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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十三章~帝国の密偵者~
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第百五十六話  探り合う者達


 バーネストの西側にある市場。食材や日用雑貨、武器などを扱う店が多くあり、店の前には町の住民である人間や亜人が大勢集まって品物を見ている。他にも下級モンスターや青銅騎士が住民達の近くを通ったりするが、住民達は気にする事無く店の品物を見続けていた。

 そんな賑やかな市場の中をケイザスが歩いており、彼は視線だけを動かした市場の様子を伺っている。その隣にはケイザスと同じファゾムの隊員であるライアが付いており、ケイザスと同じように市場の様子を伺いながら歩いていた。


「なかなか賑やかな市場ですね?」

「ああ、黒騎士が支配する国だからもっと治安が乱れていると思っていたが、我が国と大して変わらないな」

「ただ、近くにモンスターがいるのに住民達が普通にしているのが少し気になりますけど……」


 ライアは少し離れた所にいるゴブリンを見て不安そうな表情を浮かべる。腰に短剣を納めているゴブリンは何か異常が無いか確認するかの様に周囲を見回し、しばらくすると何処かへ行ってしまった。


「情報によるとこの首都バーネストにいるモンスターは全て国王であるダーク・ビフレストがマジックアイテムを使って召喚した存在らしいぞ」

「ええ、それは私も聞いています。マジックアイテムを使って召喚された為、召喚した国王に絶対服従で町の住民達には危害を加えないようになっていると……」

「そうだ、そしてそのモンスター達を使い、エルギス教国軍や亜人連合軍との戦争に勝利している」

「……ある意味で軍事力は我が国よりも高いですね」


 市場にいるモンスターと過去の情報からケイザスとライアはビフレスト王国がどれ程の軍事力を持っているのかを想像する。情報収集など裏工作を得意とするだけあって、二人は僅かな情報でビフレスト王国の軍事力を見抜いた。


「店にもいい品が並べられている。経済的にもそこそこ力があるようだ」

「……店に並べられている商品は一体どうやって手に入れたのでしょうか?」

「同盟国であるセルメティア王国とエルギス教国との取引で手に入れたのだろう」


 ケイザスは市場に並んでいる店の品物を見ながらどのように手に入れたのかを話し、ライアも難しい顔をしながら並べられている品物を一つずつ見ていく。


「……武器や食材、日用品など色々な物を売っていますが、例の新しいポーションは売っていませんね」

「ああ、この市場は一般的な品は売っているがポーションの様なマジックアイテムは扱っていないようだな」

「どうします? 北東の方にマジックアイテムを扱っている店が幾つかあるようですが、そっちに行ってみますか?」

「いや、そっちにはマーニとペティシアを向かわせてある。私達はこのままこの辺りで情報を集める」


 別の場所での情報収集は仲間達に任せてケイザスは今いる市場やその近くで情報を集める事に集中する。ライアは隊長であるケイザスがそう言うのなら仕方がないと思っているのか文句などを一切言わずに彼の後をついて行った。

 それからケイザスとライアは市場の中を見て回りながら町の住民達から色んな情報を聞き、ある程度情報が集まると二人は市場を出て少し離れた所にある静かな広場へ移動して集めた情報の整理をする。


「市場で得た情報により、ビフレスト王国はモンスターを町の防衛に使用し、町の住民達の生活を手助けする存在である事が分かった。ただ、モンスターが生活を手助けをしているのはこの首都だけだそうだ」

「モンスターが人間の暮らしを手伝うなんて、普通ではあり得ない事です。そんな事を実現してしまうこの国の王様、本当に何者なのでしょう……」

「さあな? 元セルメティア王国の七つ星冒険者である事以外は何も情報は得られなかった。彼が何者で何処から来たのかは誰も知らないらしい。この国の建国に力を貸したセルメティア王やエルギス教国の女王も知らないそうだ」

「誰も正体を知らない謎の多い国王、ですか……」


 ビフレスト王国の国民や他国の王ですら知らないダークの正体にライアは興味があるのか腕を組みながら難しい顔をする。ケイザスもモンスターを召喚するマジックアイテムを所有し、僅か数ヶ月で国を創ったダークはどんな人間なのか気になるらしく目を閉じて考え込む。


「……ダーク・ビフレストの正体について知っている人はいないんですか?」

「分からない。ただ、彼の側近であるこの国の総軍団長、アリシア・ファンリードは元セルメティア王国の聖騎士でダーク・ビフレストが冒険者だった頃から彼と共に戦っていたと聞いている」

「セルメティア王国の聖騎士が新しい国の総軍団長なんて、大出世じゃないですか」


 ケイザスの話を聞いてライアは目を丸くしながら驚く。


「他にもダーク・ビフレストには冒険者時代に三人の仲間がおり、その三人もこの国に移住して冒険者をやっているとの事だ。彼等ならダーク・ビフレストの正体についても何か知っているかもしれないな」

「では次はその冒険者である三人を探して情報を聞き出しますか?」

「いや、その三人は今では国王となったダーク・ビフレストの直属の冒険者として活動している。下手に彼等と接触すると我々の正体がバレる可能性がある」

「成る程……」


 正体がバレる事を警戒し、直属の冒険者に近づくのはやめるべきだと考えるケイザスにライアは少し残念そうな反応を見せる。ライアの様子からその冒険者達はどんな人物なのか見てみたいという気持ちがあったようだ。


「今回の任務はこの国の情報と新しいポーションの調合方法を得る事だ。情報を得る為なら手荒い行動を取る事も許可されているが、正体を知られる事だけはあってはならない。特に国王と彼と繋がりを持つ者に知られる事は絶対に避けなくてはならない。それを忘れるな?」

「……ハイ」


 ケイザスの忠告を聞き、ライアは真剣な顔で頷きながら返事をする。同時により警戒心を強めようと改めて気を引き締めるのだった。

 それからしばらく広場で情報の整理と確認をするとケイザスとライアは広場から路地へと出て周囲を見回す。


「次はどっちへ行きますか?」

「そうだな……南西の方に倉庫地区があるそうだからそちらへ向かい、この町にどれ程の物資があるかなど調べてみよう」

「ハイ」


 次の目的地が決まり、ケイザスとライアは南西にある倉庫地区へ向かう為に歩き出す。そんな二人の様子を少し離れた所から一つの人影が身を潜めて窺っていた。


「……アイツ等、今度は何処へ行くつもりなのかしら?」


 建物の陰に身を隠しながらレジーナが歩いて行くケイザスとライアを見つめていた。

 三十分ほど前、レジーナはダークに呼び出されて南門へ向かい、そこで同じように呼び出されたジェイクとマティーリアの二人と一緒にダークからケイザス達の事を詳しく聞かされる。話を聞いたレジーナ達は似顔絵を見た後にケイザスとブライアンを探す為に街へ向かった。

 街に入ると三人は効率よく見つける為に分かれ捜索を始めた。その数分後、ダークから西の市場にケイザスがいると言う情報が入り、一番近くにいたレジーナが市場へ向かってケイザスと仲間のライアを見つけ、そのまま尾行していたのだ。


「何だかこの町の事を調べているようだったけど、何処かの国の密偵なのかしら……ま、それは尾行しているうちに分かるでしょう」


 レジーナはそう呟きながら倉庫地区へ向かうケイザスとライアの後を気付かれないように追った。ダークからケイザス達は潜入などを得意としている存在かもしれないと聞いていた為、尾行に気付かれないよう注意しながらレジーナは二人の後をつけて行く。

 その後、ケイザスとライアは街から離れた所にある倉庫地区へ行き、どんな場所なのかを確認してから再び街へ戻って行く。その間、レジーナも気付かれないよう慎重に尾行を続けた。

 日が傾いて夕方になった頃、ケイザスとライアは宿屋や酒場などが多くある地区へやって来て一軒の宿屋へ入る。レジーナは二人が宿屋に入るところを建物と建物の間にある細道の陰から見ていた。


「あそこが奴等の使ってる宿屋か……なら、中に入ってどんな仲間がいるか確認を……」

「レジーナ」


 レジーナが宿屋に入ってケイザス達の詳しい情報を得ようとした時、突然レジーナの頭の中にアリシアの声が響く。

 アリシアの声を聞いたレジーナは足を止めて細道へ戻り耳に手を当てる。どうやらアリシアがメッセージクリスタルで連絡を入れて来たようだ。


「アリシア姉さん?」

「レジーナ、宿屋には入らなくていい。尾行はそこまでにして城へ戻れ」

「え? どうしてあたしが宿屋に入ろうとしている事を知ってるの?」


 周囲には自分以外誰もいないのに自分の行動を知られている事にレジーナは驚いて周囲を見回す。するとレジーナの頭の中にアリシアが溜め息をつく声が聞こえる。


「ハァ……上を見てみろ?」


 呆れるアリシアの声を聞いたレジーナは言われた通り上を向く。頭上には一体のウォッチホーネットが飛んで自分を見下ろしている姿があり、それを見たレジ―アは不思議そうにまばたきをする。


「ウォッチホーネット……あっ!」

「気付いたか? ケイザスを見つけてからずっと監視室で彼を見張っていたんだ。勿論、尾行していたお前もな」

「あぁ~、そう言えばダーク兄さんがそんな事話していたような……」

「忘れていたんだな……」


 再び呆れが声を出すアリシアにレジーナは苦笑いを浮かべる。監視室が作られてからまだ数日しか経っていないのにもう忘れてしまっていたのでレジーナは苦笑いで誤魔化すしかできなかった。

 レジーナは忘れていた言い訳などをせず壁にもたれたまま苦笑いを続ける。するとレジーナは何かに気付き真上を飛んでいるウォッチホーネットを見上げた。


「ねぇ、ウォッチホーネットで見張ってるんだったら、わざわざあたしが奴等を尾行する必要は無かったんじゃないの?」


 浮上した疑問についてレジーナは腕を組んでアリシアに問いかけた。

 確かにレジーナの言う通り、空から見張っているのであればレジーナがケイザス達を尾行する必要は無いと思われる。何よりも対象者の後ろをコソコソついて行くよりも上空から追跡した方が見失う事も無く、見つかる可能性も低い。地上から後をつけるよりも空から付けた方が効率がよかった。


「……ウォッチホーネットは映像を見せる事はできても会話や音を聞かせる事はできないんだ。彼等がどんな事を会話していたのかは直接耳で聞くしかない。だからダークはお前に尾行を任せたんだ」

「あ、成る程ね」


 自分を尾行させた理由を知ってレジーナは納得する。どうやら監視室の事だけでなく、ウォッチホーネットが持つ能力についても忘れていたらしい。

 納得するレジーナの声に対してアリシアの溜め息が再びレジーナの頭の中に響く。それを聞いたレジーナはまた苦笑いを浮かべた。


「……とにかく、もう日が沈みかけている。一度城に戻って来い」

「本当にいいの?」

「ケイザスが入った宿屋はこのままウォッチホーネットで監視する。お前は城に戻ってケイザス達がどんな事を話していたのか教えてくれ」

「……分かった、すぐに戻るわ」


 王城に戻る事を伝えるとアリシアがメッセージクリスタルでの会話をやめたのか彼女の声は聞こえなくなった。メッセージクリスタルでの会話が終わるとレジーナは建物の陰から顔を少し出してもう一度ケイザスとライアが入った宿屋を見る。


「アイツ等、この首都やビフレスト王国の事を色々調べて回っていた。何処かの国の密偵のである事は間違いなさそうね」


 宿屋を見ながらレジーナはケイザス達の正体について呟く。

 レジーナは尾行をしながらケイザス達の会話を盗み聞ぎして彼等がバーネストで何をしているのかなどは大体分かった。だがケイザス達は自分達が何処の国から来たのかなど身分を明かす様な事は一言も喋らなかったのでレジーナはケイザス達の正体までは分からなかった。

 しかしそれでもケイザス達の目的は知る事ができたので尾行も無駄ではなかったと言えるだろう。


「……とりあえず、お城に戻ってダーク兄さん達に奴等の事を知らせないと」


 ダーク達に自分の得た情報を伝える為にレジーナは王城へ戻る事にする。音を立てずに細道を走りながらレジーナは王城に向かった。

 レジーナが細道の奥へ消えた直後、宿屋の二階の窓から一つの人影が警戒する様に外の様子を伺う。窓から外を見ていたのはロックスで宿屋の近くに怪しい人影がないか調べているようだ。


「……つけられてはいないようだな」

「おい、いつまで警戒してるんだよ?」


 窓から外を警戒しているロックスにアラージャがベッドに座りながら声を掛ける。部屋にはベッドが二つあり、一つにはアラージャ、ブライアンが座り、もう一つにはライアとライラ、ペティシアが座ってロックスの方を見ている。

 二つのベッドの前にはケイザスが腕を組みながら立っており、部屋の壁にはマーニがもたれていた。どうやらファゾムの隊員全員が一つの部屋に集まって作戦会議を行うようだ。


「誰かに尾行されているんじゃないか、常に警戒しておくのは当然だろう?」

「この町に入ってから俺等は町の住民に溶け込む様に普通に行動してたんだぞ。後をつけられるのはおろか、怪しまれる事だってありえねぇよ」

「……もしかしたら何か失敗をして気付かれないうちに後をつけられていたかもしれないじゃないか、どっかの女たらしとかがな?」


 警戒心が薄いアラージャにロックスは呆れたのか挑発的な言葉を口にする。それを聞いたアラージャがロックスを睨みながらベッドから立ち上がった。


「ああぁ? 俺がミスを犯したとで言いてぇのか?」

「別にお前だとは言っていないだろう?」

「テメェ……」


 再び挑発するロックスにアラージャの表情は険しさを増し、ロックスもアラージャを睨み返す。二人のやり取りを見て他の隊員達はやれやれと言いたそうな表情を浮かべる。


「それくらいにしておけ。今は作戦会議中だぞ?」

「……チッ!」

「……すみません」


 ケイザスに止められて二人は睨み合いをやめる。アラージャは舌打ちをしながら再びベッドに腰を下ろし、謝罪したロックスは窓から離れてマーニの隣まで移動する。

 全員が静かになり、自分の方を向いている事を確認したケイザスは一度小さく息を吐いてから隊員達を見て口を動かす。


「……では、各チームが得た情報を話してもらう。まずはマーニとペティシア」

「ハイ」


 ベッドに座っていたペティシアは返事をしながら立ち上がり、仲間達の方を向いて自分とマーニが得た情報を話し始める。


「私とマーニは町の北東へ行き、魔法薬などのマジックアイテムを扱っている店などを調べて来たわ。そこには傷を治す魔法薬は勿論、魔法使いの魔力を回復する物、魔法を封印してある巻物スクロールなど、多くのマジックアイテムを扱っていたの。その中には帝都でしか手に入らないよう優れたアイテムも……」

「優れたアイテム? そんな物があるの?」


 ライラは驚きながらペティシアに尋ね、ペティシアはライラの方を向いて頷いた。


「ええ、例えば普通の武器に一定時間属性を宿らせる事のできるマジックアイテム、このアイテムは帝都では200ファリンで売っているけど、この町では半分の100ファリンで手に入るわ」

「は、半分の値段で!?」

「信じられない……」


 帝都では高価なマジックアイテムがバーネストでは半額で手に入る事を聞いてライラは驚きの声を上げ、ライアも目を見開いて驚く。勿論、ケイザスや他の隊員達も同じように驚いていた。


「私達も最初に見た時は驚いたわよ。帝都でしか買う事ができない物が半分の値段で売っていたんだもの」

「その点から考えて、この国の財力やマジックアイテムの生産力はかなりのものだと考えらえれるわ」

「確かに凄いわね……」


 マーニとペティシアの話を聞き、ライアは僅かに汗を掻きながら俯く。ファゾムの隊員達はビフレスト王国のマジックアイテムに対する技術などが予想以上だった事に衝撃を受けたのか一斉に黙り込んだ。


「この国のマジックアイテムと生産力や資金については分かったよ。それで、例の新しいポーションについては何か分かったのかい?」


 沈黙を打ち消す様にブライアンが話を変え、目的の一つである新しいポーションについてマーニとペティシアに尋ねる。ブライアンの質問にケイザス達は一斉にブライアンに視線を向けた。


「少しだけね。その新しいポーションは既にこの町の店で売られていたみたいだから、町の人に聞いて売られてる店に行ってみたわ」

「それで?」

「確かに売られていたわ、私達が今まで見た事の無いポーションがね。店員の話ではどのポーションよりも回復力が高く、重傷もあっという間に治しちゃうとか」

「へぇ、凄いじゃないか」

「まぁ、実際に使われているところを見た訳じゃないから、本当かどうかは分からないけど」


 直接効力を目にした訳ではないので信頼性に欠ける、ペティシアは肩を竦めながらそう話し、他の隊員達も確かにそうだ、と言いたそうな表情を浮かべていた。

 使った事が無く、始めて目にする物の効力がどれだけ凄いのか聞かされてもその目で見ないと信じられない。だが、店員も証明する為だけに貴重なポーションを使う事はできなかった。効力を知る為には購入して使うか、アイテムを鑑定する能力を持つ職業クラスの者に見せるしかないのだ。


「それで、その新しいポーションは手に入れたのか?」


 アラージャが腕を組みながら低い声でポーションを手に入れたのか尋ねるとペティシアは軽く首を横に振る。


「いいえ、手に入れてないわ。他のポーションと違って目の飛び出るような値段だったから隊長の許可を得てから買おうと思ったの」

「ケッ、真面目な奴だな。俺だったら金なんて気にせずに買ってたぜ?」


 ポーションを手に入れなかったペティシアに対してアラージャは小馬鹿にする様な口調で言い、それを聞いたペティシアはムッとアラージャを睨み付ける。


「そういう貴方はちゃんと仕事をしたのでしょうね?」

「当たり前だ。町の住民達に片っ端から話を聞いたぜ?」


 ペティシアの問いにアラージャは笑いながら答える。ペティシアは仕事をちゃんと熟したアラージャを少し悔しそうな表情で見つめた。すると、壁にもたれているロックスがアラージャを見ながら呆れ顔で口を開く。


「何が片っ端から話を聞いただ。お前は町の若い女達を口説いたり、今夜付き合わないかとか言ってただけじゃないか」


 ロックスは町に着いてからアラージャが本当は何をしていたのかケイザス達の前で話すとそれを聞いたケイザス達はやっぱりな、と言いたそうな顔でロックスの方を向いた。

 ケイザス達は全員アラージャが女癖が悪い事を知っているので、バーネストに着いたら必ず仕事をしながら若い女を口説くであろうと予想していたのだ。実際アラージャは過去に何度も任務先の若い女を口説いたり、任務先にある町にある娼館などに出かけて行ったりなどしていた。


「ロックス、テメェ何余計な事を言ってやがるんだ」


 アラージャは真実を仲間達に話したロックスを睨みつけ、ロックスもアラージャを睨み返す。部屋の中に再び緊迫した空気が漂い出した。


「俺は本当の事を正直に言っただけだ。大体こういう事を言われたくなかったら日頃から真面目に仕事をしろよ」

「何だとぉ?」


 ロックスの挑発的な言葉にアラージャはまた立ち上がり、ロックスも壁にもたれるのをやめて構える。

 再び喧嘩を始めた二人を見てケイザスは溜め息をつき、二人を止めようとした。するとライアが立ち上がり、ロックスとアラージャに鋭い視線を向ける。


「二人とも、いい加減にしなさい! 作戦会議中よ? 喧嘩なら会議が終わってからにしてよね!?」


 力の入ったライアの声を聞き、ロックスとアラージャは不満そうな表情をしながら睨み合うをやめる。


「フフフ、年下にお説教されるなんて、君達もまだまだ未熟だね?」


 注意されたロックスとアラージャを見てブライアンはクスクスと笑い、ロックスとアラージャは笑うブライアンをキッと睨んだ。ブライアンは睨んでくる二人を見て、おおぉ怖いと言いたそうな反応を見せた。


「……とにかく、我々はまだこの町の、いや、この国の事について詳しい事は分かっていない。明日も今日と同じように市場など人の集まる所へ行き情報を集める」


 ロックスとアラージャが大人しくなるとケイザスは作戦会議を続ける。ケイザスが話し始めると隊員達も視線をケイザスに向けた。


「明日は朝から情報収集を行う、各自準備を整えてしっかり休んでおけ」

「隊長、今夜は何もしないんですか?」


 ライラが手を上げて夜は何もしないのかケイザスに尋ねた。

 他国の町に潜入して情報を集めるなら町の住民から話を聞くのがいいと言われている。だが、夜になれば明るい時間に近づけない場所に近づいて住民からは得られないような重要な情報を得る事も可能だ。特殊部隊ファゾムの隊員であるケイザス達は今までの任務でも深夜に行動して情報を集めたり重要施設に潜入したりなどしていた。

 ライラが初日の深夜に町の中を調べないのか疑問に思いながらケイザスを見る。すると隣にいるライアが声を掛けて来た。


「まだよ。私達は今日この町に来たばかりで町の中がどうなっているのかまだ把握していないわ。夜中の行動は重要な建物の場所なんかをちゃんと理解してからよ」

「重要な建物や目的地が何処にあるのか分からない状態で夜の街中をウロウロしているのを警備兵などに見つかれば面倒な事になる。警備兵に見つからず短時間で仕事を終わらせるには建物の位置をしっかり把握しておかないといけないからな」


 ライアとロックスが今夜は何もしない理由を説明するとそれを聞いたライラは納得した表情を浮かべる。そんな妹の反応を見たライアはそれぐらい分かるでしょう、と言いたいのか呆れ顔で小さく溜め息をついた。

 それからケイザスは隊員達に明日情報を集める場所やチームの組み合わせ、担当する場所などを話し、隊員達はそれを黙って聞く。隊員の中にはチームの組み合わせや担当場所が気に入らずに不満そうな顔を見せたりしたが、最終的には全員が納得して作戦会議は終わった。

 作戦会議が終わるとファゾムの隊員達は部屋を出て自分達の部屋に戻って行く。先程まで作戦会議をしていた部屋はライアとライラの部屋だったので二人は部屋に残り明日の準備をする。

 廊下に出た隊員達はそれぞれ自分達の部屋の前までへ移動した。全員が部屋の前まで移動するとケイザスが隊員達の方を見て口を開ける。


「分かっていると思うが、くれぐれもこの町で問題を起こすな? 問題を起こせば我々が帝国の人間である事がこの町の住民達に気付かれてしまうかもしれないからな」

「フッ、んな事分かってるぜ」

「隊長は心配性だなぁ」


 ケイザスの忠告をアラージャとマーニは笑いながら軽く流して部屋へと入り、二人の後に続く様にブライアンとペティシアが部屋へと入る。

 笑いながら部屋に入ったアラージャとマーニを見たケイザスは心の中で本当に分かっているのか、と思いながら呆れ顔で部屋に入り、ロックスも同じような気持ちでケイザスと同じ部屋に入って行った。


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