(インタールード)
『大人に媚売ってんじゃねーよ 死ね!!!!!!』
嗤い声はさざ波。制服姿の子どもたちから発せられた不愉快な音。
それを受けるのは、黒板に向かい合って、立っている、ひとり。
セーラー服は、戦闘服に成り得るのだろうか。
その背中が震えているのは、何故だろうか。
やがて少女は黒板いっぱいに書かれた罵詈雑言を、ゆっくりと、ひとつひとつ、消していく。
僕はそれが終わるまで教室に入れない。入れないでいる。
壁にもたれかかって、呼吸ができないでいる。
己の無力さを呪っている。
(僕はどうして教師になったんだろう……)
可能ならば教室に入って、加害者をひとりひとり問い詰めてやりたい。
しかしそんなことは無意味なのだ。
加害者は大人対子どもという図式を強者対弱者にすり替えて、僕のことは相手にしない。
状況は悪化するのみで、被害者にも恨まれる。
毎年そうなのだ。
誰かが、必ず、犠牲者としてこの閉鎖空間の生贄になる。
最初のうちは闘争を試みていたけれど何ひとつ実を結ばないことを痛感して、すべてに恨まれて、吊し上げられて、僕はやがて精神を摩耗させていった。
通過してしまえば何とかなるんだ、と自分に言い聞かせている。
それが正解かどうかは、最早判らない。
否。
そんなもの、間違いに決まっている。
彼女は死んだ。
2学期の始業式を欠席して、屋上から飛び降りたのだ。
加害者たちがいつも放課後に集まっていた中庭を、血と臓物の海にして。
僕は間違っていた。
僕は、人殺しだ。