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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十七章~魔法国の犯罪者~
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第二百三十三話  構成員との戦い


 男たちは自分の得物を握りながら音が聞こえた方を見つめ、ドルウォンは男たちの後ろで警戒するような顔をしている。表情では警戒しているように見えるドルウォンだが、実際は冒険者や軍の兵士のような面倒な存在が隠れているのではと感じて焦っていた。

 ドルウォンたちが黙って見つめていると、街道の脇道からモナ、ノワール、モルドールの順番で三人が姿を現す。ノワールたちを見た男たちは素早く身構え、ドルウォンはビクッと一瞬驚きの反応を見せる。しかし、現れたのが若い女、子供、老人であるのを確認すると、安心したのか身構えるのをやめた。


「……何だ、どんな奴が隠れているかと思ったら小娘とガキ、そしてジジイかよ。警戒して損したぜ」


 剣を背負っていた男はノワールたちの姿を見ると、三人を小馬鹿にするような言い方をし、他の男たちもノワールたちを見て嘲笑う。ドルウォンは現れたのが冒険者や兵士ではないと知って余裕の笑みを浮かべた。

 笑っている男たちに腹を立てているのか、モナは目を鋭くして男たちを睨む。ノワールとモルドールは男たちの挑発を何とも思っておらず、無表情で男たちを見ていた。


「……ん? そこの女、お前、何処かで見たことがあるような……」


 男たちの後ろに隠れていたドルウォンがモナの顔を見ながら目を細くし、男たちはそんなドルウォンを見て不思議そうな顔をする。


「……! お前はモナ、モナ・メルミュストか」

「モナ・メルミュスト? あの四元魔導士の一人で、疾風のモナと呼ばれている?」


 モナの正体を思い出したドルウォンは目を見開き、男たちも目の前にいる女が四元魔導士の一人だと知って驚きの反応を見せた。

 ドルウォンはマネンド商会の責任者として、ルギニアスの町のあちこちを歩き回っているため、四元魔導士を何度か目撃したことがある。その時にモナのことも見たことがあったため、彼女の顔を見て四元魔導士の一人だと思い出したのだ。


「その四元魔導士がコソコソと隠れて何をしてやがった?」

「……この状況でそれは愚問だと思いますけど?」


 モナは剣を背負う男の質問には答えず、挑発するように訊き返す。モナの答えを聞いた男はカチンと来たのか、目を僅かに鋭くしてモナを睨む。他の男たちも強気な態度を取るモナが気に入らないのかジッと睨んでいた。


「今の答えを聞いて確信した。俺らが会話をしているのを見ていたんだな」

「何?」


 ドルウォンは剣を背負った男の言葉を聞いて少し驚いた顔をする。いつからかは分からないが、自分たちが見張られていたことを知って、ドルウォンは隠していた焦りを露わにした。


「おい、もし奴らに私たちの会話を聞かれていたとしたらマズいぞ?」


 剣を背負った男にドルウォンは小声で話しかけた。もし、四元魔導士であるモナに自分たちの会話を聞かれていたとしたら、間違いなく軍に報告されてしまう。

 軍が動き出し、真実に辿り着いたら自分の立場が一気に危うくなり、今まで築いてきた地位や名誉も全て失ってしまうことになる。自身の破滅を恐れるドルジャスは不安そうな表情を浮かべて男を見た。


「心配ないですぜ? 俺らと奴らとの距離は15mはあります。しかも声を小さくして話してたんです。英雄級でもない限り15mも離れた状態で俺たちの会話を盗み聞きできるはずがありません」

「そ、そうか?」

「ええ、それにどの道、俺らの姿を見た奴らをこのまま帰す気はありません。とっ捕まえるか、ぶっ殺すかしますんで、安心してください」

「できるのか? 相手は四元魔導士だぞ?」

「大丈夫ですよ、こっちは四人もいるんです。いくら四元魔導士でも勝てやしませんって」


 焦っているドルウォンに男は笑いながら小声で答え、それを聞いたドルウォンは安心したのか笑みを浮かべる。軍に報告される前にモナをどうにかすれば秘密がバレることは無い、自分の身が守られると知り、ドルウォンは余裕を取り戻した。

 ドルウォンが男と小声で何かを話している姿をモナは目を鋭くしたまま見ている。現状とドルウォンの様子から、ドルウォンたちが密会を目にした自分たちをどうにか処分しようとしているのだと、モナはすぐに気づいた。勿論、ノワールとモルドールも気付いている。


「……しかし驚きました。まさかマネンド商会の責任者であるドルウォン殿が犯罪組織のメンバーだったとは」

『!』


 モナが口にした言葉を聞いて、ドルウォンと男たちは一斉にモナの方を向き、驚きの表情を浮かべた。当然だ、会話を聞かれるはずのない状況だったのに会話を聞かれ、しかも自分たちがゼルデュランの瞳のメンバーであることまで知っているのだから。


「き、貴様、どうして私たちがゼルデュランの瞳のメンバーであることを知っている!?」


 秘密を知られて取り乱すドルウォンはモナを指差しながら声を上げる。男たちはドルウォンを見て更に驚いた表情を浮かべた。

 このまま白を切れば誤魔化すことができたかもしれないのに、今のドルウォンの言葉で自分たちがゼルデュランの瞳のメンバーであることを認めたことになってしまう。何も考えずに余計なことを言ったドルウォンを見て、男たちは間抜けだと感じる。

 モナもドルウォンの言葉を聞いて彼らがゼルデュランの瞳のメンバーだと確信する。ノワールが言ったことを疑っていたわけではなかったが、やはり直接自分の耳で聞いて確かめたかったのだ。


「ずっと脇道に隠れて聞いていたんですよ」

「馬鹿な、これだけ離れているのに聞こえたって言うのか?」

「そこにいる男が詰め所を見張っていたのを見て、怪しいと思い尾行していたんです。そして、彼がドルウォン殿たちと会い、ゼルデュランの瞳のメンバーであると会話しているのを聞きました」


 男の質問には答えず、モナはチラッと尾行していた男を見ながら此処までの流れを説明する。ドルウォンと三人の男は鋭い目で尾行されていた男を睨みつける。


「テメェ、つけられてたのに気づかなかったのか!」

「す、すみません!」


 鉤爪を装備した男が怒鳴ると、尾行されていた男はドルウォンたちの方を向いて怯えたような顔をしながら謝罪する。

 敵の偵察をして仲間の下に戻るまでの間、尾行されていないかどうかを確認しながら移動するのは基本中の基本だ。そんな基本的なこともできずに敵の尾行を許してしまった男を見て、ドルウォンたちは不愉快になる。

 ドルウォンたちに睨まれている男をノワールとモルドールは黙って見つめており、モナは目を鋭くしてドルウォンたちを睨んでいた。


「ドルウォン殿、貴方には色々と訊きたいことがあります。一緒にいる男たちと共に騎士団の詰め所まで来てください」


 マネンド商会の責任者がゼルデュランの瞳のメンバーであれば、重要な情報を知っていると確信するモナは何としてもドルウォンを捕まえて話を聞きだそうと考えていた。これでもし、ゼルデュランの瞳のアジトの場所やメンバーの情報を聞き出すことができれば、一気に組織壊滅に近づくことができる。

 だが、ドルウォンも捕まると分かっていて素直に言うとおりにする気は無かった。ドルウォンは同行を要求するモナを不満そうな顔で睨み付ける。


「冗談ではない、誰が貴様のような小娘の指図など受けるか!」

「大人しく同行していただけないのなら、力尽くで連れていくことになりますよ?」

「ハッ、面白い。やれるものならやってろ!」


 ドルウォンがそう言って手を前に出すと、彼の周りにいる男たちはドルウォンを守るように前に出る。男たちを見たモナは、やっぱり戦うことになったかと感じた。

 ノワーとモルドールは最初から戦うつもりでいたため、前に出てきた男たちを見ても眉一つ動かさずに黙って男たちを見ていた。


「お前たち、必ずあの女を殺せ! 私たちの秘密を知ったからには生きて帰す訳にはいかん!」

「分かってますぜ」


 真剣な表情を浮かべながら男は背負っている剣を抜き、他の二人も短剣と鉤爪を構えながら笑みを浮かべる。尾行されていた男も腰の剣を抜き、ノワールたちを睨みながら構える。


「まさか、こんな所で四元魔導士とり合えるとはなぁ」

「此処でアイツを殺せば、俺らも組織の中で名を上げられるってわけだ」


 短剣を持つ男と鉤爪を装備する男が早く戦いたいのか、モナを見ながら楽しそうに語る。そんな男たちを見たモナは目を更に鋭くして男たちを睨みつけた。

 犯罪組織であるゼルデュランの瞳のメンバーなのだから、男たちが他人を傷つけることを何とも思っていないような存在だというのはモナも分かっていた。分かってはいたが、やはりそんな男たちを見ると不愉快になってしまうのか、怒りや苛立ちが顔に出てしまう。


「あのガキとジジイはどうしますか?」


 尾行されていた男が剣を構えながらドルウォンにノワールとモルドールをどうするか尋ねると、ドルウォンは目を鋭くしながら男の方を見た。


「殺すに決まっているだろう。私がゼルデュランの瞳のメンバーだと知った者をそのまま逃がすつもりか? 少しは考えろ!」

「す、すみません」


 尾行を許しただけでなく、つまらない質問をしてくる男にドルウォンは力の入った声を出す。怒鳴られた男は暗い顔になり、他の男たちはそれを見て呆れたような反応を見せる。

 男たちはノワールたちを睨みながら自分の得物を構え、いつでも攻撃できる体勢に入った。それを見たモナも隠していた羽扇を右手で取り出して構え、ノワールとモルドールはモナの後ろでジッと男たちを見ている。


「ノワール君、モルドールさん、彼らの相手は私一人でします。ですが、もしかすると彼らがお二人に襲い掛かってくるかもしれません。その時は、魔法でご自分の身を守ってください。そして、もし危険な状況になったら、私を残して逃げてください」


 四元魔導士として一般人の安全を最優先に考えるモナは二人に自分のことを第一に考えるよう伝えた。ノワールとモルドールはモナの正義感と責任感の強さに感服したのか、小さく笑いながらモナを見ている。


「分かりました……でも、大丈夫ですよ。そんな状況には絶対になりません」

「え?」


 余裕の笑みを浮かべながら答えるノワールにモナはきょとんとした顔をする。モルドールはノワールの言葉を聞いて目を閉じながらクスクスと笑っていた。

 男たちはノワールたちが自分たちを前にしても怖がったり、警戒する様子を見せないのを見て自分たちを軽く見ていると感じたのか、表情に険しさが増していた。そんな中、短剣を持った男が空いている方の手で投げナイフを三本、ノワールたちに向かって投げた。

 投げナイフに気付いたモナは視線を飛んでくるナイフに向けて羽扇を持つ手に力を入れる。その直後、羽扇の羽が白く光り出した。


衝撃ショックバーン!」


 魔法を発動させたモナは羽扇を大きく外側に向かって振った。それと同時に見えない衝撃波が放たれて投げナイフを後ろへ吹き飛ばす。投げナイフは男たちの足元に高い金属音を立てながら落ち、それを見た男たちは悔しそうな顔でモナの方を見た。

 モナが魔法で投げナイフを防いだ光景を見たノワールとモルドールはおおぉ、と言いたそうな顔をする。モナの反応速度と魔法を発動させる速さを見た二人は流石は四元魔導士の一人と感心した。


「何をしている! 相手は魔法使いだぞ、接近して一気に叩け!」


 投げナイフを防がれたのを見たドルウォンは苛立ちを感じたのか、男たちに接近戦に持ち込むよう命じ、男たちは言われたとおり接近戦に持ち込むために得物を強く握りながら足の位置をずらす。指示を出したドルウォンは戦いに巻き込まれないよう、離れた所に移動した。

 男たちが距離を詰めて来ると知ったモナは一歩後ろに下がって羽扇を構え直す。その直後、四人の男たちはモナに向かって一斉に走り出し、それを見たモナは再び羽扇の羽を白く光らせる。


衝撃ショックバーン!」


 モナは羽扇を振って再びショックバーンを男たちに向かって放つ。見えない衝撃波は男たちに命中し、尾行していた男を後ろへ吹き飛ばす。しかし、他の三人は吹き飛ばされることなくその場に踏みとどまった。

 衝撃波を受けても倒れない男たちを見てモナは少し驚いたような顔をする。男たちは不敵な笑みを浮かべて持っている武器を構え直す。


「甘いぜ、俺たちは全員レベルが30代後半だ。レベルが40代前半のお前の衝撃波なんかで倒れたりしねぇよ」

「しかも俺らが装備してるこの鎧は魔法耐性がある。並の奴らと比べて俺らは魔法防御力が高いんだぜ?」


 鉤爪を装備した男が自分が身に付けている鎧を鉤爪で軽く叩きながら語り、他の二人も自慢するような顔をしながらモナを見ている。ドルウォンは後方で腕を組みながら余裕の笑みを浮かべていた。

 モナは男たちの魔法防御力が高いことを知って表情を鋭くする。男たちが自分の魔法に耐えたことにも驚いたが、たかが犯罪組織のメンバーが魔法の防具を所持していることにも驚いていた。ノワールとモルドールもゼルデュランの瞳が一級の防具を装備していることを知り、意外そうな顔で男たちを見ている。


「……レベルが30代後半で魔法耐性のある鎧持ちですか、なら攻撃力の無い衝撃ショックバーンは効果が無いでしょうね」


 羽扇を口元に持ってきたモナは冷静な口調で呟く。普通の魔法使いなら、敵が魔法に強いことを知れば取り乱したり、焦りを露わにするが、モナは冷静なまま男たちを見つめていた。

 男たちは落ち着いた様子のモナを見て、ほおぉという顔をしている。魔法防御力の高い戦士を前にしても冷静でいるモナの精神力の目にし、四元魔導士はそこらの魔法使いとは違うなと男たちは思っていた。


「できれば無傷で捕らえようと思っていたのですが、魔法の防具を装備しているのなら致し方ありません。多少怪我を負わせてでも捕らえることにします」

「ハッ、面白れぇ、やって見せろ」


 攻撃力のある魔法を使うことを宣言するモナを見ながら剣を持つ男は挑発的な言葉を返す。他の二人も自分の武器を構えながらモナを睨み、吹き飛ばされた男も立ち上がって剣を構えた。

 モナは男たちが構え直す姿を見ると足の位置を少しずらして男たちを睨む。ノワールとモルドールも男たちを見つめながら彼らがどう動くかを予想する。

 ノワールたちが男たちを警戒する中、短剣を持った男と鉤爪を装備した男がモナに向かって走り出す。モナは迫ってくる男たちを睨みながら羽扇を持つ手に力を入れた。


風の刃ウインドカッター!」


 モナは羽扇を大きく横に振ると、羽扇から真空波が男たちに向かって放たれる。モナは男たちに大怪我をさせないために下級魔法の中でも攻撃力の低い魔法で攻撃を仕掛けた。

 飛んでくる真空波を見て、短剣を持つ男は左に、鉤爪を装備した男は右へ跳んで真空波をかわす。二人の後ろにいた剣を持つ男と尾行されていた男も横へ移動して飛んできた真空波をかわした。

 短剣を持つ男と鉤爪を装備した男は回避に成功すると、走ってモナとの距離を一気に縮めようとする。剣を持つ男と尾行されていた男も、それに続くようにモナの方へ走り出す。

 モナは迫ってくる男たちを見て素早く彼らの位置を確認し、鉤爪を装備した男の方が自分に近い位置にいることを知る。その直後、鉤爪を装備した男がモナの目の前まで近づき、鉤爪でモナに攻撃を仕掛けてきた。


風の壁ウインドウォール!」


 鉤爪を装備した男の方を向いたモナは羽扇を持たない方の手を男に向ける。すると、モナの前に風の壁が現れて男の鉤爪を防いだ。風の壁によって攻撃を止められた男は悔しそうな顔をしながら後ろへ跳んでモナから離れる。

 男の鉤爪を防いだモナは態勢を立て直すために距離を取ろうとする。だが、そこへ短剣を持った男が左側から迫り、モナを攻撃しようとしていた。気付くのが遅れたモナは、しまったと目を見開きながら男の方を向く。

 モナを見て、短剣を持つ男は不敵な笑みを浮かべて短剣を振り下ろそうとする。すると、男の右側から見えない何かが男を大きく吹き飛ばした。男は何が起きたのか分からずに地面に強く叩きつけられ、そのまま意識を失う。モナや他の男たちも突然の出来事に目を見開きながら驚いていた。


「大丈夫ですか?」


 聞こえてきた声にモナはフッと反応して声が聞こえた方を向き、男たちも同じように声のした方を見る。そこには右手を前に伸ばしながら小さく笑っているノワールの姿があり、モナはさっき短剣を持った男が吹き飛んだのはノワールの仕業だと理解した。


「ノワール君、今の貴方が?」

「ハイ、衝撃ショックバーンで吹き飛ばしました」

「えっ、衝撃ショックバーン?」


 笑いながら話すノワールを見てモナは目を更に驚いた反応を見せる。自分も衝撃ショックバーンで男たちを吹きとばそうとしたが、男たちのレベルと魔法の鎧によって吹き飛ばすことはできなかった。それなのに目の前の少年は魔法の鎧を装備した男を簡単に吹き飛ばして気絶させたのだ。モナが驚くのも当然といえた。

 モナだけでなく、男たちや遠くで戦いを見物していたドルウォンもノワールが男を吹き飛ばしたということを知って驚いている。ノワールとモナの会話から、ノワールが魔法使いであることはドルウォンたちも理解できた。しかし、四元魔導士であるモナの魔法に耐えたのに、なぜ子供の魔法で仲間が吹き飛ばされたのかは理解できずにいる。


「今のが、あのガキの仕業だって言うのか?」

「ありえねぇだろう。四元魔導士であるモナの魔法にも耐えられたのに、あんなガキの魔法で……」

「もしかして、あのガキ、四元魔導士以上の魔法使いじゃ……」

「馬鹿を言うんじゃねぇ、あんなガキがこの国最強の四元魔導士よりつえぇはずがねぇだろう!」


 尾行されていた男の言葉を聞いて、剣を持つ男が力の入った声で否定する。尾行されていた男は剣を持つ男の方を向いて不安そうな表情を浮かべた。

 四元魔導士はマルゼント王国でも優れた技術と知識、そして才能を持つ最高クラスの魔法使いで、マルゼント王国には彼らを超える魔法使いはいないと言われている。そんな四元魔導士よりも強い魔法使いがおり、しかも子供で自分たちの敵だということなど、男たちには認めることができなかったのだ。

 仲間を吹き飛ばすほどの力を持っている目の前の子供は何者なのか、男たちは視線をモナからノワールに向けて警戒する。すると、小さな足音が聞こえ、鉤爪を装備した男は足音の聞こえた方を向く。そこには杖を持って笑っているモルドールの姿があった。


「お二人だけではなく、私の相手もしていただきたいですね」

「な、何だジジイ、テメェも俺たちと戦おうって言うのか」

「ホッホッホ、いけませんよ。老いぼれとは言え、目上の者に対してそんな口の利き方をしては?」

「テ、テメェ、ナメてんじゃねぇ!」


 モルドールの態度が気に食わない男は鉤爪でモルドールに攻撃する。鉤爪は正面からモルドールの顔に迫っていくが、モルドールは笑顔のまま鉤爪を見つめていた。

 攻撃をかわす様子を見せないモルドールを見た男はこの一撃でモルドールを殺せると思い不敵な笑みを浮かべる。だが、鉤爪の切っ先がモルドールの顔の5cm手前まで近づいた瞬間、モルドールは素早く男の腕を掴んで鉤爪を止めた。


「ば、馬鹿な!」


 老人であるモルドールが自分の攻撃を片手で止めたのが信じられない男は驚きの表情を浮かべる。一方でモルドールは笑顔のまま驚く男を見ていた。


「小細工無しで正面から攻撃したのは素晴らしいです。ですが、相手との力の差を見極められないようではまだまだ未熟ですよ……麻痺の突風パラライズウインド


 杖の先を男に向けながらモルドールは魔法を発動させる。すると、杖の先から目で確認することができるような薄い黄緑色の風が吹いて男の体に当たった。

 突然吹いた風を男は不思議に思う。その直後、男の体に異変が生じ、男はその場に倒れた。


「な、何だ? 体が痺れ……」


 男はいつの間にか麻痺状態となり、立っていることもできなくなっていたのだ。倒れている男をモルドールは小さく笑いながら見下ろしており、男はモルドールの様子を見て、自分の麻痺は目の前の老人のせいだと悟った。

 モルドールが先程使った<麻痺の突風パラライズウインド>は風属性の中級魔法で風を受けた敵を麻痺させることができる魔法だ。確率ではなく、風を受けた敵を確実に麻痺させるため、LMFではこの魔法を使うプレイヤーは多かった。しかし、麻痺無効の技術スキルを持つ敵には効果が無いため、上位のプレイヤーたちからは使えるかどうか微妙な魔法と言われている。

 鉤爪を持つ男が倒れたのを見たモナは目を丸くし、剣を持った男と尾行されていた男も目を見開きながら倒れた仲間を見ている。ノワールに続いてモルドールまでもが敵を簡単に戦闘不能にさせたのを見てかなり驚いているようだ。


「な、何なんだこりゅあ?」

「魔法に耐性がある鎧を身に付けているのに、どうして……」


 仲間が簡単に倒されてしまったという現実を受け入れられないのか、男たちは震えた声を出す。モルドールは男たちに気付くと、視線を足元で倒れている男たちから二人に向ける。モルドールと目が合うと、男たちは素早く剣を構え直して警戒した。


風の刃ウインドカッター!」


 男たちの意識がモルドールに向けられると、モナはチャンスだと感じて魔法を発動させ、真空波を剣を持つ男に向かって放つ。

 モルドールを警戒していたことで男はモナの攻撃に気付くのが遅れ、真空波の直撃を受けて大きく後ろに飛ばされる。真空波は鎧に当たったため、男は大きな傷は負わなかったが、鎧の上から伝わる衝撃は大きくダメージは受けた。

 真空波を受けた男は背中から強く地面に叩きつけられ、背中と真空波が当たった箇所からの痛みに表情を歪める。尾行されていた男は自分よりもレベルが高く、装備が充実した仲間が吹き飛ばされたのを目にして僅かに体を震わせていた。そんな男にモナがゆっくりと近づく。


「貴方の仲間は全員動けなくなりました。これ以上戦っても結果は見えています、大人しく投降してください」


 魔法の鎧を装備している男たちが全員倒れたため、もう攻撃力のある魔法を使う必要も無いと判断したモナは男に警告する。もし男がこの警告を無視して攻撃して来たとしても、相手はショックバーンが通じる相手なので、それで迎撃すれば問題無いとモナは思っていた。

 男は鋭い目で自分を見つめるモナを見ながら震え続けている。最初は自分が戦士だから、魔法に強い仲間がいるから勝てると思っていたが、三人の魔法使いに仲間が全員倒されたのを見て、自分たちとノワールたちの力の差を思い知らされて小さな恐怖を感じていた。

 モナは黙って男の返答を待つ。すると、男は持っていた剣を捨て、声を上げながらモナに背を向けて逃げ出した。


「あっ、待ちなさい!」


 逃げ出した男を止めようとモナは羽扇を構え、衝撃ショックバーンを発動させようとする。だが、衝撃ショックバーンは相手が離れすぎると衝撃波の威力も落ちてしまうので、逃げる男との距離を考えると倒せるかどうかは微妙だった。しかし、分からないからと言って何もしない訳にはいかない。モナは男を止めるために衝撃ショックバーンを放とうとする。

 男はモナから逃げるために全速力で走って行く。今の彼には動けない仲間を助けるとか、ドルウォンを守ると言った考えはない。ただ、自分が捕まらないために必死で逃げることだけを考えていた。

 振り返ることなく男は走り続ける。だがその時、男の前にモルドールがいきなり現れ、驚いた男は急停止した。モナも突然男の逃げる先に現れたモルドールを見て驚きの表情を浮かべる。


「仲間を残して逃げるとは、感心しませんね?」

「お、お前、どうして……」


 モルドールの姿を見て男は驚愕の表情を浮かべながら振り返り、さっきまでモルドールが立っていた場所を確かめる。だが、そこにはモルドールの姿は無く、モナも同じ場所を見て呆然としていた。


「転移魔法を使えば、逃げる敵の前に移動することなど簡単ですよ」

「て、転移魔法だと? お前、そんな凄い魔法まで……」


 震えた声を出す男を見てモルドールは楽しそうに笑う。自分の魔法に驚く男を見て少し楽しい気分になったようだ。

 さっきモルドールが使ったのは転移魔法の中でも最も力が弱い次元歩行ディメンジョンムーブ、彼はそれ以外にも転移テレポートを使うことができるが、近くに転移するので、転移できる距離が短く、MPの消費量が少ない次元歩行ディメンジョンムーブを使ったのだ。

 モルドールが転移魔法を使ったのを知ったモナはモルドールを見ながら固まっている。優秀な魔法使いでも習得が難しいと言われている転移魔法をモルドールが使ったのを見て驚きを隠せずにいた。そんなモナの顔を見たノワールは笑いを必死に堪えている。


「貴方が逃げようとしても、転移魔法が使える私がいる限り逃げることはできません……投降してください」


 小さく笑いながらモルドールは男に投降を要求する。男は相手が悪すぎると感じたのか、その場に座り込んで大人しくなった。男から逃げる意思が無くなったのを感じ取ったモルドールは笑顔のままモナの方を向く。


「どうやら、投降してくださるようですよ」

「え? え、ええ、そうですね……」


 モルドールの言葉で我に返ったモナは現状を思い出し、倒れている男たちの状態を確認する。短剣を持つ男は未だに気絶しており、鉤爪を装備した男と剣を持っていた男も倒れたままだった。

 ドルウォンが連れていた男たちが全員動けない状態だと知ったモナは軽く息を吐く。これ以上戦う必要が無いと知って少しだけ安心したようだ。


「……ドルウォン殿、貴方の仲間を全て倒しました。大人しく私たちと……」


 モナが残っているドルウォンに警告しようと彼が立っている方を向いた。ところが、そこにドルウォンの姿は無く、モナはドルウォンが消えたのを知って目を見開く。ノワールとモルドールも意外そうな顔でドルウォンがいた場所を見た。


「い、いない!? いったい何処へ?」


 周囲を見回してモナはドルウォンを探すが、何処にもドルウォンはいない。


「まさか、逃げた?」

「多分そうでしょうね、きっと僕らが彼らと戦っている最中に逃げたのでしょう」


 ノワールが倒れている男を見ながら語ると、モナは悔しそうな顔で俯く。ドルウォンを捕まえることができなかったことを悔しがり、同時に仲間を残して一人で逃げたドルウォンの薄情さにモナは腹を立てていた。


「でも、もしかするとこの街道にある建物の何処かに隠れている可能性もあります。一応、調べてみた方がいいかもしれませんね」

「……そうですね、仲間たちに知らせてこの辺りを細かく調べてみましょう」


 モナは街道を見回しながら建物を捜索してみることを決め、ノワールもモナを見上げながら頷いた。

 それからモナは捕らえた男たちを連行するために一人仲間がいる詰め所へ戻って行き、ノワールとモルドールはモナが戻るまでの間、男たちの見張りを任された。


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[一言] ひとりひとりのキャラの表情の説明や心理描写が多すぎて読みずらいです。
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