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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第一章~黒と白の騎士~
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第十話  凶獣ベヒーモス

 ダークと別れたアリシアは街道を歩き、貴族だけが住む住宅街へ入った。貴族たちの住宅街は平民や不審者が入ってこられないように川を挟んだ対岸にあり、橋が架けられてそこからは入れるようになっている。入口には警備の兵士が配置されており、住宅街に住む貴族や用のある者しか通さないように厳重にチェックされていた。

 住宅街の入口前に来たアリシアは見張りの兵士と簡単な話をして住宅街に入っていく。既に夕方になっており、空はオレンジ色に染まっていた。人気の少ない住宅街をアリシアは静かに歩いていく。

 アリシアの家であるファンリード家は代々セルメティア王国の騎士団に所属し、王国に仕えていた家で当主は皆、騎士、もしくは騎士団に関係する役職についていた。アリシアも家系に影響されたのか騎士団に入り聖騎士となったのだ。


「……フゥ、今日一日で色んなことが起きたなぁ」


 今日起きたことを振り返り、アリシアは疲れたような声で呟く。グランドドラゴンの襲来、ダークとの出会い、そのダークから与えられた常人離れした力と聖剣。驚きが連続で起きたせいかその驚きに反応することもできなくなっていた。

 そんなことを考えながら歩いていると、アリシアは一軒の屋敷の前にやってきた。二階建てで少し小さめだが、庭はそれなりに広く、庭の隅にはガゼボが建てられている。アリシアが庭の中を進むと中年の庭師の男がアリシアを見て頭を下げた。


「お嬢様、お帰りなさいませ」

「ああ、ただいま」


 簡単な挨拶をするアリシアは真っ直ぐ歩いていき、屋敷の前まで来ると軽くノックをする。すると扉が開いて中から一人のメイドが現れた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。長期の任務、お疲れ様でした」

「ありがとう。ところで、お母様は?」

「奥様でしたらお部屋の方に……」

「分かった」

 

 アリシアは屋敷の中へ入り、メイドはゆっくりと扉を閉める。屋敷に入るとエントランスがアリシアを迎え、何人ものメイドや執事がアリシアに向けて頭を下げた。騎士であるお嬢様が無事に帰ってきたことに安心したのか全員がホッとした表情を浮かべている。

 静かな廊下を進むアリシアは一つの部屋の前にやってくると足を止めて扉を軽くノックする。


「どうぞ」

「失礼します」


 部屋の中から声が聞こえ、アリシアはゆっくりと扉を開けて中に入る。部屋の奥には四十代半ばぐらいの女性が椅子に座って本を読んでいる姿があった。髪は肩まで伸びた長髪でアリシアと同じ金色の綺麗な髪をしている。

 彼女がアリシアの母親である女性、ミリナ・ファンリードだ。彼女の夫、つまりアリシアの父であるファンリード家の当主は二年前に病でこの世を去り、彼女が現在のファンリード家の当主ということになっている。だが、それも肩書のみで一人娘であるアリシアが次期当主になるまでの間のものだった。

 アリシアは母ミリナの前まで行くと額当てを外して頭を軽く下げた。


「お母様、ただいま戻りました」

「お帰りなさい、アリシア。無事に帰ってきてくれたのね」

「ハイ。それで、お体の調子はどうですか?」

「ええ、大丈夫よ。今日は調子がいいの」


 ミリナは微笑み、アリシアの手をそっと握って彼女の顔を見つめる。夫を亡くしたことでミリナは精神的ショックのせいか体を壊してしまい、外を出歩けないくらい弱ってしまった。夫に先立たれたミリナにとって娘であるアリシアと一緒にいることが生き甲斐でもあるため、アリシアが任務から無事に戻ってきたことが何よりの喜びだったのだ。

 アリシアにとってもそんな母のそばについて彼女の笑顔を見ることが嬉しかった。ミリナを安心して暮らしていけるように聖騎士として、そしてファンリーダ家の次期当主としてアリシアは常に努力してきたのだ。

 ミリナが笑顔でアリシアを見つめていると、アリシアは深刻な表情を浮かべて俯く。そんなアリシアに気付いたミリナは不思議そうな顔で彼女を見つめる。


「あら? どうしたの、アリシア」

「……お母様、実は大事なお話が……」


 アリシアはグランドドラゴンと遭遇し、部隊を全滅状態にしてしまったことで責任を取らされ、罰を受けたことを話そうとする。すると、入口の扉がノックされ、アリシアとミリナは扉の方を向く。そこにはさっき玄関でアリシアを迎えたメイドが立っていた。


「奥様、お嬢様、御夕食の準備が整いました。御支度をお願いします」

「……分かったわ。アリシア、その話は夕食の時に、ね?」

「……ハイ」


 一度話を句切り、夕食の準備をするためにアリシアは部屋を後にする。ミリナもメイドの手を借りて食堂へ移動した。

 数分後、アリシアとミリナは食堂にやってきた。アリシアは聖騎士の鎧姿から貴族の女性が着る高貴な服に着替えて食堂のダイニングテーブルに着き、ミリナはアリシアの隣の席に座っている。メイドたちが料理をアリシアとミリナの前に並べていき、二人の後ろでは大勢の執事たちが控えていた。

 料理を並べ終えるとアリシアとミリナは静かに料理を食べていく。最初は二人とも黙って料理を口にしていたが、しばらくするとミリナがアリシアの方を向いて喋り出す。


「それでアリシア、大事なお話があるって言ってたけど、どんな話なの?」

「!」


 ミリナの言葉にアリシアは手を止める。そして再び深刻そうな顔を浮かべ、手に持っているナイフとフォークを置いてミリナの方を向く。


「実は、今日任務から戻る時に事件が起こりまして……」

「事件?」


 アリシアは今日の出来事をミリナに正直に話した。グランドドラゴンに襲われたことや部下を死なせてしまったことなど全て伝える。ミリナはアリシアの話を黙って聞き、食堂にいるメイドや執事たちも何も言わずに二人の会話を聞いていた。

 全ての話が終わるとアリシアは目と閉じ、俯いて黙り込む。ミリナもアリシアのようにナイフとフォークを置いて、両手を膝の上に置き黙っている。だがそれも数秒のことだった。ミリナがアリシアの方を見て静かに口を開いた。


「……大変だったわね」

「ハイ……」

「でも、それは貴女の責任ではないわ。誰にもどうすることのできない状況だったんだもの、自分を責めてはいけないわ」

「ええ、分かっています。彼にも言われましたから」

「彼? ……ああぁ、さっき言っていたダークさんという黒騎士ね?」

「ハイ、彼がいなかったら私もきっと此処にはいなかったでしょう……」

「そうね。そのダークさんには本当に感謝しないといけないわ。彼がいなければ私は貴女まで失うことになっていたんだもの」


 ミリナが目を閉じて小さく笑いながらダークに感謝した。ダークがグランドドラゴンを撃退してくれなければアリシアは死に、ミリナは本当に孤独になっていただろう。たった一人の家族を救ってくれたダークにミリナは心から感謝した。


「それで、そのダークさんは今どちらに?」

「今日からこの町で暮らすことになり、今は宿屋に泊まっています。明日から冒険者として活動するそうなので私は今日からしばらく彼の面倒を見ることになりました」

「そう……あっ、それならこの屋敷で過ごしてもらうのはどうかしら? アリシアを助けてくれたんですもの、お礼としてそれぐらいはしないと」

「えっ!? あ、いや、彼は宿屋に泊まる方が好きだと言ってたので……」


 アリシアはミリナの提案を聞くと慌てるような態度を見せる。そんなアリシアを見てミリナや周りのメイド、執事達は不思議そうな表情を浮かべていた。


「あらそう? 残念ねぇ……」


 ダークを屋敷に泊められないことで少し残念そうな顔をするミリナ。アリシアはミリナに見られないようにホッとしていた。

 屋敷にダークを住ませて、もし騎士団や周りにいる貴族たちに見られて変な誤解をされたらいろいろと面倒なことになってしまう。そう考えたアリシアは適当なことを言って誤魔化したのだ。


「彼が屋敷よりも宿屋の方が好きだと言うのなら、仕方がないわね」

「ハ、ハイ……」

「それで、アリシアは明日どうするの?」

「しばらくは騎士団の仕事には就けませんのでダークに町を案内するつもりです」

「そう、じゃあしばらくは危険な任務に就くことは無いのね?」

「ええ、一応は……」


 アリシアが危険な任務に就かないことを聞いたミリナは安心したのか笑みを浮かべる。彼女は本心では一人娘のアリシアの身を案じて彼女が騎士として働くことに少し不満を持っているのだ。だが、彼女が自分で騎士になると決めた以上、無理に止めるようなことはしなかった。


「それじゃあ、明日ダークさんにお会いしたら、私が会いたがっていると伝えておいて?」

「あ、ハイ」


 母の頼みにアリシアは小さく笑いながら頷く。それから二人は食事に戻り、静かな夜を過ごした。

 アリシアはグランドドラゴンやダークのことは話したが、自分のレベルが70まで上がったことは言わなかった。母を危険な目に遭わせたくないという気持ちと、面倒を起こしたくないという気持ちから黙っていたのだ。何より、ダークから誰にも話すなと忠告をされていた。


――――――


 翌日の朝、ダークは冒険者ギルドの施設の前に腕を組んで立っていた。昨日、宿屋でアリシアと朝になったら施設前で待ち合わせすると決めており、ずっとアリシアを待っているのだ。

 入口の隣で立っているダークを他の冒険者たちはジロジロと見ながら施設内へ入っていく。黒騎士が冒険者ギルドの前に立っていることを場違いに感じているのか、冒険者たちの中には不快そうな表情をしている者もいる。ダークは冒険者たちの視線を気にすることなくアリシアを待っていた。


「遅いな、アリシア……」

「ハイ、もうそろそろ来る頃だと思うんですが……」


 ダークとノワールがアリシアを待ちながら話をしていると、遠くからアリシアが走ってくる姿が見えた。アリシアは昨日と同じ聖騎士の姿をしており、腰には騎士団で支給されている騎士剣が納められている。

 アリシアはダークの前まで来る少し息を切らせながら挨拶をする。ダークはアリシアがの姿を見てエクスキャリバーを所持していないことに気付くとチラッとアリシアの方を向いた。


「アリシア、エクスキャリバーはどうした?」

「ああ、あれは家に置いてきた。あの剣は高級感があって少し目立つ作りだからな。もし盗賊か何かに奪われたりしたら大変だ。何よりもあんな強力な剣を持ち歩く勇気は今の私には無い……」

「フッ、意外に小心者なのだな?」

「な、何ぃ!?」

「ハハハ、冗談だ。あれだけ強力な武器を持っていればビビッてしまうのも無理はない」

「むぅ……ダーク、貴方は少し性格が悪いのでは?」

「少しではない。かなり悪いぞ?」

「自分で言うのか!?」


 ダークの口から出た言葉にアリシアは目を丸くしながら声を上げる。周りにいる冒険者たちは突然声を上げたアリシアを一斉に見つめた。アリシアは周りの視線に気づくと慌てて口を塞いで黙り込む。そんなアリシアを見てダークの肩に乗っているノワールは苦笑いを浮かべた。

 落ち着いたアリシアは一度小さく咳き込み気持ちを切り替えてダークの顔を見つめた。


「さて、じゃあ早速、依頼を受けるわけだが、貴方は冒険者ギルドに来る依頼がどんなものか分かるか?」

「いや……」

「冒険者に出される依頼の殆どはモンスター討伐や依頼人が求めている薬草や鉱石などの素材の採取といったものだ。中には護衛の依頼なども入ってくるが、それは二つ星以上の冒険者に出される依頼で一つ星にはモンスター討伐や素材採取などが多い」

「……それは新人の冒険者では護衛として頼りにならないからか?」

「それもある。他には護衛の対象を守りながら目的地へ向かうという難しい仕事を新人冒険者にやらせるのは危ないという冒険者ギルドの考えだ。下手をすれば依頼人だけでなく、冒険者までもが命を落としかねないからな」

「なるほど、依頼人のことだけでなく、冒険者たちのことも考えているギルドの優しさのようなものか」

「そんなところだ。あと、秘境や遺跡の調査なども任されることがあるが、そういった仕事は騎士団がやるため、冒険者たちには殆ど回されない。ただ、場所によっては騎士団が冒険者たちに依頼して共に調査をすることもある」

「なぜわざわざ冒険者に依頼をする必要があるんだ? 騎士団には優秀な騎士や兵士が大勢いるはずだろう」

「確かに、だけど騎士団には一部の部隊を除いて魔法使い系の職業を持つ者が一人もいない。だからもし、魔法使いの力を必要になる場合は冒険者たちに依頼をするんだ。あと、人手不足の場合もギルドに依頼することがある」

「……まるで騎士団にとって便利屋だな、冒険者というのは」

「まぁ、否定はしない……」


 騎士団と冒険者ギルドの複雑な関係にアリシアも複雑そうな表情を浮かべた。


「……しかし、冒険者ギルドも騎士団や貴族のおかげでこうして活動することができるわけだから、文句は言えないだろう。仕事を回してくれる騎士団に感謝して働くと考えればまだ気持ちが楽になる」

「そう言ってくれると助かる。だが、他の冒険者たちも同じように考えているとは限らない。私たち騎士団を良く思わない者たちの前ではそういうことは言わない方がいいぞ?」

「ああ、肝に銘じておく」


 アリシアの忠告を聞いてダークは返事をする。確かに冒険者の中には騎士たちを毛嫌いする者も少なくない。そんな連中の前で同じ冒険者が騎士団の味方をすれば彼らの反感を買う可能性だってある。そうなれば冒険者としての活動にも支障が出るかもしれない。だが、それはダークにとっては殆ど関係ない話と言えた。

 ダークたちが依頼を受けるために施設へ入ろうとする。するとそこへ一人の騎士が施設に向かって走ってくる姿が見え、アリシアは足を止めた。アリシアが立ち止まったのを見たダークも彼女が向いている方を向き、騎士に気付く。

 騎士は施設の入口前で立ち止まり、両手を膝に付けて息を切らす。それだけもの凄い勢いで走って来たということだ。アリシアは何かあったと感じて騎士の下に駆け寄った。

 

「おい、大丈夫か?」

「ハァ、ハァ……あ、貴女は……」

「私は第三中隊所属、第六小隊長のアリシア・ファンリーダだ」

「おおぉ、貴女があのファンリーダ殿ですか……急ぎ、正門へ向かってください」

「正門に? 何かあったのか?」

「ハ、ハイ。実は町の外で三匹のベヒーモスが暴れており、正門を破ろうとしているのです」

「何っ! ベヒーモスだと!?」


 騎士が口にした名前を聞き、アリシアは思わず声を上げた。それを聞いた周りの冒険者や町の住民たちは一斉にアリシアの方を向き、やがてざわざわと騒ぎ出す。

 ダークは周りで騒ぎ出す冒険者や町の住民たちの様子を確認した後、再びアリシアと騎士の方を向く。


(ベヒーモス、この世界にも存在するのか……獣の中の獣と言われた強力モンスターでLMFでもかなり厄介なモンスターの一種だったな。だが、ベヒーモスと言えば人里には現れず、難易度の高いダンジョンにしか出現しないモンスターのはずだ。なぜこんな所に? いや、それはLMFでの設定だ。この世界のベヒーモスは人里の近くにも出現するのかもしれない……)


 ダークが頭の中でベヒーモスの出現場所について考えていると、アリシアは騎士を落ち着かせて詳しい話を聞いていた。


「どういうことだ? ベヒーモスはこの辺りでは数km離れた山脈の奥にしか出現しないはず。どうしてこんな所に現れるんだ!?」

(……あ、こっちでもベヒーモスは人里近くには出ないモンスターなんだな……)


 アリシアの話を聞いてダークはLMFと同じ設定に抜けたような口調で心の中で呟く。

 騎士は目の前に立つアリシアを見て何が起きたのか説明し始める。


「実は、数日前にある依頼を受けて別の町へ向かっていた冒険者のパーティが早朝にアルメニスに戻る途中に通った岩山でベヒーモスの巣を見つけ、運悪くベヒーモスと遭遇し、此処まで追いかけられてきたそうです」

「どうしてこんな所までベヒーモスが追ってくる!?」

「分かりません。ただ、ベヒーモスは縄張り意識が強く、一度狙った獲物は決して逃がさないと言われています。恐らく、その冒険者のパーティを狙って此処まで追いかけてきたのでしょう……因みにベヒーモスたちが巣を作っていた岩山は此処から7kmほど離れた所にある岩山です」

「7kmか、それぐらいならベヒーモスの体力でも追ってこられるな……それで、逃げてきた冒険者たちはどうなったんだ?」

「幸い、彼らは馬に乗って移動していたため、ベヒーモスたちから逃げ切ることができ、ベヒーモスたちに襲われる前に町の中へ逃げ込みましたので生きております。ただ、それでも数人は重傷を負っていると……」

「そうか……」


 冒険者たちの状態を聞き、とりあえず生きていることに安心するアリシア。冒険者たちの中には騎士団を嫌っている者もいるとさっきダークと話していたばかりなのに冒険者たちの身を心配するアリシアにダークは感服する。


「現在、正門前の警備に就いている兵士たちと数名の騎士がベヒーモスの討伐に当たっております。たまたま正門近くにいた数人の冒険者も討伐に参加して戦力がそれなりに揃ってはいるのですが、若干不安で……ファンリーダ殿もどうかお力をお貸しください!」

「……分かった。すぐに向かおう」


 しばらく考え込んだアリシアは頷いて救援へ向かうことを告げる。それを聞いた騎士は安心したのか笑みを受かべた。

 周りの冒険者たちはベヒーモスのいる所へ向かうと言うアリシアを見て驚きの表情を浮かべる。凶暴なモンスターのいる所に自分から向かうなんて無謀としか思えなかったのだ。


「では、急ぎ正門へお願いします。私は冒険者ギルドにこの件を伝えますので」


 そう言って騎士は急ぎ冒険者ギルドの施設へ入っていき、冒険者たちの数名も施設へと入っていった。

 残ったアリシアはダークの方を向いて真剣な顔で彼を見つめる。


「ダーク、聞いての通り、私はこれから正門へ行きベヒーモスの討伐へ向かう。すまないが、依頼の受け方の説明と町の案内は明日以降ということで構わないか?」

「ああ、別に急いでいるわけではないしな」

「助かる……それと、勝手に話を進めておいてこんなことを言うのは虫のいいことだが……できれば、一緒に正門へ行き、共にベヒーモスと戦ってはくれないか?」


 アリシアはダークにベヒーモス討伐の手助けを頼む。勝手に話を進めた挙句、危険なモンスターとの戦闘を要請することを心苦しく思いながらアリシアはダークの目を見つめる。

 ダークは真剣に頼んでくるアリシアを見ながらしばらく考える。すると、アリシアの頭の上のポンと手を置いた。


「……いいだろう。ここでベヒーモスを倒せば私の名も少しは町に広まるだろうしな。それにこの世界のベヒーモスにも少々興味がある」

「ありがとう」


 協力してくれるダークにアリシアは笑顔で礼を言う。ダークの肩に乗っているノワールもダークとアリシアを見て微笑んでいる。

 話がまとまると二人は急いで正門の方へ走り出す。住民たちの間を潜りながら二人は街道を走って正門へ向かった。急がなければ討伐に当たっている騎士や冒険者たちが犠牲になってしまう。二人はひたすら全力で走った。


――――――


 正門前では文字通りの激戦が繰り広げられていた。正門前では二十人近くの兵士と騎士、冒険者が武器を手にし、ボロボロになりながら息を切らせている。そんな彼らの前には三匹の巨大な獣のようなモンスター、ベヒーモスが唸り声を上げながら睨みつけていた。薄紫の肌に体長250cmから300cmはある巨体に長い尻尾を持ち、背中から尻尾に沿って生えている黄色い毛に頭には長い角が二本生えている。そして四本の足から鋭い爪が伸び、ベヒーモスの荒々しさを物語っていた。

 ベヒーモスの周りには数人の兵士や冒険者が倒れており、その殆どが重傷を負っていた。兵士たちは凶暴なモンスターを前に怖気づいたのか震えながら後退する者もおり、中には座り込んで動けなくなっている者もいた。一方で騎士たちは傷だらけになりながらもベヒーモスを睨んで騎士剣や槍などを構えている。離れた所では冒険者たちも短剣や棍棒を持って目の前のいるベヒーモスを見つめていた。


「おい、救援はまだ来ないのか!?」

「さっき行かせたばかりだ、まだ時間が掛かる!」

「このままじゃ全滅するぞ!」


 二人の騎士はベヒーモスを警戒しながら救援の到着を待つ。だが、先程その救援を呼びに行った者はダークとアリシアに会って冒険者ギルドに依頼を出したばかりなため、彼らが期待している騎士団の救援が来るにはまだ時間が掛かる状態だった。騎士たちの士気はベヒーモスと周りで倒れている仲間の兵士たちの姿を目にすることで徐々に削られていく。そんな騎士たちにベヒーモスは容赦なく襲い掛かった。

 ベヒーモスは大きな声で鳴き声を上げると騎士たちに向かって突進する。騎士たちは突っ込んでくるベヒーモスを見ると、咄嗟に左右に跳んで突進を回避する。だが、そこへ大きく揺れるベヒーモスの長い尻尾が襲い掛かり、回避した騎士たちを薙ぎ払った。

 尻尾で殴られた騎士たちは数m飛ばされて地面に叩き付けられる。一人は腕が折れたのか左腕を押さえながら痛みに悶え、もう一人は仰向けになったままで動かなかった。どうやら今の一撃で命を落としたようだ。

 騎士二人が一瞬でやられた光景を見た兵士たちは恐ろしさのあまり町へ逃げ込もうと正門の方へ走り出す。だが、そんな兵士たちの姿を見た別のベヒーモスが兵士たちに向かって走り出し、強烈な体当たりで兵士たちを弾き飛ばしていく。その光景はまるで闘牛が次々に人間をはねていくようだった。


「ち、ちくしょう……騎士団の連中でも歯が立たねぇのかよ……」


 遠くで騎士と兵士たちの戦いを見ていた冒険者たちが恐怖のあまり固まってしまう。全部で四人いる冒険者は全員が二つ星の腕輪を付けており、剣士や棍棒使い、魔法使いなど色々な職業の冒険者がいる。だが、いくら冒険者が四人いてもその全員が二つ星ではベヒーモスに勝てるはずがない。更に騎士でも一方的に押される戦況と力の差に全員が戦意を失っていた。


「ど、どうすりゃいいん……」

「お、お前が言ったんだぞ!? ベヒーモスを倒せば一気にランクが上がるから戦おうぜって! なんとかしろよ!」

「そ、そうよ、貴方の責任なのよ!」

「な、なんだと! お前らだってランク上げしたいから一緒に戦わせろって言ってきたじゃねぇか!」


 剣士の冒険者と魔法使いの姿をした女冒険者が棍棒使いの冒険者になんとかするよう責める。棍棒使いは文句を言う二人に少し動揺しているような態度で言い返す。そんな言い争いをしている冒険者たちにベヒーモスは容赦なく襲い掛かった。

 棍棒使いの体を鋭い角で串刺しにし、前足の鋭い爪で剣士を切り裂く。二人の仲間が殺されたのを見た女魔法使いは持っていた木製の杖を落とし、涙目でその場に座り込んでしまう。ベヒーモスは頭を横に振って棍棒使いの体を放り投げると女魔法使いに近づき、大きな口を開けて肩に嚙みついた。女魔法使いは肩から伝わる激痛と大量の出血に悲鳴を上げ、なんとか逃れようとするがベヒーモスの顎の力は強く、抵抗も空しく息絶えてしまう。

 三人の仲間が惨殺された攻撃を見て固まるもう一人の冒険者、それは昨日ダークとアリシアが接触した女盗賊のレジーナだった。どうやら彼女もランクアップを目的としてベヒーモスの討伐に乗り出したようだ。


「み、皆……」


 レジーナはガタガタと震えながら後ろに下がり、ベヒーモスから距離を取ろうとする。だが、ベヒーモスは噛みついていた女魔法使いの死体を捨て、レジーナの方を向いて睨み付けた。レジーナはベヒーモスに目を付けられてしまったことで「もうお終いだ」と感じたのか持っている短剣を落としてその場に座り込んだ。

 ベヒーモスは逃げようとしないレジーナに襲い掛かろうとゆっくりと彼女の方へ歩き出す。レジーナは恐怖のあまり涙を流しながら、近づいてくるベヒーモスを見つめる。だがその時、空から何者かが下りてきてレジーナとベヒーモスの間に着地する。その衝撃で砂煙が巻き起こり、レジーナは思わず下りてきた人影を見つめた。それはなんとアリシアを抱きかかえたダークだったのだ。

 突然現れたダークとアリシアを見て更に驚くレジーナ。ダークはアリシアを下ろすと鎧に付いている砂埃を払い、周囲を見回した。


「……酷いなこれは。まさに地獄絵図だ」

「ああ、もっと早く来られていれば……」


 来るのが遅かったことにアリシアは歯を噛みしめ、ダークは黙って近くで倒れている冒険者や遠くで倒れている兵士や騎士を見ていた。

 ダークとアリシアは数十秒前に城壁の前に到着し、ベヒーモスを討伐するために正門を守っている兵士に外へ出すように言った。だが、兵士は開門を認めず、仕方なくダークはアリシアを連れて城壁の一番上に上がり、そこからアリシアを抱えて一緒に飛び下りたのだ。勿論、高い城壁の上から普通に飛び下りれば着地した時になんらかのダメージを受ける可能性があった。だからダークはハイ・レンジャーの能力である脚力強化で脚力を強化し、着地の時のダメージをゼロにしたのだ。

 ダークや近くに転がっている冒険者の死体とベヒーモスを確認して赤目を光らせる。目の前に倒すべきモンスターがいるため、都合がいいと思ったのだろう。


「ほう? コイツがこの世界のベヒーモスか。外見は少し向こうの世界とは違うな……」

「これはアースベヒーモスだな。ベヒーモスの中では体は小さい方だがとても凶暴な奴だ」

「なるほど……それじゃあ、まずはどれほどのモンスターが小手調べでもするか……」


 ダークが背負っている大剣を抜こうと柄を握る。すると、座り込んでいるレジーナに気付いたダークはチラッと彼女の方を向く。


「お前は昨日の……」

「ア、アンタたち……」


 座り込んでいるレジーナを見てダークは大剣の柄から手を放す。アリシアも座り込んでいるレジーナの下に駆け寄り彼女の状態をチェックした。


「レジーナと言ったな、なんでこんな所にいる?」

「ア、アンタたちこそ、どうして……」

「決まっているだろう。私たちはこのベヒーモスたちを倒しに来たのだ」

「は、はあ!? む、無理だよ! コイツらは騎士団ですら敵わない化け物なのよ!? あたしやアンタみたいな新人冒険者じゃ勝てるはずないわ!」

「……なるほど、名声欲しさにベヒーモスの討伐をしたということか……馬鹿馬鹿しい考えを……」


 レジーナの動機を知ったダークは呆れるような声を出す。アリシアとノワールも同じような顔でレジーナを見ていた。すると、ベヒーモスはレジーナの方を向いているダークに向かってものすごい勢いで突進する。


「……! ダーク、危ない!」


 ベヒーモスにいち早く気付いたアリシアがダークに呼びかける。だが、ダークはレジーナとアリシアの方を向いたままでベヒーモスの方を向こうとしない。

 大きな足音を立てながら走ってくるベヒーモスの鋭い角がダークを狙う。そしてその角がダークに迫り体を貫こうとする。だが、角はダークの体の数cm手前で止まり動かなかった。なんと、ダークは左手でベヒーモスの額を押さえて動きを止めていたのだ。

 片手でベヒーモスの突進を止めてしまったダークを見てレジーナは愕然とした。アリシアも改めでダークの力を見て彼が強いということを再認識する。


「……人が話している時に攻撃してくるとは、失礼な獣だ」


 ダークは不機嫌そうな声を出すと空いている右手で握り拳を作り、ベヒーモスの顔側面を殴った。ベヒーモスの大きな体が浮き上がり、2、3mほど飛ばされて地面に叩き付けられる。

 巨大なベヒーモスを殴り飛ばした光景にレジーナは目を丸くしている。ダークは倒れているベヒーモスに近づき、大剣を抜くとベヒーモスの首を切り落として止めを刺した。その光景にレジーナは更なる衝撃を受ける。ベヒーモスの首を軽々と切断するなど普通ではできないことだからだ。

 大剣に付いているベヒーモスの血を払い落としたダークは遠くで兵士たちを襲っている残りの二匹のベヒーモスを見る。そして視線をベヒーモスから外さずに左手をポーチに入れ、賢者の瞳を取り出すとベヒーモスの情報をチェックした。


「……アリシア、これ以上被害を出さないためにちゃっちゃと残りの二匹を倒す必要がある。俺と君で一匹ずつ倒すことになるが、大丈夫か?」

「え、私一人でベヒーモスを?」

「ああ、もし不安ならノワールを一緒に戦わせるぞ?」


 これ以上犠牲者を出させないために二人で残りの二匹を同時に倒すというダークの作戦を聞いたアリシアはベヒーモスを見て考える。

 以前の自分なら不可能だが、今はレベルが70にまで上がっている。もしかすると勝てるかもしれない、そう考えたアリシアは腰の騎士剣をゆっくりと抜いて構えた。


「……分かった、やろう。手前の奴が私が倒す。貴方は奥の奴を倒してくれ」

「分かった」


 ダークは大剣を両手で握り、中段構えを取る。アリシアも騎士剣を構えたままダークの隣までやってくる。アリシアは緊張しているのは少し汗を掻いて深呼吸をした。

 

「そんなに緊張するな。あの二匹は手前のがレベル42、奥にいる奴が44だ。70の君なら余裕で倒せる。何も気にせずに普通に戦え」

「ああ」


 アリシアの緊張を解き、ダークは大剣を構え直す。アリシアのダークの言葉に少し緊張が解けたのか落ち着いて騎士剣を構えた。ノワールはレジーナの隣を飛び、ベヒーモスと戦う二人を見守る。

 ノワールとレジーナ、そして生き残っている兵士たちに見守られている中、ダークとアリシアは動き出した。ダークは大剣を両手でしっかりと握りながら走り出し、手前にいるベヒーモスの真横を通過して奥にいるベヒーモスに向かっていく。アリシアも自分が相手をする手前のベヒーモスに向かって走り出す。ベヒーモスたちは走ってくる二人を見ると鋭い目で睨み付け、それぞれダークとアリシアに向かって突進する。

 ダークはもの凄い勢いで突っ込んでくるベヒーモスをジッと見つめ、目の前まで近づいてくるとすれ違いざまに大剣を勢いよく横に振る。大剣はベヒーモスの体を切り裂き、切られた箇所から大量の血が噴き出てベヒーモスはゆっくりと倒れた。たった一度の斬撃でベヒーモスを沈めたダークを見て兵士たちは愕然とした表情を浮かべる。そして、アリシアの方でも驚きの戦闘が繰り広げられていた。

 アリシアはベヒーモスの突進を回避しながらすれ違いざまに騎士剣でベヒーモスの体に袈裟切りを放ち攻撃する。すでに何度も同じ行為を繰り返し、ベヒーモスの体は傷だらけになっており、傷口からかなりの出血をしていた。一方でアリシアはまだ一撃も攻撃を受けておらず、無傷の状態だった。戦い見ていたレジーナはその光景を見て呆然としていたが、一番驚いていたのはアリシア本人だった。


「……凄い、ベヒーモスの突進を簡単に避けられる。奴の動きがとてもゆっくりに見えるし、あれだけ大きく動いたのに全く疲れを感じない。これが、レベル70になった私なのか……」


 明らかに以前の自分とは違う身体能力と感覚に驚くアリシア。以前の自分ならベヒーモスの突進をかわすのは難しく、攻撃してもベヒーモスの硬い皮膚に傷を付けることはできなかっただろう。だが、今の自分にはそれが簡単にできる。アリシアは驚くと同時に強くなった自分に喜びを感じていた。

 ベヒーモスは自分を傷だらけにしたアリシアを睨みつけて唸り声を出し再び走り出す。だが今度は突進ではなく、四本の足に力を入れて勢いよく跳び上がり、アリシアを頭上から押しつぶそうとした。アリシアは自分に向かって落ちてくるベヒーモスを見上げて大きく後ろに跳んで攻撃を回避する。するとアリシアは騎士剣を両手でしっかりと握りながら切っ先をベヒーモスに向けた。すると刀身が白く光り出し、何かの力を纏ったように状態になる。

 アリシアは刀身が光るのを確認すると離れた所にいるベヒーモスに向かって騎士剣を振り下ろした。


聖光飛翔槍せいこうひしょうそう!」


 騎士剣の剣身から白い光の刃が放たれ、その刃は槍のようにベヒーモスの体に命中する。

 <聖光飛翔槍>はアリシアが使う神聖剣技の一つ。光の宿った剣身を振ることでその光を剣の刃のような形にして敵に放つ技だ。剣の刃の形をしてはいるが攻撃の際は槍のように敵の体に突き刺さり、ダメージを与える神聖剣技の中では最も威力の弱い技である。

 刃は命中すると光の粒子となって消滅し、ベヒーモスの光の刃を受けた箇所には火傷のような跡が残っていた。攻撃を受けたベヒーモスは糸の切れた人形のように倒れ、二度と動くことは無かった。

 ベヒーモスが死んだのを確認したアリシアはダークの方を向いて手を振り、終わったことを伝える。ダークもアリシアを見て頷き、二人は全てのベヒーモスを討伐した。

 生き残った兵士たちや城壁の上から戦いを見ていた兵士たちはダークとアリシアの力に言葉を失い固まっている。そしてようやく騎士団と冒険者ギルドからの救援が駆けつけて現場に来た時にはすでに戦いは終わり、ダークとアリシアが生き残った兵士たちにポーションを与えている姿があり、救援に来た者たちは何が起きたのか理解できないでいた。その後、二人の戦いを見ていた兵士たちから事情を聞き、彼らも驚きながらダークとアリシアを見る。


――――――


 町に近づいてきたベヒーモス達が倒され、とりあえず町に平穏が戻る。だが、街中にはダークとアリシアがベヒーモスを倒したことがすぐに広まり騒がしくなっていた。冒険者ギルドや騎士団の中でもそのことが話題となり、冒険者や騎士たちはベヒーモスを倒した二人の騎士の強さについて語っている。

 冒険者ギルドの施設にはベヒーモスを討伐したことを報告するダークと付き添いのアリシアの姿があった。ダークはベヒーモスと倒した功績から一つ星から三つ星へランクアップし、倒したベヒーモスの牙や角、皮などの素材を全て手に入れた。周りの冒険者たちは噂の黒騎士と聖騎士を驚きながら見つめている。

 ダークはリコから宝玉が三つ付いた腕輪を渡され、それを自分の腕に付けると手首を回して宝玉を見つめる。


「……ベヒーモスを二匹倒して三つ星か、てっきり一つしか上がらないと思ったのだがな」

「い、いえ、ベヒーモスは三つ星以上の冒険者の方しか倒せないモンスターです。それをお一人で二匹も倒されたのですから、二つランクアップするのは当然のことです」

「ん? そうか……」


 少し動揺したような態度で話すリコを見てダークはとりあえず納得する。昨日に続き、今日も驚かせてくれたダークにリコは緊張しながら対応する。もはやリコにとってダークは驚きを生み出す存在でしかないようだ。

 リコから腕輪を受け取ったダークはベヒーモスの素材の入った袋を持って入口近くにいるアリシアのところに行く。アリシアに宝玉を二つ付けられた腕輪を見せ、アリシアもそれを見て小さく笑いながら頷く。


「無事にランクアップできた」

「そうか、しかし昨日登録したばかりなのにたった一日で三つ星になるとはな」

「フッ、これでまた注目を集めることになってしまったか」


 ダークは腕輪を見ながら小さく笑った。ダークにとってはあまり今回のような大きな事件でいきなり注目を集めるようなことはせず、少しずつ名前を広げて有名になろうと思っていたのだ。一度の名を広げてしまうと周りから何か秘密があるのではないかと思われてしまう可能性があるからだ。

 アリシアは自分たちに注目している周りの冒険者たちを見ると小声でダークに話しかける。


「これからはできるだけ目立たないように活動した方がいいかもしれないな」

「ああ、今回の一件は、まぁ運よくベヒーモスを倒せたという形で収まるだろうが、また似たような騒ぎが起きて目立った動きをすれば私たちは注目を集め、下手をすれば何人か敵を作ることにもなりかねない」

「……強い力を持つ者が背負う宿命、私も少しだけ分かった気がするよ……」


 強い力を持つことがどういう結果を生み、それがどういう事態に繋がるか、それが少しだけ分かったアリシアは無暗に力を使うのはやめようと自分に言い聞かせた。


「さて、今日は朝からとんでもない騒ぎになったが、この後はどうする?」


 暗い内容の話になったことでダークは気分を変えようと別の話題を出す。アリシアはダークの言葉に気持ちを切り替えてどうするか考えた。


「……私は今回の一件を騎士団本部に知らせないといけない。すまないが、町の案内と依頼の受け方の説明は明日以降で構わないか?」

「ああ、別にそれでもいい。私もやることができたからな」

「そうか。なら、今日はこれで失礼させてもらう」


 アリシアは施設から出ようと扉のノブを握る。するとダークがアリシアに突然声をかけた。


「アリシア」

「ん?」

「分かっているとは思うが、くれぐれも今の君のレベルのことを騎士団の連中に話したり、悟られるようなことはするな? 下手をすれば騎士団内部でも面倒事が起きるかもしれないからな」

「……ああ、分かっている」


 ダークの忠告を聞いたアリシアは真面目な顔で返事をし施設を後にした。残ったダークとノワールも素材の入った袋を持って施設から出ていく。この世界に来てから僅か三日でダークはいきなりアルメニスで注目を集める存在となったのだった。


第一章終了です。次回の第二章はしばらくしてから投稿します。

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