第百三十話 情報交換
アリシアは微笑んだままダークを見ており、ダークとノワールはまばたきをしながらアリシアを見ている。
「アリシア、既に君は新しい国の騎士として生きる事を決めたんだ。なのになぜ模擬試合をする必要があるんだ?」
「折角ダークと模擬試合をする機会ができたのだから、ダークと戦って今の私がどれだけ強いのか確かめてみようと思ったんだ。普通の騎士とかが相手では私の全力を確かめる事はできない。レベルの近い貴方とぶつかってようやく私の全力がどれ程のものかを知る事ができると思ったんだ」
自分がこの世界でどのくらい強いのかを確かめる為に模擬試合をしたいと言うアリシアをダークを腕を組んで見つめる。確かにレベル97であるアリシアと互角に戦える相手はダーク以外にはいない。ノワールでもいいと思ったのだが、魔法使いと騎士ではお互いに戦い方が違う為、全力がどれ程なのか測る事はできないだろう。なら、同じ騎士であるダークと戦った方がハッキリと知る事ができる。そう思って、アリシアはダークと模擬試合をしたいと言ったのだ。
ダークはアリシアが新国家の騎士となるのなら、彼女の強さをしっかり理解しておいた方が新国家の軍事力などを調整などがしやすくなるだろうと考える。他にも自分と同等の力を持つ敵が現れ、戦う事になった時に同等の力を持つ敵と戦う感覚が鈍っていると不利になってしまう可能性があるので、感覚を失わない為にもアリシアと模擬試合をしておいた方がいいかもしれないという考えもあった。
新国家の為にも自分の為にもなるので、アリシアと戦っておいた方がいいと感じたダークはアリシアと模擬試合をする事にした。
「……いいぜ、そういう事なら相手になろう」
「ありがとう、ダーク」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
アリシアがダークに礼を言っているとノワールが少し慌てた様子で会話に参加して来た。二人は不思議そうな顔だノワールの方を向く。
「お二人はこの世界では神に匹敵する力を持っているんですよ? そんなお二人が本気で戦ったら周囲に大きな被害が出てしまいます!」
「ああぁ、その事か……心配するな、ちゃんと考えはある」
小さく笑いながら話すダークを見てノワールは少し不安そうな表情を見せるが、ダークの事を信じてそれ以上は何も言わずに黙ってノワールを見ていた。
模擬試合についてダーク達が話をしていると扉をノックする音が聞こえ、三人は一斉に扉の方を向いた。
「兄貴、ちょっといいか?」
扉の向こうからジェイクの声が聞こえ、ダーク達は意外そうな顔をする。冒険者の仕事を休んで家族と過ごしているジェイクがダークの部屋を訪ねて来るなんて珍しい事だったからだ。
「ジェイクか、入ってくれ」
ダークが入るよう伝えると扉が開いてジェイクが静かに入室して来る。ジェイクは冒険者としての鎧やスレッジロックは装備しておらず、町や村に住んでいる一般人と同じ様な格好をしていた。
「何だ、姉貴とノワールも一緒だったのか? なら丁度いいぜ」
「どうかしたのか?」
アリシアが尋ねるとジェイクはアリシアの方を向いて左手の親指で廊下を指した。
「コレット様とマーディング卿が兄貴と姉貴に会いにいらっしゃってるぜ」
「何、殿下とマーディング卿が?」
予想外の来客にアリシアは驚きの反応を見せ、ダークとノワールも同じように驚いている。
「どういう事だ、ダーク?」
「知らねぇよ。俺もコレット様達が来るなんて聞いてない」
「どうするんだ?」
「とりあえず、会いに行こう。王族をいつまでも待たせるわけにはいかない。ジェイク、すぐに行くとコレット様達に伝えておいてくれ」
「ああ、分かった。あと、コレット様達は一階のリビングでお待ちだからな?」
ジェイクはコレット達がいる場所を教えて部屋から出て行く。ジェイクが退室するとダークはメニュー画面を開いて装備している服をいつもの漆黒の全身甲冑に変える。暗黒騎士ダークの姿になるとダークはアリシアとノワールを連れて部屋を出た。
屋敷の一階にある来客用のリビングではコレットとマーディングがアンティークソファーに座ってダーク達が来るのを待っていた。二人の前にあるテーブルの上には紅茶の入ったティーカップとクッキーが乗った皿が置かれており、コレットは笑顔でそのクッキーを口に運ぶ。コレットとマーディングを座るアンティークソファーの後ろにはコレットの護衛であるバトルメイドのメノルと数人の近衛騎士が控えていた。
「なかなか良い屋敷だな」
コレットはアンティークソファーに座りながら足をブラブラと揺らしてリビングを見回している。その王族らしくない態度にマーディングとメノルは少し困った様な顔をしていた。
「殿下、王女ともあろう御方がそのように足をぶらつかせるのはどうかと思いますが……」
「よいではないか。まったく、お主は相変わらず真面目じゃな、マーディング?」
注意するマーディングの方を向いて笑顔を見せるコレット。マーディングはコレットの顔を見ると仕方がないな、と言いたそうな苦笑いを浮かべて出されてあるティーカップの紅茶を飲んだ。
コレットもマーティングを見てニッと笑った後に自分のティーカップを取り紅茶を飲む。数分前、ジェイクからもうすぐダーク達が此処に来ると聞かされたコレットは早く来ないかなと考えながらダーク達を待っていた。
そんな中、リビングの出入口である扉をノックする音が聞こえ、コレット達は扉の方へ注目する。扉がゆっくりと開き、全身甲冑を装備し、兜で顔を隠したダークとアリシア、空を飛ぶノワールが静かにリビングへ入って来た。
「お待たせしました、コレット様、マーディング殿」
「ご無沙汰しております」
ダークはコレット達に暗黒騎士の声と口調でコレット達に挨拶をし、アリシアも頭を下げてコレットと達に挨拶をする。挨拶を終えたダーク達は静かに扉を閉めてコレット達の方へ歩いて行く。
「ダーク、アリシア、久しぶりじゃな!」
コレットはダーク達と再会した事が嬉しいのか笑顔を浮かべて立ち上がる。そんなコレットの姿を見てアリシアとノワールは小さな笑みを浮かべていた。ダークも兜の下で笑顔のコレットを見ながら笑っている。
「姫様、落ち着いてください」
困り顔のメノルがはしゃいているコレットを落ち着かせようと声をかける。コレットはメノルの方を向くと、むうぅとつまらなそうな顔をしながらアンティークソファーに座った。
コレットが座るのを見たマーディングはダーク達の方を向いて軽く頭を下げる。そんなマーディングを見たダークは無言で軽く首を横に振り、気にしてませんとマーディングに伝えた。コレットが落ち着くとダーク達はコレットとマーディングが座っているアンティークソファーの向かいにある別のアンティークソファーに座って二人と向かい合う。
「お久しぶりですね、ダーク殿」
「ええ、お久しぶりです。突然コレット様といらっしゃったので驚きました」
「申し訳ありません。昨日、ダーク殿の建国に不満を抱く我が国の貴族達がダーク殿の建国準備の現状を知りたいと突然言い出したのです。不満を抱く貴族達を説得する為に陛下から状況の確認をして来るよう命じられて来訪しました」
「ほお……」
マーディングは軽く頭を下げながら尋ねてきた理由を話し、ダーク達は僅かに低い声を出しながらそれを聞いた。
現在セルメティア王国では領土の一部をダークが作る新国家へ提供する事を話し合っている。しかし、マクルダムの予想通り、いくら英雄と呼ばれているダークでも黒騎士が一国の王となる事を不満に思う者がおり、そんな者達をマクルダムやマーディング、ザムザス達のようなダークを信頼する者達が領土をダークに提供するよう説得しているのだ。
だがマクルダム達が説得しても納得しない貴族達もおり、彼等は建国がどこまで進んでるのか、ダークがどんな国を作るつもりなのか詳しく知りたいと要求してきた。その為、マクルダムは貴族の中で最もダークと親しい存在であるマーディングに様子を見て来るよう指示を出したのだ。
マーディングから貴族達の説得に苦労している事を聞かされ、ダークを腕を組みながら低い声を漏らす。アリシアとノワールはマクルダムやマーディング達を大変だなと思いながら複雑そうな表情を浮かべている。
「現在、上位貴族の半分は納得しています。ですが、残り半分はまだ納得しておらず、ダーク殿の作る国の情報を知りたがっています。それを貴族達に説明し、納得させる為にアルメニスから様子を見に来たのです」
「そうでしたか……それで、なぜコレット様がご一緒に?」
ダークはコレットがマーディングに同行してバーネストの町に来た理由を尋ねる。ただ様子を見るだけならマーディングだけでもいいのになぜ王女のコレットが一緒なのか分からなかった。アリシアとノワールもダークと同じ事を疑問に思いマーディングの方を見ている。
マーディングはダーク達の方を向き、少し困った様な表情を見せながら後頭部を掻く。するとコレットがアンティークソファーに座りながら両手を腰に当てて笑いながら口を開いた。
「妾がマーディングに頼んだのじゃ。ダーク達に会いに行くのなら連れて行ってほしいとな」
ダーク達に会いたかったからついて来た、と言う理由を聞いてダークは黙ってコレットを見つめ、アリシアはポカーンとしながらコレットを見ている。
コレットはダーク達の事が気に入っている為、ダーク達と会うチャンスがあると知り、マクルダムやマーディングに同行させてほしいと頼んだ。勿論、王女がおいそれと町の外に出る事が許されるはずなく、最初はマクルダムは反対した。だが、コレットが王族として国がどんなふうに作られるのか勉強したいと言う言葉を聞き、マクルダムは仕方なくコレットの外出を許可したのだ。勿論、勉強したいと言うのはマクルダムを説得する為の嘘である。
「そう言えば、以前もコレット様はマーディングさんと一緒にマスターを訪ねて来られましたよね?」
「……そう言えばそうじゃったな」
ノワールの言葉を聞き、コレットは前にバーネストの町に来た時の事を思い出す。マーディングもその時の事を思い出し、ああぁという反応を見せる。
「いつの間にかマーディングさんがコレット様のお目付け役みたいになってますね」
小さく笑いながらコレットを見て呟くノワールにコレットは不思議そうな表情を向ける。隣に座るマーディングは苦笑いをしながらノワールを見ており、メノルも目を閉じてクスクスと笑っていた。ダークも小さく笑い、アリシアはコレットを見ながらマーディングの様に苦笑いを浮かべている、
しばらく楽しい会話をした後、マーディングはバーネストの町へやって来た目的である状況確認をする為、ダークを見て真面目な表情を浮かべる。
「ではダーク殿、早速ですが、現在建国準備はどこまで進んでおられるかお話しいただけますか?」
マーディングが少し低めの声でダークに尋ねるとダークはマーディングの顔を見て目を赤く光らせた。
「この町に住んでいる人達は殆どがこの町に残り、新国家の民になる事を選んでいます。ですが新国家の民になる事を受け入れられず、セルメティア王国の民でい続ける事を選ぶ者もおり、町から出て行く準備をする者達もいます」
「そうですか……」
いきなりセルメティア王国の町が新国家の町となり、そこの住民達が新国家の民になると言われれば戸惑い、納得できなくなるのも無理はないとマーディングは思いながら俯く。だがそれでも町に残って新国家の民となる事を選ぶ者は多く、建国後にバーネストの町が新国家の首都として機能するには十分な人数がいた。
住民や人材については問題無い事をダークは俯くマーディングやコレットにそれを説明する。それを聞いたマーディングは顔を上げて少し安心した様な反応を見せた。
「ダークよ、住民については問題無い事は分かった。残りの二つ、国を守る軍事力や資金の方はどうなっておるのじゃ?」
コレットがアンティークソファーにもたれながら軍事力と資金について尋ねる。住民がいる事も大切だが、その住民や国を守る軍事力や国が活動する為の資金源の方がある意味で大切だった。
「軍事力については既に手を打ってあります。今問題にしているのは国の資金を生み出す為の資金源ですね」
「何か良い物はないのか? 新国家の名物になるような物やこの国でしか手に入らない物などは?」
「現在はポーションの様なマジックアイテムの研究と調合を行っており、アイテムが完成すればこの国の資金源にしようと思っております」
マジックアイテムをこの国の資金源にする為に研究と調合をしている事をダークから聞かされてコレットとマーディング、二人の後ろに控えているメノルや近衛騎士達は少し驚いた反応を見せる。黒騎士であるダークがマジックアイテムの研究や調合をしているなんて思ってもいなかったようだ。
ダークはマジックアイテムの研究と調合をしていると言ったが、当然暗黒騎士を職業にしているダークにはマジックアイテムの研究や調合などできない。研究と調合はハイ・ドルイドをサブ職業にしているノワールが行っているのだ。
(こっちの世界に来たばかりの頃、この世界で得られる材料でノワールに幾つかのアイテムを作らせたが、作る事ができたのは回復力の低いポーションや毒消しの様な状態異常を回復するアイテムぐらいだ。メッセージクリスタルや転移の札の様な強力なアイテムはできなかった)
ダークはノワールでも調合できるアイテムには限りがある事を思い出して心の中で呟く。その声はノワールが作れるアイテムに限界がある事を悔しがっているように聞こえた。
LMFではドルイド系の職業もほんの少しだがアイテムを調合できる技術を習得する事ができる。だからノワールもアイテムの研究、調合をする事が可能だった。だがノワールのハイ・ドルイドは所詮サブ職業、サブ職業では調合できるアイテムの種類には限りがあり、習得できる技術も多くない。おまけにLMFと異世界とでは手に入るアイテムの材料も異なる。つまり、今の段階ではアイテムを資金源にする事はできない状態だったのだ。
(LMFの材料を使えば優れたアイテムも何種類かは作れたが、LMFの材料には限りがある。無駄遣いはできない……そして何より、俺もノワールもこの世界のアイテム調合に関する知識を持っていない。この世界で手に入る材料を使って優れたアイテムを作るにはアイテム調合の知識を誰かから得るか優れた調合師を仲間にするしかない。さて、どうする……)
この世界に来て冒険者や魔法に関する知識は把握したが、アイテムの研究や調合などはこれまで行う必要が無かったのでダークとノワールはその点は無知に等しい。こんな事ならアイテムの調合なども多少は学んでおくべきだったとダークは後悔した。
ダークが兜の顎部分を人差し指と親指で摘まみながら考え込んでいると、黙り込むダークにマーディングが声をかけて来た。
「ダーク殿、どうかないましたか?」
「いえ、何でもありません」
「そうですか……それで、マジックアイテムの研究や調合の進み具合はどうなのです?」
「いい感じに進んでいます。ただ、もう少し知識の豊富な者がいればいいなと思っております」
「成る程……」
マーディングはダークが調合の知識を持つ者を必要としているのを知り、ティーカップを取って紅茶を静かに飲む。紅茶を飲んだマーディングはティーカップを口から離して再びダークの方を向く。
「ダーク殿、もしかすると、お力になれるかもしれません」
「どういう事ですか?」
ダークが尋ねるとマーディングはゆっくりとティーカップをテーブルに置いて口を開いた。
「この町から北北東に5kmほど行った所にマガンナ大森林と呼ばれる森があるのです。その森にはポーションの様な魔法薬の材料となる薬草などが多くあり、森の奥には魔女が住んでいるのです」
「魔女、ですか?」
「ええ、その魔女はアイテムの研究や調合に関して優れた知識と技術を持っており、我が国の上位貴族も何度かその魔女に調合を依頼した事があります」
「ほお……」
セルメティア王国の貴族からもアイテムの調合を依頼されるほどの知識と技術を持つ魔女に興味が湧いたダークはマーディングの話を真面目な様子で話を聞く。ノワールもダークの肩に飛び乗り、ダークと同じように話を聞いていた。
「陛下はその魔女の腕を見込み、首都アルメニスで魔法薬の研究を行い、国の為に尽くしてほしいと依頼しました……ですが、魔女はそれを断り、今でもマガンナ大森林でひっそりと魔法薬の研究をしています」
マクルダムからの依頼を断ったと聞いてダークは意外そうな反応を見せ、アリシアとノワール、コレットは少し驚いた様な表情を浮かべる。国王からの依頼を受ければ研究資金には困らず、セルメティア王国でも優れた調合師として歴史に名を刻む事もできる。それを断ったと聞けば驚くのは当然だった。
「なぜその魔女は陛下からの依頼を断ったのですか?」
アリシアがマーディングに依頼を断った理由を尋ねるとマーディングは少し呆れた様な表情を浮かべてアリシアの方を向く。
「話では自分は一人で研究するのが好きだし、森なら材料はいくらでも手に入るから資金は必要ないから首都に行くつもりは無い、あと騒がしい町の中だと研究に集中できないと言っていた、と陛下からお聞きました」
「人とかかわるのが嫌いなのですね、その魔女は……」
「いいえ、そういう訳ではなさそうです。彼女は元々アルメニスの出身で昔は多くの魔法使い達から慕われてたとザムザス殿は仰ってました」
「ザムザス殿が、ですか?」
「ハイ、その魔女とは知り合いだと言っておられましたが、それ以外は何も語られませんでした」
セルメティア王国の主席魔導士であるザムザスとその魔女が知り合いと知り、アリシアはその魔女はザムザスの弟子か何かなのかと考える。
「マーディング殿、なぜその事を私に話してくださったんですか?」
マーディングから魔女の話を聞いたダークはなぜ魔女の事を話したのかマーディングに尋ねる。するとマーディングは真剣な表情でダークを見つめた。
「魔女は気まぐれで魔法や魔法薬の研究に誇りを持つ性格をしています。我々セルメティア王国では彼女を仲間にする事はできませんでした。ですが、英雄と呼ばれ、未知のマジックアイテムを幾つも所有しているダーク殿になら彼女も興味を持ち、仲間になってくれるかもしれないと思いお話ししました」
「成る程、しかし私に話してもよろしかったのですか? 彼女はセルメティア王国の出身で一度は貴方がたが仲間にしようとした存在、それを別の国、それもまだ建国中の国家が仲間にしたら何かと問題があるのでは?」
「確かに優れた魔法使いである彼女が別の国の住民になる事はセルメティア王国にとっては大きな損失になりますし、貴族達も黙ってはいないでしょう。ですが、我が国で監理する事のできない人材を野放しにしておくと後々面倒な事になりかねません。そうなる位なら別の国とは言え、しっかりと管理されておいた方が我々も安心だと思い、ダーク殿にお話し、仲間にする事をお勧めしたのです」
「……そうですか」
優れた力を持ち、何処にも属さずに自由に行動する存在はある意味で危険な存在と言えた。放っておいたらいつかは危険な存在になる可能性が出てくる、そうなる前に誰かにしっかりと監理してもらった方がいいと話すマーディングを見てダークは納得の反応を見せる。
マジックアイテムの研究や調合に優れ、更に魔法使いとしての腕も一流の魔女は非常に役に立つ存在だと感じ、ダークは仲間にしておきたいと考える。アリシアやノワールも新国家の為にもその魔女を確保しておきたいと思っており、黙ってダークの方を見ていた。
ダークがアリシアの方を見るとアリシアは無言で頷き、ノワールの方に視線を向けるとノワールもアリシアと同じように黙って頷いた。二人が魔女を仲間にしておいた方がいいと考えている事を知ったダークは聞こえないくらい小さな声で笑う。そしてマーディングの方を向いて軽く頷いた。
「情報ありがとうございます、マーディング殿。近いうちにその森へ行って魔女に会ってきます」
「そうですか……なら、ザムザス殿にダーク殿達と御同行していただくよう頼んでおきます。あの人は魔女の数少ない知り合いです。彼女の居場所へ案内し、説得の手助けをしてくださるでしょう」
「ありがとうございます」
マーディングに軽く頭を下げて礼を言うダーク。マーディングはダークの役に立てた事が嬉しいのか笑ってダークを見ていた。彼も知らず知らずのうちにダークの強さとその存在感の虜になっていたようだ。
その後、ダークはマーディングとコレットに建国後の国の方針などを簡単に説明し、どんなマジックアイテムを作ったかなどをコレット達に話した。
――――――
その日の夕方、ダークから建国の情報を聞いたコレット達は首都アルメニスへ戻る為に静かな一本道を馬車に乗って移動していた。馬車の周りには近衛騎士が乗る馬が数頭走って馬車の警護をしながら周囲を警戒している。
馬車の中ではコレットが微笑みながら座っており、その隣のはメノル、正面にはマーディングが座っている。二人はコレットと違って少し疲れた様な顔をしていた。
「いやぁ、楽しかったのう! ダークが作る国の事も聞けたし、あの者が見せてくれたアイテムも凄い物ばかりじゃった。なあ、メノル?」
「え? あ、ハイ。その通りです、姫様」
声をかけられたメノルはコレットの方を向き、小さく笑いながら返事をする。メノルの反応を見た後、コレットは笑いながら馬車の外を眺めた。
メノルはマーディングの方を向き、再び疲れた様な表情を浮かべる。マーディングもメノルと目を合わせながら同じ表情で小さく息を吐く。
「しかし、驚きました。まさかダーク殿があんなアイテムを所持されているとは……」
「ええ、モンスターを召喚できるマジックアイテムや強力な魔法を封印できる巻物を持っているだけでも驚くべき事なのにまさかあれほどのアイテム、しかも多数お持ちだったとは……」
馬車に揺られながらメノルとマーディングはバーネストの町でダークから見せてもらったアイテムの事を思い出す。その時に見せてもらったアイテムはどれもこの世界の常識では考えられない物ばかりだった。
魔女の話を終えた後、ダークはコレット達に自分が持っているアイテムを見せる為にアイテムが保管されてある部屋に案内した。そこにあったアイテムを見てコレット達は驚きの反応を見せる。部屋に保管されていたアイテムはどれも美しく、人間では作る事はできないだろうと思わせる物ばかりだった。
更にアイテムの効果や性能を聞かされてコレット達は更に驚く。壊れた物資を瞬時に修復するアイテムやオーガでも持ち上げられない重い物をまるで羽の様に難なく持ち上げる事ができるガントレット、他にも毒や呪いなどの状態異常を全て治してしまうベルや肉体の疲労を全て無くしてしまうポーションなどを見せてもらい、マーディングとメノルは目を見開きながら呆然とする。だがコレットだけは見た事の無いアイテムを目にして笑顔で興奮していた。
人間は勿論、エルフの様な魔法に優れた種族でも作る事は難しいと思われるほどのマジックアイテムをダークは何処でどうやって手に入れたのか、マーディングとメノルは難しい顔をしながら考えた。
「王族や英雄級の実力者しか持っていないような強力なマジックアイテム、そんな物を幾つも所持するなどダーク殿は本当に何者なのでしょう? そして、どうして今になってそれを私達に見せたのでしょうか?」
「分かりません。ただ、彼は新しい国の王族となるのです。今後、我々と友好的な関係であり続ける為に隠さずに見せてくれたのかもしれません」
「成る程、考えられますね」
マーディングの考えを聞いたメノルは真剣な顔で納得する。今まではダークの事を未知のマジックアイテムを幾つか所有する強い黒騎士とばかり思っていた。だが、あれほどの数のマジックアイテムを見せられるとただ強いだけの黒騎士とは考えられなくなってくる。
真剣な表情で考え込むメノルを見たマーディングは小さく笑みを浮かべる。
「まぁ、彼が何者でどれほどのマジックアイテムを所持していたとしても、これだけはハッキリと言えます。彼は危険な存在ではない、という事です」
「……そう、ですね。彼は私達に災いをもたらす様な存在ではありません」
コレットを助け、セルメティア王国を何度も救ったダークは自分達を裏切ったり、傷つけるような存在ではない、メノルはマーディングの顔を見て笑みを浮かべながら頷く。
ダークの事を話しているとコレットがメノルの服を引っ張り、外の景色を見るよう窓を指差す。メノルは楽しそうに笑うコレットの隣で外を眺めて彼女と同じように笑みを浮かべる。
外を見ているコレットとメノルの後ろ姿を見て微笑むマーディングは二人が覗いている窓の反対側にある窓の外を見ながらダークの事を考えた。
(見た事の無いマジックアイテムに英雄級以上の実力を持っているダーク殿、まるで別の世界から来たかのようだ……)
この世界とは別の世界から来たのでは、マーディングはダークの今までの活躍を思い出しながら彼が何処から来たのか想像する。
(……まさかね。別の世界から来たなんて、おとぎ話ではないのだから)
そんな事はあり得ないとマーディングは目を閉じながら心の中で自分の考えを笑う。ダークは凄い存在、自分達を助けてくれるなど、それぞれ色んな思いを胸にするコレット達を乗せた馬車は真っ直ぐ首都アルメニスへ向かって行った。