第百三十一話 新たな仲間を求めて
日が沈んで夜になるとダークは仕事から戻って来たアリシアやレジーナ達を自分の部屋に集めた。マーディングから聞いたマゼンナ大森林にいる魔女に会いに行き、彼女を仲間にする事を話す為だ。
町長の部屋に集まったアリシア、レジーナ、ジェイク、マティーリア、鬼姫は部屋の中央に立ち、机に寄り掛かるように立っているダークと彼の肩に乗るノワールを見ていた。ダークは兜を外し、腕を組んだまま目を閉じて小さく俯いている。
「成る程ね、つまり、この国の資金源とマジックアイテムの調合の知識を得る為にその魔女を仲間にしに行くって事ね?」
「その通りだ」
レジーナの質問にダークは顔を上げてレジーナを見つめながら頷く。レジーナの隣に立つジェイク、その隣に立つマティーリアは真剣な顔でダークの話を聞いており、アリシアと鬼姫も黙ってダークとレジーナの会話を聞いていた。
仲間が部屋に全員集まるとダークはアイテムの研究や調合を得意とする魔女の事を話し、近日中に魔女がいるマゼンナ大森林へ向かう事を話した。そして、その時に首都から来たザムザスともう一人、この場にいる誰かを同行させる事を話し、誰を連れて行くかを相談する。
「森に行くのならやっぱり身軽なあたしが一緒に行った方がいいんじゃない?」
同行させるなら自分を連れて行くべきだとレジーナは胸を張ってダークに話す。するとそれを聞いたマティーリアが呆れ顔で溜め息をついた。
「何を言っておる、お主は森について殆ど知識は無いじゃろう。そんな奴が行ったところですぐに迷って若殿に迷惑を掛けるだけ、足手まといになるのが落ちじゃ」
「何よ、森の知識が無いのならアンタだって同じじゃない」
「妾はお主と比べたら多少は知識はある。それに例え迷ったり若殿達とはぐれたとしても空を飛んで上空から若殿達を探す事ができるしな」
「フン、多少は、でしょう? そんなの私と大して変わりないわ。偉そうな言い方しないでよね」
自分がダークと同行するべきだ、そう相手に伝えながらレジーナとマティーリアはバチバチと火花を散らし合う。そんな二人の間に入っているジェイクは疲れた様な表情を浮かべて溜め息をついた。
「二人ともいい加減にしろ。話の最中だぞ?」
アリシアが呆れた表情で注意をするとレジーナとマティーリアはお互いにそっぽ向く。いつまで経っても二人の仲が変わらない事にアリシアとジェイクは困っていた。
鬼姫は何も言わずに黙って目を閉じており、ダークとノワールはお互いに顔を見合ってやれやれと言いたそうな顔をしていた。
「……話を続けてもいいか?」
ダークがジト目で尋ねるとアリシアは申し訳なさそうな顔でダークを見ながら頷き、続けてくれと伝える。レジーナ達もダークの声を聞いて一斉に彼の方に向き直し聞く姿勢を取った。
全員が自分に注目するのを確認するとダークは小さく息を吐いて話を続ける。
「で、その森に同行する奴なんだけど、俺はジェイクに同行してもらおうと思っている」
「え、俺か?」
ジェイクが意外そうな顔で自分を指差し、レジーナとマティーリアも驚いてジェイクを見ていた。
亜人連合軍との内戦が終わってから今日までジェイクは家族とのんびり過ごしていた。そして十分家族と一緒に過ごしたので明日から冒険者の仕事に戻る事になったのだ。それはレジーナも同じだった。だからさっきもダークと同行すると進言していたのだ。
「あ、兄貴よぉ、どうして俺なんだ?」
なぜ自分が選ばれたのか分からないジェイクは呆然としながら尋ねる。レジーナも納得できないのか真顔でうんうんとダークを見ながら頷く。するとダークは机に寄り掛かるのをやめ、ジェイクを見ながら口を開いた。
「お前は俺と出会う前は林の中を通る人や荷車を襲う盗賊をやってただろう?」
「え? ああ、そうだが……」
「だったら、木々に囲まれた中でどう動くべきなのか、どうすればいいのか知識を持っているはずだ。だから俺はお前を連れて行こうと思ったんだ」
「そ、それなら俺じゃなくってマティーリアの方がいいんじゃねぇか?」
マティーリアは空も飛べるし森の中でどう行動すればいいのか知識も持っている。それなら自分よりもマティーリアの方が適任ではないかとジェイクは話す。マティーリアもジェイクの意見を聞いて腕を組みながらさっきのレジーナと同じようにうんうんと頷いている。そのレジーナはマティーリアが勧められているのを見てどこか悔しそうな顔をしていた。
「実はな、ジェイクを選んだ理由は他にもあるんだ」
ジェイクを選んだのは知識があるだけではないと言うダークの言葉にジェイクやマティーリア、レジーナは反応してダークの方を見た。
「マーディングさんから聞いた話では、マゼンナ大森林にはブラッドオーガが出現するらしいんだ」
「ブラッドオーガ? 赤い肌を持つオーガの上位種の?」
レジーナはダークの口から出てモンスターの名前を聞き、少し驚いた様子で尋ねる。ジェイクとマティーリアもレジーナと同じような表情を浮かべていた。
ダークはレジーナの方を向くと頷いて詳しく話し出す。
「ブラッドオーガは妖精族モンスターの中では中級のモンスターだが、オーガの中ではそこそこ強い。力があるのは勿論だが、その皮膚は硬く並の武器ではダメージを与える事はできない。更に普通のオーガよりも知恵もあり、人間と同じくらい頭が良いと言われている」
「驚いたのう、この町の近くにそんな奴等が棲んでいるとは」
ブラッドオーガが近くに棲み付いている事に今まで気づかなかったマティーリアは腕を組みながら低い声を出す。レジーナとジェイクも驚いて難しい表情を浮かべていた。
「ブラッドオーガと戦闘が起きた場合を考えて力があり、重い攻撃を放つ事ができる奴を同行させた方がいいと思ってジェイクを選んだんだ」
ダークは仲間の中で最も攻撃力が高く、戦技を使えば一撃でブラッドオーガを倒せる力を持つジェイクを選んだ事を話し、それを聞いたレジーナは自分は適していないと感じたのかダークがジェイクを選んだ事に納得した様子を見せる。マティーリアも物理攻撃力では自分よりもジェイクの方が上である事を知っている為か、少し不満そうな顔をしながらも納得した。
レジーナとマティーリアが納得している中、指名されたジェイクだけは何か引っかかる様な表情を浮かべて小首を傾げている。
「なあ、兄貴。力が強い奴を選ぶんなら、なぜ姉貴じゃねぇんだ? 俺よりも姉貴の方がずっと強いだろう?」
ジェイクの言葉を聞いてレジーナとマティーリアはフッと反応してジェイクの方を見た。
確かにジェイクの言う通り、アリシアの方がジェイクよりもずっと強い。それなのになぜアリシアではなくジェイクを選んだのか、三人は疑問に思いながらダークの顔を見つめる。すると、黙って話を聞いていたアリシアがダークの代わりにその疑問に答えた。
「それは私がダークに同行できないからだ」
「同行できない? なぜだ?」
最も適任なアリシアが同行しないと聞いてマティーリアは不思議に思い尋ねる。アリシアは三人の方を向いて理由を説明した。
「この町の騎士団の調整などを一通り終えたら私はアルメニスへ行くからだ」
「アルメニスに? 何じゃ、国王から呼び出しでも受けたのか?」
「いや、そういう訳ではない。しばらくの間、ダークの屋敷の地下にある訓練場で特訓をして来るんだ」
「特訓?」
アリシアの説明を聞いてマティーリアは意外そうな声を出して訊き返す。レジーナとジェイクも想像していなかった理由に驚いて目を見開いていた。
「ちょ、ちょっと待って、アリシア姉さん。どうして今更特訓なんて?」
「そうだぜ、既に姉貴は神様同然の力を持ってるじゃねぇか」
既にレベル97でアリシアより強い相手などダークとノワール以外にこの世にはいない。それなのにアリシアが更に強くなる為に特訓をする理由が分からず、レジーナとジェイクは混乱する。そんな二人を見てアリシアは小さく笑いながら説明を続けた。
「実は今度、ダークと模擬試合をする事になったんだ」
「え? 模擬試合?」
「姉貴と兄貴がか?」
「ああ、今の私がこの世界でどれだけ強いのかを確認する為にレベルが近いダークと模擬試合をするんだ。それに私がどれだけ強いかを知っておけばダークが作る新国家の騎士団に入った時に戦力などの調整とかにも役に立つだろうしな」
「へ、へぇ、そうなんだぁ……」
アリシアの説明を聞いてレジーナは僅かに戸惑う様な顔を見せる。
コレット達が帰った後にアリシアから自分も新国家の住人になる事を聞いていたのでレジーナ達はアリシアが新国家の騎士団に入る事については驚かなかった。だが、神に匹敵する力を持つダークとアリシアが模擬試合を行う事には流石に驚いているようだ。
「しかし大丈夫なのか? 神に匹敵する力を持つお主達が戦えば色々と問題が起きるかもしれんぞ?」
ノワールと同じ事を心配するマティーリアが腕を組みながら尋ねる。レジーナとジェイク、そしてノワールも同感だと言う様に無言で頷く。
「その点については心配は無い」
アリシア達の話を聞いていたダークがマティーリアの疑問に答える。ダークの言葉を聞いたアリシア達は一斉にダークの方に視線を向けた。
「実は今、バーネストの町から少し離れた所に闘技場を建設している最中なんだ」
「闘技場じゃと?」
「ああ、その闘技場の材料は俺がLMFで手に入れた素材を使っている。その素材は特別な物で最上級魔法にも耐えられるくらいの強度があるんだ」
「マジかよ?」
「凄い……LMFのアイテムを使えばそんな事もできるのね」
自分達の知らないところで闘技場が作られている事、そしてその闘技場の材料がLMFで得られる頑丈な物だと知ったジェイクとレジーナはまばたきをしながら驚く。アリシアとマティーリアもほぉ、と言いたそうな表情を見せているが心の中では驚いていた。ノワールはダークの話を聞いてそれなら確かに大丈夫だと思いながら納得する。
過去に何度もダークの持つマジックアイテムや武具に驚かされてきたアリシア達だったが、ダークが持つマジックアイテムはどれも凄く、なかなか慣れる事ができずに驚かされてばかりだった。今回も最上級魔法にも耐える事ができる素材があると聞いて衝撃を受けたようだ。
「鬼姫、闘技場はどこまで出来上がっている?」
「ハイ、現場を指揮する者によると、現在は四割ほど完成しているようです。ダーク様が召喚されたカーペンアントやゴーレム系のモンスターが建設しておりますが、それでも完成するにはあと十日は掛かると思われます」
「やっぱりそれぐらいは掛かるか……」
鬼姫から建設状況を聞かされ、ダークは思った以上に時間が掛かる事を知り少し残念そうな声を出す。
闘技場を建設する為にダークは以前召喚したカーペンアントやサモンピースを使って新しく召喚したモンスター達に作業をさせている。しかし、ただモンスター達に作業をさせるだけでは効率よく闘技場は造れないので鬼姫の様に理性と自我を持つモンスターを召喚して現場の指揮を執らせているのだ。その為、今日まで何の問題も無く作業は進んでいる。だが、それでもダークが予想していたより時間が掛かっていた。
「いかがいたしましょうか。町にいるモンスターを建設に回しましょうか?」
「……いや、町も色々忙しいみたいだからな。モンスター達を闘技場に回すわけにもいかない。今のまま作業させろ」
「かしこまりました」
指示を聞いて鬼姫は頭を下げる。もっと早く完成させる為に新たにモンスターを召喚するかと考えるダークだったが、別に急ぐ必要は無いのでのんびり完成するのを待つ事にした。
「闘技場が完成したらすぐに模擬試合をするの?」
「いや、その前に例の魔女を仲間にしに大森林へ向かう。やるべき事を全部終わらせてからの方が色々と楽でいいからな……アリシア、それで構わないか?」
「ああ」
ダークは対戦相手のアリシアに尋ねるとアリシアは頷く。ダークが魔女を連れて帰ってくるまでの間にゆっくりと特訓ができるのでアリシアにとっても都合がよかった。
模擬試合の話などが一通り終わるとダーク達は明日の予定などについて話し合う。全ての話が終わるとアリシア達は解散して自分達の部屋へと戻って行った。
その三日後、ダークの下にマーディングからの手紙が届く。そこには五日後にザムザスがバーネストの町を訪ねるので彼と共にマゼンナ大森林へ行ってほしいと書かれてあった。
――――――
手紙を受け取った日から五日後の昼、マーディングの手紙に書かれた合った通り、ザムザスが直轄騎士団の騎士数人を連れてバーネストの町へやって来た。ザムザスが乗っていると思われる馬車の周りには騎士達が乗る馬が囲む様に付いており、ゆっくりと北門を通過して町の中へ入った。
北門前の広場ではダークと少年の姿をしたノワール、冒険者の装備をしたジェイクがザムザス達を出迎える為に並んで立っており、広場に入って来た馬車を見つめている。広場の隅には町の住民達が町に入って来た馬車と騎士達を見て何事だと、興味のありそうな視線を向けていた。
馬車はダーク達の前で停車し、それに続くように騎士達も馬を止めて静かに降りた。馬車の扉が静かに開き、中から小柄で長い白髭と白髪に白いローブを着た老人、セルメティア王国の主席魔導士、ザムザス・ルーバが降りて来る。その後にザムザスの部下と思われる魔法使いの男が二人降りて来た。
「お久しぶりです、ザムザス殿」
「ウム、久しいな。ダーク殿」
ダークは降車したザムザスに近づいて挨拶をし、ザムザスも背の高いダークを見上げて挨拶を返す。久しぶりに再会した二人は簡単な挨拶を済ませてから握手を交わした。握手が済むとザムザスがダークの後ろの控えているノワールとジェイクに気付く。
「ノワール君、久しぶりじゃな?」
「ハイ、ご無沙汰しております」
頭を下げて挨拶するノワールを見てザムザスは笑みを浮かべる。その姿はまるで孫を見て喜ぶ祖父のようだった。
「ジェイク殿、お主も元気そうじゃな?」
「ええ、そう言うザムザス殿もお元気そうで」
ノワールとの挨拶が済むと今度はジェイクに挨拶をする。二人は会って会話した事が殆ど無い為、簡単な挨拶だけで済んだ。
「……ところで、ファンリードは一緒ではないのか?」
アリシアの姿がない事に気付いたザムザスは周りを見回しながら尋ねた。
今やアリシアはダークの相棒のような存在で常にダークと行動を共にしているとダークとアリシアを知っている者達は思っている。ザムザスもその一人でダークの近くにアリシアがいない事を意外に思ったようだ。
「アリシアはザムザス殿が来られる前日にアルメニスへ出かけました」
「アルメニスに?」
「ええ、ちょっとした私用で」
「そうか、では森林へはお主と後ろにいる二人が行くのか?」
「ハイ、案内をよろしくお願いします」
マゼンナ大森林の案内を頼むダークを見てザムザスは頷いた。因みに同行しないレジーナとマティーリアはバーネストの町の住民達に新国家の住人になるかを聞いて回ったり町の警備などをしている。
「では、早速出発しよう。と、言いたいところだが、その前にお主に少し話がある」
「何ですか?」
ダークが尋ねるとザムザスは表情を僅かに鋭くし、一度軽く咳き込んでからダークを見上げた。
「……建国状況を確認したマーディングとコレット殿下からお主が未知のマジックアイテムを幾つも所有している事を聞いてのう。その事について少し話がしたいと思っていたのじゃ」
「ああぁ……」
数日前にマーディングやコレットが来た時に見せたマジックアイテムの事を口にするザムザスにダークはあの事か、と思い出しながら声を出す。
マーディングが建国状況だけでなく、見せてもらったマジックアイテムの事をマクルダムやザムザス達に話す事は予想していた。その為、ダークはザムザスがマジックアイテムの事を口にしても動揺を見せる事無く冷静に対応できたのだ。
「大森林へ向かう前に少しだけそのマジックアイテムの事について話をしてもよいか?」
「ええ、構いませんよ」
ザムザスの頼みに嫌がる態度を取らずにマジックアイテムの話をする事を受け入れるダーク。そんなダークを見てザムザスは髭を整えながら小さく笑う。
「すまんのぉ、マーディングの話を聞いてお主がどんなマジックアイテムを持ち、どんな効果があるのか興味が湧いてしまってな」
「いえ、セルメティア王国最高の魔法使いであれば興味をお持ちになるのは当然です。それにこちらも魔女の説得を手伝っていただくのですからお話したり、お見せするぐらい構いません」
別に知られても困る事ではないし、今後セルメティア王国と友好的な関係を続ける為ならLMFのマジックアイテムを見せたり詳しく話をする事ぐらい何の問題にもならないとダークは思っていた。
ザムザスがマジックアイテムの話をしたいと言い出した理由は興味があるだけではない。そのマジックアイテムの効果などを詳しく知る為でもあった。もしかすると、マジックアイテムの中に危険な物があるかもしれないので一度調べておく必要があったのだ。
(マジックアイテムが危険な物かどうかは使う人物によって決まる。心の濁った者が使えば危険な物と見られるが、心の澄んだ者が使えば人々や国を守る良い物と見られる。勿論、ダーク殿がセルメティアや周辺の国を脅かす様な使い方はしないじゃろう。じゃが、王国の主席魔導士としてはしっかりと確認しておく必要がある……)
マーディングやメノルと同じでザムザスもダークがセルメティア王国に災いをもたらす存在ではないと考えていた。だが、セルメティア王国にいる魔法使い達の代表としてはちゃんとマジックアイテムの事を理解しておかないといけなかったのだ。
ダークはザムザスと彼に同行している騎士達を屋敷へ案内した。屋敷に着くとダークはザムザスにコレット達に見せたマジックアイテムと同じ物を見せ、その効果などを正直に全て話す。マジックアイテムの効果を聞いたザムザスはマーディングやメノルと同じような驚きの反応を見せた。
その後、ダーク達は予定通りマゼンナ大森林へ向かう為にバーネストの町を出発する。
――――――
バーネストの町から北北東に5km行った場所にある大きな森林。東京ドーム八個分の広さはあるとその森林の入口前にダーク達は立っている。
ザムザスの馬車に乗せられて三十分ほど揺られながら移動し、ようやく目的地のマゼンナ大森林に辿り着いたダーク達は奥の見えない深い森林を見ていた。
「此処がマゼンナ大森林か」
「思ってたよりもデケェな」
森林の入口を見上げるダークとその隣でその大きさに驚くジェイク。ノワールやザムザスは黙ってダークと同じように森林を見上げており、彼等に同行していた騎士や魔法使い達も始めて見る大森林に驚いた様子を見せていた。
「この森林の奥に例の魔女が住んでいるんですね?」
「ウム、魔法薬の材料である薬草の中で特に効力の強い薬草は森林の奥に自生しておるからのぉ、あ奴は薬草を手に入れてすぐに調合ができるよう、自生場所の近くに家を建てて住んでいるはずじゃ」
ノワールはザムザスの方を向いて魔女が住んでいる事を再確認するとザムザスは入口を見つめながらなぜ奥に住んでいるのかなどを詳しく説明する。ダークとジェイクも二人の方を向き、黙って話を聞いていた。
「では、早速入りましょう」
「そうですな。騎士達には私達が戻るまでの間、馬車の警護をしてもらいますがよろしいですか?」
「ええ、問題ありません」
英雄級の実力を持つダーク達には護衛など必要無い。寧ろ動き難い森の中を大勢で移動すればモンスターと遭遇した時に戦い難くなる為、置いていった方がいいとダークは思っていた。
騎士と魔法使い達に馬車の見張りを任せるとダーク達は森林へと入って行く。騎士達は僅か四人で広い森林へ入って行くダーク達の後ろ姿を心配そうな目で見ている。もっとも英雄級の実力者であるダーク達を心配するなど意味のない事だった。
大森林に入ったダーク達は太い木々の中にある細い道を通りながら奥へと進んで行く。案内役のザムザスが先頭を歩き、その後ろをダーク、ジェイク、ノワールの順番でついて行った。
「随分と静かな場所だな……とても凶暴なモンスターが棲んでいるとは思えねぇ」
ジェイクが周囲を見回しながら喋り、ダークとノワールもチラチラと周りを見回しながら歩く。すると先頭を歩くザムザスが前を見ながら口を開いた。
「この辺りはまだ森林の入口辺りじゃからモンスターが現れる事は殆ど無い。現れたとしてもレベルの低い下級モンスターぐらいじゃ。ただし、奥へ進めば進むほどブラッドオーガの様な強力なモンスターが現れるようになる」
森林の奥に強いモンスターが現れると聞き、ジェイクの表情が鋭くなった。ダークとノワールも黙ってザムザスの話を聞いている。
ただ、三人はモンスターに対して一切恐怖を感じていない。ダークとノワールは勿論、既にレベル60となったジェイクもオーガの亜種など少し強いゴブリン程度にしか感じていなかった。
モンスターの事を話しながらダーク達は歩いて行く。例え恐怖していなくても警戒は怠らすに先へ進んだ。
そんなダーク達の姿を10mほど離れた茂みの中から覗いている鋭い目がある。その目の持ち主はダーク達に気付かれぬよう警戒して茂みの中を移動した。