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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十三章~帝国の密偵者~
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第百五十五話  全てを見抜く眼


「……以上が南門を通過した怪しい一団についてです」


 カランダスは南門での一件について全て説明した。ダークはカランダスの話を聞いて低い声を出し、アリシアとノワールも真剣な表情を浮かべている。

 名前を偽り、二つ星冒険者や商人とは思えない持ち物や装備品を持つ。確かに普通の一団とは思えなかった。内容を聞いたダークはこれなら国王である自分に知らせに来てもおかしくないと感じる。


「ドルジャス殿はこの事を陛下に知らせ、急ぎその一団を見つける捜索隊を派遣してほしいと言っておりました」

「そうか……」


 ダークは腕を組みながら再び低い声を出し、腕を組みながら小さく俯く。


(……名前や身分を偽るという事は少なくとも同盟を結んだセルメティア王国やエルギス教国の人間ではないな。同盟国の人間なら名前や身分を偽る必要なんてないし、何よりも偽って町に入るなんて事がバレれば国同士の友好関係が悪くなる。セルメティア王国とエルギス教国がそんな事をするとは思えない……となると、そのケイザス、ブライアンとか言う男達とのその仲間は同盟国以外の国から来た人間って事になるな)


 アリシア達が見ている中、ダークは腕を組んだまま心の中で怪しい一団の正体について考える。同盟国以外の国の人間、もしくはその国に雇われた存在など、ダークはあり得る可能性を全て考えていく。

 黙り込んだまま何も言わないダークをカランダスはジッと見ている。できれば早く判断を下してほしいと思っているのか、その表情には少し焦りが見られた。


「あ、あのぉ、陛下? 申し訳ありませんが、お早くご決断をしていただきたいのですが……」

「ダーク陛下は今その事を考えていらっしゃるのだ、黙って待て!」

「ハ、ハイ!」


 急かすカランダスをアリシアは僅かに力の入った声で注意をし、注意されたカランダスはアリシアの方を向いて驚きの表情を浮かべながら返事をする。カランダスはダークの方を向き、黙って彼が答えを出すのを待つ。

 しばらくするとダークは腕を組むのをやめて顔を上げる。答えが出たと感じたカランダスはダークの顔を見て僅かに表情を変えた。


「話は分かった。そのケイザスと名乗る男とその仲間である怪しい一団とやらを捜索する事にしよう」

「では、捜査隊を……」

「いや、わざわざ捜索隊を編成する必要は無い」


 捜索隊は出さないと言うダークの言葉にカランダスは驚く。アリシアとノワールはダークがなぜ捜索隊を出さないのか気付いているらしく、表情を変えずにダークを見ている。


「ウォッチホーネット達を使ってその一団を探すのですか?」

「その通りだ」


 ノワールの質問にダークは頷いて答える。ノワールはやっぱり、と言いたそうな顔をしながら小さくコクコクと頷く。アリシアもノワールと同じような表情を浮かべながらダークを見ている。

 常に首都の中を飛び回っているウォッチホーネットなら多少時間は掛かるとしても必ずケイザス達を見つける事ができる。見つけた後は監視室で居場所を特定し、そこに人員を送りこむだけなのでわざわざ捜索隊を編成して送る必要も無かった。

 早速出来上がったばかりの監視室が役に立つと感じてノワールは笑みを浮かべながらダークを見ており、アリシアも微笑みを浮かべている。だがここでアリシアはある事に気付き、腕を組みながら小首を傾げた。


「……ダーク、いや、ダーク陛下、ちょっと気になる事があるのですが……」

「何だ?」

「その怪しい一団、一体どんな顔、容姿をしているのでしょうか?」


 アリシアの質問を聞き、ダーク、ノワール、カランダスは一斉にアリシアに視線を向ける。


「カランダスの話ではその一団は商人を名乗る男以外は全員フード付きマントで姿と顔を隠していたのでしょう? いくらウォッチホーネットを使って奴等を見つける事ができても、ソイツ等の顔や姿格好が分からなければ見つける事ができないのでは?」


 どんな姿、顔をしているのか分からなければ探す事ができない、アリシアが口にする疑問にダークの肩に乗っているノワールはあ、と口を開く。確かに首都全体を探す事ができても姿や顔が分からなければ探し様がない。ノワールは最も重要で単純な事を忘れていた。


「それでしたらご心配なく、ドルジャス殿や検問を担当している者達がソイツ等の顔を見ておりますので……」

「一団を見てから既に三十分が経っているのだぞ、正確に覚えているのか? 大体の年齢、髪型、髪や目の色、情報の内一つでも間違っていたり、忘れたなんて事があれば探すのが大変になるのだぞ?」

「そ、それはぁ……」


 真剣な表情で尋ねて来るアリシアにカランダスは言葉に詰まる。自分ではなく、ドルジャス達が見たので自信をもって覚えているとは言えない。しかもドルジャス達はケイザス達の顔を覚えておこうと思いながら見ていた訳ではないので、彼等がケイザス達の顔をちゃんと覚えている可能性も低かった。

 更にケイザスとブライアン以外の仲間は全員フード付きマントで顔を隠していたので仲間の顔は分からない。ドルジャス達がハッキリと覚えているか分からず、仲間の顔をも分からない。ケイザス達を見つけるのは非常に困難な状況だった。

 困り顔のカランダスと彼を見ながら両手に腰を当てるアリシア、二人の姿をダークは何も言わずに見ている。すると肩に乗っているノワールが小声でダークに話しかけて来た。


「マスター、どうします? 僕がドルジャスさんにドローイングの魔法を使って紙にその男達の似顔絵を描きますか?」

「いや、ドローイングは記憶が鮮明に残っていればハッキリと絵が描けるが、記憶が曖昧な状態で使っても綺麗な絵は描けない。試してみる価値はあるが、上手く描ける可能性は低いだろうな……」

「では、どうしますか?」


 ドルジャス達の記憶がちゃんと残っているか分からない状態ではドローイングが成功する可能性は低いと聞き、ノワールが少し不安そうな表情を浮かべる。するとダークはノワールの小さな頭をそっと優しく撫でた。


「心配するな、ちゃんと手は打ってある」

「え?」


 余裕の態度を見せるダークにノワールは不思議そうな顔をする。ダークはノワールの頭から手を退かすと視線をアリシアとカランダスに戻した。


「とりあえず、私はこれから南門へ向かう。アリシア、君は監視室で待機していろ」

「え、監視室で?」


 声を掛けられたアリシアは不思議そうな表情を浮かべてダークの方を向く。カランダスも同じような顔でダークの方を見ている。


「それはどういう事なんですか?」

「実は門に配置してあるサーチスパイダーにはあるマジックアイテムを持たせてある。そのマジックアイテムを使えばその一団の事が分かるはずだ」

「モンスターにアイテムを?」


 ダークの口から出た意外な言葉にアリシアは目を見開いて驚いた。勿論、隣で話を聞いていたカランダスもだ。

 LMFではサモンピースや特殊なマジックアイテムで召喚したモンスターはNPCとして自由に操る事ができる。だが、それ以外にもプレイヤーが持つアイテムを召喚したモンスターに持たせて強化する事もできるのだ。回復アイテムを持たせればHPが低くなった時に使用し、武器や防具の様な装備アイテムを持たせればそれを装備して戦う。ただし、モンスターによって持たせる事ができるアイテムは決められているので全てのアイテムを持たせる事はできない。

 ダークはそのLMFの設定が異世界でも生きている事に気付いた時に手元にいるモンスターに幾つかのアイテムを与えていた。勿論、より首都バーネストの防衛力やビフレスト王国の戦力を強化する為だ。サーチスパイダーにも監視用モンスターとしての性能をより上手く使えるようなマジックアイテムを与えていた。


「一体どんなアイテムを持たせたのですか?」

「メモリークリスタルだ」

「メモリークリスタル?」


 初めて聞くアイテムの名前にアリシアは小首を傾げながら訊き返す。そんなアリシアを見てダークはポーチに手を入れ、メッセージクリスタルと同じくらいの大きさの丸い水色の水晶玉を取り出してアリシアに見せた。


「それがメモリークリスタルなのですか?」

「ウム、これは持ち主がその目で見た光景を記録する事ができるアイテムなのだ」

「記録する? 目で見た光景を?」


 LMFにはまだこんな凄いマジックアイテムがあるのか、アリシアはそう思いながらダークが持つメモリークリスタルを見つめる。

 <メモリークリスタル>はLMFでは何処の町のショップでも購入する事ができる激安のマジックアイテムの一つである。使用すると持ち主であるプレイヤーが見た光景を記録し、好きな時に記録した映像を見る事ができるのだ。しかも記録できる時間には限りが無く、止めるまで何時間でも記録する事ができる。ただし一度記録を止めてしまうとそのメモリークリスタルではもう記録する事はできない。主な使い方は自分のゲームプレイ映像の記録や敵を攻略する為の参考などに使われるが、それ以外にも使い方は色々ある為、LMFでは多くのプレイヤーが持ち歩いていた。


「サーチスパイダーに持たせたメモリークリスタルの映像を見ればケイザスと言う者達の顔が分かりはずだ。それを見ながらノワールの記憶描絵ドローイングで羊皮紙に似顔絵を描く、そしてそれを監視室に届けてケイザス達を探す、という訳だ」

「成る程、それなら間違える事無くすぐに見つける事ができますね……」


 ダークの作戦を聞いたアリシアは真剣な表情を浮かべながら納得する。ノワールもそれなら確実に正確な似顔絵を手に入れられると納得の表情を浮かべていた。


「では、私とノワールはカランダスと共に南門へ向かう」

「分かりました、私は監視室で待機します」


 指示を聞いたアリシアを廊下を走って監視室へ向かい、アリシアが走って行く姿を見た後、ダークはカランダスを連れて王城を出て南門へ向かった。

 南門に到着するとダークはドルジャスやモニターレディバグの映像を見ていた青い悪魔族モンスターからケイザス達について詳しい話を聞く。部屋にはダーク達以外にカランダスと別の騎士が一人控えており、騎士は国王であるダークが自分達の職場に来た事に驚いているのか監視室の隅でダーク達の会話を見ている。隣の部屋で検問をしている女騎士達も隣の監視室にダークがいる事で緊張しているのか仕事に集中できずにいた。因みに南門から町を訪れた人達はダークが南門に来ている事に気付いていない。


「……では、その一団は全部で八人いたのだな?」

「ええ、顔はハッキリと見えませんでしたが、人数は間違いなく八人でした」


 ドルジャスは自分が確認した一団の人数をダークに伝え、それを聞いたダークは腕を組みながら俯く。ドルジャスやカランダス達はそんな考え込むダークの姿をジッと見つめている。


「……僅か八人で全員がレベル40代、何処の国から来たかはまだ分からんが、少なくとも普通の冒険者や兵士ではない事は間違いないだろう」

「では、やはり暗殺者でしょうか?」


 真剣な表情を浮かべたドルジャスがダークにケイザス達の正体について尋ねる。ダークはドルジャスの方を向くと小さく首を横に振った。


「まだ分からん、奴等の正体を調べるには情報が少なすぎるからな。まずは奴等を見つけて何処の国の者なのかを調べるのが先だ」


 細かい事はケイザス達を見つけてからとダークはドルジャスを見ながら低い声を出した。

 ダーク達がケイザス達の事について話していると監視室の扉が開いて少年姿のノワールが部屋に入って来た。南門に到着するとノワールはダークと別れて門の天井に張り付いているサーチスパイダーからメモリークリスタルを受け取りに行っていたのだ。

 部屋に入って来たノワールに気付き、ダーク達は一斉にノワールに視線を向ける。ノワールはダークの前まで移動し、手に持っているメモリークリスタルを差し出した。


「マスター、メモリークリスタルを持ってきました」

「ご苦労だったな、ノワール」


 ダークはノワールからメモリークリスタルを受け取るとモニターレディバグと悪魔族モンスターが乗っている机の前に移動してメモリークリスタルを机の上に置く。ノワールやドルジャス、そして控えていたカランダスと騎士も机に前に集まってメモリークリスタルを見つめる。


「では早速、ケイザス達がどんな顔をしているのか見せてもらうとしよう」


 そう言ってダークはゆっくりとメモリークリスタルに手をかざした。すると、メモリークリスタルは光り出し、ドルジャス達は突然光り出した水晶に驚き目を見開く。

 ドルジャス達が驚いているとメモリークリスタルからモニターレディバグが映像を映し出す様に映像が浮かび上がる。そこに映されているのは南門の天井から真下を見下ろしている光景だった。


「ダーク陛下、これは?」

「サーチスパイダーが見ていた映像だ。この水晶には持っている者が見たもの、光景を記録する力があるのだ」

「そ、そんなマジックアイテムがあるのですか……」


 メモリークリスタルの事を初めて知ったドルジャスや騎士は映像を見て驚く。カランダスも話は聞いていたが実際に映像が記録されているのを見るのは初めてだったのでドルジャスや騎士の様に驚いている。

 ドルジャス達が驚いている中、メモリークリスタルの映像は流れていく。門を通過する人間や亜人、彼等が乗っている馬車など色々なものが映し出されていった。だが肝心のケイザス達の映像はなかなか流れてこない。


「なかなか映りませんねぇ……」

「ケイザス達ガ門ヲ通過シタノハ数十分前デス、恐ラク最後ノ方ニ映シ出サレルト思イマス」


 映像を見て悪魔族モンスターは最後の方にケイザス達の姿が映されるのではと話し、それを聞いたノワールはあっ、と反応した。


「なら、映像を最後の方に飛ばして探すとしよう」


 ダークはメモリークリスタルを指で軽く触る。すると映し出されている映像がまるで早送りをしているかの様にもの凄い速さで動き出し、その光景を見てノワールと悪魔族モンスターはおおぉ、と言う表情を浮かべた。

 一方でドルジャス達はもの凄い速さで流れている映像を見て驚きのあまり言葉が出なくなったのか無言でポカーンと映像を見ていた。

 しばらく早送りをしていると映し出されている映像の中に数人のフード付きマントを被った人間が映り、それを見た悪魔族モンスターはフッと反応する。


「コイツ等デス!」


 悪魔族モンスターの言葉を聞いてダークは指をメモリークリスタルから離して早送りを止める。そこには確かに六人のフード付きマントを装備した人間の姿があり、全員が高級そうな武器などを持っていた。


「コイツ等がケイザス達の仲間か?」

「ハイ、間違イアリマセン」


 ダークが確認すると悪魔族モンスターは頷き、ダークは映像を見つめながら目を赤く光らせる。ノワールも真剣な顔で映像に映されている六人を見ていた。さっきまで驚いていたドルジャスも我に返り、鋭い目で映像を見つめている。

 しばらく映像を見ていると検問室からケイザスとブライアンが出て来る。それを見たダークはメモリークリスタルを指で素早く二回突く。すると映像はケイザスとブライアンが出て来たところで一時停止をしたかの様に止まった。


「コイツかケージンを名乗ったケイザスとアルと言う商人を名乗ったブライアンか」


 映像に映っているケイザスとブライアンの顔を見てダークは呟き、隣にいるノワールも真剣な表情で映像を見ている。


「よし、ノワール、頼むぞ?」

「ハイ」


 指示を受けたノワールは机の上に置いてある羊皮紙を手に取り、映像に映っているケイザスの顔を見ながら羊皮紙を持っていない方の手を羊皮紙にかざした。


記憶描絵ドローイング!」


 ノワールが魔法を発動させるとかざしている手が薄っすらと青く光り出す。すると羊皮紙に黒い液体の点が現れ、勝手に何かを描き始める。まるで見えないペンが勝手に絵を描いているようだった。

 記憶描絵ドローイングを発動させてから数秒後、羊皮紙に映像に映されているケイザスの顔と同じ似顔絵が描かれた。ノワールは描かれた似顔絵と映像のケイザスの顔を見比べてしっかり描けているのを確認するとダークに羊皮紙を手渡して新しい羊皮紙を手に取り、再び記憶描絵ドローイングを発動させてもう一枚ケイザスの似顔絵を描く。それが終わると今度はブライアンの似顔絵を同じように記憶描絵ドローイングで二枚描き始めた。

 ブライアンの似顔絵が出来上がるとダークはケイザスとブライアンの似顔絵が描かれた羊皮紙を一枚ずつ手に取り、ノワールは残りの二枚を持ってダークを見上げている。


「ノワール、お前はその二枚を城にいるアリシアに届け、監視室から奴等を探せ。私は此処に残ってレジーナ達を呼び、この二人とその仲間達を探す様よう伝える」

「分かりました、発見次第すぐに報告します……テレポート!」



 転移魔法を発動させたノワールの体は一瞬にして消え、それを見たドルジャス達は驚いて僅かに声を漏らした。

 ノワールが消えるとダークはポーチに手を入れてヴァレリアが開発したメッセージクリスタルの試作品を取り出す。


「試作品がどんな物なのか、早速使わせてもらうとしよう」


 この世界の材料で作られたメッセージクリスタルの性能がどれ程のものなのか、ダークは楽しみに思いながらメッセージクリスタルの試作品を使い、町の何処かにいるレジーナ達に連絡を入れる。

 王城の監視室ではアリシアがモニターレディバグが映し出している映像を黙って見ている姿があった。アリシアに見られている中、監視室を管理する騎士や白銀騎士達は仕事をしている。

 騎士は総軍団長であるアリシアに見られているのが気になるのか少し仕事に集中できずにいた。だが、白銀騎士達はアリシアに見られている事など気にもせずに黙々と仕事をしている。そんな白銀騎士達の姿を見て、騎士はしっかりしているな、と心の中で感心するのだった。

 アリシアが監視室の様子を見ていると彼女の隣に突然ノワールが現れる。いきなり現れたノワールに騎士は驚きの反応を見せるが、アリシアはノワールが魔法を使って転移して来た事にすぐに気付いたので驚く事は無かった。


「アリシアさん、お待たせしました」

「分かったのか?」

「ハイ、ここに似顔絵があります」


 ノワールは持っている羊皮紙を差し出し、アリシアはそれを受け取って描かれているケイザスとブライアンの似顔絵を見る。一体何が目的で偽名を使い、このバーネストにやって来たのか、アリシアは似顔絵をジッと見つめながらケイザス達の目的を考えるのだった。

 ケイザスとブライアンの顔を確認したアリシアは騎士に近づき、持っている羊皮紙を騎士に渡した。


「この似顔絵の男達を探してくれ。この町の何処かにいるはずだ」

「あ、ハイ、分かりました」


 羊皮紙を受け取った騎士はモニターレディバグの映像を見ている白銀騎士達に似顔絵の描かれた羊皮紙を見せてケイザスとブライアンを探すように指示を出す。

 白銀騎士達は騎士の指示に返事をしなかったが、モニターレディバグの映像に視線を戻すと言われた通りケイザスとブライアンを探し始めた。モニターレディバグを通じて町の中にいるウォッチホーネット達を操り、町の隅々まで調べていく。


「……どの位で見つかると思う?」


 アリシアが作業をしている白銀騎士を見ながら隣に立っているノワールに見つかるまでにかかる時間を尋ねた。ノワールはチラッとアリシアを見てから彼女と同じように白銀騎士達に視線を向ける。


「分かりません。首都には結構な数のウォッチホーネットがいますが、それでもこの広い首都の中から二人の男を見つけるにはそれなりの時間が掛かるでしょう……少なくとも三十分は掛かるのではないでしょうか」

「三十分か、できれば早く見つけて彼等が何者で何しにこのバーネストに来たのか知りたいのだがな」

「……今の僕等にできるのは、ウォッチホーネット達が早くあの二人を見つけてくれるよう祈るだけですね」


 ノワールの言葉を聞き、神頼みしかできない現状にアリシアは深く溜め息をつくのだった。

 ウォッチホーネット達を使って捜索を始めてからしばらく経ち、アリシアはどれだけ時間が経ったのか懐中時計を取り出して確認する。


「……捜索を始めてからニ十分、ノワールの言う通り、簡単には見つからないな」

「偽名を使って町に入った事から、敵は恐らく潜入や隠密行動を得意とする人達でしょう。自分達の正体が敵に感づかれる事を警戒して目立った行動を取ったり、目立つ場所へ行く事はできるだけ避けるはずです」

「潜入や隠密行動が得意とする連中か、本当にソイツ等は何者なん……」


 何者なんだ、アリシアがそう言おうとした瞬間、モニターレディバグの映像を見ていた白銀騎士の一人がアリシアとノワールの方を向いて手を上げる。それに気付いたアリシアとノワール、そして監視室を管理している騎士は手を上げた白銀騎士の下へ移動した。


「見つけたんですか?」


 ノワールが白銀騎士に尋ねると白銀騎士は何も言わずにモニターレディバグの映像を指差した。アリシア達は目を細くして映像を見る。そこには確かに似顔絵と同じ顔の男、ケイザスが街道を歩いている姿があった。南門を通過した時の様にフード付きマントは身に着けておらず、ごく普通の冒険者の様な格好をしている。そんなケイザスの隣には茶色い短髪に赤と橙色の服装をした少女が歩いている姿があった。


「……いましたね」

「ああ、予想していたよりも早く見つかってよかった」

「隣にいる女の子は誰でしょう?」

「分からない。だが様子からしてケイザスの仲間である事は間違いなさそうだ」

「そう言えば、南門のサーチスパイダーが持っていたメモリークリスタルにケイザスの仲間と思われるフード付きマントを身に付けていた人が六人ほどいました」

「その六人の内の一人だろうな、この少女は……」


 アリシアとノワールは映像に映るケイザスと少女を見ながら二人の関係について話し、二人の会話を騎士は黙って聞いている。


「とりあえず、ケイザスを見つけた事をマスター達に報告しましょう」

「ああ。この映像からすると、彼等がいるのは町の西側にある市場だな」


 映像を見てケイザス達が何処にいるのかを知ったアリシアは懐からメッセージクリスタルを取り出す。アリシアはダークの事を考えながらメッセージクリスタルを使用し、水色に光り出すとメッセージクリスタルに向かって話しかける。


「ダーク陛下、私です」

「アリシアか?」


 メッセージクリスタルからダークの声が聞こえ、アリシアとノワールは真剣な表情でメッセージクリスタルを見つめた。


「ハイ、例の二人の内、ケイザスの方を発見しました。十代くらいの少女を連れて西の市場にいます」

「十代くらいの少女?」

「恐らく、ブライアンと同じ彼の仲間と思われます」

「……分かった、レジーナに西へ向かうよう伝える。それでブライアンの方をどうだ?」

「すみません、そっちはまだ発見できていません」

「そうか……とりあえず、君はノワールと共にそこでケイザス達を監視し続けろ。私も姿を変えてレジーナ達と共に奴等を探す」

「分かりました」


 アリシアが返事をするとメッセージクリスタルから光が消え、高い音を立てながら砕け散り、光の粒子となって消滅する。ダークへの報告が終わるとアリシアとノワールはダークの指示通り監視室に残ってケイザスの動きを監視し、ブライアンと他の仲間を探し始めた。


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