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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十四章~帝滅の王国軍~
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第百七十二話  帝国進攻会議


 日が沈み、空では無数の星が輝いている。その下に広がるアルマティン大平原の西側には連合軍の砦があり、砦を囲む城壁の周りにはストーンタンタンや砲撃蜘蛛、青銅騎士に下級モンスター達、つまりビフレスト王国軍が敵の襲撃に備えて警備をしていた。帝国軍に勝利したとは言え、いつ敵が攻撃を仕掛けて来るか分からないので戦いの直後でも警戒しておく必要があるのだ。

 城壁の中にある広場ではセルメティア王国軍とエルギス教国軍の兵士達が無数の木製の机を囲んで食事をしたり、酒を飲んだりしている姿がある。様子からして帝国軍との戦いに勝利した事への宴をしているみたいだ。

 だが、両軍の兵士、騎士、魔法使い達は勝利の宴をしていると言うのに楽しそうな雰囲気ではなかった。中には楽しそうにしている者もいるが、多くの兵士達は静かに飲食をしている。彼等が宴を素直に楽しめない理由、それは数時間前に起きていた帝国軍との戦いにあった。

 連合軍はビフレスト王国軍のモンスター達の力を借りて帝国軍に圧勝した。だがセルメティア王国軍とエルギス教国軍の兵士達は強大な力を持つモンスター達が一方的に帝国軍を攻撃する光景を目にし、敵である帝国軍にほんの少しだが同情していたのだ。そして戦いと言えるのか分からない一方的に戦いを素直に喜んでいいのかという複雑な気持ちから宴を楽しむ事ができなかった。

 しかし、ビフレスト王国軍のモンスターのおかげで連合軍側には殆ど被害が出ておらず、下級モンスターが数体倒されたり、セルメティア王国軍とエルギス教国軍の兵士達に負傷者が出たくらいで済んだ。一方的な戦いだったにせよ、連合軍側はモンスターを失っただけで人間は誰一人死んではいない最高の結果で勝利できたと前向きに考える兵士達もいる。宴を楽しんでいるのはそんな考えを持つ兵士達だった。

 そんな前向きに考える兵士達に影響されて少しずつ宴を楽しもうとする兵士達が出て来ているが、それでもまだ静かに飲食する兵士の方が多かった。

 兵士達が広場で宴を行っている間、砦の中ではダーク達、連合軍を指揮する者達が集まって今後について話し合いをしていた。

 ビフレスト王国からは連合軍の総指揮官であるダークと側近のアリシア、ノワールが参加し、セルメティア王国からはセルメティア王国軍の指揮官であるザルバーンと三人の部隊長と思われる騎士、そしてエルギス教国からは指揮官のベイガード、部隊長を務めるテンプルナイト二人と魔法使いの女が参加している。一同は大きな長方形の机を取り囲んでいた。

 机の上にはデカンテス帝国の領土全体が描かれた地図があり、その周りには領土の一部を拡大したものが描かれた地図が置かれてある。そして地図の上には連合軍と帝国軍を表す青と赤の駒が置かれてあった。


「今回の戦いで我々は帝国軍の先遣部隊十万の内の約八割を撃破し、敵に大きな損害を与えました。あれだけの損害を与えたのでビフレスト王国に再度侵攻して来るのは当分先になるでしょう」

「そうか、ならこちらは敵が侵攻する前に帝国領に向かって進軍するとしよう。そうすれば敵もこちらの進軍を阻止する為に防衛に力を入れるはずだ」


 ベイガードの話を聞いたダークはデカンテス帝国領に進軍する事を決め、アリシアやベイガード達も異議は無いのか無言でダークを見つめながら頷く。

 デカンテス帝国領内に攻め込めば帝国軍は進軍して来た連合軍を迎え撃つ為に戦力を防御に傾ける。つまり、敵国に攻め込む事で帝国軍がビフレスト王国領に侵攻する事を防ぐ事もできるという事だ。


「攻撃は最大の防御、とはよく言ったものだ」


 敵に攻撃を仕掛ける事で自分達の身を守る事ができるという手段にダークは小さく笑いながら呟く。ノワールはそんなダークを見て同感です、と言いたいのかうんうんと頷いていた。アリシアは聞きなれない言葉を耳にし、それを口にしたダークを不思議そうな顔で見ている。


「しかし、あの時の帝国軍は十万の兵力だったとは……間違いなのか?」


 ザルバーンは帝国軍の先遣部隊の戦力を聞き、ベイガードの方を見て尋ねる。ベイガードはザルバーンの方を見ると真剣な表情を浮かべて頷いた。


「ハイ、間違いありません。帝国軍のテント内にあった書類などに詳しく書かれてありましたので……」

「成る程、敵の重要書類に書かれてある事なら信用しても大丈夫だろうな」


 敵軍が使っていたテントから手に入れた情報なら信じても大丈夫だとザルバーンは納得の反応を見せる。ダーク達も同じように納得した反応を見せながらベイガードを見ていた。

 それからベイガードは帝国軍のテント内で見つけた重要書類などをダーク達に見せ、ダーク達はそこに書かてある帝国軍の戦力、防衛拠点にしている場所、ビフレスト王国に侵攻した後にどう行動する予定なのかなどを知った。


「……敵は先遣部隊がビフレスト王国領に進軍した後に更に大部隊を送り込んで一気に首都まで制圧するつもりだったようだな」


 ダークは重要書類の一枚を見ながら低い声で呟く。それを聞いたベイガードはダークの方を見ながら小さく頷いた。


「ええ、しかもその増援部隊の戦力は先遣部隊の倍である二十万のようです」

「二十万、想像しただけでもゾッとするな……」


 増援部隊の総戦力を聞いたザルバーンは額に手を当てながら表情を歪める。彼の後ろにいるセルメティア王国軍の騎士やエルギス教国軍のテンプルナイト、魔法使いも少し驚いた反応を見せていた。

 重要書類の中には増援部隊の戦力だけでなくビフレスト王国に侵攻した後にどう攻め込むかなども詳しく書かれたある物もあった。どうやらデカンテス帝国はアルマティン大平原での戦いで先遣部隊が必ず勝つと予想していたらしく、ビフレスト王国内に侵攻した後にどうすればいいか詳しく書類に書いて先遣部隊に渡していたようだ。

 ところが、デカンテス帝国の予想は外れて先遣部隊は連合軍に敗北し、重要な情報が書かれた書類は全て敵である連合軍の手に渡ってしまう。帝国にとっては都合の悪い状況になってしまったが、ダーク達にとっては非常に都合の良い事だった。これでより帝国に進軍しやすくなったのだから。


「先遣部隊が壊滅した事で帝国は我々の力を警戒し、作戦を変更するはずだ。増援として送り込む予定だったその二十万の戦力もこれから攻め込んで来る我々の迎撃に回すだろう」


 ダークは持っている重要書類を机の上に軽く投げ捨てながら言った。アリシア達もそう思っているのか全員ダークを見て小さく頷く。

 十万の先遣部隊が今まで弱いと思っていた国の軍隊に負けたのだから、デカンテス帝国も連合軍の力を警戒して作戦を練り直すだろう。ダーク達はその間に帝国領内に進軍して戦況を変えようと考えていた。

 簡単に帝国軍の情報整理をした後、デカンテス帝国の地図を見ながらダーク達は今後どのように進軍するか話し合いを始めた。


「我々の目的は帝国の中心都市である帝都ゼルドリックを陥落させる事です。帝都を落とせば帝国軍も降伏し、我々連合軍の勝利となります」

「ああ、だが帝国軍もそうさせまいと必死に抵抗してくるはずだ」


 ダークが帝国の動きを口にするとアリシア達はダークの方を見て間違いない、と言いたそうな顔をした。

 デカンテス帝国は周辺国家の中でも最大の領土を持つ為、攻略するのにはかなりの戦力が必要になる。ダーク達はそう考えながら帝国が描かれた地図を見つめる。


「帝国軍は帝国領の西側、つまり我々が進軍して来る方角にある町や砦に防衛部隊を配備しています。しかもその戦力は大きく、今の我々の戦力では帝国の拠点を攻略しながら帝都に辿り着くのは難しいでしょうな」

「確かにな。いくらビフレスト王国のモンスター達がいても一万は少なすぎる。それに効率よく進軍する為にこちらは戦力を幾つかに分けなければならないだろうしな……」


 今の連合軍の戦力でデカンテス帝国に進軍するのは無謀だ、ベイガードとザルバーンは難しい顔をしながら話す。

 いくらストーンタイタンや砲撃蜘蛛がいるとしても、一万の戦力を幾つかに分けてしまえば弱くなり戦いが不利になる。しかもビフレスト王国のモンスター以外は全員が普通の人間、負傷したり疲労が溜まれば何時かは動けなくなってしまう。そして動けなくなれば連合軍の戦力も更に低下し、最後には敵国の中で帝国軍に包囲されて全滅する事になる。


「ダーク陛下、帝国領内に進軍するのであればこちらも更に戦力を増やす必要があります。一度、国へ戻って部隊を再編成した方がよろしいのではないでしょうか?」

「私もそうした方が良いと思います。もしお望みであれば我らセルメティア王国で新たに戦力を用意する事もできます」

「我々エルギス教国も同じです」


 帝国領内に進軍するにはもう少し戦力を増強する必要があると考えたザルバーンとベイガードはビフレスト王国軍の再編成をする事を勧めた。もしビフレスト王国軍の戦力が足りなければセルメティア王国とエルギス教国からも新たに増援を用意するとまで言って来ている。二人は最初から今の戦力ではデカンテス帝国とまともに戦えないと思っていたようだ。


「いや、セルメティアとエルギスからの増援は不要だ」


 ダークはセルメティア王国とエルギス教国からの増援は不要だと二人の申し出を断る。ザルバーンとベイガードはダークの答えを聞いて意外そうな反応を見せた。


「し、しかし、現在我々の手元にある戦力で帝国軍を倒しながら進軍するのは……」

「心配するな、我が国は既に帝国へ進軍する為に戦力を用意してある」


 巨大な戦力を持つデカンテス帝国に対抗する手段が小国のビフレスト王国にあるとダークから聞かされ、ベイガードは少し驚いた様な反応を見せた。ザルバーンや他の部隊長達も同じような表情でダークを見ている。

 ダークは戦争前の会談の時、マクルダムとソラに両国からの増援は五千で十分だと言ったのでこれ以上増援を要請するのはダークのプライドが許さなかった。何よりも、セルメティア王国とエルギス教国から戦力を借りなくてもダークは帝国軍と戦う策を用意していたのだ。


「戦力を用意してある……もしかして、あの岩の巨人や巨大な蜘蛛のモンスター以外にも強力なモンスターがまだいる仰るのですか?」

「……少し違うな。確かにモンスターもいる、だがストーンタイタンや砲撃蜘蛛の様な力だけのモンスターではない」

「は?」


 ベイガードはダークの言っている事の意味がいまいち理解できず小首を傾げる。ザルバーンやセルメティア王国とエルギス教国の部隊長達も訳が分からずにダークを黙って見いた。


「詳しい事は明日話す。それよりも、帝国領内の進軍経路について決めておきたい」

「え? あ、ハイ。分かりました……」


 増援の話を終わらせたダークはどのようにしてデカンテス帝国の領内を進軍するかについて話し始める。ダークの話を聞いたザルバーン達はとりあえず納得して再び机の地図に注目した。

 進軍する為の戦力を用意できたとしても、どのように進軍するかで善戦するか苦戦するかが決まって来る。何しろ戦場となるのはデカンテス帝国の領内、地の利では帝国軍の方が有利と言える為、どう進軍するかはしっかりと決めておく必要があった。

 全員がデカンテス帝国の地図を見ているとベイガードが帝国領の西側を指差しながら説明を始めた。


「ます我々はアルマティン大平原を通過し、西部から帝国領内に入ります。その後、アルマティン大平原から最も近くにあるラーナーズの町を制圧し、そこを帝国進攻の拠点とします。その後、部隊三つに分け、北部、中部、南部からそれぞれ東にある帝都ゼルドリックに向かい進軍していくのですが、三つの戦力をどう分けるかで戦いの優劣が変わって来ると思います」

「どういう事ですか?」


 アリシアが尋ねるとベイガードは地図を見つめながら真剣な表情を浮かべながら口を動かす。


「三つの進軍経路に幾つもの町や砦があるのですが、経路によってその数や規模、距離が違ってくるんです……まず北部から進軍する経路には途中に町が二つ、砦が二つあります。街や砦の規模は小さいので攻略し易いのですが、三つの経路の中でも帝都までの距離が最も長いんです。南部にも町と砦が二つずつあり、どちらそれなりに規模が大きいです。ただ、距離は北部と比べると短いです」

「北部は敵拠点の攻略が楽だが帝都までの道のりが長い、南部は帝都までの道のりは短いが途中にある敵拠点の攻略が困難、という訳ですか……」


 ベイガードの言いたい事を理解したアリシアは腕を組みながら低い声を出す。どちらも進軍に時間が掛かると知り、アリシアだけでなくザルバーン達も難しい顔をして地図を見ている。


「そして中部からの経路ですが、三つの経路の中で最も帝都までの距離が短く上手くすれば短時間で帝都に辿り着けます。しかし、その途中にある敵拠点が少々厄介なのです」

「厄介、とは?」

「中部の経路には砦が二つ、そして町が一つあり、町は二つの砦の丁度中心にあるんです。二つの砦は大した事は無いのですが、中心にある町はメタンガイルと呼ばれる城塞都市でその防衛力は帝都に次ぐと言われています。しかも町の規模も大きく、かなりの戦力が配置されており、二つの砦はその城塞都市から補給を受けていると入手した書類にも書かれてありました」

「……距離が最短な分、攻略が最も難しい経路か。しかもその途中にある町は帝都に次ぐ防衛力を持つ町、確かに厄介だな」


 中部攻略の難しさを聞かされたアリシアは目を鋭くしながら手を顎に当てる。ザルバーン達も難しい顔をして黙り込む。ノワールも僅かに目を細くしながら話を聞いていた。

 帝都までの最短経路に大きな戦力を配置し、守りを堅くするのは当然の事だ。他の二つの経路は中部と比べると守りは弱いが距離が長いので敵に突破されても帝都や近くにある別の町から戦力を送り込めば十分時間を稼ぐ事ができる。敵もそれなりに考えて戦力を配置しているのだとダーク達は感じていた。

 三つの経路に配備されている敵戦力、距離などを理解したダーク達はどの経路にどれほどの戦力を送り込めばいいのか、そして誰を指揮官にすればいいのかを考える。誰を指揮官にするかで進軍に掛かる時間なども大きく変わって来る為、ダーク達はよく考えて決める事にした。


「ここまでの情報から考えると、配置されている敵戦力はバランスが悪いので敵戦力の大きい経路を進軍する部隊の戦力を最も大きくするべきでしょうね」

「まぁ、普通に考えるのならそうだな。しかし、帝国領に進軍する戦力が分からないのでは戦力を正確に分ける事はできないぞ?」

「ええ、分かっています……ダーク陛下、各部隊の戦力を決める為にもビフレスト王国軍はどれほどの戦力を用意しているのかだけでもお教えくださいませんか?」


 ダークが用意した戦力については明日話すの聞いていたが、デカンテス帝国に進軍する部隊を編成する為にも詳しい事は聞かず、戦力の数だけでも教えてほしいとベイガードはダークに頼んだ。

 話を聞いたダークはベイガードの言うとおり、戦力の詳しい情報は教えなくてもどれ程の数の兵を用意したのかぐらいは進軍する連合軍の部隊を編成する為に教えておいた方がいいだろうと感じる。


「……分かった、どんな部隊なのかはまだ教えられないが、兵の数までは教えておこう」

「ありがとうございます……それで、ビフレスト王国はどれほどの戦力を用意されたのですか?」

「……六万だ」


 ダークの口から出た戦力の数を聞き、ベイガードやザルバーン達は驚きの反応を見せる。アリシアもベイガード達程ではないが、六万の戦力が用意されている事を聞いて少し驚いた表情を浮かべていた。

 ベイガード達が驚くのも無理はなかった。数ヶ月前に建国されたばかりの小国が六万もの大部隊を用意すると言っているのだから。


「ろ、六万、ですか?」

「ああ、それが今回用意した戦力の数だ」

「……因みに、その部隊は人間の兵士によって編成されているのでしょうか?」


 これまでのビフレスト王国の戦力からベイガードは六万の部隊は人間ではなくモンスターによって編成された部隊だと思っていた。彼の知る限りビフレスト王国の軍隊は人間の兵士よりもモンスターの数の方が多いので自然とモンスターによって編成された部隊ではないかと感じてしまうのだ。


「ああ、全て人間の騎士によって編成されている」

「そ、そうなのですか。失礼しました、私はてっきりモンスターによって編成されているのかと……」


 ベイガードはダークの口から出た予想外の答えに意外そうな表情を浮かべる。ザルバーン達も似たような反応を見せていた。だが同時にベイガード達はどうやって六万の人間の戦力を用意したのか疑問に思う。一方でアリシアは何かに気付き、そう言う事か、と言いたそうな表情を浮かべながらコクコクと頷いていた。

 ダークはベイガードの反応を見て彼がゴブリンやスケルトンの様な人間の姿をしていないモンスターの部隊を用意していると思っていた事に気付く。ビフレスト王国の軍事について詳しく知らない者ならそう思っても仕方がないとダークは納得した。

 ダークがベイガードに話した騎士、つまり人間の戦力とは英霊騎士の兵舎によって作り出された騎士達の事を指していた。ダークは彼等を人間として扱っている為、ベイガードから質問された時に人間の騎士を用意したと話したのだ。アリシアはダークの話を聞き、六万の戦力を英霊騎士の兵舎を使って用意したのだと気付いて納得したのだろう。

 LMFでは英霊騎士の兵舎で召喚された騎士はモンスターとして扱われているが、人間と同じ体形を持ち、全身甲冑フルプレートアーマーを装備しているので何も知らない異世界の人間達は彼等を自分達と同じ人間だと思い込んでいる。

 異世界の人々が思い込んでいる中、いちいち説明するのも面倒なので、ダークや騎士達の秘密を知っているアリシア達は英霊騎士の兵舎で作り出された騎士達を人間として扱い、ベイガード達にも人間だと伝えたのだ。


「で、では、その六万の戦力の振り分けを始めます」


 戦力の説明が済むとベイガードは部隊編成の話に戻り、六万の戦力をどう分けるのか話始める。ダーク達は地図を見つめながらベイガードの話に耳を傾けた。


「我々は帝国領内に進軍し、最初の町であるラーナーズを攻撃、この時にこちらので戦力をできるだけ失わないように慎重にラーナーズの町を制圧します」

「安心しろ、もし多くの兵を失ったら我が国がまた新たに戦力を用意する」

「そ、そうですか、頼もしい限りです……」


 ダークの言葉にベイガードは苦笑いを浮かべる。この時、ベイガードはビフレスト王国にはまだ補充するだけの戦力があるのか、と心の中で驚いていた。

 気持ちを切り替え、ベイガードは再び戦力の振り分けについて話しを戻す。


「その後、ビフレスト王国軍の戦力六万、我がエルギス教国軍の五千、セルメティア王国軍の五千、合計七万の戦力を三つに分けて北部、中部、南部をそれぞれ進攻していくのですが、敵の抵抗が最も弱い北部、そして南部に送る戦力を二万、最も抵抗が強い中部に送る戦力を三万とするべきだと私は考えています」

「フム、七万の戦力をバランスよく分けるのであればそれがいいだろうな。儂もそれでいいと思う」


 ベイガードが考えた戦力の振り分けを聞いてザルバーンは納得する。セルメティア王国軍とエルギス教国軍の部隊長達も異議は無いらしく無言で話を聞いていた。

 ザルバーンとベイガードは納得したが、まだ総指揮官であるダークの意見を聞いていない。二人はダークの意見を聞こうと彼の方を向く。するとダークは机の手を乗せて体を前の方に僅かに前に出した。


「戦力の分け方なのだが、少しだけ変えさせてもらうぞ?」

「それは一向に構いません。連合軍の総指揮官はダーク陛下なのですから」

「私も異議はありません」


 振り分けられた戦力を変更するというダークの言葉をザルバーンとベイガードは反対する事なく受け入れる。

 二人は増援であるセルメティア王国軍とエルギス教国軍の指揮官であり、総指揮官であるダークを補佐する立場にある。だからダークが何かを変更したいと言ってくればに素直にそれに従おうと思っていた。ただそれでも納得のできない事にはちゃんと異議を上げようと考えている。

 ダークはラーナーズの町を制圧した後に三つの部隊が通る経路が描かれた地図を指差し、アリシア達はダークが指差す地図に視線を向ける。


「帝国中部を進軍する部隊の戦力を三万から一万に変更する。そして余った二万の戦力を北部と南部を進軍する部隊に一万ずつ加える」

「……え?」


 ザルバーンは自分が予想していた変更内容と全く違う内容に驚いて思わず声を出す。ベイガードや部隊長達も目を丸くしながらダークを見ていた。

 ダークは三つの経路の中で最も進攻が困難とされている中部の戦力を減らしたのだ。それではかえって進行が困難になってしまうのでザルバーン達は驚いていた。

 しかも中部よりも安全な北部と南部を進軍する部隊を三万に変更したのだからザルバーン達は更に驚いている。そんな中、ダークは驚くザルバーン達を気にせずに話を続けた。


「ストーンタイタンと砲撃蜘蛛は二体ずつ三つに分けてそれぞれの部隊に配置する……いや、砲撃蜘蛛だけは北部と南部の部隊だけに配置するか?」

「へ、陛下、お待ちください!」


 自分達が驚いている間にどんどん話を進めていくダークをベイガードは慌てて止めた。


「敵の戦力が最も強い中部に送る戦力を一万に変更したら中部の攻略は非常に困難になります。何よりも僅か一万で中部を進軍するのは危険です」

「心配するな、中部部隊の指揮は私が取る。ベイガード殿とザルバーン団長には北部部隊と南部部隊の指揮を頼む」

「でしたら尚更中部の戦力を他の二つの部隊よりも大きくするべきです。ダーク陛下にもしもの事があればビフレスト王国は大混乱になります」

「私もベイガード殿と同じ考えです。ダーク陛下に何かあれば、我々は陛下達に顔向けできません。どうか、中部の戦力を強化してください」


 みすみす総指揮官であるダークを危険に晒す事はできない。ザルバーンとベイガードは何とか中央の戦力を増やすようダークを説得しようとする。そんな二人の慌てる姿を見てアリシアは苦笑いを浮かべ、ノワールはクスクスと笑っていた。

 ダークは困り顔のザルバーンとベイガードを見ると小さく笑いながら腕を組む。そんなダークの余裕の態度を見てザルバーンとベイガードはどうしてこんなに余裕を持っていられるのだ、と心の中で不思議に思った。


「私なら心配ない。貴公等も知ってのとおり、私は英雄級の実力を持っている。帝国軍如きに後れを取ったりなどしない」

「で、ですが……」

「それに私の国と帝国の問題に巻き込んだセルメティアとエルギスの兵士や貴公等に何か遭ったら申し訳ない。両国の兵士達を危険に晒さない為にも貴公等が指揮する部隊の戦力を多めにしたい」

「そ、それはありがたいのですが……」

「私にはアリシアとノワールがついている。そして様々なマジックアイテムもあるのだ、最悪の事態にはならない」

「しかし、それでも一万で護りの堅い中部を進軍するのは……」


 ザルバーンとベイガードは以前の戦争でダーク達の強さ走っている。英雄級の実力者であれば並みの敵には絶対に殺される事は無いと二人は知っていた。だがそれでも一万の戦力を従えて帝国軍の大部隊が待ち構えている中部を進軍する事には納得できずにいる。英雄級の実力者でも何百人もの敵を一度に相手すれば殺される可能性があるからだ。

 ダーク達の真の力を知らないザルバーンとベイガードはどうしても了承する事ができずにいる。するとダークは困り顔の二人を見て声を出した。


「責任は私が取る。何か遭っても貴公等には責任は無く、セルメティア王国とエルギス教国にも責任を追及しない。我が国の民達にも上手く説明する。それなら問題無いあろう?」


 一国の王が責任は自分が取ると口にし、それを聞いたザルバーンとベイガードは口を閉ざす。

 ダークが全て責任を取ると言ってまで中部を進軍する部隊の指揮を執ろうとしているのにそれでも否定するのはダークに失礼かもしれないと二人はそう感じていた。


「……分かりました。陛下に従いましょう」


 しばらく黙り込んでいたベイガードはダークの覚悟に押し負けたのかとうとう折れてダークの提案を受け入れる。ザルバーンも仕方がないと思ったのか無言で頷き納得した。

 部隊長達はダークに危険な中部の攻略を任せるザルバーンとベイガードを見て驚いた様子を見せている。だが、指揮官である二人が決めた以上は自分達が口出しする訳にはいかず黙っている事にした。

 二人の了承を得たダークは小さく笑い、アリシアは笑うダークを見てやれやれと言いたそうに苦笑いを浮かべていた。


「ところ、捕らえた帝国の捕虜達はいかがいたしますか?」

「重要書類を得た以上は彼等を尋問する必要も無い。戦争が終わるまでこの砦で大人しくしてもらう」


 捕らえた先遣部隊の帝国兵達をどうするかダークはベイガード達に指示を出し、ベイガード達も捕虜達から得られる情報は大したことないので尋問などをする必要もないと感じたのかダークの指示に異議を上げる事は無かった。

 それからダーク達はデカンテス帝国領をどのように進軍させるか、何日以内にどこまで進軍するのかなどを話し合う。そんな話し合いの中でダーク達は帝国軍の先遣部隊を圧倒したストーンタイタンと砲撃蜘蛛をどの部隊に何体配置するかなども決め、ラーナーズの町制圧後の部隊編成についての話し合いを終わらせた。

 その後、ザルバーン達も広場で宴を行っている兵士達と合流し、戦いの勝利を祝った。


――――――


 翌日、日が昇ってまだそれほど時間が経っていないアルマティン大平原に連合軍の姿はあった。大平原の東側、帝国軍が陣形を取っていた場所に連合軍は隊列を組み、出撃の時を待っている。隊列の後ろでは青銅騎士達、ストーンタイタン、砲撃蜘蛛達が待機しているが、下級モンスター達の姿は無かった。下級モンスター達は砦の警備をさせる為に残して来たのだ。

 大平原には昨日の戦いで命を落とした帝国兵の死体が沢山転がっており、強烈な死臭が連合軍の兵士達の鼻を刺す。兵士達の中には転がっている帝国兵の死体や死臭に表情を歪ませる者もいた。

 隊列の先頭ではザルバーンとベイガードが表情を歪ませる兵士達を黙って見つめている。二人は何度も戦場に出て死臭になれているのか表情を歪ませていなかった。

 ザルバーンとベイガードの間では二人と同じように死体や死臭を気にせず無表情を浮かべているアリシアが立っている。だが、総指揮官のダークとノワールの姿は何処にも無かった。


「……アリシア殿、ダーク陛下はまだお戻りにならないのですか?」

「もうそろそろ戻って来られると思いますので、もうしばらくお待ちください」


 ベイガードがダークの事を尋ねるとアリシアはチラッとベイガードの方を見て静かに答える。アリシアの返事を聞いたベイガードは少し不満そうな表情を浮かべながら腕を組みながら兵士達の方に視線を戻す。

 ダークは日が昇る数時間前に六万の戦力を準備して来ると言い、出撃準備などをアリシア達に任せてノワールと共に転移魔法で首都のバーネストに戻って行ったのだ。戦力の準備をして来るという訳なのでザルバーン達は言われたとおり出撃準備を行い、ダークが戻って来るのを待っていた。

 しかし日が昇り、隊列を整えていつでもデカンテス帝国に向かえる状態になってもダークはなかなか戻ってこない。その為、ベイガードは何時になったら戻って来るのだと小さな不満を感じていた。

 兵士達の中にも死体と死臭に囲まれる中でずっとダークが戻るのを待ち続けているせいか早くしてほしいと不満そうな顔を見せる者も出て来ている。アリシアはそんな兵士達を見て早くダークに戻って来てほしいと心の中で願った。するとアリシア達の背後から突然ダークが現れ、気配に気付いたアリシア、ザルバーン、ベイガードが振り返る。


「ダーク陛下!」

「待たせてすまなかった。思ったよりも軍の準備に手間取ってしまったのだ」


 ダークは時間が掛かってしまった事をアリシア達に詫び、アリシアは気にしていないと小さく笑って首を横に振る。ベイガードもようやくダークが戻って来た事で不満が消えたのか、小さく笑いながらダークを見ていた。連合軍の兵士達も現れたダークを見てやっとか、と言いたそうな表情を浮かべている。

 戻って来たダークの下にアリシア達は集まる。するとダークと共にバーネストに戻ったノワールの姿が無い事に気付き、アリシア達は不思議そうな顔をした。


「ダーク陛下、ノワール殿はどちらに?」


 ザルバーンがダークにノワールはどうしたのか尋ねるとダークは薄っすらと目を赤く光らせてザルバーンの方を向く。


「ノワールはバーネストだ。バーネストにいる軍団を魔法でこの平原に転移させる為に残ってもらっているのだ」

「六万の軍団を転移魔法でこのアルマティン大平原に移動させるのですか?」


 ダークがこれからとんでもない事を始めると知ったザルバーンは目を見開きながら驚く。ベイガードの驚いた様子でダークを見ていた。


「まあ、見ていろ」


 そう言ってダークはポーチから青いメッセージクリスタルを取り出す。ヴァレリアの作ったメッセージクリスタルはまだ長距離での会話ができない為、今回はオリジナルのメッセージクリスタルを使用するようだ。

 いつかはオリジナルと同じ性能を持つメッセージクリスタルをヴァレリアに作らせたいと思いながらダークはメッセージクリスタルを使用する。


「ノワール、私だ。ゲートを使ってバーネストの軍をアルマティン大平原に転移させろ」

「分かりました」


 ダークはメッセージクリスタルの向こう側にいるノワールの返事を聞くとメッセージクリスタルの使用をやめる。使い終わったメッセージクリスタルはガラスが割れた様な音を立てて砕け散った。

 メッセージクリスタルが砕けた直後、隊列を組んでいる連合軍の後方、約1km離れた辺りに巨大な紫色の靄の様な転移門が現れる。

 振り返った兵士達は突然自分達の背後から現れた転移門に驚愕の表情を浮かべていた。ザルバーンも始めて見る転移門に驚いている。ベイガードは以前、似たような物を見た事がある為かあまり驚いた様子は見せていなかった。

 連合軍のダーク、アリシア以外の人間が驚いていると転移門の中から剣、槍、斧、弓矢など色んな武器を装備し、左手に黒いカイトシールドを持った青銅騎士達が隊列を組んでゆっくりと出て来る。青銅騎士達は隊列を崩さす、全員が同じタイミングで歩いていた。

 転移門からはしばらくの間、大勢の青銅騎士達が出て来ていたが、青銅騎士の後に今度は白銀のフルフェイスの兜、全身甲冑フルプレートアーマーと薄い赤マントを装備した騎士が大勢現れる。彼等も隊列を崩さず、綺麗に並びながら同じタイミングで歩いていた。腰には立派な騎士剣がそうにされており、左手には銀のカイトシールドが装備されている。連合軍の兵士達は雰囲気からして現れた白銀騎士が青銅騎士よりも位が上の騎士だと感じた。

 大勢の白銀騎士が出て来ると今度は黄金の全身甲冑フルプレートアーマーとフルフェイスの兜、紺色のマントを装備した騎士達が現れた。黄金騎士達は全員が左手には炎の模様が描かれたラウンドシールドを装備しており、右手には騎士剣、大剣、突撃槍など青銅騎士や白銀騎士が持っている武器以上の物が握られている。兵士達は白銀騎士以上と思われる騎士まで出て来た事で呆然としていた。

 これで終わりか、と兵士達が思った直後、黄金騎士達の後ろから新たに身長2mはある巨漢の騎士が大勢出て来る。彼等も隊列を崩さず、まったく同じタイミングで転移門から出て来た。その巨漢騎士は金色の装飾が施された濃緑色の全身甲冑フルプレートアーマーとフルフェイスの兜を装備しており、左手には青と銀のタワーシールド、右手には美しく輝くハルバードが握られている。見た目から他の三つの騎士よりも力が強いと兵士達はすぐに気付いた。

 青銅騎士、白銀騎士、黄金騎士、巨漢騎士が全員アルマティン大平原に出て来ると最後にノワールが転移門から姿を現し、その後に苔色の肌を持つ昆虫人間、シルクハットを被り、タキシードを着たやせ気味の紳士、肥満系の体で顔の皮膚が剥がれている身長2mのゾンビが出て来る。ダークが召喚した上級モンスター、蝗武こうぶ、モルドール、マインゴの三人だ。

 ノワール達が出て来ると転移門は静かに消える。転移門が消えるのを確認したノワールはレビテーションを使って飛び上がり、六万の騎士達の真上を飛んでダーク達の下へ向かう。そしてダークの前までやって来るとゆっくりと地面に下り立った。


「マスター、全員転移完了しました」

「ご苦労だったな」


 ダークが仕事を終えたノワールを労うとノワールはニコッと笑みを浮かべて嬉しそうにする。そんなノワールを見てアリシアも自然と笑みを浮かべた。

 一方、転移門から現れた大勢の騎士を前にザルバーンとベイガード、セルメティア王国軍とエルギス教国軍の兵士達は固まっている。自分達が予想していた以上の戦力がアルマティン大平原に現れた事で驚きのあまり声も出ないようだ。

 ダークが用意した六万の騎士は全て英霊騎士の兵舎を使って召喚した者達だ。六万の内、半分の三万が青銅騎士、二万が白銀騎士、七千が黄金騎士、そして残る三千が巨漢騎士となっている。その気になれば町一つを数時間で滅ぼせる程の戦力だった。


「いかがかな? 我が軍の騎士達は?」


 驚いて固まっているザルバーンとベイガードにダークは声を掛ける。すると声を掛けられて我に返った二人はフッと反応してからダークの方を向く。まだ少し混乱しているのかザルバーンとベイガードはもう一度六万の騎士達を見て状況を確認すると再びダークの方を向いて苦笑いを浮かべる。


「え、ええ、素晴らしい騎士達です。まさか、これほどとは思いませんでした……」

「しかも彼等が装備している武器はどれもそこらでは手に入らない業物と言える物ばかり……ダーク陛下、あれほどの武器を一体どうやって手に入れたのです?」

「フフフフ、それは教えられんな」


 ザルバーンの質問にダークは笑いながら低い声で答える。ザルバーンとベイガードは武器の入手先が気になっていたが、あまり追及してはダークの機嫌を損ねると思ったのかそれ以上は何も言わなかった。

 六万の騎士達が装備している武器や盾の殆どはザルバーンが言ったとおり普通の武器ではない。ダークがLMFで手に入れた魔法武器ばかりだ。だが、六万の騎士全員に与える程ダークは魔法武器を持ってはいない。にもかかわらず六万の騎士達のほぼ全てが魔法の武具を装備している。その理由は彼等を作り出すのに使った英霊騎士の兵舎にあった。

 英霊騎士の兵舎で騎士を召喚するには、まず召喚する騎士の強さやレベルを決め、その後に装備させたい武器や防具、持たせたい能力や技術スキルを設定する。最後に召喚したい人数を決めて召喚するのだが、召喚する時にはLMFの金銭かプレイヤーの経験値、もしくは両方を消費する必要があるのだ。しかも召喚する騎士の強さによっては使用する金銭や経験値が多くなるのでよく考えないと金銭や経験値を無駄に使い、出来の悪い騎士を召喚する事になってしまう。

 だが、召喚された騎士は全員設定の時に選んだ武具や能力、技術スキルを持っている。つまり選んだ武具はコピーされて何十人、何百人の騎士に同じ武器を持たせて召喚する事ができるのだ。

 ダークが所持している魔法の武具が少なくても英霊騎士の兵舎を使えば何倍にも増やす事ができる。それが英霊騎士の兵舎の利点の一つなのだ。


「……これだけの騎士をよく召喚できたな?」


 アリシアが周囲に聞こえないように小さな声でダークに語り掛ける。するとダークはチラッとアリシアを見た後に視線を六万の騎士達に戻して小声で返事をした。


「LMFから持って来た金や経験値を大量に使ったからな、これだけ作る事ができたんだよ。ただ、一度に作れる騎士は最大で千体までだから何度も召喚を繰り返して疲れたぜ」


 本当に疲れたのかダークは素の口調と声でアリシアに苦労して召喚した事を伝える。それを聞いたアリシアはクスクスと笑う。


「そうか……まぁ、貴方がそれだけ苦労した騎士達ならきっといい活躍を見せてくれるだろう」

「ああ。というよりも、活躍してくれなきゃ困る」


 そう言ってダークは小さく溜め息をつき、アリシアとノワールはご苦労様、と言いたそうな顔でダークを見ていた。

 アリシアと簡単な話をしたダークは暗黒騎士として気持ちを切り替え、兵士達の方を見ながらゆっくりと歩き出す。


「さて、これで進攻の準備は整った」


 ダークが力の入った声を出すとザルバーンとベイガード、六万の騎士達を見ていて連合軍の兵士達は一斉にダークに視線を向ける。全員が自分に注目したのを確認したダークは立ち止まり、背負っている大剣を抜いて空に向かって高く掲げた。


「これより我々はデカンテス帝国領内に向けて進軍を開始する。己の欲の為に他国に土足で踏み込んだ帝国軍に自分達がどれ程大きな過ちを犯したのか思い知らせてやるのだ!」


 出撃前に士気を高める為なのかダークは兵士達を見ながら叫ぶ様に語る。それを見た兵士達は呆然としながらダークを見ていた。先程の六万の騎士が出現する光景に衝撃を受けて感覚がおかしくなっているのかダークの言葉に上手く反応できずにいる。

 ダークは声を上げない兵士達を大剣を掲げたまま見ている。別に彼は兵士達に大きな声で返事をしてほしいとは思っていない。ただ自分達がこれからやるべき事を確認する為に言ったのだ。

 兵士達にやるべき事を伝えたダークは掲げていた大剣を下ろして再び背中に納める。そして再び兵士達を見ながら目を赤く光らせた。


「ビフレスト・セルメティア・エルギス連合軍、出陣!」


 ダークは低く、力の入った声を出し全兵士に命令を下した。


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