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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十五章~魔植園の冒険者~
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第二百三話  探索再開


 探索を終えたオスクロ達は無事にフルールア宮殿の外に出て庭園で待機していたアリシア達と再会した。無事に戻って来たオスクロ達を見てマーディング達は安心の笑みを浮かべ、アリシアとファウも戻って来たオスクロ達を見ながら微笑む。

 しかし、オスクロ達が回収して来たクランデットのメンバーの死体を見ると笑っていたマーディングは残念そうな顔をし、ラガット達も僅かに表情を曇らせる。自分達の事しか考えていなかった嫌な連中とは言え、死んでしまった姿を見たらやはり少しは気が滅入ってしまうようだ。

 クランデットが全滅した現実にマーディングと冒険者達は暗い顔をしていたが、今は自分達がやるべき事をやろうと気持ちを切り替えた。クランデットのメンバーの死体はセルメティア王国の騎士達にアルメニスに送らせ、マーディング達はオスクロ達が手に入れた宮殿内の情報を確認する。

 オスクロは予め用意しておいたフルールア宮殿の情報が書かれた羊皮紙をマーディングや冒険者チームのリーダー達に渡す。そこに書かれてある内容を見たマーディング達は驚きの反応を見せた。


「凄いですね、僅か一時間でこれ程の情報を得たとは……」

「流石はビフレスト王国最高の冒険者チームね」


 羊皮紙を見ながらラガットとカトレアは目を見開く。羊皮紙にはオスクロ達が探索した場所や宮殿内の状態、遭遇したモンスターの姿や特徴、そして入手したアイテムなどが書かれてあった。自分達ではとてもここまでの情報は得られないと感じ、二人は改めてオスクロ達の実力に感心する。

 マーディングも流石はダーク直属の冒険者だと心の中で驚いており、驚いているマーディング達をオスクロはアリシアと共に見ていた。


「宮殿に入るまでにできるだけ情報を頭に入れ、仲間の冒険者達にも羊皮紙を見せておいてくれ。その情報を知っているかいないかで探索の難易度が変わってくると思うからな」

「分かりました」


 オスクロの助言を聞いたラガットはオスクロの顔を見ながら頷く。カトレアも小さく笑いながら持っている羊皮紙を揺らし、分かったと無言でオスクロに伝える。


「しかしオスクロさん、これ程の情報を貴方がたはどのようにして得たのですか?」


 マーディングは初めて訪れた場所で細かい情報をどのように得たのかオスクロに尋ねる。ラガットとカトレアも気になるらしく、オスクロに注目した。

 オスクロは自分に注目するマーディング達を黙って見つめており、彼の後ろに控えていたアリシアはオスクロがどう説明するのか、少し不安そうな顔でオスクロを見ている。


「バーネストで開発された新しいマジックアイテムを使ったんですよ。それらを使って俺達が探索した部屋や廊下の構造、モンスターの名前、レベル、能力を調べて羊皮紙に書いたんです」

「なんと、ビフレスト王国ではその様なマジックアイテムの開発にも成功したのですか?」


 マーディングは自分達の知らない間にビフレスト王国が新しいマジックアイテムの開発に成功した事に驚く。ラガットとカトレアも少し驚いた顔でオスクロを見ていた。

 オスクロがマーディング達に渡した羊皮紙はバーネストでLMFの情報を書いた物で宮殿内で書いた物ではない。LMFの事や冒険前にバーネストで用意したとは言えないので、マジックアイテムで調べて羊皮紙に書いたとマーディング達が最も納得しそうな理由を話したのだ。


「アリシアさん、新しいアイテムを開発していると言うのは、本当ですか?」


 マーディングは新しいアイテムを開発した事についてアリシアの方を向いて尋ねる。いきなり質問されてアリシアは一瞬驚いた様な反応を見せるが、オスクロの説明と現状から誤魔化さなくてはいけないとすぐに気付く。


「え、ええ、そのとおりです。大量に作る事ができるようになったらセルメティア王国やエルギス教国と取引の話をするとダーク陛下は仰っていました」

「そうですか、まさかそこまで進んでおられたとは、驚きました」


 アリシアの咄嗟の答えを聞いたマーディングは納得した表情を浮かべ、ラガットとカトレアも納得したのかマーディングと同じような表情を浮かべながらアリシアを見ていた。

 羊皮紙の情報について説明が済むとオスクロ達は再びフルールア宮殿に入る時間などを話し合う。今度はオスクロ達だけでなく、聖刃と天の蝶も一緒に宮殿に入って探索をするので、規定時間や宮殿の何処を調べるのかなどを細かく決めた。

 話し合いが済むとオスクロ達は解散し、ラガットとカトレアは仲間達の下へ、マーディングは近くにいるセルメティア騎士に冒険者達の探索時間などを伝えに移動した。オスクロとアリシアも話し合いの結果をノワール達に伝える為に彼等の下へ向かう。


「まったく、いきなりマーディング殿から声を掛けられた時は驚いたぞ」

「ハハハ、俺もマーディング殿が君に質問するとは思ってなかった」

「笑い事じゃない。元はと言えば貴方がマジックアイテムで調べた、なんて言ったからマーディング殿が私に訊いてきたんじゃないか」

「ワリィワリィ、これからはこうならないよう、予めどう答えるか決めておこう」


 歩きながら楽しそうな口調で謝るオスクロを見てアリシアは少し疲れた様な顔をしながら溜め息をついた。


「……それで、宮殿の中はどうなっていたんだ?」


 疲れた表情を浮かべていたアリシアが突然真剣な顔でオスクロを見ながらフルールア宮殿の中について尋ねてきた。異世界に現れたLMFのダンジョンの中がどうなっているのか、LMFと何か違うのか、ビフレスト王国の総軍団長として気になっていたようだ。

 アリシアの表情が変わったのを見たオスクロはしばらくアリシアを見てから前を向く。今のオスクロからはさっきまでアリシアと楽しそうに会話をしていた時の雰囲気が完全に消えていた。


「今のところ、宮殿の構造や出現するモンスターはLMFと一緒だ。だが、奥に進むにつれて構造やモンスターが変わってくる可能性もある」

「ダークが一緒でも最後まで油断できない、という訳か」

「ああ、今回ばかりは本当に何が起きるのか分からない。アリシア、君とファウに宮殿に突入してもらう可能性は十分ある。いつでも突入できるよう、準備をしておいてくれ?」

「分かった、ファウにも伝えておく」


 今までの様に楽な仕事ではないと聞かされたアリシアはオスクロを見上げながら返事をする。同時に今回ほど慎重になるダークは見た事が無かったのでフルールア宮殿は自分が想像していた以上に面倒なダンジョンなのだと感じていた。


「次に宮殿に入るのは三十分後だ。それまでに羊皮紙に書いてある情報を再確認しておいてくれ。俺もノワール達とどう宮殿を攻略していくか決めておく」

「ああ」


 オスクロとアリシアは話が終わると別れて自分と行動を共にする仲間達の下へ向かう。アリシアはファウと黄金騎士達の下へ行き、冒険者達が宮殿に入った後にどう動くかを説明し、オスクロもノワール達に再び宮殿に入った後、どうするかを伝える。この時、オスクロは説明をするついでに宮殿内で手に入れた魔溶液の事が書かれた羊皮紙の内容をレジーナ達に説明した。

 三十分が経過し、オスクロ達は再びフルールア宮殿の入口前に集合した。今回はオスクロ達だけでなく、ラガット達、聖刃とカトレア達、天の蝶の冒険者達も集まり、全員が気合の入った表情を浮かべている。


「では、これより皆さんには宮殿の探索と先行した冒険者達の捜索に向かっていただきます。皆さんが宮殿内にいられる時間は三時間、何があっても三時間以内には必ず此処へ戻って来るようにしてください。三時間経っても誰も戻って来られなかった場合はビフレスト王国の騎士であるアリシアさん達が宮殿内に突入します。もし今日中にこの宮殿の全てを調べる事ができなかった場合は作戦を練り直し、明日再び探索を行います」


 全員が集まったのを確認したマーディングは最終確認の為に探索時間や流れについて語り、オスクロ達はそれを黙って聞いている。特に聖刃と天の蝶の冒険者達はクランデッドが全滅している為、真剣な表情を浮かべて聞いていた。

 説明が終わるとマーディングは目を閉じながら小さく息を吐き、やがてゆっくりと目を開けて冒険者達を見つめる。


「……最後に皆さん、決して無理はなさらないでください。どんな状況であってもご自身の命を第一に考えて行動してください」


 目の前の冒険者達がクランデットと同じ末路を辿らない事を祈りながらマーディングは忠告をし、オスクロ達は心配してくれるマーディングを見て分かりました、と目で伝える。マーディングの最終確認が終わると冒険者達はフルールア宮殿に入って行き、マーディングは冒険者達の後ろ姿を黙って見つめていた。

 フルールア宮殿に入った冒険者達は視界に入ったエントランスを見て目を見開きながら驚く。オスクロ達は既にエントランスを見ている為、ラガット達に様に驚いたりはせず、驚くラガット達を見ていた。


「外から見て何となく予想はしてたけど、結構広いエントランスね」

「うん、こんなエントランスがある宮殿なら探索のし甲斐があるわね」


 エントランスを見上げていたカトレアと彼女の仲間である女レンジャーが少し興奮した様な口調で話す。やはり冒険者として未知の場所に足を踏み入れ、探索をする事に楽しさを感じているようだ。


「皆! 探索する場所について確認するからこっちに注目してくれ」


 ラガットが声を上げるとエントランスを見回していたカトレア達が一斉に視線をラガットに向ける。全員が自分に注目したのを確認したラガットは一度咳き込んでから真剣な表情を浮かべて口を開く。


「僕達は此処でチームごとに分かれて探索する。現在、僕等が調べられるのは一階の左右にある扉の先と階段を上がったところにある二階の扉の先だ」

「え? でも二階の扉には壊せない蔓が絡まってて開く事ができないんじゃないの?」

「ああ、それなんだけど、オスクロさん達が見つけた魔溶液と言う液体を掛ければその蔓が枯れて二階の奥へ行けるようになるらしいんだ」


 カトレアの質問にラガットが答えるとカトレアは意外そうな表情を浮かべる。オスクロが渡した羊皮紙には宮殿の情報やモンスターについては書いてあったが蔓が絡まっている扉については書いていなかったので、ラガットから聞かされるまで知らなかったのだ。オスクロも探索を始める時に話せばいいと思って羊皮紙には書かなかった。


「探索できる場所は三つ、そして僕等のチームも三つ、つまり此処で三つに分かれて決められた場所を調べる事になるのだけれど……自分達は何処を調べたいという希望はあるかな?」


 三つの扉の内、どれを選ぶかラガットはオスクロ達に尋ねる。カトレア達、天の蝶のメンバーは仲間同士顔を見合ってどれを選ぶか考え込むみ、ラガットの仲間である聖刃のメンバーも難しい表情を浮かべながら考えた。

 オスクロ達は二つのチームが決めた後に残ったのを選ぶつもりでいるので話し合わずに黙ってラガット達が考え込む姿を見ている。


「ねぇ、二階の扉なんだけど、蔓が絡まってて今まで行けなかったって事は、その先に凄い宝物があったり、強いモンスターが出現する可能性があるの?」


 仲間と話し合っていたカトレアがラガットに二階の扉の先がどうなっているのか尋ねる。ラガットはカトレアの質問に対してい難しい表情を浮かべた。


「さあ? 普通では通れなかった場所だからその可能性はあると思うけど……オスクロさん、貴方はどう思いますか?」

「……俺も強い敵が出てくると思う」


 オスクロはラガットの方を向いて目を薄っすらと赤く光らせながら答える。オスクロはLMFにいた頃、一応フルールア宮殿の二階の先へは行った事があるので少しは二階の情報を得ていた。

 勿論、二階の方が一階よりも強いモンスターが出現する事も分かっているが、ラガット達の前で過去に同じ宮殿に入った事がある、とは言えないので強いモンスターが出ると思うと伝えたのだ。

 七つ星冒険者であるオスクロとラガットの答えを聞いたカトレアは僅かに表情を歪ませる。七つ星の二人が言うのなら二階の扉の先には間違いなく強力なモンスターが出ると感じ、六つ星の自分達が最初に行かない方がいいとカトレアは考えた。


「……それじゃあ、私達は右の扉を選びたいんだけど、いいかしら?」


 危険な二階の扉でも調べ終えた左の扉でもなく、一階の右の扉をカトレアは指名した。既に殆ど調べ尽くした左の扉を調べても自分達が財宝を手に入れられる可能性は低い為、調べる気にはなれない。だからと言って危険な二階の扉の先を調べる気にもならない。それなら、情報のあるモンスターが出現し、まだ未探索の右の扉を選ぶのが賢明だと考えて右の扉を選んだのだ。


「分かった。なら天の蝶は一階の右の扉を調べるって事で……オスクロさんも構いませんか?」


 ラガットがオスクロに尋ねるとオスクロは無言で頷く。ノワール達や聖刃のメンバーも異議は無いらしく、無言で二人を見ていた。

 オスクロとラガットの許可を得るとカトレアは笑みを浮かべる。他の天の蝶のメンバーはどこか意外そうな顔でカトレアを見ていた。


「これで残るは二階と左の扉の二つになった訳ですけど……オスクロさん、貴方がたはどちらを希望しますか?」

「俺達はどちらでもいいぜ? 未探索の二階を調べたいと言うのなら二階の探索権を譲る。この魔溶液もな」


 ポーチから魔溶液の瓶を取り出し、ラガットに見せながらオスクロは答えた。


「い、いいんですか? そのアイテムは貴方がたが見つけた物なのに……」

「構わないさ。三つのチームの内、どのチームが二階を探索するにしてもコイツは渡すつもりだったからな。それに左の扉の先はまだ調べてない所があるとはいえ、俺達が先に調べているんだ。既に調べている場所を他のチームに調べさせるほど俺達はセコくない」

「そ、そうですか……なら、お言葉に甘えて僕等が二階を調べさせていただきます」


 僅かに驚いた様子を見せながらラガットはオスクロから魔溶液を受け取る。自分から損する左の扉を選ぶオスクロの欲の無い態度を見てラガット達は感心するのだった。

 全ての冒険者チームの探索する場所が決まるとオスクロ達は最後にお互いに無事を祈る、と簡単な挨拶をして自分達が調べる扉の方へ歩いて行き、オスクロ達は左の扉、カトレア達は右の扉を潜る。

 ラガット達も階段を上がって二階の二枚扉の前まで来るとオスクロから貰った魔溶液を扉に絡み付いている蔓に掛ける。すると蔓は見る見る枯れていき、やがて枯れ枝が折れる様な音を立てながら粉々になった。蔓が枯れるとラガット達は扉を開けて二階の奥へと進んで行く。

 エントランスでラガット達と別れたオスクロ達は左の扉の先にある廊下を静かに歩いて先へ進む。幸いモンスターとは遭遇する事無く、オスクロ達は順調に前回辿り着いたT字路までやって来た。


「左の道は既に調べ終えた。今度は蔓が邪魔で通れなかった右の道を行くぞ」

「おう」


 ジェイクが返事をし、レジーナとマティーリアも無言で頷く。右の道はまだ誰も足を踏み入れていない未知の場所、オスクロ達は警戒心を強くしながら右へ曲がった。


「それにしても、聖刃は大丈夫かしら?」


 しばらく廊下を歩いているとレジーナが歩きながら呟く。一階より危険度の高い二階をLMFの知識の無い聖刃が探索に向かった事にレジーナは不安を感じていた。ジェイクも聖刃の事を心配に思っていたのか、大丈夫だろうか、と言いたそうな顔をしている。

 

「大丈夫だろう。確かに二階は一階と比べて危険度は高いかもしれないが、出現するモンスターのレベルは20から40の間ぐらいだ。七つ星の彼等なら余裕で倒せる」

「でも、この宮殿は兄さんがLMFで見つけた宮殿とは何かが違う可能性があるんでしょう? もし、レベル40以上のモンスターが出現したら……」

「それは俺達も同じだ。此処まではたまたま下級モンスターにしか遭遇しなかっただけで、これから一階に存在しないはずのモンスターと遭遇する可能性だってあるんだぜ?」

「まぁ、そうだけど……」


 オスクロの言葉にレジーナは複雑そうな顔をする。確かにここまでは弱いモンスターにしか遭遇しなかったが、これからは強いモンスターと遭遇するかもしれない。その点を考えると、二階も一階も同じだとレジーナは感じた。


「もし心配ならちゃっちゃとこっちの探索を終わらせちまおうぜ? 今回の仕事は自分達が担当する場所の探索が終わったら別のチームが探索している場所に行ってもいい事になってるからな」

「そうじゃな、こっちを終わらせて妾達も二階へ行くとしよう」


 二階へ向かう為にもまずは自分達が担当する場所の探索を終えてしまおう、そう言ってオスクロとマティーリアは先へ進み、ノワールも二人の後を追う様に先へ進む。残ったレジーナとジェイクは今心配しても何も変わらないので、とりあえず自分達の仕事を終わらせようと考え、オスクロ達の後を追った。

 廊下を進んで行くとオスクロ達は小さな広間に出た。約8m四方の広さで端にはボロボロのソファー、中央には壊れた机が置かれ、奥には扉がある。床からは様々な色と形の草が生えていた。


「此処は、休憩所か何かですね」

「のようだな……とりあえず、周囲に何かないか調べてみるか」


 広間に何かアイテムがないがオスクロ達は分かれて調べ始める。ソファーの近く、壊れた机の下など隅々まで探したが、アイテムと言えるような物は何も落ちていない。


「アイテムらしい物は何も無いわね。あるとすれば見た事の無い植物くらいだわ」


 つまらなそうな顔をしながらレジーナは姿勢を低くし、床から生えている植物を抜く。薄い水色で大きめの葉を持つ植物、レジーナは始めて見るその植物をジッと見つめた。

 レジーナが植物を見つめているとノワールが近づいて来てレジーナが持つ植物に注目した。


「それ、ヒールリーフですね」


 後ろから聞こえて来たノワールの声を聞き、レジーナはフッとノワールの方を向く。


「ヒールリーフ?」

「ハイ、LMFでは体力回復のポーションを調合するのに使われる薬草です。と言っても、LMFではそれほど珍しい物ではないんですけどね」

「ふぅん、じゃあこっちは?」


 レジーナはヒールリーフの隣に生えている植物を抜いてノワールに見せる。それは赤い小さな葉が幾つもついた細長い植物だった。


「それはレミィソールと言ってそれもポーションの調合に使われる薬草です。それを調合に使うとポーションの効力が少しだけ上がります」

「へぇ~、そうなんだ。と言うかノワール、アンタ薬草に詳しいのね?」

「一応、ハイ・ドルイドをサブ職業クラスにしていますからね」


 小さく笑いながら答えるノワールを見たレジーナはサブ職業クラスの事を思い出し、納得の反応を見せる。

 LMFではドルイド系の職業クラスを持つと、薬草の効力が分かる技術スキルを得る事ができる。ノワールはその技術スキルによって始めて見る薬草の名前と効力を知る事ができるのだ。


「おーい、ノワール。この薬草はどんな物なんだぁ?」


 ノワールとレジーナが話していると離れた所で探索をしていたジェイクがノワールに呼びかけて来た。ノワールはジェイクの方を向き、彼が持っている薬草を見るとレジーナに挨拶をしてからジェイクの下に移動する。そんなノワール達のやり取りをオスクロは黙って見ていた。


(ノワールの薬草鑑定の技術スキル、結構役に立ってるな。俺も薬草の名前を全て理解している訳じゃないし、やっぱノワールを連れて来てよかったぜ)


 オスクロはノワールが活躍している姿を見ながら仮面の下で笑みを浮かべていた。

 実は今回、ダークがノワールを依頼に同行させたのはフルールア宮殿を攻略する事以外に、薬草系のアイテムが多く手に入るフルールア宮殿で薬草を大量に手に入れる為でもあった。

 ノワールのサブ職業クラスであるハイ・ドルイドは薬草系のアイテムに関係する技術スキルを持っているので連れて行った方がいいとダークは考えたのだ。現にノワールのハイ・ドルイドの技術スキルは薬草採取にとても役に立っている。


(ヴァレリアからもLMFの薬草を採取して来てくれって言われてるし、できるだけ多くの種類の薬草を集めねぇとな」


 そう考えながらオスクロも広間の探索を再開し、薬草を探していく。その時、オスクロは何かを感じ取り、フッと顔を上げて振り返った。


「どうした、若殿?」


 隣で探索をしていたマティーリアが突然何かに反応したオスクロに声を掛ける。するとオスクロは腰の短剣を抜いて仮面の目を薄っすらと赤く光らせた。


「お前達、探索は一旦中止だ……お客さんがおいでになったぞ」


 オスクロが広間にいるノワール達に声を掛けると薬草を採取していたノワール達が一斉にオスクロの方を向く。その直後、天井から大きな植物の塊が落ちて来て中央にあった壊れた机を粉々にする。いきなり落ちて来た植物にノワール達も一斉に武器を構えた。

 植物の塊は形を変えて少し大きめの植物族モンスターとなった。そのモンスターは丸い体に鋭い牙が生えた大きな口を二つ付けており、あちこちから無数の太い触手を生やした醜い姿をしている。

 植物族モンスターは二つの口を大きく開けて雄叫びの様な声を上げ、その姿を見てレジーナ達は僅かに驚いた反応を見せる。


「何だアイツは? 始めて見るモンスターだな」

「あれはイーティングボールです。体から生えている触手で攻撃したり、二つの口から毒液を吐いて攻撃して来るモンスターです」

「ヒューマノイドプラントの上位種って事か?」

「まぁ、そんなところです。レベルも30から33とそれほど高くありませんが、触手で敵を捕まえてあの大きな口で噛み千切ろうとしてきますので、捕まらないように気を付けてください?」


 ノワールはイーティングボールの生態を簡単に説明するとメイスを強く握りながらイーティングボールを睨む。隣にいるジェイクやレジーナ達も足の位置をずらしてイーティングボールを警戒する。その直後、イーティングボールは二つの口から毒液を吐いて攻撃して来た。

 毒液はノワールとジェイク、オスクロとマティーリアがいる方に向かって放たれ、四人はそれぞれ別々の方角へ跳んで毒液を回避する。

 イーティングボールは毒液が避けられると今度は触手を鞭の様に動かしてオスクロ達を攻撃した。しかし、オスクロ達は襲い掛かって来る触手も難なく回避する。レベル30代前半のモンスターの攻撃をかわすなど、オスクロ達にとっては簡単な事だった。


「俺達はお前にかまっているほど暇じゃないんだ。さっさと終わらせるぜ」


 オスクロはイーティングボールに攻撃しようと短剣を構えながら足の位置をずらす。すると、オスクロが攻撃を仕掛けようとした瞬間、また天井から無数の何かが落ちて来た。突然落ちて来た物にオスクロ達は警戒して後ろに下がる。

 落ちて来たのは緑の体に赤茶色の横縞模様が入った蜘蛛だった。中型犬ほどの大きさで六つの赤い目を持ち、二つの黒い牙を生やしている。全部で五体おり、蜘蛛のモンスター達はイーティングボールを守るかの様に立っていた。


「ゲェ! また新しいモンスター、しかも蜘蛛!」

「植物に支配された宮殿じゃからな、昆虫族モンスターがいても不思議ではない……と言うか、バーネストで若殿から聞いておったじゃろう?」


 蜘蛛のモンスターを気持ち悪がるレジーナを見ながらマティーリアは冷静に答える。確かにバーネストでフルールア宮殿に出現するモンスターの中には植物族以外にも昆虫族がいると説明を受けていた。だが、レジーナの場合は分かっていても実際目にすると、どうしても不気味に思えてしまうのだ。


「コイツ等はアシッドスパイダーと言って口から強力な酸を吐いて攻撃して来る。気を付けろ?」


 レジーナが歪んだ表情で、ジェイクとマティーリアが鋭い表情で蜘蛛のモンスターを見ているとオスクロが蜘蛛のモンスター情報を説明した。口から酸を吐いてくる蜘蛛など初めて見たので三人は警戒を強くする。


「しっかし、さっさと終わらせようと思っている時にウジャウジャ出てきやがって。こんな雑魚ども相手に時間を掛けたくないんだがな……ノワール、頼めるか?」


 オスクロは遠くにいるノワールにイーティングボールとアシッドスパイダーの対処を頼む。するとノワールは小さく頷いてメイスを持っていない方の手をイーティングボールとアシッドスパイダー達に向けた。


火炎の塔フレイムタワー!」


 ノワールは空いている手の中に魔法陣を展開させて魔法を発動させる。するとイーティングボールとアシッドスパイダーの真下にも赤い魔法陣が展開され、そこから大きな炎の柱が天井に向かって伸び、イーティングボールとアシッドスパイダーを呑み込んだ。

 <火炎の塔フレイムタワー>は敵の足元に魔法陣を展開させ、そこから炎の柱を出して攻撃する火属性の中級魔法。炎の柱は魔法陣と同じ大きさなので魔法陣の中にいる敵には確実にダメージを与える。更に攻撃力も高く、高い確率で敵を火傷状態にする効果もあるので使い勝手の良い魔法だ。

 炎に呑み込まれたイーティングボールとアシッドスパイダーは苦痛の鳴き声を上げており、全身が黒焦げになると動かなくなる。同時に炎の柱も静かに消滅した。


「フゥ~、相変わらず凄いわね、ノワールの魔法って」


 迫力のある光景を目にしたレジーナは笑みを浮かべながら呟く。ジェイクとマティーリアは同じ気持ちなのか黒焦げになったモンスター達を見て小さく笑っている。

 オスクロ達が黒焦げになったモンスター達に近づくとモンスター達の死体が崩れて中から金貨が姿を見せる。オスクロ達はその金貨を全て拾い上げ、金貨を拾ったオスクロ達は広間を見回して他にモンスターがいないのを確認した。


「この広間にはもうモンスターはいないみたいだな」

「ああ、天井に張り付いていると思って、念の為に天井も調べてみたが、何もいなかったぜ」


 モンスターが一体もいないの確認したオスクロ達は警戒を解き、回収した金貨をポーチにしまう。今回は金貨以外のアイテムは手に入らなかったのでレジーナは少し残念そうな顔ををしていた。


「さて、若殿、この後はどうする? もう少しこの休憩所を探索するか?」

「そうだな……此処にはまだ少し薬草があるみたいだし、それらを回収したら次の場所へ行こう」


 異議なし、と言う様にレジーナ達は頷いて再び薬草の採取に戻る。オスクロとノワールも三人とは反対の方へ歩いて薬草を探し始めた。

 それからしばらく探索し、オスクロ達は使えそうな薬草を全て採取すると次の場所を調べる為に更に奥へと進んで行った。


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