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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十二章~新国家の騎士王~
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第百五十話  魔を狩る者達


 廃砦の前の広場ではノワール達が目の前にある門を見上げている。彼等の周りには大勢の悪魔族モンスターがおり、ノワール達を見張る様にジッと見ているがノワール達は悪魔族モンスター達の視線を気にしている様子は無かった。

 ダークとアリシアが廃砦に入ってから既に十分ほどが経過しており、ノワール達はその場を動かずにダークとアリシアが戻って来るのを待つ。待っている間、ノワール達は話し合いが上手くいくのかなど色んな事を考えていた。


「……ダーク兄さん達、今頃エファリーナとか言う魔族と話し合いをしているのかしら?」

「ええ、多分そうでしょう」


 レジーナが門を見つめながら前にいるノワールに小声で話しかける。ノワールも悪魔族モンスター達に聞こえないように小さな声で返事をした。


「ねぇ、アンタはどう思ってるの? 敵のボスが素直にダーク兄さんに従うと思う?」

「……思っていません。勝手に近くの森などを自分の物にしようなんて考える魔族ですよ? きっと自分の事を第一に考えるプライドの高い性格をしているはずです。そんな性格の持ち主が素直に人間に服従するとは思えません」

「それじゃあ、交渉は決裂して戦闘になるって事?」

「その可能性は高いです。ですからレジーナさん達もいつでも戦えるようにしておいてください?」


 真剣な表情を浮かべながら小声で話すノワールを見てレジーナは小さく頷き、ジェイクとマティーリアにも臨戦態勢に入るよう伝える。話を聞いたジェイクとマティーリアも真剣な表情を浮かべて周囲の悪魔族モンスターへの警戒心を強くした。

 悪魔族モンスター達は小声で話すノワール達を見て何を話しているんだ、と思いながらノワール達を睨み付ける。本当なら何を話していたのか聞き出したいのだが、主人であるエファリーナの許可が無い以上は手を出せない。今はただ黙ってノワール達を見つめる事にした。

 広場に緊迫した空気が漂う中、突然廃砦の門が開き、広場にいる者達は一斉に門の方を向く。二枚の門の片方が開き、廃砦の中から一匹のブラッドデビルが出て来る。

 ブラッドデビルは小さな翼をはばたかせ、近くにいる門番のオックスデーモンの顔の隣まで移動した。そしてオックスデーモンの耳元で何かを小声で伝え始める。ノワール達はブラッドデビルがオックスデーモンに何を話しているんだと思いながら黙ってブラッドデビルを見つめていた。

 しばらくしてブラッドデビルはオックスデーモンから離れて地面に下り立つ。そしてブラッドデビルから話を聞いていたオックスデーモンは二ッと小さく笑いノワール達の方を向き、骨の斧の柄の先で地面を強く叩く。


「お前等、コイツ等を始末しろ!」


 オックスデーモンは部下の下級の悪魔族モンスター達に力の入った声で指示を出す。それを聞いたノワール達は目を見開きながらオックスデーモンの方を見た。

 ブラッドデビルやヘルハウンド、体中に無数の目や口を付けた茶色い人型の悪魔は一斉に動き出してノワール達を包囲する。レジーナ、ジェイク、マティーリアの三人は自分達の武器を手に取り、仲間に背を向けながら構えて悪魔族モンスター達を睨む。だがノワールだけは構える事無く、杖を持ったまま悪魔族モンスター達に命令したオックスデーモンの方を見ている。


「いきなりどういうつもりですか?」


 ノワールが落ち着いた様子でオックスデーモンに尋ねる。口調は静かで礼儀正しいが目は鋭くなっており、僅かだが怒りが感じられた。

 オックスデーモンは小さな体で睨み付けるノワールの顔を見ておかしいのかニッと笑いながらノワールを見下ろし、骨の斧の柄で自分の手をポンポンと軽く叩く。


「エファリーナ様はお前等のご主人様を殺すと決められたそうだ。俺はお前等が砦に来た事をエファリーナ様に伝えた時、もし交渉が上手くいかなかった場合はお前等を殺すようエファリーナ様から指示を受けていたんだ。そして交渉は決裂し、エファリーナ様はお前のご主人様を殺す事にした。だから今からお前等も此処で殺すって訳だ」

「……成る程、マスターとアリシアさんが砦に入った後にコソコソと話していた事をそれだったんですね」


 ノワールはダークとアリシアがエファリーナに会いに廃砦に入った後、オックスデーモンが仲間のオックスデーモンと小声で何かを話していた時の事を思い出し、その内容が今起きている事についてなどだと知り納得する。

 先程オックスデーモンの耳元で話していたブラッドデビルはダークとアリシアをエファリーナがいる部屋まで案内したブラッドデビルで二人を案内した後、部屋の外で待機していたのだ。そしてしばらくして、部屋の中からエファリーナがダーク達を皆殺しにするという怒鳴り声を聞き、交渉が決裂したと知って廃砦の外にいるオックスデーモン達にその事を知らせに向かった。


(他の悪魔族モンスターと違って冷静に話をしてくれると思っていたのに……結局エファリーナも他の悪魔達と同じって事か)


 自分達に都合のいいように交渉は進まなければ即座に敵と見なして排除するというエファリーナの考え方を知ったノワールは心の中で呆れる。レジーナ達もその話を聞いて部下が部下なら主人も主人だとノワールと同じように呆れた。

 ノワール達が呆れた表情を浮かべていると取り囲んでいる悪魔族モンスター達がゆっくりとノワール達に近づいて来る。それに気付いたノワール達は周りにいる悪魔族モンスター達に集中した。

 廃砦の周りにいた悪魔が全員集まったのか悪魔族モンスターはパッと見ても四十体以上はいる。その中にはオックスデーモンの様な中級の悪魔族モンスターも何体かおり、セルメティア王国軍の二個中隊を軽く蹴散らせるぐらいの戦力だった。


「これは、ちょっと数が多いわね」

「ああ、英雄級の実力者でもこの数はちと骨が折れそうだ」

「何を弱気になっておる? 妾達ならこの程度の修羅場、何度も乗り越えてきたはずじゃろう」


 マティーリアはレジーナとジェイクに話しかけながらジャバウォックを構え、視界に入っている悪魔族モンスター達に鋭い視線を向ける。マティーリアの言葉を聞いてレジーナとジェイクは小さく笑い、確かにそうだなと思いながらテンペストとタイタンを強く握った。


「それにこちらにはノワールと言う最強の魔法使いがおるのじゃ、妾達に敗北はない」

「フッ、違いねぇ!」

「ノワールがいるんだから、大丈夫よね」


 闘志に火が付いたのかジェイクとレジーナは笑いながら力の入った声を出す。三人の話を聞いたノワールは目を閉じながら嬉しそうに小さく笑みを浮かべた。


(ここまで信頼されているのなら、僕も本気を出さないといけないな。マスターからも襲ってきたら全力で戦えって言われてるし)


 廃砦に入る前のダークから言われた言葉を思い出し、ノワールはゆっくりと目を開けて杖を握り全力で敵と戦い、レジーナ達を援護すると決める。

 一方、悪魔族モンスター達はレジーナ達の会話を聞き、自分達に勝つつもりでいると知って笑い出す。たった四人でその十倍近くの戦力を持つ自分達に勝つつもりでいるのだから、馬鹿かおめでたい連中だと感じて笑ってしまうのは当然だ。


「たった四人で俺達に勝つつもりでいるのか!? お前等、正真正銘の馬鹿だなぁ?」


 オックスデーモンは大きく口を開けながらノワール達を馬鹿にする。ノワール達は笑う悪魔族モンスター達をただ黙ってジッと見ていた。

 悪魔族モンスター達はオックスデーモンを傷つけたダークがいなければノワール達を簡単に捻り潰せると考えていた。しかし、すぐにその考え方が間違いだったと気付く事になる。

 ノワールは大笑いする悪魔族モンスター達を見ながらゆっくりと一歩前に出て鋭い視線を悪魔族モンスター達に向ける。


「……僕達が馬鹿かどうか、貴方達の目で確かめてみてください」


 低い声でそう言い、ノワールは杖を掲げる。するとノワールとレジーナ達の頭上に大きな緑色の魔法陣が展開され、その中央に青白い雷球が作られた。悪魔族モンスター達は突然真上に展開された魔法陣を見上げて不思議そうな顔をしている。


滅びの雷ぺリッシュサンダー!」


 ノワールが叫んだ瞬間、雷球から無数の電撃が落雷の様に悪魔族モンスターに襲い掛かる。電撃を受けた悪魔族モンスター達は全身の痛みに断末魔を上げ、すぐ近くにいた別の悪魔族モンスターもその巻き添えを受けて電撃の餌食となった。

 やがて電撃は治まり、餌食となった悪魔族モンスター達の体は消滅し、黒焦げになった体の一部が地面に落ちていた。

 <滅びの雷ぺリッシュサンダー>は周囲に雷を落として攻撃する風属性の上級魔法。攻撃力は高く、敵に囲まれた時には一度に多くの敵を倒す事ができる。使用者の頭上に大きめの魔法陣を展開し、その周りに雷を落とすので魔法陣の下にいる者は雷に当たる事はない。その為、近くに仲間がいても魔法陣の下にいれば仲間が雷を受ける心配もないのだ。

 ノワールの魔法によって取り囲んでいた悪魔族モンスターの内、ニ十体ほどが消滅した。普通なら半分の十体ほどしか倒せないのだが、悪魔族モンスター達が仲間同士くっついていたので多くの敵を倒す事ができたのだ。

 魔法陣の下にいたレジーナ達はノワールの魔法を見て小さく笑っており、悪魔族モンスター達は一度の半分近くの仲間が倒された光景に驚く。


「馬鹿な、一度の魔法で半分以上の仲間が……」

「全員距離を取って広がれ! 巻き添えを喰らうぞ!」


 一体のオックスデーモンが仲間の悪魔族モンスター達に広がるよう指示を出す。電撃を受けたモンスターの近くにいた別のモンスターも電撃を受けたのを見て、固まっているのは危険だと感じた。

 悪魔族モンスター達はオックスデーモンの指示に従い一斉にノワール達から離れ、広がりながら仲間との間隔を開ける。これで仲間のモンスターが魔法を受けても別のモンスターが巻き添えを受ける可能性は低くなった。


「敵が一斉に距離を取ったけど、どうする?」

「さっきのノワールの魔法で奴等も俺達の事を警戒するようになったはずだ。だがそれでも敵はまだ大勢おり、その中には魔法が使える奴もいる。こちらから攻めるのは危険だから敵が仕掛けて来るのを待ってそれを迎撃するんだ」

「優勢なのに守りに入っているようで少し納得がいかないけど……確かにそれが一番いいわね」


 レジーナはジェイクの作戦に納得し、テンペストを逆手に持ち直して数m先にいる悪魔族モンスター達の方を向く。ジェイクもタイタンを両手で構えながらいつ悪魔族モンスターが攻撃して来ても迎え撃てる体勢に入った。

 ノワールは杖を構えながら距離を取った悪魔族モンスター達をチラチラと見て何処にどんなモンスターがいるのかを確認している。そこへジャバウォックを構えたマティーリアは近づいて来た。


「ノワール、敵は次にどんな攻撃を仕掛けて来ると思う?」


 マティーリアは悪魔族モンスター達が次にどんな行動を取るのかノワールに小声で尋ねる。ノワールは悪魔族モンスター達を警戒しながら口を開けた。


「僕の魔法を見て近づくのはマズいと感じ、魔法などの遠距離攻撃を仕掛けてくるはずです」

「という事は、まず動くのは魔法が使えるオックスデーモンの様な中級モンスターか……」

「恐らく……ですからまず、僕が魔法で中級モンスター達を倒します。そうすれば魔法を使えるモンスターはいなくなり、更に中級モンスターが倒された事で下級モンスター達も混乱するはずです。その隙にマティーリアさん達は敵との距離を詰めて一気に倒してください」

「……分かった、二人にも伝えておこう」


 ジャバウォックを構えながらマティーリアはノワールから離れ、レジーナとジェイクにノワールの作戦を伝える。マティーリアが二人に作戦を説明している間、ノワールは悪魔族モンスターの中で魔法が使えるモンスターを探す。

 ノワール達を取り囲む悪魔族モンスターは確認できるだけ五種類いる。ブラッドデビルにヘルハウンド、そして全身に無数の目と口を持つ茶色の肥満の人型モンスター、そしてオックスデーモンと紺色のボロボロのローブを身に纏い、木の杖を持った山羊頭のモンスターの五種類だ。ノワールはオックスデーモンと山羊頭のモンスターが他の三種類と比べて数が少ない事から、この二種類が魔法が使える中級モンスターだと考えた。


「魔法が使える奴は一斉に魔法を叩きこんでやれ! デーモンメイジ、お前等もやれ!」


 オックスデーモンが周りにいる他のオックスデーモンや山羊頭のモンスターに魔法で攻撃するよう指示を出す。どうやら山羊頭のモンスターはデーモンメイジと言う名前らしい。

 ノワールは自分の予想通り相手が魔法を使って攻撃しようとしているのを見て足の位置を変える。心の中で自分の予想通りの展開になった事に少し驚いていた。

 四体のオックスデーモンは骨の斧を持っていない方の手をノワール達に向け、三体のデーモンメイジも杖をノワール達に向けた。するとオックスデーモンの手の中とデーモンメイジの杖の先に大きめの火球が作り出されたる。レジーナ達は敵が魔法を使ってくる姿を見て一斉に表情を鋭くした。


「死ねぇ! 火炎弾フレイムバレット!」


 オックスデーモン達は十二時、二時、八時の方角から一斉に火球をノワール達に向かって放つ。三方向からの一斉攻撃ならノワール達も逃れられないだろうと悪魔族モンスター達は勝利を確信した。だが、ノワールは落ち着いてレジーナ達の近くへ移動し、杖を前に持ってきて横にする。


水の丸屋根ウォータードーム!」


 ノワールが真剣な表情で魔法を発動させるとノワール達の足元に大きな青い魔法陣が展開され、ノワール達を包み込む様に水の障壁がドーム状に張られた。火球は水の障壁によって止められ、ノワール達に当たる事なる消滅する。

 <水の丸屋根ウォータードーム>はドーム状の水の壁を作り出し敵の攻撃を防ぐ水属性の中級防御魔法。防御力はそこそこ高く、並の攻撃は通さない。更に水の障壁を張る為、火属性の魔法や攻撃にはとても強く、使用者の魔力の強さによっては上級魔法も防げる。だが水である事から雷の攻撃や魔法は防ぐ事はできない。

 火球が消滅すると水の障壁も消滅し、中からノワール達が姿を見せる。水に包み込まれていたにもかかわらず、四人は全く濡れていない。


「ば、馬鹿な! 俺達の魔法を一瞬で掻き消しただと!?」

「あのチビ、一体何者なんだ?」


 オックスデーモンとデーモンメイジがノワールを見つめながら驚くの声を口にする。最初に落雷で大勢の仲間を倒し、今度は水の障壁を作り出して自分達の放った火球を打ち消したのだから驚いて当然だ。他の悪魔族モンスター達も驚きの表情を浮かべながらノワール達を見ている。

 攻撃を防ぐとノワールは杖を下ろして周囲を見回し、魔法を放った中級モンスター達の位置を確かめる。位置を把握するとノワールは再び前を向いて正面にいる悪魔族モンスター達を見つめた。


「そちらの攻撃は終わったようですね。なら、今度は僕が攻める番です」


 ノワールはさっきと同じように杖を自分の前に持ってきて横にし、ノワールが構えるのを見た悪魔族モンスター達は警戒する。


浮遊爆雷フライングマイン!」


 魔法が発動するとノワールの足元に赤い魔法陣が展開され、それを見た悪魔族モンスター達は何か仕掛けて来ると思って一斉に構える。しかし、何も起こらず悪魔族モンスター達は不思議そうな反応を見せた。レジーナ達も何も起こらない好況に不思議そうな表情を浮かべてノワールを見つめる。

 ノワールは周りのいる者達が不思議そうにしている中、次の行動に移った。ノワールは十二時の方角にいるオックスデーモンとデーモンメイジを見つめ、素早く杖の先をオックスデーモンに向ける。


雷の槍サンダージャベリン!」


 杖の先から青白い電気の矢が放たれてオックスデーモンの胴体に命中した。電気の矢を受けた事でオックスデーモンの体に電気が走り、その痛みと痺れにオックスデーモンは声を上げる。そしてそのまま意識を失いゆっくりと崩れ落ちた。

 オックスデーモンが倒れて周りにいた悪魔族モンスター達は驚きながら倒れたオックスデーモンを見つめる。そして、オックスデーモンが死んだ事を確認すると更に驚きの反応を見せた。

 レベル94のノワールの魔法攻撃力は高く、下級魔法の雷の槍サンダージャベリでもオックスデーモンを沈める事ができる。ノワールの強さを知っているレジーナ達は流石だ、と言いたそうに笑みを浮かべているが、ノワールの強さを知らない悪魔族モンスター達は下級魔法で中級モンスターのオックスデーモンが倒された事が信じられなかった。

 悪魔族モンスター達が驚いている中、ノワールは次にデーモンメイジに電気の矢を放って攻撃する。デーモンメイジはオックスデーモンが倒された事に驚いて完全に隙を見せていた為、ノワールの攻撃に気付くのに遅れてしまい電気の矢をまともに受けてしまう。

 電気の矢を受けたデーモンメイジは体から煙を上げながら倒れ、近くにいた悪魔族モンスター達はオックスデーモンに続きデーモンメイジまで倒された事に完全に冷静さを失い騒ぎ出す。


「ノワールの読み通り、中級モンスターが倒された事で近くにいる下級モンスター達が動揺しだしたのぉ」

「ああ、しかも自分達が弱いと思っていた相手に押されているんだから精神的ショックもかなり大きいはずだ」


 マティーリアとジェイクは動揺する下級モンスター達を見て戦況が少しずつ自分達に有利な方に傾いてきていると感じた。だが、それでもまだ五体の中級モンスターが残っており、その残った五体が落ち着いて他の悪魔族モンスター達に指示を出す。


「騒ぐな、野郎ども! 先のあのチビを倒せ、一斉に攻撃を仕掛ければ奴の魔法も追いつけないはずだ!」


 八時の方角にいたオックスデーモンが持っている骨の斧をノワール達に向けながら命令し、周りの悪魔族モンスター達はそれを聞いて地上と空中から一斉にノワール達に向かって行く。

 最初はノワールの魔法に警戒し、距離を取って自分達も魔法で攻撃していたが、普通に魔法で攻撃しても防御魔法で防がれてしまうのであらゆる方角から一斉に攻撃すると言う力技で攻め込む事にした。

 地上からヘルハウンドと茶色の悪魔、空中からブラッドデビルが一斉に向かって来る光景を見てレジーナ達は表情を鋭くしながら武器を構える。いくら英雄級の実力を持つ自分達でも全方向から一斉に攻撃を仕掛けられては対処のしようがないと僅かに焦りを感じた。だが、ノワールだけは表情を一切変えずに静かに目を閉じる。


「……空中はとても危険ですよ?」


 ノワールが目を閉じたまま空中のブラッドデビル達に向かって呟く。するとブラッドデビル達の前に無数の黄色い球体が現れ、ブラッドデビル達は突然現れた球体に驚き急停止しようとする。

 だが反応に送れた為、止まる事ができずにブラッドデビル達は黄色の球体に触れてしまう。その瞬間、球体が爆発して球体に触れたブラッドデビルや近くにいた別のブラッドデビル達を跡形もなく吹き飛ばした。

 頭上で起こった爆発にレジーナ達を驚いて目を見開く。地上にいたヘルハウンド達も突然の爆発に足を止める。


「な、何が起きたの?」

「悪魔どもが突然爆発しおった」


 レジーナとマティーリアは何が起きたのか分からずに混乱する。するとノワールが上を向いて何かに納得した様な顔を浮かべた。


浮遊爆雷フライングマインは上手く当たったみたいですね」


 驚く事無く普通に話すノワールを見てレジーナ達は今の爆発はノワールの仕業なのだと気付く。実はさっきの爆発はノワールが雷の槍サンダージャベリンを撃つ前に発動した魔法によるものだったのだ。

 <浮遊爆雷フライングマイン>は火属性の上級魔法で空中に無数の機雷を仕掛けるLMFの魔法。機雷は最大で十個まで設置でき、触れれば爆発して相手にダメージを与える。しかも設置された機雷は透明で一定の距離まで近づかないと姿を見せない。見つける事が難しい事から罠として使用する事も可能だ。LMFでは多くのプレイヤーがこの魔法を色々な事に使っていた。

 機雷の爆発でブラッドデビル達は消し飛ばされ、空中には一体も残っていなかった。その光景に離れた所に立っているオックスデーモン達中級モンスターは愕然としている。ノワールはブラッドデビルの様な空を飛ぶ事ができるモンスターが空から攻撃を仕掛けて来る事を予想し、空中に罠を仕掛けておいたのだ。

 ノワールの使う未知の魔法にレジーナ達は少し驚いていたが、そのおかげで空中の敵が全滅した。レジーナ達は地上の敵に集中できるようになり、三人はそれぞれ武器を構えながら自分達を取り囲んでいるヘルハウンド達に視線を向ける。


「ノワールのおかげで敵の大半が片付いた。残るは数体の中級モンスターとヘルハウンド達だけだな」

「ウム、そろそろ妾達も動くとしよう」

「ええ、ノワールばかりにいい格好はさせられないわね」


 三人は得物を強く握りながらほぼ同時に別々の方角へ走り出し、走った先にいたヘルハウンドに攻撃する。ノワールも三人が戦闘を始めたのを見て、残りの中級モンスターや近くにいる低級モンスターの殲滅に取り掛かった。

 レジーナはヘルハウンドに囲まれながらテンペストを振り回し次々とヘルハウンドを倒していく。テンペストはエメラルドダガーよりも遥かに切れ味が鋭く、ヘルハウンドの体は紙の様に軽々と切れた。


「やっぱり凄いわこの短剣、敵を切る時に殆ど抵抗を感じない!」


 ヘルハウンドを攻撃しながらレジーナはテンペストの切れ味に笑みを浮かべた。これまでにも何度もテンペストを使ってモンスターと戦って来たがその切れ味にまだ慣れておらず、今でもテンペストで敵を切る度に驚かされている。

 テンペストを振るレジーナを三体のヘルハウンドが取り囲み、唸り声を上げながらレジーナを睨む。レジーナは囲まれているにもかかわらず動揺する事無く余裕を見せている。


「さて、次は誰が相手?」


 小さく笑いながらレジーナはテンペストを逆手に持って構えを取る。レジーナの挑発的な態度が気に入らなかったのか一体のヘルハウンドが正面からレジーナに飛び掛かった。

 突っ込んで来るヘルハウンドを見てレジーナは単純だな感じながら右へ移動してヘルハウンドの飛び掛かりを回避し、そのままヘルハウンドをテンペストで素早く反撃してアッサリと倒す。テンペストを装備して移動速度が増したレジーナには簡単な事だ。

 ヘルハウンドを一体倒すと今度は別のヘルハウンドがレジーナに向かって走って来る。それに気付いたレジーナはヘルハウンドの方を向いて両足の位置を少し変える。その直後、テンペストの刀身が緑色の光り出した。


「疾風斬り!」


 戦技を発動させたレジーナは向かってくるヘルハウンドに向かって勢いよく跳ぶ。そしてヘルハウンドの真横を通過する瞬間にテンペストでヘルハウンドの体を切り、二体目もあっという間に倒した。

 残ったヘルハウンドは目にも止まらぬ速さで仲間が倒された事に驚きゆっくりと下がってレジーナから距離を取る。モンスターの本能がレジーナは危険だとヘルハウンドに伝えているのだ。

 レジーナがチラッと驚いているヘルハウンドの方を見るとヘルハウンドは更に後ろへ下がる。そこに新たなヘルハウンドが二体合流してレジーナを睨みながら唸り出す。するとさっきまで怯えていたヘルハウンドもレジーナを睨んで唸り声を上げる。仲間が来た事で勝てると感じらしい。


「仲間が来た途端に態度を変えて……そう言うところは人間もモンスターも同じなのね」


 ヘルハウンドの態度の変わり様にレジーナは目を細くしながら呆れ、同時にまた敵の数が増えたと面倒に思う。

 レジーナが呆れ果てていると三体のヘルハウンドは一斉にレジーナに向かって走り出す。ヘルハウンドを見てレジーナはテンペストを逆手に持って構え直し、迎え撃つ為にヘルハウンドに向かって行った。

 少し離れた場所ではジェイクが同じようにヘルハウンド達と戦っている姿があった。既にジェイクの周りにはヘルハウンドの死体が四つが転がっており、ジェイクはタイタンを肩に担ぎながら生き残っているヘルハウンド達に余裕の表情を浮かべる。

 ジェイクの数m前では二体のヘルハウンドがジェイクを睨んでいる。だが、仲間が倒された事で警戒しているのかなかなか攻撃してこなかった。


「どうした? さっきまでの勢いがねぇじゃねぇか。仲間が倒された戦意を失ったか?」


 向かってこないヘルハウンド達にジェイクは挑発的な言葉をぶつける。だが、ヘルハウンド達はジェイクの挑発に乗る事無くただ唸り声を上げながら睨み付けていた。

 ジェイクがヘルハウンドと向かい合っていると何かがジェイクの背後から近づいて来る。気配に気付いたジェイクが後ろを向くとそこには体中に無数の目と口を付けた茶色い太った人間の様な悪魔族モンスターが歩いて来る姿があった。


「ほぉ、フェイスイーターか。下級モンスターの中ではそこそこ強い人食い悪魔……確か喰らった人間の数が多いほど体の目と口の数も多くなるんだったか?」


 茶色の悪魔族モンスターの方を向いてジェイクは名前とモンスターの特徴を思い出しながらぶつぶつと口にする。

 フェイスイーターはジェイクの前で立ち止まり、自分より少し背の低いジェイクを見つめながら頭部の口を大きく開けて噛み付こうとする。だがジェイクは後ろへ跳んで噛みつきをかわし、タイタンで反撃した。

 タイタンの刃がフェイスイーターの出腹を切り裂き、そこから紫色の血が噴き出る。フェイスイーターはその痛みに声を上げながら仰向けに倒れそのまま動かなくなった。

 フェイスイーターを倒してジェイクは二ッと笑みを浮かべる。するとさっきまでジェイクを警戒していたヘルハウンド二体がジェイクに背後から襲い掛かってきた。自分達に背を向けた事でジェイクを倒す事ができると感じて動き出したのだろう。だが、ジェイクはヘルハウンド達の気配に既に気付いていた。


「背後から攻撃とは、卑怯な犬どもだな!」


 ジェイクはタイタンに気力を送りこんで刃を強化し、振り返りながらタイタンを横に振る。黄色く光る刃は飛び掛かって来たヘルハウンド達を胴体から真っ二つにし、切られたヘルハウンドはそのまま地面に落ちた。

 地面に転がる死体をジェイクがジッと見つめていると今度は右側からさっきのとは別のフェイスイーターがジェイクに襲い掛かる。太い腕を振り上げてジェイクに攻撃しようとした瞬間、ジェイクはヘルメスの光輪を使い、一瞬にしてフェイスイーターの背後に回り込む。そして再びタイタンに気力を送り込み刀身を黄色く光らせた。


岩砕斬がんさいざん!」


 戦技を発動させたジェイクはタイタンでフェイスイーターの背中を攻撃する。背中には大きな切傷が生まれ、そこから血を噴き出しながらフェイスイーターは前に倒れた。戦技など使わずに普通に攻撃するだけでも倒す事はできるが、戦技を使う時の感覚を忘れないようにする為にジェイクは弱い敵にも戦技を使って攻撃する事にしていたのだ。

 二体目のフェイスイーターを倒したジェイクはタイタンを下ろして小さく息を吐く。そこへ新たにヘルハウンドが三体ジェイクに近づいて来た。ジェイクはヘルハウンドの方を向き、少しめんどくさそうな表情を浮かべる。だが、襲って来る以上は倒さないといけないと自分に言い聞かせ、再びタイタンを構えてヘルハウンド達と睨み合った。

 その頃、マティーリアも多くの悪魔族モンスター達を相手に激戦を繰り広げていた。低空飛行で移動しながらジャバウォックを回し、そのまま固まっているヘルハウンド達に突っ込む。勢いよく回されるジャバウォックの刃は敵の体を切り刻み、攻撃を受けたヘルハウンド達は次々と倒れていった。


「所詮はこんなものか」


 マティーリアは敵を全て倒すとジャバウォックを回すのをやめてゆっくりと地面に下り立つ。そして自分が倒したヘルハウンドの死体を見ながらジャバウォックを肩に担ぐ。


「所詮は低級モンスター、妾の敵ではないと言う事か」


 少し物足りなさそうな言い方でマティーリアは呟く。

 竜人であるマティーリアはレジーナやジェイクよりも力が強く、空を飛ぶ事もできる。それらを考えるとマティーリアは二人よりも強く、有利に戦いを進める事ができるので下級の悪魔族モンスターとの戦いは少々退屈に感じられたのだろう。

 マティーリアがつまらなそうな顔をしていると彼女の背後から二体のフェイスイーターが近づいて来る。気配を感じ取ったマティーリアは振り返り、目の前で横に並ぶ二体の茶色い悪魔族モンスターを見上げた。


「今度は少し楽しめそうじゃな」


 まるで遊びを楽しむ子供の様にマティーリアは笑い、担いでいたジャバウォックを両手で握る。その直後、一体のフェイスイーターが短い足でマティーリアに蹴りを放ち攻撃した。

 マティーリアは素早く後ろへ跳んで蹴りをかわし、ジャバウォックを構え直す。すると今度はもう一体のフェイスイーターが高く跳んでマティーリアの真上からのしかかる様に落ちて来る。マティーリアは左へ跳んでフェイスイーターの落下攻撃を回避し、ジャバウォックでフェイスイーターの横腹に突きを放つ。

 ジャバウォックの刀身はフェイスイーターの腹部に深く刺さり、その痛みでフェイスイーターは鳴き声を上げる。やがて鳴き声は止み、フェイスイーターは俯せのまま動かなくなった。

 フェイスイーターが死んだのを確認するとマティーリアはジャバウォックを引き抜く。そこへもう一体のフェイスイーターが近づき、大きな口を開けてマティーリアの左側から噛み付こうとする。マティーリアはフェイスイーターの方を向くと鋭い目で睨み付けた。


「妾を食えると思っているのか? 三下が」


 そう言ってマティーリアはジャバウォックの刀身を赤く光らせた。


剣王破砕斬けんおうはさいざん!」


 マティーリアは戦技を発動させ、赤く光るジャバウォックでフェイスイーターを攻撃する。フェイスイーターは左の肩から右の腰辺りまで大きく切られ、傷口から出血しながら後ろに倒れた。そして鳴き声を上げる間もなく絶命する。

 フェイスイーターを倒したマティーリアはジャバウォックを振って刀身に付いている紫の血を払い落とす。そんなマティーリアの背後から三体のヘルハウンドが走って来た。

 ヘルハウンド達はマティーリアの後ろ3mの所まで近づくと一斉にマティーリアに飛び掛かった。だが次の瞬間、マティーリアは素早く振り返り、口から勢いよく炎を吐いてヘルハウンド達を焼き尽くす。

 炎に呑まれたヘルハウンド達は熱さと痛みに鳴き声を上げながらその身を焼かれ、その光景をマティーリアはジッと見ていた。


「……フッ、魔犬の丸焼きか」


 興味の無さそうに言い方をするマティーリアは炎に背を向けて次の敵を倒しに移動する。ヘルハウンドを呑み込んだ炎はマティーリアがその場を去ったすぐ後に消えた。

 それからレジーナ達は次々と悪魔族モンスター達を倒していった。ノワールも魔法で残りのオックスデーモンやデーモンメイジを倒すとレジーナ達を手伝う為に下級モンスター達に攻撃する。

 戦いが始まってから三十分後、廃砦前には大量の悪魔族モンスターの死体と死体を調べるノワール達の姿があった。


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