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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十五章~魔植園の冒険者~
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第百九十九話  集いし冒険者達


 セルメティア王国の首都アルメニス、その正門前の広場には十八人の人影があった。その内の五人はマーディングと彼の護衛と思われ騎士、残りの十三人は岩山で見つけた扉の先を探索する為にマーディングが集めた冒険者達だ。

 冒険者達は三つのチームに分かれ、各チームリーダーと思われる三人の冒険者は一ヵ所に集まって別のチームリーダーと挨拶をしており、他の冒険者達もチームの仲間同士会話をしている。まだ薄暗い早朝で町には彼等以外住民の姿は無く、会話の声は静かな広場によく響いた。

 挨拶をしている三人のリーダーの内、一人は金色の短髪をした二十代半ばくらいの青年で落ち着いた感じの雰囲気を出していた。金色の装飾が施された白いプレートメイルを身に纏い、左手には白いカイトシールを持ち、腰には騎士剣が収められている。

 二人目は二十代前半ぐらいで肩まである赤い髪を持ち、少し幼さが感じられる顔をした美女だ。紺色と金色のハーフアーマーを身に付け、腰にはアイテムを入れるポーチと剣を装備しており、機動力を重視した剣士風の姿をしていた。

 最後の一人はこげ茶色の短髪をした三十代半ばくらいの男で、少し目つきが悪く、他の二人のリーダーを見下している様な顔をしている。装備は銀色のハーフアーマーと二本の短剣という盗賊、もしくはレンジャーの様な装備だった。


「今度冒険する場所は今まで私達が冒険した場所とは少し違った雰囲気の場所らしいけど、どんな所かしら?」

「岩山で発見された未知の扉の先の探索と先行した冒険者の救助と聞いているけど 詳しくはこれからマーディング卿が説明してくれると思うよ」


 金色の髪の青年は右手を腰に当てながら赤い髪の美女の方を向いて答える。彼等はまだこれから向かう場所の詳しい話を聞かされていない為、どんな冒険になるのか全く想像できなかった。


「先にそこへ行った冒険者達は誰も戻って来てないらしいから、かなり危険だって言うのは間違いないだろうね」

「危険? 先に行った連中は俺達よりも星の数が少ない奴等だろう? 俺達の様な上級の冒険者にとっては大した脅威になりゃしねぇさ」


 警戒する金色の髪の青年の言葉をこげ茶色の髪の男が小馬鹿にする様な口調で否定する。それを聞いた青年は視線だけを男に向き、赤い髪の美女はジッと男を睨む。


「相変わらず警戒心がない男ね? そうやって軽い気持ちで冒険していると何時か酷い目に遭うわよ?」

「心配してくれてありがとよ。だが俺は酷い目に遭った事は一度もねぇ、俺はどんな状況でも危険を切り抜けられる才能を持ってるんだよ」

「ハァ、呆れた。よくそこまで自分に都合のいい考え方ができるわね」


 こげ茶色の髪の男の言葉に赤い髪の美女は小さく溜め息をつく。そんな二人の会話を聞いていた金色の髪の青年は自分の後頭部を右手で掻きながら男の方を向いた。


「とにかく、さっきも言ったようにこれから行くところは僕等が今まで行った事がある場所とは雰囲気が違う未知の場所だ。気を引き締めて行った方がいいと思うよ」

「……そう言うお前は相変わらず真面目だな、ラガット?」

「僕は冒険者として、冒険の常識を言ってるだけだよ。貴方も六つ星冒険者ならそれぐらいはしっかりと考えたほうがいい、でないと同じチームの仲間にも迷惑が掛かる」


 ラガットと呼ばれた金色の髪の青年は真剣な表情を浮かべながらこげ茶色の男を見つめる。隣にいる赤い髪の美女もラガットと見ながらもっと言ってやれ、と言いたそうに笑みを浮かべていた。

 金色の髪の青年の名はラガット・ジールデント、セルメティア王国に存在する七つ星冒険者チーム、聖刃せいじんのリーダーでカーディアンナイトと言う攻撃と防御に優れた上級職を職業クラスにしている。強力な戦技を使って攻撃し、<聖王の盾>と呼ばれる魔法の盾で味方を敵の攻撃から守りながら戦う為、チームでは常に前に出て戦う。仲間思いで正義感の強い性格をしており、チームメイトからの信頼も厚い。

 こげ茶色の髪の男はラガットの鋭い目を見て鬱陶しくなったのか小さく舌打ちをし、腕を組みながらラガットに背を向けた。


「わぁ~ってるよ! いちいちムキになって言うんじゃねぇ」


 苛立ちの籠った声を出しながらこげ茶色の髪の男は仲間の下へ歩いて行き、赤い髪の美女は男の背中を見てニッと笑いながらいい気味、と考える。ラガットは男の背中を見てやれやれと言いたそうに息を吐く。


「彼は確かに優秀な冒険者だけど、自分の力を過信し、他人を見下す悪い癖がある。あれが無ければ七つ星冒険者になれるのに……」

「そうかしら? 私はあんな奴、七つ星冒険者になる資格は無いと思うわ」

「……君も相変わらず彼に厳しいね、カトレア?」


 ラガットは少し困った顔で赤い髪の美女をカトレアと呼ぶ。美女は背を向けているこげ茶色の髪の男の方を見て目を細くしながら口を開いた。


「私、ああいう冒険者のイメージを悪くする男って嫌いなのよ。私のチームのも皆を嫌ってるわ」


 こげ茶色の髪の男を睨みながらカトレアは低い声で呟き、それを聞いたラガットは再びやれやれ、言いたそうな顔をしてカトレアを見ている。

 カトレア・アルクリナ、女冒険者だけで構成された六つ星冒険者チーム、天の蝶のリーダーで軽装騎士を職業クラスとしている女戦士。軽い防具だけを装備している為、機動力が高く素早く敵の懐に入り込んで攻撃する戦法を得意としている。戦技も攻撃力の高いものは使わず、スピード重視の戦技を使う。

 ラガットとカトレアが会話をしていると遠くから男の声が聞こえ、二人は声の聞こえた方を向く。ラガットとカトレアの視線の先にはこげ茶色の髪の男が険しい顔で四人の男と会話をしている姿があり、四人の男は複雑そうな顔でこげ茶色の髪の男の話を聞いていた。


「何やってるのかしら?」

「大方、僕に言い負かされた事を仲間達に愚痴っているんだろう」

「かぁ~! みっともないわね、ラッツの奴」


 カトレアはこげ茶色の髪の男を見つめながら呆れた表情を浮かべており、ラガットは男達の会話を黙って見ている。

 こげ茶色の髪の男の名はラッツ・ロロジェム、クランデットと言う六つ星冒険者チームのリーダーでダガーファイターと言う短剣を使った戦いを得意とした職業クラスを持つ。冒険者としての腕は優秀だが力を過信し、位の低い者を小物扱いすると言う悪癖がある為、仲間以外の冒険者達からはあまり良く思われていない。

 ラッツが仲間の冒険者達に八つ当たりしている姿を見ていたカトレアはこれ以上見ていられないと、と言いたそうな顔しながら仲間の下へ戻っていく。ラガットも挨拶が済んだ事を仲間達に伝える為、遠くにいるラッツに背を向けて歩き出す。

 ラガットは少し疲れた様な顔をしながら仲間達の下へ戻る。彼の前には一人の男と二人の女が立っており、男は三十代前半ぐらいの茶色い短髪をしており、銀色のハーフアーマーと木製の弓を装備している。見た目からしてレンジャー系の職業クラスのようだ。

 女の方は一人が十代後半ぐらいの水色の長髪をした少女で白い神官服を着ており、先端に青い宝石が付いたロッドを持っている。そしてもう一人は二十代前半ぐらいの金色のラフカールの長髪をした美女だ。黒と紫のローブを着て頭には黒い魔法使いの帽子を被り、手には木の杖を持っていた。だが、一番の特徴は髪から出ている先の尖った耳だ。どうやら魔法使いの女はエルフらしい。


「ご挨拶は終わりましたか?」

「うん、簡単に済ませて来たよ」


 水色の髪の少女の質問にラガットは小さく笑いながら答える。すると、水色の髪の少女の隣にいた茶髪の男はラガットを見た後に遠くにいるカトレアとラッツのチームを見て僅かに目を細くした。


「しかし、これだけの冒険者を集めるなんて、これから向かう扉の先って言うのはそんなに危険な場所なのかねぇ?」

「分かりまん。ですが、七つ星冒険者である私達以外にも複数の冒険者チームを用意すると言う事は……相当難易度が高いと思います」


 茶髪の男の方を向いて水色の髪の少女は少し不安そうな顔で答える。ラガットと金髪のエルフは二人の会話を聞いて真剣な表情を浮かべる。

 ラガットのチームである聖刃のメンバーは全員が七つ星冒険者でそれぞれが優れた技術を持っている。その為、聖刃はセルメティア王国では最強の冒険者チームと言われていた。そんな最強のチームである自分達以外にも冒険者チームを用意すると言う状況にラガット達は小さな不安を感じている。


「……ラガット、貴方はどう思う? 今回探索する場所」

「そうだね……扉の先にある未知の場所とは聞いているけど、これだけの人数を集めるからかなり危険な場所なのは間違いないと思ってるよ」

「私もよ……七つ星を含めた複数の冒険者チームによる探索と救助、一体どんな場所なの……」


 金髪のエルフは低い声で呟き、ラガットは鋭い表情を浮かべるエルフを黙って見ている。


「冒険者の皆さん、最後にもう一度依頼の内容を簡単に説明しますので集まってください」


 冒険者達がこれから向かう場所がどんな所なのか話し合っていると、マーディングが冒険者達に声をかけ、冒険者達は話を聞く為に一斉にマーディングの前まで移動する。

 マーディングは冒険者が全員集まったのを確認すると一度咳き込んでから冒険者達の方を見る。


「改めまして、今回は依頼を受けていただき、ありがとうございます」


 集まった冒険者達にマーディングは軽く頭を下げ、依頼を受けてくれた事に礼を言う。ラガット達は自分達よりも位が上であるマーディングに頭を下げられることに対し、小さな優越感、そして恥ずかしさを感じていた。

 顔を上げたマーディングは冒険者達を見ながら表情を僅かに変える。表情が変わったマーディングを見たラガット達は本題に入ると感じ、マーディングの話を聞く事に集中した。


「今回、皆さんには此処から少し行った所にある岩山の中で発見された謎の扉の先にある場所の探索と先に向かった者達の捜索と救助をしていただきます。扉の先は岩山とは全く違う場所に繋がっており、そこには古びた宮殿と庭園がありました」

「違う場所に繋がってるって事は、その扉はマジックアイテムの様な物なんですか?」


 マーディングの説明を聞いていたカトレアが扉について尋ねるとマーディングはカトレアの方を向いて小さく首を横に振る。


「いいえ、それは私にも分かりません。ただ、昨日私がその扉を直接見に行き、扉を潜ったらまったく別の広い場所に出ました。あの扉が転移門の様な物であるのは間違いありません」

「どうして岩山にそんな物が?」


 カトレアが腕を組みながら不思議そうな顔をすると彼女の後ろにいたチームメイトの女レンジャーがカトレアの肩をポンと手で軽く叩く。


「それを調べる為にこれから私達が行くんでしょう?」

「あ、そうだったわね」


 女レンジャーの言葉を聞いてカトレアは少し恥ずかしそうな反応をする。カトレアの表情に女レンジャーだけでなく、女神官、女魔法使いも小さく笑った。

 楽しそうに語る天の蝶のメンバーを見てラガット達、聖刃のメンバーも金髪のエルフを除いて笑っている。一方でラッツ達、クランデットのメンバー達は遊びに行くようにはしゃぐカトレア達を鬱陶しそうな目で見ていた。


「では、これから皆さんには馬車に乗って現地へ向かっていただきます……と、言いたいのですが、まだ冒険者が全員集まっていませんので、もう少しお待ちください」


 マーディングの口から出た意外な言葉に集まっていたラガット達は少し驚いた表情を浮かべる。てっきり今集まっている三つのチームだけで岩山に向かうと思っていたようだ。


「マーディング卿、僕達以外にも今回の依頼を受けた冒険者チームがいるのですか?」

「ええ、実は同盟国であるビフレスト王国に依頼し、七つ星冒険者チームを貸していただいたのです」


 ラガットは自分のチーム以外の七つ星、しかも他国の冒険者チームに依頼していた事を知って目を見開く。聖刃の他のメンバーも同じように目を見開いてマーディングを見ている。


「一体どういうことですか? セルメティア領内での探索を他国の冒険者に依頼するなんて……」

「しかも最高の七つ星を借りるとは、俺等だけでは不安って言いたいんすか?」


 戸惑う様な顔をするカトレアと不機嫌そうな顔をするラッツ、周りにいる他の冒険者達も不満そうな顔をしていた。冒険者の中でも上位の七つ星と六つ星の冒険者チームを集めておきながら他国の冒険者にまで依頼をしていると聞かされれば不満を感じるのも当然だ。

 マーディングは不満を露わにする冒険者達を黙って見つめている。他国の冒険者にも依頼を出したと伝えれば冒険者達がどんな反応をするのか彼も何となく分かっていた。


「皆さんの言いたい事は分かります。ですが、今回探索する場所は皆さんがこれまで冒険した場所とは環境が違う未知の場所です。未知の場所を探索するには今ここにいる冒険者だけでは人手が足りません。だからと言って五つ星以下の冒険者に依頼するには危険すぎますし、六つ星以上で動ける冒険者チームは此処にいる三つだけです。ですから、今回ビフレスト王国に依頼したのです」


 他国の冒険者に依頼した理由をマーディングは説明し、それを聞いた冒険者達は一応納得する。だが中にはまだ納得できない者もおり、そんな冒険者達は不満そうな表情を浮かべたままだった。


「それに依頼した冒険者達は未知の場所などについては皆さん以上に知識を持っておられる方々です。彼等が同行すれば皆さんも冒険しやすくなると思います」


 最後にマーディングは上手く冒険するにはビフレスト王国の冒険者が同行した方がいいと伝え、それを聞いたラガットやカトレアのような一部の冒険者は興味のありそうな反応を見せる。

 マーディング達は話し合いをしていると、マーディングの後方十数mの辺りに深紫の転移門が現れ、それに気付いた冒険者達は驚きの反応を見せる。マーディングも冒険者達の表情を見てゆっくりと振り返り、転移門が現れた事に気付いた。


「ああぁ、どうやらいらっしゃったようです」


 転移門を見て、マーディングはビフレスト王国の冒険者達が来た事を伝え、冒険者達はそれを聞くとどんな冒険者達が来るのだろうと思いながら転移門に注目する。

 冒険者達が注目する中、転移門からオスクロと狐面を付けたノワール、レジーナ、ジェイク、マティーリアが姿を現し、その後ろからアリシアとファウ、黄金騎士達が出て来る。オスクロ達が転移門から出て来ると転移門は消滅した。

 広場に集まる冒険者達は静かに現れた冒険者と騎士達を見て呆然とする。マーディングは転移門から出て来たオスクロ達を見て小さな笑みを浮かべていた。だが、アリシアまで来るとは思っていなかった為、心の中では少し驚いているようだ。


「マーディンク殿、お待たせしました」

「アリシアさん、貴女もいらっしゃったのですか」


 アリシアが前に出てマーディングに挨拶をし、マーディングもアリシアに近づいて挨拶をする。


「今回、私達は何か遭った時にすぐに動けるよう、宮殿の外で待機しているようダーク陛下から言われてきました。ですので、今回は直接冒険者達の探索には関わりません」

「そうですか、分かりました」


 騎士であるアリシア達が冒険者達に手を貸さない事を聞いてマーディングは少し安心する。他国の冒険者に依頼しただけでも不満が出ているのに、そんな状態で他国の騎士達までもが依頼に関わるなんて事になれば騒ぎになりかねない。その為、マーディングも今回はアリシア達が手を貸さない事にホッとした。

 挨拶が終わるとマーディングはレジーナ達の方を見る。久しぶりに見たダークの仲間である冒険者達の姿を見てマーディングは懐かしさを感じた。


「皆さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「ああ、見てのとおりピンピンしてますよ」


 ジェイクは右腕の上腕部を左手で叩きながらニッと笑い、それを見たマーディングはジェイクは以前と変わっていないと感じて笑みを浮かべる。


「レジーナさんとマティーリアさんはどうですか?」

「あたし達もいつもどおりですね」

「最近は難しい依頼が無くて退屈しておるがな」


 満面の笑みを浮かべながらマーディングの質問に答えるレジーナと少し退屈そうな顔で答えるマティーリア。二人の様子を見てマーディングは彼女達も変わっていないな、と感じ再び笑みを浮かべる。

 レジーナ達に挨拶をしたマーディングは他にどんな人物がいるか確かめる。そして、フード付きマントと仮面を装備した長身の盗賊オスクロと彼の足元で見た事の無い形の仮面を付けた軽装の少年に気付く。


「アリシアさん、彼等は?」


 マーディングはアリシアにオスクロと仮面の少年について尋ねる。するとアリシアはオスクロと少年の方を見ながら口を動かした。


「彼はオスクロ、ビフレスト王国が建国された頃に仲間になった冒険者です。彼も七つ星の冒険者ですので腕は保証します。あと、彼が今回チームのリーダーを務める事になっています」


 アリシアはあらかじめダークと決めておいたオスクロの設定をマーディングに説明する。マーディングにも一国の王であるダークがオスクロと身分を偽って冒険に参加しているとは流石に言えない。だから、オスクロはダークと別人だと説明する事にしていたのだ。

 そもそも、オスクロがダークであると言う事を協力者以外の人間に教えてしまったら、オスクロという存在を作った意味が無くなってしまう。


「成る程……では、そちらの小さな少年は?」


 アリシアの説明を聞いたマーディングはしばらく興味のありそうな顔でオスクロを見ており、次にオスクロの足元にいる少年について尋ねてみた。するとアリシアは真剣な表情を浮かべながら小さな声を出す。


「彼はノワールです」

「え? ノワール殿、ですか?」


 仮面を付けた少年がノワールだと知ってマーディングは驚く。仮面で顔が見えない上に恰好もいつもと違うので、教えてもらうまで気付かなかったのだ。


「どうしてノワール殿が?」

「今回向かう場所はかなり危険な場所なので強力な魔法が使えるノワールを同行させた方がいいとダーク陛下は仰いました。しかし、既にノワールはビフレスト王国の首席魔導士として存在が知られているので、冒険者達に我が国の首席魔導士が同行する事を知られないようにする為、仮面を付けて同行しているのです」

「そ、そうですか……」


 首席魔導士のノワールを同行させるほど今回向かう場所は危険なのか、マーディングはそう考えながら緊張した表情を浮かべる。

 ノワールはダークと違って絶対に正体がバレてはいけないという訳ではないので、アリシアはマーディングにだけノワールが密かに同行している事を伝えたのだ。だが、冒険者達に知られると色々面倒な事になる可能性があるので、教えない事にしていた。

 一通り挨拶と確認が済むとマーディングはオスクロ達を連れて待機している冒険者達に元へ向かう。そして、冒険者達の前まで移動するとオスクロ達を紹介する。


「皆さん、お待たせしました。彼がビフレスト王国から派遣された最後の冒険者チームです。全員がダーク陛下直轄の七つ星冒険者で実力は折り紙付きです。あと、以前は我が国で活動をしていた方々もいらっしゃるので、顔を知っている方もいると思います」


 マーディングがオスクロ達の事を冒険者達に説明していると、レジーナがラガット達、聖刃のメンバー達を見ながらニッと笑って手を振る。そんなレジーナに気付いた水色の髪の少女は笑顔を返しながら手を振った。

 まだダーク達がまだセルメティア王国の冒険者だった頃、彼等は同じ七つ星冒険者である聖刃のメンバー達と時々会っていた為、気付かないうちにお互いの顔を覚えていた。だが、ビフレスト王国が建国されてからは一度も会っておらず、久しぶりに再会した同じ七つ星冒険者を見てレジーナは懐かしく思い挨拶をしたのだ。


「ご存じでない方々の為に、一応ご紹介します。チームリーダーのオスクロさん、レジーナさん、ジェイクさん、マティーリアさんです。あと、そちらの仮面を付けた少年も同行します」


 マーディングは一人ずつオスクロ達を紹介していく。聖刃のメンバーはオスクロと仮面を付けたノワール以外は知っているので大きな反応は見せなかった。

 一方で天の蝶とクランデットのメンバーは噂は聞いた事はあっても直接会ったのは今回が初めてなので少し驚いた顔でオスクロ達を見ている。


「あれが盗賊姫とうぞくひめレジーナと剛力王ごうりきおうジェイクか……」

「それで、あっちの小娘がマティーリア、ビフレスト王国で竜王女りゅうおうじょと呼ばれてるらしいぜ?」

「じゃあ、あっちの仮面を付けた二人は誰なの?」

「さあ、分からないわ。ただ、七つ星冒険者とその仲間だからそこそこ強いんじゃないかしら?」


 天の蝶とクランデットのメンバー達は小声でオスクロ達の事を話し、レジーナはニッと笑い、ジェイクも目を閉じながら少し楽しそうな笑みを浮かべた。だがマティーリアだけは少し不機嫌そうな顔をしている。

 英雄級のレベルとなって聴覚が鋭くなっているレジーナ達には冒険者達の小声の会話が聞こえていた。レジーナとジェイクは驚かれている事に優越感を感じて笑っていたが、マティーリアは小娘と呼ばれたのを聞いて僅かに機嫌を悪くしたのだ。


「盗賊姫と剛力王、か……以前は私達と同じ普通の冒険者だったのに今では王様直轄の冒険者かぁ」


 レジーナとジェイクを見ていたカトレアは両手を後頭部に当てながら羨ましそうに二人を見ている。だがその表情からは嫉妬心は感じられず、カトレアは小さな笑みを浮かべていた。しかし、近くにいるラッツは明らかに不満と嫉妬心が感じられるような鋭い表情を浮かべている。


「……フン、直轄だか何だか知らねぇか、その王様も元はこの国で冒険者をやっていた黒騎士なんだろう? そんな奴が王様をしている国の冒険者になら七つ星でも大した事ねぇかもな」

「ちょっと、やめなさい」


 聞こえないように小さな声で嫌味を言うラッツをカトレアは止め、ラッツは注意するカトレアを見た後にそっぽ向く。

 レジーナ、ジェイクはコソコソと嫌味を言うラッツを鋭い目で見ており、レジーナ達の後ろにいたファウも小さく震えながらラッツを睨んでいる。

 ファウも英雄級のレベルである為、レジーナ達の様に小さな声による会話が聞こえており、ダークを悪く言うラッツにイライラしていた。しかも彼女はダークを神の様な存在と見ている為、レジーナ達以上に苛立ちを感じているのだろう。


「……オホン」


 レジーナ達がラッツを睨んでいる中、アリシアが少し大きな声で咳をし、それを聞いたレジーナ達はチラッとアリシアの方を向く。アリシアはレジーナ達を見て小さく首を横に振り、気にするなと目で伝える。アリシアの意思を感じ取ったレジーナ達はラッツを睨むのをやめるがまだ不満そうな顔をしていた。


「では、全員揃いましたので早速出発しましょう。あちらの馬車をご用意いたしましたので、お乗りください」


 揃うべき冒険者が揃い、オスクロ達の紹介も終わったのでマーディングは冒険者達に出発する事を伝えた。冒険者達は目的地である岩山に向かう為に用意された馬車に乗り込む。

 同じチームのメンバー同士が固まって馬車に乗り、オスクロ達も用意された馬車に乗ろうとする。すると、ラガット達、聖刃がオスクロ達に近づいて来た。オスクロ達も聖刃に気付き、足を止めてラガット達の方を向く。


「まさかこんな形で再会するとは思わなかったよ。久しぶりだね、レジーナさん、ジェイクさん」

「ああ、お前さんも元気そうだな? ラガット」

「ホント、相変わらずハンサムね」


 ラガットはレジーナとジェイクに挨拶をし、レジーナとジェイクも笑って挨拶を返した。お互いに最後に会った時と殆ど変わっていないのを確認し、双方は少し安心する。

 ジェイクとレジーナに挨拶をしたラガットは視線をオスクロに向ける。オスクロは自分の方を向くラガットを無言で見つめた。


「オスクロさん、でしたよね? 僕は聖刃のリーダーを務めるラガット・ジールデントと言います。今回は共に冒険をする者同士、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく」


 オスクロはラガットにそっと手を差し出し、ラガットも手を出してオスクロと握手を交わす。チームリーダー同士が握手をする光景を両チームのメンバーは見守っていた。


「そう言えば、貴方もジェイクさん達と同じダークさ……ダーク陛下直轄の冒険者なのですよね? ダーク陛下はお元気ですか?」


 昔の様にダークをさん付けで呼んでしまいそうになったラガットは慌てて陛下と言い直す。ジェイクはそんなラガットを見て苦笑いを浮かべた。

 オスクロはラガットの顔を見つめながらそっと肩に手を置き、ラガットはオスクロの手を見た後に視線をオスクロの顔に戻す。


「無理に言い直さなくてもいいと思うぜ? ダーク陛下はそんな事は気にするような人ではない。お前達は七つ星になったばかりの陛下達に色々アドバイスしてくれたと聞いている。陛下も自分に助けてくれた人からそう言われるのは望んでいない」

「そ、そうですか?」


 目を丸くしながら訊き返すラガットを見てオスクロは頷く。レジーナとジェイクは目の前にいる盗賊がダーク本人だと知らないラガットを見てクスクスと笑っている。マティーリアは興味の無さそうな顔でラガットを見ていた。


「もしバーネストを訪れる事があれば王城によってみるといい、陛下はきっと歓迎してくださると思うぞ?」

「そ、そうですか、ありがとうございます」


 別人の様に語るオスクロを見てレジーナは更にニヤついた顔でラガットを見ており、ジェイクも腕を組みながら笑い続けている。ラガット以外の聖刃のメンバーはレジーナとジェイクを見て、何を笑っているのだろうと不思議に思っていた。


「皆さん、早く乗ってください」


 馬車の方からマーディングの声が聞こえ、オスクロ達は一斉の馬車の方を向く。既に他の冒険者達は全員馬車に乗っており、残っているのはオスクロ達と聖刃だけだった。

 オスクロ達は急いで馬車に乗る為に早足で馬車の方へ移動する。そんな中、オスクロは歩く速度を落とし、ラガットの隣まで移動して彼にそっと声を掛けた。


「これから向かう場所だが、恐らく俺達が今まで経験した事の無いような出来事や戦いが起きると思う」

「え?」


 ラガットはオスクロの言葉を聞いてフッと彼の方を見る。オスクロはラガットを見つめながら仮面の赤い目を薄っすらと光らせた。


「七つ星冒険者だからと言って油断するな? 下手をすれば誰一人生きて戻って来れなくなる」

「……わ、分かりました」


 オスクロを見ながらラガットは思わず息を飲む。なぜか知らないが、オスクロの言葉には説得力があると感じられ、ラガットは絶対に油断してはいけないと考えていた。

 二人が会話をしている間にアリシア達は馬車に乗りこんでおり、残っているオスクロとラガットは歩く速度を上げて馬車へ向かう。全員が乗り込むと正門はゆっくりと開き、冒険者達を乗せた馬車は岩山に向けて出発した。


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