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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十六章~孤島の半人半鳥~
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第二百十八話  ダークの提案


「……と言うわけだ」


 ベガンは三日前に起きた出来事を語り終えると目を閉じながら小さく俯き、ダークは俯いているベガンを黙って見ていた。ダークの後ろで話を聞いていたアリシアたちは真剣な表情を浮かべており、ベガンの両隣で話を聞いていたカイルスとポリアも俯いて暗い表情を浮かべている。

 ダークたちは自分たちが孤島を訪れる数日前にとんでもないことが起きていたのを知り、セイレーンたちを気の毒に思う。同時に金儲けのために彼らを襲った海賊たちに対して不快な気分になった。


「……それで、その後、海賊たちはどうしたのだ?」


 黙って話を聞いていたダークは退却した海賊たちがどうなったのか尋ねる。ベガンはゆっくりっと顔を上げながら目を開け、苛立ちが感じられるような表情を浮かべてダークを見た。


「奴らはその翌日にまた現れて島を襲撃してきた。今度は更に人数を増やし、我々の歌の対策もしてきてな」

「歌の対策?」

「そうだ、奴らは混乱を防ぐことができるポーションをを用意し、それを口にして襲ってきたのだ。おかげで我々の歌は一部の海賊には効かず、苦戦を強いられた。だが、こちらも戦力を増やして何とか撃退することに成功した」


 二度目の襲撃も凌ぐことができたと知り、ダークの後ろで話を聞いていたアリシアたちは安心の表情を浮かべる。だが、ベガンは険しい表情を浮かべたままで、カイルスとポリアも深刻そうな顔をしたままだった。


「しかし、それでも海賊たちは諦めず、昨日も更に人数を増やして島を襲撃してきたのだ。今度はほぼ全ての海賊が混乱を防ぐポーションを飲んでおり、我々の歌声は通用せず、こちらは多くの負傷者を出してしまった」


 ベガンは机の上で左手を強く握り、しつこい海賊たちへの怒り、そして仲間を傷つけられたことへの悔しさで左手を震わせる。カイルスとポリアも傷ついた仲間の姿を思い出したのか、肩を僅かに震わせており、そんなベガンたちをダークたちは黙って見つめていた。

 二度目の襲撃に失敗したにもかかわらず、更に人数を増やしてセイレーンたちの孤島を襲撃し、彼らを捕らえようとする海賊たちのしつこさにダークたちは心の中で呆れる。同時にそこまでしてセイレーンたちを捕らえ、彼らを売って金を得ようとする欲深さを哀れに思った。


「それで、三度目の襲撃はどうなった? 貴公らがこうして此処にいるのだから、当然撃退したのだろう?」

「勿論だ、かなりの人数の海賊を倒してやった。ただ、こちらも多くの仲間が負傷してしまった。もしまた海賊たちが襲撃してきたら撃退できるかどうか……」


 難しい顔をしながらベガンは海賊を撃退できるかどうか分からない現状に悩まされて低い声を出す。カイルスとポリアは不安そうな表情を浮かべながらベガンを見ていた。


「……なあ、族長さんよ。アンタらを襲った海賊の頭はシャルディーと名乗ったんだな?」


 ベガンたちが危機的な現状に頭を抱えていると、黙って話を聞いていたジェイクがベガンに話しかけてきた。ジェイクの声を聞いたダークたちやベガンは一斉に視線をジェイクに向ける。


「……ああ、確かに頭らしき男はそう名乗った」

「そうか……」


 海賊の船長がシャルディーで間違いないとベガンが語ると、ジェイクは難しい顔をしながら腕を組んで俯く。何かを考え込むようなジェイクの姿を見たアリシアたちは不思議そうな顔をする。


「ジェイク、そのシャルディーとかいう海賊のこと、何か知っているのか?」


 ダークが俯いているジェイクに声をかけると、ジェイクは顔を上げてダークの方を見ながら小さく頷いた。


「ああ、盗賊をやってた時にちょっと耳にしたことがあってな」

「どんな奴らだ?」


 シャルディーと彼の海賊団がどんな存在なのか、ダークは低い声を出しながら尋ねる。ベガンも次に海賊たちが襲撃してきた時に備えて少しでも情報を得ておこうと思ったのか、目を見開きながらジェイクを見ていた。

 ダークやベガンの反応を見たジェイクも現状から話しておいた方がいいと感じ、真剣な表情を浮かべながらダークたちを見て説明を始める。


「シャルディー海賊団、団員は七十人から九十人と言われている大型海賊団だ。二隻の船を所有しており、主に海岸近くの村や集落を襲い、金品や女を奪うなどの活動をしている。奪った女は自分たちが楽しんだ後に奴隷商などに売って金に換えてるって話だ」

「うわぁ、最低な連中ね」

「まさに女の敵じゃな」


 ジェイクの話を聞いたレジーナは表情を歪ませながら引き、マティーリアは若干表情を鋭くしながら低い声を出す。アリシアも不機嫌そうな顔でジェイクの話を聞いており、ポリアは少し顔色を悪くしている。

 

「ジェイクさん、そのシャルディー海賊団の人数が七十人から九十人で二隻の海賊船を所有しているというのは確かなんですか?」

「なんとも言えねぇな。俺がこの情報を得たのは兄貴たち会う前だったんだ。あれからもうかなりの月日が経っているから、人数が増えているのか減っているのか、船を何隻持っているのかも分からねぇ」

「まぁ、確かにそうですよね」


 情報が確かではないことをジェイクから聞いたノワールは理由が理由であるため、仕方がないと納得する。ジェイクはダークたちを見て申し訳なさそうな顔をするが、ダークたちは不確かとはいえ、自分たちの知らなかった情報を教えてくれたジェイクを責めようとは思っていなかった。


「……ベガン殿、貴公らが海賊たちと交戦した時、奴らはどれほどの人数だったか、覚えているか?」

「いや、ハッキリとは分からなかったが、昨日襲撃してきた時は五十人以上はいたと思う」


 顎に手を当てながらベガンは昨日戦った海賊たちの人数を思い出す。アリシアたちは海賊の人数が五十人以上だと聞いて少し驚いた表情を浮かべ、ダークは小さく低い声を出した。


「その時、奴らは何隻の船で孤島にやってきた?」

「最初の襲撃から今日までずっと一隻の船でやってきた」

「そうか」


 ベガンの話を聞いたダークは腕を組んで小さく俯く。周りにいるアリシアたちは考え込むダークを黙って見つめていた。

 今までの情報から、海賊たちは一隻の海賊船を所有し、五十人以上の団員がいることは分かったが、それだけでは海賊たちの総戦力は分からない。まだ他にも海賊船があり、団員も大勢いる可能性は十分あるとダークは考えていた。


「……ベガン殿、貴公らはこれからどうするつもりだ? ここまでの流れからして、海賊たちがまた襲撃してくる可能性は高いぞ」


 海賊のことを考えていたダークはベガンの方を向き、今後どうするのかを尋ねる。するとベガンは難しい表情を浮かべながら机の上に両肘をつけた。


「攻めてきたらその時はまた迎え撃つだけだ。ただ、こちらの戦力は低下しているため、もし奴らが昨日以上の戦力で襲撃してきたら、敗北するかもしれない」


 ベガンの口から負けるかもしれない、という言葉を聞いたカイルスとポリアは不安そうな表情を浮かべながらふとベガンの方を向いた。族長であるベガンが負けるかもしれないと言えば不安になるのは無理もないことだ。


「もし、敗北したらどうするつもりだ?」

「その時はこの島を捨てて別の島へ移り住む。敗北したからと言って大人しく奴らに捕まるつもりはない」

「なるほど……」


 負けた時は島を捨てて逃げると考えているベガンを見てダークは呟く。奴隷にされるくらいなら今住んでいる孤島を離れ、海賊たちの知らない別の場所に住むのが一番いいかもしれないとダークも思っていた。

 だが、セイレーンが孤島からいなくなってしまったら、彼らを仲間にすることはできず、ダークの計画も台無しになってしまう。セイレーンたちを仲間のするためにもダークは彼らを海賊に勝たせなくてはならないと考えた。


「……もしよければ、私たちが海賊との戦いに加勢するぞ?」

「……は?」


 いきなり加勢すると言いだすダークにベガンは呆然とし、カイルスとポリアもまばたきをしながらダークの方を見る。さっき出会ったばかりの人間が亜人である自分たちに力を貸すと言ってくれば当然だ。

 アリシアたちはダークがセイレーンたちを仲間にするために彼らに力を貸すことを予想していたのか、驚くことなく苦笑いや微笑みを浮かべながらダークを見ていた。


「いや……ダーク殿、今なんと?」

「私たちが貴公らと共に海賊と戦うと言ったのだ」

「な、なぜ?」


 ダークたちが自分たちに手を貸す理由が分からないベガンは改めてダークに尋ねた。すると、ダークは腕を組みながら椅子にもたれて驚くベガンを見つめる。


「貴公らが海賊に捕まってしまうのは私たちにとって都合の悪いのだ。貴公らがいなくなってしまったら私たちの計画が台無しになってしまうのでな」

「計画?」

「そうだ、私たちがこの島にやって来たのもその計画のために貴公らの力を借りたいからだ」


 低い声で語るダークを見て、ベガンは驚きの表情を真剣な表情へと変え、カイルスも僅かに目を細くしてダークを見つめる。ポリアだけは不思議そうな顔でベガンとダークの顔を交互に見ていた。


「そう言えば、まだダーク殿たちがこの島に来た理由を聞いていなかったな……この島に来た理由、そしてその計画について、詳しく聞かせてもらえないだろうか?」

「勿論」


 ベガンが孤島に来た理由を尋ねると、ダークは目を薄っすらと光らせながら説明を始めた。

 ダークは新しくビフレスト王国の領内に造った港町で海魚を獲り、それをビフレスト王国の町や村に送るという計画、その新しい港町でセイレーンたちに漁をやってもらうために孤島に話し合いに来たことなどを全てベガンたちに話す。壮大で他の国が実行したことのない計画なため、全てを分かりやすく説明するのに予想以上の時間が掛かってしまった。

 説明が終わるとダークは再び椅子にもたれて腕を組む。説明を聞いたベガンとカイルスは意外そうな顔をしており、ポリアは目を輝かせて興味のありそうな顔をしていた。


「海で獲れた魚を国中へ送るとは……」

「しかも、魚は一切手を加えていない獲れた時と同じ状態で送るつもりでいるなんて……」

「そんなことができるとは思えないが……」


 ベガンとカイルスはダークの説明を聞いて信じられないような顔で呟く。二人がそんな反応をするのは無理もなかった。

 異世界では、獲れた魚は腐敗しないように塩漬けなどにして保存できるようにする。だが、その場合は塩の味が付いてしまい、魚本来のおいしさを味わうことができない。だからと言って、何も手を加えずに運べばすぐに腐敗してしまう。そのため、異世界で魚の味を知るには獲ってすぐに食べるしかないのだ。

 塩漬けなどをせずに魚を遠くにある町や村に届けるなどできるはずがない、大陸や人間の国の知識を持っているベガンとカイルスはそう考えていた。だから、獲れたての海魚を腐敗する前に届けるなど不可能だと思っているのだ。

 難しい顔をしながら俯いているベガンとカイルスをダークは黙って見ており、ノワールも無表情で二人を見つめていた。アリシアたちはベガンとカイルスが難しい顔をするのも無理はないと感じているのか、小さな苦笑いを浮かべて二人を見ている。


「私たちがこの孤島を来た理由は理解してもらえたか?」

「……ああ、一応は」

「今話した計画のために、私たちは貴公らの力を借りたいと思っている。しかし、貴公らが捕まってしまえばその計画自体も台無しになってしまう。だから私は戦いに加勢すると言ったのだ」


 ダークは改めて自分が海賊との戦いに力を貸す理由を話し、ベガンはそれを聞くと顔を上げてダークを真剣な表情で見つめる。


「……もしやと思うが、海賊を倒すのに力を貸すから、全てが終わったらそちらの計画に力を貸せ、と仰るのか?」

「いいや」


 ベガンが低い声で尋ねると、ダークは迷うことなく首を横に振って否定する。そんなダークの反応を見てベガンは意外そうな顔を見せた。てっきり、助ける代わりに自分たちの計画に協力しろと、半強制的なことを言われると思っていたのだろう。


「私は無理矢理貴公らを従わせようとは思っていない。貴公らが拒否するのであれば、諦めて別のセイレーンたちを探し、彼らを仲間にしにいくだけだ」


 セイレーンたちの都合に合わせて決めるというダークにベガンは思わずまばたきをし、カイルスとポリアも不思議そうな顔でダークを見ている。

 ダークは最初からセイレーンたちを強引に仲間にするつもりは無く、もしベガンたちが仲間にならなかったら、他にセイレーンが住んでいる場所がないか教えてもらい、そのセイレーンたちを仲間にするつもりでいたので、ダークはベガンたちが仲間になる、ならないに関係なく助けるつもりでいた。

 海賊たちが欲深く、力尽くで自分たちを従わせようとしていたため、ベガンたちはダークたちも海賊と同じような考え方をしているのではと思っていた。しかし、ダークが海賊たちとは正反対の反応を見せたため、ベガンたちはかなり驚いたらしい。

 ベガンはダークをジッと見つめながら、どう返事をするべきか考える。族長である自分の返事一つで集落にいる全てのセイレーンたちの運命が決まるのため、かなり慎重に考えていた。


「……因みに我々がダーク殿の計画に協力した場合、こちらは何かを手に入れたり、失ったりすることがあるのか? あと、今までのような生活を送ることができなくなるということは?」


 しばらく考え込んだベガンは計画に手を貸して何か利益や損失があるのかをダークに尋ねる。今まで人間の国と深く関わったことが無かったため、仲間や一族のためにもそう言ったことはしっかりと聞いておこうと思っていた。


「さっきも説明したように、我が国に新しくできる港町で漁をしてもらうために何人かのセイレーンにはその港町で暮らしてもらうことになる。だが、その港町から出さずに永遠に漁をさせるつもりない。この島に戻りたい時は自由に戻っても構わないし、我が国の町を自由に行き来してもいい。無論、協力してもらう以上、それなりの謝礼はする」

「見返りがあり、自由を奪うようなこともしない、という訳か」


 奴隷のような扱いはされないと聞かされたベガンは不安が一つ消えたのか少し安心した表情を浮かべながら呟いた。


「あと、私たちの計画に協力してもらうとなると、港町に住むセイレーンたちは我が国の民となり、この島も我が国の領土とさせてもらう」

「つまり、我々はダーク殿の支配下に入る、という訳か」


 今まで人間の国と関わりを持たず、自由奔放じゆうほんぽうに生きてきた自分たちが人間の国の民となり、人間の下につくことにベガンは僅かに不満そうな顔を見せる。


「確かに貴公らには私の支配下に入ることになる。今まで自由に生きてきた貴公らにとっては不満を感じるだろう……その代わり、この島と貴公らの安全は保障する」

「安全?」

「今回、島を襲った海賊のような者たちから貴公らと島を守り、二度と今回のような事件に巻き込まないと約束しよう」


 ダークの言葉にベガンは目を僅かに細くしながら黙り込む。人間の支配下に入ることになるが、今までどおりの生活ができ、更に自分たちを狙う輩たちから守ってくれる。ベガンは自分たちが殆ど損をせず、得ばかりするダークの話が少しずつ気になるようになっていった。


「まあ、さっきも言ったように私たちに協力するかしないかは貴公らの自由だ。協力する気が無いのなら断っても構わない」


 黙り込むベガンを見てダークは改めて協力するのかはベガンたち、セイレーンの自由だと伝える。それを聞いたベガンは目を閉じながら俯いて考え込む。

 先程のダークの話を聞けば、大抵の亜人はダークの計画に協力することを選ぶだろう。ベガンも自分たちが得ばかりするという話を逃すのは勿体ないと感じている。だが、亜人の中でも上位の存在であるセイレーンが人間の支配下に入っていいのかとベガンは心の中で悩んでいた。

 セイレーンの誇りよりもダークの国の民になるか、それとも誇りを捨てずにこれまでどおりの暮らしを続けるか、ベガンはどうすればいいのか低い声を出しながら考え、そんなベガンはカイルスとポリアは黙って見ている。


「……さて、話を戻すが」

「は?」


 ダークの言葉に悩んでいたベガンはフッと顔を上げてダークを見る。カイルスとポリアもダークの方を向いて不思議そうな顔をしていた。


「海賊たちが次に襲撃してきた時に私たちは力を貸してもよいが、どうする?」

「あ、ああぁ、その事か……」


 ベガンはダークの言葉を聞いて計画のことを聞く前の話題を思い出す。

 もし海賊たちが次に襲撃してきたら、間違いなく全ての戦力をぶつけてくるはずだ。仲間が負傷して戦力が低下している今の状態では戦っても敗北するのは火を見るよりも明らかだった。

 ダークたちは計画に参加する、参加しないに関係なくベガンたちを助けようとしている。それならダークたちに共に戦ってもらった方がいいとダークは考えていた。しかし、いくら海賊たちを倒すためとは言え、人間の力を借りて戦うことを他のセイレーンたちが納得するとは思えない。ベガンは目を閉じながら難しい表情を浮かべる。


「……少し、時間を貰えるだろうか? 仲間たちと相談して決めたいのだ」

「私は構わない。ただ、海賊たちがいつやってくるか分からない。早く決めた方がいいと思うぞ?」

「ああ、分かっている」


 そう言ってベガンは立ち上がり、小屋の出入口の方へ歩いていく。そして、入口前で立ち止まると、ゆっくりとダークたちの方を向いた。


「答えを出すまで自由にしてくれていて構わない。もし集落を見て回ったり、集落の外に出るのなら案内をさせる」

「そうか……ではそうさせてもらおう」

「……カイルス、ポリア」


 ベガンは視線をダークからカイルスとポリアに向け、名を呼ばれた二人はベガンを見ながら不思議そうな顔をする。


「ダーク殿たちの案内を頼む。私はこれから皆とダーク殿たちの力を借りるか話し合ってくる」

「あ、ハイ。分かりました」

「ハ~イ」


 真面目な顔で返事をするカイルスと左手を上げながら軽い返事をするポリア、二人を見たベガンは小屋を出て集落にいるセイレーンたちを集めに向かう。


「……さて、セイレーンたちの答えが出るまで時間ができてしまったな」

「この後どうする、兄貴?」


 ダークたちはベガンは出ていくのを見届けると、これからどうするか話し合いを始める。人間である自分たちと共闘するかどうかを話し合うのだから、セイレーンたちの話し合いは時間が掛かるとダークたちは感じていた。

 答えが出るまで間、ベガンの小屋でじっとしているのも退屈なので、ベガンが言ったように集落を見て回ったり、集落の外に出てみようと思い、ダークたちは何処に行くかを考える。そんな中、アリシアがふと顔を上げてカイルスとポリアの方を向いた。


「おい、君たち」

「ハ、ハイ」


 アリシアに声をかけられたカイルスは少し緊張した様子で返事をする。ベガンから案内をするよう頼まれたとはいえ、いきなり声をかけられるとやはり驚くようだ。


「確か、海賊たちとの戦いで君たちの仲間が負傷しているのだったな?」

「え? あ、ハイ。今は一ヵ所に集まって療養中です」


 カイルスは負傷した仲間たちがどうしているのかをアリシアに説明し、それを聞いたアリシアは小さく俯いて何かを考え込む。そして、しばらくするとアリシアは再びカイルスとポリアの方を向いて口を開いた。


「その負傷したセイレーンたちのところに案内してくれないか?」

「え?」


 アリシアの口から出てきて意外な言葉にカイルスは驚き、ポリアはまばたきをする。ダークはアリシアの言葉を聞いた瞬間、彼女が何をしようとしているのかに気付いて小さく笑い、ノワールたちは笑みを浮かべてアリシアを見つめた。


「負傷している仲間のところへ、ですか?」

「ああ、こう見えて私は回復魔法が使えるのだ。私の魔法でセイレーンたちの傷を治せると思う」

「か、回復魔法を……」


 人間の騎士が魔法を使える、それを聞いたカイルスは目を丸くする。戦士系の職業クラスを修めている者が魔法を使えるなど聞いたことが無いため、カイルスはアリシアの言葉に疑いを持っていた。

 だが、仲間が負傷して戦力が低下している現状で傷を治せるという言葉を聞いたカイルスはアリシアを信じてみてもいいかもしれないと感じる。少なくとも、目の前にいるダークたちが海賊たちのような悪意を持った人間ではないということはカイルスも分かっていた。


「……分かりました、案内します」


 悩んだ末、カイルスはアリシアを信じてみることにし、負傷しているセイレーンたちがいる場所に案内することにした。アリシアはカイルスの返事を聞くと小さな笑みを浮かべる。


「と言うわけでダーク、私は負傷したセイレーンたちの傷を治しに行ってくる」

「ああ、頼んだ」


 ダークはセイレーンたちの治療をアリシアに任せ、アリシアもダークを見て頷く。

 カイルスはアリシアを負傷したセイレーンたちのところへ連れていくために小屋を出ていき、アリシアもその後に続く。二人が出ていくと残ったダークたちは自分たちは何をするか再び考え始める。すると、ポリアが満面の笑みを浮かべながらダークたちに近づいてきた。


「ねえねえ、貴方たちはこれからどうするの? 集落の中を見て回る? それとも外を見に行く?」

「え?」


 少し興奮した様子でいきなり話しかけてきたポリアにダークは少し戸惑ったような声を出す。ベガンやカイルスと違ってまるで友達と話すような態度を取るポリアに少し驚いていたのだろう。

 ダークだけでなく、ノワールやレジーナ、ジェイクもダークと同じような反応を見せており、マティーリアだけは馴れ馴れしい態度を取るポリアを鬱陶しそうに見ている。

 元々人間に興味を持っていたポリアは人間を間近で見ることができたことにテンションが上がっているのか、目を輝かせながらダークたちを見ている。因みに海賊が襲ってきた時、彼女は集落で避難していたため、海賊たちに近づくことはできなかった。

 目を輝かせるポリアを見たダークはフルフェイスの兜の下で複雑そうな表情を浮かべていた。


(なんか凄い子だなぁ。馴れ馴れしいと言うか、恐れ知らずと言うか……そう言えば、同じギルドにもこんな性格のプレイヤーがいたっけ……)


 ポリアを見て、ダークはLMFにいた頃に彼女と似た仲間がいたのを思い出す。そのプレイヤーもポリアと同じように馴れ馴れしい態度を取っていたが、決して悪いプレイヤーではなく、ただ純粋に物事や他のプレイヤーに興味を抱いていただけだったので、ダークや他のギルドメンバーもそのプレイヤーを嫌ってはいなかった。


「ねえ、どうするの?」

「そ、そうだな……とりあえず私は東の浜辺に戻ってみるつもりだ」

「そうなんだ、じゃあ私が近道を案内するよ」

「……そうか、では頼む」


 ポリアはダークを見ながらニコッと笑い、ダークはポリアを見ながらやり難そうな気分になる。


「私とノワールは浜辺に戻ってオールドシードラゴンや浜辺の状態を確認してから島を見て回るが、お前たちはどうする?」


 ダークはレジーナたちの方を向き、この後どうするのか尋ねると、レジーナとジェイクは難しい顔をしながら考え込む。


「……それじゃあ、あたしも一緒に行こうかな。ここがどんな島なのか興味あるし」

「俺も行くぜ。セイレーンたちと共闘するかは分からないが、先に島の地形や海賊たちが使いそうな道とかがないか調べておきたいからな」

「そうですか……マティーリアさんはどうします?」


 レジーナとジェイクの返事を聞くとノワールはまだ答えを聞いていないマティーリアに尋ねる。マティーリアは両手を後頭部に当てながら小屋の出入口の方を向いた。


「妾はここに残る。アリシアにお主たちが浜辺に戻ったことを知らせないといかんからな」

「そうですか、ではお願いします」


 ノワールがアリシアへの報告を任せると、マティーリアは分かった、と無言で頷く。実はマティーリアが集落に残ると言った理由はアリシアにダークたちのことを伝える以外に馴れ馴れしいポリアと一緒にいたくないという理由があったのだ。

 

「では、私たちは浜辺へ向かうとしよう。ポリアといったな、案内を頼むぞ」

「ハ~イ」


 ポリアは笑いながら返事をすると早足で小屋から出ていき、ダークたちはポリアの後を追う。マティーリアはダークたちを見送ると欠伸をしながらダークが座っていた椅子に座った。


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