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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十一章~建国の領主~
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第百四十話  決着と建国


 客席のノワール達が緊張しながら見ている中、ダークとアリシアは刀身を光らせる自分の剣を強く握って相手をジッと見つめる。次の攻撃で決着がつくので二人も少し緊張した様子を見せていた。


「なかなか凄そうな剣技だな?」

「それは貴方も同じだ。そんな凄い剣技を今まで隠していたのか?」

「フッ、コイツは強力過ぎてこっちの世界では使う事ができなかったんだ。だが、同じレベル100の君が相手でこの闘技場の中なら使える」

「私も似たようなものだ。この剣技を体得した時にその効力を知って普通の敵には使えないと直感した。だが、ダークが相手なら遠慮なく使えると思ったんだ」

「そうか、それは光栄だな」

「私の台詞だ」


 お互いに楽しそうに笑いながらダークとアリシアは相手を見つめた。

 強力な力や技を手に入れてもそれを全力で使う機会が二人には無い、それはダークとアリシアにとってある意味ストレスが溜まる事だった。自分と互角に戦える戦友に強力な技を使えるのはその溜まったストレスの発散になる。二人が楽しそうに笑っているのはそれが原因なのかもしれない。

 ダークとアリシアは剣を構え直してお互いを見つめ合う。足の位置を僅かにずらし、何時でも動ける体勢に入った。


「行くぞアリシア、これが最後だ!」

「ああ、私の全てを貴方にぶつける!」


 力の入った声で話した直後、二人は地を蹴り相手に向かって跳んで行く。ノワール達も遂に動いたダークとアリシアを見て目を大きく開いた。


「暗黒次元斬!」

天王聖撃剣てんおうせいげきけん!」


 ダークとアリシアはそれぞれ自分の最強の剣技の名を叫びながら剣を勢いよく振った。

 <暗黒次元斬>は暗黒剣技の中でも最強の攻撃力を持つ上級技。使用者が持つ剣の剣身を大きな光の剣身へと変えて敵に闇属性攻撃する。更にこの技は敵が防御魔法を使ってもその障壁を破壊することができ、敵の防御力も無視して攻撃することが可能なのだ。レベル100のダークがこの技を使った場合、装備している武器にもよるがレベル90代の敵を一撃で倒すことができる。ただし、強力なだけあって冷却時間は長く、一度使えばしばらく使うことができない。

 <天王聖撃剣>は神聖剣技最強の技で、現在異世界でこの技を使える者はアリシアだけである。こちら剣身を光の大きな剣身へと変えて敵を攻撃する技なのだが、属性は光属性で敵の防御力を無視することはできない。しかし、その攻撃力は暗黒次元斬よりも高く、攻撃命中後に敵の光属性の耐性を一定時間大きく低下させることができる。こちらも強力であるため、冷却時間がとても長い。

 紫と白の光の剣身がぶつかって高い音が試合場に響く。そして同時にダークとアリシアを強烈な光が包み込み、とてつもない衝撃が発生して闘技場全体に広がる。その衝撃は最初にダークとアリシアが剣を交えた時に発生した衝撃よりも大きく凄まじいものだった。


「うわあぁっ!」

「こ、これは!」


 あまりの衝撃と揺れる客席にレジーナとマティーリアは声を上げた。衝撃によって砂埃や無数の石がノワールたちに向かって飛んで来るが不落の王城パーフェクトアヴァロンの障壁に守られているのでノワールたちには当たらない。

 試合場でぶつかるダークとアリシアをノワールたちはジッと見つめている。人間では絶対に起こすことができない衝撃とその中心で剣を交える二人の騎士を見てレジーナ、ジェイク、マティーリアは驚きのあまり言葉を失う。特にダークとアリシアの本当の力を知らないヴァレリアとリアンは驚愕の表情を浮かべていた。


「こ、これは現実か? これほどの力を持つ者が、この世界にいるなんて、信じられん……」

「ダークさんとお姉ちゃん、凄すぎる……」


 震えた声を出して驚くヴァレリアとリアン。だがリアンの表情には驚きの中に小さな感動があるように見えた。

 二人が人間では考えられない強大な力を持っていることには驚いたが、亜人連合軍との戦いで自分の家族の仇を討ち、人生を救ってくれたダークとアリシアが強い力を持っていることをリアンは心のどこかで嬉しく思っていたのだ。

 ダークとアリシアの剣がぶつかった後も衝撃は止むことはなく、二人は光の中で剣を交え続けている。ダークとアリシアにも衝撃が伝わり、アリシアは歯を噛みしめながらその場で踏ん張り、ダークも必死に衝撃に耐えていた。兜の下ではダークもアリシアと同じように歯を噛みしめている。

 剣を交えながらダークとアリシアは相手を押し返そうと剣を持つ手に力を入れて剣を押す。だが、相手も同じように剣で押してくるのでどちらも相手を押し返せない。衝撃と光の中で二人は剣で相手を押し続ける。その時、ダークブリンガーとエクスキャリバーの光の刀身に小さな音を立てながら罅が入った。


『!?』


 刀身に罅が入ったのに気付いたダークとアリシアは驚きの反応を見せる。まさか刀身に罅が入るとは二人も予想していなかったようだ。

 これ以上刀身に負担を掛けると折れるかもしれないと感じ、二人は剣を引こうとする。だが二人は剣を引こうとした瞬間、ダークブリンガーとエクスキャリバーの刀身は高い音を立てながら真ん中から折れた。


「何っ!?」

「折れた!?」


 ダークとアリシアは愛剣が折れたのを目にして驚きの声を口にする。折れた光の刀身は元に戻り、それぞれ持ち主の右側頭部の真横を通過し、二人の後方数十m先にある試合場の壁に突き刺さった。

 刀身が折れると光と衝撃は治まり、ダークとアリシアはその場に立ち尽くす。客席のノワール達は突然衝撃と光が治まったのを見て不思議そうな顔をする。そしてダークとアリシアが持っている剣が折れているのを見て驚いた。


「嘘、二人の剣が折れてる」

「マジかよ、二人が使ってた剣は兄貴がLMFの世界から持って来たスゲェ剣なんだろう? それが折れちまうなんて……」

「それだけ若殿とアリシアが使った剣技が強力で二人の力が強かったのじゃろう」


 呆然とするレジーナとジェイクの隣でなぜダークブリンガーとエクスキャリバーが折れたのか自分の推測を口にするマティーリア。ノワールもマティーリアと同じ事を考えており、何も言わずに試合場の二人を見ていた。

 試合場の真ん中でダークとアリシアは折れた剣をジッと見つめている。最初は驚いていた二人だが、自分達の力の強さが原因でこうなってしまったのだと気付き、落ち着いた様子を見せていた。


「……剣に負荷を掛けすぎてしまったか」

「ああ、全く気付かなかった。長い間共に戦って来た相棒をこんな事で折ってしまうなんて、騎士として失格だな」

「フッ、そうだな。力は神に匹敵するが、心の方は私も君も未熟だったという事だ」


 小さく笑いながら話すダークを見てアリシアも苦笑いを浮かべる。どんなに力が強くなったとしてもその力を使いこなせず、使っている武具を壊してしまうようでは戦場で十分な戦いはできない。二人は自分達の力をもっと慎重に使わなくてはならない事を改めて理解した。


「それで、どうするアリシア?」

「ん?」

「まだ続けるか? 続けるのなら新しい剣を出すが……」

「……いや、やめておこう。これ以上続けてもまた武器を壊してしまいそうな気がする。それにさっきの見て、技をぶつけ合うという方法でも私と貴方の勝負に決着がつけられない事が分かったしな」

「そうか……では、この模擬試合、引き分けという事だな」

「ああ」


 激戦の末、ダークとアリシアの模擬試合は決着がつかないという事から引き分けとなった。ダークは兜を外して素顔を見せると笑みを浮かべながらアリシアに手を差し出す。アリシアもダークの顔を見て照れくさそうに頬を染めながら微笑みを浮かべて手を出しダークと握手を交わした。握手が終わると二人は折れた剣を腰の鞘に戻す。ダークは折れたエクスキャリバーを見てアリシアに新しい剣を用意しようと思うのだった。

 模擬試合が終わり、ダークとアリシアは客席にいるノワール達の方へ歩いて行く。ノワール達も近づいて来る二人を見て模擬試合は終わったのだと感じて席を立ち、ダークとアリシアの方へ歩いて行く。

 試合場の隅まで来たダークとアリシアは高い位置にある客席を見上げ、自分達を見下ろしているノワール達を見つめた。


「これ以上やっても決着がつくそうにないから、勝負は引き分けって事になった」

「引き分けになった、じゃないわよ! まったく無茶な事してぇ!」


 ニッと笑いながら勝負の結果を話すダークを見下ろしながらレジーナは声を上げる。普段軽い態度を取るレジーナが珍しく怒っており、そんなレジーナにダークは驚き、アリシアも目を見開きながらレジーナを見ていた。


「模擬試合で暗黒剣技や神聖剣技を使うなんてありえないでしょう! 下手をしたら二人の内どっちかが大怪我してたかもしれないし、最悪死んじゃってたかもしれないのよ?」

「ああ、いくら兄貴と姉貴が神様に匹敵する力を持っていても、その二人が戦えばどちらも無事じゃすまない。その事をもう少し考えてもらいたかったな」


 レジーナに続いてジェイクも腕を組みながらダークとアリシアを説教し始める。いつも自分達を尊敬し、力を貸してくれる二人から怒られる事にダークとアリシアは動揺を隠せなかった。


「そ、そんなに怒るなよ二人とも」

「怒りたくもなるわよ!」

「今後、二度とこういう事をしないでくれよな?」

「わ、分かった分かった、悪かったよ」

「すまなかったな」


 ダークは苦笑いを浮かべながらレジーナとジェイクに平謝りをし、アリシアも申し訳なさそうな顔をして謝った。そんな二人を見てレジーナとジェイクはまったくもう、と言う様な顔をする。ノワールとリアンは苦笑いを浮かべながらダーク達の会話を見ており、マティーリアはレジーナとジェイクに怒られているダークとアリシアを見て少し楽しそうに笑っていた。

 二人がダークとアリシアを怒ったのは勿論二人の事を心配していたからだ。ダークとアリシアが神に匹敵する力を持っている為、簡単には死なない事はレジーナとジェイクも分かっている。だが、同じレベル100同士の二人が戦い、剣技まで使えば話は別だ。もしかすると二人のうちどちらかが死んでしまっていたかもしれない。

 レジーナとジェイクはダークの仲間の中でも家族を誰よりも大切にしている。二人にとってはダークとアリシアも家族のような存在、だからその家族である二人が無茶な事をしたのであんなに怒ったのだ。


「……それじゃあ、模擬試合も終わったし、バーネストの町に戻るか」

「そうだな、お母様達にも模擬試合が終わった事を知らせないと」


 闘技場でやるべき事を終えたのでダーク達はバーネストの町へ戻る事にした。闘技場には試合場の他には面白そうな所はないので誰も長居をする気は無く全員が闘技場の出入口へ移動する。


「ちょっと待て」


 ダーク達が闘技場の出入口へ向かおうとした時、ヴァレリアは少し力の入った声を出す。ダーク達が振り返るとそこには真剣な表情でダーク達を見るヴァレリアの姿があった。


「どうかしたのか?」

「……詳しく説明してもらうか?」

「何をだ?」

「お前達の事だ!」


 ヴァレリアは怒鳴る様な口調で話し、ダークとアリシアを指差した。模擬試合で見せたダークとアリシアの強大過ぎる力、ノワールが使ったの見た事の無い魔法、そしてレジーナ達が話すLMFという謎の言葉。ヴァレリアは今回の模擬試合で自分の知らない事を多く知り、それをダーク達から詳しく聞く為に模擬試合が終わるのをずっと客席で待っていたのだ。


「ダーク、お前とアリシアのあの力は何だ? ノワールが見せた私の知らない魔法、そしてLMFという謎の言葉……お前達は一体何者なのだ!?」

「あぁ~、そこまで知っちまったかぁ」

「どうするんだ、ダーク?」


 アリシアが不安そうな顔で尋ねるとダークはめんどくさそうな顔で頭を掻く。


「まぁ、協力者になるから俺の事を全部話そうと思っていたし、知られても問題は無いさ」

「そ、そうなのか……」


 迷う事無く全てを話すと口にするダークにアリシアはまばたきをする。ヴァレリアはダークの答えを聞き、早く話せと言いたそうな顔をした。ヴァレリア以外にダークの秘密を知らないリアンも不思議そうな顔でダークとアリシアを見ている。


「それじゃあ、町に戻る前に協力者になるヴァレリアに話しておくか、俺の秘密をな。この際だからリアンにも教える事にしよう」


 そう言ってダークはヴァレリアとリアンに自分の秘密を話し出した。LMFと言う別の世界から来た事、レベルが100で神に匹敵する強さを持っている事、ノワールがレベル94で強力な魔法を幾つも使える事、エリクサーなどの未知のマジックアイテムを持っている事、そしてアリシア達が協力者である事など全てを隠さずに話した。

 ダークの話を聞いたヴァレリアは驚きのあまり目を丸くしながら固まり、やがてその場に座り込む。最初は信じられなかったがダーク達のこれまでの言動を目にすれば信じるしかなかった。リアンもダークとノワールの秘密、アリシアのレベルを聞いて驚いたが、無垢な子供であるせいか、ヴァレリアの様な驚き方はせずにダーク達の強さに感動した様な反応を見せる。

 それからしばらくしてヴァレリアが我に返るとこの事は闘技場にいる自分達以外には誰にも話すなと忠告をし、ヴァレリアとリアンは了承する。話が全て済むとダーク達はバーネストの町へ戻る為に闘技場を後にした。


――――――


 模擬試合が無事に終わった後、ダーク達には忙しい日々が待っていた。新国家を建国する為の作業と準備にダーク達は毎日走り回る事になる。

 ダークは町長の仕事をしながら今住んでいる屋敷を自分が国王となった時に暮らす城への建て直し、ヴァレリアが国の資金源である魔法薬を調合する為の魔法研究所の建設、首都となるバーネストの町を護る城壁の強化、町にいるモンスター達の監理、新国家の法律を決めるなど以前よりも遥かに忙しい日々を送っている。更に国王としてしっかり国を統治できるようにヴァレリアから帝王学を学んだ。

 アリシアは建国の日まで町に駐留するセルメティア王国の騎士団の管理をしながら彼等に新国家の騎士にならないかなどを訊いたりしている。今まで中隊長の仕事しかやった事がない為、一つの町にいる全ての騎士をまとめながら管理する仕事に慣れてないアリシアにとってとても大変な仕事だった。

 ノワールは今まで通りバーネストの町で新国家の民になるか町の住民達から意見を聞き、バーネストの町で意見を聞き終えるとジェイクを連れて町を出て別の町で同じように意見を聞きに行く。バーネスト以外にも新国家の領内にある町が幾つかあり、各町でもその町にいる騎士達が町の住民達に新国家の民になるか訊いているようだが、やはり直接確認した方がいいとノワールとジェイクはその町へ向かったのだ。

 レジーナとマティーリアはバーネストの町を見回りながら町にある冒険者ギルドの方針などをギルド長と話し合いなどをした。新国家にもやはり冒険者ギルドが必要である為、ダークはレジーナとマティーリアに冒険者達の今後について話し合いをさせに行かせたのだ。仲の悪い二人が一緒に行くのでちゃんと仕事をするのか少し不安だったが、人手が足りない為、仕方なく二人を行かせた。

 ヴァレリアは当初の契約通り新国家の資金源となる魔法薬の研究と調合を行う。ダークとノワールが別の世界から来た事や彼等が神に匹敵する力を持っている事、そして未知のマジックアイテムを大量の所持している事を知った彼女はダーク達への興味とその強さに対する驚きからダークの協力者として力を貸す事を約束する。ただ、協力者になる以上はマジックアイテムの情報やLMFにしか存在しない魔法の事を詳しく教えると言う条件を付けくわえた。ダークはそれぐらいなら構わないと簡単に条件を飲んだ。

 ダーク達はそんな大変な作業を行いながら新国家の建国を進めていく。そして、模擬試合が終わってから四ヶ月後、遂に新国家建国の準備が整う。バーネストの町や他の町や村の住民達もダークが国王となるにふさわしい人物だと認め、建国に必要な条件も全てクリアされた。

 長かった建国までの道のりと辛かった仕事が終わった事にダーク達は安堵する。これまでやって来た辛い仕事から解放された事が嬉しく、レジーナは嬉し涙を流す。そんな姿を見たダーク達も仕事を思い出して苦笑いを浮かべる。しかしそれも終わり、これからは新国家の国民として新しい人生を歩むのだと、気合を入れ直すのだった。


――――――


 無数の星が広がる夜空、その下にあるバーネストの町の中央には立派な城が建っている。城は嘗て町長の屋敷があった場所に建てられており、高い壁に囲まれている。この城こそがダークがモンスター達に建てさせた新国家の王、つまりダークとアリシア達が住む城で以前は町長の屋敷だった物だ。

 新しく建てられた城は三階建てでアルメニスにある城と比べると遥かに小さく、この世界の王族が暮らすには立派とは言えない。だがそれでも周りにある民家や屋敷よりは大きく、十分暮らす事ができる大きさだった。ダークもそんなに大きな城でなくても構わないと今の城で満足している。

 城の二階にある一室、そこにダーク達の姿があった。部屋は広くて大きな窓、長方形のテーブルと無数の椅子があり、頭上にはシャンデリアが吊るされていた。壁には絵画が飾られており、雰囲気からしてその部屋は会議室のようだ。

 ダークは全身甲冑フルプレートアーマーの姿でテーブルについており、ダークの後ろには鬼姫が静かに控えている。テーブルの右側にアリシア、レジーナ、ヴァレリアが座り、左側には少年姿のノワール、ジェイク、マティーリアが座って全員がダークの方を向いていた。


「遂にこの日が来た。皆、今日までよく頑張ってくれたな」

「いや、ダークがしっかりと新しい国を創る為に頑張ったからだ。私達はその手伝いをしたにすぎない」


 アリシアはダークを見て微笑みを浮かべ、ノワール達に笑ってダークを見ていた。ダークはアリシア達を見ながら心の中で今日まで手助けしてくれた事を感謝する。


「フゥ、長かったけど、いよいよ明日ね?」

「ああ、明日は遂に新しい国が誕生するんだ」


 椅子にもたれながら小さく息を吐き、天井を見上げるレジーナの言葉を聞き、ジェイクは腕を組みながら頷く。ダーク達も全員レジーナとジェイクに視線を向ける。

 明日はいよいよバーネストの町で新国家の建国を宣言する日。新国家の民となると決めた多くの人々が集まり、国王となるダークの言葉に聞くのだ。その中には隣国のセルメティア王国とエルギス教国の使者もおり、建国宣言を見届け、両国の王族に伝える事になっている。


「この数ヶ月の間で私達は揃えるべきもの全てを揃えた。ヴァレリアが新しい魔法薬を開発し、その魔法薬の大量生産の準備も整い資金源は確保した。建国を宣言し、セルメティア、エルギスと同盟を結んだ後に正式に取引をしようと思っている。ヴァレリア、今日までご苦労だったな?」

「どうという事ではない。お前が出してくれた材料のおかげで数種類の強力な魔法薬を短期間で作る事ができたからな。この町にいた調合師にも作り方を教えたし、今後魔法薬の大量生産に手間取る事はないだろう」

「フッ、そうか」


 余裕の態度を取るヴァレリアを見てダークは小さく笑った。

 ヴァレリアがバーネストの町に来てからダークはLMFで手に入る魔法薬の材料をヴァレリアに提供した。ヴァレリアは見た事の無い材料を目にし、驚きながら魔法薬の調合を始める。異世界では手に入らない優れた材料のおかげでヴァレリアは壁にぶつかる事無く開発を進めていき、強力な魔法薬を短期間で完成させた。

 ダーク達も僅かな時間で新しい魔法薬を完成させたヴァレリアに驚き、同時に素晴らしい調合の技術を持っていると感じる。


「人口も一つの国として十分な人数が揃った。軍事力の方も問題は無い」

「軍事力、例の騎士達だな? あれには流石に私も驚いたぞ?」


 アリシアはダークの口から軍事力の話が出ると少し疲れた様な顔をしながらダークの方を見る。レジーナ達もアリシアの話を聞き、ダークの方を向いてまったくだ、と言いたそうな目を向けた。そんなアリシア達を見てダークは小さく笑い、ノワールも目を閉じて笑みを浮かべる。


「英霊騎士の兵舎、ですね?」


 ノワールが目を閉じたまま言うとアリシア達は一斉に視線をダークからノワールに変えた。

 <英霊騎士の兵舎>とはLMFで開催されたイベントでランキング一位と二位になったプレイヤーだけが手に入れる事ができる激レアアイテムである。ポーションやサモンピースの様に戦闘で使うものではなく、ギルドの拠点に設置するギルド強化アイテムの一種だ。このアイテムはプレイヤーが持つアイテムや経験値などを使って全身甲冑フルプレートアーマーの騎士の姿をしたNPCモンスターを無限に生み出す事ができる。その騎士は拠点の防衛や敵ギルドの拠点への攻撃などに使え、英霊騎士の兵舎を持つギルドは二度とギルド同士の戦いには負けないと言われるくらい強力なアイテムなのだ。ダークはそのイベントの時に仲間達の力を借り、ランキング二位となり英霊騎士の兵舎を手に入れたのだが、勿体ないという理由で今まで使わなかった。

 アリシア達は数日前、ダークとノワールからその英霊騎士の兵舎を見せてもらっていた。それはこの城の真下に作られた地下にあり、見た目は少し立派な祭壇のような物で、ダークは祭壇の前で自分が持っているアイテムと溜めていた経験値を少し使って祭壇を起動させる。すると祭壇の前に巨大な魔法陣が展開され、その魔法陣から十五体の青銅色の全身甲冑フルプレートアーマーを身につけ、アーメットの様なフルフェイスの兜を被った騎士が沸き上がる様に現れた。左腕にカイトシールドを装備して腰には騎士剣を納めており、その姿を見たアリシア達は驚愕の表情を浮かべ、ダークは騎士を召喚するアイテムまで持っていたのかと大きな衝撃を受ける。

 以前ダークが国の軍事力については問題無いと話したのはこの英霊騎士の兵舎があるからだったのだ。今まで勿体なくて使えなかった激レアアイテムも今使うべきだと感じてダークはずっと残しておいた英霊騎士の兵舎を城の地下に設置した。同時にLMFにいた時に仲間の為に使わなかった事に対して少し罪悪感を感じる。


「マスターがあのアイテムを使うと仰った時は僕も驚きました。あれは使い方によってはLMFの常識を壊しかねないくらい強力なアイテムですからね」

「ああ、だが此処はLMFの世界ではないからな、そんな事は気にせずに使う事ができる。何よりも、新国家の軍事力を短時間で確保するにはあれを使うしかないと思って設置したんだ」

「そうですね、僕もそれがいいと思っています」


 低い声で話すダークを見てノワールは小さく笑いながら頷く。アリシア達はそんなとんでもないアイテムを使ったのに平然と話している二人の神経の太さにも驚いていた。

 ダークとノワールはアリシア達を残して会話をしているとマティーリアが少し強めの咳をする。二人はマティーリアの咳を聞いて彼女の方を向いた。


「それで若殿、建国に必要な条件が全て揃ったのは分かった。じゃがまだ一つ決まってない事があるだけのではないか?」

「決まってない事?」

「新国家の名前じゃ」


 マティーリアの言葉を聞き、ダークはフッと反応する。アリシア達もマティーリアの話を聞いてまだ国名が決まってない事を思い出して少し驚いた表情を見せた。


「そうだぜ、兄貴。国の名前はどうするんだ?」

「決めないと明日名無しの国として建国を発表する事になるわよ?」

「何かいい名前を考えてあるのか?」


 ジェイク、レジーナ、ヴァレリアがダークに新国家の名前はどうするのか尋ねる。アリシアとノワールもダークの方を向いて、どうすると目で問う。するとダークはアリシア達を見ながらゆっくりと席を立った。


「安心しろ、国名ならちゃんと考えてある」

「本当ですか?」

「どんな名前にしたんだ?」


 アリシアが国名を尋ねるとダークは自分の席の後ろにある大きな窓の方へ歩いて行き、外に広がるバーネストの町を眺めた。

 窓の外を見ながら黙り込むダークの背中をアリシア達はジッと見つめる。やがてダークはゆっくりと振り返り、アリシア達の方を向いて目を赤く光らせた。


「今日からこの国を……ビフレスト王国と呼ぶ」


 ダークが口にした新国家の名を聞き、ノワールと鬼姫はふと反応するがアリシア達は反応を見せなかった。


「ビフレスト? ダーク、それはどういう意味なんだ?」


 アリシアはなぜそのような名前にしたのか理解できず、ダークにビフレストの意味を尋ねた。レジーナ達も気になりダークを見て彼が答えるのを待っている。


「ビフレストと言うのは私達の世界の神話に出て来る虹の橋の名前だ。神の世界アースガルドと人間の世界ミッドガルドを結ぶ為に神がかけたと言われている」

「へぇ~、虹の橋ねぇ」


 レジーナは虹の橋から名前を取ったと知って少し意外そうな反応を見せる。


「因みにビフレストにはぐらつく道、という意味もある」

「ぐ、ぐらつく道? なんだか縁起悪いな?」


 名前の意味を知ってジェイクは目を丸くする。さっきまで意外そうな顔をしていたレジーナもジェイクと同じような顔をし、マティーリアとヴァレリアもそんな名前にするのか、と言いたそうな表情を浮かべていた。


「まぁ、それは私がいた世界で使われている意味だ。こっちの世界にはビフレストなんて言葉は存在しないし、名前にぐらつく道という意味も存在しない。問題ないだろう」

「ま、まぁ兄貴がそれで良いっていうのなら俺達は文句は言わねぇけどよぉ……」


 ジェイクはダークがビフレストでいいのであればそれでいいと少し複雑そうな顔で言い、レジーナ達も同じような反応を見せた。だがそんな中でアリシアは真面目な顔をしながら小さく俯いている。そしてダークの方を向いて口を開いた。


「ダーク、どうしてこの国の名前をその虹の橋であるビフレストから取ったんだ?」


 アリシアはなぜ国名をビフレストにしたのか、その理由をダークに尋ねた。レジーナ達もそれを聞いた途端に一斉に表情を変えてダークの方を向く。

 自分の注目するアリシア達を見たダークは静かに自分の席に付いて兜を外し、素顔を見せて小さく息を吐いてからアリシア達を見てから説明を始める。


「嘗て敵対していたセルメティアとエルギスの両国が俺達が関わった事で一度は共闘し、今では共にこの国に力を貸す同志となった。俺はな、俺が王となるこの国がセルメティアとエルギスの両国が良い関係を続ける為の架け橋になればいいと思っている」

「だからこの国の名前を神話に出てくる虹の橋から取ったのか?」

「ああ……あと、この国は両国の間にある事から、この国がまるで両国を繋ぐ橋の様になっていると言う理由からその名前にした、というのもある」

「……フッ、そうだったのか」


 ダークがビフレストという名前にした理由を知ってアリシアは小さく笑う。最初の両国の架け橋になると言う理由には感動したが、もう一つの国の位置が橋の様だからという理由は少し可笑しかったらしい。レジーナ達ももう一つの理由を聞いて小さく笑っている。


「他に別の名前がいいって言う奴はいるか? いるなら意見を聞くが……」

「いや、ダークがその名前がいいと思うのなら私は構わない」

「ああ、俺もだ」

「妾もそれで構わんぞ?」


 新国家の名前をビフレストにした理由を知ってアリシア達は納得の表情を浮かべる。ダークも全員が納得したのを見て小さく笑い、再び兜を被って立ち上がり座っているアリシア達を見下ろした。


「では、明日の建国宣言ではこの国の名をビフレスト王国と発表し、同時に私も王族として自らをダーク・ビフレストと名乗る」


 立って力の入った声を出すダークを見てアリシア達は真剣な顔を浮かべる。今までに聞いた事が無いくらいダークの力の入った声に一同は自然と姿勢を正し、自分達の上に立つ暗黒騎士を見つめた。

 その後、ダーク達は明日の建国宣言の流れなどを簡単に話し合いをしてから解散し、城の中にある自室へ戻って行った。


――――――


 翌日、天気は建国宣言をするに相応しい晴天だった。雲は少なく、青い空が広がりその中で太陽が輝いている。

 青空の下にあるバーネストの町では新国家の国民となった町の住民達が騒いでいる姿があった。住民達は新国家ビフレスト王国の誕生とバーネストの町がその新国家の首都となる事を楽しみにしており、城の中庭、正門前に集まって城の二階にあるバルコニーを見上げている。もうすぐ建国宣言を行う為に国王となるダークがバルコニーから姿を見せるので住民達はバルコニーを見上げながらダークが出て来るのを待っていた。集まっている住民達の中にはダークが英霊騎士の兵舎で召喚した青銅騎士が数人おり、問題が起きないか周囲を見張りをしている。

 バルコニーの奥にある部屋の中ではダーク達が椅子に座ったり、柱や壁にもたれたりなどして建国宣言を行う時間を待っていた。ダークはいつもの漆黒の全身甲冑フルプレートアーマー姿で白いマントを羽織っている。そのマントには金色の見た事の無い紋章が描かれてあった。その紋章こそが新国家ビフレスト王国の紋章だ。

 ダークが座っている椅子の隣ではアリシアが同じように椅子に座って建国宣言が行われる時を待っていた。格好は額当てに今までの鎧とは違う王族が着る様な高貴な純白の鎧を身につけ、ダークと同じビフレスト王国の紋章が描かれた白いマントを羽織っている。この鎧はアリシアが新国家の騎士になった記念にダークが送った物だ。

 そして、アリシアの腰には騎士剣が納められていた。騎士剣の鞘は白金に金色の装飾が収められており、アリシアが前に使っていたエクスキャリバーの物とは違う。エクスキャリバーは前の模擬戦闘で折れてしまった為、ダークからエクスキャリバーよりも優れた騎士剣を貰ったのだ。

 座っているダークとアリシアの後ろには少年姿のノワールが目を閉じながら立っている。その服装はいつものローブではなく、紫色の一流の魔導士が着る様な立派な魔導服で右手には先端に赤い宝石を付けたロッドが握られていた。人間の姿のノワールは新国家の主席魔導士となる予定なのでそれに相応しい姿で国民の前に出る事になっている。

 ノワールの後ろにある少し広い場所ではレジーナが緊張しているのか落ち着かない様子で部屋の中を歩き回っていた。その近くにある壁と柱にはジェイクとマティーリアがもたれてレジーナを少しは落ち着け、と言いたそうな顔で見ている。三人はいつもの格好でその上に新国家の紋章が入った緑、黄、赤のマントを羽織っていた。三人は新国家で王族、つまりダーク直属の七つ星冒険者として紹介されるので、正装をする事無くいつもの格好をしている。三人も着飾ったりするのが苦手で普段の格好がいいと言っていた。

 ヴァレリアもいつもの格好で窓から外の様子を眺めていた。彼女にはこれまでどおり魔法薬の研究と調合を行ってもらう事になっている。更に新国家の軍に所属する事になる魔法使い達に魔法を教える指導者もやってもらう事になっているのでヴァレリアも住民達に紹介される事になっていた。


「緊張しているか?」


 アリシアが隣に座るダークを見て微笑みながら尋ねる。するとダークはチラッとアリシアの方を見た後に前を向いて小さく笑う。


「……そうだな、向こうの世界ではこんな経験は無かったからほんの少し緊張している」

「大丈夫か?」

「ああ、心配ない。何とかなるだろう」


 余裕の態度を取るダークを見てアリシアは目を閉じ、そうかと言いたそうな表情を浮かべた。

 こちらの世界に来てダークは色々な事を経験をしてきた。その為、元の世界にいた頃よりも精神がかなり強くなっており、ある程度の事には動じないようになっている。そうでなければ一国の王であるマクルダムやソラの前に立って普通に喋ったり、生死を賭けた戦場で冷静な行動も取る事はできない。ダークは力だけでなく心も常人以上になっていた。

 ダークとアリシアが会話をしていると、バルコニーの方から鬼姫が歩いて来てダークの前で立ち止まった。

 

「ダーク様、お時間です」

「そうか」

 

 いよいよ建国宣言の時がきてダークはゆっくりと立ち上がる。ダークが立つとアリシアも続いて立ち、目を閉じていたノワールも目を開ける。レジーナ達も一斉にダークの方を向き、全員が真剣な表情を浮かべた。


「よし、皆行くぞ」

「ダーク、本当に素顔を見せずに宣言するのか?」

「ああ、このまま行く」


 アリシアがダークがフルフェイスの兜で顔を隠したまま民衆の前に出るのかと少し不安そうな顔で尋ね、ダークはアリシアの方を向いて頷いた。

 国王が民の前に顔を隠して出てくるなどあり得ない事だが、ダークはこの世界に来てからずっと顔を隠して活躍して来たのでこれまでどおり顔を隠して行こうと考えたのだ。アリシア達もダークがそれでいいのならそれで構わないと反対せずに前の日に納得した。

 準備が整うとダークはバルコニーの方へ歩いて行き、アリシア達もそれに続いてバルコニーに出る。ダーク達が姿を見せると集まっていた町の住民達は一斉に声を上げた。ダークは集まっている住民達を見下ろし、しばらく住民達を見た後に大きく手を広げて新国家ビフレスト王国の建国を宣言する。

 その日、異世界に暗黒騎士を王とする新しい国家が誕生した。


今回で十一章は終了します。新章はしばらくしてから投稿しますので、よろしくお願いします。

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