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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十二章~新国家の騎士王~
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第百四十一話  新国家と周辺国家


 新国家、ビフレスト王国の首都であるバーネスト。その中心にある王城、その二階の会議室にダークとアリシア、複数の男達が長方形のテーブルを囲んで座っている姿があった。

 ダークはいつもの漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーとビフレスト王国の紋章が描かれた深紅のマントを装備して椅子に座っており、彼から見て左側の目の前の席には白い鎧と白いマントを装備したアリシアが座っている。アリシアの向かいの席には四十代前半ぐらいの金色の短髪にカイゼル髭を生やした男が座って手元にある羊皮紙を見ており、他の席でも男達が同じように手元の羊皮紙を見ていた。


「……以上が建国から今日までの冒険者達の動きと達成した依頼の数です」

「なかなか順調のようだな?」

「ええ、陛下が御造りになられたこの国で名を上げようとしたり、セルメティアやエルギスでは受けられないような依頼を受けようとしたりと理由は様々ですが、この町で活動する冒険者や依頼の数は確実に増えております」


 アリシアの向かいの席に座っている男はダークの方を見ながらバーネストにいる冒険者や彼等が受けている依頼の詳しい情報を話す。それを聞いたダークは小さく俯いて笑った。


「そうか。よくやってくれたな、モンスティール?」

「ありがとうございます」


 ダークは報告した男をモンスティールと呼び、名を呼ばれた男は小さく頭を下げて礼を言った。

 男の名はモンスティール・ペンドリアス、ビフレスト王国にある全冒険者ギルドを管理する存在であり、バーネストにある冒険者ギルドのギルド長を務める男だ。元々はバーネストでごく普通にギルド長として働いていたが、バーネストがビフレスト王国の首都に変わった日からビフレスト王国に存在する全ての冒険者ギルドの管理を任される事になった。ダークとは彼がバーネストの町長をやっていた時から顔見知りで、仕事もしっかりやる事からダークやアリシア達からも信頼されている。

 冒険者ギルドが順調に活動している事を知り、ダークは今後の冒険者ギルドの管理はモンスティールに任せたままでもいいと感じる。アリシアも同じ気持ちだった。他の男達は国王であるダークに褒められているモンスティールを見て少し悔しそうな表情を浮かべている。

 会議室にいるダークとアリシア以外の男達は全員、首都であるバーネストやビフレスト王国の他の町を管理をしている者達で各町の状況や変化などを国王であるダークに報告する会議を行う為に王城の会議室に集まっていたのだ。


「……他の者達はどうだ? 何か変わった事やないか?」


 男達の反応に気付いたダークは少し力の入った声を出した男達に話しかける。ダークの声を聞いた男達は一瞬驚きの反応を見せ、慌てて自分達が持つ羊皮紙に目をやった。


「こ、これと言って大きな変化はありません。テラームの町やズーの町でも大きな問題は起きておりません」

「ハ、ハイ。ゼゼルドの町での城壁の強化も順調に進んでおります」

「そうか……」


 他の報告は大した事はないと感じ、ダークは少しつまらなそうな口調で呟く。報告した男達はダークの機嫌を悪くしたのか、と不安そうな顔をしてダークを見ている。

 ビフレスト王国が建国され、ビフレスト王国の領内にあるセルメティア王国とエルギス教国の町や村はビフレスト王国のものとなった。セルメティア王国からはバーネストの周りにあるテラームの町とズーの町、そして複数の村、エルギス教国からはゼゼルドの町と周辺にある村がビフレスト王国のものとなり、各町を管理する者達は町の環境や雰囲気などを細かくダークに報告するようにしている。だが、この数日は大した変化や進展が無くダークは同じ報告に飽き飽きとしていた。

 冒険者ギルド以外に大きな変化がない事にダークは溜め息をつき、モンスティール達はダークが気分を悪くしてたのではと緊張した様子を見せる。


「まぁ、まだ建国して二ヶ月しか経っていないからな、そんなに大きな変化は期待できない……皆、引き続き各々の職務を果たしてくれ」


 短い期間で大きな変化を期待する自分の考え方が甘いとダークは自分に言い聞かせ、モンスティール達に今まで通り自分達のやるべき事をやるよう伝える。モンスティールはダークが不機嫌になっている訳ではないと知り、少しだけ安心したのかホッと小さく息を吐いた。

 その後、ダーク達は簡単に今後の事を話し合い会議は無事に終わる。会議が済むとモンスティール達は会議室を出て行き、自分達の職場に戻ったり、自分達が管理する町へ戻って行く。

 モンスティール達が退室するとダークは椅子にもたれて深い溜息をつく。それを見たアリシアはクスクスと笑った。


「大丈夫か?」

「ああ、王様らしくするのも簡単じゃない。更に各地の状況を聞いて管理する者に指示を出さないといけないのだから疲れる」

「仕方ないだろう? それが王である貴方の務めなのだから」

「フッ、確かにな」


 アリシアの言葉にダークは思わず鼻で笑ってしまう。アリシアはダークを見て苦笑いを浮かべると席を立ち、ダークの後ろにある大きな窓から町を眺める。


「ところで町の方はどうだ? 何か問題は起きてないか?」

「大丈夫だ。騎士団の方はビフレスト王国の国民となった旧セルメティア王国の騎士達がちゃんとやってくれているし、町の住民達も騒いだりする事無く普通に暮らしている」

「そうか、最初はモンスターが町の中にいるのを見て大騒ぎしていた住民達も今ではすっかりモンスターと一緒にいる事に慣れてしまったな」


 ダークはアリシアからバーネストの現状を聞いて呟く。その声はどこか嬉しそうに聞こえる。この二ヶ月でバーネストにも色々な変化が出ていた。

 ビフレスト王国の首都であるバーネストは強固な城壁に囲まれ、ダークが召喚した青銅騎士達やセルメティア王国からビフレスト王国の騎士になった者達に護られえている。更に町の真上では複数のモンスターが空を飛び回っていた。そのモンスター達は決してバーネストを襲撃しようとしている訳ではない。ダークが召喚したモンスターで町の上空から町の中、そして周辺を見回して異常がないかチェックしているのだ。

 町の中にも多種のモンスターの姿が見られるが町や住民達を襲ったりする事無く町の中を移動している。町の住民達はモンスターが目の前にいるのに驚いたり騒いだりする事無く普通に生活していた。まるでモンスター達を自分達と同じ町の住民と見ているようだ。

 バーネストにいるモンスターは全てダークが召喚したモンスターで住民達に危害を加えないのでバーネストではモンスターがいる事は当たり前の様になっている。だが始めてバーネストを訪れる者達はそのあり得ない光景に必ず驚いた。


「だが、他の町から来た者達はやはりこの町を異常だと思っているらしいぞ? 『バーネストはモンスターの巣窟と化し、町の住民達はモンスターに洗脳されている』と噂が流れているらしい。中にはダークが人間を支配する為に町を制圧した魔族の使者だと考える者もいると言う噂だ」

「好きに言わせておけ。どんな内容だろうと所詮は噂、すぐに真実が広がって悪い噂も消えるさ。私は魔族ではないし、この町の住民達はモンスターに洗脳されてなどいないのだからな」


 バーネストの悪い噂が流れている事を聞かされても冷静な態度を取るダーク。今の彼にはビフレスト王国の方針を決めたり各町や村の状況を理解する事の方が大変である為、悪い噂など苦になっておらず、殆ど気にしていなかった。

 アリシアは悪い噂などすぐに消えると前向きな考えをするダークを見て彼ならすぐにビフレスト王国も安定させる事ができるだろうと感じ、自分も精一杯ダークに力を貸そうと考えていた。


「それよりもアリシア、例の募集の件はどうなっている?」


 ダークは席を立ち、テーブルの上にある羊皮紙を手に取って内容を再確認しながらアリシアに尋ねる。アリシアは視線をダークから再び窓への方に向けて町を見下ろした。


「募集を掛けてからまだ三日しか経っていないのに既に六十人以上が応募してきている」

「ほぉ、意外だな。もっと少ないと思っていたのだが……」

「皆、建国されたばかりの国でまともな生活するにはちゃんとした職に就いた方がいいと思っているのだろう。冒険者とかでは大して稼げないからな」


 アリシアの言葉を聞いたダークは彼女を見つめながら確かにそうだな、と言いたそうに肩を竦めた。

 三日前、ダークはアリシアにビフレスト王国軍に入隊したい者を募集させた。建国後、アリシアはビフレスト王国軍の親衛隊長及び総軍団長となり、軍関係の管理を任されていたのだ。

 英霊騎士の兵舎で軍事力には問題無いはずなのになぜダークは軍への入隊者を募集させたのか、町の住民達にちゃんとした職を与えたいと言う理由もあったが、それ以外にも理由があった。


「それにしても、英霊騎士の兵舎というのも意外に使い難い物なのだな?」

「ああ、彼等は簡単な作業ならできるが、複雑な作業をする事ができない。LMFでは問題は無かったが、こっちの世界では何とかしなくてはならない」


 ダークは手に持つ羊皮紙をテーブルの上に置いて低い声を出し、アリシアは真剣な顔でダークを見つめる。

 実は英霊騎士の兵舎で生み出された騎士達は攻撃や防御、町の見回りと言った単純な命令なら実行できるが、自分が見た物や聞いた事を他の者に伝えたり、自律的な行動を取る事はできない。それでは効率よく行動する事ができないのでダークは騎士達を指示を出す指揮官的な存在を用意する必要があった。となれば、人間の騎士が一番適任だとダークとアリシアは考えたのだ。

 しかし、現在王国の騎士団にいる人間の騎士の人数ではそこまで回す余裕は無い。だからビフレスト領にある町や村に王国軍への入隊募集を掛けて更に人間の騎士を集める事にしたのだ。結果、募集を掛けてからわずか三日で大勢の入隊希望者が集まった。


「軍への入隊希望者以外にもこの城で使用人やメイドとして働きたい者や魔術師部隊に入隊したい魔法使い達にも募集を掛けてかなりの人数が集まっている。上手くいけば人材の問題はすぐに片付くだろう」

「分かった。ただ、入隊を希望しているからと言って全員を入隊させる訳にはいかない。テストを受けてもらい、彼等が軍や城で働くのに相応しいか確かめる必要がある」

「そっちの方は大丈夫だ。ダークに言われた通りの内容のテストを作らせている。試験には余裕で間に合う」


 入隊希望者達に受けさせるテストもちゃんと用意できていると聞き、ダークはどれだけの入隊希望者が合格し、軍に入るのだろうと考える。

 ダークとアリシアが人材について話し合っていると会議室の扉をノックする音が聞こえ、ダークとアリシアは扉の方を向く。


「マスター、いらっしゃいますか?」

「ノワールか、入れ」


 扉の向こうから聞こえるノワールの声を聞いてダークは入室を許可する。すると会議室の扉が開き、少年姿のノワールが入室する。格好は建国宣言の時に着ていた紫色の立派な魔導士服ではなく、いつもの灰色のローブ姿だった。

 ノワールが会議室に入るとその後ろからレジーナ、ジェイク、マティーリア、ヴァレリアが続いて入って来る。レジーナとジェイクはいつもの青い装飾が施された白い鎧、金の装飾が施された黒い鎧とガントレットを装備し、ヴァレリアもいつもの露出度の高い魔女服姿だ。

 しかしマティーリアだけはいつもと違う格好をしている。白い長袖の上に白い竜の形をした装飾が施された赤い鎧を装備し、灰色のスカートを穿いているという格好だった。この赤い鎧はダークが新国家の建国と同時にマティーリアに与えた鎧である。今までマティーリアはセルメティア王国の調和騎士団の鎧を装備していたのでビフレスト王国では使えない鎧の代わりとしてダークが自分が持っている鎧の中からマティーリアに相応しい鎧を選びプレゼントしたのだ。

 全員が部屋に入ると最後に入室したヴァレリアが扉を閉め、ノワール達はダークとアリシアの方へ移動する。


「お待たせしました、マスター」

「全員揃ったな? では、これよりビフレスト王国の現状や今後の方針、周辺国家についての特別会議を行う」


 ダークはアリシア達を見ながら特別会議を執り行う事を話し、アリシア達は真剣な表情でダークを見ている。

 先程、モンスティール達と会議を行いビフレスト王国の方針などについて話し合ったが、今度はダークの正体を知る協力者達だけで他の者達には話せない特別な話し合いを行うのだ。

 ダーク達はテーブルの上に置かれてあるモンスティール達が使った羊皮紙などを退かしてから席に付き、全員が席に付くのを確認したダークは腕を組んで目を光らせた。


「まず、ビフレスト王国の現状についてだが、大きな問題は起きていない。ただ、まだ建国から二ヶ月しか経っていない為、町や村の住民達にも不安などが見られると管理している者達から報告があった」

「建国したばかりである上に領土も少なく、まだ周辺国家との繋がりがありませんからね。不安なの無理はありません」

「ああ、だが一週間後にセルメティア王国、エルギス教国と同盟を結ぶ会談が行われる。両国と正式に同盟を結べば国民達の不安も無くなるだろう」


 セルメティア王国とエルギス教国との同盟会談の事を話すダークを見ながらアリシア達は真剣な表情のまま話を聞いている。

 同盟会談は建国してすぐに行う予定だったのだが、建国したばかりでビフレスト王国が国としてまだ落ち着いていなかった為、ダークはしばらくしてから会談を行う事をマクルダムとソラに話した。二人も落ち着いてからの方が会談を行いやすいと考えて会談の延期を了承する。そして二ヶ月が経ち、ある程度ビフレスト王国の落ち着いたので会談を行う事を両国に伝えた。

 嘗て自分達が暮らしていたセルメティア国と周辺国家の中でも帝国に次ぐ領土を持つエルギス教国と同盟を結べば両国から助力を得られ、ビフレスト王国は政治的にも安定し、国民達から不安も消えるはずだとダーク達は考えていた。


「会談の時にヴァレリアが開発したポーションや様々な魔法薬の取引などについての話し合いもする。ヴァレリア、その時はマクルダム陛下やソラ陛下達にアイテムの説明を頼むぞ?」

「分かった」


 ヴァレリアは椅子にもたれながらダークの方を向いて返事をする。アイテムの効力を説明するなら作ったヴァレリア本人に説明してもらった方が相手も分かりやすいと思いヴァレリアに頼んだのだ。


「会談が終わった後には軍の入隊試験を行う。我が軍をより強くするには人間の騎士も必要だからな。レジーナ、ジェイク、マティーリア、試験の時はお前達三人にも手伝ってもらう。頼むぞ?」

「ああ、任せてくれ」

「軍に入隊するのに相応しいか、あたし達がしっかり見極めてやるわ」

「別に妾達が選ぶ訳ではないのだから、見極める必要は無いじゃろう」


 ジェイクとレジーナは試験の手伝いを頼まれて笑いながら返事をし、マティーリアは目を閉じて小さく俯きながら答える。若干やる気の無さそうな口調で話すマティーリアに対してダークとノワール以外の全員が呆れ顔を浮かべた。

 モンスティール達は国王であるダークに対して敬語で話し、ダークの事を陛下と呼んでいる。だがダークの協力者であるアリシア達はダークと今までどおり接する事が許されている為、建国前と同じように軽い態度で会話をしていた。


「さて、この国の事はこれくらいにして、次は周辺国家の事について話をしよう」


 ビフレスト王国の現状や今後の事をある程度話し合うとダークは次の話題に移る。ビフレスト王国以外の国の話が始まり、アリシア達は視線をダークに戻す。

 ダークは席を立つとポーチに手を入れて丸められた羊皮紙を取り出し、それをテーブルの上に広げる。ダークが取り出したのは周辺国家などが描かれた地図だった。しかもそれはダークが冒険者になったばかりの時に持っていた地図よりも大きく、セルメティア王国、エルギス教国、マルゼント王国、デカンテス帝国の外側まで細かく描かれてある。

 アリシア達はテーブルに広げられた大きな地図を見て少し驚いた表情を見せる。どうやら今まで周辺国家の外側まで描かれた地図を見た事が無かったようだ。


「随分大きな地図じゃな?」

「これは数日前にマクルダム陛下から送られてきた地図だ。私達が今まで使っていた安物の地図とは違い、周辺国家の外側までもが描かれた王族や上位貴族が使う物らしい。ビフレスト王国の今後の為に役立ててほしいと譲ってくれた」

「ほぉ、ありがたい事じゃ……ん?」


 マティーリアは地図を見つめながら違和感を感じる。地図に載っているはずのもの載っておらず、難しそうな顔をして小首を傾げた。


「若殿、ビフレスト王国が載っておらんが、どうなっておるのじゃ?」


 ダークの方を向いてマティーリアは地図に建国されたビフレスト王国が載っていたい事について尋ねる。レジーナ達もマティーリアの言葉を聞いて一斉に地図を見つめ、セルメティア王国とエルギス教国の間にあるはずのビフレスト王国が載っていない事に気付く。


「載っていないのは当然だ。この地図はビフレスト王国が建国される前に描かれた物だからな」

「ええぇ? それじゃあ、まだこの国が載った地図はできてないの?」


 レジーナが意外そうな顔でダークに問いかけるとアリシアが腕を組みながらダークの代わりの問いに答える。


「それはそうさ、まだ建国されてから二ヶ月しか経っていないのだからな。色々な準備とかも必要だし、新しい地図ができるのはもうしばらく先になるだろう」

「ちぇ、つまんないのぉ」


 自分達の国が載った地図ができるのはまだ先だと知ってレジーナはムスッとする。ジェイクはそんなレジーナを呆れ顔で見つめながら仕方ねぇだろう、と心の中で呟いた。


「……話が逸れてしまったな。続けるぞ?」


 レジーナを見た後にダークは本題に戻る事をアリシア達に伝え、アリシア達も視線をレジーナからダークに戻し、レジーナも表情を変えてダークの方を見る。


「新しくビフレスト王国が建国された事で他の国にも変化が出ているはずだ。その変化が今後この国にどんな影響を与えるかは分からない。そこで、改めて周辺国家、そして周辺国家以外の国がどんなところなのか確認する」


 低い声で話しながらダークは地図を見下ろし、アリシア達も同じように地図を見下ろす。

 まずダークはビフレスト王国の位置を分かりやすくする為、ポーチから屋敷の形をした手の平サイズのオブジェを取り出し、首都であるバーネスト、テラームの町、ズーの町、ゼゼルドの町の上にオブジェを置いた。

 オブジェが置かれた事でビフレスト王国の位置が分かりやすくなり、説明の準備が整うとダークは早速ビフレスト王国以外の国の説明を始める。


「まず、我が国を挟む形で南北に存在する二つの国、セルメティア王国とエルギス教国。この二つの国とは同盟を結ぶ事になっている為、何か変化が起きたとしてもこの国に悪影響は出ないはずだ。だが、それでも何か予想外の事が起きるかもしれない。念の為に新しい情報は常に入るようにしておく」


 国王として国の平和と秩序を守らないといけない為、同盟国でもしっかりと情報を集めておく必要があると考えるダーク。アリシア達もダークの考えは国王として当然だと思い真剣な顔でダークを見ている。

 それからセルメティア王国とエルギス教国について簡単に確認したダーク達は次に周辺国家で未だに接触していない二つの国について話し合いを始めた。


「次にセルメティア王国のちょうど東側に存在するデカンテス帝国、周辺国家の中で最も広い領土を持っている国だ。エルギス教国が亜人の奴隷制度を廃止する前はエルギス教国に次ぐ軍事力を持っていたが、奴隷制度を廃止された事でその軍事力は周辺国家の中でも最大となった。主戦力である帝国騎士団以外にも帝国飛竜団というワイバーンナイトで構成された空中部隊も有している」

「陸と空に強大な戦力を持つ国家か……」

「更にモンスターを擬人化させる研究も進めておる危ない連中じゃ」


 ジェイクが腕を組みながらデカンテス帝国の軍事力について話しているとマティーリアが低い声でデカンテス帝国の魔法研究について語り出す。

 元々グランドドラゴンだったマティーリアはダークとの戦闘で負傷してデカンテス帝国へと逃げ、そこで帝国の魔法使い達にモンスターの擬人化の実験体にされて今の姿となった。

 別にマティーリアは自分の姿を人間に変えた帝国を恨んではいない。人間の姿になったっからこそ、今の生活ができるようになったのだ。ダークに対する恨みも今となって残っておらず、ダークがどんな道を歩むのか見届ける事だけを考えて生きている。


「この国が建国されてから二ヶ月、帝国は大きな動きを見せなかったが、そろそろ何か動きを見せる可能性がある。注意しておいた方がいいだろう」

「ああ、そうだな」


 最大の領土と軍事力を持つデカンテス帝国に対して警戒心を強くするダークを見てアリシアも真剣な顔で返事をする。ノワール達も鋭い表情を浮かべながらダークを見つめて頷いた。


「次にセルメティア王国とデカンテス帝国の北側にあるマルゼント王国についてだが、この国は周辺国家の中でも魔法の研究と魔法使いの育成に最も力を入れている国家だ。精鋭と言われている魔導連撃師団に所属している魔法使いの多くが上級魔法を使う事ができるエリートでその戦力は帝国騎士団を上回ると言う噂だ」

「それだけではないぞ」


 ダークがマルゼント王国について説明しているとヴァレリアが突然発言し、ダーク達は一斉にヴァレリアの方を向いた。


「マルゼントには魔導連撃師団よりも優れた戦力が存在する」


 魔導連撃師団以上の力がマルゼント王国に存在する、ヴァレリアの言葉にダーク達は反応する。ヴァレリアはダーク達の方を向き、目を鋭くして口を動かす。


四元魔導士よんげんまどうし、マルゼント王国の魔法使いの中でもエリート中のエリートと言われているマルゼント王直属の四人の魔法使いだ」

「四元魔導士、何者なのですか?」


 聞いた事の無い名前にアリシアはヴァレリアの方を向いて訊き返す。ノワールもエリート魔法使いの事が気になるのか興味のありそうな顔でヴァレリアを見ている。


「四元魔導士は四人がそれぞれ火、水、風、土の属性の一つを極め、その属性のあらゆる魔法を使いこなすらしい。しかも全員がレベル40代後半だと聞いている」

「一人が一つの属性を極め、それが全部で四人いるという訳ですか」

「その通り。因みに火属性を極めた者は爆炎、水属性を極めた者は激流、風属性を極めた者は疾風、そして土属性を極めた者は地脈の二つ名を持っているそうだぞ」

「二つ名持ちですか……となると、その四人はマルゼント王国軍の中でもかなりの地位を持っている、という事になりますね」


 魔法使いとしての腕が優れているだけでなく、マルゼント王国でも高い地位を持っていると知ってアリシアは右手を顎に当てながら小さく俯く。ノワールもほぉ、と少し意外そうな顔でヴァレリアの話を聞いていた。


「更にマルゼントはこの国や現在のエルギス教国と同じように亜人と共存する国でもある。亜人達は人間達と同じように扱われ、亜人によっては軍で将軍の地位についたり、貴族の称号を与えられる事もある」

「亜人に将軍と貴族の地位を与えるか、まさに人間と亜人の共存国だな」


 ジェイクは亜人にも高い地位を与えるマルゼント王国の法律を知って意外そうな表情を浮かべる。レジーナとマティーリアも同じような表情を浮かべながらヴァレリアの話を聞いていた。

 これまでダーク達は亜人と共に戦ったり、共に生活したりと亜人と共に生きる事を経験して来た。だが、亜人が人間の国で貴族や将軍の様な地位を得られるとは思っていなかった為、マルゼント王国の人間と亜人との関係を知り驚いたのだ。


「マルゼント王国はデカンテス帝国や嘗てのエルギス教国の様に何も考えずに他国にちょっかいを出したり、戦争を吹っ掛けるような危ない行動は取らない。だが、自分達に少しでも危険があると感じた存在は細かく調べるようにしている。もしかすると、マルゼント王国から密偵が送り込まれ、この国の事を調べる来るかもしれない。ダーク、その辺りも気を付けておいた方がいいぞ?」

「そうだな、肝に銘じておく」


 ヴァレリアからの忠告を聞いたダークは低い声で返事をしながら頷く。ダークもできればマルゼント王国と問題を起こしたくないと考えていた。

 デカンテス帝国とマルゼント王国、周辺国家でダーク達が未だに接触していない二つの国の情報を再確認し終える。この数ヶ月の間は同盟を結ぶセルメティア王国とエルギス教国の事を中心に考えていたので他の二つの国の事を何も知らなかった事をダーク達は改めて理解した。


「これでビフレスト王国の周辺にある全ての国の事はある程度理解した。セルメティア王国とエルギス教国は同盟を結ぶ事になっているので友好的に関係を持つ事できるが、接触していないデカンテス帝国とマルゼント王国とはまだ友好的な関係になれるとは限らない。しばらくの間は警戒しながら様子を見る事にする」

「それが良いだろうな」

「……アリシア、君なら接触していない二つの国のどちらを警戒する?」


 ダークはデカンテス帝国とマルゼント王国のどちらに注意を向けるべきかアリシアの意見を聞いた。アリシアは地図に載っている二つの国を見ながらしばらく黙り込み、やがて静かに口を開く。


「……デカンテス帝国だな。マルゼント王国はヴァレリア殿が仰ったようにいきなり戦争を仕掛けて来たり、他国の領内を荒したりする様な事はしないだろう。だが、デカンテス帝国は分からない。現在の皇帝は帝国にとって都合の悪い存在だと思えば真っ直ぐ潰しにかかる性格だと聞いている」

「そうか……」

「二ヶ月前に建国されたこの国の事も既に帝国に知れ渡っているだろう。皇帝はきっと突然建国されたばかりの小国を警戒しているはずだ。その小国がいきなり二つの国と同盟を結んで味方に付けたという情報が入ればこの国をより強く警戒し、同時に不愉快に思うだろう」

「だろうな、いきなり建国されたばかりの国が遥かに大きな二つの隣国と同盟を結ぶなんて普通では考えられない事だからな」


 アリシアの話を聞いてダークはデカンテス帝国がどんな国でそれを支配する皇帝がどんな性格なのかある程度想像できた。デカンテス帝国の皇帝は未知の存在に対して異常なまでの警戒心を持つ小心者か自分の気に入らない存在を妬み、片っ端から叩きのめそうとする馬鹿者のどちらかだ。


「場合によってはデカンテス帝国が私達に宣戦布告をして来る可能性もあるだろうな」

「その時は、間違いなく帝国の負けね。いくら領土と軍事力が最大の帝国でもこの国と戦争して勝てるとは思えないもの」


 レジーナはテーブルに頬杖を突きながらダークを見てデカンテス帝国はビフレスト王国には勝てないだろうと話す。ジェイクはそれを聞いて椅子にもたれながら小さく笑う。


「確かに戦力で考えるのならこちらが勝つだろうな。何しろこっちには神に匹敵する強さを持つ存在が三人もいるんだしな」


 そう言ってジェイクはダーク、アリシア、ノワールの三人に視線を向ける。もし戦争になったとしてもレベル100のダークとアリシア、そしてレベル94のノワールの三人が前線に出れば例え最大の軍事力を持つデカンテス帝国が相手でも難なく勝てるとジェイクとレジーナは確信していた。


「……まぁ、とりあえず二つの国は警戒しながら様子を伺う事にしよう」

「それがいいですね」


 デカンテス帝国とマルゼント王国が今後どんな動きを見せるのか分からない以上は様子を見るしかないと考えたダークは二つの国の話を終わらせる。ノワールもこれ以上は話す必要は無いと感じてダークの考えに同意した。


「次に周辺国家の外側にある国について簡単に確認する」


 ダークは周辺国家の話が終わると今度はそれ以外の国について話し始める。アリシア達もダークの言葉を聞き表情に鋭さが増す。今度は自分達の知らない国の話をする為、今後の為にしっかり聞いておいた方がいいと感じていた。


十二章投稿を開始します。今回は少し短めになるかもしれません。戦闘シーンも物語の後半ぐらいになりそうです。

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