表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十二章~新国家の騎士王~
145/327

第百四十四話  同盟会談


 アリシアに案内されてエントランスに戻って来たマクルダム達はエントランスの奥にある通路を通って城の更に奥へと進んで行く。途中で通る通路はとても静かでマクルダム達の足跡だけが響いていた。

 しばらく進むとマクルダム達はT字路の前にやって来て先頭を歩いていたアリシアが足を止める。マクルダム達が前を見るとT字路の真ん中には漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーと深紅のマントを装備したダークが立ってこちらを見ている姿があった。

 ダークのすぐ後ろには二枚扉があり、その両端にダークと同じように全身甲冑フルプレートアーマーとマントを装備した騎士が二人控えている。ただ、こちらの騎士達の全身甲冑フルプレートアーマーは白銀でマントも少し薄めの赤とダークの装備と色が違っていた。

 この白銀の騎士達も青銅騎士と同じで英霊騎士の兵舎で召喚されたNPCモンスターである。同じ召喚されたNPCでも強さはこちらの方が上で青銅騎士よりも数が少ない。その為、城の外には出ず、主に城の中を巡回し、異常が無いか調べて回っている。マクルダム達はその装備の良さから近衛隊か何かであるだろうと感じながら白銀騎士達を見つめていた。

 

「ダーク陛下、セルメティア王国国王、マクルダム・ジ・ヴィズ・セルメティア陛下、エルギス教国女王、ソラ・レーニン・イスファンドル陛下をお連れしました」


 マクルダム達が白銀騎士を見ていると先頭に立っていたアリシアがダークに話しかけ、それを聞いたマクルダム達はフッと反応して視線を白銀騎士からダークに変えた。

 ダークはアリシアを見ながら小さく頷き、それを見たアリシアは静かに横へ移動してマクルダム達の前から退いた。アリシアが移動するとダークはマクルダム達に近づき、マクルダム達も近づいて来るダークを見て真剣な表情を浮かべる。そして、目の前まで近づいたダークはマクルダムとソラにゆっくりと頭を下げた。


「ビフレスト王国へようこそ、マクルダム陛下、ソラ陛下」

「ダーク陛下、お招き感謝しますぞ」

「そして、我々と同盟を結んでいただける事、心からお礼を申し上げます」


 頭を下げるダークにマクルダムとソラは挨拶と同盟を結んでくれることに対しての礼を言う。二つの国の王と女王が嘗て冒険者だったダークと敬語で話すという驚きの光景にセルメティア王国とエルギス教国の騎士、貴族達は少し驚いた様な表情を見せている。


「お二人とも、ダーク陛下というのはおやめください。私は嘗てはただの冒険者でお二人の下にいた存在だったのです。敬語など伝わず、以前の様にダークと呼んでくださって結構です」


 国王になる前はセルメティア王国で冒険者をしていた自分が王族であるマクルダムとソラから敬語で話されるのは少し複雑な気分になのか、ダークは二人に冒険者だった時のように接してほしいと話す。それを聞いたマクルダムとソラはダークの言葉に一瞬驚いた様な反応を見せた。


「……では、ダーク殿と呼ばせていただきます」

「ウム……しかし、いくら元冒険者だとしても、他国の王と話すのに敬語を使わないのは我々としても抵抗があるので、話し方だけはこのままでいかせてもらいますぞ?」

「……分かりました」


 ソラとマクルダムの答えを聞いて、ダークは心の中で仕方がないなと感じる。此処で無理に敬語を使わずに話してほしい言って、マクルダムとソラの気分を悪くすると後々面倒な事になってしまう。両国との関係を悪くしない為にもダークは敬語をやめてもらう事を諦めた。


「では、早速会談を始めようと思いますので、どうぞ、会場にお入りください」


 ダークは二枚扉の近くで控えている白銀騎士達に合図を送る。すると白銀騎士達が動き出して二枚扉をゆっくりと開け始めた。どうやら二枚扉の先に会談の会場があるようだ。


「ダーク殿、この扉の向こう側に会談の会場があるのですか?」

「ええ、今回、会場を中庭に用意しました。室内よりも開放感のある外で行った方が気分も良くなると思いましたので」

「ほほぉ、外で会談とは、なかなか斬新ですなぁ」


 会談の会場が中庭にあると聞いてソラとマクルダムは意外そうな顔をする。この世界では会談を外で行う事が無いらしく、中庭で会談を行うというダークの発想にマクルダム達は驚いていた。

 扉が開くと眩しい太陽の光がダーク達を照らし、マクルダムやソラ達はその光の驚き目を閉じる。やがて光に目が慣れてマクルダム達はゆっくりと目を開けて外を見た。その瞬間、マクルダム達は一斉に目を見開いて中庭を見つめる。

 マクルダム達の視界には今まで見た事の無い風景が広がっていた。中庭の広さは体育館二つ分くらいであちこちに草原に生えている様な草や大量の小石が広がっており、その中に石で出来た一本道がある。他にも大きな池があり、その池には赤い橋が架かっていた。

 池の水は僅かに濁っており、水面には円形の葉が浮き、その近くには白やピンクの花が咲いている。特に目立ったのは中庭に生えている針の様に細く尖った葉を持つ木、そして太い幹を持ち、枝に沢山の薄いピンクの花を咲かせた木だった。


「こ、これは……」

「何でしょう、この中庭は? こんなの、今まで見た事がありません」


 マクルダムとソラは始めて見る中庭の風景にこれから同盟会談が行われる事も忘れて見惚れている。それはコレットやザムザス、ベイガードやソフィアナ達も一緒だった。

 城の中庭はダークがいた世界、つまり現実リアルの世界に存在する日本庭園の様になっていた。この世界の住人達を驚かせようと考えたダークがLMFで開催されたイベントクエストで手に入れたマジックアイテムを使い、面白半分で作ったのだ。

 マクルダム達が驚く中でダークとアリシアも少し驚いた反応を見せている。ただ、二人は中庭ではなく、中庭を見て呆然とするマクルダム達を見て驚いていた。


「……皆、凄く驚いているな」

「当然だろう? この世界には存在しない植物があり、見た事の無い作りの庭が目の前にあるのだから……」


 驚くマクルダム達を見ながらダークとアリシアは小声で話している。ダークは中庭を見てマクルダム達が驚く事を予想していたが、自分が予想していた以上に反応を見せたのでダーク自身も驚いてしまっていた。

 アリシアやレジーナ達も最初はダークが作った日本庭園の様な中庭を見て驚いたが、完成してから何度も見ているので流石に慣れて驚かなくなったようだ。ミリアやリアン達も中庭が完成してから何度も中庭に入り、その美しい風景を眺めて感動していた。

 中庭の風景に見惚れ、マクルダム達はその場から一歩も動かない。ダークはこのままだと同盟会談が始まらないと感じ、マクルダム達に声を掛ける事にした。


「皆さん、そろそろ移動しようと思っているのですが、よろしいですか?」

「ん? あ、ああぁ、そうですな……」


 ダークの言葉でマクルダムは我に返り、慌てた様な反応を見せて頷く。中庭に見惚れていたのをダークに見られて恥ずかしかったのか、小さく苦笑いを浮かべて照れ隠しをする。ソラ達も本来の目的を思い出し、気持ちを切り替えてダークに視線を向けた。

 全員が我に返ったのを確認したダークは中庭の奥へと歩いて行き、アリシアもそれに続いた。マクルダム達も二人の後をついて行き、中庭の奥へと進んで行く。その間もマクルダム達は歩きながら見た事の無い中庭の風景を眺めていた。

 石でできた一本道を歩きながらダークを先頭にマクルダム達は中庭の中を歩いて行く。中庭や未知の植物を間近で見たマクルダム達は改めてその作りに驚いた。


「……ダーク殿、この中庭は一体何なのですか? 私達は今までこんな庭を見た事が無いのだが……」


 マクルダムは前を歩いているダークに中庭の事を尋ねる。見た事が無い作りなのでもっと詳しい情報を知りたいのだろう。ソラ達も同じ気持ちなのかダークの後ろ姿を見ながら答えるのを待っていた。


「この庭は私が以前住んでいた国の庭園を真似て作った物です。故郷を思い出し、懐かしく思ってこの城の中庭に作ったのです」

「ほぉ、祖国の庭園ですか」


 ダークの話を聞いてマクルダムは少し意外そうな声を出す。流石に面白半分で作ったとは言えないのでダークはマクルダム達が納得するよう適当な理由を言った。

 マクルダムはいまだにダークが何処の国の出身なのか知らない。だが、目の前に広がる庭はデカンテス帝国やマルゼント王国の様な周辺国家でも作る事ができないのでダークは周辺国家の出身ではない事は分かる。となると、ダークは大陸の人間ではなく、大陸の外から来た人間ではないのかと考えた。

 石の道を歩いていると突如ダーク達の周りに何かがゆっくりと落ちて来た。マクルダム達は少し驚いた表情を浮かべて上を向く。マクルダム達の視界には大きな木の枝に咲いている沢山の薄いピンクの花とその花の花びらがゆっくりと落ちて来る光景が入る。

 さっきから落ちて来るのが花びらだと知たマクルダム達は足を止めて再び驚きの表情を浮かべた。同時に花びらが雪の様に振る幻想的な光景に感動し目を大きく開けている。


「ダークよ、この植物は一体何なのじゃ?」


 マクルダム達が花びらに見惚れているとコレットが少し興奮した様子でダークに花びらを降らす植物について尋ねる。声を掛けられたダークは足を止めて振り返り、アリシアもマクルダム達の方を向いた。

 ソラの時の様に他国の王族に敬語を使わずに話す態度にマクルダム達セルメティア王国の人間は驚きと呆れを感じながら視線を花からコレットに変える。普通ならコレットの態度に他国の王は不快になるかもしれないが、ダークはマクルダム達に冒険者だった時と同じように接してほしいと思っているので、逆にコレットの接し方を良く思っていた。

 笑顔で自分を見上げるコレットを見たダークはマクルダム達が見ていた花に視線を向ける。アリシアもダークの隣で同じように花を見上げた。


「これは桜という植物です」

「サクラ?」


 聞いた事の無い名前にコレットは小首を傾げる。マクルダム達も名前を言ったダークの方を見た後に視線を再び桜に向けた。


「この植物はその花が美しい事から観賞用に植えられているもので、花が散る時にはこのように花びらが雪の様に降って来るのです。私達はこれを桜吹雪と呼んでいます」

「サクラフブキ……花が散るのに吹雪と言うとは何とも不思議なものじゃな」


 ダークの話を聞いてコレットは不思議そうな顔でまばたきをしながら散る桜の花びらを見つめる。この世界には桜は存在せず、頭上から花びらが落ちて来るなどあり得ない事なのでマクルダム達は不思議な感覚に捕らわれた。


「しかし、この桜、でしたっけ? こんなに花びらが散るとこの美しい中庭が花びらだらけになってしまって掃除とかが大変なのではないですか?」


 ソラがチラッとダークの方を見て疑問に思っている事を口にする。

 桜吹雪は確かに美しい、しかし散ってしまった大量の花びらが落ちると中庭が花びらで一杯になってしまい、折角の美しい中庭が台無しになるのではと思っていたようだ。


「その点は大丈夫です。この桜の花びらは地面に落ちてからしばらくすると自然消滅するのです。ですから中庭が花びらだらけになる事はありません」

「そ、そうなのですか?」

「ええ。あと、普通の桜は散ってしまえば無くなりますが、この桜は特殊な魔法が掛けてあるので花は決して無くなりません。一年中、季節に関係なく咲き続けます」


 季節に関係なく花を咲かせる植物、それを聞いたソラは耳を疑い再び目を大きく見開いてダークを見つめる。話を聞いていたマクルダム達も同じような顔をし、コレットは感動したのか、おぉという表情でダークを見ていた。

 中庭にある桜や石の道などはLMFでギルドの拠点をリフォームしたり美しく見せたりする為に使われるマジックアイテムで作られたものだ。ポーションやメッセージクリスタルの様な一度使用したら消滅するようなアイテムと違い、決して消滅する事はない。プレイヤーの攻撃や魔法などで壊れる事はあるが、時間が経てば元に戻るようになっている。その設定は異世界でも残っている為、散った桜の花びらは自然に消滅し、花も無くなる事はなく一年中桜の花を咲かせ、花びらを散らせるのだ。

 しかし、季節に合わせたいと考えるプレイヤーも多くいる為、拠点に設置した植物の設定をいじって、その花が咲かない季節には花を咲かせないようにする事もできるようにもなっている。


「一年中、この美しい光景を見る事ができるとは……これもダーク殿が以前住んでいた国で手に入れたマジックアイテムを使って作られたのか?」

「ハイ」


 マクルダムの質問にダークは素直に答える。それを聞いたマクルダム達はダークが持つ未知のマジックアイテムにはこんな事ができるアイテムもあるのだと知って目を見開いた。

 それからしばらく桜吹雪を眺めてからダーク達は再び歩き出して移動する。池に架けられている赤い橋を渡り、ダーク達は少し大きめの広場に出た。その広場の中央には白いテーブルクロスが掛けられた小さめの円形テーブルと三つの椅子が置かれており、その近くに少年姿のノワール、レジーナ、ジェイク、マティーリア、ヴァレリアが立っており、広場に入って来たマクルダム達を見ている。


「あちらが会談を行う場所です」


 ダークはマクルダムとソラにテーブルについて会談を行うと伝え、マクルダムとソラは遠くに見えるテーブルを見つめる。

 日本庭園で会談やお茶会をするなら普通は畳や緋毛氈ひもうせんを敷いてその上で正座をしたりするのだが、異世界の住人、しかも王族に正座などさせる事はできないので、仕方なくテーブルと椅子を使って会談を行う事にしたのだ。

 テーブルがあるところまで移動するとダーク、マクルダム、ソラはそれぞれ自分の名札が置かれてある場所へ移動して椅子に座る。三人は三角形を描く様に座り、斜め前にいる二人の王を見つめた。


「では、これより同盟会談を行いたいと思いますが、大勢に囲まれていると会談に集中できないと思いますので、各国はそれぞれ護衛を二名、会談の話を聞く補佐役を一名残し、残りの護衛や貴族には離れた所で待っていただきと思っていますが、よろしいですか?」


 ダークは目の前に座っていっるマクルダムとソラに各自が連れている護衛や貴族の数を減らす事を提案した。確かに三国の護衛や貴族が集まると十人以上はおり、それだけの人数に注目された状態では大切な会談に集中し難くなる。各国の今後が決まる重要な同盟会談なのでしっかりと話し合いができる状態で会談を始めたいとダークは思っていたのだ。そして、マクルダムとソラも同じ気持ちだった。

 

「私は構いません。あまり大勢に囲まれると落ち着いて話す事ができませんから……」

「私も異議は無い」


 ソラもマクルダムも護衛と貴族の数を減らす事に賛成し、二人の答えを聞いたダークは小さく頷く。

 ダーク達は共に会談に参加する護衛二人と話を聞く補佐役を選び、残りの護衛や貴族達は三人から少し離れた所にあるテーブルクロスが掛かった長方形のテーブルの近くまで移動させられ、そこから会談を見守る事になった。

 会談に参加させる者を決めたダーク達は再び目の前に座っている王族達と向かい合う。ダークはアリシアとノワールを護衛、ヴァレリアは補佐役に選び、マクルダムはヘルフォーツとザムザスを護衛、マーディングを補佐役として選んだ。そしてソラはベイガードとソフィアナを護衛役にし、一緒に馬車に乗っていた貴族風の男を補佐役に選び、それぞれ背後に護衛と補佐役を控えさせる。


「では、これよりビフレスト、セルメティア、エルギスの三ヵ国による同盟会談を執り行わせていただきます」


 全ての準備が整い、ダークは同盟会談の始まりを告げる。いよいよ同盟会談が行われるのだと、マクルダム達セルメティア王国の人間達、ソラ達エルギス教国の人間達は緊張した表情を浮かべた。

 ダークの後ろにいるアリシアも少し緊張した様子を見せているが、ノワールとヴァレリアは落ち着いた様子でテーブルについている三人の王を見ている。


「今回の会談で我々は正式に同盟を結ぶ訳ですが、同時に幾つか話し合いをしたいと思っています」


 同盟を組む事は確実だが、三つの国で話しておきたい事があるというダークの言葉を聞き、マクルダムとソラは反応し、僅かに表情を鋭くした。両国の護衛と貴族達もどんな話なのだろうと黙ってダークを見ている。


「まず、我々が同盟を結んだ後に同盟国内で何か大きな問題が起きた場合、他の同盟国は力を貸し、その問題解決に力を貸すという事で構いませんね?」

「ウム、勿論です」

「同盟を結んだのであれば、助け合うのは当然ですから」


 ダークの確認にマクルダムとソラは異議を唱える事無く頷いた。同盟国が危険な状態になれば助け合うのは当たり前、そんな二人の思いを感じ取り、ダークは兜の下で小さく笑う。


「我々ビフレスト王国もセルメティア王国とエルギス教国に何かあれば全力で力をお貸しします。それがこの国を建国する際に交わした約束ですから」


 自分も同盟国を助ける為なら協力を惜しまない、ダークは低い声でそう話し、それを聞いたマクルダムとソラは小さく頷く。


「では、次に同盟国同士の貿易などについてお話ししたいのですが、その前にお二人に見ていただきたい物があります」


 そう言ってダークは後ろに控えているヴァレリアの方を向く。するとヴァレリアは小さく頷き、テーブルに近づくとテーブルの上に三つのアイテムを置いた。

 三つの内、一つはライトグリーンの液体が入った小さなガラス瓶。二つ目は青い液体の入った同じ形のガラス瓶だ。そして三つ目は銀色の液体が入った他の二つとは少し形の違うガラス瓶だった。

 マクルダムとソラ、そして二人の後ろに控えている者達はテーブルの上に並ぶガラス瓶を見ながら不思議そうな表情を見せた。見た目から魔法薬である事は分かるが、どれも今まで見た事の無い物なので興味が湧いて来たようだ。


「ダーク殿、この三つのアイテムは何ですか?」


 ソラがダークの方を向いて並べられている三つの魔法薬について尋ねる。


「この三つのアイテムはこの国で開発した新しい魔法薬です。効力についてはこのヴァレリアが説明いたします。ヴァレリア、皆さんに説明を」


 ビフレスト王国で開発された全く新しい魔法薬をだと聞いたマクルダムとソラは驚きの表情を浮かべる。マクルダムの後ろに立っている主席魔導士のザムザスはヴァレリアが魔法薬やマジックアイテムの調合、研究を得意としている事を知っているので、見た事の無い魔法薬を見せられた時、これらを開発したのがヴァレリアだとすぐに気付いた。

 ヴァレリアはマクルダム達が自分の方を向いたのを確認すると魔法薬の説明を始めた。


「説明させていただきます。まずはこちらのライトグリーンの魔法薬ですが、こちらは私がマゼンナ大森林にいた時に完成させた新しいポーションです。回復力は最も高価とされているオレンジ色のポーションをの倍になっています」

「な、何と、最高の回復力を持つポーションの倍?」


 マクルダムはヴァレリアの話を聞いて目を見開きながら僅かに興奮した声を出す。ソラも口を小さく開け、驚いた様子でポーションを見ている。


「陛下、このポーションは以前私がダーク陛下をヴァレリアに会わせた時にマゼンナ大森林で彼女に見せてもらった物と同じ物です」

「ん? ああぁ、あの時話していたポーションか」


 耳元で話しかけて来るザムザスの言葉にマクルダムはザムザスの方を向き、彼からヴァレリアがマゼンナ大森林で新しいポーションを完成させていたという話を聞いたのを思い出す。

 セルメティア王国の仲間にする事ができなかった魔女をダークが簡単に仲間にし、彼女が新しいポーションを作っていたという知らせをザムザスから聞かされたマクルダム達はとても驚いていた。


「……このポーションは大量生産の準備が整っており、現在は大急ぎで生産している最中です。一ヶ月以内には町で売る事ができるようになります」


 ヴァレリアはザムザスがマクルダムに新しいポーションの話をしているのを聞いているが、何も言わずに説明を続けた。マクルダムとザムザスは既に大量生産が進んでおり、近いうちに市場にも出されると聞いて驚きながらヴァレリアに視線を向ける。ソラ達も新しいポーションがビフレスト王国で売買される事を知り驚いていた。


「次にこちらの青い魔法薬について説明させていただきます」

「……ザムザス、あの魔法薬は何だ?」

「分かりません。あれは私も始めて見る物です」


 見た事の無い魔法薬にザムザスは目を細くして青い魔法薬を見つめる。


「この魔法薬は先程紹介したポーションと違って体力を回復するだけでなく、体力と同時に魔力も回復する事ができる物です」

「た、体力と魔力を同時に回復?」


 ソラは青い魔法薬の効力を聞くと思わずヴァレリアの方を向いて声を上げる。マクルダムとザムザス、そして周りにいるソフィアナ達も声をこそ出さなかったが愕然とした様子を見せていた。

 彼等が驚くのも無理はない。この世界には体力を回復するポーションや魔力を回復する<マナウォーター>と呼ばれる魔法薬が存在する。だが、どちらも片方しか回復する事ができず、両方を同時に回復させる魔法薬など存在せず、歴史上、誰も開発する事ができなかった。なのに、ヴァレリアが体力と魔力を同時に回復させる事ができる魔法薬を開発させたのだからマクルダム達は衝撃を受けたのだ。


「体力と魔力を同時に回復させる魔法薬……ヴァレリアよ、それは真か?」

「ハイ、とは言ってもまだ試作品ですが……」


 試作品でも作れただけ凄いだろう、マクルダム達はそう思いながらヴァレリアを見つめる。ダーク、アリシア、ノワールはマクルダム達の顔を見て彼等には聞こえないくらい小さな声で笑うのだった。


「この魔法薬は先程もお話しした様に使用すれば体力と魔力を同時に回復する事ができます。回復力はさっきのポーションと比べると低く、下から二番目のポーションと同じくらいの回復力です」


 ヴァレリアは魔法薬の詳しい効力を説明し、それを聞いたマクルダム達は意外そうな顔で魔法薬を見つめる。てっきり一番回復力の高いポーションと同じくらいの回復力かと思っていたが、それよりも低い

回復力だったので少し驚いたらしい。


「それにしてもヴァレリア、お主はこれ程の魔法薬をどのようにして作ったのだ?」


 マクルダムの問いにヴァレリアの目元が一瞬動く。誰も作った事が無い魔法薬の開発に成功したのだから、今まで誰も見た事の無い技術や材料を使っているのは間違いない。それを同盟を結ぶ国の王とは言え、話しても良いのかと考えていた。

 ヴァレリアが問いに答えようか悩んでいると、黙っていたダークが助け舟を出すかのようにマクルダムに話しかけた。


「この魔法薬の作り方はヴァレリアが独自で見つけたのですが、材料は私が以前住んでいた国で手に入れた薬草などを使っています」

「ダーク殿が以前住んでいた国の?」

「ええ、どの材料もこの辺では手に入れる事ができない物ばかり……いや、誰も見た事も聞いた事も無い物ばかりです」

「そうですか……」


 ダークは低い声で材料は手に入れる事はできない物だと伝え、それを聞いたマクルダムは残念そうな表情を浮かべる。手に入る材料ならそれを使って自分達も作ってみようと思っていたのだろう。ソラも似た様な顔で小さく俯いていた。

 マクルダムは今のダークの話の内容からダークがこの大陸の外から来た人間で間違いないと考える。それなら誰も知らない未知のマジックアイテムを持っている事も説明がつく。一体どんな国から来たのかマクルダムは気になっていたが、今は会談の真っ最中、余計な事は考えずに会談に集中する事にした。

 ダークもこれまでの会話の内容、中庭や新しい魔法薬を見せた事で自分が大陸の外から来た存在ではないかとマクルダム達が考えている事を感じ取っていた。だが、自分が大陸の外から来たと思われようが、未知のマジックアイテムの情報を知られようがダークにとっては都合の悪い事ではない。あくまでもLMFの世界から来た事、レベル100である事がバレなければいいのだ。マクルダム達がそこに辿り着かない程度に情報を与えるくらいなら大丈夫だと感じていた。


「ただ、ヴァレリアが言ったようにこれはまだ試作品です。現在は私が持っていた材料を使わず、周辺で手に入れられる薬草などを使ってこれと同等の物が作れるようにヴァレリアに研究させています。それが成功した場合はその材料と作り方を両国に提供するつもりです」

「そ、そうですか、ありがとうございます」

 

 貴重な魔法薬の作り方や材料を提供すると言うダークにソラは苦笑いを浮かべる。マクルダム達もまばたきをしながらダークを見ている。

 マクルダム達はダークの協力的な態度と貴重な情報を提供するという考えから時々ダークが祖国への忠誠心を失って闇に堕ちた黒騎士である事を忘れそうになる。なぜこれほどの器を持つ男が黒騎士になったのか、マクルダム達は全く分からなかった。


「では次に、こちらの銀色の魔法薬についてですが……」


 ヴァレリアは続いて三つ目の魔法薬の説明を始める。マクルダム達は気持ちを切り替えてヴァレリアの説明を真剣に聞いた。

 それからダーク達は各国が手に入れた他国の情報を提供する事、ビフレスト王国で開発した魔法薬の売り買いについてなど色々な事を話し合い、会談は順調に進んだ。そして長い話し合いの結果、各国は同盟国が助力を求めれば力を貸す事、特産物やマジックアイテムなどを取引する際には各国が納得する額で売り買いする事、周辺国家などの情報を提供するという事を決めて会談は無事に終わった。

 長かった会談が終わって緊張が解けるとダークは両国の王族や貴族、護衛の騎士達に中庭でゆっくりくつろぐよう話す。本来なら会談が終わればすぐに国へ帰るべきなのだが、折角なのでマクルダム達はもう少し中庭を眺めながらくつろぐ事にした。

 マクルダム達が中庭を眺めていると城の中から数人のメイドが飲み物などが乗ったトレーを持って入って来た。メイド達の先頭にはコック帽を被って首に赤いスカーフを巻いた卵色の長髪の若い女コックが歩いている。ただ、その女コックは普通のコックではなかった。背中には小さな悪魔の翼が生えており、口からは小さな牙が顔を出している。このメイドはダークがサモンピースで召喚したモンスターなのだ。

 女コックとメイド達がダーク達がいる広場に入るとマクルダム達は一斉に女コック達に視線を向ける。女コックはメイド達に指示を出し、広場に置かれている長方形のテーブルの上にトレーの上に乗っている飲み物などを並べていった。


「皆様、お疲れ様でした。お飲み物とお菓子をご用意いたしましたのでお召し上がりください」


 満面の笑みを浮かべる女コックを見たマクルダム達はテーブルの前に集まり、その上に並べられている飲み物と菓子を見つめる。

 ガラスのコップには透き通った茶色の液体が入っており、その隣に置かれてある小皿に手の平サイズの見た事の無い菓子が乗っていた。丸いものや花の形をしたもの、細かい線が幾つも入ったものがあり、その美しい菓子の見た目にマクルダム達は驚いて目を見開く。

 マクルダム達の前に置かれたあるのは麦茶と和菓子で、これもLMFのイベントクエストで手に入るアイテムを使って作られた物である。ダークは折角日本庭園で会談を行ったので振る舞う菓子と飲み物も和風の物がいいと思い、材料であるアイテムを女コックに渡して作らせたのだ。

 出された和菓子をマクルダムはしばらく見ていたが、折角出してもらった菓子を見てばかりいないで食べた方がいいと思い食べる事にした。小皿の端に置かれてある先の尖った小さな棒を見てそれを手に取る。フォークが見当たらない事からこれで食べるのだろうと考えたマクルダムは小皿の上に乗っている和菓子の一つを尖った棒で刺し、顔の前まで持って行く。

 初めて食べる菓子なので食べ方が正しいのかと少し不安に思ったマクルダムはチラッとダークの方を向いた。するとダークは小さく手を動かし、どうぞ、とマクルダムに無言で伝える。それを見たマクルダムは食べ方が正しいのだ感じ、棒で刺した和菓子を一口で食べた。

 和菓子の本来の食べ方とは全く違うのだが、ここは異世界でダークも細かい作法を知らないので何も言わずに好きなように食べさせた。

 マクルダムは目を閉じて口の中に入っている和菓子をゆっくりと噛みながら味を確かめ、ソラやコレット達はマクルダムが食べる姿を黙って見ている。すると、マクルダムは突然目を開けて小皿の上の和菓子を見下ろした。


「美味い! 何だこの菓子は? 今まで食べた事の無い食感と甘さが口の中に広がっていく」


 力の入った声で味の感想を話すマクルダムを見てソラ達は少し驚いた反応を見せる。一体どんな味なのかとソラ達も目の前にある自分の和菓子を食べた。


「……美味しい!」

「美味い! 凄く美味いのじゃあ!」


 あまりの美味しさにソラは驚いて口を手で押さえ、コレットも目を輝かせながら感動する。他の者達もその味に思わず声を漏らす。護衛の騎士達も職務を忘れて和菓子を食べている。その光景はまるで立食パーティーの会場の様だった。

 和菓子を食べながら隣の置いてある麦茶も一口飲む。するとその冷たさとスッキリとした味が口の中に広がり、マクルダム達は再び驚きの表情を浮かべる。


「冷たい、これは紅茶を冷やしたものなのか?」

「でも、紅茶とは少し味が違う様な気がするな」

「ああ、と言うよりもどうすればここまで冷やす事ができるんだ?」


 麦茶を飲んだ騎士達がコップの中を覗き込むながら感想や疑問を口にする。それと同時に自分達が今まで飲んでいた飲み物と比べるとこの飲み物は最高だと感じるのだった。

 騎士達の言葉を聞きながらマクルダム達王族も麦茶を飲んでいる。特にコレットはその味が気に入ったのか麦茶をゴクゴクと飲んでおり、メイドにおかわりを頼むくらいだ。そんなコレットの姿にマクルダムは呆れ顔になった。


「こんな美味しい飲み物があるなんて……作り方、教えてもらいたいなぁ」


 ソラもコレットと同じで麦茶が気に入ったらしく、小声で思っている事を口にする。

 ダーク達がビフレスト王国の人間は和菓子と麦茶に感動するマクルダム達は黙って見ており、特にレジーナとジェイクは感動するマクルダム達を見てニヤニヤと楽しそうに笑っていた。アリシア達は同盟会談の前日にマクルダム達に出す菓子と飲み物はこれ良いのか確かめる為に試食しているので、マクルダム達を見ても自分達も食べてみたいとは思っていない。因みに試食をしたアリシア達もマクルダム達と同じような反応をしていた。

 その後、菓子と飲み物を堪能したマクルダム達はノワールとヴァレリアの転移魔法でそれぞれの国へ帰って行き、三国の同盟会談は無事に終了した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ