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プロローグ
大人になったら、好きなひとと結婚して、子どもを産んで、幸せな家庭を築いて、穏やかな日々を生きていけると思っていた。
そんな未来予想図に、何の疑問も抱かなかった。
(あ、うろこぐも)
ここ数日、朝晩が急に涼しくなったと思っていたけれど、季節は確実に夏から秋へと向かっているようだった。
(そろそろ衣替えの準備をしなきゃいけないな)
自転車を漕ぎながらクローゼットに思いを巡らす。
(雪南も大きくなったし、かわいい長袖を買ってあげたいなぁ)
託児所の入り口に自転車を停めて、わたしは庭を覗き込んだ。数人の幼児が楽しそうに遊んでいる姿が見える。
「ゆーきーなー!」
「まま!」
ぱっと顔をあげて、雪南がこちらに駆け寄ってくる。
「お待たせ。帰ろうか」
「うん! きょうもくろねこさんのまえ、とおる?」
「通るよー」
(さて)
託児所の先生に挨拶をして、4歳になったばかりの雪南を自転車の後ろに乗せて、わたしはもう一度空を仰ぐ。
(晩ご飯は、どうしようかな)