表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十五章~魔植園の冒険者~
198/327

第百九十七話  岩山から続く秘境


 四つ星の冒険者達に続いて五つ星の冒険者チームも戻って来ないと聞かされ、ダークはやはりな、と言いたそうに低い声を漏らす。アリシアとノワールもダークの後ろで表情を僅かに歪ませた。


「五つ星冒険者達も戻って来ない……」

「ハイ、三日経っても帰って来ず、流石に危険を感じたマクルダム陛下は更に優秀な冒険者達を送り込むよう指示を出しました。ですが、扉の向こう側がどうなっているのか分からない以上、並の冒険者達を送り込むのは危険です。そこで我が国の七つ星冒険者チームと六つ星冒険者チームを送り込む事にしました」

「成る程」


 並の冒険者で無理ならば冒険者の中でも最高峰の七つ星とそれに次ぐ六つ星を送り込むのが最も良い案だとダークは納得する。


「ですが、現在動く事ができる冒険者チームは七つ星が一つと六つ星が二つの合計三つだけで、未知の場所を調査するのには人手不足です。他の六つ星チームは別の依頼を受けて動けませし、かといって探索に慣れていない王国軍の兵士を同行させても足手まといになるだけです」

「……それで私の仲間である七つ星冒険者のレジーナ達を貸してほしいと?」

「そのとおりです」


 マーディングはダークの方を見ながら真剣な表情で頷く。セルメティア王国にはもう動かせる優秀な冒険者がいない、だから同盟国であり、七つ星を仲間に持つビフレスト王国の王であるダークに依頼をしに来たのだ。


「ダーク陛下、貴方のご友人であるレジーナ殿達をお貸しいただけないでしょうか? お礼はしっかりいたします」


 ソファーから立ち上がったマーディングはダークに頭を下げながら懇願し、後ろで控えている騎士達も頭を下げて頼んだ。

 ダークは頭を下げるマーディング達を黙って見つめており、後ろに立っているアリシアはダークの肩を軽く突いて、どうすると目で尋ねる。ダークはアリシアの方を見た後に再びマーディング達の方を向いて考え込む。


(普通なら、いくら同盟国の頼みでも未知の場所を探索する為に七つ星冒険者は貸さないだろうな。だけど、セルメティア王国には前の帝国との戦争でザルバーン団長達を貸してもらった借りもあるし、その未知の場所にも興味がある。最近は王様の仕事が忙しくて殆ど外にも出ていないし……折角だ、依頼を受けて俺も久しぶりに冒険に出てみるか)


 気分転換に冒険をしてみようと心の中で語りながらダークはマーディングを見つめている。デカンテス帝国との戦争が終わってから今日まで一歩も王城から出ていなかった為、ダークはかなりストレスが溜まっていた。そのストレスの発散も兼ねてマーディングの依頼を受けて、レジーナ達と冒険に出てみようとダークは考える。

 しばらく黙っていたダークはゆっくりと立ち上がり、頭を下げるマーディングを見下ろしながら声を出した。


「分かりました、レジーナ達をお貸しします」

「本当ですか!?」


 ダークの答えを聞いてマーディングは顔を上げて確認する。騎士達もダークの返事を聞いて少し驚いた表情を浮かべながら顔を上げた。


「ええ、セルメティア王国には帝国との戦争で力をお借りしましたから、そのお礼も兼ねて協力します」

「ありがとうございます!」


 レジーナ達を貸す事を許可したダークにマーディングは礼を言う。ノワールはダークなら必ず協力すると思っていたらしく、ダークを見ながら笑みを浮かべている。一方でアリシアは無表情のままダークを黙って見ていた。


「ですが、念の為にその扉と扉の先がどうなっているのか確かめさせてください。その場所によってレジーナ達に持たせるアイテムなどを決めようと思っていますので……」

「分かりました。冒険に出る前に情報を集めるのは常識ですからね」


 ダークの申し出をマーディングは嫌な顔一つせずに許可する。自分の依頼を受けてくれたのだからこれくらいは許可するのが当たり前だとマーディングは思っていた。


「では、すぐに出発の準備をしますので少し待っていてください」


 扉がある場所へ向かう準備をする為、ダークは来客室を後にし、アリシアとノワールもダークと共に来客室を出て行く。残されたマーディングはダークが冒険者達を貸してくれる事に安心したのかホッとした様子でソファーに座った。

 来客室を後にしたダークは準備をする為に廊下の真ん中を歩いて自分の部屋に移動し、アリシアとノワールはダークの両脇に控えながら歩いていた。


「ダーク、どうしてマーディング殿の依頼を受けたのだ?」


 ダークの右側にいるアリシアは視線だけをダークに向けてマーディングの依頼を引き受けたのか尋ねる。ダークも視線だけを動かしたアリシアを見ると、再び前を向いた。


「セルメティア王国にはデカンテス帝国との戦争で戦力を貸してもらった借りがあるからな。その借りを返す為に依頼を受けたのだ」

「……理由はそれだけではないのではないか?」

「ん?」


 アリシアの意味深な言葉にダークはアリシアの方を向き、ノワールもまばたきをしながらアリシアの方を不思議そうな顔で見ている。


「貴方自身が城の外に出たくて依頼を受けたんじゃないのか?」


 ジト目で尋ねるアリシアの言葉にダークはピクリと反応し、兜の下で驚きの表情を浮かべる。アリシアが自分の本心を見抜いていた事にダークは驚いたようだ。

 アリシアは何も言わずに無言のまま歩き続けるダークを見て、図星だと感じ、少し呆れた顔で軽く首を横に振った。


「……貴方は最近、国王としての仕事ばかりをしていてストレスが溜まっていたはずだ。そんな時にマーディング殿が冒険者であるレジーナ達を貸してほしいと依頼して来たのを聞いて冒険に出られると感じ、自分も一緒に冒険に出てストレスを発散しようと思い、レジーナ達を貸す事にしたのだろう?」


 ダークがマーディングの依頼を受けたもう一つの理由をアリシアは語り、ダークはそれを黙って聞いている。すると、ダークはゆっくりと立ち止まり、アリシアの方を向いて小さく笑う。


「……バレていたか。よく気付いたな?」

「長い間、貴方と行動を共にすれば何を考えているかぐらい何となく分かる」


 アリシアは両手に腰を当てながら呆れた表情を浮かべ、そんなアリシアを見ながらダークは再び小さく笑った。ノワールはダークの考えている事を見抜いたアリシアを目を見開きながら見ていた。使い魔である自分でも見抜けなかったダークの本心を見抜いた事に驚いているようだ。

 ダークとアリシアが出会ってもう一年以上経つ。最初はただの協力者という関係だったが、長い事ダークと行動を共にしている内にアリシアはダークの考えなどが理解できる程の関係になっていた。今ではアリシアはダークにとってノワールに近い存在になっている。


「確かに俺は最近王様の仕事が忙しくてずっと城に籠りっきりだったからな。マーディング殿がレジーナ達を貸してくれと頼んで来た時、冒険者として久しぶりに外に出られると思ったから力を貸す事にしたんだ」


 自分の狙いを見抜かれたダークは素の口調で本心を口にする。アリシアもダークの本心を聞くと彼を見ながら心の中でやっぱりな、と思った。


「一通り王様としての仕事が終わったから少しぐらい外に出ても問題無いだろう?」

「まぁ、確かに……だが、流石に暗黒騎士の姿で冒険に出るのはマズいと思うぞ? その姿の貴方はビフレスト王国の国王として名が知れ渡っているんだ。国王が冒険者と共に冒険をしたら面倒ごとになる」

「分かってる。流石にこの姿で冒険に出る気は無い。だから冒険に出る時は盗賊オスクロとしての姿で出るつもりだ」

「オスクロか……まぁ、それなら問題無いだろう」


 ダークの答えを聞いてアリシアはそれなら大丈夫だろう、と思ったのか腕を組みながら納得した。

 盗賊オスクロは国王となったダークが冒険者の活動をする為のもう一つの姿である。いつもの漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーではなく、身軽な盗賊風の姿となり、名前を偽って依頼を受け、様々なアイテムや情報を得る為の存在だ。無論、暗黒騎士の装備をしている時と比べると格段に弱いが、それでも上級モンスターなら普通に倒せる強さを持っている。

 オスクロの存在と正体を知っているのはダークの協力者であるアリシア達だけで、オスクロの姿で冒険に出れば誰からもダークだと気付かれずに冒険者の活動ができるとダークは確信していた。アリシアとノワールもオスクロとして動くなら正体がバレる可能性は極めて低いと感じている。


「ダーク、冒険に出るのは構わないが、くれぐれも正体がバレるような事はしないでくれ?」

「分かってるって」


 アリシアの忠告を聞いたダークは軽い返事をし、そんなダークを見てアリシアは本当に分かっているのか、と不安になる。


「……なんだか、初めて買い物に行く子供を心配する母親みたいですね、アリシアさん」


 二人のやり取りを見ていたノワールはアリシアを見ながらからかう様に声を掛ける。アリシアはノワールの方を見ると僅かに顔を赤くして驚きの表情を浮かべる。


「は、母親なんて、私は協力者としてダークを心配しているだけだ!」

「ハハハ、すみません」


 力の入った声を出すアリシアを見てノワールは笑いながら謝る。アリシアはからかわれた事が不満なのか不機嫌そうな顔でそっぽ向く。ダークは二人の会話を聞いて可笑しいと思ったのか小さく笑っていた。


「さて、急いで準備を済ませ、マーディング殿と共にセルメティアに向かうとしよう。アリシア、ノワール、二人も一緒に来てくれ」


 ダークは暗黒騎士としての口調に戻り、アリシアとノワールに同行するよう話す。ダークの言葉を聞いたアリシアとノワールは真剣な表情を浮かべ、ダークの方を向いて頷いた。

 その後、三人はダークの部屋へ向かい、出発の準備を終えるとマーディング達と合流し、奇妙な扉を確認する為にセルメティア王国へと向かった。


――――――


 セルメティア王国の領内の草原を一台の馬車が走っていた。馬車の周りにはセルメティア王国の騎士が四人、馬車を護衛する為に馬に乗って走っている。馬車の中ではダーク、アリシアが座っており、二人の向かいの席にはマーディングとノワールが座っていた。

 ダーク達は奇妙な扉が発見された岩山に向かう為に馬車に乗っている。最初はノワールの転移魔法でマーディングがバーネストに来る時に乗って来た馬車ごとアルメニスに転移し、そこからその馬車に乗って直接岩山に向かって移動した。扉が発見された岩山はノワールも行った事の無い場所だった為、馬車で移動する必要があったのだ。

 移動する間、ダーク達はマーディングから扉の先がどんな場所なのかを聞いたが、マーディングも直接見た訳ではないので説明する事はできず、ダーク達はどんな場所なのか詳しく知る事ができなかった。

 仕方なく、ダーク達は直接自分達の目で確かめる事にし、馬車に揺られながら岩山に到着するのを待つ。しばらくすると、ダーク達は目的地である岩山の入口前に到着する。岩山はアルメニスからそれほど離れてはおらず、出発から僅か三十分ほどで辿り着いた。

 馬車を降りるとダーク達は入口の周囲を見回す。枯れ木や大小の岩が大量に転がっており、こんな所に本当に扉があるのか、と思えるくらい殺風景な場所だった。


「扉はこの岩山を十五分ほど登った所にあります。ご案内しますのでついて来てください」


 マーディングはダーク達の方を見ると岩山を指差しながら語り、ダーク達は視線をマーディングの方へ向ける。


「分かりました。ところで、かなり険しい道のようですが、マーディング殿は大丈夫なのですか?」


 ダークは貴族であるマーディングに岩山の道を登って行けるのか尋ねる。それなりの年齢で貴族としてデスクワークばかりをしているマーディングには少し大変な道のりだと感じ、ダークは少し心配になっていた。アリシアとノワールも少し不安そうな顔でマーディングを見ている。すると、マーディングはダーク達を見ながら小さな笑みを浮かべた。


「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫です。これでも若い時は騎士を務めていましたので、体力にはそこそこ自信があります」

「……フッ、そうですか」


 マーディングは大丈夫だと感じたダークは小さく笑い、アリシアとノワールもとりあえず安心する。それからダーク達は護衛の騎士達を連れて岩山の道を登っていき、目的の扉がある場所へ向かった。

 岩山に入ったダーク達は少しずつ奥へと進んで行く。岩や石が多く、歩き難い道だが順調に進む事ができた。ダーク達は疲れを見せる事無く歩き続け、マーディングも微量の汗を掻いてはいるが、遅れる事無く進んで行く。そして岩山に入ってから十五分後、ダーク達は予定どおりの時間で目的地に到着した。

 ダーク達の目の前には体育館と同じくらいの広場があり、岩や石も少なく休憩場所と言ってもいい所だ。その広場の奥にはセルメティア王国の紋章が描かれたテントが張られており、その近くには王城で見られるような立派な扉があった。そしてその周りには見張りと思われるセルメティア王国の兵士が数人立っている。


「あれが例の扉か……」


 遠くに見える扉を見てダークは呟いた。確かにマーディングの言うとおり、岩山には似合わない立派な作りでどこか歴史を感じるような雰囲気を出している。アリシアとノワールも岩山には合わない扉を真剣な表情で見ていた。

 扉を見ているとマーディングがテントの方へ歩き出し、ダーク達もマーディングの後を追う様にテントの方へ歩いて行く。すると、テントの中から中年の騎士が出てきて、歩いて来るマーディングの姿を見ると目を見開いた。


「マーディング卿!」


 騎士はマーディングの方へ早足で近づいていき、門の前にいた兵士達も騎士の言葉を聞いてマーディング達の存在に気付き、慌ててマーディング達の方へ走り出す。

 マーディングは騎士達が近づいて来ると立ち止まり、ダーク達もマーディングの後ろで立ち止まる。騎士と兵士達はマーディング達の前まで移動すると素早く整列した。


「ご苦労様です。何か変化はありましたか?」

「いえ、今のところは大きな問題も起きておりません」

「そうですか……」


 変化がないと騎士から聞かされたマーディングは進展がない事を少し残念に思ったのか低い声を出す。だが同時に問題が起きていない事を知って安心した。

 騎士と兵士達は小さく俯いているとマーディングを見ると視線を後ろに立っているダーク達に向け、少し驚いた様な顔をしていた。同盟国の国王であるダークがセルメティア領内にいるのだから無理もない。


「今回、我々はビフレスト王国にあの扉の先の調査を依頼しました。ですのでダーク陛下がご自分の目でどんな場所になっているのか確かめる為に一緒に来られたのです」

「そ、そうだったのですか……わざわざビフレスト王国からお越しいただき、ありがとうございます」


 顔を上げたマーディングは驚く騎士達を見るとダーク達の方を向いて彼等が此処にいる理由を説明し、騎士達は驚いた表情のままダークに挨拶をする。ダークは姿勢を正して自分に挨拶をする騎士達を見ると無言で手を軽く上げて挨拶を返した。

 挨拶が済むとダークはアリシアとノワールを連れて扉の方へと歩き出し、マーディングと騎士達もその後に続く。ダークは扉の前までやって来ると扉を細かく観察し始めた。岩の様な灰色の素材でできた二枚扉で、扉の向こう側には岩山とは違う景色が広がっている。扉の先を見たダークとノワールが少し驚いた反応を見せ、アリシアは目を大きく見開いて驚いていた。


「ど、どうなっているんだ? 岩山とは全く違う場所に繋がっている……」

「ウム、どういう仕組みかは知らないが、この扉が何らかのマジックアイテムである可能性は高いな」


 驚くアリシアの隣でダークは冷静に扉が何なのか調べる。ノワールも同感なのか扉を見ながら頷き、マーディング達はダークの話を聞いてやはりマジックアイテムか、と言いたそうに真剣な表情を浮かべた。


「マスター、どうします?」

「……とりあえず向こうへ行ってみるとしよう。此処からではよく分からないからな」

「そうですね」


 ダークの扉の向こうへ行こうという考えにノワールは反対せずに頷き、アリシアは二人が行くのなら自分も行く思っているのか二人を見ながら無言で目を鋭くする。

 マーディング達は迷わずに扉の向こうへ行こうとするダーク達を見て呆然としている。するとダークはゆっくりと後ろで控えているマーディング達の方を向いた。


「マーディング殿、我々は扉の向こうへ行きますが、貴方がたはどうされますか?」

「……私達も行きます。向こうがどうなっているのかをしっかりと確認しておかなくてはいけません。それにわざわざビフレスト王国から来られたダーク陛下達だけに行かせて我々が此処に残るという訳にはいきませんから」

「そうですか……では、行きましょう」


 ダークはマーディングが同行するのを確認すると扉を潜って向こう側へ移動する。ノワールもその後に続き、アリシアは躊躇する事無く扉を潜る二人に驚きながらも後をついて行く。そしてマーディングも数人の騎士と兵士を護衛に連れて扉を潜った。

 扉を潜ったダーク達は足を止めて周囲の状況を確認する。ダーク達は庭園の様な場所の入口前に立っており、周りには植物が枯れた花壇や水が無くなった噴水や人工の川、ボロボロになったガゼボがある。真ん中には奥へ続く一本道があり、その両脇に植えられていた花も枯れてしまっていた。

 一本道の奥には大きな宮殿が建てられており、宮殿の壁や柱にはひびが入っている。窓ガラスも割れており、廃墟の様な状態だ。そして何よりも宮殿のほぼ全体がつたに覆われており、その光景にダーク達は釘付けになっていた。


「これは……凄い所だな」


 アリシアは目を鋭くして庭園や宮殿を見つめ、マーディング達も周囲に漂う重苦しい空気に表情を歪めている。


「まさか、扉の向こうが大きな庭園になっていたとは……」

「マーディング卿、これはどういう事でしょう?」

「分かりません。何かのマジックアイテムが関係していると思われますが、情報が少なすぎますので……」


 尋ねて来る騎士の方を向いてマーディングは首を軽く横に振りながら理解できないと話す。騎士や兵士達も理解できない状況に不安そうな表情を浮かべていた。


「そう言えば、探索に出た冒険者達は何処にいるんだ?」

「この庭園にはいないみたいだな。もしかすると、奥の宮殿の中かもな」


 兵士達は先に扉を潜った冒険者達が何処にいるのか、庭園や奥の宮殿を見ながら語り、アリシアも冒険者達の事が気になるのか宮殿をジッと見つめる。そんな中、ダークとノワールは無言で遠くの宮殿を見つめていた。


「二人とも、どうかしたか?」


 先程から黙り込んでいるダークとノワールが気になり、アリシアはダークの隣に移動して声を掛ける。ダークは宮殿を見ながら低い声を漏らし、まるで考え事をしながら無意識に声を出しているようだった。


「ダーク?」

「……妙だな」

「そうですね……」


 低い声を出すダークとノワール、アリシアは普段はなかなか見せないくらい真剣な様子の二人を見て意外そうな表情を浮かべた。


「どうしたんだ?」

「……私達はこの庭園を、そしてあの奥の宮殿を見た事がある」

「え?」


 今いる場所を見た事がある、ダークの口から出た予想外の言葉にアリシアは驚いて声を出す。始めて来たはずの場所に見た事があると聞けば驚くのは当然だ。


「見た事があるって、どういう事だ?」

「正確には、此処と似たような場所を見た事がある、だ」

「何処で?」

「……LMFだ」

「何だって!?」


 ダークとノワールが以前いた世界、LMFで似た場所を見た事があると聞いたアリシアは更に驚き、思わず声を上げた。


「アリシアさん、どうかなさいましたか?」


 突然声を上げたアリシアに周囲を調べていたマーディングは声を掛ける。アリシアはマーディングに聞こえていた事に驚き、慌てて彼の方を向く。


「い、いえ! 何でもありません」

「……? そうですか」


 苦笑いを浮かべて首を横に振るアリシアを見てマーディングは不思議そうな表情を浮かべる。そしてマーディングは騎士達と共に再び庭園を調べるのだった。

 アリシアはマーディング達の意識が庭園に戻るとホッと安心し、視線をダークとノワールに戻した。


「LMFで見た事があるって、一体どういう事なんだ?」


 マーディング達に聞こえないようにアリシアは小声でダークとノワールに尋ねる。二人はアリシアの質問には答えずに宮殿と庭園をしばらく見回している。そして一通り見回すと、ダークはアリシアに顔を近づけて小声で話しかけて来た。


「……詳しい事はまだ分からないが、とりあえずバーネストに戻るぞ。あっちで色々と調べてみたい事があるのでな……」

「バーネストに戻れば何か分かるのか?」

「ああ」


 低い声で返事をしたダークはゆっくりと奥に見える宮殿に視線を向ける。


「まだ確証は無いが、此処がLMFで見た事がある場所と同じ可能性がある。そして、もし此処が私の知っている場所と同じ場所だったとしたら……かなり面倒な事になるな。恐らく、探索に出た冒険者達は全滅している」

「な、何だと?」


 探索に出た冒険者が既に全滅しており、しかもそこがLMFに存在していた場所と同じ可能性がある。アリシアは驚愕の表情を浮かべながらダークを見ていた。更にダークがそこがかなり面倒な場所だと口にしたのを聞いてアリシアは僅かに緊迫した表情を浮かべて奥の宮殿に視線を向ける。


「アリシア、どんな場所か大体分かったから私達はバーネストに戻るとマーディング殿に伝えておいてくれ」

「わ、分かった」

「あと、分かっているとは思うが、私が似たような場所を見た事があるとは伝えるな?」


 アリシアは戸惑った様な表情を浮かべながら頷いてマーディング達の下へ向かった。ダークは再び視線を宮殿の方へ向け、ノワールもダークの隣で真剣な表情を浮かべながら宮殿を見つめている。


「……マスター、どういう事でしょう?」

「さあな……ただ、あそこが私達の知っている場所だとは限らない。よく似ているだけで、まったく違う場所なのかもしれない」

「ですが、あの外見は……」


 ノワールが宮殿を指差しながら語っていると、ダークはノワールに手を向けてノワールが語るのを止めた。


「落ち着け、さっきも言ったように似ているだけかもしれん。バーネストに戻り、LMFで集めた資料を調べてから判断する。いいな?」

「ハ、ハイ……」


 複雑そうな表情を浮かべながらノワールは頷く。そして再び宮殿に視線を向け、ダークも腕を組みながら宮殿を見つめる。


「……マスター、もしも、もしもあそこがLMFで見た場所と同じ場所だったとしたら、攻略できると思いますか?」

「……分からん。ただ、一つだけ言える事がある」


 ダークは宮殿を見つめながら目を赤く光らせた。


「今まで経験した冒険よりも過酷な冒険になるだろう」

「そうですよね……」


 ノワールは小さな手で握り拳を作り、鋭い目で宮殿を睨み付けた。


「何しろ、昔の僕達では完全攻略できなかった場所ですから……」


 幼い少年の姿をした使い魔はどこか悔しそうな声で呟き、宮殿に背を向けてアリシア達がいる方へ歩き出す。ダークはしばらく宮殿を見つめた後に振り返り、ノワールの後を追う様に歩き出す。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ