第二百四話 有能な冒険者
蔦と雑草だらけの長い廊下でカトレア達、天の蝶は三体のヒューマノイドプラントと交戦していた。前衛には剣を構えるカトレア、少し離れた所では女レンジャーが弓を構えて立っており、後衛には女神官と女魔法使いがロッドと杖を握りながら控えている。
「私が斬り込むから、後ろから魔法で援護をお願い!」
「分かったわ!」
カトレアの指示を聞いた女魔法使いは返事をし、持っている杖を構える。それを確認したカトレアは右手に持つ剣を構え、ヒューマノイドプラント達に向かって走り出す。
ヒューマノイドプラントの一体が走って来るカトレアに向かって毒液を吐いて攻撃するがカトレアはその毒液を回避し、毒液を吐いたヒューマノイドプラントの懐に入り込む。そして持っている剣に気力を送り込んで刀身を橙色に光らせる。
「連牙嵐刺斬!」
戦技を発動させたカトレアは剣でヒューマノイドプラントに連続突きを放ち攻撃した。剣はヒューマノイドプラントの体中に穴を開け、攻撃を受けたヒューマノイドプラントは刺された箇所から緑色の液体を出しながら後ろに倒れてそのまま動かなくなる。
三体の内、一体のヒューマノイドプラントを倒したカトレアはよし、と言いたそうな表情を浮かべ、すぐに別のヒューマノイドプラントを攻撃する為に態勢を立て直そうとする。だが、カトレアの左側にいる別のヒューマノイドプラントが蔓の腕を振り上げてカトレアに攻撃しようとしており、それに気付いたカトレアは「マズい」と表情を歪ませた。
「火弾!」
ヒューマノイドプラントがカトレアを攻撃しようとした瞬間、後方から火球が飛んで来てヒューマノイドプラントに命中する。火球を受けたヒューマノイドプラントは炎に包まれ、体を大きく動かしながら苦しむ。
火球が飛んで来た方角には杖を構える女魔法使いの姿があり、それを見たカトレアは小さく笑ってありがとう、と目で伝える。カトレアを見た女魔法使いも微笑みながらウインクを返す。カトレアの指示どおり女魔法使いはしっかりと戦いの援護をしていた。
炎に包まれたヒューマノイドプラントは黒焦げになって倒れ、その間にカトレアは後ろに跳んで距離を取る。残った最後のヒューマノイドプラントは離れるカトレアに向かってゆっくりと歩き出し、近づいて来るヒューマノイドプラントを見たカトレアは剣を構え直した。
「鉄貫撃!」
突然戦技の名を叫ぶ声が聞こえ、それと同時にヒューマノイドプラントの頭部に紫色に光る矢が刺さる。矢を受けたヒューマノイドプラントは怯み、カトレアが矢が飛んで来た方に視線を向けるとそこには弓を構える女レンジャーが立っていた。
「今よ、やっちゃいなさい!」
女レンジャーがカトレアに止めを刺すよう伝え、カトレアは真剣な表情を浮かべながら頷く。ヒューマノイドプラントを睨みながら剣に気力を送り込み、カトレアはヒューマノイドプラントに突撃する。
「気霊斬!」
ヒューマノイドプラントに近づいたカトレアは橙色に光る剣で袈裟切りを放ち、ヒューマノイドプラントの体を切り裂く。体を切られたヒューマノイドプラントは傷口から緑色の液体を出しながら痙攣し、それを見たカトレアは倒したと笑みを浮かべる。
ところがカトレアが勝利を確信した直後、ヒューマノイドプラントは最後の悪あがきとしてカトレアに毒液を吐いてきた。油断していたカトレアは反応に遅れてしまい、毒液を左上腕部に受けてしまう。
「ううぅっ!」
左腕から伝わる痛みにカトレアは歯を噛みしめ、毒液を受けた箇所からは煙が上がる。それを見た仲間達は驚いて大きく目を見開いた。
カトレアは痛みに耐えながら剣を振ってヒューマノイドプラントに反撃する。その反撃でヒューマノイドプラントは今度こそ止めを刺され、その場に崩れるように倒れた。
三体目のヒューマノイドプラントを倒したカトレアは持っていた剣を落とし、その場に座り込む。仲間達は慌ててカトレアの下に駆け寄った。
「カトレア、大丈夫!?」
「え、ええ、何とか……でも、毒を受けちゃたみたい」
「そう言えば、アイツの吐く液は毒だってオスクロさんから貰った羊皮紙に書いてあったっけ」
羊皮紙に書かれてあったモンスターの情報を思い出し、女レンジャーは焦りながらカトレアの左腕を見ている。カトレアは僅かに顔色を悪くし、汗を掻きながら左腕の痛みに耐えていた。
「早く手当てをしてあげて!」
「うん!」
女魔法使いは隣にいる女神官に声をかけ、女神官はカトレアの左腕にそっと手を近づけた。
「浄化の光! 治癒!」
女神官が魔法を発動させると彼女の手が光に包まれ、カトレアの左腕に掛かって来た毒液が消滅し、カトレアの顔色が良くなる。そして毒液によって傷ついた腕の傷も見る見る治っていき、初めから無かった様な状態になった。
<浄化の光>は即死以外の状態異常を治す事ができる光属性の中級魔法。クレリックの様な回復担当の職業を持つ者しか覚えられない魔法で冒険や神殿での仕事など、どんな時でも使え、更に消費する魔力も少ないので習得できる者は必ずと習得すると言われている。
カトレアを治療する時、女神官はまず浄化の光でカトレアを解毒し、その後にヒーリングで傷を治した。先に解毒しないと傷を治した後にまた毒の効果でカトレアの体力が削られてしまうからだ。これは毒を受けた者を治療する時の常識だった。
傷と毒が治るとカトレアは立ち上がり、落ちている剣を拾って鞘に納めた。
「ありがとう、助かったわ」
「気にしないで……と言うか、敵を完全に倒していないのに油断して毒液を受けたカトレアがダメなんでしょう?」
「アハハ、そうでした」
女神官に注意されてカトレアは苦笑いを浮かべる。そんなカトレアを見て女レンジャーと女魔法使いは呆れ顔になる。
「それにしても、思ったよりも面倒な奴等だったわね」
「ええ、下級モンスターだって言うから大した事ないと思ってたんだけど……」
転がっているヒューマノイドプラントを見つめながらカトレアと女レンジャーは低い声で話す。女魔法使いと女神官も黙ってヒューマノイドプラントを見ていた。
エントランスでオスクロ達と別れた後、天の蝶は自分達の担当場所である右の扉の先へ向かった。探索を始めた矢先、天の蝶は一つの部屋を見つけたので中を調べると小さな宝箱を発見する。
いきなり宝箱を発見した事にカトレア達は興奮しながら中を確認する。そこには大量の金貨と宝石が入っており、それを見たカトレア達は大はしゃぎした。だが、持ち歩くには少し量が多かったので、宝箱を安全な場所に移動させて探索を再開する。
それからカトレアはモンスターと遭遇する事無く先を進んでいたのだが、天井からヒューマノイドプラントが落ちて来て戦闘となり、先程の状況に至ったんだ。
「この先もコイツ等みたいなモンスターが出てくるとなると、ちょっと大変そうね」
「そうね……」
「でも、こういう所ほど凄い宝物があるって言うじゃない。先にはもっと凄い宝物があるかもよ?」
女レンジャーの言葉にカトレアと女神官はそう言う考え方もあるな、と言いたそうな顔をし、女魔法使いはお気楽ね、と言いたいのか苦笑いを浮かべて女レンジャーを見ていた。
カトレア達が喋っていると彼女達が倒したヒューマノイドプラント達の体が崩れ、中から無数の金貨が顔を出した。カトレア達はヒューマノイドプラントの体内から金貨が出て来た事に気付くと少し驚いた顔をしながら金貨を拾う。
「ちょっと、本当にモンスターの中から金貨が出てきたわよ、どうなってるの?」
「私にも分からないわよ」
「羊皮紙にモンスターの体内からアイテムが出てくると書いてあったのを見た時は疑ってたけど、本当だったとはねぇ……」
金貨を見ながらカトレア、女レンジャー、女魔法使いは意外そうな声を出す。女神官も声は出さないがカトレア達と同じような表情を浮かべて金貨を見ている。
オスクロから渡された羊皮紙にはフルールア宮殿の情報やモンスターの生態が書かれてあり、モンスターの体内からアイテムが出てくる事も書かれてあった。初めにそれを見た時はカトレア達はふざけているのか、と思っていたが実際にモンスターの体内から金貨が出て来たのを見て彼女達も羊皮紙に書いてあった事が真実だと理解したのだ。
全ての金貨を拾ったカトレア達は手の中にある数枚の金貨をじっくりと観察する。自分達の知っている金貨とは大きさも作りも違う金貨に天の蝶のメンバー全員が興味のありそうな顔をしていた。
「これって何処で使われてる金貨かしら? 少なくともこの大陸でこんな金貨は見た事が無いわ」
「此処って、大昔に使われていた宮殿なんでしょう? もしかしたらその昔の時代で使われていた金貨かもしれないわよ?」
「大昔の金貨かぁ……だったらそれなりに価値はあるって事よね?」
カトレアは女レンジャーの方を向いて尋ねると女レンジャーは難しい顔をしながら首を横に振った。
「それは分からないわ。鑑定士に見せて確かめてみないと……」
「と言うか、最初に見つけた宝箱の中にもこれと同じ金貨が沢山は言っていたわよ? もしかすると、昔の時代ではごく普通に使われたい硬貨かもしれないわ」
「えっ、それって、この金貨って銅貨と同じくらいの価値しかないって事?」
目を見開きながらカトレアは女魔法使いに尋ねる。金貨なのに自分達が使っている銅貨と同等の価値しかないかもしれないと知ってショックを受けたらしい。
「勿論、そうとは限らないわ、もしかしたらの話よ。この金貨がどれほどの価値があるかはアルメニスに持ち帰って調べてみれば分かるわ」
「で、でもでも、金貨なんだし、そこそこの値打ちはするわよね?」
「だから、調べてみないと分からないってば」
動揺した様なカトレアを見て女魔法使いは少し呆れた表情を浮かべる。女レンジャーはカトレアを見てやれやれ、と首を横に振り、自分が回収した金貨を自身のポーチにしまう。女神官も同じように金貨を回収してポケットにしまった。
全ての金貨を回収すると天の蝶は更に奥を調べる為に先へ進む。また天井からモンスターが降って来る可能性があるので、前だけでなく天井にも注意を払いながら先へ進んだ。
「そう言えばカトレア、訊きたかったんだけど、どうして探索場所を選ぶ時に二階じゃなくて一階を選んだのよ? 二階は今まで行けなかった場所なんだから一階よりも凄い宝物があるかもしれないじゃない」
女レンジャーは歩きながらカトレアに二階ではなく一階を選んだ理由を尋ねた。三つの内、一番探索し甲斐のある場所を選ばなかった事が不思議で仕方がなかったようだ。勿論、女魔法使いと女神官も同じ疑問を抱いていた。
「オスクロさんやラガットが言ってたでしょう? 二階の方が一階よりも凄い宝物があるかもしれないけど、強いモンスターが出現する可能性もあるって、しかも誰も行った事が無いって事は二階の情報は何も無いって事よ。そんな所をいきなり探索するのは危険すぎでしょう?」
「だから七つ星の聖刃とオスクロさん達のチームに探索権を譲ったの?」
「ええ、六つ星の私達よりは七つ星の彼等の方が強いモンスターと遭遇しても簡単に撃退してくれるでしょうしね」
カトレアのずる賢さに仲間達は少し呆れた様な顔をする。だが、カトレアの考え方も間違いではないので否定はしなかった。
「それにこっちの探索が終われば私達も二階やオスクロさん達が担当している所に行く事ができるんだから、二階を選ばなかったとしても大損はしないはずよ。何よりも先に聖刃に探索してもらえば後から二階に行く私達は安全に探索できるでしょう?」
「確かにそうね……」
「こっちでも結構な宝物が見つかった訳だし、危険度の高い二階を調べるよりも情報のある一階の探索を選んで正解だったかもね」
女魔法使いは自分達の都合のいいように探索できるよう計算したカトレアに感心し、女レンジャーや女神官もカトレアを見て流石、と感じた。
「さぁ、ちゃっちゃとこっちの探索を終わらせて二階に行きましょう」
カトレアは歩きながら仲間達の方を見て笑い、レンジャー達はそんなカトレアを見て苦笑いを浮かべた。
――――――
二階にある少し広めの廊下をラガット達、聖刃が固まって歩いていた。ラガットが先頭を歩き、その後ろに金髪のエルフと水色の髪の少女、殿には茶髪の男がついている。水色の髪の少女以外の三人は鋭い表情を浮かべながら周囲を警戒していた。
「この辺にはモンスターの気配は無いな」
「油断しないで? 前みたいにいきなり現れるかもしれないんだから」
「分かってるって」
金髪のエルフの忠告を聞いて茶髪の男は笑って返事をする。先頭を歩くラガットは二人の会話を聞いて小さく笑い、水色の髪の少女も苦笑いを浮かべながら会話する二人を見ていた。
ラガット達は二階の探索を始めてすぐにモンスターと遭遇し戦闘を行っていた。戦ったモンスターは大して強くなかったので苦戦はしなかったが、いきなり現れた事でラガット達は次に突然遭遇してもすぐに戦えるよう、警戒心を強くしながら先へ進んでいる。
「しかし、本当に見た事の無いモンスターばかりですね。一体この宮殿はどんな所なんでしょうか?」
水色の髪の少女は普通とは違う雰囲気の宮殿内がどうなっているのか気になり、歩きながら廊下を見回す。ラガット達も宮殿に入った時からその事が気になっており、同じように廊下を見回した。勿論、モンスターと戦闘になっても大丈夫なよう警戒は解いていない。
「……普通じゃないのは確かね。今まで冒険して来たダンジョンとは明らかに何かが違うもの、何よりもモンスターの体内から金貨やアイテムが出てくるなんて私達の世界では絶対にあり得ない事よ」
「それじゃあ、此処って私達の世界とは違う世界なんですか?」
少し驚いた顔をしながら水色の髪の少女は金髪のエルフに尋ねる。ラガットと茶髪の男も別の世界、という単語を聞いて僅かに表情を変えた。
「勿論、まだ断言はできないわ。この宮殿がどんな場所で、どうしてこうなったのか、それを確かめる為にも細かく調べて情報を得る必要があるのよ」
「そ、そうですよね、すみません」
水色の髪の少女は小さく頭を下げ、金髪のエルフはそんな少女を少し呆れた様な顔で見ている。ラガットと茶髪の男は前を向いて苦笑いを浮かべた。
しばらく廊下を歩いているとラガット達は一つの扉を見つける。先頭のラガットが立ち止まり、後ろにいた仲間達の止めて扉をジッと見つめた。殿の茶髪の男は足音を立てずに扉に近づき、扉の鍵が開いているか、扉の向こうに生き物の気配があるかを調べ始める。
「どう? ガントミー」
「……中から微かに音が聞こえる。モンスターがいる可能性が高いな」
ラガットからガントミー呼ばれた茶髪の男はラガット達の方を向いて扉の向こう側に何者かがいるのを伝える。それを聞いたラガット達は騎士剣や杖、ロッドを構えて戦闘態勢に入った。
ガントミー・アロストン、聖刃のメンバーの一人でハイ・レンジャーを職業にしている男だ。レンジャーとしての能力が優れているのは勿論、弓の腕も一流で調子のいい時は100m先の硬貨を射抜く事もでき、戦技も強力なものを体得している。ラガットとはチーム結成前からの付き合いで彼のとって兄のような存在だ。
ラガット達が武器を構えていつでも戦える状態になるとガントミーはドアノブをゆっくりと回して扉を開ける。物音を立てないように中の様子を確認するとそこは無数の本棚と机が置かれている図書室の様な部屋だった。
部屋の中にはコープスフラワーに寄生されている死体が三体、他にも緑の細長い蔓を包帯を巻いたミイラの様に全身に巻いた身長2mくらいの肥満系人型モンスターが一体、部屋の中を歩き回っている。モンスターの姿を確認したラガット達の目に鋭さが増した。
「……コープスフラワーとか言うモンスターが三体と、あの全身蔓まみれのモンスターは何だ?」
ガントミーが初めて見るモンスターに小首を傾げると後ろにいた水色の髪の少女がオスクロから貰った羊皮紙を見て全身に蔓を巻いたのモンスターの情報を確認する。
「あれはオービーバインと言うモンスターですね。レベルが30代半ばくらいの中級モンスターで全身の蔓を使って攻撃して来るそうです」
水色の髪の少女が蔓を巻いたモンスターの名前と攻撃方法を説明するとラガット達はほぉ、と言いたそうな顔をする。
オービーバインはまだオスクロ達が遭遇していないモンスターだが、LMFから持って来た資料にはしっかりと記録されているので、オスクロは遭遇したと言う事にして名前と情報を羊皮紙に書き、ラガット達に渡していたのだ。
「レベル30代の中級モンスターか、それぐらいなら問題無いな……ラガット、どうする? この部屋も調べるか?」
「勿論、これだけ本があるなら何かこの宮殿の情報が手に入るかもしれないからね」
部屋を調べる為にモンスター達と戦う事を決意するラガットを見てガントミーや金髪のエルフ、水色の髪の少女も賛成なのか無言で頷く。中級モンスターとの戦闘はフルールア宮殿に入って初めてだが、ラガット達にとっては何の問題も無いようだ。
「で? どうやって戦う?」
「いつもどおりさ。僕が前衛に出るからガントミーは弓で援護、フィリアスは補助魔法を掛けた後に魔法で攻撃、ロザーナは後衛で待機、負傷した人に回復魔法を掛けて」
ラガットの指示を聞いてガントミー、フィリアスと呼ばれた金髪のエルフ、ロザーナと呼ばれた水色の髪の少女は無言で頷く。戦いの流れと役目を確認した聖刃のメンバーは意識を戦いに集中させ、一斉に部屋に飛び込んだ。
部屋に入るとラガットは騎士剣と聖王の盾を構え、その右斜め後ろでガントミーが弓を構える。二人の後ろにはフィリアス、その後ろにはロザーナが立って遠くにいるモンスターを見つめた。
モンスター達は部屋に入って来た聖刃のメンバーに気付くとゆっくりと彼等に向かって歩き出す。近づいて来るモンスター達を見たフィリアスは持っている杖を横に構える。
「物理攻撃強化拡散! 物理防御強化拡散! 移動速度強化拡散!」
フィリアスは補助魔法を発動させてラガットとガントミーを身体能力を強化させ、それが済むと杖の先をモンスター達に向けていつでも攻撃魔法を発動できる態勢を取った。
フィリアス・グリアナス、聖刃の魔法支援を担当するエルフの美女でガイア・ウィザードと呼ばれる火、水、風、土属性魔法を得意とする上級職を職業にしている。エルフである為、魔法攻撃力や魔力が高く無数の上級魔法を使う事もできるので現在、聖刃では彼女が最強と言ってもいい。更にチーム最年長で知識も豊富なのでチームの頭脳的存在でもある。ラガットに密かな想いを抱いているが、なかなか素直になれない。
補助魔法で強化されたラガットは騎士剣を構えながら足の位置をずらして敵が近づいて来るのを待つ。そして、一体のコープスフラワーが操る死体が近づいて来ると大きく踏み込み、騎士剣で突きを放った。
騎士剣の切っ先は死体の首に付いているコープスフラワーを貫き、刺されたコープスフラワーは花弁を散らせながら死体の首から取れて床に落ちる。コープスフラワーを失った死体はその場に倒れて動かなくなった。
一体のコープスフラワーを片付けるとラガットはすぐに次の敵に視線を向ける。すると二体目の死体が両手を伸ばしながらラガットに近づき襲い掛かろうとした。だが次の瞬間、一本の矢が死体の肩に付いているコープスフラワーを貫き、コープスフラワーをアッサリと倒す。倒れた死体を見たラガットが矢が飛んで来た方を見るとそこには弓を構えて笑っているガントミーの姿があった。
「ありがとう、ガントミー」
「礼は後だ。まだ二体残ってるぜ」
そう言ってガントミーは新しい矢を手に取り、最後のコープスフラワーとオービーバインに向けて狙いを付ける。ラガットも構えを直して残りの二体のモンスターを睨んだ。
オービーバインは体に巻き付いている蔓を操り、前衛にいるラガットとガントミーに向かって勢いよく蔓を伸ばした。ラガットは左、ガントミーは右に跳んで向かってくる蔓を回避し、ラガットはオービーバインに反撃しようとする。だが近くにコープスフラワーが操る死体がいたので先にそっちを倒してしまおうと視線をオービーバインから死体に向けた。
ラガットは騎士剣に気力を送り込み刀身を青紫色に光らせ、死体を睨みながら勢いよく前に踏み込んだ。
「剣王破砕斬!」
戦技を発動させたラガットは騎士剣を勢いよく横に振り、死体の脇腹に付いているコープスフラワーを両断する。コープスフラワーだけでなく、操られていた死体も腹部から真っ二つにされ、崩れるようにその場に倒れた。
最後のコープスフラワーを片付けたラガットは小さく息を吐く。すると大きな音が右から聞こえ、ラガットは咄嗟に右を見る。そこにはオービーバインの蔓をかわしているガントミーの姿があった。
「おいおい、連続で攻撃するなんて汚ねぇぞ?」
ガントミーは蔓による連続攻撃を回避しながらオービーバインを呆れ顔で見ている。そんなガントミーを気にする事無くオービーバインは蔓で振り回してガントミーへの攻撃を続けた。
「火炎弾!」
オービーバインがガントミーを攻撃していると後衛にいたフィリアスが杖の先から火球を放って攻撃する。火球はオービーバインに命中すると爆発し、オービーバインを炎で包み込む。全身の炎にオービーバインは高い鳴き声を上げながら苦しみだす。
植物族モンスターには火属性の攻撃が効果的である為、フィリアスは今の一撃でオービーバインを倒せたと感じる。ところが炎に包まれているオービーバインは苦しみながらも蔓を操り、火球を放ったフィリアスに向けて蔓を伸ばし攻撃して来た。
オービーバインの予想外の攻撃にフィリアスは一瞬驚きの反応を見せ、何とか防御魔法を発動させようとするが防御が間に合わない状況だった。フィリアスが直撃を覚悟して身構えると、フィリアスの前にラガットが割り込み、オービーバインの攻撃を聖王の盾で防ぎフィリアスを守る。ラガットが自分を守ってくれた姿にフィリアスは目を見開く。
「大丈夫、フィリアス!?」
「え、ええ、大丈夫よ」
自分の安否を確認するラガットを見てフィリアスは僅かに動揺しながら頷く。フィリアスが無事なのを見てラガットは安心の笑みを浮かべた。
火だるま状態のオービーバインは蔓を振り回しながら暴れ回っていたが、やがて電池の無くなった玩具の様に動きを止めてゆっくりと仰向けに倒れる。部屋にいる全てのモンスターを倒し、ラガット達は警戒を解いて息を吐いた。
「ラガット、大丈夫?」
自分を守ってくれたラガットが怪我をしていないか気になり、フィリアスはラガットの状態を確認する。
「大丈夫だよ、聖王の盾でちゃんと防いだから」
「そう……でも念の為にロザーナに診てもらった方がいいわ。ロザーナ、お願い」
「ハ、ハイ」
声を掛けられたロザーナはラガットに近づいて状態を確かめる。ラガットはロザーナを見て大丈夫なのに、と思いながら苦笑いを浮かべた。
「……大丈夫ですね、怪我はありません」
「そう……」
フィリアスは安心したのか小さく息を吐き、そんなフィリアスを見てロザーナは微笑みを浮かべる。
ロザーナ・ホワンティア、聖刃の回復を担当するプリーストの少女で回復魔法は勿論、状態異常を治す魔法や光属性の下級攻撃魔法も使う事ができる。チームの中では最年少で優しい性格をしており、チームメイト達にとっては妹のような存在だ。十代でプリーストになった事で冒険者ギルドからも高く評価されており、ラガット達からも頼りにされている。
ラガット達は笑っているとそこにガントミーがやって来てラガットの肩にポンと手を置いた。
「お疲れ!」
「うん、ガントミーもね」
「ハハハッ……にしてもフィリアス、さっきのはお前らしくないミスだったな? いつものお前ならモンスターに魔法を当てた後でも油断しなかったはずだろう?」
ガントミーはさっきの戦いでフィリアスがオービーバインの攻撃にすぐ反応できなかった時の事を指摘し、ラガットとロザーナもフィリアスの方を向いて意外そうな顔をする。フィリアスはラガット達に見られる中、少し深刻そうな表情を浮かべた。
「……ええ、あれは確かに油断していたわ。中級モンスターが私のフレイムバレットを受けて倒れないとは想像もしてなかったから……」
「確かにそうですね。フィリアスさんの魔法の攻撃力は高く、今までは中級モンスターも一撃で倒せたのに……」
「……どうやらこの宮殿にいるモンスターの中には僕達でも簡単に倒せないくらい強いモンスターがいるようだね」
ラガットは黒焦げになったオービーバインの死体を見ながら低い声を出し、他の三人もオービーバインの死体を黙って見つめる。
「ラガット、これから先は今まで以上に慎重に、そして警戒しながら進んだ方がいいかもしれないぜ?」
「うん、そうだね」
ガントミーの忠告を聞いてラガットはガントミーの方を見ながら真剣な表情で頷く。フィリアスももう二度と油断してはいけないと自分の言い聞かせながら二人を見ており、ロザーナも少し不安そうな顔をしながらラガット達を見ていた。
ラガット達が会話をしているとオービーバインやコープスフラワーの死体が崩れ、中から金貨を出てくる。金貨に気付いたガントミーはニッと笑いながら死体から顔を出す金貨を指差した。
「まぁ、とりあえず今はお宝の回収を先にしておこうぜ」
そう言ってガントミーはモンスター達の死体の方へ歩いて行き、ラガットとフィリアスはさっきまで真面目な話をしていたのに財宝を前にコロッと態度を変えるガントミーに呆れ顔を、ロザーナは苦笑いを浮かべた。
金貨を回収した後、ラガット達は部屋を一通り調べて使えそうなアイテムや素材を手に入れ、フルールア宮殿の情報が書かれた書物を探す。全てを調べ終えると聖刃は次の部屋へと移動した。