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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十章~怨恨の亜人~
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第百十五話  グーボルズ解放作戦


 報告を受けたリードン達は屋敷を出て真っ直ぐ東門へ向かう。街の中は人間軍が攻めて来た事で大騒ぎになっており、武器や防具などの確認をして戦いの準備を進めている亜人達の姿が見られた。

 騒がしい街中を進みながらリードン達は東門前の広場にやって来た。広場では多種の亜人達が整列して隊長らしき亜人達から話を聞いている姿がある。広場の隅では亜人達が調教したモンスター達が座り込んでいる姿もあった。

 その光景を見ながらリードンはダンジュス、ティルメリアを連れて城壁の上に上がる為の階段を上っていく。城壁の上まで来ると三人は敵がいる東側を見る。確かに1kmほど先に大勢の人間達が陣取っている姿があった。その人間達こそ、ダークが率いるグーボルズの町を解放する部隊なのだ。


「本当に来てやがる……」


 リードンは目を見開きながら遠くにいる人間軍を見つめた。人間軍の姿を見たリードンは本当にジバルドの町を制圧に向かった部隊が負けたのだと知って衝撃を受ける。ダンジュスとティルメリアも人間軍の姿を見て驚いていた。


「話を聞いた時は信じられなかったけど、こうして直接見ると信じるしかないねぇ……」


 腕を組みながらティルメリアが真剣な顔で呟く。彼女も最初は人間軍がグーボルズの町に攻めて来た事、つまり制圧部隊が負けた事が信じられなかった。しかし、直接人間軍を確認した事で信じざるを得なくなったのだ。


「人間ごときに負けるとは、その八百の制圧部隊の連中は雑魚ばかりだったみてぇだな?」


 ティルメリアの隣にいたダンジュスは驚いているリードンの方を向いて楽しそうに笑う。彼は見下している人間を甚振る以外に仲間の失敗を笑うという趣味もあったようだ。リードンは笑うダンジュスを鋭い目で睨みつける。


「ジバルドの町へ向かわせた部隊の連中は全員がエリート中のエリートだ。人間と戦って簡単に負けるような奴等じゃない!」

「だが現にそのエリート達は負けて人間軍は俺等の前に現れたんだぜ? それはお前の派遣した部隊が弱い事を証明してるって事じゃねぇか」

「グウゥゥッ!」


 余裕の態度で話すダンジュスを見てリードンは何も言い返せずに悔しがる。リードンが悔しがる姿を見てダンジュスはニヤリと笑いながら遠くにいる人間軍に視線を向けた。リードンもイライラしながら東の方を向き、人間軍の戦力を確認する。

 遠くにいてハッキリとは分からないが、二百人以上はいるとリードンは感じていた。人間達の中には数十人の亜人の姿があり、それを見たリードンはその亜人達が人間達と共存を望んだ亜人達だとすぐに気づく。リードンはそんな亜人達の姿を見て小さく舌打ちをした。


「チッ、亜人の恥さらしどもが!」

「それでどうするんだい? リードンのおっさん」


 ティルメリアが人間軍を見つめながらこれからどう動くかリードンに尋ねる。リードンはしばらく人間軍を見つめながら黙り込み、やがて閉じていた口を開かせる。


「……とりあえず様子を見る。今のところ動く気配は無さそうだが、必ず攻撃して来るはずだ。その間に東門の護りを固める」

「ベーテリンクに増援の要請はしないのか?」

「必要ない。見たところ、敵の戦力は二百から三百の間ぐらいだ。こちらの戦力は三百二十、モンスター達を加えれば三百五十だ」

「殆ど同じじゃないか、大丈夫なのかよ?」


 自分達と人間軍の戦力が殆ど同じなのを聞いたティルメリアは目を細くしながらリードンを見つめて低い声を出す。するとリードンはティルメリアの方を向き、分かってないなという様な表情を見せた。


「いいか? 城や町を攻めるには敵の倍以上の戦力が必要だと言われている。それなのに敵の戦力は二百から三百の間、俺等の戦力よりも少ないんだ。奴等は俺等に勝つ事は勿論、町に入る事すらできねぇ」


 リードンは自信に満ちた口調で人間軍が勝てない理由を説明をする。ティルメリアは腕を組みながらへぇ~、と数回頷く。ただ、その目は細いままで本当に大丈夫なのかと少し疑っている様な顔をしていた。


「それじゃあ、俺とティルメリアは戦いに参加しなくても大丈夫って事だよな?」


 今まで黙って話を聞いてたダンジュスがリードンに話しかけてくる。リードンとティルメリアはほぼ同時にダンジュスの方を向いた。ダンジュスはリードンが指揮する部隊には入っていない為、戦闘に参加するかしないかを決める事ができる。それはティルメリアも同じだった。

 普通は敵が現れたら別の部隊であろうと力を貸すべぎなのだが、ダンジュスは戦闘に参加するのは面倒なので戦いには参加しないと遠回しにリードンに話したのだ。


「……別に問題ない。あの程度の敵、此処にいる戦力だけで十分倒せる」

「そうかい、なら高みの見物をさせてもらうぜ」


 笑うダンジュスを見てリードンは呆れた様な溜め息をつく。ティルメリアは二人の会話を聞いて目を閉じながら肩を竦めた。

 ダンジュスの態度を見てリードンはダンジュスが戦いに参加する事を嫌がっている事にすぐに気づいた。めんどくさがっている者を戦いに参加させたところで役に立たないし、仲間の足を引っ張るだけだと思ったリードンは参加しなくてもいいと言ったのだ。

 勿論、ダンジュスが戦いに参加すると言うのであれば喜んで歓迎するが、ダンジュスの性格をよく知っていたリードンはダンジュスが関係の無い戦いに自分から参加するなんて事はないと分かっていた。リードンは最初からダンジュスの事を頼りにしていなかったようだ。


「ダンジュスが戦いに参加しない事は分かった……ティルメリア、お前はどうする?」


 リードンはまだ答えを聞いていないティルメリアに問いかける。ティルメリアはもう一度人間軍を見た後にリードンの方を向いて小さく笑う。


「いいよ、一緒に戦ってやろうじゃないか。八百の制圧部隊を倒した人間どもがどんな力を持っているか興味があるしね」

「そうか……」


 戦いに参加すると言うティルメリアを見てリードンは無表情で呟き人間軍の方を向く。

 表情にこそ出していないが、心の中ではティルメリアが戦いに参加すると言った事をリードンは意外に思っていた。てっきりティルメリアもダンジュスと同じように戦いに参加する事を拒否するのではと感じていたのでティルメリアが共に戦うと言ったのを聞いた時は内心驚いていたのだ。同時に共に戦ってくれる事をリードンは心の中で感謝する。


「その代わり、いくつか条件があるよ?」

「何だ?」

「あたしが動くのは敵が町に攻め込んで来たり、こっちが不利になった時だけ。あたしが出なくても勝てる戦況なら後方でのんびりしていたいしね」

「いいだろう」

「それと、戦いが終わったらこの町にいる人間の捕虜、若い童貞の男の子を一人、報酬として貰うよ」

「また捕虜を玩具にする気か? ファストンにバレても知らねぇぞ?」

「平気だよ。親父も攻めて来た敵と戦ったって話せば怒りゃしねぇって」

「フン、勝手にしろ」


 リードンはティルメリアの出した条件を全て呑み、ティルメリアは自分の望んだとおりになった事が嬉しいのか笑みを浮かべる。ダンジュスはティルメリアを物好きな女だと思いながら見ていた。

 それからリードン達は亜人達に戦闘の準備を進ませ、東門の広場にいる隊長の亜人達に戦闘が始まった時にどう動くかを指示する。それらが終わるとリードン、ダンジュス、ティルメリアは屋敷へと戻って行った。

 一方、グーボルズの町の東門から1kmほど離れた丘の上ではセルメティア王国軍とエルギス教国軍の兵士達や亜人達がグーボルズの町を解放する為の準備を進めていた。武器の確認や部隊の編成や配置をしながら敵の様子を伺っている。亜人達も兵士に指示されながら自分達が何を担当するか、戦いが始まったらどう攻撃するかなどを聞いている。その中には緑鱗りょくりん族のリザードマン、ドルジャスとジャーベルの姿もあった。

 兵士達が準備をしている間、丘の一番上に張られているテントの中ではダーク達が作戦会議をしていた。木製のテーブルを囲む様にダーク達が立っており、その中にはジバルドの町でダーク達に敵の情報などを話した二人のエルギス教国軍の騎士の姿もあった。六星騎士のベイガードとジバルドの町の代表である騎士の姿は無い。どうやら二人はジバルドの町に残ったようだ。

 テーブルの上にはグーボルズの町全体の地図が置かれており、ダーク達は戦闘が始まり、町に突入したらどう攻めるか話し合っていた。


「町に突入した後、我々はこの東門前の広場から町中に広がって亜人達を倒しながら町を解放していきます。そして、この町で捕虜となっている者達を解放し、何処かにいるはずの敵指揮官を捕らえます。そうすれば亜人連合軍も戦意を失い、我々の勝利となるでしょう」


 騎士が地図を指でなぞりながら作戦の流れなどを説明する。ダークとアリシア、ノワール、ジェイクは真面目に騎士の話を聞いているが、レジーナとマティーリアは難しい話が嫌いなのか少しめんどくさそうな顔で話を聞いていた。


「捕虜の解放と敵指揮官の捕縛も重要ですが、敵がこの町から逃げ出さないように西門も制圧する必要があるのではないでしょうか? もし敵が逃げ出してベーテリンクの町にいる亜人達にグーボルズの町を解放した事を知られると後々面倒な事になります」

「フム、確かにそうですね……では、二個小隊ほどを西門の制圧に向かわせましょう」


 アリシアの敵の退路を塞いでおいた方がいいと言う作戦を聞いて騎士は納得する。もう一人の騎士もそれでいいと思っているのか反対する事はなかった。

 町へ突入した後の作戦が粗方決まると今度は東門をどうやって攻めるかの話し合いを始める。町へ突入した後の作戦を考えても、町へ入る事ができなければ何の意味も無い。ダーク達はテントの外に出て東門の見張り台や城壁の上にいる亜人達を確認しながら作戦を考える。


「敵も我々の存在に気付いて戦いの準備を始めていますね」


 望遠鏡を覗いて東門の敵戦力と敵の配置を確認する騎士。ダーク達も望遠鏡を使って亜人連合軍の動きを確認している。


「敵が東門に町の戦力全てを集めて我々を迎え撃つはずです。普通に攻撃を仕掛けたら城壁を越える前に全滅してしまいます。ダーク殿、どうしますか?」


 騎士が望遠鏡を覗くのをやめてダークにどうするか尋ねた。ダークも望遠鏡を覗くのをやめて遠くにいる亜人連合軍を黙って見つめている。アリシア達もダークがどうするつもりなのか気になり、ジッとダークの方を見ていた。


「少ない戦力でいきなり攻撃を仕掛けるのは危険です。まずはある程度敵の戦力を削り、それから私達が直接攻撃するのがいいでしょう」

「戦力を削ると言いますが、一体どのように?」


 難しい顔をしながら騎士が尋ねるとダークは望遠鏡を隣に立っているアリシアに渡し、腰のポーチに右手を入れて何かを取り出そうとする。


「私の持っているアイテムを使ってモンスターを召喚し、そのモンスター達に攻撃させて敵の護りを崩します。モンスター達を使えばこちらの少ない戦力を失わずに済みますからね」


 自分の持つアイテムで召喚したモンスターを使って攻撃すれば二百五十人の戦力を無傷の状態で突入させる事ができる。騎士はダークの兵士達を負傷させない為に貴重なアイテムを使ってモンスターを召喚すると言う考えに驚き、同時にダークの兵士を守ろうとする気持ちに感服した。

 ダークはポーチの中に入れていた右手をゆっくりと抜く。手の中には大量の色とりどりのサモンピースがあり、ダークは取り出したサモンピースを左手に移すと再びポーチに手を入れてまた大量のサモンピースを取り出す。ただ、取り出したサモンピースは全てポーン、つまり一番下のサモンピースだった。

 アリシア達はダークが今までにない数のサモンピースを取り出したのを見てまばたきしながら驚いている。エルギス教国軍の騎士達はダークが持っている見た事の無いアイテムを見ながらこれがモンスターを召喚するアイテムなのかと不思議そうな顔をしてみていた。


「まぁ、これぐらいでいいだろう」


 ダークはそう言って両手に持っているサモンピースは前に向かって投げ捨てた。投げられたサモンピースは地面に落ちると高い音を立てながら砕け、光の粒子となり形を変えていく。アリシア達は目の前を埋め尽くすほどの光の粒子を黙って見つめ、騎士達は目を見開きながら粒子を見つめていた。

 やがて粒子が形を変えて光が完全に消えるとそこには大量のモンスターがダーク達の方を向いている姿があった。アリシア達はもの凄い数のモンスターを見て驚きの反応を見せる。


「……まさか、向こうで使っていた作戦をこっちでも使う事になるとはな」


 ダークは召喚されたモンスター達を見つめながら懐かしそうな口調で呟いた。

 LMFでは他のギルドの拠点を攻撃する際、事前にそのギルドの情報を集めておく事が重要である。情報が無ければ拠点にどんな罠が仕掛けられているか、どんな職業クラスを持ったプレイヤーがいるのかも分からずに苦戦を強いられてしまうからだ。

 相手の情報を得る為にはレンジャー系の職業クラスで体得できる特殊な技術スキルを使ったりしなければいけない。だが、ギルドの中にはそのような技術スキルを持っていないプレイヤーばかりのギルドもある。そのようなギルドは別の方法を使って敵の情報を得るしかない。その方法の一つが先程のダークのモンスターを召喚するというものだ。

 情報を得る技術スキルを持つプレイヤーがいないギルドはサモンピースなどで召喚されたNPCモンスターに敵ギルドの拠点を攻撃させ、迎撃して来た敵プレイヤーの職業クラスや罠がどう配置されているかなどを確認する事がよくある。ダークがLMFにいた頃に所属していたギルドには情報収集を得意とするプレイヤーもいたのだが、そのプレイヤーがLMFにログインしていない時はこの作戦を取っていた。


(サモンピースは貴重なアイテムだから、敵拠点攻略の時は一番下のポーンのサモンピースを使った方がいいってドラゴンキングさんが言ってたからな。こっちの世界でもそうさせてもらおう)


 召喚されたモンスターを見ながらダークは嘗ての仲間の事を思い出す。

 ドラゴンキング、ダークがLMFで所属していたギルド、パーフェクト・ビクトリーのメンバーでドラゴンランサーをメイン職業クラスにしているプレイヤー。現実リアルの世界では将棋のプロ棋士をやっており、高い洞察力の持ち主でもある。ギルド同士の戦いでは参謀を務めており、彼が考えた戦術や戦略のおかげでダーク達は多くのギルドに勝利して来た。洞察力が優れているだけでなく、戦闘能力も高くドラゴンランサーの能力や技術スキルを上手く使って敵を倒し、仲間を援護する為、ギルドメンバーからの信頼も厚い。勿論、ダークもドラゴンキングの事を良い仲間だと思っている。

 ダークが先にモンスターで攻撃を仕掛けて敵の情報を集めたり、戦力を削ぐという作戦もドラゴンキングが考えたものの一つ。ただ、ドラゴンキングにとってはこんなのは誰でも思い付く三流の戦術らしい。しかし、ダーク達にとってはとても使える作戦である為、よく使っていたのだ。

 LMFでは三流と言われたこの戦術はダークが今いる世界では簡単には実行できないもの。ダークは町を解放するのと同時にこの作戦が異世界でどのくらい通用するのか確認する為に実行する事にしたのだ。

 召喚されたモンスターを見てダークは数と種類を確認する。数は全部で百体でモンスターの中には剣や棍棒を持ったゴブリンやオーク。槍や鎌を持つスケルトンに呻き声をあげるゾンビやグール。剣と盾を持つバッタの顔をした人間型の昆虫族モンスター。紫色の肌をして翼を生やした悪魔族モンスターなど様々な種族のモンスターがおり、ダーク達の前で大人しくしていた。


「……ゴブリンにオーク、バグソルジャーにレッサーデビル、あとは中級モンスターが十数体か。これなら問題ないだろうな」


 ダークは両手を腰に当てながら大丈夫だろうと軽く頷く。ノワールもモンスター達を見ながらうんうんと黙って数回頷いていた。因みにダークが召喚したモンスター達のレベルは全て10から30までの間となっており、一般の兵士や騎士でも倒す事が可能な強さだ。


「な、何なんだ、これは……」

「一瞬にしてこれほどの数のモンスターを……」


 騎士達はダークが召喚したモンスター達を見て目を丸くしながら震えた声を出す。近くにいたセルメティア王国軍とエルギス教国軍の兵士や騎士達、共闘する亜人達は突然現れたモンスター達に驚き距離を取っている。中には武器を構えてモンスター達を警戒する者もいた。いきなり目の前にモンスターが現れたのだから無理もない事だ。

 亜人やエルギス教国軍は殆どの兵士と騎士が驚いているが、セルメティア王国軍の中には驚いていない兵士や騎士もいる。どうやらセルメティア王国軍の中には以前のエルギス教国との戦争でダークが召喚しモンスターと共に戦った者達もいたらしく、突然モンスターが現れてもそれがダークが召喚したモンスターだと知っており、殆ど驚いていなかった。


「まず彼等に東門を攻撃させて敵の戦力を削りながら様子を伺います。そして敵の動きや戦力を観察しながらどう動くかを考えて実行する、という事でよろしいでしょうか?」


 ダークは驚いている騎士達に声を掛けて確認する。騎士達はダークに話しかけられた事でビクッと反応して我に返り、驚きの表情のままダークの方を向いた。


「え、ええ、それで構いません」


 騎士の一人が動揺を見せながら返事をし、もう一人の騎士も黙って数回頷く。ダークが何処でモンスターを召喚するアイテムを手に入れたのか、あと幾つそんなアイテムを持っているのか気になるが、これから戦いが始まるので詮索は止そうと知りたい気持ちを抑え込んで我慢し、驚く兵士や亜人達に現れたモンスターは自分達に害を加えない事を知らせに移動した。

 モンスターを召喚し終えるとダークは再び望遠鏡を覗き込んで亜人連合軍の動きを確認した。亜人連合軍は弓兵や魔法使いのような遠距離攻撃をする事ができる亜人を城壁の上に上げており、その周りには剣や槍を持った護衛の亜人がいる。少しずつだが敵を迎え撃つ準備を整えているようだ。

 ダークは護りを固める亜人達を黙って見ている。亜人達が護りを固めても慌てる事なく、落ち着いた態度で東門の周辺を確認していた。すると、東門がゆっくりと開き、町の中からゴブリンやオーガと言った亜人達に調教されたモンスター達が外に出てくる。その中には数人のエルフの姿もあった。モンスター達を操っている亜人連合軍のビーストテイマーだろう。モンスターとビーストテイマーのエルフ達が町の外に出ると東門は再び閉じる。

 

「どうやら敵もこちらと同じ考えだったようだ……まあ、モンスターがいるのなら奴等に先に戦わせて敵の戦力を少しでも削るのは当たり前か。ドラゴンキングさんの言った通り、誰でも思い付く三流の作戦だな」


 亜人達の行動を見たダークはゆっくりと望遠鏡を下ろす。てっきり亜人達は自分が考えもしない作戦を取るのではと思っていたが、自分と同じ作戦を取った事にダークは少しガッカリした様子を見せていた。

 ダークは亜人達の動きを確認すると待機しているモンスター達の方を向き、鋭い目でモンスター達を見つめながら目を赤く光らせた。


「聞け! お前達にはこれからあそこに見える町に攻撃を仕掛けてもらう。町の入口である門の前には複数のゴブリンやオーガが、見張り台や城壁の上には亜人達がいる。奴等と戦い、私達が町へ突入する道を作る事がお前達の役目だ!」


 ダークはグーボルズの町を指差しながらモンスター達に指示を出す。モンスター達はダークを見ながら黙って話を聞いており、周りにいる兵士や騎士達はダークがモンスターに指示を出す光景に注目する。アリシア達は真剣な顔でダークとモンスター達を見ていた。


「敵は亜人とそれに従うモンスターだけだ。人間には危害を加えるな? あと、向かってくる者は殺しても構わないが戦意を失った者は放っておけ」


 攻撃するのはあくまでも亜人だけで人間には手を出してはならないとダークは細かく指示を出し、命令を聞いたモンスター達は返事をするかのように声を上げる。

 ダークがモンスター達に指示を出しているとエルギス教国軍の騎士がダーク達の下に駆け寄って来た。


「皆さん、あと三十分後に攻撃を開始します。それまでに準備を終えておいてください」

「分かりました」


 報告に来た騎士に返事をすると騎士は他の兵士達に戦いが始まる事を知らせに向かった。ダーク達も負けられない戦いに勝つ為に念入りに武器や持ち物の確認をする。他の兵士達も緊張した様子で作戦の確認を行う。

 そして三十分が経過し、遂にグーボルズの町を解放する戦いが始まる。

 戦いが始まるとダーク達は東門の600m手前まで近づき、作戦通りダークが召喚したモンスター達を東門に突撃させる。亜人連合軍は突撃して来るモンスター達を見て人間軍が自分達と同じようにモンスターを従え、そのモンスター達に攻撃させる光景を目にして驚きの反応を見せた。

 しかし、すぐに我に返り、ビーストテイマーのエルフ達は自分達が調教したモンスター達に迎撃させる。エルフに命令されたモンスター達は一斉に走り出した。

 両軍のモンスター達はぶつかり、それぞれ敵のモンスターに攻撃する。優勢なのは当然人間軍側だった。亜人連合軍側のモンスターはゴブリンやオーガなど地上を移動するモンスターばかりで数は僅か三十体、ダークが召喚したモンスターは色んな種族がおり、空を飛ぶ事のできるモンスターもいる。そして数も百体と亜人連合軍側よりも多い。亜人連合軍のモンスター達は相手の数と攻撃に翻弄されて次々に倒されていった。


「クソォ、どうなっているんだ! なぜ人間軍がモンスターを、しかもあれほどの種類と数を従えているんだ!?」


 東門の見張り台の上にいるエルフがモンスター達の戦闘を目にして声を上げる。亜人である自分達ですらモンスターを調教し、言う事を聞かせるのは難しいのに自分達よりも劣っていると考えている人間がモンスターを操っている事が信じられなかったのだ。周りにいる他のエルフや他種の亜人達も驚いて遠くで起きているモンスターの戦闘を見ていた。

 やがてダークが召喚したモンスター達が亜人連合軍のモンスターとビーストテイマーを全て倒し、東門に向かっていく。その数は百体から七十三体まで減っているがそれでも東門に攻撃を仕掛けるには十分な数だった。

 亜人達はアッサリと自分達のモンスターを全滅させて迫って来るモンスターを目にし、急いで迎撃する。弓兵や魔法使い達が向かってくるモンスター達を攻撃して一体ずつ倒していくがモンスターの数は多く、あっという間に東門の手前まで近づけてしまった。

 紫色の肌に翼を生やした悪魔、レッサーデビルなど空を飛ぶ事のできるモンスターは見張り台や城壁の上に移動して亜人達を攻撃し、オークやスケルトンなど空を飛ぶ事のできないモンスターは東門を破ろうと攻撃する。しかし亜人達も負けずと反撃をし、一体ずつ確実にモンスターを倒していった。

 戦いが始まって四十分が経過し、東門を攻撃するモンスターも既に三十数体にまで減っていた。ダークが召喚したと言っても所詮は下級モンスター、一般の兵士でも倒す事が可能な強さなので長くはもたない。しかも指揮官の様な統率する者がいない為、まともな戦いも出来ずにあっという間に数を減らされてしまったのだ。だが、このモンスター達はあくまでも亜人連合軍の戦力を調べ、戦力を削ぐ為の存在、倒されてもダーク達には何の問題は無かった。

 モンスター達は半分以上倒されたが、亜人連合軍もかなりの被害が出ている。最初と比べて人数がかなり減り、城壁の上には殆ど亜人はいない。ダーク達の狙った通りの結果となった。


「城壁の上の敵はある程度倒せたな」

「ああ、あれならもう私達が動いても問題ないだろう」


 東門から600m離れた所ではダークとアリシアがモンスター達と抵抗する亜人達の戦いを見ている。二人の周りにいるレジーナ達やエルギス教国軍の騎士達、そして後ろに控えているセルメティア王国軍とエルギス教国軍も城壁の上の敵が少なくなったのを見て余裕の表情を浮かべていた。


「これから私達は町の中へ突入するのだが、その為には東門を開ける必要がある……とは言ってもモンスター達には門を開けるなんて複雑な作業はできないし、モンスター達が外から門を破るのを待つつもりもない。手っ取り早く門を開けるには誰かが町へ入り、門を内側から開ける必要がある」

「確かに……だが、誰が門を開けるんだ? 東門の内側にはきっと多くの亜人が待機しているはず、普通の兵士や騎士が突入するのは危険だ」

「ああ、だからエルギス教国との戦争の時の様に私が突入して門を開けようと思っていたのだが、折角だから今回は別の方法で門を開ける事にする」

「え?」


 アリシアはダークの言葉に不思議そうな顔をして聞き返す。レジーナ達やエルギス教国軍の騎士達も同じような表情でダークを見ていた。


「別の方法とはどんな方法なんだ?」

「ノワールに行ってもらうんだ」

「ノワールに? どうして?」

「ちょっと試してみたい魔法があってな」

「魔法?」


 ダークの狙いが分からずにアリシア達は理解のできない表情になる。そんな中、ノワールはダークの前に出て自身にレビテーションを掛けて宙に浮く。浮かび上がったノワールをアリシア達は黙って見上げた。


「ノワール、頼むぞ」

「ハイ、マスター」


 命令を聞いたノワールは持っている杖を振って上昇する。ダーク達は高度を上げていくノワールの姿を黙って見上げた。

 ノワールは東門を通り越せるくらいの高さまで上昇すると町に向かって飛んで行く。東門の真上に来た時、城壁の上では亜人達がダークの召喚したモンスターと戦っている姿がある。空を飛ぶ事のできるモンスターは殆ど倒されて数えるくらいしかおらず、残りは地上で東門を破ろうとするモンスターだけだった。


「……急いだほうがよさそうだ」


 飛行モンスターが全滅する前に東門を開けようとノワールは急いでグーボルズの町に入る。幸い亜人達はモンスターとの戦闘に集中していた為、ノワールの侵入に気付く事はなかった。

 ノワールは東門の内側にある広場の上空までやって来て広場の様子を確認する。ダークの予想通り、東門前の広場には大勢の亜人達が待機していた。中には城壁に上って仲間の援護に向かおうとする亜人の姿もある。


「やっぱり待機してたかぁ……あの数、少なくとも百五十人はいるかな。他の戦力はきっと町の何処かにいる指揮官の護衛と退路である西門の確保をしているはず」


 東門前の広場にいる戦力を確認しなら残りの亜人達が何処で何をしているのか考えるノワール。すると、待機していた亜人達が上空にいるノワールの存在に気付いて騒ぎ出した。


「おっと、待機している亜人達に気付かれた。急いで東門を開けないと!」


 亜人達が騒ぐ姿を見たノワールは急降下して東門前の広場に下り立つ。空から下りて来たノワールに広場にいた亜人達は驚く。だがすぐにノワールを取り囲んでそれぞれ持っている武器を構えた。


「何だ、このガキは!?」

「知るかよ! だが、空から下りて来たって事はただのガキじゃねぇ。さっさと殺しちまおう!」


 ノワールを睨みながらレオーマンとリザードマンが剣を構え、周りにいる他の亜人達も一斉に武器を構えて少しずつノワールに近づいて行く。

 囲まれているにもかかわらずノワールは慌てる事なく落ち着いて周りを見ている。ノワールなら例え囲まれていても全体攻撃の魔法で一掃できる為、慌てる必要が無いのだ。だが、ノワールは魔法で亜人達を一掃しようとは思っていなかった。


(さて、早速あの魔法を使ってみよう。上手くいくといいけど……)


 心の中で呟きながらノワールは杖を横に持つ。亜人達はノワールの行動を見て何か魔法を使うのではと警戒する。

 魔法を使われる前にノワールを攻撃しようと亜人達は武器を強く握って襲い掛かろうとする。だが、亜人達が動くよりも先にノワールが魔法を発動させた。


召喚魔法サモンマジック・マッドエント!」


 ノワールが魔法の名を叫ぶとノワールの周りに八つの黄色の魔法陣が展開され、亜人達は足元の魔法陣を見ると慌てて後退する。すると魔法陣の中からモンスターが浮かび上がる様に現れた。

 魔法陣から現れたモンスターは3mほどの大きさで枯れ木の様な姿をしており、ハロウィンのカボチャの様な目と口に長い枝の鼻を付けた顔をしている。鋭く尖った四本の指を持つ枝の腕を持ち、下半身の根を足にしていた。

 モンスターの名前はマッドエント、ノワールが使った魔法で召喚された植物族の中級モンスターである。ノワールが使った魔法は召喚魔法でこの召喚魔法こそがダークの言っていた試してみたいという魔法なのだ。

 <召喚魔法サモンマジック・マッドエント>はドルイドの中級職を持つ者が習得できる土属性の中級魔法。発動するとレベル35から40のマッドエントを最大八体まで召喚する事ができる。魔法で召喚されたモンスターはサモンピースで召喚されたモンスターと同じで命令すればその通りに行動する為、習得できるプレイヤーは多い。ただし、消費するMPが多く、一度発動すると次に発動できるようになるまでかなりの時間が掛かると言う欠点がある。ノワールはサブ職業クラスをハイ・ドルイドにしていた為、使う事ができた。因みに異世界にはマッドエントは存在しないのでこの召喚魔法はLMFだけの魔法という事になる。ただ、召喚魔法サモンマジックという魔法はこの世界にも同じ名前で存在しているみたいだ。


「よし、上手くいった」


 ノワールは上手くモンスターを召喚できたのを見て嬉しそうに小さく笑う。今までノワールが召喚魔法を使わなかった理由、それはダークが使わせなかったからだ。

 この世界では召喚魔法を習得できる職業クラスは少なく、強力な魔法が使えるノワールが更に召喚魔法まで使えるなんてことが知られればノワールの強さや職業クラスを不審に思う者が出てくると思い、ダークが使うのを禁じていた。しかし今は東門を開ける為にノワールは単独行動をしているのでノワールの正体を知らない者達に見られる心配も無い。ノワールは堂々と召喚魔法が使えるのだ。

 亜人達は召喚された見た事の無いモンスターを見て驚愕の表情を浮かべる。マッドエント達は驚いている亜人達を見て目を赤く光らせた。


「皆さん、此処にいる亜人達を倒してください! ただし、抵抗しない人は殺さないでくださいね」


 ノワールが大きな声で指示を出すとマッドエント達は一斉に亜人達に襲い掛かった。鋭い枝の爪で切り裂いたり、口から大量の種を機関銃の様に吐き出してたりなどして亜人達を攻撃する。マッドエント達の攻撃は強力で亜人達は次々と倒れて行った。

 亜人達の中にはマッドエント達を恐れずに戦いを挑む亜人もおり、持っている剣や斧で攻撃を仕掛ける。だが、剣や斧の刃はマッドエントの木の体に少し埋まるだけで決定的なダメージを与える事はできなかった。実はマッドエント達は<太陽の加護>と言う太陽が出ている間、全てのステータスが強化される技術スキルを持っていたのだ。その為、マッドエント達は普通のエントよりも遥かに強くなっていた。

 攻撃が効かない事に亜人達は愕然とする。そんな亜人達をマッドエントは容赦なく反撃して倒す。たった八体のマッドエントに百人以上の亜人達が全く歯が立たなかった。

 亜人達がマッドエントと戦ている間にノワールは東門の方へ走り、門の近くにある門の開閉レバーを下した。レバーが下りると東門はゆっくりと動き出して少しずつ開いていく。門の向こう側には門を破ろうとしていたオークやスケルトンなどのモンスターが沢山おり、門が完全に開くとモンスター達は広場へ侵入する。


「お、おい、門が開いたぞ!」

「馬鹿な、一体どうなってやがるんだ! と言うか、あの広場にいる木のモンスター達は何なんだ!?」


 東門の見張り台の上にいた亜人達は門が開いた事と広場に中にマッドエントがいる事を知って驚き混乱する。城壁の上にいる亜人達も東門が開いた事で目を見開いて固まる。そんな亜人達に飛行モンスター達は容赦なく襲い掛かった。


「ク、クソォ、最悪だ! おい、誰かこの事をリードン殿達に伝えてこい! そして此処にいない部隊を増援として送るよう要請するんだ!」


 一人の亜人が近くにいる仲間に救援を知らせるよう伝え、それを聞いた亜人は慌てて城壁を下りて行く。残った亜人達はまず城壁の上にいるモンスターを何とかしようと戦いを続ける。そうしている間にもモンスター達は次々と町へと入り、亜人達は侵入して来たモンスター達を見て言葉を失うのだった。

 その頃、町の外にいたセルメティア王国軍とエルギス教国軍は東門が開いてモンスター達が町へ入るのを見て驚きと歓喜の声を上げる。ダーク達も開門が成功したのを見て一斉に武器を手にした。


「門が開いた。私達も町へ突入するぞ!」


 ダークがアリシア達の方を向いて声を掛けるとアリシア達もダークを見ながら真剣な顔で頷く。エルギス教国軍の騎士達も騎士剣を抜いて兵士達の方を向き声をかけていた。


「道は開かれた! これより我々はグーボルズの町へ突入し、敵の指揮官を捕らえて町を解放する……全軍、突撃ーっ!」

『おおーーっ!』


 騎士の言葉に兵士達は声を揃えて叫び、一斉にグーボルズの町へ向かって走り出す。ダーク達もそれに続いて町へ向かって走って行くのだった。


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