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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十四章~帝滅の王国軍~
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第百八十五話  夜襲


 風の音が微かに聞こえる真っ暗な夜、星は見えず、月も雲に隠れているせいで少ししかその姿を確認する事ができない状態にある。僅かに不気味さが感じられる闇夜だった。

 そんな闇夜の中に城塞都市と呼ばれるメタンガイルの町があった。門や城壁の上では町の周囲を見張る帝国兵達の姿があり、彼等が使う篝火の灯りが帝国兵達を照らされている。街でも建物の窓から漏れている明かりなどで街道や広場などが明るくなっており、賑やかな街の中では町の住民や見張りの帝国兵達が歩いている姿があった。

 メタンガイルの町の中心にある帝国軍の本部、その一室にゼルバム、カルディヌ、数人の騎士がの姿あり、全員が真剣な表情を浮かべながら机を囲んで座っている。部屋の中は街の賑やかさとは違って何処か緊迫した様な空気が漂っていた。


「一体どういう事だ!」

「分かりません。以前と変わらず、連合軍が帝都を目指して進軍を続けています」


 机を叩き、僅かに力の入った声を出してゼルバムは騎士の一人に尋ね、騎士はゼルバムの方を向くと目を閉じて首を横に振りながら質問に答えた。


「クソッ! ダークが死んだのになぜ奴等は降伏しない!?」


 連合軍が帝都ゼルドリックを目指して進軍している事に対してゼルバムは表情を険しくしながら苛立ちの籠った声を出す。カルディヌも腕を組みながら真剣な表情のままゼルバムを見つめている。

 ゼルバム達が話しているのは現在の連合軍との戦況についてだ。連合軍の総指揮官であるダークが死んだ事を連合軍に伝えて士気を低下させ、降伏させようとゼルバム達は考えていたのだが、ゼルバム達の予想とは裏腹に帝国領内にいる連合軍は降伏せず、今までと同じように帝都ゼルドリックを目指して進軍を続けた。

 連合軍が降伏を拒否し、進軍を続けるという報告を聞かされたゼルバムやカルディヌ達は酷く驚いた。しかも進軍してきた連合軍と接触し、交戦した帝国軍の部隊は全て敗れているのでゼルバム達は更に衝撃を受ける。現在はその進軍する連合軍をどう対処するか、そしてなぜ連合軍が降伏しなかったのかを話し合う為に集まっているのだ。


「予想が外れましたね、お兄様。まさか総指揮官であるダーク陛下が亡くなっても進軍を続けるとは……彼等は一体何を考えているのでしょう?」

「それは考える為にこうして集まっているのだろう!」


 ゼルバムはカルディヌを睨みながら声を上げ、カルディヌはそんなゼルバムを見て小さく息を吐く。降伏しない連合軍に対して苛立つゼルバムの八つ当たりにカルディヌは呆れていた。


「……降伏を要求した時、各地の連合軍は何と返事をしたんだ?」


 カルディヌに八つ当たりして少し落ち着いたのかゼルバムは声の力を少し抜いて騎士に尋ねる。連合軍が自分達の総指揮官が死んだと聞かされたにもかかわらず、なぜ降伏しなかったのかゼルバムは連合軍が要求に対して何と答えたのか気になっていた。

 声を掛けられた騎士は目の前にある一枚の羊皮紙を手に取る。そこには各地で連合軍と交戦した帝国軍の現状や連合軍の情報などが書かれてあった。


「どこの連合軍もダーク陛下の遺志を継いで我々と戦い続けると答えたそうです」

「確かなのか?」

「ハイ、降伏を要求した部隊の生き残りからの情報ですので、間違いないでしょう」


 騎士の話を聞いたゼルバムは気に入らなそうに舌打ちをする。同時に騎士の話から降伏を要求した帝国軍の部隊は壊滅した事を知った。


「降伏を要求するだけだからと言って少数の部隊を送り込んだのが裏目に出たな。こんな事なら最低でも一万の部隊を送るべきだった」


 連合軍に接触させる部隊の編成を間違えた事にカルディヌは悔しそうな表情を浮かべる。騎士達も同じような表情を浮かべながらカルディヌを見て頷く。だがゼルバムはカルディヌ達以上に悔しそうな顔をしていた。


「死んだ奴の遺志を受け継ぐだと? そんな無意味な事をせずに大人しく降伏すればいいものを!」

「ゼルバム殿下、死者の遺志を受け継ぐ事は決して無意味な事では……」


 騎士がゼルバムの発言を否定する様に話しかける。そんな騎士をゼルバムは仇を見る様な鋭い目で睨む。

 ゼルバムに睨まれた騎士は寒気を感じて口を閉じる。これ以上何かを言えば自分がどうなるか分からない、そう自分に言い聞かせて騎士は黙り込んだ。


「……それで? 我が軍は今後どう動くつもりなのだ?」


 騎士が黙るとゼルバムはもう一人の騎士に今後の活動について尋ねる。話しかけられた騎士は慌てた様子で羊皮紙を取り、そこに書かれたある内容を確認した。


「ほ、北部と南部の連合軍は経路を変える事なく帝都に向かって進軍しています。防衛部隊は戦力を集めて進軍して来る連合軍を迎え撃つとの事です」

「私達がいる中部の連合軍はどうなっている?」


 カルディヌが中部を進軍する連合軍について尋ねる。ゼルバムはカルディヌの質問を聞くと僅かに表情を変える。ゼルバムは中部の連合軍がベトムシア砦を出て進軍しているという情報は聞いていないので、何か新しい情報が入っているのなら是非聞いておこうと思っていた。

 なぜなら、もし中部の連合軍が進軍すれば、次に彼等が辿り着くのは自分達がいるこのメタンガイルの町だからだ。


「ハイ、昨日ベトムシア砦に偵察に向かって者の話では連合軍は動かずに砦に留まっていたとの事です」

「彼等には降伏を要求したのか?」

「いいえ、まだです。現在ベトムシア砦に向かわせる部隊を編成している最中で、編成が終わり次第、彼等に行かせるつもりです」

「……その部隊、編成し直した方がいいかもしれないな」


 目を鋭くしながらカルディヌは自分の顎に手を当てた。


「北部と南部の連合軍は降伏を拒否した。となれば中部の部隊も降伏を拒否する可能性が高い……」

「た、確かに……」

「他の二つと同じように少数の部隊に向かわせたら戦闘になった時に一瞬で全滅させられてしまう。戦闘になっても勝てるよう、大規模な部隊を向かわせた方がいい」


 これまでの情報からカルディヌは中部の連合軍に勝てるよう強力な部隊を編成する事を勧める。騎士達もカルディヌの考えは正しいと感じ、真剣な表情を浮かべた。ゼルバムは敵の動きや戦いの事を計算するカルディヌを見てほほぉ、という表情を浮かべている。


「分かりました、すぐに新しい部隊を編成させてベトムシア砦に……」


 騎士が喋っていると突然一人の帝国兵が部屋に飛び込む様に入って来た。驚いたゼルバム達は話し合いをやめて一斉に扉の方を向く。


「何事だ、騒がしいぞ?」

「も、申し訳ありません! 大至急お伝えしなければならない事が!」


 謝る帝国兵の態度を見たゼルバム達は何かあったとすぐに気付く。それも自分達のとって都合の悪い内容だと感じていた。

 部屋に飛び込んで来た帝国兵は少し落ち着いたのか呼吸を整えてゼルバム達の方を向く。だがそれでもまだ焦っている様子を見せていた。


「ほ、報告します! 町の西側、約3kmの位置に連合軍が現れました!」

「何だとっ!?」


 連合軍が現れた事を聞かされ、騎士の一人が驚きの声を上げながら立ち上がる。ゼルバムやカルディヌ、他の騎士も驚きの表情を浮かべながら兵士の方を見ていた。


「連合軍が現れただと?」

「ハ、ハイ、方角からして、恐らくベトムシア砦を制圧した連合軍だと思われます」


 現れたのはベトムシア砦にいた連合軍だと知ったゼルバムは目を見開く。総指揮官であるダークが死んだのに本当にメタンガイルの町に攻め込んで来た事に衝撃を受けたようだ。

 ゼルバムが驚いている中、騎士達も僅かに焦っている様子でざわつき出す。総指揮官を失った連合軍が攻めて来た事にも驚いているが、自分達が砦に降伏を要求する部隊を送り込む前に攻め込まれた事にも驚いていた。


「それで、敵の戦力はどれほどなのだ?」


 周りが驚いている中、カルディヌだけは落ち着いて報告に来た帝国兵に尋ねる。やはりデカンテス帝国の精鋭部隊の隊長だけあってこういう状況には慣れているのか、驚いてもすぐに気持ちの切り替えて状況確認を行えるようだ。


「申し訳ありません。この闇夜である為、正確な戦力は確認できておりません。ただ、一万以上の戦力はあると思われます」

「そうか……」


 顎に手を上げながらカルディヌは難しい顔で俯く。冷静に状況を確認するカルディヌの言葉を聞いて驚いていたゼルバム達も落ち着きを取り戻してカルディヌの方を向く。


「カルディヌ殿下、連合軍はこの町を制圧する為にやって来たのでしょうか?」

「敵は普段よりも視界が悪いこの闇夜に夜襲を仕掛けてきているのだ、それしか考えられないだろう。しかも状況からして敵は間違いなく我々の降伏しろという要求を拒否するだろう」

「確かに、夜襲を仕掛けてきておいて降伏する愚か者はいないでしょうな」


 カルディヌの話に騎士の一人が同意する。他の騎士達もこれから戦いが始まると感じて表情を鋭くしていた。ゼルバムは連合軍は絶対に降伏しないという話を聞いて気に入らなそうな表情を浮かべている。


「町の状況などうなっている?」

「ハッ、連合軍を確認した直後に町には避難指令を出しました。もう住民達の避難が完了する頃だと思います」

「よし、住民の避難が完了すればこちらも安心して戦える。こちらも急いで戦闘準備に入れ」

「ハ、ハイ!」


 帝国兵はカルディヌの命令を聞いて緊張した様な表情を浮かべながら返事をする。帝国皇女であり、紅戦乙女隊の隊長であるカルディヌの迫力に驚いたのだろう。

 騎士達も勇ましい姿を見せるカルディヌを見て士気が高まったのか表情から先程まで見せていた驚きは完全に消えていた。ただ一人、ゼルバムだけは目立つカルディヌを見て先程と同じように気に入らなそうな顔をしている。


「戦力の配置はどうされますか?」

「東門の守備部隊以外で動かせる戦力は西門に集結させろ。飛竜団にもいつでも出撃できるように伝えておけ。それと、私の部隊にもな」

「ハッ!」


 指示を聞いた帝国兵は素早く部屋を後にし、メタンガイルの町にいる帝国軍の戦力に指示を伝えに向かう。連合軍が現れた事を知らせに来た時とは違い、落ち着いて様子で走って行った。


「殿下、開戦したらどのように迎え撃ちますか?」


 騎士の一人がカルディヌに連合軍とどう戦うかを尋ねる。カルディヌはメタンガイルの町にいる帝国軍の指揮官ではないのだが、皇女であり精鋭部隊の隊長である彼女の意見は参考になると騎士は考えて意見を聞いたようだ。


「敵は間違いなく西門から攻めて来るはずだ。我々は敵の様子を窺いながら迎え撃ち、敵の戦力を削っていく。ある程度敵の戦力を削ぐ事ができたら飛竜団を使って空から攻撃を仕掛ける」

「なぜ戦力を削いでから飛竜団を投入するのです? 最初から彼等を使えば短時間で敵を倒せると思いますが……」

「敵の戦力や編成が分からない以上、迂闊に貴重な飛竜団を出すわけにはいかない。アルマティン大平原での戦いで確認された飛行モンスターなどがいるかもしれないからな、飛竜団にとって脅威と言えるものが無い事を確認してから飛竜団を動かす」

「な、成る程……」


 カルディヌの話を聞いて騎士は納得の表情を浮かべる。


「その心配ないと思うぞ?」


 騎士とカルディヌが話していると黙っていたゼルバムが椅子にもたれながらカルディヌの声をかけてくる。ゼルバムの言葉にカルディヌ達は一斉に視線をゼルバムに向けた。


「なぜそう思うのですか、お兄様?」

「兵士の話では現れたのはベトムシア砦にいた連合軍なのだろう? 俺はあの砦での戦いで奴等の戦力を確認している。奴等の戦力には飛行モンスターも岩の巨人も蜘蛛のモンスターもいなかった。飛竜団を落とせるような奴はいないと俺は思っている」


 ゼルバムはベトムシア砦で戦った連合軍の中に飛竜団の脅威と言える存在はいない事を話す。ゼルバムの話を聞いた騎士達は直接連合軍と戦ったゼルバムが言うのなら間違いないかもしれないと考える。

 だが、騎士達がゼルバムの言うとおりかもと考える中でカルディヌだけはゼルバムの考えを否定するかの様に鋭い目でゼルバムを見ていた。


「お兄様、それは考え難いと思います。お兄様が砦からこの町に戻った日から今日までの間に連合軍が戦力を補充していた可能性もあります。もしかすると、お兄様が戦った時とは編成が違っているかもしれません」

「ぐっ……た、確かにそれも考えれるが、補充していない可能性だってあるだろう?」

「間違いなく補充していない、と保証できますか?」


 僅かに低い声で話すカルディヌにゼルバムは何も言えずに黙り込む。ゼルバムは敵を過小評価する悪い癖があり、それは戦争では致命的な欠点である。カルディヌはベトムシア砦での戦いもそんなゼルバムの敵を見下す悪癖のせいで負けたのだと考えており、メタンガイルの町での戦いでも敵を過小評価しようとするゼルバムに少し気分を悪くしていた。


「敵の力が自分達よりも高いと警戒して戦うのは常識です。信用性の欠ける情報だけで敵の戦力を分析し、敵が自分達よりも弱いと油断していると痛い目に遭います。お兄様も経験しているはずでは?」

「ぐ、ぐううぅ……」


 またしても妹の言葉に反論できず、ゼルバムは拳を強く握りながらカルディヌを睨む。騎士達は緊迫した空気の中、睨み合うゼルバムとカルディヌを見て僅かに怯えた様子を見せていた。

 ゼルバムが何も言わなくなるとカルディヌは視線を騎士達の方に向ける。その目はゼルバムと会話していた時と違って鋭さが無くなっていた。


「冒険者達にも戦いの準備をするように指示を出す。お前達も自分の部隊に戻って戦いの準備をしろ」

『ハッ!』


 騎士達は声を揃えて返事をすると一斉に部屋を後にした。既に連合軍が現れている為、騎士達は早足で移動する。

 部屋にはゼルバムとカルディヌだけが残っており、カルディヌは不機嫌そうな顔をするゼルバムの方を向くと口を動かした。


「お兄様、お兄様には私の部隊と共に行動していただきますが、よろしいですか?」

「……ああ、勝手にしろ」


 カルディヌと目を合わさずにゼルバムは低い声で答える。いつもなら前線に出て活躍するというのだが、カルディヌに言い負かされて不機嫌になっているせいか前線に出るとは言わなかった。

 機嫌を悪くするゼルバムをカルディヌは黙って見つめている。彼女がゼルバムを自分の部隊と共に行動させる理由、それは敵を過小評価するゼルバムが前線に出れば必ず隙を作って連合軍に押されると考えたからだ。

 戦況を不利にする原因を作るゼルバムを前線に出すくらいなら自分の手元に置いて見張っておいた方がいいとカルディヌは思ってゼルバムを同行させる事にしたのだ。だから、例えゼルバムが前線に出ると言ったとしてもカルディヌはそれに反対して前線に出すような事はしなかっただろう。

 話が済むとゼルバムとカルディヌも部屋を出て戦いの準備に向かった。


――――――


 メタンガイルの町から西にある平原では連合軍が陣を組んでいた。青銅騎士達を先頭に白銀騎士、黄金騎士、巨漢騎士の順に並んでメタンガイルの町を見つめている。騎士達は全員、無駄な動きなどをせずにじっとしていた。

 陣を組む騎士達の後ろではダークとアリシア、少年姿のノワールにマインゴ、そしてファウが横一列に並んでメタンガイルの町にいる帝国軍の様子を窺っている。望遠鏡で西門の見張り台、城壁の上にいる帝国兵や帝国騎士の人数や動きを細かくチェックした。


「流石に帝国でも帝都に次ぐ防衛力を持っているというだけあって、護りは堅そうだな」

「ええ、門と城壁は堅くて分厚く、最上級魔法でも攻撃力の高い魔法でしか破壊できません」

「確かにあれを突破して町の中に侵入するのは難しいだろうな……まぁ、こちらにはダークとノワールがいるから問題無いだろう」

「え?」


 望遠鏡を覗くのをやめてアリシアは真剣な表情を浮かべながら呟き、ファウはアリシアの言葉を聞いて小さく驚くながらアリシアの方を向いた。

 ファウが驚くのも仕方がないかもしれない。先程のアリシアの発言はダークとノワールがいれば強固な護りを持つメタンガイルの町を攻略できると言っている様に聞こえたのだから。


「あの、アリシア軍団長、ダーク陛下とノワールさんがいれば問題無いというのはどういう事ですか?」

「すぐに分かるさ」


 アリシアの言っている事の意味が分からずにファウは小首を傾げる。そんなファウの反応を見てノワールは小さく笑うのだった。


「それにしても、本当にゼルバムはまだあの町にいるのか?」

「可能性は高いな」


 メタンガイルの町にゼルバムがいるのかと考えるアリシアにダークは声を掛ける。アリシアやノワール達はダークの言葉を聞いて彼の視線を向けた。


「ゼルバムの性格なら連合軍の総指揮官、つまり私がいないという帝国軍の有利な状態で後退するなんて事はしないだろう。寧ろ連合軍を押し返して功績を上げ、自分の立場をよくしようと考えるはずだ」

「確かに、あの性格ならやるでしょうね……」


 目的の為なら仲間すら犠牲にすると言う冷徹な性格を持つゼルバムならやるに違いない、ファウは少し呆れた様な顔でそう考えた。

 昔のファウなら皇子であるゼルバムはそんな事はしないだろうと言っていたかもしれないが、そのゼルバムに見捨てられ、使い捨てにされそうになった今のファウなら迷わずに言う事ができた。


「ファウ、ゼルバムはあの町の何処にいると思う?」


 ダークはファウにゼルバムの居場所について尋ねるとファウは真剣な表情を浮かべながら町の方を向く。


「恐らく町の中心にある砦の様な建物だと思います。あそこはメタンガイルの町に駐留している帝国軍が本部として使っていた場所ですし、作戦会議とかもそこでやってましたから」

「そうか、なら町に突入したらそこを目指して進軍するとしよう。あと、念の為に東門を制圧してゼルバムが逃げられないようにしておかなくてはな」

「それがいいな」


 前回と同じようにゼルバムに逃げられないようにする為にダークは帝国軍がメタンガイルの町から脱出する時に使うと思われる東門の制圧を考え、アリシアもダークの考えに賛成する。

 別にゼルバムに逃げられてもダーク達に都合の悪い事は無いのだが、何度もゼルバムの相手をするのも面倒なので今回の戦いで決着を付けようとダークは思っていたのだ。


「ダーク陛下、町に突入した後にどう行動するのかは分かりましたが、その前にどうやって町に突入するんですか?」


 ファウは町に突入する前に目の前にあるメタンガイルの町の門と城壁をどのように突破するのかをダークに尋ねる。いくら突入後の作戦を考えたとしても町に入る事ができなければ何の意味も無かった。


「別に難しい作戦ではない。まずノワールの魔法で門を破壊し、私とアリシアで見張り台、城壁の上にいる敵を一掃する」

「え、門を破壊して、敵を一掃?」


 ダークの説明を聞いたファウは思わず瞬きする。最上級魔法でしか壊す事ができない門をノワールが壊し、城壁の上にいる帝国兵達をダークとアリシアの二人だけで倒すと聞いたのだから驚くのは当たり前だった。

 ファウはダーク達が英雄級の実力を持っている事は知っている。だがそんなダーク達でも門を破壊し、大勢の敵を全て倒すのは無理だろうと感じていた。普通の人間ならそう感じるのが普通な事だからだ。


「い、いくらダーク陛下達でもそれは不可能だと思います。門を破壊し、城壁の上の敵をたった二人で倒すなんて英雄級の実力者でも不可能ですよ」

「ああ、確かに不可能だ……英雄級の実力者ではな」

「……は?」


 再びダークは理解できない事を口にし、ファウは声を漏らす。


「まぁ、話を聞くよりも目で見た方が早い。お前は私達が仕事を終えるまでマインゴと共に待機していろ」

「ハ、ハイ……」

「門を破壊し、城壁の敵を粗方片づけたらノワールのゲートを使って彼等を門の前に呼び出し町へ突入する。ファウ、お前にはマインゴと共に彼等を率いて町の制圧をしてもらう」

「……分かりました」


 ファウはダークからメタンガイルの町の制圧任務を任されると真剣な表情で返事をする。マインゴもニヤリと笑いながらダークの方を見ていた。

 それからダーク達はメタンガイルの町を制圧する為に流れなどを簡単に確認し、全ての確認が終わると戦いの準備の移った。

 連合軍が帝国軍に発見されてから一時間、両軍は動く事無く遠くにいる敵と睨み合っていた。西門には既に大勢の帝国兵や帝国騎士、魔法使いが集まっており、武器を握りながら連合軍を警戒している。

 西門前の広場にも大勢の帝国兵、帝国騎士、そしてメタンガイルの町にいた冒険者が集まっていた。西門を護る帝国兵達は誰一人敵に城壁を突破されるとは思っていないが、何か遭った時の為に広場に戦力を待機させておいたのだ。


「……連合軍の奴等、動かねぇな?」

「ああ、いつになったら攻めて来るんだ」


 西門の見張り台の上にいる二人の帝国騎士が連合軍を警戒しながら話し合う。周りにいる帝国兵達も剣や槍を握り、連合軍はいつ攻撃を仕掛けて来るのか気にしながら見張っている。


「もしかすると、今夜は攻撃して来ないんじゃないのか?」

「それはあり得ないだろう。今夜は月が殆ど見えない闇夜だ、夜襲を仕掛けるにはもってこいの状況なのに何もしないなんて考えられない」

「確かに……」

「まあ、俺達にこうして守りを固められた時点で夜襲は確実に失敗だろうけどな」

「それもどうだな、ハハハハハッ」


 二人の帝国騎士は連合軍の失敗を笑い、周りにいる帝国兵達もつられるように笑う。護りが万全な状態で夜襲を仕掛けられても自分達は負けない、帝国騎士達は余裕の態度を見せていた。


「……おい、何だありゃ?」


 見張り台の上にいる者達が笑っていると、連合軍の方を見ていた一人の帝国兵が何かに気付いて表情を変える。帝国兵の声を聞いた帝国騎士達も笑うのをやめて帝国兵が見ている方に視線を向けた。すると、帝国騎士達の視界にもの凄い勢いで飛んで来るノワールとアリシアを抱きかかえながら跳んで来るダークの姿が飛び込んでくる。


「何だ、アイツ等?」

「騎士が二人に子供が一人、敵なのか?」

「連合軍の陣地から向かって来たんだから間違いないだろう」

「どうする? 迎撃するか?」

「ああ、何を考えて三人だけで突っ込んで来たかは知らねぇが、敵である事は確実なんだからな。それに、三人だけで向かってくるなんて、俺達をナメているとしか考えられねぇ。その事を後悔させるという意味でも此処で殺しておこう」


 帝国騎士の一人が手を上げて見張り台と城壁の上にいる弓兵に合図を送る。合図を確認した弓兵達は弓矢を構えて向かってくるダーク達に狙いを付けた。

 弓兵達はダーク達を狙いながら帝国騎士の矢を放つ合図を待つ。帝国騎士も手を上げながらダーク達が矢の射程に入るのを待っている。やがてダーク達は見張り台と城壁の篝火の灯りでも姿を確認できる所まで近づいて来た。それを見て帝国騎士は目を大きく見開く。


「射程に入った。全員、放――」

次元斬撃ディメンジョンスラッシュ!」


 帝国騎士が弓兵に合図を出そうとした瞬間、飛んでいるノワールが先に魔法を発動させた。ノワールは右手で手刀を作り、門に向かって素早く手を振りバツを描く。すると門は大きくバツに切られ、大きな音を立てながら崩れる様に壊れた。

 見張り台と城壁の上、西門前の広場にいた帝国兵達は驚愕の表情を浮かべながら固まっている。最上級魔法でないと破壊できない強固な門が破壊されたのだから当然だ。

 確かにメタンガイルの町の門や城壁は最上級魔法でないと破壊できない。だが、レベル94のノワールの魔法攻撃力は高く、力の加減次第で下級魔法も相当の攻撃力となるのだ。上級魔法である次元斬撃ディメンジョンスラッシュも力を上手く使えば最上級魔法と同じくらいの攻撃力になる。つまり、ノワールは力を込めて次元斬撃ディメンジョンスラッシュを発動した為、攻撃力が最上級魔法と同等となり、メタンガイルの町の門を破壊する事ができたのだ。

 ノワールは門を破壊すると門の前で停止し、宙に浮いたまま門の向こう側にいる帝国兵達を見つめる。そしてダークもアリシアと共に高くジャンプし、西門の上にある見張り台の上に着地した。

 突然見張り台の上に下りて来たダークとアリシアに帝国騎士と帝国兵達は驚き、慌てて武器を構え二人を取り囲もうとした。だがその前にダークは背負っている大剣を抜き、アリシアを抱きかかえたままもの凄い速さで大剣を横に振り一回転する。

 回転が終わるとダークはアリシアを離して大剣を軽く振った。その瞬間、ダークとアリシアの周りにいた帝国兵、帝国騎士は全員胴体を両断されて一斉に倒れる。見張り台の生き残りや左右にある城壁の上の帝国兵達は見張り台の仲間達が一瞬で倒された光景を見て固まった。


「さて、私達もさっさと見張り台と城壁の上にいる敵を片付けるとしよう」

「ああ、急いでファウ達が突入できるようにしないとな」


 ダークは見張り台の右側を向いて大剣を構え、アリシアはダークに背を向ける様に左側を向いてフレイヤを抜いて構える。見張り台にいる数人の帝国兵達はダークとアリシアが構える姿を見て大量の汗を流した。


「怯えてる暇があるなら掛かって来い。何もせずに切られるよりは、抵抗して切られた方がマシだろう?」


 怯える帝国兵を見ながらダークは目を赤く光らせる。その直後、ダークとアリシアは地を蹴って帝国兵達に向かって行った。


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