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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第十章~怨恨の亜人~
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第百七話  亜人の反乱


 ゼゼルドの町に着いた日の翌日の朝、ダーク達はマクルダムと共に会談が行われる場所へ向かう為に馬車に乗って町の中を移動していた。街道を進む二台の馬車をゼゼルドの町の住民達は見つめている。二台の馬車の内、前を走る馬車にはマクルダムと貴族、ヘルフォーツと近衛隊の騎士が乗っている。その後ろに続くもう一台にはダーク達が乗っており、全員が黙って馬車に揺られていた。

 町の住民達は馬車に乗っているのがセルメティア王国の国王である事を知っており、いろんな表情で馬車を見ていた。驚きや笑顔、中には敵だった国に国王が乗っている事から不満そうな顔をしている住民もいる。しかし、ソラやエルギス教国の兵士達から騒ぎを起こさないように忠告されており、住民達は騒ぐ事無く馬車を見ていた。

 しばらく街道を進むと馬車は一軒の建物の前にやって来た。そこは普段ゼゼルドの町の町長などが集まる集会所である場所、そして今はセルメティア王国とエルギス教国が会談を行う場所となっている。

 馬車が停まると乗っていたダーク達はゆっくりと降りて目の前にある集会所の入口に注目する。入口の前には数人のエルギス教国の兵士が控えており、マクルダムやダーク達の姿を見ると姿勢を正してダーク達を迎えた。

 ダーク達が集会所を眺めていると一人の貴族らしき男が近づいて来て国王であるマクルダムに頭を下げて挨拶をする。


「お待ちしておりました。既に会談の準備は整っております。どうぞ、こちらへ」


 貴族はマクルダムやダーク達を集会所へ招き入れ、会談が行われる部屋へ案内する。ダーク達は黙って貴族の後をついて行き会談が行われる部屋へと向かった。

 長い廊下を通り、ダーク達は一つの部屋の前にやって来た。貴族が扉を開けると部屋の中には円卓が置かれ、その周りにいくつもの椅子が並べられてある。一番奥の席にはソラが座っており、その両隣の席にはソラと共に会談に参加する貴族とベイガードが座っていた。そして部屋の端にはソフィアナや数人のエルギス教国の騎士達が控えている。

 マクルダムは部屋の中を確認すると静かに部屋へ入り、ダーク達もその後に続く。マクルダムは一番近く、ソラが座っている席の向かいの席に座る。マクルダムの右隣に貴族が座り、左隣には近衛隊長のヘルフォーツが座った。そしてダーク達はソフィアナ達の様に部屋の端へ移動して待機する。


「……えー、それではただいまから我がエルギス教国とセルメティア王国の会談を開始いたします」


 全員が移動するのを確認したエルギス教国の貴族が会談の開始を宣言する。その直後にソラ達エルギス教国側は頭を下げてマクルダム達に挨拶をし、マクルダム達セルメティア王国側も挨拶を返す。遂にセルメティア王国とエルギス教国の会談が始まった。


「マクルダム陛下、そしてセルメティア王国の皆さん、改めましてこの度は我が国の申し出をお受けし、会談に参加してくださった事を心から感謝いたします」

「いいえ、お気になさらずに……それで、今回はどのようなお話を? 親書には我が国に救援を求めると書いてありましたが……」


 会談が始まり、マクルダムは早速会談の内容をソラに尋ねた。するとソラやベイガード、貴族は深刻そうな表情を見せ、それを見たマクルダム達と部屋の端で控えているダーク達が反応する。ソラ達の表情からかなり深刻な内容なのかとマクルダムやダーク達は感じた。

 エルギス教国側はしばらく黙り込んでおり、やがてソラはマクルダム達を見ながらゆっくりと口を開いた。


「……それをお話しする前に、皆さんに我が国の現状をお話しします」

「現状?」


 暗い口調で話を始めるソラを見てマクルダムは聞き返す。ソラはマクルダムの方を向き小さく頷いた。


「現在、我が教国は亜人達と内戦中なのです」

「何ですと?」


 教国内で亜人達と争いが起きていると聞いたマクルダムは目を見開いて驚く。隣に座る貴族とヘルフォーツ、そして控えているアリシア達も驚きの表情を浮かべる。ダークは兜で顔が隠れて表情は見えないが少しだけ驚いた反応を見せていた。


「どういう事です? どうして亜人達と争いを?」

「ハイ、それについても詳しくお話しします」


 マクルダムの問いにソラは静かに答え、なぜ亜人達と争っているのかマルクダムや控えているダーク達に説明し始める。全てはソラがエルギス教国の女王になった日から始まった。


 ソラは幼さからか長年エルギス教国の常識と言われていた亜人の奴隷制度に疑問を抱いており、女王になるとすぐに奴隷制度の廃止を宣言する。最初、エルギス教国の一部の貴族達は奴隷制度廃止に反対していた。だがソラは人間に亜人を束縛する資格はない、亜人と共存する新しい国として生まれ変わるべきだと反対する貴族達を説得する。貴族達の中にはソラの優しさや純粋さから彼女を慕う者もおり、その貴族達も奴隷制度廃止に賛成した。奴隷制度廃止の会談は三日続き、遂に反対派の貴族達は折れ、奴隷制度廃止が決定する。

 廃止が決定するとソラはすぐに国中に奴隷制度廃止を発表する。当然、国民達は驚き、ソラの決定を不服に思い騒ぎを起こす者達も出て来た。ソラは戸惑いや不満を見せる国民達に人間と亜人は対等の立場で生きるべきだと自分の思っている事や感じている事を全て話す。そんなソラの話に心が動いたのか国民達は少しずつ考え方を変えていき、エルギス教国の中から少しずつ亜人を差別したりする声が消えていった。

 一方で亜人達は奴隷制度が廃止され、もう人間に捕まり奴隷にされる心配も無いと知り、驚きと喜びを見せる。奴隷とされていた亜人達は全員解放され、それぞれの故郷へ戻って行った。

 ソラは亜人達に長年奴隷として傷つけて来た事を謝罪し、もう二度と亜人達を傷つけ、裏切らない事を誓う。亜人達の中には人間達に恨みを持ち、ソラの言葉を疑う者もいたが、ソラの言葉を信じてみようと考える亜人も少なからずいた。

 幼いソラの考えは単純で甘いと思われそうだが、エルギス教国に住む者全員が幸せになってほしいという気持ちはしっかりと国民達に伝わり、彼女の意志に賛同するようになっていく。亜人達もソラの亜人と共存したいという想いを知り、時間を掛けながら人間との関係を修復していこうと考えるようになったのだ。

 長く続いた人間と亜人の最悪な関係が消え、差別の無い国へと変わる、ソラはそう思っていた。ところが、奴隷制度廃止発表からしばらく経った後、とんでもない事件が起きてしまったのだ。

 亜人達の殆どはソラの考えに賛同し、人間を信じてみようと考えていた。だが中には長く続いた奴隷制度から人間を許す事ができず、共存に納得できない亜人も大勢いたのだ。そんな亜人達は人間達にこの国の政権などを全て自分達に譲り、亜人の支配下に入れと要求して来た。つまり亜人達は人間達に嘗ての自分達の様に奴隷となって亜人達に尽くせと言ってきたのだ。

 勿論、ソラや貴族達はそんな要求は飲まず、人間と亜人は同じ立場で生きていくと返答する。すると、人間達に憎悪を抱く亜人達はエルギス教国の西部にある商業都市ベーテリンクを襲撃し町を占拠したのだ。

 亜人達は自らをエルギス亜人連合軍と名乗り、町の住民達を人質にし、女王となったソラの廃位と国の全ての権限を放棄する事を要求する。町の住民を人質に取られてしまったソラは王位を捨てる事を考えたが貴族達はそれに反対し、亜人達の要求を断ってしまう。その結果、亜人達はベーテリンクに住む人間の半分を処刑し、エルギス教国の人間達に宣戦布告をした。

 ある意味で奴隷制度があった時以上に亜人との関係が悪くなってしまった事に亜人との共存を望むソラは大きくショックを受ける。人間との共存を選んだ亜人達も同じ亜人が人間に宣戦布告をしたのを知って衝撃を受けた。

 国中が混乱する中、ソラはどうするべきか悩む。亜人達と戦うか、彼等の要求を飲み政権を手放すか。もう二度と亜人達を傷つけないと誓った為、ソラは亜人達と戦う事に抵抗を感じている。しかし、戦わずに政権を手放せば今度は人間達は亜人達の奴隷となり、同じ過ちを繰り返す事になってしまう。何よりも国民を殺されてしまった以上は女王として何もしない訳にはいかない。ソラは女王として国民を守る為に亜人連合軍と戦う事を決意した。

 亜人連合軍と戦う為、エルギス教国軍や冒険者達は国の西部に向かう。その間、亜人連合軍はベーテリンクの周辺にある町や村を襲撃して人間達を捕らえては処刑したり、奴隷などにしていった。エルギス教国軍が西部に着くとすぐに制圧された町や村の解放する為に戦いが始まる。しかし、人間と亜人とでは力や魔力に大きな差があり、エルギス教国軍は亜人連合軍に苦戦を強いられた。しかもセルメティア王国との戦争で多くの兵力を失ったエルギス教国軍はまともに戦えず敗北を続ける結果になってしまったのだ。

 兵力が少ない状態で人間よりも優れた力を持つ亜人に勝つには亜人の力を借りるしかない、そう考えた貴族達は共存を望む亜人達に共に亜人連合軍と戦ってほしいと呼びかけをする。だが、同じ亜人と戦う事に抵抗を感じる亜人達は誰一人呼びかけに応じなかった。貴族達は強制的に参加させようと徴兵令を出そうとしたが、ソラは戦いを望まない亜人達を無理矢理戦場へ連れ出したくないとこれを却下。結局亜人達の力を借りる事ができず、エルギス教国軍は人間だけで戦う事になった。

 エルギス教国軍に連勝を続ける亜人連合軍は更に多くの町や村を襲撃した。襲撃した町や村には人間と共存する事を選んだ亜人もおり、亜人連合軍は彼等に自分達と共に人間と戦うよう要求する。だが共存を選んだ亜人は亜人連合軍の申し出を断った。

 すると亜人連合軍の亜人達は断った亜人を裏切り者、亜人の面汚しと言い放ち殺してしまったのだ。彼等にとっては自分達に従わない者は同じ亜人であろうと生かしておく価値の無い存在のようだ。

 亜人が亜人を殺したという情報はすぐに国中に広がり、共存を望む亜人達の中に亜人連合軍に怒りを抱く者が出て来た。すると今までエルギス教国軍の呼びかけに応じなかった亜人達の中から共に戦うと志願する亜人が現れ、エルギス教国軍に一時的に入隊する。これで亜人連合軍とも互角に戦えるとソラや貴族は希望を持った。

 しかし志願した亜人はごく僅かで例え彼等が入隊しても亜人連合軍を押し返す事はできなかった。亜人の力を借りても亜人連合軍を押し返す事ができない、ソラや貴族達はどうすればいいのか悩んだ。そんな時、ソラは周辺国家の中で戦争とは言え唯一繋がりのあるセルメティア王国に救援を求める事を思いつく。貴族達はセルメティア王国が自分達の話を聞いてくれるとは思えないとソラを止めるが、他に方法がない以上は彼等に頼るしかないと話して貴族達を説得する。そして、セルメティア王国に会談を行いたいと急ぎ親書を送ったのだ。


 ソラの長い説明が終わり、マクルダムや控えていたダーク達は会談が開かれた理由を知る。今自分達がいるエルギス教国でそんな大事件が起きていたとは全く想像もしていなかった。

 説明を終えたソラは深く溜め息をついて気持ちを落ち着かせる。隣の席に座る貴族やベイガードはソラを心配そうな顔で見ていた。ソラは両隣に座る貴族とベイガードに大丈夫と伝えてから再びマクルダムの方を向いて彼と向かい合う。


「共存を認めない亜人達の反乱ですか……」

「ハイ、現在亜人連合軍は商業都市ベーテリンクを拠点とし、首都のある東部に向かって侵攻しています。何とか食い止めようとしているのですが、多種の亜人によって編成された敵部隊は強力で我が軍だけでは全く歯が立ちません。このままでは首都に攻め込まれるのも時間の問題です……」


 俯きながら不利な戦況にある事を話すソラをマクルダムはジッと見つめた。俯くソラの表情は歪んでおり、その表情を見たマクルダムはソラは国が脅かされている事に対する辛さに必死で耐えている事を知る。

 すると俯いていたソラは顔を上げて席を立ち、マクルダム達の方を向いて頭を下げた。


「改めてお願いします、マクルダム陛下。亜人連合軍と戦う為にセルメティア王国軍の兵力をお貸しいただけないでしょうか?」

「ソ、ソラ陛下! 何も頭を下げる事は……」


 隣に座る貴族が頭を下げるソラを見て驚く。勿論ベイガードやソフィアナ、マクルダム達もソラの行動を見て驚いている。

 国を救う為に王が頭を下げて頼むのはおかしい事ではない。だが、まだ幼いソラが国の為に頭を下げる光景に周りにいる者達は驚きを隠せなかったのだ。

 マクルダムは幼いソラが頭を下げて頼む姿を見て困り顔になる。いくら頼む立場だからといって幼い少女が頭を下げる姿に複雑な気持ちになっていた。


「ソラ陛下、そちらの頼みは理解しました。しかし……」

「虫のいい話である事は承知しています。セルメティア王国に一度宣戦布告をした我が国に援軍を要請する資格はありません。ですが……」


 頭を下げながらソラは感情の籠った声を出す。そんなソラの手は小さく震えている。マクルダムが自分達を助けてくれるのか不安になっているようだ。


「国を亜人連合軍から守るにはもう他に方法が無いのです。私には……他の方法が思いつかなくて……」

「ソラ陛下……」


 こんな幼い少女が頭を下げて必死に助けを求めている。マクルダムは幼いのに女王としての務めを果たそうとするソラを見て心が大きく揺れた。

 マクルダムは隣に座っている貴族と向かい合う。子供がこんな風に頭を下げて助けを求めているのに何もしない訳にはいかない。過去に過ちがあったとしても助けるのが普通だと感じるマクルダムと貴族は真剣な顔で頷く。

 答えを出したマクルダムは席を立ち、ゆっくりとソラのいる所まで歩いて行く。そしてソラの隣までやって来るとそっと彼女の肩に手を置いた。


「ソラ陛下、顔を上げてください」

「マクルダム陛下……」

「我が国でよろしければ、力をお貸ししましょう」


 笑うマクルダムの顔を見てソラは目を見開く。悩む事も無く敵であった自分達に力を貸しすというマクルダムの言葉に驚いたのだろう。ベイガード達も驚いた様子でマクルダムを見つめている。ダーク達はマクルダムならソラを助けると思っていたのか驚かずにマクルダムとソラを見ていた。

 ソラはマクルダムの方を向き、自分よりも背の高いマクルダムの顔を見上げる。その目元には僅かに涙が溜まっており、今まで泣くのをずっと堪えていた様だ。セルメティア王国が援軍を出してくれる事が決まるとソラは服の袖で目を拭う。


「前の戦争で我が国はエルギス教国軍に大きな被害を与えました。我々にはエルギス教国軍の兵力を低下させた責任があります。その責任を取る為にも力になります」

「……ありがとうございます、マクルダム陛下」

「ただ、兵士達の中にはエルギス教国に手を貸す事を反対する者もいると思います。そんな者達を説得するのに少々時間が掛かると思いますのですぐには兵を送る事はできないでしょう。できるだけ早く、そして多くの兵力を準備しますのでそれまで何とか持ち堪えてください」

「ハイ!」


 微笑みながらソラは頷き、ベイガードや貴族達も嬉しそうに笑う。ソフィアナや数人の騎士はセルメティア王国の力を借りる事に僅かな不満を感じているのか少し納得のいかないような顔をしている。だが、エルギス教国の未来が掛かっている為、反対などはしなかった。


「陛下、よろしいですか?」


 マクルダムとソラは話していると黙っていたダークがマクルダムに声を掛けて来た。ダークの声を聞き、マクルダムやソラ、アリシア達は一斉にダークに注目する。


「どうした、ダーク?」

「その援軍なのですが、私も参加して構わないでしょうか?」

「何?」


 ダークの口から出た意外な言葉にマクルダムは驚く。マクルダムの隣にいるソラやベイガード、ソフィアナ達も驚いた顔でダークを見ていた。アリシア達はダークなら参加したいと言うのではと思っていたのか、ダークの言葉を聞いても驚いた様子は見せていない。


「ダーク、お主も我が軍と共にエルギス教国の援軍に参加すると言うのか?」

「ええ、先程ソラ陛下のお話を聞いた時にセルメティア王国との戦争で多くの兵力を失ったと聞きました。私もその戦争でエルギス教国軍の兵士を大勢手に掛けました。私にもエルギス教国軍の兵力を低下させた責任があります」

「お主も責任を取る為にエルギス教国と共に戦うと言うのだな?」

「ハイ」


 マクルダムの確認を聞いてダークは頷く。ソラ達は目の前にいるセルメティアの黒い死神が六百近くの部隊は壊滅させた事を思い出した。ソラは驚いた表情のままダークを見ており、ソフィアナや護衛の騎士達はダークをジッと見つめている。

 ダークはエルギス教国軍に大きな被害を出した事に対する責任を取る為に戦いに参加すると言ったが、実はそれ以外にも戦いに参加しようと考えた理由があった。ダークは幼いのに祖国の事を考え、祖国の為に他国の王族に頭を下げてまで助力を求めるソラの意志と国を想う姿を目にしてこんな立派な幼き女王の国を亜人によって壊させたくないという個人的な思いから戦いに参加すると言い出したのだ。

 ソフィアナ達は多くの仲間を殺した黒い死神と共に戦う事に抵抗があるのか不服そうな顔をする。しかし、六百の部隊を壊滅させた男がいれば亜人連合軍とも互角に戦えるかもしれないと考える騎士もおり、援軍に参加する事を反対するべきか複雑そうな反応を見せた。

 ダークを見つめながらソフィアナ達はダークを歓迎するべきなのか考える。だがソフィアナ達はどう考えようと決めるのは女王のソラだ。ソフィアナ達はソラがなんと答えるのかジッと彼女を見て返事をするのを待つ。ソラは目を閉じて考え込んでおり、しばらくすると目を開けてダークを見ながら口を動かす。


「……ダーク殿、貴方が我が国に甚大な被害を与えた事を存じております。貴方が強大な力を持つ騎士である事も……もし貴方が戦力に加われば我が国は亜人連合軍を押し戻す事ができるかもしれません」

「……」

「正直に申しますと私は貴方に援軍として戦いに参加してもらいたいと思っています。ですが兵士達の中には貴方を良く思わない者もいるでしょう。それでも貴方は我が軍と共に戦うと仰るのですか?」

「ええ」


 ソラの問いにダークは迷う事無く即答する。その答えの速さにソラやベイガード達は意外そうな顔をする。全てを知っていながら共に戦うと言うダークの参加を断る理由が無く、ソラはベイガードの方を向き、異議は無いかと目で尋ねた。ベイガードは真剣な顔で異議無しと無言で頷く。それを見たソラは再びダークの方を向いた。


「分かりました。ダーク殿、我々と共に戦ってください」

「ハイ」

「待ってください」


 ダークがエルギス教国への援軍として参加する事が決まった直後、今度はアリシアが一歩前に出た。マクルダム達はアリシアの方を向いてどうしたんだ、と言いたそうな顔で彼女を見る。


「ダークが参加するのであれば、私も参加します」

「何? ファンリード、お主もか?」

「ハイ、私もダークと同じで多くの兵士を殺めました。責任を取る為に彼と共に戦います」

「フム……ソラ陛下、よろしいですか?」


 アリシアの考えを聞いたマクルダムがソラの方を向いてアリシアも参加させても良いか尋ねる。ソラはアリシアの方を向き、しばらく彼女を見つめた後に頷く。


「ええ、こちらは構いません」


 セルメティアの白い魔女と言われているアリシアもダークと同じようにエルギス教国軍の兵士から恨まれており、彼女を参加させて良いのかソラは一瞬悩んだ。しかし、アリシアもエルギス教国軍から良く思われていない事を分かってて志願してくれた。そんな彼女を拒否する必要も無く、ソラはアリシアを歓迎したのだ。


「ありがとうございます、ソラ陛下」


 アリシアは参加を許可してくれたソラに頭を下げて礼を言う。ソラは戦いに参加してくれる事になったアリシアを見て嬉しくなったのか、笑みを浮かべながら心の中で感謝した。

 ダークとアリシアが戦いに参加する事が決まり、マクルダムとソラは次の話へ移ろうとする。するとアリシアの後ろに立っているレジーナが突然手を上げた。


「ハイハイ! ダーク兄さんとアリシア姉さんが参加するならあたしも参加します!」

「え?」


 自分も亜人連合軍との戦いに参加すると言い出すレジーナの言葉に彼女の前に立っていたアリシアは驚きながら振り返ってレジーナの顔を見た。レジーナはアリシアを見てニッと笑って見せる。


「それなら俺も参加します!」

「フッ、仕方ない。妾も付き合ってやるかのう」


 レジーナに続いてジェイクとマティーリアまでも戦いに参加すると言い出し、アリシアはえ~、と言いたそうな顔で三人を見つめる。ダークは腰に両手を当てながら三人の方を向いており、彼の肩に乗るノワールはやれやれと言いたそうに苦笑いを浮かべてレジーナ達を見ていた。ダークとノワールは流れからレジーナ達も参加すると言い出すのではと予想していたのだ。

 マクルダム達はいきなり参加すると言ってきたレジーナ達を呆然と見つめており、どう反応したらいいのか困っていた。そんな中、ソラは少し戸惑った様子で三人を見ながら頷く。


「え、ええ……我が国の為に参加してくださるのであれば、私は構いませんが……」

「やりぃ!」


 ソラの許可を得てレジーナは笑う。王族の前で軽い態度を取るレジーナをアリシアは注意しようと思っていたが、はしゃぐレジーナや笑うジェイクとマティーリアを見てそんな気にはなれないのか溜め息をついた。


「だが、大丈夫なのか? マティーリアはともかく、レジーナとジェイクには家族がいるんだぞ? 内戦に参加する事はモニカさん達が許可してくれるかどうか分からないではないか」

「大丈夫だ、姉貴。ちゃんと説明すればモニカ達なら分かってくれるさ」

「そうそう。それにダーク兄さんと一緒ならあたし達が死ぬ事は絶対に無いわ」


 笑いながら話すジェイクとレジーナを見てアリシアは心配そうな顔をしながら腕を組んだ。


(死ぬ事は絶対に無いなんて、随分と俺の事を信頼してくれているな)


 アリシアの後ろにいるダークはレジーナとジェイクを見て心の中で呟く。だが、仲間から命を預けられるほど信頼されているのは間違いなく、ダークはレジーナ達を見ながら気分を良くした。勿論、ダークもレジーナ達を死なせる気など無い。頼りにされているのならその期待に応えようと思っていた。

 マクルダムやソラ達は目を丸くしながら騒いでいるレジーナ達を見つめている。ソラの後ろで控えているソフィアナ達はレジーナ達を呆れ顔で見ながらコイツ等大丈夫か、と心の中で疑うのだった。

 それから援軍の兵力、エルギス教国の何処へ送ればよいのかなどを簡単に話し合う。そしてマクルダムとソラは必ず亜人連合軍に勝利しようと誓い会談は無事に終わった。

 会談が終わるとマクルダム達はすぐにゼゼルドの町を出発する準備に入る。準備を終えて町の正門前にやって来たマクルダム達は馬車や荷馬車を止め、見送りに来てくれたソラ達と最後に挨拶を交わした。ダーク達は荷馬車の前でマクルダム達の姿を見ている。


「では、我々はこれで失礼します」

「もう行かれるのですね?」

「ええ、急いで首都へ戻り、部隊の編成をしないといけませんので」


 部隊を編成するにはまず首都アルメニスに戻らないといけない。だがゼゼルドの町から首都までは数日掛かる。しかも国境の町であるバーネストに近衛隊を残しているので、まずはバーネストの町に立ち寄る必要があった。一秒でも早く首都に戻らないといけない為、ゼゼルドの町でのんびりする事はできなかったのだ。

 挨拶が済むとマクルダムは控えていたヘルフォーツ達に馬車へ乗るよう指示を出し、ヘルフォーツや貴族達は馬車に乗り、最後にマクルダムも馬車へ乗り込む。ダーク達も荷馬車へ乗っていつでも出発できる状態になった。その直後に正門が開き、町へ来た時の様に近衛隊の騎士が乗る馬が先頭を進み、その後にマクルダム達が乗る馬車が続く。そしてその後ろをダーク達の荷馬車が続き、マクルダム達はゼゼルドの町を後にする。

 マクルダム達を見送ったソラ達も亜人連合軍との戦う為の準備をする為にすぐに移動した。


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