第百四話 首都からの来客
首都でのドタバタを思い出したダークは窓から外を眺めて苦笑いを浮かべる。アリシア達も移住の話をしていた時の事を思い出して苦笑いをしながら顔を見合っていた。
ダークはゆっくりと振り返ってアリシア達の方に視線を向ける。するとダークはアリシアの顔を見て彼女が部屋を訪ねて来た時の事を思い出す。
「ところでアリシア、俺に何か用があったんじゃないのか?」
「ん? ああぁ、そうだったな」
声を掛けられたアリシアは用事を思い出してハッとする。
「この町の調和騎士団の装備の調達費を受け取りに来たんだが……出直した方がいいか?」
ダークが資金の振り分けに困っていたのを思い出したアリシアは申し訳なさそうな表情を浮かべ、頬を指で掻きながらダークに尋ねる。振り分けで困っている時に資金の話を持って来た事を悪いと思ったようだ。
アリシアの表情を見たダークは目を閉じながら苦笑いを浮かべて首を軽く横に振った。
「……いや、大丈夫だ。今用意する」
「いいのか?」
「ああ、これ以上計算してもいい答えは出ないだろうからな。今出ている答えの中で一番いい分け方をする事にした」
苦笑いを浮かべながらダークは机の隅にある皮の袋を取り、騎士団に回す分の硬貨を入れていく。硬貨を入れ終わると袋の口を閉じてアリシアに手渡す。アリシアは持っている袋を見ながら結構入っているなと心の中で感じていた。
「しかし、君も大変だな? バーネストの町の調和騎士団の隊長を勤めるなんて?」
「誰のおかげでこうなったと思っているんだ?」
「ハハハハ、悪い悪い」
笑いながら謝るダークを見てアリシアも小さく笑う。ノワール達は楽しそうに会話をするダークとアリシアを黙って見ていた。すると、出入口の扉をノックする音が部屋に響き、それを聞いたダーク達は扉の方を向く。
「誰だ?」
「ダーク様、よろしいでしょうか?」
「鬼妃か、入れ」
扉の向こうから聞こえる鬼妃の声を聞いたダークは入室を許可する。扉がゆっくりと開き、額に一本角を生やし、和風メイドの格好をした黒いおかっぱ頭のメイド、鬼妃が静かに部屋に入って来た。
「失礼いたします」
鬼妃は扉を静かに閉めてからダーク達の方を向き、ゆっくりと頭を下げてダーク達に挨拶をする。
「どうした?」
「首都アルメニスからお客様がいらっしゃいました」
「首都から? 誰だ?」
「王女コレット様とマーディング伯爵です」
「何、あの二人が?」
意外な来客にダーク達は驚きの表情を浮かべる。手紙など何の連絡も無しに王族と貴族がいきなり訪ねてくるのだから驚くのは当然だ。
「ダーク、どういう事だ?」
「いや、知らねぇよ。コレット様達が来るなんて俺も今初めて聞いたんだ」
アリシアの問いにダークは首を横に振って答える。ダークも何も聞かされていない事を知ってアリシアやノワール達は目を見開いて更に驚いた反応を見せた。
なぜコレットとマーディングがバーネストの町へ来たのか、ダークは腕を組んで考える。だが、いくら考えてもダークにはコレット達が町へ来た理由に心当たりがなかった。
理由を考えるダークだが、いつまでも此処で考えているわけにもいかない。まずは待たせているコレット達に挨拶をするのが先だと考え、ダークは考えるのをやめた。
「……とりあえず、コレット様達に会いに行こう。彼女達は今何処にいるんだ?」
「来客用のリビングでお待ちいただいています」
「そうか、すぐに行くとコレット様達に伝えて来てくれ」
「かしこまりました」
ダークの指示を聞いて鬼妃は軽く頭を下げながら返事をし、静かに部屋から出て行く。鬼妃が退室するとダークは机の上に置いてある兜を取ってゆっくりと被り顔を隠す。アリシア達はそんなダークを黙って見つめていた。
「……私はこれからコレット様達に会いに行く。皆も一緒に来てくれ」
「私達もか?」
暗黒騎士としての声と口調で一緒に来るよう話すダークを見てアリシアは自分を指差しながら聞き返す。ダークはアリシア達を見ながら頷いた。
「私にはコレット様達が町へ来る理由に心当たりがない。と言う事は私達に何か急ぎの用事があるか、首都で何か事件が起きて私達の力を借りに来たかのどちらかだろう。念の為に君達もコレット様達と会って話を聞いてほしいのだ」
「成る程、そういう事なら一緒に行こう」
ダークと一緒にコレットとマーディングに会う事にしたアリシアは真剣な顔で頷く。ノワールも少年の姿から子竜の姿へと戻りダークの肩に乗る。ダークの使い魔であるノワールは何も言われなかったとしても最初からダークと一緒に行くつもりでいたようだ。
レジーナとジェイクも久しぶりにコレットに会うせいか少し緊張した様子を見せている。普通の人間なら王族に会えばかなり緊張するものだが、二人の場合は何度かコレットに会い、国王であるマクルダムとも会った事がある。その慣れとレベルが高い事で精神が強くなったせいなのか普通の人間と比べるとあまり緊張はしていなかった。一方でコレットとあまり仲のよくないマティーリアはめんどくさそうな表情を浮かべている。またあの偉そうな王女と会うのか、そう思いながら両手を腰に当てて溜め息をついた。
アリシア達の反応を見たダークは机の上に硬貨を皮袋にしまって自分の腰のポーチに入れる。ポーチに入れていれば泥棒に硬貨を盗まれる事もない。ある意味で金庫などに入れるよりもずっと安全と言える。
「さて、コレット様達のところへ行くか」
部屋でやる事を全て終えたダークはコレットとマーディングに会いに行く為に部屋を出ていく。アリシア達もその後に続き、コレット達が待つ来客用のリビングへ移動した。
屋敷の中をしばらく歩き、ダーク達は二枚扉の前にやって来た。扉の前にダークが立ち、その周りにはアリシア達が立って扉を見ていた。ダークは全員がいるのを確認すると扉のノブを回して部屋に入る。中には来客用のアンティークソファーに座るコレットとマーティングの姿があり、その後ろにコレットの専属メイドであるメノルが控えていた。
「お待たせしました」
「おおぉ、ダーク! 元気でやっておるようじゃな」
コレットは部屋に入って来たダークの姿を見て笑いながら立ち上がる。マーディングもダーク達の姿を見て小さく笑い、メノルは黙って頭を下げて挨拶した。ダークもマーディングの方を向いて頭を下げて挨拶を返す。アリシアも少し遅れて挨拶をした。
屋敷の中でダーク達は挨拶をしている時、屋敷の外にはコレット達が乗って来たと思われる馬車が停まっており、馬車の近くや屋敷の入口前には近衛兵と思われる騎士が数人立って周囲を見張っている。町の住民達はそんな騎士達を見て何かあったのか、と少し驚いた様子を見せていた。
簡単に挨拶を済ませるとダークはコレットとマーディングが座るアンティークソファーの向かいにあるもう一つのアンティークソファーに座ってコレット達と向かい合う。アリシアもダークの左隣に座り、ノワールはダークの肩から下りてチョコンと右隣に座る。ほかの三人はダーク達の後ろに立ってコレット達を見ていた。まるでコレットとマーディングの後ろに控えているメノルのようだ。
ダーク達の前にある来客用のテーブルの上にはコレットとマーディングに出された紅茶のティーカップが置かれており、コレットは静かにその紅茶を飲む。音などを立てずに正しい姿勢で紅茶を飲む姿は王族らしさを表していた。
「わざわざ首都から遠いこの町までお越しくださってありがとうございます」
「なぁに、妾も久しぶりに首都の外へ出たのじゃからな。退屈はせんかった」
ティーカップをテーブルの上に置きながら笑って答えるコレット。そんなコレットの姿を見てアリシアやノワールは微笑みを浮かべる。レジーナとジェイクも同じように笑っており、マティーリアはつまらなそうな顔でコレットから目をそらしていた。
「それで、今日はどのようなご用件でこちらへ? 何も連絡を受けておりませんので急ぎの用ではと考えているのですが……」
ダークがコレットにバーネストの町へやって来た理由を尋ねるとさっきまで笑っていたコレットの表情が鋭くなる。隣に座っているマーディングも真剣な表情をしていた。二人の顔を見たダーク達はやはり何かあったのかという様な反応する。
「……実はまたお主達の力を借りる事になる問題が起きたのじゃ」
「問題?」
「ウム、本来なら国王である父上が直接お主達に会って頼みに行くのじゃが、父上は忙しく首都を出られなくなっておるのじゃ。それで妾が父上の代わりにこうしてバーネストの町へ来たというわけじゃ」
「どういう事です?」
「そこからは私が説明します」
コレットの隣に座っているマーディングが代わりに話すとダークに声をかけ、ダーク達は一斉にマーディングの方を向いた。
マーディングは全員が自分の方を向いている事を確認すると軽く息を吐いて落ち着き、真剣な顔で説明を始めた。
「皆さんが首都を出られた直後、首都に一通の親書が届いたのです」
「親書、ですか?」
アリシアが小首を傾げながら聞き返すとマーディンはアリシアの方を向いて頷く。
「ハイ、差出人はエルギス教国の女王、ソラ陛下でした」
「エルギス教国?」
親書を送った相手が嘗て戦争を行ったエルギス教国だと知り、アリシアは僅かに力の入った声を出す。ノワールやレジーナ達も話を聞いて顔に緊張を走らせる。ダークは驚いた様子などは見せず、黙ってマーディングを見つめていた。
「それで、親書の内容はどのようなものだったのです? 我が国とエルギス教国との関係を変えようとか、そのような内容ですか?」
アリシアはマーディングに親書に書かれてある内容を尋ねる。親書の内容によってはまたエルギス教国と戦争が起きるかもしれない、アリシアはそう感じて握り拳を震わせた。するとマーディングはアリシアの方を向いて軽く首を横に振る。
「いいえ、国同士の関係についての内容ではありません」
「そう、ですか」
マーディングの答えを聞いてアリシアは握り拳を開いて安心した。
「詳しくは書かれていませんでしたが、何でも我が国に助力を求めおり、十日後にエルギス教国の国境の町であるゼゼルドで会談を行いたいと書かれてありました」
「ゼゼルドの町で?」
「ええ、エルギス教国の人間はまだ我が国に入る事はできませんのでエルギス領の町を会談の場所に選んだのでしょう」
「成る程……しかしエルギス教国が助力を求めるなんて……」
「エルギス教国で何か遭ったのですか?」
アリシアと黙って話を聞いていたノワールがマーディングに尋ねた。
セルメティア王国よりも領土が大きく、軍事力も優れているエルギス教国が小国であるセルメティア王国に助けを求めるなど、何かとんでもない事が起きているのかとアリシアとノワールは考えている。勿論、ダークやレジーナ達も同じ気持ちでコレットとマーディングを見ていた。
「先程もお話ししたように親書には詳しい事は書かれてありませんでした。詳しくは会談の時のお話しするそうです」
「……マクルダム陛下はその会談をお受けになられたのですか?」
ダークが低い声でマクルダムが会談を受けたのか尋ねると黙って話を聞いていたコレットがマーディングの代わりに答えた。
「ウム、十日後に行われる事となり、父上はその準備をしておられる。忙しくて首都を出られないのはそれが原因じゃ」
「そういう事ですか……それで、私達の力を借りたいというのはどういう事なのです?」
会談でなぜ自分達の力を借りたいのか、理由が分からないダークはコレットとマーディングに尋ねる。ただ会談をするだけなら別にダークの力を借りる必要も無いはず。なのにわざわざバーネストの町まで来てダークに協力を要請する理由が分からなかった。当然アリシア達も理由が分からずに不思議そうな顔でコレットとマーディングを見ている。
「……皆さんに陛下の護衛をしていただきたいのです。エルギス領に大勢の兵士や騎士を連れて入ると印象が悪くなってしまう可能性がありますので、少数で力の優れた者を陛下の護衛として付けたいのです」
「それで私達に白羽の矢が立ったと?」
「ハイ、陛下も英雄であるダーク殿に護衛を任せたいと仰っておりました……ダーク殿、皆さん、力を貸していただけませんか?」
マーディングはダークとアリシア達に護衛を務めてほしいと頼む。コレットもダークを見ながら力を貸してほしいと目で訴えている。そんな二人を見たダークはしばらく腕を組んで考え込んだ。
「……分かりました、お引き受けしましょう」
「おおぉ! 本当かダーク?」
「ええ、それにエルギス教国がどんな国なのかも興味がありましたので、一度見てみたいと思っていたのです」
マクルダムの護衛を引き受けると答えるダークにコレットとマーディングは笑みを浮かべた。ダークなら助けてくれると信じていたようだ。
アリシアもダークなら引き受けると思っていたのかダークを見て小さく笑っている。ノワールもダークの肩に飛び乗って笑っていた。レジーナとジェイクはダークがやると言うのなら止めたりしないと言いたそうにニッと笑っており、マティーリアは物好きだなと言いたそうな顔でダークを見ているが嫌そうな表情はしていない。アリシア達も全員王族の手助けをするつもりでいたようだ。
「それで、私達はどうすればいいのですか?」
「会談は十日後にゼゼルドの町で行われますので、陛下は一週間以内のこのバーネストの町にいらっしゃいます。皆さんは陛下が町にご到着された後に陛下と共にゼゼルドの町へ向かっていただきます。それまではこのバーネストの町でお待ちください」
「分かりました。それまでに私達も色々と準備をしておきます」
「お願いします」
護衛を引き受けてくれたダークにマーディングは頭を下げて礼を言う。コレットもダークを見て感謝の笑みを浮かべている。メノルは相変わらず無表情で黙ったままだった。
「ところでダーク、この町に来た時に正門前に大きなモンスターがおったのじゃが、あ奴等は何なのじゃ?」
マクルダムの護衛の話が終わるとコレットは町へ来た時に見かけたモンスターについてダークに尋ねた。
コレット達がバーネストも町に到着した時、入口である北の正門前には身長4mほどの石の体をした巨人、エルギス教国との戦争の時にダークがサモンピースで召喚したストーンタイタンが立っていた。最初、ストーンタイタンを見たコレット達はモンスターが町を襲っているのかと驚いていたが、ストーンタイタンが町の住民達の指示を受けて壊れた城壁を修理している姿を見た途端に呆然とする。
住民に尋ねるとストーンタイタンはダークが町の修繕に役立ててほしいと言って貸してくれたものだと話し、コレット達は更に驚いて目を丸くした。それからコレット達は町へ入り、ダークがいる屋敷へ向かう間、馬車の中から町の修繕作業を手伝う多くのモンスターの姿を見かける。馬車に揺られながらコレット達はバーネストの町で何か起きているんだと、驚くのと同時に疑問に思っていた。そしてマクルダム護衛の話が終わり、コレットはずっと疑問に思っていた事をダークに直接尋ねたのだ。
「ああぁ、モンスター達ですか。町の修繕をする為に働かせているのですよ。ご心配なく、町の住民達を襲ったりはしません」
「それは町に来た時に町の者から聞いた。妾が気になっておるのはあのモンスター達は何処から来たのかと言う事じゃ……もしかして、以前父上達が話しておられたモンスターを召喚できるマジックアイテムを使ったのか?」
「その通りです」
ダークはコレットの質問に正直に答える。コレットやマーディングはダークの答えを聞き、目を見開きながら驚く。
町の入口にいたストーンタイタン以外にもいろんな種類のモンスターの姿が町中にあり、それぞれの特性を活かして町の住民達に力を貸している。普通では考えられない事がバーネストの町で起きており、それを実現させたダークは本当に何者なのか、コレット達は気になって仕方がなかった。
「……ダークよ、お主は本当に何者なのだ? 妾達にとって危険な存在ではない事は分かるがあれだけのモンスターを召喚できるマジックアイテムを所有し、扱えるなど普通の人間ではできん事じゃ」
ダークの正体が気になるコレットは真剣な顔でダークに尋ねる。マーディングとメノルも心の中ではダークが何者なのか気になっており、ジッとダークを見つめていた。
「コレット様、以前お話ししたように私の正体を知ってしまうとコレット様の命に関わる事になってしまう可能性があります。コレット様の身を守る為にもそれを教える事はできません」
「それは分かっておる。じゃがどうしてもお主がどんな存在なのか気になってしまうのじゃ。少しだけでも教えてくれぬか?」
「いけません」
甘える様な態度を取り、コレットはダークにダーク自身の事を教えてほしいと頼むがダークは首を横に振って拒否する。ダークが別世界から来た事やレベル100である事をもし知ってしまったら幼いコレットの身に危険が及ぶ可能性がある為、ダークは協力者であるアリシア達以外には何も話さない事にしていた。どうしても秘密を話さないといけない時以外は絶対に他人には喋らないだろう。
教えてくれないダークにコレットは小さく頬を膨らませてムスッとする。ダークが自分の身を案じて教えようとしないのは分かるがシャトロームの件で情報などを提供して手助けした自分に何も教えてくれない事にコレットは納得ができなかった。
ダークは腕を組みながらアンティークソファーに座り、不貞腐れているコレットを見て小さく溜め息をつく。シャトロームの一件で自分を助けてくれたコレットに何も教えずにいるのは失礼だと感じているようだ。ダークの隣に座るアリシアとダークの肩に乗っているノワール、そしてマーディングは少し困った様な顔でコレットを見ている。すると、ダークが何かを思いついた様な反応を見せてコレットに声を掛けた。
「……仕方ありませんね」
「ん?」
「コレット様、私が何者なのかは教えられませんが、私の素顔くらいならお見せしましょう」
「何?」
今まで見せてくれなかった素顔を見せてくれると言うダークにコレットは顔を上げる。アリシアやノワール達はダークの発言に驚き一斉にダークに視線を向けた。
正体を隠している自分の素顔を他人に見せてしまうとその人がダークの正体を探ろうとしている者などに目を付けられ、面倒ごとに巻き込まれたり命を狙われる可能性があると考えてダークは今までアリシア達や一部の存在にしか素顔を見せなかった。その素顔を王女であるコレットに素顔を見せると言い出したのだからアリシア達が驚くのは当然だ。
「い、いいの、ダーク兄さん?」
「ああ、コレット様にはシャトロームの一件でお世話になったからな。そのお礼という事で素顔ぐらいはお見せしないと失礼だろう」
「でも、もしダーク兄さんの正体を調べようとしている奴がいて、ソイツが情報を得る為にコレット様を襲う様な事になったらどうするの?」
「コレット様は王女だぞ? なんだかんだ言ってこの国で最も安全な王城で生活されているんだ、心配ないさ。それにもしコレット様が襲われそうになったら私が助ける」
ダークの言葉を聞き、レジーナはそう言うのならそれでいい、と言いたそうに一応納得する。アリシア達もダークがそう言うのなら反対はしないと言いたそうな顔でダークを見ていた。
コレットは今まで見せてもらえなかったダークの素顔が見れると知りワクワクした様子でダークを見ている。マーディングやメノルもダークの素顔が気になり、コレットの隣や後ろでダークの顔に注目していた。
「コレット様、そしてマーディング殿、メノル殿、先に言っておきますが私の素顔の事は誰にも言わないでください? 此処にいる者達だけの秘密です」
「ウム、分かった分かった。早く見せてくれ!」
目を輝かせながらコレットは笑顔でダークを急かす。笑うコレットを見てダークやアリシア達は心の中で大丈夫かな、と心の中で感じていた。
ダークはコレットをしばらく見つめると顔を隠している兜を外して素顔を見せる。コレット達は兜の下から出て来た金髪の青年の顔を見て目を見開く。女であるコレットとメノルは今まで見た事の無い美青年の顔を目にして頬を僅かに赤くした。
「いかがですか?」
「ウ、ウム……驚いたぞ。まさかお主がそんなに若く、美しい顔をしておるとは思わなかったぞ。声が低かったからてっきりもっと歳を取った男だと思っておった……のう、メノル?」
「え? あ、ハ、ハイ……」
コレットが後ろで控えているメノルに声を掛けるとメノルは動揺しながら返事をする。今まで無表情でダーク達の会話を聞いていたメノルもダークの素顔を目にして呆然としてしまったのだ。それはメノルがコレットを守るバトルメイドである以前に一人の女であるという事を証明していた。
ダークは赤くなるコレットとメノルの反応を見て小さく笑い、再び兜を被って顔を隠す。コレットはダークがすぐに兜を被ってしまった事に少し残念そうな顔をする。
「皆さん、もう一度言いますが、私の素顔の事は誰にも話さないようお願いします」
「ウム、分かった。妾達だけの、秘密じゃな?」
秘密のところだけ嬉しそうな口調で話すコレットを見てダークは頷き、アリシア達は小さく笑う。幼い故にコレットは他の者が知らない秘密を手に入れて楽しくなったのだろうとダーク達は考えた。
その後、用事を済ませたコレット達はバーネストの町を後にする。ダーク達は正門前の広場でコレット達を見送り、馬車が見えなくなると広場を後にして屋敷へと戻って行く。
「さて、これからいろいろと忙しくなるな」
「町長としての仕事がまだ沢山残っているからね」
「ああ、だがそれだけではない」
ダークは歩きながら低い声を出し、それを聞いたアリシア達はダークが何を考えているのか気付き、表情を鋭くする。ダークは十日後に行われるエルギス教国との会談の事を考えていた。
「エルギス教国の事か?」
アリシアが尋ねるとダークは何も言わず無言で頷いた。アリシアは歩きながら難しい顔で考え込む。
「彼等は一体何の為に会談を?」
「マーディング卿はエルギス教国が助力を求めているって言ってたぜ?」
「そこだ、私が気になっているのは……エルギス教国よりも小さいこの国になぜエルギス教国が助力を求めているのか、それが全く分からないんだ」
歩きながら大国のエルギス教国がなぜ小国のセルメティア王国に助力を求めているのか考えるアリシア。だがどんなに必死に考えても理由が分からず、アリシアは腕を組みながら俯く。ジェイクやレジーナもアリシアと同じように歩きながら考え込んだ。
ノワールはダークの肩に乗って考えるアリシア達を見つめている。そしてダークの方を向いて声を掛けた。
「マスター、どう思います?」
「さぁな? なぜセルメティア王国に助けを求めているのか、それは会談の時に分かるさ」
ノワールの問いにダークは低い声で答える。だが、この時ダークは近いうちにセルメティア王国領かエルギス教国領のどちらかで大規模な戦いが起こるのではと感じていた。
「……ノワール」
「ハイ?」
「もしかすると、私達はまた大きな戦いに足を踏み入れる事になるかもしれんぞ」
「えっ、大きな戦い?」
小声で話すダークを見てノワールは驚きの反応をしながら小声で聞き返した。ダークは前を見て歩きながら小さく頷く。
「あくまでも可能性だ。だが屋敷に戻ったら一応アリシア達に伝えておいてくれ」
「ハ、ハイ、分かりました」
僅かに戸惑いながらノワールは頷く。ダークは街道を歩きながら目を赤く光らせる。