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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十二章~新国家の騎士王~
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第百四十八話  悪魔の砦


 二次試験を中止してバーネストに戻るとダーク達は全ての入隊希望者達に悪魔族モンスターの一件が片付いてから二次試験を再開するなど詳しい事を説明する。合格した者もまだ試験の途中だった者も事情を聞かされて、それなら仕方がないと文句を言う事無く納得して解散した。

 入隊希望者達が帰るとダーク達は王城の会議室へ移動し、すぐに悪魔族モンスターの事について話し合いを始めた。会議室にはダークとアリシア達協力者が集まり、テーブルを囲んで真剣な表情を浮かべている。ただ、ヴァレリアだけは魔導士部隊の二次試験でまだ外に出ている為いなかった。


「……さて、早速カラキの森に出現した悪魔族モンスター達について話し合いを始めるとしよう」


 盗賊の姿からいつもの漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーの格好になったダークは低い声を出す。席に付いているアリシア達もダークを真剣な表情で見つめながら話を聞いている。


「二次試験の最中、カラキの森に悪魔族モンスター達は突然現れて我々に襲い掛かって来た。モンスターの種類はブラッドデビルやヘルハウンドの様な下級モンスターに奴等を指揮する中級モンスター、森の中で確認できた数は全部で三十二体だ。そしてソイツ等はエファリーナとか言う魔族の部下で支配する領土を広げる為にカラキの森を偵察していたそうだ。そうだな、アリシア?」


 ダークはアリシアの方を見て情報の内容が合っているか確認する。アリシアはダークの方を向くと真剣な表情のまま頷いた。


「ああ、私が遭遇したオックスデーモンは確かにそう言っていた」


 カラキの森で自分が戦った隊長らしきオックスデーモンが言った言葉をアリシアは思い出し、間違いがない事をダークや話を聞いているノワール達に伝える。

 ダーク達もカラキの森で悪魔族モンスター達と遭遇しており、その中には隊長と思われる中級の悪魔族モンスターの姿もあった。ダーク達は難なく悪魔族モンスターを倒す事ができたが、中級モンスターからな有力な情報を得られず、下級モンスターも何体か逃がしてしまったのだ。

 しかし、アリシアがオックスデーモンから悪魔族モンスター達を支配している魔族の情報を得ていたので、それを聞いたダーク達は悪魔族モンスター達が組織化された存在だという事を知った。


「奴等にボスがいて、大きなモンスター集団だって事は分かったわ……で、これからどうするつもりなの?」


 レジーナは椅子にもたれながらどうするのかダークの方を向いて尋ねる。するとダークはテーブルの上で両肘をつきながらアリシア達を見て目を薄っすらと赤く光らせた。


「勿論、そのエファリーナとか言う魔族と奴の部下である悪魔族モンスター達を大人しくさせる。私の国で好き勝手やる連中をこのまま放っておくつもりなど無い」

「……だよな」


 ダークの話を聞いてジェイクは二ッと笑う。レジーナもその方がいい、という様にうんうんと頷く。

 二次試験を再開する為にも早く悪魔族モンスター達を何とかする必要があった。別の場所で二次試験を行うという手もあるが、最初と違う場所で試験を再開して合格していない入隊希望者達から内容が違うなどと言われても困るので、同じカラキの森で試験を再開できるようダークは悪魔族モンスター達を大人しくさせる事にしたのだ。


「因みに、大人しくさせると言っておったが、どんな手を使うつもりなのじゃ?」


 マティーリアがどうやって悪魔族モンスター達を大人しくさせるのかダークに尋ねる。アリシア達もどんな方法を使うのか気になり、一斉にダークの方を向いた。


「とりあえず奴等のアジトへ向かい、奴等のボスであるエファリーナと会って話し合ってみる。平和的に解決できるのであればそれが一番だからな」

「話し合い……一体何を話すつもりなんだ?」


 アリシアは不思議そうな顔でどんな事を話すのかダークに尋ねる。


「ビフレスト王国の領内で生活するのだから、まずは私の支配下に入るよう話す。それでもし奴等が忠誠を誓うのであればこの国での自由を許すつもりだ」

「一度あたし達を襲った連中に自由を許すなんて、ちょっと甘いんじゃないの?」

「勿論、ある程度の制限を付ける。私とて、一度牙を剥いた者達に気を許すつもりは無い」


 不安そうな顔で話すレジーナを見てダークがちゃんと魔族達を警戒する事を伝える。ダークが油断していない事を知ったレジーナは少し安心した様子を見せた。


「それに奴等は人間や亜人では得られない魔族の知識を持っている可能性がある。もし奴等を支配下に置ければその魔族の知識を得てビフレスト王国の発展などに役立てる事ができるかもしれないからな。悪魔族モンスター達を労働力として使う事もできるし、確保しておいて損はないだろう」

「まあ、確かにな……じゃが、もし奴等が話し合いをする事なく襲い掛かって来たらどうするのじゃ?」

「その時は確保を諦めて戦うさ。話し合いもできずに襲い掛かって来る様な奴等など必要ない」


 戦う事しか考えられない者は要らない、低い声で語るダークを見てレジーナ、ジェイク、マティーリアはダークらしい、と言いたそうにニッと笑った。


「ところでダーク、奴等のアジトへ向かうと言ったが、そのアジトが何処にあるのか知っているのか?」


 レジーナ達が笑う中、アリシアがダークに悪魔族モンスター達のアジトの場所について尋ねる。それを聞いたレジーナ達はフッと反応し、そう言えば何処にあるんだと考えながら目を丸くした。

 ボスの事を知っているオックスデーモンからアジトの場所を聞き出すつもりだったが、聞き出す前に倒してしまい何も情報を得られなかった。アリシアはダークが悪魔族モンスター達のアジトへ行くのならちゃんとアジトの場所などを聞き出しておくべきだったと心の中で申し訳なく思う。

 アリシア達が見ている中、ダークはポーチから丸めてある大きな羊皮紙を取り出してテーブルの上に広げる。広げられた羊皮紙は地図で以前アリシア達に見せて周辺国家などが描かれた地図よりも範囲が狭く、ビフレスト王国の領内だけが描かれた物だった。

 地図の真ん中辺りには首都であるバーネストが描かれてあり、少し離れた所にはテラームの町やゼゼルドの町など、バーネスト領内にある町や村が細かく描かれてあった。そしてバーネストの西北西にはカラキの森もちゃんと描かれてある。

 ダークは立ち上がって地図に描かれてあるカラキの森を指差し、アリシア達も立ち上がってカラキの森に注目する。


「奴等はカラキの森を自分達の領土に為に偵察に来ていた。となると、あの森の近くに領土を広げる為の活動拠点、つまり敵のアジトがある可能性が高いという事だ」

「カラキの森の周辺を調べれば奴等のアジトが見つかるかもしれないという事か?」

「ああ、わざわざアジトから何十kmも離れた場所にある森を支配する為に部下を偵察に向かわせるとも思えないからな」


 アリシアの問いにダークは頷きながら話す。そこへ子竜姿のノワールが近づいて来て、地図の上に乗りながら足元にあるカラキの森を見下ろしながら口を開いた。


「マスターはカラキの森を出る直前にサモンピースでモンスターを召喚して、カラキの森の周囲を調べさせました。早ければ今日の夜にでも周囲を調べに行ったモンスター達が戻ってくるはずです」

「それじゃあ、何時奴等のアジトに向かうかはそのモンスターが戻って来てから決めるって事か?」

「ハイ」


 ジェイクの問いにノワールは小さく頷きながら返事をする。本当ならすぐに作戦を考えるべきなのだが、アジトの場所やどれほどの悪魔族モンスターがいるのかなどの情報が無いのでは作戦を練る事もできない。ジェイクやレジーナ達はそれなら仕方がないと納得する。

 その後、魔導士部隊の二次試験を終えたヴァレリアが戻り、二次試験に合格した入隊希望者の事をダーク達に報告する。普通に報告する事からヴァレリア達は悪魔族モンスターと遭遇していないようだ。

 ダーク達はヴァレリアにカラキの森で悪魔族モンスターの襲撃を受けた事を伝え、それを聞いたヴァレリアは驚きの表情を浮かべる。それからアジトが見つかり次第、悪魔族モンスター達に会いに行く事を聞かされ、ヴァレリアも作戦会議に参加する事にした。

 数時間後、太陽が沈んで真っ暗になった頃、カラキの森の周囲を調べていたモンスター達が王城に戻って来た。モンスター達が戻ったという報告を聞いたダーク達は早速モンスター達から詳しい情報を聞いてみる。

 偵察したモンスター達に話によると、カラキの森から北東に3kmほど行った所に林に囲まれた丘があり、そこにボロボロの廃砦はいさいがあるらしい。廃砦の周りには空を飛べる悪魔族モンスターが沢山飛び回っており、林の中にも悪魔族モンスターの姿があったようだ。数は確認できただけでも五十体はいるらしく、ダーク達はその砦が悪魔族モンスター達のアジトだと確信した。

 情報を得たダーク達は再び会議室に集まり作戦会議を始める。ヴァレリアも加わり、ダーク達はテーブルの上に広げられている地図に注目した。


「モンスター達の言っていた廃砦とは、此処だな?」


 アリシアは地図に描かれている砦の絵を指差す。そこは確かにカラキの森の北東にあり、砦の周りには森らしき絵が描かれてあった。

 ダーク達が地図に描かれてある砦を見ているとヴァレリアが真剣な表情を浮かべながら口を開いた。


「……その砦は四十年ほど前まではセルメティア王国が使っていたのだが、モンスターの大群の襲撃を受け、修理不可能なくらいボロボロになったので放棄したと聞いている」

「モンスターの大群? もしかして、今棲みついている悪魔族モンスター達がやったの?」

 

 レジーナがヴァレリアに砦を襲撃したモンスターの事を訊くとヴァレリアは目を閉じて首を横に振った。


「いや、違う。当時砦を襲ったのは飛行系の昆虫族モンスターの群れでたまたた移動中に砦を見つけ、そこにいた兵士達を餌にする為に襲ったらしい」

「じゃあ、今いる悪魔族モンスター達は?」

「恐らく放棄された後に棲みついたのだろう。ビフレストの建国から今日まで悪魔族モンスターを目撃したという情報が入らなかった事を考えると、棲みついたのはごく最近だろう」


 ヴァレリアは地図を見つめながらいつ頃から悪魔族モンスター達が砦に棲みつきだしたのかを話し、ダーク達も地図を見ながらヴァレリアの話を聞いていた。


「とりあえず奴等のアジトの場所は分かった。さっそく明日、奴等に会って話し合いをしてみるか」

「それで奴等が話し合いをせずに襲って来た場合は戦うんだな?」

「ああ、話し合いもできずに襲って来るような奴等はいつかは事件を起こす。そうなる前に叩いておいた方が安全だ」


 アリシアの問いにダークは低い声で答える。王として国や国民にとって危険な存在になるかもしれない連中をなんとかするのは王として当然の義務だ。

 それからダーク達は砦にどんな悪魔族モンスターがいたのか、出発する時間や誰が砦に行くのかなどを話し合った。


――――――


 太陽が昇り、強い日差しが降り注ぐ平原の中にある一本道を四頭の馬が歩いていた。馬にはダーク、アリシア、レジーナ、ジェイクが乗っており、ダークの後ろには少年姿のノワールが乗っている。そしてダーク達の上空10mほどの位置には竜翼を広げて飛んでいるマティーリアの姿があった。

 昨日の話し合いの結果、廃砦にはダークと彼が冒険者をやっていた時からの仲間であるアリシア達が同行する事になり、ヴァレリアはバーネストに残る事になった。夜が明けるとダーク達は悪魔族モンスター達が棲みついている廃砦に向かう為にバーネストを出発する。

 だが、普通に歩いたり馬に乗って行くのでは時間が掛かるので、まずノワールの力でカラキの森の前まで転移し、そこから一緒に連れて来た馬に乗って廃砦がある北東へ向かう事にした。

 転移可能な所まで一瞬で移動してから馬に乗って行った事の無い廃砦へ向かい、帰りはそこから再び転移魔法を使ってバーネストへ戻る。こうした移動手段はLMFでもこの世界でも常識的なものだった。


「全然見えてこないわね、砦?」

「もうそろそろ見えてくるはずだぜ」


 目を細くしながら疲れた様な口調で話すレジーナにジェイクが前を見ながら声を掛けた。ダークとアリシアも黙って前を見ながら馬を歩かせている。

 カラキの森を出発してからニ十分ほど経過しているが、いまだに砦は見えず、ダーク達は長い一本道を進み続けていた。

 ダーク達の上空を飛んでいるマティーリアは遠くを見て目的地の廃砦を探している。空を飛んでいるマティーリアならダーク達の視界に入らない場所も見る事ができた。


「マティーリア~! 何か見つかったぁ~?」


 真下からレジーナが大きな声で呼びかけ、それを聞いたマティーリアはめんどくさそうな声で下にいるダーク達を見下ろす。


(まったく、うるさい奴じゃな。もう少し静かにできんの……ん?)


 マティーリアがレジーナを鬱陶しく思いながら前を向くと1kmほど先に古い砦があるのを見つける。その砦は高い丘の上に建てられ、丘を囲む様に林が広がっていた。

 目的地の廃砦を確認したマティーリアは降下してダーク達の下へ向かう。下りて来たマティーリアを見たダークは馬を止め、アリシア達もつられて馬を止めた。


「若殿、例の砦が見えたぞ。此処から1kmほど行った所にある」

「そうか、なら此処から馬を走らせて向かうか」


 馬の体力を温存する為にここまで馬を歩かせて来たダーク達だったが、廃砦がすぐ近くににあると聞かされたダークは馬を走らせて一気に目的地へ向かう事にした。

 ダークは廃砦へ向かう為に馬を走らせ、アリシア達もそれに続くように馬を走らせる。マティーリアは廃砦へ向かうダーク達を見て低空飛行でその後を追った。

 馬を走らせてから数分後、ダーク達は廃砦を囲む広い林の入口前に到着した。林の奥には丘があり、そこに目的地である廃砦が建っているのが見える。


「あれが悪魔達が棲みついている砦かぁ、本当にボロボロね」

「ヴァレリアは昆虫族モンスターの襲撃を受けて壊されと言っておったが、たかが昆虫族モンスターの襲撃であんなになるとは、相当手を抜いて建てられたのじゃな」


 遠くに見える廃砦を見ながらレジーナとマティーリアは呆れ顔を浮かべ、砦の造りが甘かったのではと話す。アリシアとジェイクも廃砦を見てレジーナとマティーリアの言う通りかもしれないと感じていた。

 ダークは馬を降りると薄暗い林の奥を見つめる。林の中からは微かに獣のものと思われる鳴き声が聞こえ、その中には高い笑い声も混じっていた。それを聞いたダークはその笑い声が廃砦に棲みついている悪魔族モンスターのものだと目を赤く光らせる。レベル100のダークは聴覚が優れている為、普通の人間には聞き取り難い音や声も聞く事ができた。


「……偵察して来た奴等の言う通り、林の中には下級の悪魔族モンスター達が巡回しているようだな。これは砦に着くのに少し時間が掛かりるかもしれないな」

「どうします、マスター? 僕がレビテーションで空を飛び、先に砦の近くまで行って転移場所を作って来ましょうか?」

「いや、その必要は無い、のんびり林の中を進んで行こう。林の中には悪魔族モンスターだけだろうが、もし襲ってきたら戦えばいい」

「分かりました」


 時間が掛かっても問題は無く、戦闘を避けなければならないような敵ではないので林の中を進むと言うダークを見てノワールは頷く。アリシア達もダークの考えに反対する気は無いのか黙って馬を降りた。


「そう言えば、こうして全員揃って冒険するのって、久しぶりよね?」


 レジーナが笑いながら懐かしそうな口調で話すとダーク達は一斉にレジーナの方を向く。


「……そう言えばそうだな、最近は色々忙しくて首都を出る事が無かったし、兄貴も王様になってからは冒険者の仕事ができなくなったからな」

「確かにな」


 ジェイクとマティーリアもレジーナの言葉を聞き、腕を組んだり腰に手を当てなりしながら懐かしそうに呟く。ダークとアリシア、ノワールも最近は忙しく、前の様に冒険を楽しむ事はなかったなと感じていた。


「それじゃあさ、今回は昔に戻って久しぶりに冒険を楽しんでみない? ねっ、ダーク兄さん?」


 笑いながらレジーナはダークの方を向いて尋ねる。ダークはレジーナの笑顔をしばらく見つめると小さく笑いながら林の方を向き直す。


「……そうだな、久しぶりに冒険者だった頃に戻ってみるか」

「ああ。気分転換にもなるし、たまにはこういうのもいいかもしれない」


 ダークの言葉にアリシアも目を閉じながら微笑む。ノワールは楽しそうなダークとアリシアを見上げながら笑っていた。

 レジーナ達と違ってダークとアリシアは国王や総軍団長の仕事で忙しく、自由な時間は殆ど無かった。その為、久しぶりに昔に戻って冒険ができる事を心の中で嬉しく思っていたのだ。だが、立場とプライドもあり、レジーナ達の前では正直に嬉しいとは言えずに少しカッコつけて答えた。


「なら、今回はレジーナの言う通り、少し冒険を楽しむとしよう」


 そう言ってダークは林の中に入って行き、アリシア達も小さく笑いながらダークの後をついて行く。

 だが、冒険を楽しむと言ってもこれから悪魔族モンスター達が襲ってくるかもしれないという事に変わりはない。ダーク達は最低限の警戒をしながら廃砦を目指して林の中を進んで行った。

 木々に囲まれた一本道をダーク達は固まって歩いている。遠くからは鳥の鳴き声や風で木の枝が揺れる音などが聞こえ、悪魔族モンスターが徘徊していなければ楽しむ事ができる雰囲気だった。

 ダーク達は周囲を注意しながら林の奥へ進んで行く。しかし、冒険を楽しむ事にしたせいか、その表情には鋭さが無く、どこか緊張が抜けた様な顔だった。

 途中で薬草や木の実などを見つけ、ダーク達は林の探索を楽しみながら先へ進む。だがそれでもダーク達はいつ敵が現れてもすぐに対応できるようにしている。


「……ここまでは一度も悪魔族モンスターと遭遇してねぇな」

「恐らく砦を守る為に砦の近くを徘徊しているのだろう。林の奥に行けば行くほど、遭遇する可能性が高くなるはずだ」


 アリシアは悪魔族モンスターと遭遇しない理由を話し、どれを聞いたジェイクは成る程、と納得した様な反応を見せる。しかし、偶然遭遇しなかったという可能性もあるので、ダーク達は油断する事無く奥へ進んだ。

 しばらく一本道を歩いていると、先頭を歩いていたダークが立ち止まり、後ろにいたアリシア達も立ち止まる。


「どうした、ダーク?」


 アリシアは突然立ち止まったダークに声を掛けるがダークは何も言わずに前を見ていた。無言状態のダークを見てアリシア達はダーク達が何かを感じ取ったのだと気付き、自分の武器を手に取って周囲を警戒する。

 その時、真上から三つの影がダーク達の行く手を阻む様に下りて来た。その影の正体は下級の悪魔族モンスターのブラッドデビルで空を飛びながらダーク達を見つめている。


「噂をすれば、早速悪魔さん達のご登場だ」

「ブラッドデビル……昨日カラキの森に現れた奴等の仲間と見て間違いないな」


 現れた三体のブラッドデビルを見てダークとアリシアは低い声を出す。同時に数秒前と違って緊迫した雰囲気が辺りを包み込んだ。

 ブラッドデビル達は自分達の縄張りである林に入って来た人間達を愚かに思ったのか大きく口を開けて笑う。ダークはブラッドデビル達が何を笑っているのか分からないが、とりあえず話しかけてみる事にした。


「お前達、エファリーナとか言う魔族の部下達だな?」


 ダークが話しかけるとブラッドデビル達は笑うのをやめてダークに注目する。


「私達はお前達の主に会いに来た。呼んで来るか、エファリーナのいる所まで案内してくれないか?」


 廃砦まで案内してほしいとダークが話し、アリシア達は後ろでそれを黙って聞いている。

 ブラッドデビル達は仲間同士顔を見合わせてから再びダークの方を向き、高い声を上げながら翼を広げてダークに飛び掛かった。どうやらダーク達を廃砦に案内する気は無く、此処でダーク達を殺すつもりのようだ。


「……馬鹿が」


 ダークは小さな声で呟きながら背負っている大剣を抜いて飛び掛かって来たブラッドデビル達に横切りを放つ。三体のブラッドデビルは腹部から真っ二つにされ、ダークに触れる事すらできずに倒された。


「素直に案内すればよかったものを……しかし、いきなり襲い掛かって来るとは……下級モンスター相手に話し合いは難しいか」


 大剣を軽く振りながらダークは足元に転がるブラッドデビルの死体を見下ろし、話し合いの様な頭を使う事は中級以上のモンスターではないと無理だと考えた。

 ダークは転がっているブラッドデビルの死体を拾い上げて茂みの中に投げ捨てる。もし別の悪魔族モンスターが此処に来て仲間の死体を見つけたら自分達の存在が悪魔族モンスター達にバレてしまう。少しでも侵入に気付かれる時間を稼ぐ為に死体を茂みの中に隠したのだ。


「……さてと、先へ進むか。ここからは悪魔族モンスターと遭遇する可能性が高い、これまで以上に周囲に気を配るようにしろ?」


 全ての死体を隠したダークは大剣を肩に担ぎながらアリシア達の方を向いて注意するよう伝える。アリシア達もダークの方を向いて真剣な顔で頷く。

 ダーク達は再び廃砦がある方角へ向かって歩き出す。既に大剣を抜いているダークは大剣を背中に戻さず肩に担いだまま歩き続け、アリシア達もいつでも戦闘態勢に入れるようにしていた。


「……若殿、モンスターと遭遇した場合、相手が下級モンスターなら倒しても構わんのか?」


 最後尾にいるマティーリアはダークにモンスターと遭遇した時の事について尋ねる。ダークは歩きながら後ろにいるマティーリアをチラッと見た後に再び前を向く。


「ああ、下級モンスターではこちらの言葉を理解しても話し合いをしようとは思わないだろうからな。現れたらすぐに倒しても構わない。ただ、中級以上のモンスターが出た場合はいきなり攻撃するな?」

「分かった、努力する」


 現れた敵は全て倒してしまおうと考えていたのかマティーリアは少し面倒そうな顔で返事をした。

 下級モンスターと違って中級以上のモンスターはいきなり攻撃せずに現状を見て冷静に判断する知性を持っている。そんなモンスターを倒してしまったら話し合いをするチャンスがどんどん減って行ってしまう。

 話し合いが目的であるダークは襲われない限りは敵を倒そうとは思っていない。何よりも、悪魔族モンスター達が自分に忠誠を誓った時の事を考えて理性や知性を持つ者はできるだけ生かしておきたいと思っていたのだ。

 廃砦を目指してダーク達は真っ直ぐ一本道を歩き続ける。すると今度は左右の茂みが動き出し、ダーク達は再び足を止めて茂みの方を向く。ダーク、レジーナ、マティーリアは右の茂みを、アリシア、ノワール、ジェイクは左の茂みをそれぞれ警戒する。すると、左右の茂みからヘルハウンドが二匹ずつ飛び出し、ダーク達に襲い掛かって来た。


「やはり知性を持たない下級モンスターは襲い掛かる事しかできないか」


 襲って来たヘルハウンドを見てダークは目を赤く光らせながら呟き、大剣でヘルハンドを切り捨てようとする。アリシアもフレイヤを抜いてヘルハウンドを攻撃しようとした。


「あたしが行くわ!」

「俺に任せな!」


 ダークとアリシアが攻撃する前にレジーナとジェイクが動いてヘルハウンドを迎撃する。ノワールとマティーリアも無言で二人に続くようにヘルハウンドに向かって行く。

 レジーナは腰に納めてある短剣を抜き、一番近くにいるヘルハウンドを攻撃する。ヘルハウンドは顔を切られ、痛みで鳴き声を上げる間もなくアッサリと倒された。

 ジェイクもダークから貰った新しい戦斧を両手で持ち、勢いよく振り下ろしてヘルハウンドを両断する。真っ二つにされたヘルハウンドの死体を地面に落ち、ジェイクは戦斧を振って刃に付いている血を払い落とす。

 ヘルハウンドを倒したのを確認したレジーナは持ってい自分の新しい武器を見つめる。エメラルドダガーと同じように宝石の様な美しい刃を持った短剣だが、こちらは若葉色の透き通った刃で真ん中に白いラインが一本入っていた。

 レジーナが持つ短剣は<嵐風剣らんぷうけんテンペスト>と言う風の属性を持ち、鋭い切れ味を持つ短剣である。その切れ味は釜茹ゴエモンの作った武器の中では高い方で魔法防具も簡単に傷つける事ができる程だ。更に装備すると移動速度が強化されるのでナイト・シーフを職業クラスにしているレジーナにはピッタリの武器だった。

 ジェイクが持っている戦斧は<地神斧ちしんぷタイタン>と呼ばれる土属性の力を持つ戦斧である。攻撃力はスレッジロックよりも遥かに高く、装備すると土属性の耐性を強化する事ができる。そして、この戦斧で敵を傷つけると敵の土属性の耐性を下げる事ができるので攻撃を命中させる度にダメージが少しずつ増していく。

 ダークから貰った魔法武器の使いやすさにレジーナとジェイクは驚く。今まで自分達が使ってきた武器は目の前の魔法武器と比べたら玩具も同然だと感じる。ただそれでもアリシアが持つフレイヤと比べたら二人の武器は弱い方だった。


「本当に凄いわこの剣、エメラルドダガーよりも軽くて切れ味もいい……最高ね」

「何馬鹿みたいな顔をしておる」


 テンペストを見てニヤついているレジーナにマティーリアが呆れ顔で声を掛ける。マティーリアは既にもう一匹のヘルハウンドを倒しており、彼女の足元にはヘルハウンドの死体が転がっていた。ノワールもヘルハウンドを一撃で仕留め、レジーナ達の方を見ている。


「いいでしょう? こんな凄い武器を持っていれば誰だって気分を良くするわよ」

「そんな変な顔をするのはお主だけじゃ」

「顔は関係ないでしょう!」


 ジャバウォックの柄の部分で自分の肩をトントンと叩きながらマティーリアはそっぽ向き、レジーナはマティーリアをジト目で睨む。ジェイクは二人のやり取りを見てやれやれと肩を竦め、ノワールも苦笑いを浮かべていた。

 ノワール達がヘルハウンドを倒すとダークはブラッドデビルの時と同じようにヘルハウンドの死体を茂みの中に隠す。アリシアもダークの手伝いをし、死体を茂みの中に投げ捨てた。


「お前達、喧嘩はそれぐらいにして先を急ぐぞ? いつまでもジッとしていると他のモンスターに見つかるかもしれないからな」


 アリシアが睨み合っているレジーナとマティーリアに呼びかけ、二人はムスッとしながらそっぽ向いて歩きだす。

 ダーク達は再びエファリーナと悪魔族モンスター達がいる廃砦を目指して歩き続けた。


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