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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十四章~帝滅の王国軍~
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第百九十四話  無力な帝国軍


 進軍する連合軍を迎え撃つ為に各門を護る帝国軍は必死に応戦するが、連合軍の勢いを止める事はできなかった。アリシア率いる西の連合軍はダークが破壊した西門から帝都に侵入し、北と南の連合軍も砲撃蜘蛛の攻撃で北門と南門を破壊し、帝都に突入する。帝都での最終決戦で帝国軍はいきなり不利な状態になってしまった。

 帝都に侵入した連合軍はまず、門の前にいる帝国兵達と交戦し、次々と帝国兵達を倒していく。だが、帝国軍も負けじと連合軍を迎え撃ち、少しずつだが青銅騎士達を倒していった。

 しかし、連合軍にはダークやアリシア達の様な強大な力を持つ者達がいる為、いくら青銅騎士達を倒しても帝国軍は連合軍を押し返す事はできずにいる。そして、開戦から僅か一時間で北、西、南の三つの門とその前の広場は連合軍に制圧された。

 広場を制圧した各連合軍は素早く皇城を制圧する為に仮拠点を広場に作り、皇城までの進攻ルートの確認と部隊の編成を行う。それが済むとすぐに皇城を目指して進軍を開始する。勿論、部隊の指揮はダークやアリシア達が執った。ノワールはメタンガイルの町での戦いと同じように帝都の上空で待機、敵の位置や情報などをダーク達に報告する役割につく。

 連合軍は順調に帝都の中心にある皇城へと向かって進軍して行く。途中で帝国軍の防衛部隊と遭遇したが、ダーク達は難なく防衛部隊を撃破していった。

 これまでの戦いで連合軍は帝国軍との戦い方を完全に把握しており、連合軍は大きな被害を出す事なく防衛部隊に勝利する事ができた。逆に帝国軍は自分達との戦い方を把握して有利に立つ連合軍の勢いと戦力に押されて苦戦を強いられている。更に次々と防衛線を突破されてしまう現状に帝国兵達の士気は低下し、形勢を逆転させる事は非常に難しくなっていた。

 連合軍に押されている現状に危機感を抱いた総指揮官のオラルトンは飛竜団と冒険者達にも救援を要請した。しかし、飛竜団は空中で待機していたノワールがアッサリと全滅させ、冒険者達も蝗武やモルドール、そしてストーンタイタンと砲撃蜘蛛によって簡単に倒されてしまう。結局、戦況を変えられないまま連合軍の進軍を許す事になってしまった。


「一体どうなっているのだ! こうも簡単に帝都への侵入を許すとは!」


 皇城の玉座の間ではカーシャルドが玉座に座りながら声を上げる。彼の前には一人の帝国騎士がおり、跪いたまま俯いていた。カーシャルドの左側には皇帝派の貴族が四人、右側にはオラルトンが立っており、全員が目を見開いて跪いている帝国騎士を見つめている。帝国騎士は険しい顔をするカーシャルドと顔を合わせないようにしているのか下を向いたままだった。

 少し前に帝国騎士は玉座にやって来て連合軍が北、西、南の三つの門を突破して帝都に侵入した事、皇城に向かって進軍している事をカーシャルド達に伝え、報告を聞いたカーシャルド達は驚きの反応を見せる。当然だ、開戦から一時間ほどしか経っていないのに連合軍に帝都への侵入したと言う報告を聞き、更に皇城に向かって進軍している事を聞かされたのだから。


「も、申し訳ありません。連合軍の勢いがあまりにも激しく、食い止める事が非常に困難になっておりまして……」

「言い訳など聞きたくないわっ!」


 震えた声で語る帝国騎士にカーシャルドは再び怒鳴り散らす。カーシャルドの怒鳴り声を聞いた帝国騎士はビクッと反応し、下を向いたまま口を閉じる。

 カーシャルドは玉座に座り、険しい顔をしながら歯ぎしりをする。連合軍が帝都に攻め込んで来ただけでなく、帝都に侵入までされたので相当頭に来ているようだ。そんなカーシャルドを見ていたオラルトンは視線をカーシャルドから報告に来た帝国騎士に向けた。


「魔獣兵達が倒され、連合軍は帝都に侵入、更に迎撃に向かわせた飛竜団と冒険者達も殆どが全滅した……間違いはないのか?」


 オラルトンは帝国騎士を見ながら再確認する。帝国騎士はオラルトンの方を見ると小さく頷いた。


「ハ、ハイ、魔獣兵達の戦いを直接見た者達からの報告ですので……」

「と言う事は、連合軍の中にはレベル50代の魔獣兵達を倒すほどの実力を持つ者がいると言う事か……」


 難しい顔をしながらオラルトンは連合軍にずば抜けた力を持つ強者がいると考える。貴族達も驚きの表情を浮かべながらオラルトンと帝国騎士を見ていた。玉座の間の隅には槍を持った衛兵が数人おり、彼等も驚いた顔でオラルトン達の会話を聞いている。

 オラルトンや帝国貴族達は今になって連合軍がとんでもない力を持つ存在である事を知った。十万の先遣部隊を壊滅させるほどの戦力、自分達が知らない未知のモンスター、レベル50代の魔獣兵達を倒せる力を持つ戦士、自分達の予想を上回る物を数多く所持する連合軍に帝国貴族達の表情から余裕が消えていく。オラルトンも連合軍を過小評価していたと後悔していた。


「オラルトン、この戦況を覆す方法はないのか!?」


 静まり返る玉座の間にカーシャルドの声が響く。オラルトンや貴族達はカーシャルドの声を聞き、一斉にカーシャルドの方を見る。

 例えどんなに戦況が不利な状態でも敵に背を向けたり、降伏しようなどとはカーシャルドは考えていなかった。敵を前にして弱腰になる事はデカンテス帝国の名に傷を付け、皇族の誇りを汚す事になる。そんな事は帝国至上主義者であるカーシャルドのプライドが許さなかった。

 オラルトンや貴族達はカーシャルドの態度を見て彼は徹底抗戦の考えを変える気は無いと悟る。こんな戦況では普通は降伏する道を選ぶが、カーシャルドはそんな事をする気は無い。

 勿論、皇帝派の貴族達も不利な戦況に驚いてはいるが、降伏しないと言う考えについてはカーシャルドと同じで、皇族に忠誠を誓うオラルトンも最後までカーシャルドについて行く気でいた。これはカーシャルドに忠誠を誓う者だからこそ選べる道と言える。


「……敵は我々に対する戦い方を把握しています。そうでなければここまで効率よく進軍する事はできません。このまま普通に戦いを挑んでも勝てる見込みはありません」

「だから何か方法はないのかと聞いているのだ!」


 冷静に状況確認をするオラルトンにカーシャルドは八つ当たりする様に怒鳴る。興奮するカーシャルドにオラルトンは驚く事なく冷静に対応した。


「落ち着いてください、陛下。この状況で形勢を逆転させる方法が一つあります」

「何だ、それは?」

「連合軍の指揮官との一騎打ちです」


 オラルトンの口から出た意外な言葉にカーシャルドは目を見開き、貴族達も少し驚いた表情を浮かべてカーシャルドを見た。


「一騎打ち、だと?」

「ハイ、私が敵の指揮官に一騎打ちを申し込みます。その一騎打ちで敵の指揮官を討ち取れば、敵も降伏するはずです。万が一降伏しなかったとしても、指揮官を失った事で敵の指揮系統は混乱します。そこを全戦力で攻撃すれば勝てるはずです」


 帝国軍が逆転する唯一の作戦だとオラルトンは真剣な表情で語る。カーシャルドや貴族達はオラルトンの話を聞いて真剣な顔で考え込んだ。


「それしか方法はないのか?」

「……ええ、私の思いつく限りでは」


 オラルトンはカーシャルドを見つめながら低い声で答え、返事を聞いたカーシャルドは再び考え込む。貴族達は考え込むカーシャルドをただ黙って見つめている。


「……よかろう。オラルトン、お前に任せる」

「ハッ」


 しばらく考えていたカーシャルドはオラルトンの敵指揮官と一騎打ちをすると言う作戦を許可する。許可を得たオラルトンは頭を下げて返事をした。

 カーシャルドや貴族達は政治の事には知恵があるが、戦争に事に関しては無知に等しかった。その為、他にいい作戦が思い浮かばず、優秀な騎士であるオラルトンの考えた作戦が一番いい作戦だと感じていたのだ。


「それで、まずはどうするのだ?」

「ハッ、まず敵指揮官がいる敵部隊を皇城前の大広場まで誘い出します。そこで私が敵の指揮官に一騎打ちを申し込もうと思っています」

「オラルトン殿、ちょっとよろしいか?」


 オラルトンが説明をしていると貴族の一人が声を掛けて来る。オラルトンやカーシャルドは発言をした貴族の方を向いた。


「皇城前の大広場に誘い出すのなら、そこで敵を包囲し、一気に殲滅した方がいいのではないか?」

「それはできません。敵部隊を包囲する為に戦力を集めたら他の連合軍の部隊に回す戦力が足りなくなってしまいます。ですから一騎打ちをするしか道は無いのです」

「そ、そうなのか……」


 説明を聞いて貴族は納得した様子を見せる。他の連合軍の部隊の事もしっかり考えて一騎打ちを行う事にしたオラルトンの知識に貴族達は感心した。


「よし、オラルトン、お前に全て任せる。分かっていると思うが、敗北は許されんぞ?」

「お任せください、必ず陛下と帝国に勝利を!」


 そう言ってオラルトンは玉座の間を後にした。残された貴族達はオラルトンを頼もしく思い、少しだけ余裕を見せる。カーシャルドもデカンテス帝国でも一二を争う実力を持つオラルトンなら絶対に勝つと思う笑みを浮かべていた。

 だがこの時、カーシャルド達は忘れていた。敵の中にレベル50代の魔獣兵達を倒した猛者がいると言う事を。


――――――


 帝都の北側、貴族位の無い平民達が暮らしている住宅区でザルバーンが率いる連合軍部隊が帝国軍と交戦していた。前衛に出ている青銅騎士、白銀騎士達が帝国兵や帝国騎士達と剣を交え、後衛ではセルメティア王国の兵士、騎士達が控えている。その中に馬に乗りながら戦いを見守っているザルバーンの姿もあった。

 戦況は連合軍が優勢だった。魔法の武具を持つ青銅騎士達が次々と帝国兵を倒していき、少しずつだが確実に帝国軍を押している。帝国軍はそんな青銅騎士達に威圧され、士気を低下させていった。


「何をしている! 早く押し返せぇ!」


 帝国軍の中に馬に乗りながら剣を連合軍に向ける男がいた。彼の名はリッカンス、デカンテス帝国の皇帝派貴族の一人で防衛部隊の一つの指揮を任されている。元は帝国軍の騎士でそれなりの実力を持っている男だ。

 リッカンスの周りにいる五人の帝国兵は槍や剣を構えながら迫って来る青銅騎士達は睨んでいる。だが魔法の武具を装備して容赦なく敵を切る青銅騎士達に他の帝国兵達は恐怖を感じて次々と後退していき、そんな仲間の姿を見てリッカンスの周りにいる帝国兵達も徐々に恐怖を感じるようになっていった。

 前衛にいた最後の帝国騎士が白銀騎士に倒され、青銅騎士達は隊列を揃えながら前進する。リッカンスはそれを見て微量の汗を流し、周りにいる帝国兵達も青ざめていく。


「ひ、怯むな! 我らは誇り高く帝国の戦士、連合軍の脆弱な兵士どもに負ける事などないのだ!」

「脆弱? ドチラガダ」


 突然聞こえて来た低い男の声にリッカンスは驚き、慌てて振り返る。そこには自分に背を向けながら腕を組む蝗武の姿があった。

 いつの間にか立っていた蝗武にリッカンスは慌てて剣を構え、彼の周りにいた帝国兵達も慌てて蝗武を包囲する。敵に囲まれたにもかかわらず、蝗武は慌てる様子を見せなかった。


「き、貴様、何者だ! 連合軍が支配するモンスターなのか!?」

「……我ガ人間ニ見エルノカ? ダトシタラ貴様、カナリ目ガ悪イト思ウゾ?」


 蝗武はリッカンスに背を向けたまま挑発的な言葉を言い放つ。リッカンスはモンスターに馬鹿にされた事、自分に背を向けたまま会話をしている事に対して怒りを感じ表情を険しくする。


「こ、この無礼者! モンスターの分際で私を侮辱するとは……」


 リッカンスは背を向けている後部に向かって剣を振り下ろそうとする。だが次の瞬間、蝗武はリッカンスの乗る馬に後ろ回し蹴りを放ち、馬ごとリッカンスを蹴り飛ばす。リッカンスと馬は民家の壁に叩きつけられ、腕や足をあり得ない方角に曲げたまま動かなくなった。

 五人の帝国兵は一撃でリッカンスと馬が殺された光景を見て驚きのあまり固まる。蝗武が驚いている帝国兵達にパンチを連続で放ち、帝国兵達の頭部を粉砕した。頭部を失った帝国兵達は崩れるように倒れ、それを見た蝗武は他の帝国兵達が後退した方へ歩いて行く。


「己ノ能力ヲ過信シ、敵ヲ見下ス者ハ戦場デ真ッ先ニ死ヌ。次ニ生マレ変ワッタ時ニハソレヲ忘レナイヨウニシテオクノダナ」


 蝗武は歩きながら死んだリッカンスにそう告げて先へ進む。青銅騎士達も隊列を崩さずに蝗武の後を追う様に進軍していく。後衛にいたザルバーン達は蝗武達の戦いを見て相変わらずだなと感心していた。

 帝都の南側でも激戦が繰り広げられている。南側には商業区や倉庫地区があり、帝都の中でも最も戦いやすい場所だった。そこでベイガードが率いる連合軍が帝国軍と彼等に手を貸す冒険者と戦っている。


「負傷した者は後退させて! 回復魔法が使える冒険者に手当てさせるのよ!」


 銀色の鎧を着た若い女騎士が周りにいる帝国兵や冒険者達に指示を出しながら青銅騎士と剣を交えていた。彼女はレーニャ、帝国軍に所属している女騎士で皇帝派の貴族の娘でもある。彼女は皇帝派の貴族の娘である事と、騎士として優秀な実力を持っている事から防衛部隊の隊長に任命されたのだ。

 レーニャは大きめの盾で青銅騎士の剣を防ぎ、素早く騎士剣で反撃をした。だが青銅騎士も負けずとカイトシールドでレーニャの攻撃を防ぎ反撃する。周りでも多くの帝国兵や帝国騎士、冒険者達が青銅騎士達と戦っている。


「まさか、こんなに簡単に帝都内に侵入されるとは、連合軍はどれ程の力を持っているのよ」


 青銅騎士と攻防を繰り返しながらレーニャは連合軍の戦力について呟く。青銅騎士は独り言を呟いているレーニャを気にする事無く騎士剣で攻撃を続けた。

 レーニャは青銅騎士の攻撃を盾で防ぐとそのまま盾で青銅騎士に体当たりをして青銅騎士の態勢を崩した。そこを素早く攻撃し、レーニャは青銅騎士を倒す。レーニャが戦った青銅騎士は魔法の武具を装備していなかったので何とか倒す事ができた。


「よし、このまま行けば連合軍の追い返す事ができるはず。できれば早く敵の隊長を見つけた倒してしま……」


 周りを見ながらレーニャが喋っていると彼女の真横を火球が横切り、レーニャの後方で爆発した。同時に後方から大勢の悲鳴が聞こえ、レーニャは慌てて振り返る。そこには炎に呑まれて息絶えた仲間の帝国兵や冒険者達の姿があり、レーニャは驚きの表情を浮かべた。

 レーニャは何が起きたのか確認する為に火球が飛んで来た方を向く。すると、遠くで不敵な笑みを浮かべているモルドールの姿を見つけ、それを見たレーニャは騎士剣と盾を構えた。


「アイツがさっきの火球を……と言う事は、アイツは魔法使いって事ね」


 火球を放ったのがモルドールだと知ってレーニャは鋭い目でモルドールを睨む。


「アイツの火球、かなり強力だわ。このまま放っておくとこっちの被害が大きくなる、先に倒しておいた方がいいわね」


 帝国軍の被害が増えるのを防ぐ為にレーニャはモルドールを先に倒そうと考え、騎士剣と盾を構えながらモルドールに向かって走り出した。

 モルドールは帝国兵や冒険者が大勢集まっている場所に火球を放ち攻撃する。火球を受けた帝国兵達は次々と倒れていき、帝国軍の戦力は徐々に減っていく。そんな中、モルドールは自分に向かって走って来るレーニャの存在に気付いた。


「おや、私に正面から向かってくるとは、なかなか勇気のある女性ですね」


 険しい顔で向かってくるレーニャを見てモルドールは何処か楽しそうな反応を見せた。彼にとって帝国軍との戦いは遊びと同じのようだ。

 レーニャはモルドールの魔法を警戒しながら徐々にモルドールとの距離を縮めていく。モルドールまで残り20mの所まで近づくとレーニャは騎士剣に気力を送り込み戦技を発動させる準備に入った。だがその時、レーニャの視界からモルドールが突然消え、驚いたレーニャは急停止して周囲を見回す。


「いない、何処へ消えたの?」


 騎士剣と盾を構えながらレーニャはモルドールを探すが何処にも見当たらない。自分を恐れて逃げ出したのか、レーニャはそう感じて構えを解いた。その直後、レーニャの後方3mの場所にモルドールが現れ、気配を感じ取ったレーニャは目を見開いて後ろを向く。


「狙っていた敵が消えたからと言って気を抜いてはいけませんよ……火炎弾フレイムバレット


 モルドールは小さく笑いながら警告し、レーニャに火球を放つ。火球は無防備状態のレーニャの背中に命中すると爆発し、レーニャは炎に呑み込まれた。

 全身の痛みの熱さにレーニャは断末魔を上げ、やがて持っている騎士剣と盾を落として倒れる。モルドールは笑いながら炎に焼かれるレーニャを見つめ、しばらくすると別の敵を倒す為に移動した。

 その二十数分後、商業区と倉庫地区に防衛線を張っていた帝国軍は壊滅し、モルドールとベイガード達は皇城を目指し進軍する。


――――――


 帝都の西側にある大きな街道、そこも帝国軍の防衛線が張られており、ダークが率いる連合軍の部隊が帝国軍と交戦していた。

 進軍する青銅騎士達を帝国兵達は必死に押し戻そうとするが、魔法の武具を装備する青銅騎士達には敵わず、次々と倒されていく。更に白銀騎士を越える黄金騎士や巨漢騎士も帝国騎士達を倒していき、帝国軍は圧倒的に不利な状態にあった。

 青銅騎士達が帝国兵達と戦っている中で、ダーク、アリシア、ファウも帝国兵や帝国騎士達を倒していく。神に匹敵するダークとアリシア、英雄級の実力を持つファウの前ではどんなに優秀な帝国兵や帝国騎士も無力に等しかった。


「白光千針波!」


 神聖剣技を発動させたアリシアはフレイヤを大きく横に振り、光る刀身から無数の白い光の針を放つ。放たれた針は遠くにいる帝国兵と帝国騎士達の体に刺さり、一度に大勢の敵を倒した。

 倒された帝国兵と帝国騎士達の後ろにいた別の帝国兵達はアリシアの攻撃を見て恐れをなし、ゆっくりと後退しようとする。するとファウは後退する帝国兵達の右側に素早く回り込んで黒いオーラを纏うサクリファイスを構えた。


「魔空弾!」


 ファウはサクリファイスを大きく振り、刀身から黒い光球を帝国兵達に向かって放つ。光球は帝国兵達の足元に命中すると爆発して近くにいた帝国兵達を吹き飛ばした。吹き飛ばされた帝国兵達は地面や建物の壁に体を叩きつけられて動かなくなる。

 帝国兵達を倒したファウはチラッとアリシアの方を向いた。アリシアは自分を見るファウを見ながら小さく笑い、そんなアリシアの笑みを見たファウは小さく笑い返す。

 二人が笑っていると少し離れた所で爆発が起き、アリシアとファウは爆発が起きた方を見る。そこには大勢の帝国兵と帝国騎士が倒れている中で大剣を握っているダークの姿があった。倒れている帝国兵達は皆ボロボロだがダークは傷一つ付いていない無傷の状態、そんなダークの姿を見てアリシアは流石だと感じ、ファウは目を丸くしながらおおぉ、と言う顔をしている。

 それから数分後、ダーク達は防衛線が張られていた街道を完全に制圧し、隠れている敵がいないかを確認する。街道の真ん中ではダークとアリシアが遠くに見える皇城をジッと見つめていた。


「……あれが皇城かこのまま進軍すればすぐに辿り着くだろうな」

「どうする? このまま私達だけで皇城に向かうか? それともザルバーン団長とベイガード殿の部隊が皇城に辿り着くのを待つか?」


 アリシアは自分達だけで皇城を攻略するか、三つの部隊で同時に攻撃を仕掛けるかダークに尋ねる。ダークは皇城を見つめながら考え込み、しばらくするとチラッとアリシアの方を見た。


「ザルバーン団長とベイガード殿の部隊と同時に攻撃を仕掛けるのが一番いい方法かもしれん。だが、そうなると二人の部隊と合流するまでの間、帝国軍に形勢を立て直す時間を与える事になる。敵の本拠地である帝都で敵に時間を与えるのは得策ではない」

「では……」

「ああ、我々だけで皇城に向かう」


 帝国軍に反撃の隙を与えないようにする為にもすぐに皇城に攻め込むと判断したダークを見てアリシアは真剣な顔で頷く。彼女もダークと同じように敵に時間を与えるのはよくないと考え、ダークの判断に賛成したようだ。


「だが一応、私達だけで皇城に向かう事は他の者達に伝えておいた方がいい。アリシア、後で二人とノワールに連絡を入れておいてくれ」

「分かった」


 ダークの指示を聞いてアリシアは頷く。そこへファウは二人の下に早足で近づいて来た。


「ダーク陛下、この辺りにはもう敵の残っていません。死体も全て確認しましたが全員死んでいます」

「そうか、では我々はこのまま進軍し、皇城を目指す。皇城に近づけば近づくほど敵の抵抗も激しくなる。油断するな?」


 目を薄っすらと光らせながらダークはアリシアとファウに忠告し、二人は無言で頷く。神に匹敵するアリシアと英雄級の実力者であるファウに油断するなと言うのは変かもしれないが、アリシアとファウを大切な仲間だと思っているダークは強大な力を持つ二人にもしっかりと忠告をした。

 それからダーク達は青銅騎士達を率いて皇城を目指す為に進軍を再開した。

 街道の防衛線を突破してからダーク達は順調に進軍して行く。途中で何度か防衛線を張る帝国軍と遭遇したが、ダークとアリシアの力で難なく蹴散らし、少しずつだが確実に皇城に近づいていき、遂に皇城前にある大きな広場まで辿り着いた。

 そこはダーク達が入って来た出入口と300m程先にあるもう一つの出入口の扉以外には何も無い、ただ広いだけの円形の場所だった。ダーク達は周囲を見回して帝国軍が隠れていないか警戒する。


「……随分広い場所だな。ファウ、此処は何だ?」


 ダークがファウに今いる場所の事を尋ねるとファウはサクリファイスを構えながら広場を見回した。


「此処は皇帝陛下が演説などを行う時に町の住民達が集まる場所です。陛下は皇城のバルコニーからこの広場を見下ろしながら演説し、住民達は此処で陛下の話を聞くんです」

「住民に演説を聞かせる場所か、どおりでこんなに広いわけだ」


 ファウの話を聞いたダークは広場の大きさに納得する。同時に高い所から住民を見下ろして演説を行う皇帝カーシャルドの傲慢さを理解するのだった。


「ダーク陛下、あそこから広場を出る事ができます。広場を出れば皇城の入口は目の前です」


 カーシャルドの性格にダークが呆れているとファウは遠くに見えるもう一つの出入口を指差す。広場を出ればすぐに皇城に突入する事ができると知り、ダークは視線を遠くの出入口に向け、アリシアは目を僅かに鋭くした。


「あの先に皇城の入口があるのか……」

「どうする、ダーク。皇城入口前には大勢の帝国兵が待ち構えているはずだ」

「ああ、間違いないだろうな。だが、だからと言って何もせずに此処でジッとしていては何も変わらない」

「なら……」

「予定通り、このまま突っ込む!」


 ザルバーンとベイガードの部隊を待つ事なく皇城に突入すると言うダークの答えにアリシアはやっぱりな、と言いたそうに苦笑いを浮かべる。ファウもダークの力なら入口前の護りも難なく突破できると思っているのか反対する事無く黙ってダークを見ていた。

 ダークは大剣を強く握りながらもう一つの出入口に向かって走り出し、アリシアとファウ、青銅騎士達もそれに続いて走り出した。すると、ダーク達が目指しているもう一つの出入口の扉が開き、それを見たダークは立ち止まり、後ろにいるアリシア達も止める。

 突然開いた扉をダーク達は警戒しながら見つめる。扉が完全に開くと大勢の帝国兵と帝国騎士が二列に並んで広場に入って来た。隊列を崩す事なく全員が綺麗に並んで歩いている。

 広場に入った帝国兵達は左右に分かれ、広場の端まで移動すると立ち止まり、横一列に並んでダーク達の方を向く。そして帝国兵達が全員入ると、最後に他の帝国兵や帝国騎士と雰囲気が違う騎士が一人入って来た。


「何だ、あの騎士は?」


 ダークは明らかに普通の帝国騎士ではない騎士をジッと見つめる。すると、ダークの隣で騎士を見ていたファウが大きく目を見開いた。


「あれは、ヴァルハム・オラルトン殿!」

「知っているのか?」


 アリシアは騎士の名を口にしたファウの方を向いて尋ねる。ファウはアリシアの方を向くと表情をそのままに頷いた。


「ハイ、帝国の上位貴族の一人であり、帝国でも一二を争うほどの実力を持った騎士です。そして、今回の戦争で帝国軍の総指揮官を任されている方です」


 現れた騎士が帝国軍の総指揮官であると聞かされ、アリシアは意外そうな表情を浮かべる。ダークもオラルトンの方を見ているが、ファウの話はちゃんと聞いていた。


「過去に起きた戦争でも指揮官を務め、帝国軍を勝利へと導いた実績を持ち、皇帝陛下からも信頼されている人です。あと、英雄級の実力を持っているとか……」

「ほほぉ、英雄級の実力者か」


 敵の総指揮官が英雄級の実力者であると聞いたダークは楽しそうな声を出しながらオラルトンを見つめた。

 オラルトンはダーク達に見られても表情を変える事なく歩き続け、一人でダーク達に近づいて行く。並んでいる帝国兵達は連合軍に近づいて行くオラルトンを止めようとせずに黙って彼を見ている。やがてオラルトンはダーク達の十数m手前まで近づくとゆっくりと立ち止まった。


「私はデカンテス帝国軍総指揮官のヴァルハム・オラルトンである! 貴公等の中に連合軍の指揮官殿はおられるか? おられるのなら前に出てきてほしい!」


 いきなり連合軍の指揮官に前に出て来いと言ってくるオラルトンにファウは意外そうな表情を浮かべ、アリシアは目を鋭くした。敵の総指揮官は一体何を考えているのか、二人は黙ってオラルトンを見つめている。

 指揮官に用があるオラルトンを見たダークはゆっくりとオラルトンの方に歩き出す。ファウは前に出るダークを見て驚き、呼び止めようとしたがアリシアが素早く腕をファウの前に出して止めた。

 ダークはオラルトンの2m手前まで移動するとオラルトンをジッと見つめ、オラルトンも目の前に立つ長身の騎士の顔を見た。


「私が連合軍の総指揮官、ダーク・ビフレストだ」

「ダーク・ビフレスト……もしや、ビフレスト王国の国王であるダーク陛下か?」

「いかにも」

「失礼した。交戦国とは言え、一国の王にあのような大きな態度を取ってしまい……」

「構わないさ……それでヴァルハム・オラルトン、私に何の用だ? まさか帝国軍が我々に降伏する事を伝えに来たのか?」


 オラルトンを見ながらダークは冗談交じりな質問をする。するとオラルトンは首を軽く横に振った。


「残念だがそれは違う。我々帝国軍は連合軍に対して徹底抗戦を行う事を決定しました」

「フッ、そうか」


 自分が予想していた答えを口にしたオラルトンを見てダークは小さく笑う。帝国至上主義者のカーシャルドが降伏する道を選ぶなどダークは最初から考えてなかった。


「では、何の為に私を呼んだ?」


 改めて何の用があるのだダークは低い声で尋ねる。するとオラルトンは自分の腰に納めてある騎士剣をゆっくりと抜く。その騎士剣は青い水晶の様な両刃の刀身をしており、女性なら見惚れてしまう様な美しい物だった。

 いきなり騎士剣を抜いたオラルトンを見てファウは咄嗟にサクリファイスを構える。だがアリシアは再び腕を前に出してファウを止め、彼女の方を向いて落ち着け、と目で伝える。アリシアの目を見たファウはアリシアの意思を感じ取り、少し納得のいかない表情を浮かべながらサクリファイスを下ろした。

 ダークは目の前で騎士剣を抜いたオラルトンを黙って見つめており、ダークを見ながらオラルトンは騎士剣で中段構えを取った。


「ダーク陛下、私と一対一で勝負していただきたい」


 オラルトンの口から出た意外な言葉にアリシアとファウは少し驚いた表情を浮かべる。遠くで待機している帝国兵、帝国騎士達は真剣な表情を浮かべながら黙ってオラルトンを見つめていた。


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