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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十七章~魔法国の犯罪者~
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第二百四十話  追い込まれる犯罪組織


「な、何なんだ今のは?」

「あれだけの敵を一瞬で倒すなんて……」


 ダークがゼルデュランの瞳のメンバーを全滅させた光景を見て、兵士たちは僅かに震えた声を出し、モナや神官も目を見開きながら驚いている。勿論、各区への入口を塞いでいたゼルデュランの瞳のメンバーも仲間が全滅した光景を見て驚愕の表情を浮かべていた。

 レジーナとファウは驚くモナたちを見て楽しそうに笑っており、アリシアたちは遠くにいるゼルデュランの瞳のメンバーたちの方を見て、仲間が殺されたことで敵の士気が低下していると感じ、これなら余裕で勝てると考えた。

 ゼルデュランの瞳のメンバーたちが驚いている中、幹部であるユミンティアとエンヴィクスの二人は戦意を失うことなくダークを睨んでいる。ダークが強者であることは分かったが、まだ自分たちに勝機があると思い、諦めていないようだ。そんな二人をダークは中段構えを取りながら黙って見つめる。


「マスター、あの二人の正体ですが、念のために賢者の瞳で確認してみますか?」

「そうだな、私たちの予想が外れている可能性もあるからな」


 前を向いたまま、ダークはノワールの問いに答える。作戦前はゼルデュランの瞳のボスか幹部のオウスがLMFのプレイヤーである可能性があり、他の幹部がプレイヤーである可能性は低いと考えていたが、もしものことも考え、ダークはユミンティアとエンヴィクスのことも調べてみることにした。

 ノワールは賢者の瞳を取り出し、こちらを警戒しているユミンティアとエンヴィクスを覗いた。すると、レンズの中にユミンティアとエンヴィクスの情報が文章となって浮かび上がり、ノワールはそれを黙読する。

 文章を全て読み終わると、ノワールは賢者の瞳を下ろす。その直後、賢者の瞳は高い音を立て消滅した。


「彼らは違いました。ゼルデュランの瞳・幹部、としか浮かび上がりませんでした」


 ノワールは目の前にいるユミンティアとエンヴィクスはLMFのプレイヤーではないことをダークに伝え、それを聞いたダークは薄っすらと目を赤く光らせ、アリシアたちもノワールの言葉を聞いてノワールの方を向く。


「そうか、私たちの予想は当たっていたか……チッ、貴重な賢者の瞳を一つ無駄にしてしまった」


 賢者の瞳を無駄遣いしてしまったことにダークは若干不愉快そうな声を出す。しかし、ユミンティアとエンヴィクスはLMFのプレイヤーかもしれない、という中途半端な答えが消えて絶対に違うと言う確信へと変わったので、ダークは怒りを面に出すことは無かった。


「奴らが違うことは分かった。それで、奴らの強さはどれ程のものなんだ?」

「ユミンティアはレベル39でダガーダンサーを職業クラスとしています。エンヴィクスはレベル43で職業クラスはハイ・ウィザードです」

「レベル39と43か、まあ幹部としてはそこそこの強さだな」


 ダークは幹部たちのレベルが周囲に聞こえるよう、少し力の入った声で口にする。アリシアたちは幹部の情報を知ると、それほど警戒するような相手ではない余裕の表情を浮かべた。

 一方、モナは兵士たちは何らかの方法で幹部たちのレベルを知ったダークを少し驚いた顔で見る。そして、ユミンティアとエンヴィクスも自分たちのレベルが相手に知られたことを知って驚きの反応を見せた。


「……ちょっとエンヴィクス、どういうこと? 何でアイツら、アタイたちのレベルが幾つなのか知ってんの?」

「分からん、何かの魔法を使った様子も見せていなかったし、そんな魔法、私は聞いたことが無い」

「チッ、さっきの黒騎士の攻撃と言い、情報がバレたことと言い、どうなってんだよ」


 次々と起きる予想外の出来事にユミンティアは苛立ちを口に出し、エンヴィクスは若干動揺を見せる。だが、それでも戦いに影響が出ないよう目の前にいるダークたちに集中した。

 ユミンティアは最も危険な存在だと感じるダークを警戒し、彼の動きを細かく観察する。エンヴィクスはダークたちを取り囲んでいた部下たちが死んだため、もう一度ダークたちを取り囲もうと各区への入口を塞いでいた部下たちに集まるよう合図を送った。

 エンヴィクスの合図を見たゼルデュランの瞳のメンバーたちは警戒しながらでダークたちの方へと近づく。彼らも遠くから仲間たちがダークに殺された光景を見ていたので、ダークに対して僅かに恐怖を感じているようだ。


「……マスター、出入口を塞いでいた敵が集まってきます。恐らく、また僕らを取り囲むつもりでしょう」


 集まってくるゼルデュランの瞳のメンバーに気付いたノワールはダークに声を掛け、ダークは遠くにいるメンバーたちに視線を向ける。アリシアたちやモナたちもメンバーたちを見ながら一斉に構えた。


「また取り囲まれると面倒だ。さっさと目の前に二人を倒してアジトに侵入するとしよう」

「それがいいですね。弱い敵とは言え、いちいち相手にしてたら時間と体力が勿体ないですから」


 ダークは足の位置を僅かにずらし、ノワールはユミンティアとエンヴィクスの方を向いて構える。二人が戦闘態勢に入る姿を見たユミンティアとエンヴィクはより警戒を強くした。


「待ってくれ、ここは私がやる」


 戦いを始めようとした時、アリシアがダークとノワールに近づき、自分がユミンティアとエンヴィクの相手をすると言い出す。ダークとノワールはチラッとアリシアの方を向いて意外そうな反応を見せ、ユミンティアとエンヴィクもピクリと反応する。


「貴方たちはまだ遭遇していないゼルデュランの瞳のボスとオウスと言う幹部に備えて体力を温存してくれ。もし、彼らがLMFのプレイヤーでダークたちと同じくらいの実力を持っていたら、貴方たちは全力で戦わないといけなくなるだろう? そんな時に体力が無かったら戦いで不利になってしまう。だから、彼らの相手は私に任せてくれ」


 これから遭遇するであろう、ゼルデュランの瞳のボスとオウスとの戦いのために体力の無駄遣いは避けた方がいいとアリシアは小声で二人に語り掛ける。ダークとノワールはお互いの顔を見た後、もう一度アリシアの方を向く。


「……確かにそのとおりだ。アジトの中にソイツらがいる可能性もある。もしソイツらと遭遇した時に体力が減っていたら私とノワールでも苦戦を強いられるだろう」


 アリシアの言っていることは正しいと感じたダークは小声で答え、ノワールもダークを見ながら小さく頷く。今後の戦いのことを考えるのなら、ここはアリシアに任せた方がいいと二人は感じた。


「分かった、ここは君に任せる」

「アリシアさん、お願いします」


 ユミンティアとエンヴィクとの戦いをアリシアに任せることにしたダークは構えている大剣を下ろして後ろに下がり、ノワールも小さく笑いながら後ろに下がった。

 二人が下がるとアリシアは真剣な表情を浮かべてユミンティアとエンヴィクの方を向き、ユミンティアとエンヴィクはアリシアと目が合うと、鋭い眼光で彼女を睨み付ける。


「何だい、お嬢ちゃん? まさかアンタがアタイらの相手をするのかい?」

「そのとおりだ。お前たち相手にわざわざ彼らが出ることはない。私で十分だ」


 アリシアはユミンティアを見つめながら挑発し、ユミンティアはより険しい顔でアリシアを睨み付ける。ダークに散々馬鹿にされ、大勢の部下を倒された上に人間の女にまで馬鹿にされたことでユミンティアの怒りは激しくなっていた。


「言ってくれるね? だったらアンタの実力って言うのを見せてもらおうじゃないか」


 ユミンティアは持っている短剣の切っ先をアリシアに向けながら力の入った声を出す。アリシアはユミンティアを見つめながら腰のフレイヤを抜いた。そんなアリシアをダークとノワールは彼女から少し離れた所で見守っている。


「エンヴィクス、アンタは後方で援護しな」

「言われなくても分かっている」


 エンヴィクスは後ろに下がると持っているロッドを横に構え、空いている方の手をユミンティアに向ける。


物理攻撃力強化パワーストライク! 物理防御力強化アタックプロテクション! 移動速度強化スピードアップ! 魔法防御力強化マジックオーラ!」


 短剣を構えるユミンティアにエンヴィクスは連続で補助魔法を掛ける。物理攻撃力、物理防御力、移動速度、魔法防御力が強化され、ユミンティアに万全の状態となった。アリシアは戦いの準備をするユミンティアを黙って見ている。

 全ての準備が整うと、ユミンティアはアリシアを睨みながら足の位置を僅かにずらし、両手の短剣を強く握る。


「一瞬で決着をつけてやるよ。そして、下っ端どもを倒したからって調子に乗っているそこ黒騎士にアタイの本当の力を見せつけてやる」


 余裕の笑みを浮かべながらユミンティアはダークの方を向く。ダークは大剣を肩に担ぎながら興味の無さそうな様子でユミンティアを見ている。

 アリシアはユミンティアを真剣な表情で見つめながらフレイヤを右手で持ち、斜めに構える。ユミンティアはアリシアが構えるのを見ると、右手に持っている短剣に気力を送り込み、剣身を赤紫色に光らせた。


「くたばりな、天風斬てんぷうざん!」


 ユミンティアは戦技を発動させると地面を強く蹴り、アリシアに向かって勢いよく跳んだ。補助魔法で強化された自分の中級戦技は避けることも防ぐこともできない、そう確信するユミンティアは不敵な笑みを浮かべていた。

 迫ってくるユミンティアをアリシアは動くことなくジッと見つめる。そんなアリシアを見たユミンティアは笑い、今更怖気づいたか、と心の中で呟く。そして、アリシアの50cmほど手前まで近づいた瞬間、右手に持っている短剣でアリシアに攻撃しようとする。だが次の瞬間、アリシアは目を大きく見開いてフレイヤを素早く振り、一瞬にしてユミンティアの後ろの移動した。


「なっ! い、いつの間にアタイの背後に!?」


 アリシアが目で追えないくらいの速さで移動したことにユミンティアは驚いて振り返る。その直後、ユミンティアの体に大きな切傷が生まれ、そこから赤い血が噴き出した。


「え? な、何だ……よ……これ……」


 ユミンティアは自分の体に何が起きたのか理解できず、そのまま崩れるように倒れ、そのまま二度と起き上がることは無かった。

 アリシアはユミンティアが目の前に迫ってきた瞬間、もの凄い速さでユミンティアの体を切り、彼女の背後に回り込んだのだ。その速さは英雄級の実力者がようやく目で追うことができるくらいの速さなので、レベルの低いユミンティアは目で追えなかったのだ。勿論、エンヴィクスもだ。因みに、ダークとノワールは普通に目で追うことができた。


「ば、馬鹿な、ユミンティアを簡単に……」


 離れたところからユミンティアが倒された光景を見ていたエンヴィクスは驚愕の表情を浮かべていた。ユミンティアは決して弱い幹部ではない。寧ろ、肉弾戦では幹部の中でも強い方だ。そんなユミンティアが一撃で倒されたのだから驚くのも無理はなかった。

 アリシアはユミンティアを倒したのを確認すると、視線を驚いているエンヴィクスへ向ける。アリシアと目が合ったエンヴィクスは咄嗟に後ろへ跳んで距離を取り、持っているロッドをアリシアに向けた。


岩の射撃ロックショット! 水撃の矢ウォーターアロー!」


 次は自分が狙われると悟ったエンヴィクスは素早く二つの魔法を発動させ、先端の尖った岩と水の矢を放ち、アリシアを攻撃した。

 <岩の射撃ロックショット>は石の射撃ストーンショットの強化版である土属性の中級魔法。石の射撃ストーンショットと比べて攻撃力が高いのは勿論だが、貫通力が強化されており、使う者によっては鉄の盾なども簡単に貫くことができる。

 エンヴィクスは魔法ならアリシアを倒すことができると考え、少しだけ表情に余裕が戻る。いくらユミンティアを倒すほどの実力を持っていても、魔法で攻撃されたらひとたまりもないだろうエンヴィクスは思っていた。

 魔法なら勝てる、エンヴィクスがそう考えている中、アリシアは迫ってくる尖った岩と水の矢を見つめている。そして、30cmほど前に近づいてきた瞬間、アリシアは素早くフレイヤを振り、飛んできた岩と水の矢を叩き落とした。


「なっ!」


 自分の魔法が防がれたのを見てエンヴィクスは目を見開いて驚く。元六つ星冒険者である自分の魔法が通用しないという現実を突きつけられ、エンヴィクスの顔から先程の余裕が消えた。

 エンヴィクスが驚いていると、アリシアがエンヴィクスに向かって大きく跳び、距離を詰めるとフレイヤでエンヴィクスに袈裟切りを放つ。斬られたエンヴィクスは苦痛の表情を浮かべながら仰向けに倒れて動かなくなった。

 ゼルデュランの瞳の幹部二人を倒したアリシアはフレイヤを軽く振ってダークとノワールの方を向く。ダークはアリシアの顔を見ると、見事だ、と言いたそうに小さく頷き、ノワールは笑みを浮かべてアリシアを見ている。レジーナたちもアリシアがユミンティアとエンヴィクを倒した姿を見て笑っていた。


「か、幹部をあっという間に……」


 モナはアリシアがユミンティアとエンヴィクを倒した姿を見て驚きの表情を浮かべる。ノワールの仲間であるため、ダークたちもそれなりの実力を持っているのではと予想していたが、予想以上の実力を持っていると知ってモナは衝撃を受けていた。

 モナだけでなく、マルゼント王国軍の兵士や神官、ダークたちを取り囲もうとしていたゼルデュランの瞳のメンバーたちも幹部が倒された姿を見て驚いている。特にゼルデュランの瞳のメンバーの中には幹部が倒されたことで動揺を見せる者もいた。


「モナ殿、幹部は片付けた。あとは周りにいる下っ端だけだ」

「……え? そ、そうですね」


 ダークに声を掛けられたモナは我に返り、改めて大広場にいるゼルデュランの瞳のメンバーを確認する。メンバーたちは自分たちの指揮官であるユミンティアとエンヴィクが倒されたことでダークたちに対して恐怖心を抱いているのか、ほぼ全員が怯えた様子でダークたちを見ていた。

 ゼルデュランの瞳のメンバーの士気が低下しているのを確認したモナは今なら全員を捕らえることができると感じて兵士たちの方を見る。


「敵は幹部を倒されたことで動揺しています。この隙に彼らを捕らえましょう!」


 モナの力の入った声を出したことで兵士、神官たちも我に返り、ゼルデュランの瞳のメンバーたちを鋭い目で睨む。彼らも今が敵を捕らえる絶好のチャンスだと分かるようだ。

 兵士たちは持っている剣や槍を構え、神官たちは兵士たちに補助魔法を掛けて身体能力を強化する。神官たちが魔法を使ったことで数で劣っていてもゼルデュランの瞳と互角に戦えるようになった。しかも今はダークたちもおり、敵の士気も低下しているので、圧倒的にダークたちの方が有利と言える。


「抵抗したり襲ってくる敵は攻撃しても構いません。ですが、戦意を失った者は傷つけないようにしてください」


 モナが敵をできるだけ無傷で捕らえるよう指示を出すと、兵士たちは一斉にゼルデュランの瞳のメンバーに向かって走り出す。ダークとアリシアの活躍を見たことで兵士たちの士気は高まり、数で劣っていても臆することなく向かって行った。

 突撃する兵士たちを見たレジーナはダークの方を向く。ダークはレジーナを見ると軽く頷き、行けと目で伝える。ダークの頷きを見たレジーナはニッと笑って腰のテンペストを抜いた。


「それじゃあ、あたしたちも行くわよぁ!」


 レジーナは大きな声を出すと、テンペストを逆手に持ってゼルデュランの瞳のメンバーに向かって行く。レジーナの周りにいたジェイクたちは走って行くレジーナを見た後、一斉に自分たちの得物を構えた。


「……んじゃ、俺らも行きますか」

「分かっておると思うが、生かして捕らえることを優先しろ? 何も考えずに殺すようなことはするでないぞ?」

「分かってるって、俺はレジーナと違ってちゃんと考えているから安心しろ」


 マティーリアの忠告を聞いたジェイクは小さく笑いながら返事をし、マティーリアは返事を聞くと隠していた竜翼を出して高く飛び上がる。ジェイクもタイタンを両手で握りながら兵士たちの後を追うようにゼルデュランの瞳のメンバーに向かって行き、ファウもそれに続いた。


「ホッホッホッ、若いと言うのはいいですなぁ」


 モルドールはゼルデュランの瞳のメンバーに向かって行くレジーナたちを楽しそうに見ており、その隣ではヴァレリアが腕を組みながら目を細くしてレジーナたちや兵士たちを見ている。


「最初に私たちを取り囲んでいた仲間が全滅し、更に幹部が二人とも倒されるところを見たんだ。奴らの士気は間違いなく低下している、問題無く勝てるだろう」

「では、ヴァレリア様は此処で高みの見物を?」

「……戦う気が無いのなら最初からついて来たりしない。勝ち戦でもちゃんと仕事はするつもりだ」


 ヴァレリアが小さな声でそう言うと、彼女の体がゆっくりと浮かび上がる。どうやら浮遊魔法を使ったようだ。

 モルドールは上昇するヴァレリアは見上げ、近くにいる神官たちも浮かび上がるヴァレリアを見て驚きの表情を浮かべている。地上でモルドールたちが見上げている中、ヴァレリアは右手の中に火球を、左手の中に水球を作り出し、大広場のあちこちで兵士たちに抵抗しているゼルデュランの瞳のメンバーたちを見下ろす。


「抵抗しない者は傷つけるなとあの娘は言っていたが、この戦況でそれは少し難しい気がするな……まぁ、努力してみよう」


 そう呟いたヴァレリアは浮遊したまま、遠くにいるゼルデュランの瞳のメンバーに向かって火球と水球を放つ。火球と水球は主に投降せず、抵抗を続けているメンバーたちの方へ放たれた。モルドールもヴァレリアの姿を見ると楽しそうに笑い、地上から魔法でレジーナたちの後方支援を行う。

 ゼルデュランの瞳のメンバーに向かって行ったレジーナたちは次々とメンバーを捕らえていく。中には潔く投降せず、抵抗してくる者いたが、レジーナ、ジェイク、マティーリア、ファウが相手ではその抵抗も意味はなく、アッサリと倒された。兵士たちも補助魔法で強化されているため、難なく敵を捕らえている。流れは完全にダークたちに傾いていた。

 圧倒的有利な戦況にモナは意外そうな表情を浮かべていた。最初は倍以上の戦力差があって負けてしまうと思っていたのに、今は自分たちがゼルデュランの瞳を追い詰めている。モナは心の中で驚くと同時に有利な戦況であることを喜んでいた。

 モナがレジーナたち、そして兵士たちの活躍を見ていると、ダークがアリシアとノワールを連れて隣にやって来た。


「この調子なら、すぐに大広場にいる敵を全て捕らえることができるだろう」

「そうですね、できれば抵抗などせず、大人しく投降してくれるの嬉しいのですが……」


 モナはレジーナたちと争うゼルデュランの瞳のメンバーを見ながら呟く。


「……ところでモナ殿、この後はどうする? 奴らを全員捕らえたらアジトに侵入するか?」


 ダークが今後の行動についてモナに尋ねると、モナは真剣な表情を浮かべてゆっくりとダークたちの方を向いた。


「いいえ、彼らを捕らえたら一度作戦を練り直そうと思っています。現状は私が思っている以上にマズそうですから」

「どういうことだ?」

「……四元魔導士の中に、ゼルデュランの瞳のボスがいる可能性があるのです」


 モナの口から出た言葉を聞いてアリシアは驚きの反応を見せる。ダークとノワールは何となく予想していたのか、驚かずにジッとモナを見ていた。


「……詳しく説明してくれるか?」

「ハイ……」


 なぜ四元魔導士の中にボスがいると考えたのか、モナはダークに説明し始める。自分たちの作戦がゼルデュランの瞳にバレていたこと、今回の作戦の内容を知っているのは国王と四元魔導士だけということ、そしてボスは軍の上層部の人間であるということ、モナは自分が持っている情報からボスは四元魔導士の中にいるという答えに辿り着いたとダークたちに細かく話した。

 モナの説明を聞いたダークは説明の内容から筋が通っていると感じて低い声を漏らす。アリシアも若干険しい顔をしながら話を聞いていた。


「まさか、銀蝶亭で会ったあの三人の中にゼルデュランの瞳のボスいるとは……つまり、最初から私たちの行動はゼルデュランの瞳に筒抜けだったということか」

「ハイ、だからゼルデュランの瞳はこの大広場で私たちを待ち伏せすることができたのです……正直、彼らの中にボスがいるなんて、考えたくはありませんが」

「かなり面倒だな。ダー……シグルド、どうする?」


 危うくダークと言いかけたアリシアは咄嗟に言いなおしてダークの意見を聞いた。ダークは心の中でアリシアの失敗に驚きながら彼女の方を向く。


「……四元魔導士の中に敵の大将がいるとなると、私たちがアジトに侵入することもバレているはずだ。となると、アジトの中に罠が仕掛けられている可能性が高い」

「なら、このままアジトに侵入するのは危険だな」


 アリシアはチラッとアジトの入口がある記念碑の方を向き、モナも警戒するような顔で記念碑を見ている。

 ノワールは記念碑を見つめるモナを見ながら四元魔導士の誰がゼルデュランの瞳のボスなのか考えている。少なくとも自分と行動を共にし、ゼルデュランの瞳に捕まっていたモナは違うということは分かっていた。


「とにかく、今の状況でアジトに突入するのは危険です。一先ず此処にいるゼルデュランの瞳のメンバーを全員捕らえてから作戦を……」


 作戦を練り直そう、モナがダークたちの方を見てそう言おうとした瞬間、記念碑が低い音を立てながら動き出した。音を聞いたダークたちは一斉に記念碑に視線を向け、記念碑の下から階段が出てきたのを目にする。

 突然動き出した記念碑を見ながらアリシアとモナは警戒していると、地下から司教の恰好をした初老の男と丼鼠色のマントを纏った人影が上がってきた。現れた二人組を見たダークとアリシアは階段を上がってきたころから、二人組がゼルデュランの瞳のメンバーだとすぐに気付く。そんな中でモナは少し驚いたような顔をしていた。


「敵の増援か? しかしたった二人だけと言うのは……」

「あの二人の内、老人の方はオウス司教です」

「何、あの老人が……」


 アリシアはモナから初老の男がルギニアスの町の司教であるオウスだと聞かされて意外そうな顔をする。ダークも目の前にいる男がゼルデュランの瞳の幹部だと聞いて反応し、視線をオウスと丼鼠色のマントの人影に向けた。

 聖職者の身でありながら犯罪組織に属するオウスを見て、アリシアは僅かに表情を険しくする。聖なる力を司る聖騎士の立場である彼女からすると、オウスの行いは許せないようだ。

 地上に出たオウスは大広場を見回して目を細くする。彼の後ろにいる丼鼠色のマントの人影もチラチラと大広場を見回した。


「……何だ、そろそろ攻めてきた軍の連中を片付けたと思って上がってきたのに、まだ終わっていないではないか」


 オウスは遠くで兵士たちと戦っている部下たちを見ながら不機嫌そうな口調で語る。そんな中、ダークが斬り捨てた部下たち、アリシアが倒したユミンティアとエンヴィクの死体を見つけ、オウスは目を見開いて驚く。後ろにいる丼鼠色のマントの人影も少し驚いたような反応を見せながらユミンティアとエンヴィクの死体を見ていた。


「……どうやら、敵の中に強大な力を持つ者がいるようだな」

「強大な力を持つ者? いったいどんな連中が?」


 呟く丼鼠色のマントの人影の方を向いてオウスは尋ねる。丼鼠色のマントの人影はユミンティアとエンヴィクの死体を見た後に視線を動かし、こちらを見ているダークたちの姿を確認した。オウスも丼鼠色のマントの人影が見ている方角を向き、ダークたちを見つける。


「どうやら、あの連中の仕業のようだ」

「何、あ奴らが?」

「ああ、連中の中には四元魔導士のモナがいる。他にも普通の兵士や冒険者とは雰囲気の違う騎士が二人もいるし、間違いないだろう。そして奴らと一緒にいる子供、恐らくドルウォンが言っていた例の子供だ」

「ほほぉ、あ奴がのぉ……」


 目の前にいるのが組織が警戒する子供だと知ったオウスは興味のありそうな顔でノワールを見た。


「恐らく、ユミンティアとエンヴィクをったのは奴らだろう。あの二人を倒すとなると、そこそこできると思うぞ」

「そうか……あ奴らの相手、儂にやらせてくれんか? どれ程の実力か試してみたい」

「好きにしろ」


 許可を得たオウスは小さく笑いながらダークたちの方へ歩き出す。ダークたちは近づいて来るオウスと彼の後ろにいる丼鼠色のマントの人影をジッと見ている。

 ゼルデュランの瞳には四人の幹部がおり、幹部の内、ドルウォンは捕らえ、ユミンティアとエンヴィクは先程倒したので、残る幹部は目の前にいるオウスだけということになる。

 全ての幹部を確認したダークたちはオウスの後ろにいる丼鼠色のマントの人影がゼルデュランの瞳のボスで間違いないと考える。

 アジトに突入することなくボスとオウスに遭遇できたので、ダークたちは運がいいと感じていた。しかし同時に、目の前の二人がLMFのプレイヤーである可能性があるため、ダーク、アリシア、ノワールは警戒を強くした。

 ダークたちが警戒していると、オウスはダークたちの数m前で立ち止まり、不敵な笑みを浮かべながらダークたちを見た。


「……まずは自己紹介だけしておこうか。儂は――」

「知っています。ザファンデルス教会の司教、オウスでしょう?」


 喋っている最中に邪魔をするように語り出すモナを見てオウスは若干不愉快そうな顔になる。だが、すぐに表情を戻し、落ち着いた様子でモナと向かい合う。


「そうか、既に知っているのならそれでいい。しかし、改めて見ると、お前たちのような青二才や小娘がユミンティアとエンヴィクを倒したとは思えんな……念のために確認するが、本当にお前たちが倒したのか?」

「倒したのはそちらにいるアリシア殿です」


 モナはチラッとアリシアの方を向き、ユミンティアとエンヴィクを倒したのはアリシアだと教える。オウスがアリシアの方を見ると、アリシアはオウスをジッと睨み付けた。


「……成る程、どうやら本当のようだな」


 しばらくアリシアの顔を見ていたオウスは低い声を出しながら信じる。そんなオウスを見たアリシアは小さな違和感を感じて難しい表情を浮かべた。


(何だ? あの司教、私の顔を見ただけで私があの二人を倒したと信じるなんて……もしかして、ノワールが言っていた神の声とやらで情報を得たのか? それとも……)

「ハハハッ、神の声? お前もそんなくだらないものを信じているのか?」


 アリシアは心の中で考えていると、突然オウスがアリシアを見ながら楽しそうな口調で語り出す。それを聞いたアリシアは驚きの表情を浮かべながらオウスの方を向き、驚くアリシアを見たオウスは再び笑い出す。


「フッ、驚いておるようだな、小娘? どうして自分が考えていることを儂が分かるのか」

「お前、いったい何を……」


 何が起きたのか理解できないアリシアは動揺を見せ、そんなアリシアを見てダークたちも不思議に思いアリシアに注目する。


(どういうことだ? 私は口に出していたわけでもないのに、どうしてあの男は私が考えていたことが分かったんだ?)


 オウスがどんな手を使って自分の考えていたことを知ったのか、アリシアは必死になって考え、難しい顔をするアリシアをオウスは楽しそうに眺めていた。


(オウスは神の声はくだらないと言っていた。あの発言から考えると、あの男の神の声が聞こえるという噂は嘘である可能性がある。となると、何か別の方法で私の考えていることを知ったということだ……となると魔法か? それとも何かのマジックアイテム?)

「フフフ、違うな。魔法でもマジックアイテムでもない」

(ッ! また考えていることを読まれた!)


 再び自分の考えていたことを知られ、アリシアは目を鋭くしてオウスを睨む。周りにいるダークたちもアリシアの反応とオウスの発言から、何かが起きていると感じてオウスの方を向いた。

 ダークたちがオウスの方を見ていると、オウスは自分の髭を整えながら楽しそうな顔で口を動かした。


「儂には相手が何を考えているのかが手に取るように分かるのだ。儂はな、人の心の声が聞こえるのだよ」

「何っ! 心の声を!?」


 オウスはアリシアの考えていることができた理由を自慢げに話し、それを聞いたアリシアは驚いて声を上げる。モナもオウスを見ながら驚きの表情を浮かべていた。


「ほぉ、人の心の声が聞こえる……つまり、読心術が使えるのか」


 ダークはオウスを見ながら意外そうな口調で呟く。ダークが元いた世界では読心術と言った超能力関係の力は大勢の人が知っている力なので、オウスの力を知ってもダークはアリシアやモナのように驚愕することはなかった。勿論、ノワールも同じように冷静にオウスを見ている。

 しかし、読心術を知っていても、実際に使える者に会うのは初めてなので、ダークも少しだけ驚いている。


「相手の行動を先読みできる力……少々面倒な相手だな」


 目を薄っすらと赤く光らせならダークは小さく声を出した。


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