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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十一章~建国の領主~
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第百二十八話  建国の第一歩


 セルメティア王国とエルギス教国の国境近くにあるセルメティア王国の町、バーネスト。太陽に照らされる町の中にある町長の屋敷の一室でダークは仕事をしている。いつもの漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーは着ておらず、普段着姿で机と向かい合い、目の前にある羊皮紙に目を通していた。

 一枚を確認し終えると別の羊皮紙を手に取ってその内容を確認し、それが終わるとまた別の羊皮紙を手に取り内容を確認する、ダークはそれを朝からずっとやっていたのだ。


「……フゥ、少し休むかなぁ」


 ダークは羊皮紙を机の上に置くと椅子にもたれかかり休憩する。机の上に置かれてあるティーカップを取り、紅茶を静かに飲んだ。

 ティーカップを机に置くとダークは机の上に広がる大量の羊皮紙を見つめ、疲れた表情を浮かべながら溜め息をついた。


「まだ結構あるなぁ。これを全部終わらせるのにあとどれだけ掛かるのやら……まぁ、エルギス教国の内戦に参加して町を離れていたから仕方がないんだけど」


 頭部を掻きながらダークは愚痴を口にする。

 エルギス教国軍と亜人連合軍の内戦が終わってバーネストの町に戻ってから今日までダークは冒険者としての仕事を休み町長の仕事に集中していた。だがそれでも仕事は次々に入ってくるのでなかなか町長の仕事を終わらせる事ができない。だから当然、冒険者の仕事をする事ができなかったのだ。

 ダークは現実リアルの世界では大学生だったのでデスクワークは得意なのだが、長く続けばいくらデスクワークが得意な者でも疲れとストレスが溜まる。ダークも町長の仕事による疲れと冒険者として外に出れない事でストレスが溜まっていた。

 ゆっくりと席を立ったダークは窓から外を眺めながら肩を回したり、背筋を伸ばしたりして簡単なストレッチをし、それが終わると軽く深呼吸をした。


「……これからの事を考えれば町長の仕事も大切なのは分かるけど、俺は暗黒騎士として剣を振る方が好きなんだよなぁ……町長をしながら冒険者の仕事もできるよう、何か手を打っておかないとな」


 窓の外を見ながらダークは今後の事を考えながら呟く。すると、扉をノックする音が聞こえ、ダークはフッと扉の方を向いた。


「誰だ?」

「私だ」

「アリシアか、入ってくれ」


 扉の向こうからアリシアの声が聞こえ、ダークは入室を許可する。ダークが許可すると扉が開き、いつもの白い鎧と白いマント、銀色の額当てを装備し、腰にエクスキャリバーを納めているアリシアが入って来た。

 アリシアの手には丸めてある羊皮紙が握られており、それを見たダークはまた別の仕事が来たかと僅かに表情を歪める。


「また新しい仕事か?」

「ああ、騎士団の配置変更と新しい人材を募集する事についてだ」


 羊皮紙の内容を聞かされたダークは深く溜め息をつきながら席に付く。そんなダークを見たアリシアは小さな苦笑いを浮かべる。


「そんな顔をするな。簡単に内容を確認してくれるだけでいい。それにバーネストの町長になる事は貴方が自分で決めた事なんだ、仕方がない事だと思うぞ?」

「分かってるよ。だからこうやってちゃんと仕事をしてるんじゃないか」


 ダークはアリシアから羊皮紙を受け取り、バーネストの町にいる騎士団員の配置と募集の内容を確認する。嫌そうな顔をしながらもちゃんと仕事をするダークの姿をアリシアは笑って見守っていた。

 内容を確認するとダークは羊皮紙にサインをしてアリシアに返す。羊皮紙を受け取ったアリシアはサインがちゃんと書かれている事を確認して羊皮紙を丸めた。


「ありがとう」

「礼なんていいよ、町長の仕事だからな……そう言えば、他の皆はどうしてる?」


 ダークはアリシアに仲間達が今何をしているのか尋ねた。アリシアは羊皮紙をしまうと目を閉じて仲間達が何をしているのかを思い出す。


「レジーナとジェイクは今も家族と一緒に過ごしている。二人とも、早く冒険者の仕事に戻りたいとぼやいていたな」

「ハハハ、そうか。まぁ、内戦でまた家族に心配をかけちまったからな。モニカさん達も簡単には冒険者の仕事に戻らせちゃくれないだろう」


 レジーナとジェイクの困った顔を想像してダークとアリシアは楽しそうに笑う。エルギス教国との戦争のすぐ後に亜人との内戦に参加したのだから仕方がないと二人は思った。


「マティーリアは町の外に出て周辺に何か異常はないか調べに行っている。ダークが召喚した死神トンボ達を連れてな」

「へぇ、マティーリアが自分からそんな事をするなんて珍しいな?」

「いや、私が行かせたんだ。あの内戦が終わってから仕事を怠ける事が多くなったからな」

「……あっそ」


 アリシアの言葉にダークはジト目になりながら呟く。あのプライドの高いマティーリアが自分から面倒な仕事をするはずがないか、と少し呆れた表情を浮かべながら思う。

 亜人連合軍との戦いでダークが召喚したモンスター達は全てセルメティア王国に連れ帰り、ダーク達が拠点としているバーネストの町に配置された。モンスター達はダークの命令に従い、町の住民達を襲う事無く、町の警備や住民の手伝いなどをしている。

 今ではバーネストの町にはダークが召喚した多くのモンスターがおり、住民達もモンスターの姿を見ても驚く事はなく普通に生活していた。


「リアンはどうしてる?」


 ダークはエルギス教国から連れて来てハーフエルフの少女、リアンについてアリシアに尋ねる。アリシアはダークの方を向いて微笑みを浮かべた。


「もうこの町の暮らしに慣れて最近では一人で外に出かける事が多くなった。友達もできたらしくて今日も遊びに行ったよ」

「そうか」


 アリシアからリアンが不自由なく暮らしているのを聞き、ダークも自然と笑みを浮かべる。

 エルギス教国からセルメティア王国に移住し始めた頃は国の違いと家族の死で心に傷を負っていたリアンだったが、アリシア達と一緒に暮らしている内にその傷も癒えて行き、今ではすっかり元気になった。

 セルメティア王国は昔のエルギス教国と違って亜人に対する差別が無いので亜人も普通に暮らす事ができる。特にバーネストの町は亜人だけでなく、ダークが召喚したモンスターも普通に住んでいるので亜人に対する差別は皆無に等しい。バーネストの町はセルメティア王国の中でも特に種族に対する差別などが無い場所と言えるだろう。


「……そう言えば、ノワールの姿が見えないが、彼は何処にいるんだ?」

「ああぁ、ノワールはこの町の住民達の意見を聞きに行ってるよ」

「意見?」


 アリシアは不思議そうな顔で訊き返す。するとアリシアは何かを思い出した様な反応を見せた。


「例の建国後、この町に残るかについてか」

「ああ」


 ダークはアリシアの顔を見つめながら腕を組んで頷く。アリシアはそんなダークを見つめながら小さく息を吐いた。


「それにしても、あの時は本当に驚いたぞ? いきなり国を作ると言い出したのだからな」

「ハハハハ、そうか」


 両手を腰に当てながら喋るアリシアを見てダークは小さく笑う。アリシアは笑うダークを見ながら呆れ顔になり、心の中で呑気に笑っているなと思っていた。


――――――


 数日前、亜人連合軍との内戦が終わり、セルメティア王国の国王マクルダムとエルギス教国の女王ソラはエルギス教国の国境の町であるゼゼルドの町で会談を開いた。

 そこでマクルダムとソラはダークから新しい国の建国に協力してほしいと言われ、驚愕の表情を浮かべる。勿論、周りにいたアリシア達も驚きの表情を浮かべてダークの話を聞いていた。


「ダ、ダークよ、今何と言ったのだ……?」


 マクルダムは震えた声でダークに尋ねる。ダークはマクルダムの方を向いて兜の目を赤く光らせた。


「マクルダム陛下とソラ陛下に私の国を作るのにご協力していただきたい、と言いました」

「国、だと?」

「しかも、セルメティア王国と我が国の間にですか?」


 目を見開いて驚くマクルダムに続いてソラも驚いて建国する場所を再確認する。アリシアやソラの側近であるベイガードとソフィアナも黙ったまま驚いてダークを見ていた。

 会談の部屋にいるセルメティア王国軍とエルギス教国軍の騎士達はダークのとんでもない発言に驚きざわつき出す。それを聞いたマクルダムはセルメティア王国軍の騎士達の方を向き、目で静かにするよう伝えて静かにさせる。ソラもベイガードやソフィアナに指示を出してざわつくエルギス教国軍の騎士達を黙らせた。

 マクルダムとソラは自国の騎士達を落ち着かせると自分達も軽く深呼吸をして落ち着きを取り戻す。そしてダークの方を向き、真剣な表情でダークを見つめた。


「……ダークよ、まず最初に聞かせてほしい。なぜ国を作ろうなどと考えたのだ?」


 落ち着きを取り戻したマクルダムは誰もが疑問に思っている事をダークに尋ねた。いくら英雄と言われている男でもいきなり国を作るなどと言えば誰だってその理由を知りたがる。ソラやアリシア、そして部屋中の騎士達も同じだった。

 ダークはマクルダム、ソラ、そして周りにいるアリシア達が自分に注目しているのを確認するとマクルダムとソラの方を向いて声を出す。


「証明する為です」

「証明?」

「ええ、黒騎士でも英雄と呼ばれる事、大きな事ができるという事を証明する為に私は新しい国の建国を進言しました」


 マクルダム達はダークの言葉を聞いて一斉に表情を変える。ダークは部屋にいる全員が自分の話を聞こうとしているのを確認すると話を続けた。


「この世界では黒騎士は国への忠誠心を、忠義を失ってしまった騎士と言われています。黒騎士となってしまった者は周りから避けられ、騎士団に入る事もできず、せいぜい冒険者として生きていくしかありません……ですが、私は黒騎士でありながらマクルダム陛下からの信頼を得ており、冒険者から貴族にまで成り上りました」


 低い声で真面目に話すダークの姿をアリシアやマクルダム達は黙って聞いている。最初にダークが言った言葉と今の話を聞いてアリシア達は少しずつ彼が何を言いたいのか理解していった。


「一度国を捨てて黒騎士になってしまった者でも、信頼を失ってしまった者でもやり直す事ができる。再び騎士として国に仕える事ができる。それを証明する為に、そして黒騎士に対する周囲の見方を変える為に私は国を作ろうと考えたのです」

「……成る程、つまりお主は黒騎士でも一からやり直せば再び信頼を得られる事、国を作るような壮大な計画を立て、それを実現する事ができるのを周囲の人間達に証明する為に建国を進言した、という訳なのだな?」

「その通りです……あとは自分が一国の王としてどこまでやれるのかを確かめる為でもあります」


 全てを失った黒騎士でも再び信頼を得て国の為に尽くす事が、改革の様な大きな行動を起こす事ができるのを証明する為に新しい国を作るというダークの目的を聞いたマクルダムやソラは黙ってダークを見つめる。周りにいるアリシア達も同じように黙ってダークを見ていた。

 ダークの言う通り黒騎士は国への忠誠心を捨て、周囲から冷たい目で見られる存在だ。だが、忌み嫌われる黒騎士が必ずしも信用できないとも限らない。現に暗黒騎士であるダークはセルメティア王国とエルギス教国の為に戦い、英雄とまで言われるようになり、貴族にもなっている。最近ではマクルダムやセルメティア王国の貴族や民もダークの活躍を知り、黒騎士に対する見方を変えるべきではと感じて来ていたのだ。そしてそれはエルギス教国の女王であるソラも同じだった。

 黒騎士を職業クラスにしている自分が一国の王となり黒騎士への評価の仕方を変えてやろうというダークの意志とその行動力にアリシア達は心の中で驚いた。


(まだ出会った事はないが、この世界には俺以外にも黒騎士は大勢いるはずだ。そんな連中が冒険者や盗賊の様なゴロツキとして生きていく以外の生き方を作る事ができれば黒騎士に対する世間の見方も変わり、俺も動きやすくなるからな。あと、黒騎士でありながら貴族になった俺を他の黒騎士が妬んで襲ってくる事や俺の周囲の人間に危害を加える事を防ぐ事にも繋がる。まさに一石二鳥だ)


 ダークは自分が国王になる事で色んな事が変わる事を考えながら目の前に座っているマクルダムとソラを見て二人が口を開くのを待つ。

 しばらくしてマクルダムとソラが真剣な表情を浮かべながらダークの方を向いた。


「話は分かった。だが、いくら英雄と呼ばれるお主でも黒騎士がいきなり一国の王になる事を全ての人間がすぐに認める事はできないだろう」

「私もそう思います。確かにダーク殿はセルメティア王国と我がエルギス教国を救ってくださった英雄と言えるでしょう。多くの民も貴方を認めているはずです……しかし、一つの国を作るのには幾つもの問題があります」


 低い声を出すマクルダムとソラをダークは黙って見つめながら話を聞き、アリシアやノワール、他の騎士達も二人の王の話に耳を傾けている。周囲から注目される中、マクルダムとソラは話を続けた。


「まず、二つの国の間に新たに国を作るのは簡単な事ではない。両国の貴族達と話し合い、提供する領土、町や村についてなども話し合わなくてはならない」

「それにダーク殿は黒騎士です。先程ダーク殿が仰ったように黒騎士は忌み嫌われる存在、その黒騎士が一国の王になる事を良く思わない人達も少なくないでしょう。彼等の説得も必要です」

「何より、冒険者から一つの町の町長になった者がいきなり国王になるなどあり得ない事だ。まずはお主が国王になるに相応しい存在である事を周囲の者達に認めさせる必要もある」


 国王になる為に必要な条件や立ち塞がる問題などをマクルダムとソラは一つずつ説明していく。アリシア達は二人の話を聞いて確かにそうだと納得する様子を見せる。

 当然、ダークもそれぐらいは理解している。貴族になったとは言え、いきなり黒騎士である自分が国王になれるなどとダークは思っていなかった。


「勿論、私もいきなり国王になれるとは思っていません。まずは周囲の者達に私を認めさせる事から始めるつもりです」

「ウム、それがよい」


 ダークがいきなり国王になろうと考えていない事を知り、マクルダムはダークは冷静に物事を考えていると知って少し安心する。


「それで、マクルダム陛下、ソラ陛下、先程の質問の答えをお聞かせいただけますでしょうか?」

「フム……」

「もし、建国に協力していただけるのでしたら、建国後にセルメティア王国とエルギス教国の二国と同盟を結び、お困りの時は力をお貸しするとお約束します」


 マクルダムとソラに自分の建国に協力してくれるのかどうかダークはその答えを尋ねると二人は目を閉じて考える。目の前にいる黒騎士は富や名声、欲の為に国を作ろうとしているのではない。黒騎士の様に信頼を失った者達にも望みを叶えるチャンスがある事を証明する為に国を作ろうとしている事をマクルダムとソラは理解していた。

 そんな考えを持つ者が国を作った後に自分達や国民に災いをもたらすとは思えない。彼の望みを叶える為に力を貸してもいいと二人は考える。マクルダムとソラは答えを出すとダークの方を向いて口を開いた。


「分かった、お主に協力しよう」

「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」


 マクルダムとソラがダークの国作りに力を貸すと聞き、アリシアやセルメティア王国軍の騎士達、そしてベイガードやソフィアナ、エルギス教国軍の騎士達は驚きの表情を浮かべる。もう少し話し込むと思っていたのだが、アッサリと二人が建国に力を貸すと言う意外な答えを出したのを見て驚きを隠せなくなっていたのだ。

 ダークとノワールはアリシア達の様に驚かず、落ち着いた態度で二人の王を見つめている。


「ありがとうございます。マクルダム陛下、ソラ陛下」

「だが、建国には色々と準備や流れと言うものがる。まずお主にはバーネストの町の周辺の領地を管理する領主となってもらう。領主として領地の民達の信頼を得て、一国の王になる存在である事を認めさせるのだ」

「ハイ」

「その間に私とソラ陛下も貴族達を説得して建国の準備を進める。そして全てが終わり、お主が国王にふさわしい存在となった暁にはバーネストの町をお主の国の首都として譲ろう」


 マクルダムの話を聞き、セルメティア王国軍の騎士達とエルギス教国軍の騎士達は目を丸くしている。いくら両国を救った英雄の頼みでもいきなり建国に協力し、一つの町を首都として差し出すマクルダムの考えが理解できないのだろう。

 ダークは話の流れからマクルダムがバーネストの町を首都として差し出すだろうと考えていたのか、思った通りの結果になり兜の下で小さく笑っていた。

 それからダーク達は建国後にどうするかや、領主となった後に何をするかなどを話し合い会談は無事に終了する。亜人連合軍との内戦が終わった後の簡単な会談をするはずだったが、一人の黒騎士が新しい国の建国の話を持ち出した事でとんでもない会談となり、話を聞いた両国の騎士達は全員疲れ切った表情を浮かべていた。


――――――


 会談の事を思い出し、アリシアは疲れた様な表情を浮かべながら小さく溜め息をつく。そんなアリシアをダークは椅子にもたれながら見ていた。


「……最初はとんでもない事を言い出したなと驚いていたんだぞ。どうしてあんな事を言い出したんだ? 今まではこの世界で目立たないように生きていくと言っていたではないか」

「ああ、確かにな。だけど、エルギス教国との戦争と亜人連合軍との内戦で俺はLMFのアイテムを使いすぎ、ノワールも強力な魔法を使っちまった。もう周囲の人間は俺をただの英雄級の冒険者とは見ちゃいない。今更俺達は普通の人間と言っても信じてもらえないさ」

「まあ、あれだけ目立った行動をしてしまえば仕方がないな……」

「だから、もうLMFの世界から来た事とレベル100である事だけを隠してこそこそするのはやめようと考えたんだ」

「それで新しい国を作ろうと考えたわけか?」

「特別なマジックアイテムや強力な魔法を見せた後なら、それぐらい派手な事をやっちまっても大丈夫だと思ったんだよ」

「ハァ、呆れたな」


 大胆な行動をしようと考えるダークを見てアリシアは顔に手を当てて首を横に振る。そんなアリシアを見てダークは楽しそうに笑った。


「それにしても、マクルダム陛下もソラ陛下もよく俺の国作りに協力してくれたよなぁ。いくら英雄と言ってもいきなり国を作るなんて言えば反対すると思うだけど……」

「貴方だから陛下もソラ陛下も力をお貸ししてくださったんだ」

「え?」


 アリシアの言葉を聞きダークは不思議そうな顔でアリシアの方を向く。アリシアはマクルダムやソラから特別扱いされている事に気付いていないダークを見て更に呆れたのか深く溜め息をついた。

 ダークはアリシアが溜め息をついた理由が分からずに小首を傾げ、再び机の上に広げれている羊皮紙の内容を確認し始めた。そんなダークを見てアリシアは小さく息を吐く。


「それでダーク、貴方は陛下達に国を作ると言ったが一体どんな国を作ろうと思っているんだ?」

「ん? どんな国って?」

「セルメティア王国の様な国にするのか、それとも教国や帝国の様な国にするのか、という事だ」

「……そうだなぁ……」


 どんな国を作るつもりなのかというアリシアの質問にダークは羊皮紙を見つめながら考える。しばらく黙って考えたダークは羊皮紙を机の上に置く。


「まず、人間だけでなく亜人も暮らす事ができる国にするつもりだ。マティーリアやリアンが普通に生活できるようにする為にな」

「成る程、人間と亜人の共存国か」

「あとはLMFの技術やアイテムなんかを使ってこの世界には無い物を作り、全く新しい国を作ろうと思っている」

「LMFの技術やアイテムを使ってか? だが、そんな事をすればダークが別の世界から来たって事がバレるのでは……」

「心配ない。未知の技術やアイテムを使ったり、見た事の無い物を作ったりしたくらいで別の世界から来たって疑う奴はいないさ」

「ま、まぁ確かに……」


 笑いながら話すダークを見てアリシアは納得するが、心の中では大丈夫かと少し不安に思っていた。


「じゃあ、国ができた後の事はどうするんだ? 首都に城を建てたり、新しい法律とかを考えたりするのか?」

「勿論そのつもりだ。とりあえず、首都となったバーネストの町を作り変えたり、あとは周辺の村や町にも手を加えようと思っている」

「手を加えるって、どんな風にだ?」


 アリシアが小首を傾げながらダークに尋ねると、ダークはアリシアの顔を見てニッと笑う。


「……まだ秘密だ」


 内容を教えてくれないダークにアリシアは肩を竦める。ダークがどんな国を作り、町をどんな風に変えるのか気にはなるがダークの性格なら決して悪い国や町にはしないとアリシアは考え、追求せず、ダークが自分から話してくれるのを待つ事にした。


「……おっと、そろそろ仕事に戻らないといけないな。ではダーク、私はもう行くよ」


 しばらくダークと建国の話をしたアリシアは仕事に戻らなければならない事を思い出し、ダークに仕事に戻る事を伝える。ダークがアリシアを見ながら軽く頷くとアリシアは微笑みを浮かべて出入口の扉の方へ歩いて行く。


「……ところでアリシア」


 扉の前まで来たアリシアがドアノブに手を伸ばした直後、ダークが声をかけて来た。アリシアは手を止めて再びダークの方を向く。


「何だ?」

「君はどうするつもりだ?」

「どうするって、何がだ?」


 質問の意味が分からないアリシアは不思議そうな顔で訊き返す。するとダークは椅子に座りながら真剣な表情でアリシアを見つめて口を開く。


「……俺が新しい国を作ったら、君は新国家の人間になるのか? それともセルメティア王国の人間として生きていくのか?」

「!」


 ダークの問いを聞いたアリシアはダークを見ながら目を見開く。ダークの質問の内容を理解して驚いたらしい。

 アリシアが驚きの反応を見せるのも無理はない。なぜならその質問の内容はアリシアの今後の人生を左右する重要な内容だからだ。

 ダークが新しく国を作ればバーネストの町は新国家の首都となり、その周辺の土地はダークの国の物になる。つまり、バーネストの町周辺はダークの国の領土となるのだ。そうなればダークの国の領内にある村や町の住民達は新国家の民となる。

 だが、いくら新国家の領土になるとはいえ、領内にある町や村の住民には新国家の民となるか、セルメティア王国の民のままでいるかを決める権利がある。もしセルメティア王国の民として生きるのであれば、新国家の領内から出てセルメティア王国の領内に移住しなくてはならないが、新国家の民として生きるのであれば移住せずにそのまま町や村に住む事が許されるのだ。

 手続きなども簡単でそれさえ済ませればセルメティア王国の民は新国家の民になる事ができる。しかし、騎士団に所属する人間はそうはいかない。騎士団はあくまでもセルメティア王国の兵力、新国家の国民としては扱われないのだ。そうなると騎士団は新国家の領内から出てセルメティア王国の領内に異動しなくてはならない。つまり、アリシアも新国家の領内からセルメティア王国の領内に異動しなくてはいけないという事だ。

 ダークと向かいあうアリシアは黙って小さく俯く。新しい国ができればアリシアは長く苦楽を共にしたダークと離ればなれにならなくてはならない。アリシアはその事でこの数日間悩んでいた。


「……私はセルメティア王国騎士団の聖騎士だ。騎士団の人間が他国で暮らす事や騎士として働く事は許されない。だから、もしダークの国が完成すれば私はセルメティアへ戻らなくてはならないのだ」

「分かっている、だから俺は訊いているんだ。セルメティア王国の騎士としてセルメティア王国へ戻るか、騎士団をやめて俺の作る国の騎士になるかをな」


 俯くアリシアを見ながらダークは真剣な顔で話す。

 確かに騎士団に所属する者は他国に住む事もその国で騎士として活動する事も許されない。だが、騎士団を脱退しその国の騎士団に新しく入団したり、冒険者になれば話は別だ。セルメティア王国騎士団の人間も騎士団を脱退すれば他国の領内で暮らす事が許される。そしてその国の騎士団に入団すれば再び騎士として活動する事ができるのだ。

 冒険者は騎士団の様に国に縛られる事は無く、どの国でも自由に活動する事ができる。だがそれでも別の国の冒険者が活動する場合は手続きとかが必要なので色々と面倒な事があるのも事実。しかし、騎士団の人間ほど不自由な事は無い。

 アリシアがこれまでどおりダークと行動を共にするのであればセルメティア王国の騎士団を脱退し、ダークが作る国の騎士団の入団するか冒険者になる必要がある。だが、アリシアは騎士団を脱退するかしないかを深く悩んでいた。

 彼女は死んだ父に代わりファンリード家の当主として騎士になり、母であるミリナとセルメティア王国を守ると決めた。どんな時もセルメティア王国に忠誠を誓い、その剣を国や大切な人達を守る為に振って来たのだ。そう決めたはずなのに自分の都合で騎士団を脱退し、ファンリード家の名誉や祖国への忠誠心を失う事に抵抗を感じ、決断する事ができずにいた。

 黙り込んで考えるアリシアを見つめるダークは席を立ち、ゆっくりと歩いてアリシアの前までやって来る。アリシアは顔を上げて複雑そうな表情でダークの顔を見た。


「……ダーク、私はどうすればいいのか分からないんだ。セルメティア王国の騎士として祖国の為に剣を持つか、貴方の作る新国家の騎士として新しい道を進むのか」

「君が進みたいと思う道を選べばいいだけだ。深く悩む事は無いだろう?」

「それができないから苦労しているんだ……私はこれからも貴方と共に戦いたい。だが、王国騎士として、ファンリード家の次期当主としてセルメティア王国を守っていきたい。どちらか一つを選べと言われると決める事ができないんだ」


 どちらも自分にとって大切な事、アリシアは片手を顔に当てながら再び俯いて小さく息を吐いた。

 ダークはハッキリと決断できないアリシアを見て腕を組みながら何かを考えこむ。どうにかアリシアの手助けをする事はできないかと思っていたのだ。すると、ダークは何かを閃き、俯いているアリシアの方を向いた。


「なあ、アリシア。俺と模擬試合をしないか?」


新章投稿開始しました。今回の章はこれまでの章と比べると少し退屈な内容になるかもしれませんが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。あと、中途半端な終わり方ですみません。

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