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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十三章~帝国の密偵者~
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第百五十七話  情報確認会議


 日が沈んで暗くなった頃、ダーク達は王城の会議室に集まり、各自が集めたケイザス達の情報について話し合いをしていた。街に出ていた全員が揃うのに少々時間が掛かり、その結果、夜に会議を行う事になったのだ。


「……成る程、奴等はそんな事を言っていたのか」

「ええ、奴等が何処かの国の密偵である事は間違いないわ」


 会議室にある長方形のテーブルを囲む様にダーク達は座り、レジーナが得た情報を聞いている。レジーナと同じように街に出てケイザス達の捜索、情報集めをしていたジェイク、マティーリアは真剣な表情を浮かべて聞いており、街に出ていなかったアリシアとヴァレリアも黙って話を聞いていた。

 レジーナはケイザスとライアを尾行して彼等が何処かの国がビフレスト王国の情報を得る為に送り込まれた密偵である事を話した。その話を聞いたダークはケイザス達が予想通り同盟国以外の国から来た人間である事を知って目を僅かに赤く光らせる。


「同盟国以外の国から送られた密偵か、となるとデカンテス帝国かマルゼント王国のどちらかだろう。周辺国家以外の国は他国との交流や干渉などを避けているからな」

「私もそう思う。だが、マルゼント王国の王は密偵を送り込む様な姑息な方法を取る様な人ではない。とても寛大で国や国民の事を第一に考える人だとマクルダム陛下から聞いているぞ?」

「となると、マルゼント王国の密偵である可能性は低いな……」


 アリシアの話を聞いてダークは低い声を出しながら考え込む。他の四人もアリシアと同じようにマルゼント王国の人間ではないと考えているのか何も言わずに二人の会話を聞いている。


「……マルゼント王国でないとすると、デカンテス帝国であると考えられるな」

「あそこの皇帝様ならあり得るぜ? 自分が欲しいと思う物や情報は何がなんでも手に入れようとするし、帝国が一番でなければ納得できない帝国至上主義者って噂だからな」


 ジェイクが椅子にもたれながらダークにデカンテス帝国皇帝の悪い噂を口にする。ダークも皇帝が少々問題のある性格だという事は知っているのでジェイクの言っている事を否定しなかった。

 アリシアやレジーナもデカンテス帝国皇帝なら他国に密偵を送るこむ事ぐらい平気でやると考えているのか何も言わずに黙っている。既にダーク達の中ではデカンテス帝国皇帝は帝国や己の事を第一に考える愚か者となっているようだ。


「じゃが、帝国の人間だと決めつけるのはまだ早いのではないか?」


 ダークがケイザス達はデカンテス帝国の人間かもしれない、そんな事を考えていると黙って話を聞いていたマティーリアは静かに口を動かす。それを聞いてダーク達は視線をマティーリアに向けた。


「確かに帝国の人間である可能性は高いが決定的な証拠がない以上は断定する事はできん。そうであろう、若殿?」

「ああ、あくまでも可能性だ。まずは奴等がデカンテス帝国の人間であるかを確かめないといけない」


 小さく頷きながら慎重に行動する事を考えているダークを見てマティーリアはならいい、と言いたそうな顔でコクコクと無言で頷く。


「だがよぉ、どうやって確かめるんだ? まさかとっ捕まえて取り調べをする、なんて言うんじゃねぇよな?」

「勿論そんな事はしない。取り調べをするよりも簡単に奴等の正体を調べる方法はあるからな」


 取り調べ以外に効率の良い方法があると聞かされてジェイクは少し意外そうな反応を見せ、アリシア達も同じような顔を見せた。ヴァレリアはダークがどんな方法を使うのか興味があるらしく小さく笑って彼を見ている。


「取り調べよりもいい方法ってどんな方法なんだ?」

「それは後で説明する……それはそうとジェイク、お前とマティーリアは何か奴等の事について分かったのか?」

「ん? ああぁ、少しだけどな」


 質問に簡単に答えたダークは何かケイザス達の情報を得たのかジェイクに訊き返し、まだ話していない事を思い出したジェイクは自分が得た情報を話し始める。マティーリアも自分が手に入れた情報を話す事を忘れていた反応を見せた。


「俺は二人と別れた後に兄貴から貰った似顔絵の男達を探して首都の北へ向かったんだ。そこで似顔絵の男の内の一人、商人を名乗って首都へ入った男を見つけたんだ」

「商人の男……確かブライアンと言う男だったな」


 アリシアは商人アルを名乗ってバーネストに入った男の事を思い出し、腕を組んで小さく俯きながら呟いた。


「ああ、見つけた後、俺は奴に気付かれないようにこっそり後をつけて行った。しばらく尾行していたらそのブライアンとか言う男が一人の女と合流したんだ」

「女?」

「十代後半ぐらいの若い女だったぜ。雰囲気からしてかなり親密そうな関係だったから首都の人間じゃねぇな。きっと奴等と一緒に首都に入ったフード付きマントを着た連中の一人だろう」


 ジェイクは尾行している時に見たブライアンと若い女の様子を見て女がバーネストで出会った人間ではなく、ずっと前からブライアンを知っている存在だと推理し、それを聞いたダーク達はその女もケイザスと一緒にいた女、ライアと同じケイザス達の仲間であると考えた。


「それで、その後はどうなったのじゃ?」

「そのまま尾行を続けたさ。奴等、首都の北側を歩き回って色々調べている様な感じだった。きっとレジーナが尾行していた二人組と同じように首都の造りを調べてたんだと思うぜ?」

「他国の首都がどのくらい広く、どんな造りになっているかが分かれば人口やどれ程の物資を蓄えているのかなどが分かるからのぉ。首都への侵入方法と言い、連中は密偵としてはそこそこできるみたいじゃな」

「敵を感心してどうするのよ」


 ケイザス達が密偵として優秀な存在であると語るマティーリアにレジーナが呆れ顔を浮かべた。だが実際、ケイザス達は偽名を使ってバーネストに入り、バラバラになって町の情報を集めている。ダークやアリシアもケイザス達が優れた密偵だと思っていた。


「それからブライアンと女はしばらく街中を見て回り、昼過ぎ頃に宿屋のある地区へ移動して一軒の宿屋の中に入って行ったんだ」

「その宿屋って、あたしが尾行した二人組が入った宿屋?」

「多分な。宿屋に入って他に仲間がいないか確かめようとしたんだが、気付かれるかもしれないと思って宿屋の中には入らなかった」

「それが賢明だと思うぞ? レジーナの奴は調子に乗って宿屋の中に入ろとしておったからな」

「調子に乗ってなんかいないわよ!」


 笑いながらからかってくるマティーリアを見てレジーナは声を上げる。またいつもの様に口喧嘩を始めるレジーナとマティーリアにジェイクはまたか、と小さく溜め息をついた後に首を軽く横に振った。

 ダークは怒るレジーナと笑うマティーリアの姿を黙って見ており、アリシアはジェイクと同じように呆れ顔で二人を見た後に目と目の間を指で軽く摘まむ。


「そう言うお前はちゃんと情報を得たのか、マティーリア?」


 今まで沈黙していたヴァレリアが笑いながらチラッとマティーリアを見て成果を尋ねる。するとマティーリアは視線をレジーナからヴァレリアに変えて笑い返す。


「まあのぉ、レジーナやジェイクの様に連中の仲間を見つける事はできなかったが、面白そうな情報を得た」

「面白そうな情報?」

「何よ、それ?」


 マティーリアの手に入れた情報に対してジェイクは興味がある様な反応を見せ、レジーナはジッとマティーリアを睨みながら低い声で尋ねる。そんな二人を見ながらマティーリアは手に入れた情報について語り始めた。


「妾はお前達と別れた後に北東の方へ向かった。まず最初に魔法薬やマジックアイテムを扱っている店が並ぶ所へ行ってみたのじゃが、そこにいた人間達から開発されたばかりのポーションについて色々質問して来る女どもがいたと聞いた」

「ポーションについて?」


 ヴァレリアは自分が開発したポーションについて尋ねて来る女がいると聞き、フッと反応する。ダーク達もマティーリアの話を聞いて目を僅かに細くした。


「ウム、何でもどれ程の回復力があるのか、どんな材料を使って調合したのかなど店の店員や客達に訊いておったそうじゃ。最初は何も知らん観光客じゃと思っておったが、訊き方が細かすぎると店員が言っておった。妾が思うにその女どももケイザスとか言う人間の仲間であるかもしれん」

「確かに調合方法まで細かく訊くなんて観光客ではあり得ない行動だ。ケイザスの仲間である可能性は十分あるな……それでその女を見つける事はできのか?」


 ダークが情報を集めていた女達を見つけたのか尋ねるとマティーリアはダークの方を向いて軽く首を横に振る。


「すまん、見つける事はできんかった。妾が行った時には既にその女どもはそこから去った後だったのでな」

「そうか」


 姿を確認する事ができなかった事を聞かされてダークは低い声を出す。アリシアやジェイクも行った時にはもういなかったのなら仕方がないと心の中で思った。


「……ま、姿を確認できなくても大して問題は無い。そっちの方については今ノワールに動いてもらっているところだからな」

「ノワール?」


 ダークの言っている事の意味が分からずレジーナは小首を傾げる。アリシア達も不思議そうな顔でダークの方を向く。


「……そう言えばそのノワールの姿が見えないが、彼は今何処にいるんだ?」


 アリシアが会議室を見回して姿の無いノワールについてダークに尋ねた。ダークは両肘をテーブルの上に乗せてアリシアの質問に答えようとする。すると、突如会議室の出入口である扉をノックする音が聞こえ、ダーク達は一斉に扉の方を向いた。


「マスター、よろしいですか?」

「ノワールか、入れ」


 扉の向こうから聞こえるノワールの声に対してダークは入室を許可する。扉は静かに開き、少年の姿をしたノワールは会議室に入って来た。その手には数枚の羊皮紙が握られている。

 ノワールは扉を閉めてからダークの方へ歩いて行き、持っている羊皮紙を差し出した。


「マスター、全て写し終えました」

「そうか、ご苦労だったな」


 ダークは羊皮紙を受け取り、簡単に確認をしてからアリシア達にも見える様にテーブルの上に羊皮紙を広げる。アリシア達はノワールが持って来た羊皮紙が何なのか気になり、しっかり確認する為に席を立って羊皮紙を見た。

 テーブルの上には八枚の羊皮紙が置かれており、そこには男女の似顔絵が描かれてあった。八枚の内、四枚には男の似顔絵が描かれており、残り四枚にはと女の似顔絵が描かれてある。そして男の似顔絵の中にはケイザスとブライアンの似顔絵が入っていた。


「ダーク、これは?」


 アリシアがダークの方を向き、似顔絵を指差しながら尋ねる。ダークはアリシア達と同じように立ち上がって八枚の似顔絵を見つめた。


「それはケイザスとブライアンの仲間と思われる者達の似顔絵だ。アリシアがレジーナに戻るよう命じた後、ウォッチホーネットにケイザス達がいる宿屋を監視させた。そして窓からケイザス達が使っている部屋の中を確認し、ケイザスと一緒にいる連中の顔をノワールに記憶描絵ドローイングで羊皮紙に描かせたんだ」

「それじゃあ、ノワールが会議室にいなかったのは……」

「ずっと監視室で似顔絵が描いてもらっていたんだ」


 ダークの相棒であるノワールが会議に参加していなかった理由を知ってアリシア達は納得の表情を浮かべる。ノワールはそんなアリシア達を見て、教えなくてすみませんと謝るような感じで苦笑いを浮かべた。

 アリシア達は視線を羊皮紙に戻して似顔絵を確認する。するとレジーナは羊皮紙の中にケイザスと共に行動をしていたライアの似顔絵があるのに気付き、目を大きく開きながら似顔絵を見つめた。


「この子! ケイザスと一緒にいた女の子だわ」

「何?」


 レジーナの言葉にダークが反応して羊皮紙を確認する。レジーナはライアの似顔絵を指差し、ダーク達はその似顔絵に注目した。


「間違いなのか?」

「ええ、確かにその子だったわ」

「……となると、あの部屋にいた連中はケイザスと共にバーネストに入った一団の見て間違いは無さそうだな」


 自信に満ちたレジーナの言葉を聞いてダークは似顔絵の者達がケイザスの仲間だと確信する。

 最初はただ同じ部屋に一緒にいると言うだけでケイザスの仲間だと言う決定的な証拠などは無かった。だが、レジーナの言葉と南門を通過する時の人数が同じである事を考え、ダークは彼等がケイザスの仲間だと感じたのだ。


「……ん? ちょっと待ってくれ」


 ライアの似顔絵を見ていたジェイクが突然難しそうな顔をしながら声を出し、ダーク達はジェイクの方に視線を変えた。


「俺が見つけたブライアンもその嬢ちゃんと一緒に行動してたぜ?」

「ええぇ、ウソォ? そんなはずないわよ。その子は間違いなくケイザスと一緒だったもん。人違いじゃないの?」

「いや、俺も確かにその顔を見たぞ? お前こそ別の誰かと勘違いしてるんじゃねぇのか?」


 ブライアンもライアと一緒にいたと言うジェイクにレジーナは納得のできないような顔をする。ジェイクとレジーナの話を聞いていたアリシアは二人の情報が矛盾している事に複雑そうな表情を浮かべながら腕を組む。ヴァレリアもどっちの情報が正しいのだ、と言いたいのか呆れた顔でジェイクとレジーナを見ていた。


「あ、あのぉ、実はですねぇ……」

「……おい、これを見てみろ」


 ノワールが何かを説明しようとした時、似顔絵を見ていたマティーリアが一枚の羊皮紙を手に取ってダーク達に見せる。そこにはライアと同じ顔をした少女の似顔絵が描かれてあった。


「何だこりゃあ? 同じ似顔絵が二枚あるじゃねぇか」

「いや、同じではなさそうじゃぞ。小娘の視線や顔の向きとかが全く違う」

「確かに視線や顔の向きは違うけど、どちらも同じ女の子よ?」


 二つの似顔絵は違う物だと話すマティーリアにジェイクとレジーナは同じ存在、同じ似顔絵だと話す。アリシアとヴァレリアもなぜ同じ少女の似顔絵が二枚もあるのだと、不思議そうに見ていた。

 アリシア達が疑問を抱いているとノワールが小さく苦笑いを浮かべながら会話に参加して来た。


「あのぉ、皆さん」

「ん? どうしたんじゃ」

「そのライアとか言う女の子なんですけど、恐らく双子だと思います。似顔絵を描く時、同じ部屋に同じ顔をした少女が二人いましたから……」


 ノワールの口から出た言葉にレジーナとジェイクは目を丸くする。双子であればケイザスとブライアンが同時刻に同じ顔をした少女と行動している事も納得がいく。マティーリアとアリシア、ヴァレリアの三人もノワールの方を見て納得した表情を浮かべていた。


「お前なぁ……」

「そういう事は最初に言ってよ!」


 しばらく呆然としていたジェイクは目を閉じて頭を掻きながら恥ずかしそうな顔をし、レジーナも少し顔を赤くしながらノワールに文句を言う。二人とも双子である事を考えずに勘違いしていた事が恥ずかしかったようだ。

 記憶描絵ドローイングで写される絵は黒一色で描かれるので双子と分からない状態で同じ顔をした人物の似顔絵を見れば同じ似顔絵が二枚あると勘違いしてもおかしくない事だ。

 ノワールは恥ずかしがる二人を見て申し訳ないと思ったのか再び苦笑いを浮かべながら後頭部を掻く。一方でアリシアとマティーリアはノワールに確認もせずに勝手に話を進めて勘違いしたレジーナとジェイクを呆れ顔で見ていた。

 レジーナとジェイクの勘違いが解けるとダークは一番近くにある羊皮紙を手に取り、そこに描かれてある若い男の似顔絵を見つめる。


「レジーナとジェイクの情報からその双子の少女、そして同じ部屋にいた男女がケイザスの仲間である事は間違いない。あとは彼等が何処の国の人間で何の為にこの首都を調べているのか、目的を調べる必要がある」


 ダークがケイザス達がバーネストにやって来た理由について話し始めるとアリシア達は一斉に視線をダークに向け、黙って彼の話に耳を傾ける。アリシア達の顔からは先程までの緊張感の抜けた表情は消えていた。


「明日はケイザス達を尾行しながら彼等は何処の国の人間なのか、目的が何なのかを調べてくれ」

「それは分かったけど、どうやって何処の国から来たのかを調べればいいの?」

「兄貴はさっき、取り調べよりもいい方法があるって言ってたが、その方法を使うのか?」


 どんな方法を使って調べるのか、レジーナとジェイクが難しい顔で尋ねるとダークは羊皮紙をテーブルに置いて二人の方を見る。


「そうだ、私が持っているマジックアイテムを使って調べるんだ。お前達とマティーリアには後ほどそのマジックアイテムを渡すから会議が終わったら私の部屋に来い」

「兄貴が持っているマジックアイテムか……俺等に上手く使えるのか?」

「心配するな、前に一度私が使っているところを見ている。見せれば思い出すだろう」


 前に一度見せている、それを聞いたレジーナ、ジェイク、マティーリアの三人は意外そうな表情を浮かべて少し驚いていた。ヴァレリアはまだ自分の知らないマジックアイテムがあると知って興味のありそうな顔でダークとレジーナ達を見ている。


「ダーク、私もレジーナ達と一緒に彼等を探したほうがいいか?」


 アリシアが自分もケイザス達の尾行に参加するべきかダークに尋ねると、ダークはアリシアの方を向いて首を横に振った。


「いや、君は監視室でケイザス達が首都の何処へ移動しているのかを調べてくれ。奴等の行き先が分かれば首都に来た目的の幾つかは分かるかもしれん。それに総軍団長が町中をウロウロするのは何かと目立つからな」

「た、確かに……」


 ビフレスト王国の全軍を統括するアリシアが首都とは言え、街に姿を見せれば騒ぎになってしまう。そうなればケイザス達は警戒して動かなくなってしまう可能性がある。最悪の場合はダーク達がケイザス達の存在に気付いている事に気付かれてしまうかもしれないので、できるだけ騒ぎを起こすのは避けたいとダークは思っていた。


「それとヴァレリア、念の為にお前の研究所の周りに青銅騎士達を送って警備に就かせる。可能性は低いがケイザス達が研究所に忍び込むかもしれないからな」

「分かった、研究所の者達には私から伝えておく。それで、私は明日も普通に仕事をすればいいのか?」

「ああ、ケイザス達が来た直後に作業を止めてしまうと不自然に思われるからな。いつも通り作業をしておいた方がいい」

「まぁ、確かにそうだな」


 ヴァレリアは腕を組みながら納得した様子で呟く。


「それでダークよ、もし尾行している最中にこ奴等が何か問題を起こした場合はどうすればよい? 普通に捕えても構わんのか?」


 ケイザス達が街中で騒ぎを起こすなどした場合はどう対処すればいいのかマティーリアが尋ねる。レジーナとジェイクも同じ疑問を持っていたのか、ダークの方を向き、どうすればいいと目で問いかけた。

 ダークは三人の方を見ると薄っすらと目を赤く光らせる。


「ああ、その時は捕らえてくれていい。抵抗するようなら多少手荒な事をしても構わない。だが決して殺すな? 敵対行動を取っていない状態で他国の人間を殺すのはマズいからな。それに奴等からは色々と訊きたい事もある」

「確かに建国したばかりなのに他国の人間を殺して国の立場を危うくする訳にもいかねぇからな」


 国同士で問題を起こせば後に面倒な事になるのは確実、ジェイクは顎に手を当てながら難しい表情を浮かべた。

 ダーク達はその後、明日の仕事の流れやケイザス達の情報を集めた後どうするかなどを簡単に話し合ってから会議を終わらせる。会議が終わるとダーク、アリシア、ノワール以外の全員は会議室を後にして自室へ戻って行った。


「……まったく、メンドクサイ事になったぜ」


 椅子に腰を下ろしたダークは素の声と口調で文句を言いながら兜を外して素顔を見せる。

 兜をテーブルの上に置くとダークは目を閉じながら椅子にもたれ、アリシアは似顔絵の描かれた羊皮紙を集めながらダークを見ており、ノワールもダークの隣に苦笑いを浮かべていた。


「なぁ、ダーク。ケイザス達が密偵である事は分かったが、それならどうしてすぐに彼等を捕らえないんだ?」

「アイツ等が密偵であると言う決定的な証拠がないんだよ。俺達はアイツ等が偽名を使っている事やこの首都に来てから行動や発言から密偵である事に気付いた。だがそれだけでは例えアイツ等を捕らえても白を切られるだけだ、アイツ等が言い逃れできない確実な証拠を見つけないといけない」

「証拠、か……」


 ケイザス達を合法的に捕える材料が揃っていない、アリシアは彼等が何を狙っているのかを探るのと同時に彼等を捕まえる為の準備をしておいた方がいいのではと考えた。


「それでマスター、最終的には彼等をどうするつもりなのですか?」

「勿論捕まえるつもりさ。どうしてこの国に密偵として潜り込んだのか、誰の指図で動いているのかを全て聞き出す」

「では、彼等がこのバーネストから出られないように北と南の門の守備隊にケイザス達を出さないように伝え、似顔絵を渡しておきましょうか?」

「ああ、頼む」


 ノワールの顔を見ながらダークは小さく笑って頷く。目の前の事だけでなく、先の事まで考えているノワールをダークは頼もしく思った。


「とりあえず、今は予定通り、ケイザス達に気付かれないように様子を伺いながら目的を探るという形でいいのだな?」

「そう言う事だ。それと分かっていると思うが、この件は俺達、そしてケイザス達の存在を知っている奴以外には秘密にしておいてくれ。もし他の者達に知られると密偵が首都の中にいると噂が広がって奴等に逃げられちまうかもしれないからな」

「分かった」

「了解です」


 ダークの忠告を聞き、アリシアとノワールは真剣な表情で返事をする。その後、ダーク達も会議室を出て自分達の部屋へと戻って行った。


新年あけましておめでとうございます。正月休みも終わりましたのでまた投稿を再開していきます。今年もよろしくお願いします。

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