抱く者もいた。


「とにかく、ノワールがいれば貴殿らは一分と掛からずにマルゼントへ戻ることができる。だから今日は城でゆっくりと旅の疲れを癒してくれ」

「……では、そうさせてもらおう」


 目を閉じながらルッソは呟く。どの道、マルゼント王国へ向かうにはダークたちの準備が整うのを待つしかない。それなら、準備が整うまで体を少しでも休め、魔族軍と万全な状態で戦えるようにしようとルッソは考えた。

 モナたちも異議は無く、素直にダークの申し出を受けることにした。モナとハッシュバルは黙っているが、護衛の騎士や魔法使いたちは休めることが嬉しいのか小さく声を漏らした。


「こちらの準備が整うまでの間、部屋で休むなり、町へ行くなり、城内を見て回るなり自由に行動してくれ。何か用がある時はメイドたちに声を掛けてくれればいい」

「かたじけない」


 ルッソが礼を言うと、ダークは立ち上がって部屋から出て行き、アリシアたちもそれに続くように退室する。

 ノワールはアリシアたちが出て行くと、モナの方を向いて小さく笑ってから部屋を出て行き、モナもそんなノワールの姿を黙って見つめていた。

 ダークたちが退室した直後、メイドが部屋に入り、ルッソたちを用意した部屋へと案内する。とりあえずビフレスト王国に救援を要請することができたため、ルッソたちは安心しながら部屋へと移動した。

 用意された部屋に案内されたルッソたちは部屋で休む、城内を見学する、街へ出るなどして自由に時間を過ごす。城内を見学する者はルギニアスの王城とは違う雰囲気の城内を見て驚き、街へ向かった者もモンスターと共に賑やかに過ごす住民たちを見て目を丸くした。

 時が流れ、夕食の時間になるとルッソたちはメイドたちに案内されて王城の大食堂へ移動する。そこでルッソたちは今まで見たことのない料理を目にして呆然とした。王族であるルッソでも食べたことのない料理が並び、ルッソたちは驚きと興奮を感じながら用意された料理を口にする。食事が済むと、ルッソたちは部屋へと戻り、就寝時間までのんびりとくつろいだ。

 

――――――


 翌日、朝食を済ませたダークたちは王城の入口前に集まっていた。ダークの後ろには武装したアリシア、レジーナ、ジェイク、マティーリアが立っており、肩には子竜姿のノワールが乗っている。

 ダークたちの近くにはルッソたちが乗ってきた馬車が停車しており、その周りには馬に乗った護衛の騎士たちが出発の時を待っていた。


「さて、今回はどんな戦いになるのかしらね」

「今度の敵は魔族だからな。今までのように人間と戦う時の感覚で挑むのは危険だ、油断するなよ?」

「大丈夫、心配しないで」


 ジェイクの忠告を聞いたレジーナは余裕の笑みを浮かべ、それを見たジェイクは相変わらずだな、と呆れような顔をしており、マティーリアはやれやれと首を横に振った。

 今回の救援要請でマルゼント王国の戦場へ向かうため、レジーナとジェイクは昨日の内に家族にマルゼント王国へ行くことを伝えた。家族が戦場へ行くと聞けば普通は止めたり、心配したりするのだが、二人の家族であるモニカやダンたちは今回のような事態には慣れてしまっているのか、レジーナとジェイクが戦場に行くと知っても止めたりはしなくなっていた。

 家族の反応にレジーナとジェイクは少し寂しさを感じていたが、モニカたちは無事に帰ってきてほしいと伝え、二人が無事に帰ってくることを願っていた。レジーナとジェイクはそんな家族たちの想いに答えるため、今回も必ず生きて帰ってくると誓う。


「ところで、冒険者は戦争には参加できないと聞きましたが、レジーナさんたちは参加しても大丈夫なんですか?」


 ファウが不思議そうな顔をしながら声を掛けると、レジーナとジェイクはファウの方を向く。

 確かに冒険者は戦争が起きた場合、自分たちがいる町やその町の住民たちを守ることになっており、軍のように最前線に出て敵と戦うことはない。それは大陸に存在する国全てに共通することであるため、ファウは疑問に思っていたのだ。


「確かに冒険者は自国が関わっている戦争で最前線に出ることはできん。じゃが、他国で起きた戦争であれば話は別じゃ。他国で戦争が起き、その国から救援要請を受けたのであれば、冒険者でも最前線に出て戦うことはできる。ただしその場合、冒険者たちが命を落としてもそれは自己責任になる」

「つまり、冒険者たちが死んでも要請した国には一切責任がないってことですか?」

「そうじゃ、だから救援要請があった時、冒険者にはその救援を拒否する権利があるのじゃ」

「成る程……」


 マティーリアの説明を聞いたファウは納得の表情を浮かべ、二人の会話を聞いていたレジーナは腕を組みながら頷く。その顔はまるで自分が説明したかのようなドヤ顔で、ジェイクはそんなレジーナをジト目で見つめていた。


「お主も若殿の協力者なら、同じ協力者である妾たちのことも少しは勉強した方がよいぞ?」

「ハ、ハイ、頑張ります」


 ファウは少し力の入った声を出しながら返事をし、そんなファウを見たマティーリアは小さく笑う。

 馬車の中にいたモナは遠くで会話をしているレジーナたちを見ており、いったい何を話しているのだろうと不思議に思っていた。すると、モナたちが乗る馬車にダークが近づき、馬車の扉をノックする。ノックを聞いたモナやルッソたちは視線をダークに向け、馬車の扉を開けた。


「ルッソ殿、そろそろ出発するが、転移先はマルゼント王国の首都、ルギニアスでよろしいか?」

「ああ、まずルギニアスに戻って最前線に送る部隊を再編成しなければならない。その再編成が完了した後、ダーク殿たちにはその部隊と共に最前線へ向かってもらう」

「了解した。では早速転移門を開かせよう……ノワール」


 ダークが肩に乗っているノワールに声を掛けると、ノワールは飛び上がり、子竜の姿から少年の姿へと変わる。ルッソたちは姿を変えたノワールを見ておおぉ、と言いたそうな表情を浮かべた。ノワールが変身する光景を見るのは二度目だが、まだ慣れていないようだ。

 変身を終えたノワールは街がある方角を向いて右手を前に出す。すると、ノワールの右手の前に紫色の魔法陣が展開された。


転移門ゲート!」


 ノワールが叫ぶと魔法陣が光り出し、ダークたちの前に大きな深紫色の転移門が開かれ、それを見たルッソたちは目を大きく見開きながら驚いていた。


「こ、これが転移門ゲート……」

「あの少年、本当に最上級魔法が使えたのか……」

「す、凄い、どうやってこれほどの魔法を習得したんだ?」


 転移門を見ながら護衛の騎士や馬車の中の魔法使いたちは驚きの言葉を口にする。ルッソやモナたちも初めて目にする最上級魔法に言葉を失っていた。


(す、凄い、魔法を極めた者だけが辿り着くと言われている最上級魔法、その中でも習得が特に難しいと言われている転移門ゲートを扱えるなんて……ノワール君、貴方は本当に何者なのですか?)


 転移門を見ていたモナは視線をノワールに向け、心の中でノワールは何者なのか疑問に思う。同時に、最上級魔法を扱えるノワールの主人であるダークの正体についても疑問に思っていた。

 ノワールは転移門が開くと右手を下ろし、ダークの方を向いて微笑みを浮かべた。


「マスター、問題無く開きました」

「ご苦労だった」


 労いの言葉にノワールは満面の笑みを浮かべて嬉しそうにする。そんなノワールを見たダークもフルフェイスの兜の下で小さく笑っていた。

 ダークは視線をノワールからルッソに変えると、ルッソは馬車の中で転移門を見ながら驚いており、それを見たダークは声を掛ける。


「さあ、これでマルゼント王国まで転移できるようになった。あとは転移門に向かって前進すればいい」

「お、おお、そうか。では、早速ルギニアスに戻ろうと思うが、ダーク殿たちは馬などを用意してよいのか?」

「ああ、転移門を潜ればルギニアスの町の正門前に出るからな。馬は必要ない」


 転移門の先はルギニアスの町の前だと聞いたルッソやモナたちは意外そうな顔をする。てっきりルギニアスの町から少し離れた所に転移すると思ったのだろう。

 だが、一秒でも早く増援を送り、最前線にいる兵士たちを助けたいと思っているルッソにとってはルギニアスの町の近くに転移できることは都合がよく、すぐに増援を送る準備に取り掛かれると表情を僅かに鋭くした。


「よし、急いでルギニアスに戻るぞ」


 ルッソの言葉を聞いてモナたちもルッソを見ながら頷き、ダークもルッソを見ながら目を薄っすらと赤く光らせた。

 魔法使いが馬車のドアを閉じると、御者は周りにいる騎士たちや別の馬車の御者に指示を出す。すると、馬車は転移門に向かって動き出し、騎士たちも馬を前進させる。馬車と馬はゆっくりと転移門を潜ってマルゼント王国へ転移し、その光景をダークたちはジッと見つめていた。


「さて、魔界から来た魔族軍、どれほどの実力を持っているのだろうな」


 ダークはそう呟くとルッソたちの後を追うように歩き出し、アリシアたちも転移門に向かって歩き出す。ルッソたちが乗る馬車、騎士たちが乗る馬が全て転移門を潜った後にダークたちも転移門を潜りマルゼント王国へ転移した。

 王城前から誰もいなくなると、転移門は静かに消滅した。


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