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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十八章~魔界の侵略者~
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第二百四十五話  救援要請


 青空の下に広がる平原、その中を三台の豪華な馬車が縦に並んで走っており、その周りをマルゼント王国の騎士が乗った馬が十数頭走っている。三台の馬車の内、前後の馬車には魔法使いたちが四人ずつ乗っており、中心の馬車にはルッソとモナとハッシュバル、そして魔法使いが一人乗っていた。

 現在、ルッソたちはビフレスト王国に向かっている。目的は魔族軍との戦いで力を貸してもらうよう救援要請をするためだ。一週間前、親書をビフレスト王国に送り、返事がくるとルッソたちはすぐにビフレスト王国に出発した。

 本来ならもっと早く出発したかったのだが、親書を届ける兵士が戻ってくるのと、ルッソ自身が王としての職務などを片付けるのに時間が掛かってしまい、結局遅れて出発することになってしまったのだ。

 最前線で戦う兵士たちのために一秒でも早く救援要請をしたルッソは急いでビフレスト王国に向かうよう馬車を走らせていた。


「あとどのくらいでビフレスト王国の首都に到着する?」


 ルッソは目の前に座っている魔法使いに到着時間を尋ねると、魔法使いは窓から外を眺めて現在地を確認した。


「既に我々はビフレスト王国領には入っております。先程、テラームの町を通過しましたので、もう間もなく到着すると思われます」

「そうか、国のために戦っている兵士たち、そして国民のためにも急がなくては……」


 魔族軍と戦う兵士たちや怯えている国民たちを救いたいルッソは早く目的地である首都バーネストに到着してくれと願い、モナたちはそんなルッソを見ながら彼は本当に国民を大切に思っている方だと感服した。


「しかし、陛下が直接要請に向かわれる必要は無かったのではないでしょうか? 魔族軍との戦争で緊迫している中、国王である陛下が国を離れられると、国民たちが不安がる可能性があります。我々だけでもよかったのでは……」


 ルッソの隣に座っているハッシュバルがルッソを見ながらマルゼント王国に残るべきではと語り、モナと魔法使いもルッソを見ながらそのとおり、と言いたそうな顔をする。


「確かにこんな状態で王が国を抜けるのはどうかと思う。だが、今回の要請は絶対に失敗はできん。お前たちを信じていない訳ではないが、少しでも成功する可能性を上げるため、王である私が自らビフレスト王と交渉しようと思ったのだ」

「国のため、そして国民のために陛下御自身がビフレスト王国に出向く、と言うことですか。失礼しました、陛下の御意思に気付かず、生意気な口を……」

「良い、お前も国を思って言ったことだ。気にするな」


 ハッシュバルもマルゼント王国のことを考えて発言したのだと知っているルッソは取り乱したりなどせずに落ち着いてハッシュバルに声を掛ける。ハッシュバルはそんなルッソに感謝し、無言で頭を下げた。

 ルッソたちが会話をしている間も馬車は揺れ、少しずつバーネストに近づいている。外の様子を窺っていたモナはあることに気付き、ルッソたちの方を向いた。


「ところで、ビフレスト王国の首都に到着した後、我々はどうすればよろしいのでしょう? 直接王城へ向かうのでしょうか?」

「ああ、ビフレスト王国からの親書には、首都に到着したらそのまま王城に向かうよう書かれてあった。そこでビフレスト王国のメイドが出迎えるとのことだ」

「そうですか、確かあの国は我々の国と同じように亜人と共存する国でしたね?」


 モナは自分が知っているビフレスト王国の情報を口にし、それを聞いたルッソはモナを見ながら頷く。


「そのとおりだ。ただ、我が国と明らかに違うのは、モンスターが町で住民たちと共に暮らしている、と言うことだ」

「モンスターと共存ですか、いまだに信じられませんね」


 ハッシュバルは人間や亜人に危害を加えるモンスターが町で普通に暮らしているなどあり得ないと思っており、難しそうな表情を浮かべる。

 ルッソやモナもビフレスト王国の情報を初めて聞いた時は驚いたが、ビフレスト王国の現国王であるダーク・ビフレストはモンスターたちを操り、デカンテス帝国を打ち負かしたと聞いているので、真実なのだろうと考えるようになった。


「モンスターたちは全て、ダーク陛下が特別なマジックアイテムなどを使って操っており、町の中では決して暴れないらしい。だが、武器を手にしたり、町の中で問題を起こせばモンスターたちも襲ってくるようだ。お前たちも町でモンスターを見かけても、決して魔法で攻撃しようなどとは思うな?」

『ハッ!』


 忠告を聞いたルナたちは声を揃えて返事をした。もしバーネストで問題を起こせば、モンスターに襲われるだけでなく、救援を断られる可能性だってある。ルッソは絶対にビフレスト王国で問題を起こしてはならないと、自分自身にも心の中で言い聞かせた。

 ルッソたちがバーネストに到着した時のことを話していると、馬車の扉をノックする音が聞こえてくる。ルッソたちはノック音がした方を向くと、馬車の外で馬を走らせながらこちらを向くエルフの騎士の姿があり、魔法使いは馬車の扉を開けた。


「陛下、ビフレスト王国の首都、バーネストが見えてきました」

「何?」


 騎士の言葉を聞いたルッソは窓から進行方向を確認する。確かに遠くに大きな町があるのが見え、それを見たルッソはようやくビフレスト王国の首都に着いたか、と小さく笑う。モナたちも反対側の窓から遠くに見えるバーネストを確認して驚いたような顔をしていた。


「予定ではあと二三十分ほどで到着すると思われます」

「分かった、報告ご苦労」


 ルッソがそう言うと騎士は軽く頷いて馬を馬車から離れさせ、魔法使いは開いている扉をゆっくりと閉めた。もうすぐバーネストに到着する、ルッソはそう考えながら座って真剣な表情を浮かべる。


「さて、まもなくビフレスト王国の首都に到着する。彼らが我々を助けてくれるかは交渉次第だ。失敗は許されない、皆、頼むぞ」


 交渉が成功するよう、ルッソはモナたちに協力するよう頼む。ハッシュバルと魔法使いは必ず成功させる、と言いたそうな顔で無言で頷く。

 ルッソたちが真剣な表情を浮かべる中、モナだけは和らげな表情を浮かべながら上を向いていた。ルギニアスの町でモルドールから言われた、絶対に力を貸してくれるという言葉を思い出した彼女は、どういう訳か失敗するとは思えなかったのだ。

 ルッソたちを乗せた馬車はバーネストに向かって真っすぐ平原を走り、他の馬車や騎士たちを乗せた馬車もバーネストに向かって走って行った。


――――――


 しばらく走り、首都バーネストの到着すると、馬車は正門前で停車した。正門前にはビフレスト王国の騎士と思われる男が立っており、護衛の騎士の一人がビフレスト王国の騎士に近づいて自分たちが何者なのかを説明する。

 護衛から話を聞いたビフレスト騎士はルッソたちが来ることを知っていたのか、仲間に正門を開けるよう指示を出す。すると、正門はゆっくりと開き始め、開ききるとビフレスト騎士は進むよう指示を出し、ルッソたちを乗せた馬車や護衛の騎士たちはバーネストに入った。

 正門を潜ったルッソたちが最初に目にしたのは大きな広場だった。そこには大勢の住民である人間や亜人、青銅色の全身甲冑フルプレートアーマーを纏った騎士、そしてゴブリンのような下級モンスターの姿がある。

 広場の光景を馬車の中から見たルッソたちは意外そうな表情を浮かべる。本当にモンスターが町の中で人間たちに危害を加えることなく普通に暮らしているのを見て少し驚いたようだ。ルッソたちが広場を眺めていると、一人のビフレスト騎士が馬に乗りながら先頭の馬車に近づき、御者について来るよう伝える。どうやら王城まで案内してくれるようだ。

 ビフレスト騎士が乗る馬が街道を走り、マルゼント王国の馬車と護衛の騎士たちはその後をついて行く。いよいよバーネストの王城に向かうと知り、ルッソたちは少し緊張しながら馬車に揺られた。

 長い街道を通った王城に辿り着くと、ルッソたちは馬車を降りた。目の前には王城の入口である大きな扉があり、その前には一人の美しいメイドが立っていた。そのメイドは頭から二本の小さな角を生やしており、普通のメイド服とは雰囲気が違う変わったメイド服を着ている。そのメイドを見たルッソたちはすぐに人間ではないと気付いた。

 馬車を降りたルッソとモナたち、そして護衛のマルゼント騎士たちが近づくと、メイドは深く頭を下げた。


「お待ちしておりました、マルゼント王国国王、ルッソ・オムダール・コルジムト陛下。私はビフレスト王国王城メイド長、鬼姫ききと申します。この度、陛下とそのお連れの方々のご案内を任されました」

「メイド長殿か、わざわざ出迎えてくれて感謝する」

「いいえ、他国の王族を出迎えるのは当然のことです」


 鬼姫は微笑みながら首を軽く横に振り、その微笑みを目にしたマルゼント王国の騎士や魔法使いたちは思わず見惚れてしまう。

 騎士と魔法使いたちの顔を見たハッシュバルは少し呆れたような顔をし、騎士たちが聞こえるようわざと大きく咳をする。ハッシュバルの咳を聞いた騎士と魔法使いたちは我に返り、慌てて気持ちを切り替えた。

 ルッソは騎士たちが反応を見て一瞬困ったような顔をするが、すぐに表情を戻して鬼姫の方を向く。


「それでビフレスト王、ダーク・ビフレスト殿は?」

「ただいま準備をなさっておられます。皆様はその間、ご用意したお部屋でお待ちください」

「承知した。それでその部屋というのは?」

「ご案内します。こちらへどうぞ」


 そう言って鬼姫は扉の方を向き、軽く手を上げる。すると扉が開き、鬼姫は城内へと入っていく。ルッソたちも鬼姫の後に続いて城内へと入った。中に入ると美しい装飾や巨大なシャンデリアがルッソたちの視界に入る。外見は自分たちの城と比べて小さいが、中は自分たちの城よりも高級に感じられた。

 廊下を歩いていくと、ルッソたちは黄金の全身甲冑フルプレートアーマーを纏った騎士と何度かすれ違う。金の甲冑を兵に与えるビフレスト王国はどれ程の資金を持っているのだろうとルッソたちは心の中で疑問に思った。

 そんなことを考えながらしばらく廊下を歩いて行くと一つの部屋に案内され、ルッソたちは部屋の中へと入る。そこは大きな長方形の机と無数の椅子が置かれた食堂のような部屋で、その部屋も廊下と同じくらいの美しい作りだった。


「お時間が来るまでこちらでお待ちください。すぐにお飲み物をご用意いたします」


 鬼姫はそう言うと静かに退室し、ルッソたちはとりあえず椅子に座って待つことにした。それからしばらくすると、鬼姫が四人のメイドを連れて戻ってきた。

 メイドたちはワゴンを押しており、その上には空のティーカップとポットが置かれてある。ルッソたちの近くに移動すると、メイドたちはティーカップの中に紅茶を入れ、静かにルッソたちの前にティーカップを置く。メイドたちはベテランなのか、マルゼント王国の国王であるルッソの前でも落ち着いて仕事を熟した。

 紅茶を出し終えると鬼姫は一礼し、メイドたちを残して部屋を後にする。残ったメイドたちは部屋の隅で待機し、ルッソたちは出された紅茶を静かに飲み始めた。出された紅茶はマルゼント王国では手に入らない物なのか、ルッソたちは味と香りを堪能しながら紅茶を飲んでいく。

 部屋の来てから三十分ほど経ち、ルッソたちは座ったまま待ち続けた。すると、出入口の扉をノックする音が聞こえ、ルッソたちは視線を扉に向ける。メイドの一人が扉を開けると鬼姫が部屋に入り、ルッソたちの方を見ながら小さく笑う。


「大変お待たせいたしました、ダーク陛下の準備が整いました」


 鬼姫の言葉を聞いたルッソは、やっとかと言いたそうな顔で立ち上がり、モナたちも一斉に立ち上がった。

 部屋を出ると、ルッソたちは鬼姫に案内されて廊下を移動する。途中で階段を上がって二階へと移動し、再び長い廊下を歩いて行く。そして、二枚扉の部屋の前までやって来ると鬼姫が立ち止まり、扉をノックする。すると、二枚扉は招き入れるかのようにひとりでに開き始めた。

 いよいよビフレスト王国の国王と会うのだと、ルッソは僅かに緊張しながら開く扉を見つめる。扉が開くと案内役の鬼姫は先に部屋に入り、ルッソたちはその後に続く。部屋は先程の部屋よりも広く、奥には来客用のソファーとテーブルが置かれてあり、その更に奥に数人の人影があった。

 ルッソたちは部屋の奥へ移動しながら人影を確認する。すると、ルッソの後ろにいたモナとハッシュバルが人影の一つを見て驚きの表情を浮かべた。


「あ、貴方は!」


 モナは驚きのあまり、思わず立ち止まって声を上げる。突然声を上げたモナに驚いたルッソや護衛たちも立ち止まり、どうしたと言いたそうな顔でモナの方を向く。

 驚くのも当然だ。なぜなら人影の中にはゼルデュランの瞳の一件で力を貸してくれた漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーの騎士、シグルドがいたのだから。しかもよく見ると、その周りにはシグルドと共に力を尽くしてくれたアリシア、レジーナ、ジェイク、マティーリア、ファウの姿もある。そして、ダークの肩には黒い子竜が乗っていた。

 どうしてシグルドたちがビフレスト王国、それも王城にいるのか分からず、モナは混乱しかけていた。ハッシュバルも目を見開きながらシグルドたちを見つめている。

 この時の二人は目の前にいるシグルドがビフレスト王国の王、ダークであることを知らず、ただ動揺することしかできなかった。


「おい、お前たち、どうしたのだ?」


 驚いているモナとハッシュバルにルッソは声を掛ける。そこへアリシアが不思議そうな顔をしながらルッソたちに近づいてきた。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、すまない。どういう訳か、部下たちが突然声を上げてしまい……」


 ルッソは振り返ってアリシアに謝罪し、再びモナとハッシュバルの方を向く。アリシアはルッソの後ろからチラッとモナを覗くと、モナと目が合い、モナは目を見開きながらアリシアを見つめる。


「あ、あのぉ、これはいったい……」


 モナが僅かに震えた声を出すと、アリシアは小さく笑いながらウインクをする。アリシアの反応を見たモナとハッシュバルはアリシアが此処は任せろ、と伝えているように感じ、とりあえず今は大人しくしていようと考えた。

 落ち着きを取り戻したモナとハッシュバルは深呼吸をし、そんな二人を見たルッソは困ったような表情を浮かべる。これから大切な話し合いが始まるのに、立場を悪くするような言動はしないでほしいとルッソは思っていた。

 しばらく二人を見たルッソは振り返り、奥にいるダークを見ながら軽く頭を下げる。


「部下が見苦しい姿を見せてしまい、大変失礼した」

「構わないとも、彼女たちが驚くのも無理のないことだからな」

「は? それはどういう……」

「それも含めて話すので、とりあえず掛けられよ」


 ダークはそう言ってルッソにソファーに座るよう伝える。ルッソはダークの言葉の意味が理解できずにいたが、とりあえず言われたとおりソファーに座ることにした。

 ルッソがソファーに座ると、モナたちはソファーの後ろで並んで待機する。ダークも反対側のソファーに座ってルッソと向かい合い、アリシアたちもモナたちのようにダークの座るソファーの後ろに並んだ。ダークの肩に乗っている子竜も丸い目でルッソを見つめる。

 二つの国の王が向かい合うと部屋の中の空気が僅かに変わり、その空気を感じ取ったモナは僅かに表情を変えた。


「改めて、よくぞ来られた。私がビフレスト王国国王、ダーク・ビフレストだ」


 ダークはルッソや後ろにいるモナたちに自己紹介をし、ダークの言葉を聞いたモナとハッシュバルはシグルドがダーク・ビフレストだと知って驚きの表情を浮かべる。ルッソはモナたちと違って驚きはしなかったが、意外そうな顔でダークを見ていた。


「……マルゼント王国の王、ルッソ・オムダール・コルジムトだ。この度は我々のために時間を作っていただき感謝する」


 お互いに自己紹介をし、同時にダークとルッソは相手の反応を確認する。相手の反応を見れば、その人物がどれほどの精神力を持っているのかなどが分かるからだ。ダークとルッソは相手が緊張したり動揺している様子がないのを確認すると、目の前にいる王は強い精神力を持っているのだと感じた。


「では早速、親書に書かれた救援について話し合いをしたい、と言いたいところだが、まずはモナ殿とハッシュバル殿が驚いていたことについて説明させてもらう」


 ダークはチラッとルッソの後ろに控えているモナとハッシュバルを見る。二人はダークと目が合うと緊張したのか僅かに肩を動かした。


「そう言えば、そうだったな……ん? ビフレスト王、この二人のことをご存じなのか?」

「ええ、少し前に会ったことがあるのでな」

「会った? 何時のことだ?」

「ゼルデュランの瞳を壊滅させた時に」


 ルギニアスの町に他国の王であるダークがいた、そう聞かされたルッソは驚いて目を見開く。後ろにいた護衛の騎士や魔法使いたちも驚いており、そんな中でモナとハッシュバルはやっぱり、と言いたそうな顔でダークを見ていた。


「実は当時、私はシグルドと名乗ってルギニアスの町を訪れ、モナ殿たちと共にゼルデュランの瞳壊滅作戦に参加していたのだ。ルギニアスの町を訪れた理由は私の部下がゼルデュランの瞳と問題を起こしたので、その様子を窺うためだ」

「貴殿の部下がルギニアスの町に?」


 ダークの部下がルギニアスの町にいたと聞かされたルッソは小首を傾げながら訊き返す。すると、ダークの話を聞いたモナはフッと反応する。この時、モナはダークの言っている部下が誰なのか気付いた。


「あの、よろしいでしょうか?」


 ルッソに説明をしているダークにモナは声を掛け、ダークとルッソは視線をモナに向ける。国王同士が会話をしている時に口を挟むのは無礼なことだと分かっているが、どうして確認しておきたかった。


「何かな?」

「シグル……ダーク陛下がビフレスト王国の国王でいらっしゃるのでしたら、まさかその部下、ノワール君も……」

「……勿論、我が国の民だ」


 予想していたとはいえ、直接聞かされればやはり驚くのか、モナは目を大きく見開く。ハッシュバルもモナと同じなのか、驚きの反応を見せた。

 驚くモナをダークは黙って見つめており、肩に乗る子竜は少し申し訳なさそうな顔でモナを見ていた。


「で、では、ノワール君の師匠であるモルドールさんも、この国の住民と言うことなのでしょうか?」

「そのとおりだ」

「そう、ですか……ッ! まさか、モルドールさんの主人と言うのは……」

「……貴殿は本当に賢いな。そうだ、モルドールの主人はこの私だ」


 頭の切れるモナに誤魔化しは通用しないと判断したダークは自分がモルドールの主人であることを認め、それを聞いたモナとハッシュバルは更に驚いた表情を浮かべる。ルッソはダークたちの話の内容を上手く理解できずにいたが、ビフレスト王国の住民がマルゼント王国にいたということだけは理解できた。


「素性を偽っていたことは謝罪しよう。事情があり、極秘裏にマルゼント王国で情報を集める必要がったのだ」

「事情、というのは?」


 ルッソが真剣な表情を浮かべながら尋ねると、ダークは薄っすらと目を赤く光らせた。


「申し訳ないが、それは話せない。もしそれは話せば、マルゼント王国に迷惑を掛ける可能性があるのでな」

「そ、そうか……」


 聞かない方がいい、ダークの言葉を聞いてルッソはそう感じ、モナたちも口を閉じる。どういう訳か、ダークの言葉には強い説得力と迫力のようなものが感じられた。


「マルゼント王、もし今回の我々の行動で気分を悪くされたのであれば、頭を下げて謝罪しよう」


 ダークの言葉に後ろに控えていたアリシアたちは反応する。肩に乗っている子竜もチラッとフルフェイスの兜で顔を隠す主人の横顔を見つめた。


「い、いや、謝罪の必要はない。確かに素性は偽っておられたようだが、我が国には何の迷惑も掛かっていない。何より、貴殿らにはゼルデュランの瞳の一件で世話になったのだから」

「そう言ってもらえると助かる」


 ルッソの言葉にダークは感謝の気持ちが籠ったような声を出す。後ろにいるアリシアたちもマルゼント王国の国王が心の広い人物でよかったと感じていた。


(モルドールから連絡があった時はどうするか悩んだが、ゼルデュランの瞳の一件で貸しを作っておいたから、素性がバレても文句を言われずに済んだか。我ながら運がいいぜ、ホント……)


 フルフェイスの兜の下で苦笑いを浮かべながらダークは心の中で呟く。

 モルドールからモナたちが救援を求めるためにビフレスト王国に向かうと聞かされた時はダークも僅かに焦っていた。ルギニアスの町に行った時、暗黒騎士としての姿をしていたので、モナと会ったら正体がバレてしまう可能性があるからだ。

 違う恰好で会うという手もあったが、マルゼント王国にはビフレスト王国の国王は常に漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーを装備しているという情報が伝わっているため、恰好を変えると逆に不自然に思われる可能性がある。だからと言って、理由も無しに会うのを断ると自身の評判を下げることになってしまう。

 考えた結果、ダークは正体がバレるのを覚悟でマルゼント王国との会談を開くことにし、マルゼント王国に親書を送った。


(考えてみれば、あの時、いつもの鎧を着てルギニアスの町に行ったのが間違いだったな。これからは気を付けねぇと……)


 ダークは自分の失敗は反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないよう自分に言い聞かせた。


「それでビフレスト王、話が逸れてしまったが、例の救援の件で話し合いたいのだが……」

「……そうだったな、これは失礼。では早速始めるとしよう……ああ、それと私のことはダークと呼んでくれて構わない」

「そうか、では私のこともルッソと呼んでくれて結構だ」


 素性を偽っていた件の話が終わり、ダークとルッソは本題に入る。アリシアたちもようやく本題に入ることを知り、真剣な表情を浮かべながら二人の王を見つめた。

 ルッソはマルゼント王国の現状をダークに説明していく。マルゼント王国軍が苦戦していることは勿論、魔族軍の戦力が強大であること、このままではマルゼント王国は敗北し、周辺国家にも被害が出る可能性があることなどを細かく話し、ダークたちはそれを黙って聞いていた。

 一通りの説明が終わるとルッソは僅かに表情を曇らせながら口を閉じる。詳しい情報を伝えるためとは言え、自国の軍が敗戦を続けていることを話さなければならないのは国王としては辛いのだろう。


「成る程、それで我々にマルゼント王国軍と共闘してほしいと?」

「そのとおり、今の我が軍では魔族軍を押し戻すだけの戦力を最前線に送ることはできない。ダーク殿、どうか貴殿の軍を貸し与えていただけないだろうか?」


 ルッソはダークの顔を見ながら力を貸してくれるよう懇願する。後ろで控えているモナたちもジッとダークたちを見つめながら心の中で祈った。


「確かにこのままでは魔族軍はマルゼント王国だけでなく、我が国や同盟国のセルメティア王国にも手を出しかねないな……了解した、協力させてもらおう」

「おおぉ! 感謝する、ダーク殿」


 ビフレスト王国が救援の要請を受けてくれたことにルッソは歓喜の声を出す。モナたちも安心の笑みを浮かべながら仲間同士で喜び合った。

 ダークの肩に乗っている子竜や後ろにいるアリシアたちはダークを見ながら小さく笑っている。アリシアたちはダークが最初からマルゼント王国に力を貸すつもりでいたのを知っていたため、悩んだフリをするダークを見て可笑しく思っていた。


「ただ、戦争に参加する以上、こちらもそれなりの謝礼をいただきたい。ゼルデュランの瞳での一件ではノワールが世話になったため、謝礼などは受け取らなかったが、今回はしっかりといただく」

「分かっている。それで、どのような謝礼を望んでおられるのだ?」

「我が国と同盟を結んでもらいたい」

「同盟を?」


 意外な答えにルッソは反応する。てっきり金銭やマジックアイテム、領土などを望んでくると思っていたが、同盟を結んでほしいと言う内容にルッソは驚いていた。


「そう、同盟を結び、我が国で何か問題が起きた時は力を貸してほしいのだ。それと、マルゼント王国でしか手に入らない薬草や物資、魔法の情報などを安く提供してほしい。無論、我が国もそちらの国に対して同じ条件を出す」

「そ、それはこちらとしても願っても無いことだ」

「では、魔族軍に勝利した暁には、我が国と同盟を結んでもらえるのだな?」

「勿論だ」


 魔族軍に勝ったら同盟を結ぶという条件を迷わずに了承し、ルッソの答えを聞いたダークは小さく笑う。これでマルゼント王国にしか存在しない魔法の情報や魔法薬の調合に必要な材料の薬草などを大量に安く手に言えることができる。ダークはビフレスト王国がより大きな力を手に入れられることに喜びを感じた。


「それで、他に何か望むものはあるかな?」

「いや、同盟を結んでくれるだけで十分だ。ただ、我々ビフレスト王国が魔族軍と戦って勝利した時、敵の処遇を我々に決めさせてほしい」

「処遇……捕虜などを生かすか殺すかを貴殿らに決めさせてほしい、と言うことかな?」

「そのとおり」

「……了解した、力を貸していただくのだから、それくらい権利は貴殿らにもある」

「感謝する」


 戦場で敵の処遇に対する許可を得たダークはルッソの低い声で感謝する。ダークが敵の処遇に対して許可を求めた理由、それは二つの国の軍が共闘する時に敵の捕虜の扱いについて考えが分かれ、双方が衝突するのを避けるためだ。

 予めマルゼント王国の国王であるルッソから許可を得ておけば、ビフレスト王国が敵の大将を討ち取ったり、捕虜を捕らえた時にどうするかで意見が分かれても、ビフレスト王国側の意見が優先され、衝突することは無い。ダークはそう考えて許可を求めたのだ。


「他に何か望むことはあるかな?」

「いや、もう結構だ」

「そうか……では、次にそちらが用意してくれる戦力について教えてもらいたいのだが」


 魔族軍と戦うためにビフレスト王国がどれほどの戦力を出すのか、ルッソは一番気になる話題を出す。ダークは心配と期待が混ざったような表情を浮かべるルッソを見ると、小さく俯いて黙り込む。

 ダークは一体どれほどの戦力を用意してくれるのだろう、ルッソやモナたちはただ黙ってダークが答えるのを待った。


「……今後、どれ程の戦力を用意するかは、魔族軍の様子を窺って決めようと思っている」

「様子を窺って?」

「最前線へ向かい、敵の戦力を確認したら転移魔法でバーネストに戻り、部隊を編成して再び最前線へ向かう。と言うやり方で私は部隊を用意するつもりだ」

「そうか、敵の戦力を確認してから部隊を用意すると言うのはいいアイディアだと思う。それで、その最前線に送る部隊はどれほどのものにするつもりなのだろうか?」


 ルッソはすぐに用意してくれる戦力について尋ねると、ダークはルッソを見つめながら目を薄っすらと赤く光らせながら自分の後ろを親指で指す。


「とりあえず、此処にいる者全員を送るつもりだ」

「此処にいる者?」


 ダークの言っていることがいまいち理解できず、ルッソがダークの後ろを確認すると、アリシア、レジーナ、ジェイク、マティーリア、ファウの五人が視界に入った。


「ダ、ダーク殿、まさか……」

「そのとおり、最前線には後ろにいるアリシアたち、そして、私が向かう」


 立ち上がりながら語るダークを見てルッソやモナたちは驚愕の表情を浮かべた。


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